SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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かなりお待たせして申し訳ありません

GGO編の最新話になります。


紅銀の戦姫 2

◇Side アリス

 

 

 

 衝撃の二つ名発覚から十数分後、第二試合。

 選ばれたフィールドは高架道。ひび割れた道路がどこまでも真っ直ぐに伸びており、ところどころに廃棄車両や輸送ヘリなどの遮蔽物が放置されている以外は何も無いステージだ。

 血の様な真っ赤な夕陽が照らし出す、寂寥感ある荒廃したフィールドでわたしは車両の一つに身を隠し、大きなため息をついていた。

 

「ど、どうしよう……」

 

 ここに来て、わたしは自分の用意していた作戦の『近づいて殴る』というシンプルな事が非常に難しいということを痛感していた。

 

 対戦相手の《Kagerou》――そのまま読むとすれば、カゲロウだろうか――というプレイヤーはサブマシンガン二丁装備の身軽なプレイヤーだ。

 試合開始から一分も経たないうちに敵とコンタクトし、一戦目と同じく距離を詰めようと前傾姿勢を取った瞬間――まるで横殴りに叩きつけられる、暴風雨のような弾道予測線の雨がわたしとその周囲を貫いた。

 思わず悲鳴を上げながらも全力で横っ飛び回避を試みた結果、数発の弾丸が脚甲に当たり弾かれたのみで生存することが出来た。

 

 生き延びることが出来たはいいものの……それから先どうすればいいのか分からない。

 近づくためにはあの暴風雨を掻い潜らなければならず、遮蔽物はあるが横に広くないステージの為足を使って振り切ることは難しい。遮蔽物があるため、隠れながら進んだところで向こうも同じく遮蔽物を駆使しながら距離を取ってくるだろう。

 遠距離から射撃戦に持ち込もうにも、こちらの得物はハンドガン一丁のみ。更に言えばわたしは銃を使ったことなんて全く無い為そもそも勝負にすらならないだろう。

 

 わたしが勝つには、なんとかして近づかなければならないのだけれど……いっそ、キリトの持っていた光剣を買っていれば弾道予測線があるのだから切り落としながら進めたのに……。

 

 ん? 切り落とす?

 

 わたしは自分の手を覆う手甲と脚甲に目を落とした。

 

 そういえばこのガントレットは近接格闘ボーナスだけじゃなくて銃弾も弾けるとか書いてなかっただろうか? そして先程、脚甲部に弾が当たっていたはずだがダメージは受けていないようだった。

 

 これは使えるかな? けど、あの銃弾の雨の中、自分に当たる弾だけ正確に弾きながら前に進み続けるなんて芸当、果たして出来るかどうか……。

 

 ふと、こちらに近づいてくる足音が耳に入った。

 

 悠長に考えてる時間はない。どのみち、これからも勝ち進んでいくには銃撃をなんとかしなければならないんだ。

 

「――よし」

 

 覚悟を決めろ。

 

 一度、大きく息を吸い込んで――わたしは車両の影から踊り出た。

 

 対戦相手のカゲロウと眼が合った。まさか突然飛び出してきて、あまつさえこちらへ特攻をしかけてくるとは思わなかったのだろう、目や口はゴーグルとマスクに覆われている為表情が読めないが、一瞬強張ったアバターの反応から見て取れる。

 硬直時間は一秒にも満たないごく短いものだったが、その一瞬でわたしは彼我の距離約五十メートルの内十メートル程度を跳ぶように走り抜けていた。

 

 《Kagerou》が両手に持ったサブマシンガン二丁の銃口ををぴたりとわたしに向け、その瞬間無数の赤い線がわたしに向かって伸びてきた。

 

 その数およそ六十と少し。わたしの身体――手足の末端に当たるものは無視するとして、胴体と頭に向かって伸びているものは十数本。

 

 こうして見て見ると、弾道予測線は全てが同時に現われるわけではなく、僅かではあるが差があった。その差はそのまま、銃口から放たれる弾丸の順番になるのだろう。

 

