SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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年末年始の休暇で二話しか書けなかった……

新しい仕事にも慣れてきたので、これからまた投稿をぼちぼちしていこうと思います

ひとまずGGOを終わらせるところから。


Night conversation

◇Side Pixie

 

 

 

 こんばんわ。MHCP-001、コードネーム《Yui》ことユイです。

 現在、アリスお姉ちゃんたちはお風呂から上がった後、各々のお部屋でくつろいでいます。

 

 大部屋が予約できなかったそうで、代わりに二人部屋を五つ。男女別で5組に分かれたみたいです。

 ペアはくじ引きで決めたので、中には珍しい組み合わせもありました。

 

 私は普段パパのタブレット端末にいますが、ネットワークを介せば他の方のスマートフォンなどにも移動することが出来ます。

 果たして皆さんがどのように夜を過ごしているのか、こっそりと見に行っちゃいましょう!

 

 

 

◇Room1 クライン&ディアベル

 

 

 

「痛ってェ~……アリスの野郎思いっきり引っぱりやがってよォ……」

「はは……酔っていたとはいえ騒ぎすぎたな……」

 

 大浴場で誰の胸が一番良いかという話に盛り上がっていたところ、その内容が全て女風呂にまで聞こえていたため、女性陣(というよりアリスに)折檻を受けたクライン。

 強く引っ張られ、真っ赤になった耳をさすりながら愚痴をこぼすと、ペア決めの結果同室となったディアベルが落ち込んだ様子で項垂れながら応えた。

 

「でもディアベルよぅ。おめェは特に何もされなかったじゃねェか」

「いや、何もされなかったが……悲しそうな目で見られたよ……」

 

 ディアベルは深く落ち込んでいるようだった。

 ディアベルにとってアリスは同じギルドの長であり、過去何度も共に戦った戦友でもある。

 だが、現実世界では彼女との年齢差は一回りに近く、親戚の子供ほども年が離れている。

 そんな彼女から、複雑そうな目を向けられてしまい、ほのかに回っていた酔いは血の気が引くように冷めてしまったのだった。

 

 クラインはSAO時代そういった視線を何度も感じていたし、気にするような性格ではなかったためいつもの事だと流していたが、ディアベルはそうもいかなかったらしい。

 どちらかというと好意的な目で見られることの多かったディアベルは、今回のような視線に耐性が無かったのだろう。なんとなく察したクラインは落ち込み続けるディアベルに「まあそう凹むなって」と声を掛けた。

 

「どうせ明日には忘れてらぁ。せっかくいい旅館に泊まれてんだ。楽しんでこうぜ」

 

 クラインはどこから取り出したのか、缶ビールを二本手に持ってディアベルの眼前でぶらぶらと揺らした。

 ディアベルが苦笑しながら片方受け取ると、ニッと歯を見せ笑いディアベルの正面へと腰を下ろした。

 

 クラインはプルタブに指をかけると、一息に引き上げた。炭酸ガスの抜ける気持ちの良い音が鳴る。

 ディアベルが同じように蓋を開けたのを見ると、自身の缶をこつんと合わせた。

 

「そんじゃ、お疲れさん」

「ああ、お疲れ様」

 

 そのままぐいっと、一息に琥珀色の液体を嚥下した。

 喉を通る炭酸が与えるシュワシュワとした刺激と苦みを堪能し、クラインは思わず声を上げる。

 

「かぁーッ! やっぱたまんねぇなぁ!」

「ははは、随分とおっさん臭いなクラインさんは」

「俺ァまだまだおっさんと言われる年じゃぁねェよ!」

 

 豪快に笑うクラインに、ディアベルは暗雲とした心の痞えがわずかに晴らされる思いだった。

 問題が解決したわけではないが、明日きちんと謝ろうと心の内で決意をした。

 

「しっかし、こうしてお前さんと現実で酒を飲み交わすなんてよ」

「信じられないかい?」

「まぁよォ……人の縁ってェのは不思議なもんだ」

 

 ディアベルとクラインは以前は敵同士だった……などというわけではなく、互いに命を懸けた戦いにおいて何度も背中を預け合った戦友である。

 だがそれは仮想世界での話であり、あの世界から解放された今、彼らを繋ぐ縁は殆どなかった。

 その縁を繋いだのはクラインの友であるキリト。そしてディアベルの友であるアリスだ。

 縁が縁を結び、こうして再び出会うことが出来た。

 

「あーやめだやめ! しんみりしちまっていけねェや。 せっかくの旅行なんだからよ、ぱぁっと行こうぜぱぁっとよ!」

「ふふ……ああ、そうだね」

 

