水色の髪の女の子が落ち着いたところでひとまずキリトをロッカールームから叩き出し、ようやく戦闘服に着替えようとメニューから装備フィギュアを開き、一括解除ボタンをタップした。
淡いライトエフェクトと共に、初期装備だったのだろう詰襟の学生服めいた長袖シャツと同色のズボンが消え、私は下着姿になった。
改めてみると手ぇ細いなぁ……。これで近接格闘挑んで本当に平気だろうかという疑念に駆られながらも購入したばかりの《コート・オブ・サンシャイン》を装備する。再び光が瞬いて、実体化した紅のコートの裾がばさりと揺れた。
部屋内にあった全身鏡で、違和感がないかチェック。なんだか頭が少し寂しいと思い、メニュー欄からアバターカスタマイズの項目を選び、これも初期から使用できるであろう大きな赤色のリボンを髪留めとして後頭部に装着した。うん、こんなもので良いだろう。
コハルやアスナ、深藍にゲームでも現実でも着せ替え人形にさせられて私も少しくらいは身だしなみを気にしようという自覚は出てきたのだ。といってもまだまだお洒落には疎いのでヘアアクセサリーに拘るくらいでしかないのだけれども。
「着替え終わった?」
側で同じく装備を変更していた女の子から声がかかり、「ばっちり」と笑顔で返す。
「中々似合ってるじゃない、アリス」
「どーもありがと。そっちも――」
言いかけて、そういえばこの子の名前を聞いていなかったことを思い出す。女の子も同じ事に思い至ったのか「ああ」と言いながら慣れた手つきでネームカードを実体化させた。
差し出されたそれを受け取って見ると、そこにはローマ字でShinonと表記されていた。性別は勿論Female。
「シノン……さん? であってる?」
「そうよ。それに呼び捨てでいいわ」
女の子――シノンはそう言って柔らかく微笑んだ。
彼女の戦闘服はデザート系……赤みのあるサンドカラーのミリタリージャケットに、その上から同系色の耐弾アーマーと街中でも装備していたサンドカラーのマフラーを纏っている。統一感のあるその装備は随分と様になっていて、まさしくこの世界における戦闘服といった出で立ちだ。
「思わず向こうの装備と似てたのがあったからこれにしちゃったけど、ミリタリー系の装備もいいね。シノンかっこいいからとっても似合ってる」
「あら、どうも。コート系も意外と人気があるのよ? 私には似合わないと思って手を出してないけれど」
シノンも女の子らしくファッションに興味があるのかそんなことを教えてくれた。
見た目というのは、戦闘において勝敗を左右する大きなファクターとなりうる。例えば威圧感のある装備だったり、純粋に恰好いい装備だったり。VRMMOのPvPにおいて視覚情報は戦闘時の思考の大部分を占めるわけで、それを操作することで相手の手の内を読んだり誘導したりも出来る。
また、装備がそのままプレイヤーを象徴するものになるのも良くある事だ。キリトなら黒い装備ばっかだから《黒の剣士》だし、私も紅い装備ばっかりだったからSAOでは《紅の戦姫》、ALOでは《紅の小悪魔》とか呼ばれていると聞いた。小悪魔の『小』の部分にちょっとばかし文句を言いたくなるけど、それを外してしまうと紅の悪魔というおどろおどろしい二つ名になってしまうのでなんとも言えない。まあ何とか言ったところで一度広まってしまったあだ名は簡単には無くならないのだけれど。
ちなみに、見た目で相手の思考を誘導だの推測だのと言ったものの、私やキリトが紅や黒を着ているのは完全に趣味だ。
話が逸れた。
お互いに名乗った事でシノンとの距離感が少し縮まった様な気がする。比較的和やかにとりとめの無い話をしながらロッカールームを後にすると、居心地悪そうに壁に寄りかかっていたキリトが私達に気づき、ほっと安堵の表情を浮かべこちらに寄ってきた。
「やっと来たか。なんかすげえ見られるしひそひそ話されるしで居心地悪いったらもう……」
「ごめんって。まあ、今のキリトはぱっと見美少女だからね。ナンパされなかっただけマシじゃない?」
