コハル誕生日おめでとう!! ガチャ回してお祝いします!!!
後書きに報告がありますので、良かったら確認してください。
二月二十三日。
この日は何の日かというと、二〇一九年に即位された天皇陛下のご生誕日――いわゆる天皇誕生日という祝日である。
が。
この日は、少なくとも小春にとってはただの祝日ではなく、特別な意味があった。
「小春! お誕生日、おめでとぉーっ!」
午前八時。祝日故に休校日であり、いつもよりもゆっくりとした起床時間だった。
普段であれば早起きをして朝食を作ったり二人分のお弁当を用意する小春であったが、この日だけは全ての家事を免除されていた。
リンリンとやかましい目覚ましを鳴き止ませ、目を擦りながら身体を起こした小春に、エプロン姿の深紅がぱたぱたと駆け寄り抱き着いてきた。
二月二十三日。
本多小春の誕生日である。
「…………」
「……あれ? 小春、おはようございます……?」
抱き着いてきた深紅を寝ぼけ眼でぼーっと見つめる小春に、深紅はあれ? と首を傾げた。
もうちょっと、なんかリアクションがあると思ってたんだけども。深紅の知る限りでは、小春は朝に弱いとかそういう体質は無かったはず。
寝起きから騒がしかったかな? もう少し寝させてあげたほうがいいだろうかと考え始めた深紅に、小春はぼそりとつぶやいた。
「……誕生日プレゼントは深紅で、今日一日好きにしていいんだっけ」
「違うけど!?」
突然の貞操の危機に深紅は大慌てをしだした。
身体を離そうとしたが、すでに小春によってがっちりとホールドされており、身動きが取れない。
「え、うそ。力つよ……。寝起きなんだよね? 寝ぼけてるだけだよね!?」
「おきてるよー……」
小春が深紅の肩に顎を乗せ、猫のようにスリスリと頬でマーキングをし始めた為、食べられる!? と危機感を覚えた深紅だったが、その後の受け答えがあくび交じりでふにゃふにゃしていた為、寝ぼけているだけだと少し緊張を解いた。
実のところ、小春は寝ぼけていた。
もともと早起き体質であり、今日も普段起きる六時前には目が覚めていたのだが、深紅が今日の家事は全てやると豪語していた為、珍しく二度寝をしていた。
しかも、『目を覚ますと恋人が朝食を準備していた』という胸キュンシーンへの期待にそわそわとしてしまい、設定していた目覚ましが鳴る少し前にようやく微睡み始めていたところだった。
結果として、目覚まし程度では完全に覚醒出来ず、思考力の殆どが働いていない現在の小春はほぼ夢現の状態だった。
「深紅……」
「んもう……小春可愛いなぁ」
小春は深紅の腰に手を回し、抱き枕のようにぎゅーっと抱きついている状態だ。
ここまでとろとろになっている小春は珍しい為、深紅は胸がキュンキュンと疼くような感覚に襲われながらも優しく小春の頭をかき抱く。
いつまでもこうしていたい気分に駆られるが、そうもいかないと深紅は小春をあやすように言葉を発した。
「小春、朝ごはん出来てるよ。食べよ?」
さて、現在の小春は夢現状態と先ほど説明したが、もう少し噛み砕いて言うのであれば、今小春は理性ではなく本能で動いている。
深紅が抱きついて来た事に対して『今日一日好きにして良いんだ』とエキサイト翻訳もびっくりの脳内変換が行われる位には。
つまり。
小春は今、獣と化していた。
「……ごはん? 食べる……」
「うん。だからおっきしよ――ってうひゃぁ!? え!? 何!? なんで服を脱がすの!?」
「食べる……」
「だからなん――はっ!? まさか食べる気!? わたしを食べる気なの!?」
「イタダキマス……」
「ちょっ……まだ朝んむっ!?」
◇side koharu
騒々しい目覚めの後、シャワーを軽く浴びて冷静になった小春は、どこか疲れた表情の深紅と朝食をつついていた。
「朝からすごい疲れた……」
「ごめんね。久しぶりに二度寝したからすぐ起きられなくて……」