 時間が引き延ばされるような思考のアクセル感の中、逃げたくなる気持ちをぐっと押さえつけ、前を見据える。

 

 一、二、三――身体に当たる弾を全て弾くには、五回。腕と脚を振るう必要がありそうだ。

 

 カゲロウの持つサブマシンガンの銃口からオレンジの火花――マズルフラッシュがパッと瞬いた。

 

 一度目、右拳を右斜め上から左下へと振り下ろす。痺れる様な衝撃が走るが、HPは僅かしか減っていない。

 

 二度目、剣を切り返すように、右拳をかち上げる。左脇腹から頭にかけての三発を纏めて弾いた。

 

 三度目。左手を真横からフックの要領で振りぬく。

 

 四度目。勢いをそのままに身体を半回転させ、右脚でローリングソバットを繰り出す。

 

 そして五度目。左脚を叩きつけるように上から下へと振り下ろした。

 

 ――防ぎきった!

 

「はぁっ!?」

 

 全ての命中弾を殴りと蹴りで弾いたことに驚いたカゲロウが素っ頓狂な声を上げた。

 

 仕出かしたわたしも内心びっくりしてるのだ。やられたカゲロウからしてみればその驚きも一入だろう。

 

 だがそれでもカゲロウも《BoB》に参加し、一回戦を勝ち上がる程のプレイヤーだ。驚き固まったのも数秒程で、直ぐに立ち直り、慣れた手つきでサブマシンガンのマガジンを一瞬でリリースすると、二丁とも右手に持ち直し、左手で腰から新たなマガジンを二つ取り出すと手早くリロードを慣行しだした。

 

 だが。

 

「――遅いッ!」

 

 地を踏み砕く勢いで蹴り抜き、爆発的な加速で瞬時にカゲマルの目前まで肉薄したわたしは、スピードをそのまま威力に乗せた全力の拳を彼の腹部へと深々と突き刺した。

 

 メシィッと鈍い音と共にカゲロウのアバターがくの字に折れ、わたしが拳を振りぬくと同時猛烈な勢いで後方へとすっ飛んでいく。

 

 弾丸の様に彼方へと吹き飛んだカゲロウが、廃棄されていた観光バスに轟音と共に着弾した瞬間、わたしの目前に勝利を報せる機械的な文字列が浮かび上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あー……しんどかった。これが後三回かぁ……」

 

 二回戦終了後、再び待機ロビーへと戻されたわたしは壁にもたれ掛かり盛大にため息をついていた。

 先程の戦闘で、銃を拳と脚で弾けるということが分かったのはいいのだけれど、延びてくる弾道予測線を瞬時に見切り、手と足を寸分の狂いも無く素早く動かすという行程は酷く神経を使い、正直ルーレットよりも疲れた。

 とはいえ、やってやれないことは無さそうだったし、かなりのインパクトで相手の動揺を誘えるというのも利点だ。ロケットランチャーなどの爆発する銃やスナイパーライフルなどには通用しないだろうけど……その時はその時だ。

 

 それにしても、先程の対戦相手のカゲマル。彼の使用していた二丁持ちというのは使えるかもしれない。片手ずつ使えばリロードの隙を一度限り無くせるし、二丁同時に発砲すれば命中率の低さもある程度カバーできる。そしてなにより格好が良いのだ。

 まあ、そもそもわたしはハンドガンを一丁しかもっていないし、新しく買うためのお金も無い。もし今後手に入れることが出来れば、一考してみるのもいいかもしれないというくらいで留めておこう。

 

 ……さて、なんだかさっきから視線が刺さること刺さること。色んな人から遠巻きに見られているのが分かる。第一試合の段階で二つ名がつく程目立っていたところに、先の試合での大立ち回りが効いたのだろう。わたしは随分と他のプレイヤー達に注目されているようだった。