けらけらと笑うとキリトはよっぽどいたたまれない思いをしたのかそそくさと私達の輪の中に入ってきた。
あいもかわらずキリトは黒一色の装備で、それを指摘すると「お前も似たようなものだろ」と返された。それもそうだ。
「えぇっと……キリト、さん? 名前だけ聞いておいて名乗って無かったわよね。アリスにはもう教えたけど、私の名前はシノンよ。改めてよろしく」
「おお、そういえば。別に呼び捨てでいいよ、俺もそうさせてもらうし。よろしく、シノン」
シノンが差し出した手をキリトは握り返し、笑った。
死銃と接触するという目的はまだ果たせていないが、折角こうして知り合ったのだからそれを果たした後にはいお終いと辞めるのではなくコハルやアスナ、深藍やスグちゃんも連れて来て一緒に遊ぶのもいいかもしれないなと、そんな事を思った。
「じゃあ時間もないし手短に残りを説明するわね。あそこのカウントダウンが零になったら予選の対戦相手と一対一のフィールドに転送されるわ。広さは一キロ四方のスクエア型で、地形タイプや天候はランダム。相手との距離が五百メートル以上離れた状態からスタートよ」
シノンの説明に、キリトとふむふむと頷きながら内容を頭に叩き込む。随分対戦相手との距離が離れているのはこれが銃での戦闘だからか。なんにせよ、相手を見つけて距離を詰めるのに苦労しそうだ。
「勝てばまたこの場所に転送されて、負ければ一階フロアに転送されるわ。PKと違って死んでも武装のランダムドロップはないから安心して。勝ったとして、次の対戦相手の試合が終わっていれば即転送。まだなら終わるまでここで待機。このフロアのモニターで他のプレイヤーの試合が見れるからそれを見て対策しておくといいと思う。大体五回か、多くても六回勝てば決勝進出で本戦にも参加できる――以上、何か質問は?」
「特にないかな」
「俺もだ。分かりやすかったよ」
丁寧かつ分かりやすい説明で大体の流れは把握できた。後はただ、勝つだけだ。
さて、残り時間はあと五分以上も残っている。何か話そうかと口を開きかけたとき、こちらへ向かってくる足音に気づいた。
「やあ、遅かったね、シノン。遅刻するんじゃないかと思ってひやひやしたよ」
そうシノンに話しかけたのは、細身で背の高い、鋭利な雰囲気の男性プレイヤーだった。私の髪の色よりも幾分かくすんだ銀灰色の髪を額に垂らした男は鋭そうな印象の顔立ちに柔らかな少年のような笑みを浮かべている。
もしかして、シノンの知り合いだろうか。声を掛けられたシノンも口元に微笑を浮かべながら応じる。
「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事があってね……あれ? 今回は出場しないって言ってなかった?」
「いやあ、迷惑かと思ったんだけど君を応援に来たんだ。この場所なら大きなモニターで試合を観れるからね。ところで、予想外の用事って?」
「この人達に色々案内してたのよ」
シノンが私とキリトの二人に視線を向けると、初めて気づいたという風にシュピーゲルと呼ばれた男はこちらを見て驚いていた。
「どうも、シノンにはお世話になりました。アリスです」
「同じく、キリトだ」
よろしく、といって二人で手を差し出すとシュピーゲルは「ああ、どうも……」と呆気に取られた様子で順番に握手を交わしてくれた。
「はじめまして、シュピーゲルです。えっと……シノンのお友達さん……ですか?」
シュピーゲルは鋭利な印象のアバターのわりに、ずいぶんと礼儀正しそうな人物だった。
「ううん、シノンとはこのゲームで初めて会ったんだ。道に迷ってた私達を親切に案内してくれたの」
「武器選びも相談に乗ってくれたしな。……ああそうだ、こんなアバターだけど一応男だよ、俺」
「え、えぇっ……男……?」
やはりキリトのアバターを見て男と理解するのは難しいらしく、シュピーゲルは目を白黒とさせていた。
しばらく私とキリトを困惑した表情で交互に見ていたが、やがて何か結論に至ったのかぽんと手を叩いた。