 こうして二人の夜は過ぎていく。楽しそうな笑い声と共に。

 

 

 

◇Room2 キリト&ノーチラス

 

 

 

「……」

「…………」

 

 所移り変わってここはキリトとノーチラスの部屋。

 ノーチラスは部屋の隅から向けられる、キリトの恨みがましい視線から必死に顔を背けていた。

 

「……裏切者」

「ぐっ……!?」

 

 ぼそりとつぶやかれたキリトの呪いの言葉に、ノーチラスは自分のHPバーががりがりと削れるかのような錯覚を覚えた。

 我が身可愛さに友を見捨てた後ろめたさから目を逸らすのは、もう限界だった。

 

「ご、ごめん……」

 

 キリトに体を向け、深々と頭を下げる。するとキリトは、ははと笑い声をもらした。

 

「いや、もういいよ。なんとか躱しきることが出来たし……いや、クライン達が勝手にヘイト集めて自爆したっていうのが正しいか」

 

 事実、クラインは折檻を受け、ディアベルは複雑な表情を向けられていたが、キリトとノーチラスに関しては御咎め無しだった。

 だがもしあの話に参加していた場合、あれ以上の折檻が待っていたであろうことは想像に難くない。キリトは想像しただけでぶるりと軽く身震いをした。

 

「ほんとにすまなかった……あの会話に少しでも参加したらユナになんて言われるか……」

「だからもういいって。とりあえず、お互い無事だったことを喜ぼうぜ」

 

 部屋の隅から復帰したキリトは、よっこいせと中央に敷かれた布団の上に腰を下ろし、カバンからタブレットを取り出した。

 

「ん? ユイが居ないな……どこか出かけてるのか?」

 

 キリトの自宅のPCにはユイのプログラムデータがインストールされている。ネットワークを介して、登録された端末に文字通り『出かける』事が出来るので、この旅行中はキリトの端末内でカメラアプリを通して皆と一緒に旅行を楽しんでいたのだが……今は他の端末に移動しているようだ。

 

「ユイ? ユイって確かALOで一緒にいたAIの子だったか?」

 

 ノーチラスが興味津々といった様子で近づいてきたので、キリトは端末を彼にも見えるように身体をずらした。

 

「ああ、今は居ないんだけどな……多分、アリスかアスナ……他のタブレットに出かけてるんだと思う」

「出かける?」

 

 キリトはノーチラスにユイのプログラムについて、かいつまんでではあるが説明をした。

 ノーチラスはふむふむと相槌を打ち、話を聞き終わると感嘆の声を上げた。

 

「へぇー……面白い事を考えるな。AIプログラムを複数端末でシェア……いや、自由に動き回らせてあげてるのか」

「ユイはただのプログラムじゃなくて、俺達の家族みたいな存在なんだ。だから本当なら仮想世界だけじゃなく、現実でも一緒に居てやりたいんだけど……」

 

 だがそれは今は叶わない願いだとキリトは理解していた。

 0と1の数字で構築された彼女を現実世界に呼び出す技術は無い。今は、まだ。

 

 時間がかかってもいい。いつか必ず、ユイと現実世界で本当の家族のように過ごす。それがキリトの夢であり、目標だった。そのための勉強も今、している。

 キリトの話を聞いたノーチラスは何かを考えるように顎に手をやり、視線を左斜め上へと向けた。そしてキリトが思いもしなかった言葉を口にする。

 

「出来る……かもしれない」

「え……っ!?」

 

 ノーチラスがつぶやいたのは、キリトの夢を肯定する言葉だった。

 驚き目を見開くキリトに、ただ……と前置きをしてから続ける。

 

「これは現実でも一緒に居るっていうのとはちょっと違うかもしれない。まず、ひとつ考えたのが、ユイのデータを機械の身体にインストールするとか」

「あ、ああ……それは俺も考えたけど……」

「うん、コストがかかりすぎるし、人間の体のような滑らかな動きを再現するには、まだ技術が追いついてない……と思う」

 

 もしかしたら、市場に出ていないだけで人間のような機械は既に開発されているのかもしれないが、それをキリトが手に入れることは殆ど不可能に近いだろう。

 だからこそ、キリトは自分の力で生み出してやろうとも考えていたのだが……ノーチラスにはまだ考えがあるようだった。

 

「それなら、現実世界を拡張してしまえばいいんだ。見えないものが、見えるように」

「現実を拡張……ARってことか?」

 

 AR

 Augmented Realityの略称で、カメラなどから現実世界の情報をデジタルに取り込み、そこから現実世界とデジタル情報を合成した映像をリアルタイムで表示するという技術。

