SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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アンケート企画第一弾


か弱い子羊がわるいオオカミさんに食べられちゃう話

 

 

 恋人とは。

 

 少女漫画等の浅い知識しかないから、実際にどうするのか、どうあるべきなのかなんてことは分からない。

 けれど、わたしの想像していた恋人同士というのは、一緒に居て、笑って、楽しいを共有して、少しずつ距離を詰めていくような。時々、手を握ったり、触れるようなキスをしたり、たまには大胆に抱きしめたりなんかして。そんな、照れくさくて甘酸っぱい、けど幸せな関係。それが、わたしの思う恋人同士のやり方だった。

 

 もちろん、人には人の付き合い方というのがあるし、燃えるような恋愛というのもある聞く。特に、わたし達の関係は普通ではないから、あり方なんてきっと世間一般のマニュアルには載っていない。

 

 だけど。

 だけども、である。

 

「ふ、ふぇ……」

「アリス……可愛い……」

 

 壁際に追い込まれ、腕で逃げ道を塞がれる。所謂壁ドンの状態になりながら、わたしの恋人であるコハルが、わたしの顎に手を添えクイと持ち上げる。

 ピカピカに磨いた宝石のような翡翠の瞳がわたしを閉じ込める。

 退路は無い。ついでにいえば、ここはマイホーム。つまり、誰も助けてくれやしない。

 

 恋人同士のあり方が人それぞれとはいえ。

 わたし達の関係が普通ではないとはいえ。

 

 捕食者と被捕食者のような関係では、無いのではないだろうか――

 

 わたしは涙目になりつつも、色に濡れたコハルの顔から目を反らせないでいた。

 

 

 

 

 

 

 なんか違う気がする。

 そう思ったのは、いつの頃だったか。

 

 あのクリスマスの日。

わたしとコハルがシステム上の結婚をしてから。その日に行ったデートは、わたしが散々意識してしまっていてそれどころじゃなかったから、違和感に気づいたのはその後だ。

 

 違和感の対象は、コハル。内容は――わたしとの距離感。

 

 コンビを組んでいた頃。わたしとコハルは同性という事もあって、割とスキンシップはしていたように思う。

 それは、わたしの中の唯一の友――親友である直葉ちゃんが結構距離をぐいぐい詰めてくるタイプだったので(後はまあ、あの子もそうだった)それに影響されていたのかもしれない。

 でも、それは普通の友達同士のスキンシップだったと思う。何かを見ている時に後ろからえいって飛びついて、肩越しでそれを一緒に見たり。後は、じゃれついて正面から抱き着いてみたり。

 

 ホントに友達の範疇か……? 自分で思い返しておいてなんだけど、ちょっと自信が無くなってきた。

 

 うんまあ、それが普通のスキンシップであると仮定して。

 

 コハルはなんというか、事あるごとにベタベタとしてくるようになった。

 そっと近づいてきて抱きしめてきたり、頭を撫でてくるだけじゃなくて頬とか肩に触れてきたり。手とかを意味なくにぎにぎしてきたり。

 もちろん、場所は選んでいるようで、人が居ない所か自分たちの家の中でしかそういった事はしないんだけれど。

 

 それにしても、ちょっと、なんというか。

 

「コハルはえっちなんじゃないかって思うんだ」

「なんでソレをオイラに言うのか分からないんだケド?」

 

 とある昼下がり。

 第五十層にある裏路地。以前キリトが《KoB》団長を連れ込んだラーメン擬きを出すそば屋さん……の近く。客の全く居ない、お婆ちゃんが趣味で経営しているような小さな喫茶店に、わたしはアルゴを呼び出していた。

 

「まったク……話があるって言うからわざわざ来てやったってのニ……。急に惚気られるとはネ。それを聞かされてどうしろって言うんダ」

「や、どうしろっていうか……いっつも良いようにやられちゃってるから、何か対策は無いものかと」

「それこそなんでオイラに聞くんダ……おねーさんは情報屋ってだけで惚気については専門外だゾ」

 

 惚気ているわけじゃない。真剣な悩みなんだぞ。

 

「それ。自分のことおねーさんっていつも言ってるから、そういう経験も豊富なんじゃないかって思って」

「むぐ……。そうは言ってもなア……」

 

 アルゴはそう言って、腕を組みウンウンとうなり始めた。

 しかし相談には乗ってくれるようで、やがて片目を開けて逆に問いかけてきた。

 

「例えばどんな風なんダ?」

「例えば?」

「漠然とエッチかもしれないッテ言われてもナ。具体例がないと判断出来ないサ」

 