「ああ、カップルで参加ですか」
「「いや、違うから」」
その口から飛び出たとんでもない結論に、キリトと二人声を揃えて否定した。
私にはコハルがいるし、キリトにはアスナがいる。それが無かったとしてもキリトは異性として意識するよりも気の知れた年上の友人というポジションに落ち着いてしまっているのだ。
「なんだ、違うんだ。……でも良かったよ。シノンにもこのゲームで友人が出来て」
「ちょっと、人を寂しい人みたいに言わないでよ」
「だって僕と居ないときはいつも一人で居るじゃあないか」
「そっ、それはそうだけど……これでも一応スコードロンには所属してるんだからね」
息の合った様子で会話を繰り広げる二人に、今度は私とキリトがぽかんとした。
私達がそう見えるなら、シノン達も十分にそう見えるよね。なんだかシノンもシュピーゲルもお互い心を許しあってるような雰囲気だし。
「二人とも、仲いいんだね」
私が端的にそう言うと、シュピーゲルはにこやかに、対してシノンは少し顔を赤くしながらも頷いた。
「うん、シノンをこれに誘ったのは僕だしね」
「シュピーゲル、あんまり向こうの話は……」
「大丈夫、分かってるよ」
ああ、リアルでも知り合い……というか友人同士だったんだ。そして二人の表情の変化から何となく事情を察した。
これはちょっとからかってやろうと悪戯心に口を開きかけたとき、ドーム内に流れていたメタル系のBGMがフェードアウトし、荒々しいギターサウンドと共に大音量で甘い印象の女性の合成音声が響き渡った。
『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第三回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウンの終了後に予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。皆様の幸運をお祈りします』
フロア中に盛大な拍手と歓声が沸き起こった。周囲では興奮してかアサルトライフルやらレーザーやらが花火のように打ち上げられ天井を彩っている。
喧騒の中、シノン、私、キリトの三人は目を合わせ頷きあった。
「さて、二人とも絶対決勝まで来なさいよ。途中で負けたら承知しないわ」
「もちろん、やるからには勝つよ」
「お互い、頑張ろうぜ」
三人、突き出した拳をごちんとぶつけ合った。その様子をそばで見ていたシュピーゲルは人の良さそうな笑みを浮かべ、言った。
「皆、頑張って!」
瞬間、私の身体を青い光が包み込み、視界を覆いつくした。
◇
一度フィールド情報と対戦相手の名前を確認するためのインターバルが挟まれた後に再び転送されたのは、コンクリの廃屋建ち並ぶ廃墟ステージだった。
視界は不明瞭。さらに隠れる場所も多くこそこそするのにはよさげなステージだが、生憎と私の戦闘スタイルは超接近戦なので不利な環境だ。
さて、シノンに教えられたとおりだと私と対戦相手――《ころたん》の間には最低でも五百メートル以上の距離がある事になる。まずはころたんがどこにいるかを見つけなければと私は廃屋に隠れるようにゆっくりと移動を開始した。
というか、ころたんって。初めて対戦相手の名前を見たときに膝から崩れ落ちそうになったよ。硬派な雰囲気のこのゲームに似合わなさ過ぎるアバター名だ。
まあ、趣味は人それぞれだし、SAOでも《北海いくら》だの《みゆりん》だののゆるいアバター名は存在した。確か死銃事件の被害者の一人も《薄塩たらこ》って名前だったっけ……。北海いくらの親戚か何かだろうか。
そんな事を考えながら廃屋から廃屋へと身を隠しつつ移動を続ける。足音は最小限に。気配を殺して。
ぴりっと、首筋に静電気が走るような感覚がした。
感じると同時に身体を伏せる。
伏せたコンマ数秒後に、私の頭があった場所を何かが高速で通り過ぎ、背後の地面に穴を穿った。
――スナイパー!?