 VRが発展する前からその技術は存在していたが、やがてAR……現実を仮想へと拡張する技術よりも、完全なる仮想現実であるVRへと世間の興味は傾いていった。

 

「ARなら……現実世界を拡張して、仮想世界のユイをこっちに呼び出してしまえばいいんだ」

「ま、待ってくれ。そんな簡単に言うけど、AR技術ったってそれを使うデバイスが……四六時中タブレット持ってるわけにもいかないんだぞ……」

「それについても、考えがある」

 

 そう言ってノーチラスは鞄を引っ張り出すと、中から薄型ノートPCを取り出した。

 いくつかフォルダを経由して、一つのテキストファイルを開きキリトに見せた。

 

「これは……?」

「今、おれの大学のゼミで研究してるAR機器の論文。……まだまだ理論設計段階だけど……これが実用化出来たら――」

「ユイが……現実に来ることが出来る……」

 

 そこに書かれていたのはフルダイブ技術を応用した新しいARの姿だった。

 装着者の目をカメラに見立て、そこから視覚情報を得る。そしてデジタルと合成した映像を再び使用者の視覚へと投影させる。

 この場合必要な機能は視覚へのアクセスだけなので、ナーヴギアはもちろんのこと、アミュスフィアよりも更に小型化が出来そうだ。

 この論文ではメガネ型や、ヘッドセット型が考案されているが、もしこれが実用化されれば、四六時中ユイと現実世界でコミュニケーションを取ることが出来る。

 それは、キリトの夢そのもの。いや、最終目標は触れ合う事なので正確には少し違うかもしれないが、それでも大きく実現へと近づけることは確かだ。

 ノーチラスは「これ、一応オフレコな?」と指先を唇に当て不敵に笑みを浮かべて見せた。

 キリトは勢いよく顔を上げると、瞳にやる気を漲らせノーチラスの手を取った。

 

「ノーチラス、俺に、俺に何か手伝えることはないか!? なんでもやるから!」

「ああ、ハードの方はもう既におれ達が取り組んでるから、キミはプログラムの方から意見を――」

 

 二人の夜は更けていく。方や夢への情熱を滾らせ、方や友の夢を支えようと。

 

 

 

◇Room3 深紅&明日奈

 

 

 

「…………」

 

 

 

 沈黙が痛い。

 深紅は小春や和人達と分かれ、同室の明日奈と部屋に入ったときから時折訪れる無言の圧に辟易としていた。

 べつに仲が悪い訳ではない。むしろかなり良い方だ。二人きりで出かけることもあるし、今だって深紅が話しかければ明日奈は普通に会話をしてくれるのだから。

 ただ、こう、なんというか上の空なのだ。

 キャッチボールをしてるのに、相手の視線がこちらを向いていないというか、いや、実際にはきちんと目を見て話しているのだけれど、ふた気付けば視線が別の方向に向いている。

 

 その視線が向かう先は、深紅の胸なのだが。

 

(さっきのお風呂での話が尾を引いてるのかな……)

 

 これが同性の、更に明日奈でも無ければはっ倒している所だったが、大切な友達相手にそんなことをするわけにはいかず、どうしたものかと深紅は頭を悩ませていた。

 

「皆はどうしてるかなぁ」

「結構珍しい組合せだよね。和人君達とか。あと悠那さんと深藍さんも」

「小春とスグちゃんもあんまり二人きりってないよねぇ」

「でも私たちはそんなに珍しくもないかな?」

「そうかもねぇ」

 

 言いながら、組合せ自体は珍しくないけど明日奈の今は相当にレアなんじゃないの……? と深紅は内心で苦笑した。

 あの会話の最中、殆ど視線が胸に行っていたのだ。意識が別に行っていながら、淀みなく会話を続けるなど一体どんな前頭葉をしているのか。言語野だけが独立して動いているとでもいうのだろうか。なんだか機械と会話している気分だ。

 

 さすがに、無視するのも限界だった。

 

「えっとぉ……そんなに気になる?」

「何が?」

「わたしの胸」

 

 今までは無意識だったのだろうか。深紅が指摘すると、明日奈は一瞬きょとんと呆けた後、火が着いたかのようにぼっと顔を赤くし狼狽した。

 

「えっ!? な、な、なんで……?」

「や、視線、感じるなぁって……」

「気づいてたの……?」

 

 どうやら無意識だったらしい。気付くも何も、隠す気があったのかすら疑わしいレベルのガン見だった。

 あわあわと狼狽える明日奈に、深紅は嘆息しながら言った。

 