 言われてみれば、そうかもしれない。

 けど具体例……ってあれを話すのか。それはなんというか……

 

「けど……ちょっと、恥ずかしいっていうか……」

「それじゃあアドバイスは出来ないナ。まあ安心しろッテ。誰にも話さないからサ」

「ホント……?」

 

 今になって思えば、わたしは多分浮かれていたんだと思う。

 それほど深刻な悩みではなかったし(当時のわたしからすれば深刻な問題だが)、無意識に他の人に話したい――自慢したいと感じていたのかもしれない。

 だから、普段であれば『アルゴに秘密を話す』という事の恐ろしさに気づいて居たはずなのに。

 後悔先に立たず。わたしは「えっとね……」とつい最近の出来事を語り始める。

 きらりと怪しく光る、アルゴの瞳に気づかないまま……。

 

 

 

◇CASE1 室内にて

 

 

 

 あれは、えと……ひと月位、前かな?

 なんでそんな前の事覚えてるのって? それだけびっくりしたからだよ……。

 えとね、あの日は、確かフロアボスの情報を得る為のクエストを進めてて。

 そう、アスナ達と協力してね。行き詰ってたから、人海戦術で情報を得ようって事でわたし達にも声かけられたんだ。

 

 それで、話を戻すけど。

 あの時は結局空振りで、日も暮れてきたし情報収集を切り上げて家に帰ったんだ。

 わたしが先に玄関開けて、ただいまーって。そしたら、いきなり後ろから……その、抱き着かれて。

 

 もう、なんていうか、ぎゅーって。

 その時はわたしもいきなりだったから、恥ずかしいとかよりもびっくりしちゃってさ。どうしたの? って聞いたら、疲れたから栄養補給とかって言ってた。

 

 しばらくはそのままにしてたんだけどさ。さすがに装備もそのままだし、メニュー開いてささっと部屋着に着替えたかったんだけど、放してくれなくて。しかたなーく、コハルを引き摺ったままリビングまで行って。

 

 そしたら……。えっと……。

 

 え? 終わりじゃないよ。うん。別に後ろから抱き着くのは友達同士でもやるでしょ?

 え。なにその顔……。ちょ、ちょっと、ふつ、普通……だよね? 「いいから続けて」って、え。普通じゃないの!? ねえ!?

 

 むぅ……。

 っと、どこまで話したっけ。

 ああ、そうそう。リビングまでコハルを引き摺っていって……そしたら。

 

 そしたら……うん。その。

 

 押し倒されちゃって。

 

 なんだろうね、あれ。気が付いたら、天井と……爛々と輝いたコハルの瞳が目の前にあって。

 おかしいなって。数舜前まで、背中にひっつき虫だったコハルをソファに降ろして、着替えようとメニュー開いたと思ったら転がされてるんだもん。

 それから――

 

 

 

 

 

 

「わかっタ! も、もういい!!」

「え、そう……?」

 

 いつの間にやら顔を真っ赤にしていたアルゴにストップを掛けられ、酔っているわけでもないのにペラペラと回り出した舌を封じ込める。

 よかった。話しててだんだん自棄になってきてたけど、恥ずかしかったし。うん。わたしも顔真っ赤だ。手でパタパタと顔を扇ぐ。

 

「想像よりも生々しくてびっくりしたゾ」

「そ、そうかな……?」

「そうダ。ちなみに言っておくが、後ろから抱きつく位なら仲の良い友達同士なら普通にあるから安心しロ。オイラもたまに見かけるしナ」

「ほんと? 良かった……じゃあ同じベッドで寝たりお風呂一緒に入ったりするのも普通だよね?」

「それは違うゾ」

「馬鹿な……」

「お前達距離感おかしいヨ……」

 

 かちゃん、と手元の紅茶をかき混ぜていたマドラーを取り落した。

 いやでも、あれは友達同士では普通だってコハルが……あれ? そう言ってたのっていつだ? 確か二度目のクリスマスの後で……え、もしかしてわたし騙されてた??? なんてことだ……。

 

「というか、アッちゃんは倫理解除コードの事知ってたんだナ」

「へ?」

 

 アッちゃんというのは、わたしの愛称だ。頭文字だけで愛称をつけたがるアルゴ限定だけれど。

 コハルはコーちゃん。キリトはキー坊。同じアから始まるアスナはアーちゃんだったりする。ややこしい。

 それは置いておいて。何? 倫理解除コードって。わたし知らない。

 

「ン? オプションメニューの奥の奥にある設定の事だケド……ってまさか」

 