危うく頂かれてしまうところだった(寸での所で小春が完全に目を冷ました為)深紅はため息をつきながらバターをたっぷりと塗ったトーストを齧る。
深紅が用意した朝食は、トースト、ベーコンエッグ、オニオンスープ、サラダと洋風の朝食テンプレートだった。
しかしベーコンエッグは卵の黄身が半熟の絶妙な焼き加減に、オニオンスープに入っている人参や玉ねぎの具は整然とした切り方でバラつきが少ない。
お手軽ではあるがしっかりと下ごしらえのされたメニューだった。
カップに注がれたオニオンスープを一口啜ると、オニオンやコンソメの旨味や、ピリッとした胡椒の味が寝起きの身体をポカポカと暖める。
「美味し……。深紅って意外と料理出来るんだよね」
「簡単なものなら、だけどね。うちは共働きで偶に家にわたしと深藍しか居ない時は作ったりしてたから」
友人知人からはよく意外に思われていたが、深紅は普通に料理が出来る。
何か凝った物を作るわけでもなければ、レシピを見ながらきちんと美味しいものが作れる位の、普通の腕だ。
流石に料理が趣味と豪語する明日奈や、一人暮らしが長くSAO時代も料理の腕を奮っていた小春には負けるが。
「これからは朝ごはんわたしが作ろっか?」
深紅の提案に、小春はふむ、と考える。
二人で暮らすようになってから、食事は小春が、洗濯や掃除などは深紅がと担当を分けていた。
そろそろ担当を見直すのもいい機会かもしれない。が。
「ううん。ご飯は私が作るよ。けど、偶に深紅の料理も食べたいから、その時は家事の担当を交代しよっか」
深紅の手料理を頻繁に食べれるようになるのは魅力的だ。しかし、自分で作った料理を深紅が美味しそうに食べてくれるのも好きな為、そういう折衷案を返す。
それに深紅は快く頷き、二人は朝食を食べ進めた。
食後のティータイム中。テレビを着け、チャンネルをネットニュースに合わせると、祝日だからかちょうどMMOトゥディが流れている。
どうやらアミュスフィア用の新規タイトルが発表されているようだが、今はALOと、たまに気分転換にコンバートするGGOだけで手いっぱいの為聞き流すに留める。
「夕方まで時間あるけど、どうする?」
今日は小春の誕生日――ということで、ギルメンや友人らを集めてパーティをしようという話になっていた。祝日で学校も無いから、ついでに深紅も今日はアルバイトが休みなので二人とも夕方まで暇を持て余している。
いっそのこと朝食を食べ終えたらALOにログインしてしまおうか。そう小春が思案していた時、チャイムが鳴った。
「あれ? 小春、荷物頼んだ?」
「ううん、頼んでないよ。……誰だろう」
深紅が立ち上がり、応対しようとドアホンへと向かう。
二人が住む部屋は大学生も利用するような女性向けマンションの一室なので、そうそうとセールス等は訪れない。そもそも、今の時代ノンアポのセールスは廃れて久しく、殆どがDMやネット広告に置き換わっている為、小春は一人暮らしを始めてから一度もそういった人物が訪ねて来た事は無かった。
新聞も電子版購読だから集金でもないだろうし……と不思議がっていると、訪問者の招待がドアホンのモニターに表示された。
「深藍!?」
『おねーちゃーん、おはよー。遊びに来たよ』
時計を見る。時刻は十時を過ぎた所。深藍の住む家(深紅の実家)はここから電車で一時間程かかるので、深藍は休みとはいえ随分と早く家を出たようだ。
というか、ノンアポである。さすがに昔のアイドルソングの一節のように、休みだからって恋人と昼まで寝るつもりはなかったが、もしまだ寝ていたらどうするつもりだったのだろう。
そうこうしている内に、もう一度チャイムが鳴る。深紅が玄関を開けて迎えにリビングを離れた。
「いらっしゃい、深藍ちゃん」
「お邪魔しまーす!! 小春さん、ハッピーバースデー!!」
立ち上がり歓迎の意を伝えると、深藍はたたたと駆け寄って来てぎゅっとハグをしてきた。