「あれだけ見られてたら、気付くよ……」

「ち、違うの! あ、見てたことは違くないんだけど、やましい気持ちがあったわけじゃなくて!」

「あったら流石に怒るよ……」

 

 軽くパニックになったらしく、明日奈はとんでもない弁解をし始めた。

 

「えっと、えっと、深紅のが大きいから柔らかいのかなぁとか、やっぱり肩こり酷いのかなぁって只気になって!」

「えぇー……? 明日奈だって小さくはないじゃん」

 

 明日奈の胸も小さくはない。寧ろ同年代と較べて大きい方ですらある。

 だが、明日奈の興味はそういうことではなかった。

 

「それはそうだけど、深紅みたいに大きい人ってあまり見かけないし。自分のだって触ることなんて無いからどうなのかなぁって」

 

 それもそうだと深紅は納得をした。産まれたときから自らの体の一部なのだから、触れてみて柔らかいのかどうかという判断などつけられないだろうしつけようとも思わない。

 要するに、明日奈は伝聞で聞く、大きな胸は柔らかいという話が本当かどうか、気になっているということらしい。

 

「ふぅーーん……」

 

 

 

 

 

 

 一応の納得はしたようなものの、まだ何事か考えているらしい深紅に、明日奈は不快にさせてしまっただろうかと不安になった。

 しかし、その不安は杞憂であり、明日奈の予想だにしない台詞が深紅の口から飛び出した。

 

「じゃ、触ってみる?」

「……ぇ?」

 

 なんの気負いもなく軽い口調で言われた言葉に、明日奈は目をしばたたかせた。

 恐る恐る、確認するように問いかける。

 

「い、いいの……?」

「うん。深藍とかスグちゃんとか……うん、まあ、他の人にも結構触られる事あったし、明日奈ならいいかなって」

 

 明日奈は同年代の同性の友人をSAO以前はあまり持っていなかった為知らなかったが、深紅の話を聞く限り、胸を触らせるというのはそれほど大きな事ではないのかも知れない。

 本当にそうなのだろうか? 微妙に疑問が残りつつも、明日奈は居住まいを正し、深紅に向き直った。

 

「…………」

「……………………」

 

 深紅はどうぞと言わんばかりに女の子座りで胸を張っている。

 彼女にとって、友人に胸を触らせる事は些細なことなのだろう。

 しかし明日奈にとっては一大イベントだ。バクバクと心臓は早鐘を打っているし、女の子同士だというのに、何故かいけないことをしているようで顔に熱が集まっていく。

 一方、深紅も表面上は平気にしているが内心は変な緊張に支配されていた。よくよく考えてみれば、深藍にしろ直葉にしろ、そして小春にしろ自ら触らせるというよりかは勝手に触ってくるので、自分から触らせることはこれが初めてだ。

 お互いが妙に緊張し、かつ照れを持っているものだから、はたから見れば怪しい雰囲気が漂っている。本人たちも、ちょっとおかしいな? と思いつつも、そう声を上げてしまうことで取り返しがつかないことになりそうで何も言えない状態に陥っていた。

 

「じゃ、じゃあ触りますよ……?」

「なんで敬語……?」

 

 おそるおそる、ゆっくり、ゆっくりと明日奈は深紅の胸に手を伸ばした。

 ごくりと、生唾を呑む音は果たして明日奈からか深紅からか。

 明日奈は意を決して震える指先を伸ばし――

 

 

 

◇Side Pixie

 

 

 

 これ以上はいけません!

 なんだか私までドキドキしてきちゃいました……。

 これはウワキにならないのでしょうか……? けどママとアリスお姉ちゃんはお友達同士で……?

 よく分からなくなってきました。

 次のお部屋、行ってみましょう!

 

 

 

◇Room4 ユナ&アイ

 

 

 

 名月深藍にとって電子の歌姫ユナは雲上におわすやんごとなきご身分のお方だ。

 いや、ユナが高貴な血族という話は聞いたことは無いが、どこにでもいる普通の中学生である深藍にとって、世界を股に掛ける歌姫はそれほど遠い存在だといいうことだ。

 モニターの向こうでしか見る事が無かった、憧れの歌姫。

 

 深藍がユナを知ったのは、SAO事件が解決して数ヶ月が経過したころだった。

 初めて目にしたのは、動画サイトに個人でアップロードされていた歌動画。

 アコースティックギターを静かに弾き、優しく、けれども力強く。傷つき涙を流す人たちを鼓舞しようと懸命に歌っていた。

 

 暗く険しい、嵐の海。けれど恐れる事は無い。あなたの胸の内には、それを乗り越えるだけの希望の灯があるのだから。

 

 動画を見終えた時、深藍は知らずに涙を流していた。

 