発射音も何も聞こえなかった! ということは、相手は隠密行動に長けたプレイヤーということになる。
一息吐く暇もなく、赤い線が私の胸を貫いた。
横っ飛びで回避する。次の瞬間には弾丸が風切り音を上げながら線に沿うようにして飛来し地面に着弾。
続けざま、三射、四射と弾丸が次々と襲い掛かってきた。
「うわわわっ……」
たまらず射線から逃れるように背後の廃屋の中に飛び込んだ。
「剣での戦いと違いすぎるなぁ、もう!」
思わず舌打ちをしたくなる思いだ。
このまま隠れ続けるわけにも行かないから、どうにかして反撃しなきゃ……。
どくんどくんと早鐘を打つ心臓を落ち着けるようにふぅーっと大きく息を吐いた。
さて、どう攻めよう。
フィールドは道路の両脇が私の背より高い塀に囲まれており、AGIの高さを活かせるほど開けているわけではない。かといってガントレットや防具ではスナイパーライフルの銃弾を防げるとは思えない。
そういえば、最初に撃たれた時弾道予測線が見えなかった。その後は普通に見えていたから……もしかしたら、スナイパーライフルは最初の一射は弾道予測線が表示されないのだろうか。
だとしたら、厄介だなぁ……。
ともあれ、やる事は変わらない。
どうにかして近づいて、殴り倒す。それだけだ。
「よしっ……」
私は廃屋から飛び出し、道路へと身体を晒すと目を閉じた。
家々の間を吹く風の音を意識から排除し、全神経を集中する。
眉間にまた、ぴりっとした静電気のような感覚。
素早く屈むと、コンマ数秒もせずに頭上を弾丸が通り過ぎていった。
――そこか!
弾丸が地面に着弾するよりも早く、飛んできた方向へと向き直り思いっきり地面を蹴った。
ひび割れた道路のコンクリートを砕かん勢いで飛び出した私は、続けて放たれた二射目を弾道予測線が表示された瞬間に身体を捩る事で避け、走り続ける。
今度は弾道予測線がどこから延びているのかが正確に把握できた。
目の前、百メートルほど先にある三階建てのコンクリビルらしき建物。その二階部分の窓から線は延びていた。
三射目、胴体に向けて伸びた線を、スライディングして掻い潜る。
立ち上がりざま、懐からハンドグレネードを取り出し、ピンを口に咥え引き抜いた。
入らなくてもいい、近くで爆発してくれれば――
走りながら、大きく振りかぶり、投擲する。
イメージは投剣スキル基本技《シングル・シュート》
びゅんっと勢いよく投げられたグレネードは、勢いそのまま目標の窓へと吸い込まれていった。
「やった! ストライク!」
内心ガッツポーズを上げ、そのままビルへと駆け出す。彼我の距離はもう五十メートルもない。
二階の窓から何かが飛び出してきた。
それは人の形を取っており、このフィールドに存在する人物は私と、対戦相手のころたんのみ。
「みぃつけたっ!」
きっと私は笑っていたと思う。口の端が自然と持ち上がるのを感じながら、飛び降りてきたころたんと視線が合った。
「くそっ!」
着地したころたんと思わしきプレイヤーは悪態を吐くと持っていた長大な銃――恐らくスナイパーライフルだろう――を投げ捨て、腰から小型の銃。おそらくサブマシンガンを取り出し構えた。
途端、私の身体とその周囲を数十本の線が貫いた。
「っと!」
私は地面を思い切り蹴り、前方斜め横方向へと跳んだ。
カタタタタッという軽い発砲音と共に、一瞬前まで私の居た場所を銃弾が通過していく。
銃弾の軌跡を横目で確認しながら、私は塀に両足を着地させ、再び跳躍。
着地したのはころたんの目の前。驚愕に見開かれたころたんの目と視線が交錯した。
ありったけの力で地面を蹴り、左足のつま先でころたんの顎をかち上げた。
体術スキル――《弧月》
もちろんGGOにソードスキルなど存在するはずが無く、ただのイメージだ。だが記憶の通りに身体は動き、高速のサマーソルトがころたんの細い身体を二メートルほど浮かせた。
追撃の手は緩めない。
体術スキル――《閃打・空掌》
落下してきたころたんの腹部に、めりぃと私の両拳が突き刺さった。
勢いよく吹き飛ばされたころたんはコンクリの壁を突き破りビルの中へ。
更に追撃をしようと駆け出した私の目前にウヴンと文字列が浮かんだ。
それは、機械じみたフォントでコングラチュレーションと書かれていた――
◇
「ふぅ、なんとかなった……かな」
とりあえず初戦を突破することが出来、安堵のため息を漏らした。