 SAOのオプションメニューはかなり細やかに設定出来るようになっており、設定項目が膨大な数にのぼる。利き手の設定とか、UIの表示上限とかそんな感じの。

 それにしても、倫理解除って。穏やかじゃないワードだけど、一体何を解除するというのか。

 

「アッちゃん。さっきの話の続きダ。アッちゃんはコーちゃんに押し倒された後、ナニをしタ?」

「え」

 

 なんでそんなこと。

 えー、ちょっと。いや、そんな。恥ずかしい。

 けどアルゴの目は真剣だ。ちょっと呆れが混じったような気配だけど、真剣だ。

 ぐむ、と口をもごもごとさせ、ぽつりと零す。

 

「えと、あの。……を」

「聞こえなイ」

「ちゅ、ちゅーを……しました……!」

 

 うわあああ恥ずかしい!! さっきまで話すつもりではいたけど、改めて聞かれるとすっごく恥ずい!!

 顔中が熱を帯び、耳から蒸気が噴出しそうな気分になるも、アルゴはしばし無言で何かを考えた後、はぁ……と一息。

 

「それだけカ?」

「え、う、うん」

「その先ハ?」

「へ? さ、先?」

「ああウン。その反応で分かっタ。アッちゃんはそのままのアッちゃんで居てクレ」

「え……へ?」

 

 なんだ、何が分かったっていうんだ。

 情報屋としての観察眼と推理力で何を察したというんだ。そしてその呆れ顔はなんだ。

 

「一応聞いておくガ、赤ちゃんってどうやったら出来ル?」

「それは、男の子と女の子でちゅ、ちゅーをしたら……」

 

 アルゴは今度は特大のため息をついた。な、なんだね。その「嘘だろこいつ」みたいな顔は。前に《月夜の黒猫団》のケイタに同じ様な表情をされたのを思い出す。

 

「アッちゃんって小学生だったりするのカ?」

「違うよ! 失礼な!」

「いヤ、だとしたらどんな教育を受けてたのか気になるんだけどナ……」

 

 どんな教育と言われても。

 小学生の時に当時一番仲良かった子に聞いてみたところ、わたしが言ったような答えが返ってきたのだ。それと「そのままの深紅ちゃんでいて」とか「絶対に他の人に聞いたりしないで」とも。そういえばあの生暖かい目は一体……?

 

 それを聞いたアルゴは「よし」と一言つぶやいてから、ずいと身を乗り出してきた。目が怖いぞ……?

 

「アッちゃん。今からオイラが教育してあげよう」

「教育」

「保健体育のお時間ダ」

 

 

 

 

 

 

 現実を知ってしまった……。

 

 アルゴと別れたわたしは、フラフラとした足取りでマイホームへと帰宅途中である。

 

 彼女に教えられた、本当の「赤ちゃんはどこからくるの」という授業にわたしはノックアウト寸前だ。

 

 だって、そんな……。男の人のアレを……女の人に……なんて。

 

「う、うわわわわ……煩悩退散! 煩悩退散!」

 

 ぼっ、と顔から火が出て慌てて邪念を振り払うように頭を近くにあった壁に何度も打ち付けた。

 周りからぎょっとしたような視線を向けられているが、そんな事を気にしている余裕は無かった。

 圏内故にダメージは受けてないが、ある程度落ち着いて来たので大きくため息をついて振り返る。道行く人々(プレイヤーを含む)からサッと視線を逸らされた。すごく「関わらないでおこ……」という意思を感じる。AIのNPCにすら態とらしく目を背けられた為、相当な不審者感だったんだろう。

 ここが下層で良かった。上層だったら知り合いにも今の痴態を見られていたかもしれないわけだし。

 

 気を取り直して。

 

 アルゴからは教育後に作戦を授けられていた。

 作戦内容は簡単で、何かしら特別な事をする必要はない。

 ただ物凄く恥ずかしいのと、勇気が必要な事以外は。

 

「ええい、ままよ! だ!」

 

 ぱしん、と両手で頬を強く挟み、気合を入れる。

 わたしはコハルに「今から帰る」とメッセージを送ってから、小走りで家路を急いだ。

 

 

 

「ただいま」

「おかえり、アリス」

 

 マイホームへと帰還すると、コハルは晩ごはんを用意してくれていたみたいで、エプロン姿のままぱたぱたと駆け寄ってきた。

 そんなコハルを見てほわっと胸が暖かくなるような気持ちになりながらも、「よし」と気合を入れ直してから一歩距離を詰める。

 

「コハル……あ、愛してるよ」

「………………え?」

 