 理由は分からない。けれど、姉が目覚めなくなって数年。事件は解決し、他の人たちは目覚めたというのに、まだ目覚めないという絶望に、心が折れかかっていた。

 その折れかかっていた心が、優しく暖かな手で包み込まれるような気持ちだった。

 歌に込められた祈りや願いが、とても素人とは思えなかった。

 

 深藍はすぐさまユナをお気に入りに登録し、その後彼女がメジャーデビューし電子の歌姫となってからも毎日応援し続けた。

 貯まる一方だったお小遣いも、姉への贈り物の他に使い道が出来た。

 今では深藍は立派に――ドルオタと化していた。

 

 そんな深藍が神と崇拝するユナ――悠那その人が今、自らと同じ旅館、同じ部屋に居る。

 

 日中は姉やその他知己が大勢いた事、テンションが振り切れてやけくそ気味になっていたことから夢心地気分で旅行を楽しめていたが、くじ引きの結果ペアになり、こうして二人きりで個室に入ったところで我に返った。

 

 自分は今、とんでもないことをしているのでは……?

 

 あまりの出来事に、うまく思考が働かず、姉や小春を頼ろうにも、今夜は部屋移動禁止で交流を深めようという企画になっている。

 

 深藍としても悠那と友好を結びたい。もっとお話したい。だが、憧れの存在を相手にどんな対応をしていいか分からずこうしてぐるぐると同じ思考を繰り返していた。

 

 そんな深藍を、何が面白いのか悠那はニコニコと見守っていた。

 

 このままでは何もできないまま終わってしまう。それだけは避けたかった。

 悠那に幻滅されてしまうかもしれないし、何より、深藍がユナの大ファンだという事を知って応援してくれた姉に申し訳が立たない。

 深藍は意を決し、悠那に声を掛けた。

 

「あ、あのっ……悠那さんって、姉とはどういう関係なんですか!?」

 

 咄嗟に口を突いて出たのは、結局姉の話題。気になっていたとはいえ、もうちょっと他に話題があるだろうと深藍は歯噛みしたが、悠那は特に気にした風でもなく、そうだなぁと頬に手を当て、やがて口を開いた。

 

「深藍ちゃんは、お姉さんがどんなところにいたのかは……知ってるんだよね?」

「はい……」

「私はね……深紅さん――あの世界のアリスさんに、命を救われたんだ」

 

 悠那は懐かしい記憶を話すように、やさしく微笑みながら話始める。

 

「SAOが始まって、1年ちょっとかな……。私がまだ向こうで全然強くなかった時にね、ちょっと無茶をしちゃって。大量のモンスターに囲まれて危ないって時に颯爽と助けてくれてたんだ」

「む、無茶って……」

「ボスの取り巻きが沢山出てきて、パーティが崩壊しそうになったの。それで、私は自分にモンスターのヘイトを集めてなんとかしようとしたんだけど……ダメだったんだ。結局、追いつかれて、攻撃を喰らって――」

「姉が、助けに来た」

 

 深藍がそう言うと、悠那はうん! と楽しそうに頷いた。

 

「あの時アリスさんが来てくれなかったら、多分私は死んじゃってたかな。だから、アリスさんは私にとって命の恩人なの」

 

 悠那が姉の事を頑なにさん付けで呼んでいる理由にようやく合点がいった。姉の話では、今でこそ少し砕けた話し方をしてくれているが、以前はもっと畏まっていたそうだったから。

 命を救われた恩人なのであれば、その態度もうなずける。

 

「お姉ちゃんが、命の恩人ですか……」

「もうすごかったんだよ! びゅーんって飛んできて、ずばーってモンスターをなぎ倒しちゃって」

 

 大げさに身振り手振りで状況を再現しようとしている悠那を見て、深藍はくすりと笑みをこぼした。

 

「あっ、笑ったね? 本当に深藍ちゃんのお姉さんはすごかったんだから!」

 

 むくれてみせる悠那に、深藍は一層笑みを深め否定する。

 

「分かってます。私の姉は、世界一凄いんです」

 

 深藍の姉は、いつだってすごい人だった。

 向こうの世界の姉を知る人物から、それを聞いた。

 実際に隣で肩を並べて、それを知った。

 

 話を聞くたびに、姉の凄さを目の当たりにするたびに、誇らしいという気持ちがどんどんと強くなっていった。

 

 そんな姉が、大ファンである世界的アイドルであるユナに褒められた。

 

 シスコンである深藍が、心の底から嬉しく思うのも当然の事だった。

 

 深藍が顔に集まった熱を吐き出すようにほうと息をつくと、その顔を射抜くような視線を感じた。

 