名月姉妹は感情が昂るとハグをする習慣でもあるのだろうか。今朝も深紅に抱き着かれた小春は苦笑しながらも深藍の頭を軽く撫でた。
昨年の年末。深藍が深紅に恋をしているという事が発覚し、紆余曲折あった結果。
深藍と深紅の姉妹の関係が変わっただけでなく、小春と深藍の関係も変化していた。
「義姉さんの誕生日ですから! ちょっと張り切って来ちゃいました!」
そう。何を思ったのかこの少女は『将来姉と結婚するんだからもう義姉さんですよね』と義姉呼びをし始めたのだ。
将来的に深紅とは結婚したいと考えているし、深藍も高校を卒業したら一緒に住む事になってはいるが、いくら何でも気が早すぎる。
まあ、小春も兄弟姉妹が居なかったから、こうして姉と慕ってくれることは悪い気はしないのだが。それはそれ。
「寒かったでしょ? もう、来るなら事前に連絡してくれればよかったのに」
「ううん。来ようと思ったのはほんと直前だったから。夕方からはパーティだし、夜はお邪魔しちゃ悪いと思って」
深藍の来ていたコートを深紅が預かり、風でぼさぼさになっている頭を手櫛で整えてあげていると、深藍はにへらっと笑みをこぼした。
北海道産まれであり、年に数度は更に寒いアイスランドへと帰省している彼女たち姉妹だが、東京の冬についても「寒いものは寒い」と零していたから風邪を引いてしまわないか心配だった。
「今日はこれを渡しに来たんです。改めて、ハッピーバースデー!」
深藍は肩から下げていたバッグから薄水色にラッピングされた小包を取り出して、どうぞ、と両手で差し出してきた。
「わぁ、ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ!」
許可を貰ったので、丁寧に包装を剥がして中を確認する。
中から現れたのは、正方形の小洒落たケース。入っていたのは……。
「え、腕時計!?」
予想していなかったプレゼントの中身に、思わず声を上げてしまう。
盤には数字は刻まれておらず、ミニマルで上品なデザイン。特徴的なのは、時計のベルトが一箱に三本入っている事だろうか。
シルバー、ブラウンレザー、藍色のストラップと三種類。
「え、これ高かったんじゃぁ……」
小春は時計のブランドに詳しくない為、盤に刻まれているブランド名がどれほどの物かは残念ながら判別つかないが、一目見ただけで安物ではない事が分かる。
誕生日プレゼントで貰ったものだし、値段を聞くのは失礼だが、果たしてまだ中学生である彼女が買えるものなのだろうか……と少し心配になってしまう。
「あはは。大丈夫です。出資者は私だけじゃないので」
「出資者?」
「はい。お父さんとお母さんが、お姉ちゃんがいつもお世話になってるからって半分出してくれたのと、あと……」
深藍はくすりと笑うと、深紅を指さした。
「私、配信で結構稼いでるんです。主にお姉ちゃんからの投げ銭とかで」
「うっ……」
深藍はVR空間で生配信を行っている。収益化も出来る様になっており、中堅配信者ではあるがそこそこの収入があるという。
そして、その配信を深紅は頻繁に視聴しており(最近は小春も時間が合えば見ているが)、投げ銭――配信者に貢ぐ事をしていた。それが切っ掛けで、深藍は深紅への恋心を自覚したのだが……。
「小春さんお洒落だから、腕時計とかの小物で服に合わせやすいようにベルトを交換できるのがいいかなと思いまして」
「うん……ありがとう。大切にするね」
小春は早速、今着ている私服に合わせる為に藍色のストラップにベルトを交換し、左手に巻いてみた。
シンプルなカジュアルウォッチだが、ベルトによって雰囲気ががらりと変わる為たしかに様々なファッションでワンポイントとして使えるかもしれない。
「お姉ちゃん達は夕方まで何するつもりでしたか?」
「えっと、特には考えてなかったよ。いっそALOにログインしちゃおうかなとは考えてたけど」
「うぅーん。深藍も来たし、せっかくならゲームする? 前にやったやつ途中だったし」