視界を青い光がつつみこむと、びゅうびゅうと吹く風の音が徐々に遠ざかり、徐々に喧騒の音が近づいてきた。勝ったため、私は待機エリアへと再び戻されたようだ。
さてキリト達は戻っているかなと視線を巡らせると、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる人影が見えた。
「アリスさん、お疲れ様!」
近づいてきたのはシュピーゲルだった。片手を上げて応じると、彼は嬉しそうに頬を緩めた。
「いやぁ凄い戦いだった! シノンを観戦しようとしたら君が彼女よりも先に交戦したからモニターに映ってね、応援してたんだ。ほんと、すごかった! まさか近接格闘だけで勝ってしまうなんて!」
興奮したようにまくしたてるシュピーゲルに苦笑しながらも天頂部のモニターに目を向けると、大小様々に画面が分割され幾つもの戦場が映し出されていた。軽く目を通した限りだと、キリトとシノンの試合はまだ映っていないようだ。
視線を戻すと、シュピーゲルはなにやら考え込むように顎に手をあてていた。やがて、閃いたかのように口を開く。
「それにしても、紅いコートにアリスという名前。それにとてつもない強さ。ねえアリスさん、もしかして――」
ぎくり、とした。
《SAO事件記録全集》という本が出版されたことにより、私のアリスというアバター名と紅いコートという見た目は世間に広まっていた。
もしかして、バレちゃったと焦る私を他所に、シュピーゲルは言葉を続ける。
「《紅の英雄》のファンなのかい!?」
「……え?」
予想だにしなかった答えに、私は一瞬呆然としてしまった。
ふぁ、ファン?
そんな私の様子を知ってか知らずか、シュピーゲルは機関銃のように口早に話を続ける。
「憧れる気持ちは分かるよ! あのデスゲームを解放に導いた英雄で、困っている人々に手を差し伸べ続けてきたまさに正義のヒーロー! 君がもし、もっと小柄ならそっくりだったと思う!」
「あ、あはは……」
まさか本人ですとは言えず、愛想笑いをするしかなかった。
アバターが全くの別人で良かった!
とはいえ、自分の事――かなり誇張表現されているとはいえ――を褒めちぎられ頬が少し紅潮していくのを感じた。
シュピーゲルは今度はずいっと顔を近づけてきたかと思うと、ひそひそと囁くようにして言った。
「君、随分と移動速度が速かったし、グレネードの投擲も正確だったけど、もしかしてAGI特化型かい? 僕もそうなんだ。ゼクシードのやつがAGI最強とか唱えておきながら裏切ったせいでいまこのゲームではAGI特化型は冷遇されててね……前回優勝者の闇風さんぐらいしかまともに戦えるやつがいないって噂されてる」
「……AGI特化型も、悪くないんだけどね」
自分の戦闘タイプに関する事だからか、気を使って声を落としてくれたシュピーゲルにあわせ私も声を潜めて応えた。
「だから君が証明してくれ。本戦に出場して、AGI特化型こそが最強だと。……シノンと、あとキリトさんも。三人とも、応援してるよ」
こちらを凝視するシュピーゲルの視線に何か執念のような、怨念のような何かが見えたような気がして思わず気圧されそうになる。一体何が彼を駆り立てているのだろう。
その理由を探ろうと、じぃっと彼の目をみつめると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。心なしか、頬が赤い気がする。
「えっと……今、君の事が結構話題になってるんだ。物凄い美人なプレイヤーが、とんでもなく強いって。もう二つ名までついてるんだよ。君の特徴的な髪色と装備から《紅銀の戦姫》……ってね」
もう二つ名ついたの!?
いつのまにかついていた二つ名に、私は思わず叫びそうになるのを堪えるのにかなりの労力を要した。
光の早さで付けられた私の二つ名は、何の偶然か、何の因果か。かつてSAOで呼ばれていた二つ名と酷似していた――
・シノンについて
キリトがラッキースケベをしなかったことで態度が随分と柔和になっています。また、後述の理由から原作よりシュピーゲル=新川くんとの距離も近いです。この作品での新川くんの告白への返事は「少し考える時間を頂戴」
・シュピーゲルについて
SAO事件全記録集発売の影響で、新川君の憧れる『正義のヒーロー』像がシノンだけでなくアリスに対しても向けられたため原作よりも病的な部分が薄いです。その為シノンとの中は良好です。