 この部屋に居るのは深藍と悠那の二人のみ。それであれば、視線の主は推察するまでもない。

 

「えっと、悠那さん……?」

 

 穴が開くほど見つめられていたため、怪訝に思った深藍は声を掛けた。

 悠那はそのまま顔を伏せ、う~っと唸ったかと思うと、突然飛びついてきた。

 

「えッ!? えッ!?」

「もう深藍ちゃん可愛過ぎる!! お姉さんが大好きなんだね! いい子だねぇ!!」

 

 深藍は知る由も無かったが、悠那にとっても深紅は命の恩人であり、尊敬する人物であり、大好きな英雄だ。その妹となれば目を掛けるのも当然の事であったし、実はこの旅行に無理くりスケジュールを調整したのも、深紅と旅行に行けるという理由もあったが、彼女の妹であるという深藍が来るということも大きな要因であった。

 そしていざ会ってみれば、姉である深紅とは対照的な大和撫子然とした髪色や顔立ちをしておりながら、現実でのアリスと姉妹であるという事が一目でわかるほどにはそっくりだった。

 何この子超可愛いというのが、悠那の深藍に対する第一印象である。

 命を救ってもらった恩や尊敬から、実は深紅に対しても抱いていた愛でたいという感情を我慢してきていたが、妹となれば配慮はすれど遠慮は無用である。

 

「深藍ちゃんは可愛いねぇ~! ね、ね、私のこともお姉ちゃんって呼んでいいんだよ!」

「えぇぇッ!?」

 

 ただ我慢していたものが爆発しただけなのだが、深藍からしてみれば突然の豹変に他ならず、憧れの歌姫に抱き付かれあまつさえ姉と呼んでもいいと言われもう何が何やらの大混乱だった。

 だけども、譲れないものだけはしっかりと残っていた。

 

「えっと、えっと……ごめんなさい。私、お姉ちゃんは一人だけって決めてるんです……」

 

 深藍にとって、姉は唯一人の特別な存在だ。たとえ血の繋がりはなくとも、そして相手が神の如く崇めている存在だろうともその一線だけは絶対に譲れなかった。

 せっかくの提案を無碍にしてしまい、機嫌を損ねてしまっただろうかと、深藍は顔色を窺った。だが、世界の歌姫はその程度で動じる事などなかった。

 

「そうだよねぇ、ごめんねぇ! お姉さん思いなんだねぇ、やっぱり深藍ちゃんはいい子だねぇ! ……よし、そんないい子のためにひと肌脱いであげちゃう!」

 

 何故かさらにテンションを上げた悠那は、鞄から一冊のノートを取り出した。

 1ページにぎっしりと文字が埋め尽くされたそのノートをぱらぱらとめくり、真新しいページを開くと筆を走らせた。

 

「悠那さん、何を……?」

「丁度次の曲の歌詞に行き詰っててね。深藍ちゃんと深紅さんの姉妹の絆を歌にしようかなって」

 

 深藍は一瞬何を言われたのかが理解できず、その言葉を飲み込むのに時間がかかった。その間にも悠那はすらすらと文字を連ねている。

 やがて、さらりと告げられたその台詞がどれほどすごい事なのかを理解し、絶叫する。

 

「うぇええええええッ!?!? ゆ、悠那さん本気ですか!?」

 

 自分達の事が歌になる。それだけでもとんでもない事なのに、さらにそれを作り歌い上げるのが世界の歌姫だ。姉との絆が、まさかのワールドデビューである。

 深藍はそのことに思い至り、とんでもないことになろうとしてると戦慄したのだが、悠那は鼻歌混じりに楽しそうだ。

 

「前々からもう一曲作りたいなって思ってたんだよね。あ、深藍ちゃんと深紅さんの歌とは言うけど、私が二人を思って書いたってだけだから、名前が出たりとかは絶対にないから安心してね」

「そ、それはぁ……そうでしょうけどぉ……」

 

 状況が急転直下で移り変わり、混乱はさらに加速する。

 深藍があうあうと目を白黒させていると、悠那は顔を上げて微笑んだ。

 

「もちろん、深藍ちゃんと……あと、深紅さんにも後で話すつもりだけど、二人が嫌ならこれは個人的に作るだけにするよ。だけどね――」

 

 未だ混乱の最中にいる深藍の頭を、慈しむ様に撫で、悠那は言う。

 

「私はこの歌を――私があの世界で勇気づけられた人と、その人の大切な人を歌にして、世界中に届けたいって思うんだ。私がもらった勇気を、今度はあげられるように」

「悠那さん……」

 