「やるー!」
深紅の提案で、夕方までは三人でゲームをすることになった。
一つの画面を分割して、わいわいとはしゃぎながらゲームをプレイする。
「よいしょ……っと。ここ、もうちょっとで開くよー」
「はーい。あれ? 深紅どこに言ったの?」
「ここだよー」
「うわあああなんかお姉ちゃんがすごいとこ登ってる! また邪道ルート開拓してる!!」
少女三人、寄って集まれば姦しい。
そのまま三人はまるで家族のように、肩を寄せ合い仲良くゲームを遊び時間を潰すのであった。
◇
夜。
友人が開いてくれた誕生日パーティも終わり、自宅に戻った二人。
エギルの店で開かれたパーティでは食事も振舞われ、入浴を済ませて後は寝るだけの状態。
寝巻に着替え、リビングでハーブティを飲みながら二人は談笑をしていた。
「いっぱいプレゼント貰ったね」
「そうだね。皆、プレゼントは良いって言ったのに……」
「それだけ、小春の誕生日をお祝いしたかったんだよ」
にへー、と笑みを零す深紅を横目に、貰ったプレゼントの品々を仕分けする。
食べ物や飲み物等は早めに消費しなければ。今冷蔵庫の中にある食材の数々を脳内でリストアップし、消費期限順にソートしてから献立を組み立てる。
どうやらここ数日は食料の買い出しは必要なさそうだ。
「えっとね、小春。その……」
「うん?」
考え込んでいた小春だが、深紅はちょっと待っててと寝室へと引っ込んだ。
ほどなくして、何かを手にして戻ってきた。
「ごめんね。渡すタイミング逃しちゃって……遅くなっちゃった」
「????」
何を言ってるのか分からないと首を傾げれば、深紅も「あれ?」と同じく疑問符を浮かべた。
「あの、その、誕生日プレゼントなんだけど……」
「あれ? でももう貰ってるよ?」
「え?」
「え?」
「……何渡したっけ」
「渡したというか……『今日一日深紅を好きにしていい』って深紅自身がプレゼント……」
「違うって言ったけど!?」
ずざざ、と椅子ごと体を引いて距離をとった深紅。それを見て、小春は口を開けて笑った。
「嘘。冗談だよ。……深紅が何か用意してるのは分かってたけど、他の人が居る時は恥ずかしいのかなって」
「え、バレてたの」
「一緒に暮らしてるんだもの。流石に分かります」
深紅がこそこそと何かを準備しているのは気づいていた。それが恐らく自分の誕生日プレゼントだろうという事に気づいたのはつい最近だが、小春はそれを楽しみにしながらも待つことにしたのだ。
「もう……。じゃあ、これ。誕生日おめでとう」
「ありがとう、深紅。……開けてもいい?」
「うん」
渡されたのは、小さな包み。
薄緑色のラッピングに、ピンクのリボンが巻かれていた。
壊れ物を扱うように、慎重に包みを開き……そして言葉を失った。
「え、これって……」
箱はかなり小さかった。
小春の手のひらにすっぽりと収まるそれは、リングケース――指輪を収納する箱。
中に入っていたのは、箱に見合う程の小さな小さな円環。
シンプルなデザインの、ピンクゴールドの指輪だった。
「指輪……あ、ピンキーリング?」
「正解。バイト先の店長が、知り合いのアクセサリーショップを教えてくれたんだ」
深紅は立ち上がり小春の傍まで寄ると、ケースから指輪を取り出し、小春の左の小指に通した。
指輪はオーダーメイド品のように、ぴったりと小春の指に吸い付いた。
「実はお揃いで買ったの」
ふにゃりと表情を崩した深紅が、自身の左の小指を見せた。
そこには、小春が着けてもらったものと同じものがはめられていた。
「深紅……ありがとう」
とくん、とくん、と胸の熱さが鼓動と共に全身に運ばれていく。
体の奥底から湧き上がる喜びの感情が、小春を衝動的に動かし深紅を抱きしめさせた。
「ね、深紅。プレゼント……もういっこ貰ってもいい……?」
「うん……。いいよ……」
小春は深紅の手を引き、共に寝室へと戻っていった。
十八の夜は、まだまだ続く。