 コハルが面食らったように身体を硬直させた。

 そのままコハルを壁に押し付け、しなだれかかるようにして身体を預ける。

 

「好き。好きだよ……コハル……」

「え……あ、ふぇ………?」

 

 アルゴの作戦はこうだ。

 『攻められる前に、攻めきれ』

 

 アルゴ曰く、わたしは受け身に回りすぎているそうだ。完全に攻守が確定しており、それを覆すには自分から攻めに転じるほかないという。

 そしてアルゴ目線から、コハルはあまり恋愛経験が豊富なように見えないようで、一度攻めてしまえば後はそのまま押し切れるとも。

 

 受けとか攻めとか、戦闘じゃないんだから……とも思ったが、アルゴはそういうものだと断言していた。

 

「コハルは、わたしの事、好き……?」

「す、すすすす……」

 

 めちゃくちゃ恥ずかしいけど、効果は覿面なようだ。

 コハルは顔を真っ赤にして、目をぐるぐると回している。

 そういえば、まだこういう関係になる前もこうしてコハルは恥ずかしがって狼狽えていたような事があった気がする。

 なるほど、アルゴの言う通りコハルはぐいぐい来られるのに慣れていないのだろう。

 もちろんわたしも恥ずかしいけれど、わたしの一挙手一投足にここまであわあわしてくれると背中がゾクゾクとしてくるような――彼女を支配しているかのような優越感が湧き上がってくる。

 

 ふふん、これでこのままコハルを攻めきって……。

 

 はて。攻めきって、どうするのか。というか、これはどうすれば終わるのだろうか。

 アルゴにレクチャーされた、男女のちょめちょめが脳裏をよぎった。いやでも、わたしとコハルは女の子同士で……?

 

 ドンッ! と音がした。

 

 あれ? と思い視線を上げると、なぜかコハルの目がお肉を前にした肉食獣のような輝きを放っていた。

 更には、いつのまにかわたしが壁を背にして、腰を取られ、壁に追い詰められている。先程の音はコハルが壁に手を思い切りついた時のものだったようで、退路を塞ぐようにわたしの顔の横に彼女の手が。

 

「…………………へ?」

 

 なんだこれは。

 どういうことなのだ。

 

 だってだって、わたしはほんの数瞬前までコハルを攻め攻めにしてたはずで、コハルはたじたじとしてて……。

 どうしてこうなった……?

 

「ふぇ……」

「アリス……可愛い……」

 

 腰に回されていたコハルの手が離れ、顎をくいと持ち上げられた。

 色に濡れた、というのだろうか。艷やかな翡翠色の瞳がわたしを閉じ込めた。

 

「良いんだよね……?」

 

 なにがでしょうか。

 そんな疑問は言葉にならず、ただ宝石の様なコハルの瞳から目を離すことが出来ない。

 

「もう、我慢をしなくても……良いんだよね……?」

 

 嘘でしょ。

 あ、あんなにベタベタしてきて、まだ先があるだって……?

 いやちがう。そうじゃない。

 このままじゃマズイ。本能が鳴らす警鐘がそう告げている。どうにかして打開を……!

 

「わ、わたし……初めて……だから……」

 

 違う違う違う違う。何を口走ってるんだわたしは。

 初めても何も、知識すら無いでしょうがってそれも違う!

 だめだ、頭がまわらない。

 

 わたしの言葉はコハルの中にあった火を更に燃え上がらせてしまったようで、股の下にコハルの足が差し込まれてさらに身動きが取れなくなってしまった。

 

「アリス……好きだよ……」

「……ぁ…………」

 

 ――むかしむかし。あるところに一匹の子羊がいました。

 その子羊は、隣に居た子羊をたまにからかったりしながらも幸せに過ごしていました。

 ある時、子羊達は結ばれました。

 するとどういことでしょう。隣りにいた子羊は、なんとオオカミさんだったのです。

 子羊は懸命にオオカミさんと戦いましたが、奮戦かなわず、余計にオオカミさんを興奮させてしまい、そのまま――

 

「……イタダキマス」

 

 か弱い子羊さんは、わるいオオカミさんに食べられてしまったのでした。

 




時期的には『All I Want for Christmas Is You』から『黒紅の剣士達』の間です。

ちなみにえっちな事はまだしてません。
コハルもこの後アリスから「なんでこんなこと(誘惑)をしたのか」という理由を聞き、徐々に落ち着きを取り戻して『デートのすゝめ』位の距離感に落ち着いていきます。

子羊さん「やってやんようおお」
オオカミさん「うぇるかむ」
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