 深藍は以前、ユナの動画を見て自分が立ち直った出来事を思い出した。

 自分はあの歌に待ち続ける気力をもらった。姉の囚われた場所を知り、立ち向かう勇気をもらった。

 もしも、自分と姉の事を思って作られた歌で、沢山の人に元気を分けられたなら……それはなんて、素敵な事なんだろう。

 

「あ、あの……っ、是非よろしくお願いします!」

「うん! まっかせて! とびっきりの歌を作っちゃうから!! 出来たら一番最初に聞かせてあげるね!」

 

 眩く輝いた、まるで子供のような表情で、心から楽しそうに夢中になって曲作りをする悠那。

 一体どんな歌になるのだろう。深藍はワクワクとした気持ちが高まっていくのを感じた。

 

「あれ? お姉ちゃんとその大切な人の曲って……小春さんは……? それと、もう一曲って……?」

「実はもう作ってリリースしてあります」

 

 どうやら姉は一足先に世界デビューしていたようだった。

 

 

 

◇Room5 小春&直葉

 

 

 

「ふっふっふ、やっと二人きりになれましたね小春さん……」

「えっ、なっ、なに……?」

 

 部屋に着くなり何やら怪しげな雰囲気を醸し出し始めた直葉に、小春は思わず後ずさりした。

 ゆらりと幽鬼のような動きで、目をランランと輝かせる様はまるでゾンビのようだ。

 

「直葉ちゃん、一体どうしたの……?」

 

 その雰囲気の変わりように怪訝に思った小春が聞くと、直葉はケロリとした表情で何事も無かったかのように話し始めた。

 

「あたしと小春さんってよくパーティ組んだりしてますけど、こうやって二人でお話するのってあんまり無かったじゃないですか。だから今日は一杯お話したいなぁって思って」

「そういえばそうだね。……ALOでローテアウトしてた時以来かな?」

 

 小春と直葉は同じギルドということもあるし、深紅の事もあって良く行動を共にしていた。しかしよく考えてみればそこには他の誰かが必ず一人以上おり、二人きりという機会は殆ど無かったように思える。

 

「ありましたねぇそんなこと。いやぁ、あの時は小春さんの大事な人が深紅ちゃんだなんて思いもしませんでした」

「ふふ、それは私もだよ。まさか直葉ちゃんが深紅の親友だったなんて」

 

 当時の事を思い出し、二人はくすくすと笑い合った。

 今だからこそこうして笑い話にできているが、あの時は本当に驚いたものだった。

 

「でも私と二人きりで話したいことって何だろう? そこまで面白い話あるかな……?」

 

 直葉とはリアルヴァーチャル問わず交流があるため、何度も話しをしたことがある。確かに二人きりで話すという機会こそなかったものの、今更真新しい話題があるように思えなかった。

 小春が思案していると、直葉は再びくふふふと怪しい笑いをし始めた。

 

「あるじゃないですか……二人きりでしか話せないとっておきの話題が……!」

「え、ええー……?」

 

 思い当たる節が無く、頭を捻る小春に、直葉は声を大にして告げた。

 

「この機会に、深紅ちゃんとのあんな話やこんな話をとことん聞かせてもらいます!」

「あ、あー……なるほど……」

 

 確かにそれは、二人きりでないと話せない話題だ。

 別に小春は話しても構わないのだが、連れの深紅がそう言った話題になると恥ずかしいのか露骨に話を逸らしに来るのだ。そして流れがまずくなると逃げる。脱兎の如く。

 なので、深紅がその場にいると所謂『恋バナ』というものが出来ないのだった。

 

「うん。わかった。何を話せばいいのかな?」

「お、おおー……」

 

 小春が快く承諾すると、直葉は感嘆の声を上げた。

 

「なんだか余裕ですね……前に明日奈さんに同じ話題振ったらすっごい照れてたのに」

 

 その姿が容易に想像できて、小春はくすりと笑った。

 

「なんて聞いたの?」

「えっとー、お兄ちゃんとちゅーはしたんですか? って」

 

 それは明日奈が恥ずかしがるわけだ、と小春は納得した。明日奈はかなりの初心なのだ。未だに明日奈と二人で女子会をしていても、途中で音を上げてしまうほどに。

 

「で、ぶっちゃけ小春さんってー……深紅ちゃんとちゅーはしたんですか?」

「うん。したよ」

 

 迷いなく答えた小春に、直葉は「ほ、ほぉぉー……」と顔を赤くし興奮した様子で食いついてきた。

 

「ど、どうだったんですか……?」

「どうって?」

「や、そのぉ……感触? みたいなのって……」

 

 小春はふむと顎に手をやり記憶を探る。ごくりと直葉の喉が鳴った。

 

「月並みだけど、柔らかかった……かなぁ」

「わ、わぁぁ……」

 

 赤裸々に話しているのは小春の方だというのに、直葉は顔を真っ赤にし、両手で顔を隠すように覆ってしまった。

 そういえば、こうして深紅とのことをあけすけに話すというのは今まで無かったなぁと小春は気が付いた。そして、なんだか楽しくなってきた自分が居る事にも。

 

「深紅はね、キスする時顔真っ赤にして目を瞑るんだけどね、その顔がすっごく可愛いの。身長差あるから、精一杯背伸びしてね。ぷるぷる震えながら待ってて……」

「ほ、ほぁぁ……」

 

 小春のギアが上がってきた。

 

「顔とかに触れるとくすぐったそうに声を漏らすんだけど、そのままキスしないで撫でてると、しないの……? ってうるうるした目で見てきてね? 本当にもう可愛くって――」

「も、もういいです! ごちそうさまです! ありがとうございました!!」

 

 暴走寸前の小春に、直葉がついにギブアップをした。

 直葉は耐えきれないとばかりにわーっと布団に飛び込むと、足をばたばたとさせ暴れ始めた。

 

「もういいの?」

「十分です! というかなんで小春さんはそんな平気そうにしてるんですか!? もう、聞いてるだけですっごく恥ずかしくなってきちゃったのに」

 

 直葉は枕に顔を埋め、うーうー言いながら悶えている。

 

「恥ずかしくないわけじゃないけど……私は好きな人の事は話したくなる方だから、かな。あんまり人に話せることでもないから……」

 

 最近はそういったものに対する理解も広まっていることとはいえ、世間一般でみれば普通でないということは理解している。だからこそ小春と深紅の関係を知っているのは極一部の信頼できる人だけであり、親にすら打ち明けていない。

 

「だからね、こうやって話しても大丈夫って人が相手だと、つい暴走しちゃうのかも」

 

 自分はこの人が好きだと、胸を張って言えないというのは少し辛いものがある。外に出かけるときも周りの目をどうしても気にしてしまう。もっと触れ合いたいと思っていても、無意識に。

 だからこそ、日頃の鬱憤というわけではないが、したくても出来なかった恋人自慢。こうした機会にはついつい話したくなってしまうのだ。

 

「そうだったんですか……」

 

 直葉は何かを感じ取ったのか、よいしょっと布団から横たわった身体を起こした。

 

「ふぅ……ちょっと落ち着いてきました。じゃ、小春さん。続きを話しましょう」

「え? さっきはもういいって……」

 

 浴衣の裾を直し、小春へと向き直った直葉はそう言った。

 小春が首を傾げると、直葉はにへらと表情を崩す。

 

「はい。けどこういう話が出来る機会ってあまりないでしょうし、それに、あたしも大好きな深紅ちゃんの話、もっと知っておきたいなって」

 

 けどえっちなのは控えめで! とおどける直葉に、小春は虚を突かれたように目を丸くする。そして破顔した。

 

「ありがとう、直葉ちゃん」

「いえいえ!」

 

 こうして小春と直葉はお互い眠気が限界になるまで、さらにそこからも布団の中で眠る直前まで『恋バナ』に花を咲かせていったのだった。

 

「けど直葉ちゃんはどうなの? 好きな人居ないの?」

「あたしですか? んー……そうですねぇ……」

「あ、深紅はダメだよ? あげないんだから」

「取りませんって!!」




タイトルはまんま夜会話です

・オーグマー
 2026年発売予定。
 映画でユナが「オーグマーはナーヴギアの機能劣化版でしかない」って言ってたましたし、制限解除したらフルダイブも出来ました。この事から直接装着者の視覚にアクセスしてるんじゃないかなあというオリジナル設定。ヘッドセットのマイクみたいな部分は視覚感知センサーらしいです。応用すれば視界ジャックとか出来そう。
 あの映画も結構作り込み細かいんですよね。ARならではの表現と言いますか。
 最後のキリト君とエイジのチャンバラは端からみたら剣での切り合いじゃなくて、棒は握ってるけどステゴロの殴り合いに見えるんだろうなぁ

・ユナの歌
 Break Beat Backがこの世界線ではユナがアリスとコハルの事を想って書いた歌かなと
 歌詞見てみるとエイジにぶっ刺さりまくってやばいですね。deleteとかも。
 名曲なので是非聞いてみてください

 この話と前話Bの話は、男性パートはアバター名呼び。女性パートは本名呼びと分けています。読みにくかったらすみません。
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