 体中に突き刺さる視線の気持ち悪さに目を瞑れば、いい傾向だと言える。わたしとキリトの目的は死銃と接触することであり、その為に強さをアピールしなければならないのだから。

 この視線の中に、死銃が居るのかもしれない。そう思うと少しだけ体が強張り、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

 その時

 

「お前、本物、か」

「ひゃあッ!?」

 

 不意に背後から声を掛けられ、全身を硬直させたまま飛び上がる。

 数歩距離を取りながら振り返れば、幽鬼のような見た目の人物。

 全身ボロボロのマントに、フードの奥の暗がりから覗く、仄かに揺らめく赤い光。SAO時代、六十五層頃に出てきたゴースト形モンスターのような外観は、つい反射的に殴りかかりそうになりそうな程不気味だった。

 それでもわたしが何とか踏みとどまれたのは、彼の人物がしっかりと両足で地面に立っていたからだった。ゴースト系モンスターは例外なく足を持たず、宙にゆらゆらと揺れているモンスターだったから、このボロマントの人物はプレイヤーアバターであると確信できたのだ。

 

「い、いきなり後ろから声を掛けるなんてマナーがなってないんじゃない?」

 

 今だバクバクと早鐘を打ち続ける心臓をなんとか宥めながら責める様な視線を向けるが、ボロマントは意に介せずといった風に再び問いかけて来た。

 

「試合を、見た。お前は、使ったな、体術スキル上位連撃技《閃連牙・月追》を。そして、その名前。お前は、本物、なのか」

「なっ……」

 

 わたしは動揺を隠せず、声を上げてしまった。その反応でボロマントは確信を得たらしく、更に続けた。

 

「やはり、本物、だったか。見た目は、ずいぶん、違うが」

 

 ――こいつは、わたしを知っている!

 

 わたしが使用する体術は、全てあの世界で使用していたスキルに基づいている。だから見る人が見れば、それが体術スキルの技であることは一発で分かるだろう。

 だが、この人物はそれだけでなくわたしの名前――アリスというアバター名も絡めて『本物か』と聞いてきた。それの意味するところは、こいつは元SAOプレイヤーであり、その世界でアリスを知っている人物だということ。

 既に確信を抱かれてしまっている為、言い逃れは不可能。わたしは開き直ることにした。

 

「……本物だったとしたら、なんだっていうの」

「お前が、本物なら、黒の剣士も、本物だろう」

 

 こいつは、一体どこまで知っているというのか。

 ボロマントの口ぶりから、既にキリトの正体にも勘付き始めていたのだろう。それをわたしの正体がSAOでのアリス本人だとバレたことで、キリトもSAOでの黒の剣士本人だということを推察されたようだった。

 ごめんキリトと心の中で小さく謝罪をする。

 

「あなた、何物? 残念だけど、わたしはあなたの事を覚えてないよ」

 

 先程から目の前の人物とどこかで会ったことがないか記憶を探っているが、それらしき人物の心当たりが全く無い。こんな不気味な雰囲気を持つ人物と知り合っていたら嫌でも印象に残りそうなものだろうけど……。

 だが、ボロマントは首を横に振った。

 

「そうだろう、俺と、お前は、話した事が、ない。だが、俺は、お前を、知っている」

「……話した事無い?」

 

 話した事が無くても、わたしを知っている。SAOではわたしの名前はそこそこ知られていたようだったから、名前を聞いたことがあるというのは分からない話しじゃない。

 だが、このボロマントはわたしが体術スキルを使用している姿を見てアリスその人だということ疑ったようだった。つまり、わたしの戦闘スタイルを知っていたということで、それを知りえる可能性があるのは攻略組のメンバーか、あるいは――

 

「これに、見覚えが、あるだろう」

 

 ボロマントは不意に右手首の包帯のようなグローブの一部を捲って見せた。

 血色の悪い、青白い肌になんらかの図柄が施されているのが視界に入った。

 

 その瞬間、わたしが悲鳴をあげなかったのはあまりの衝撃に思考が停止してしまったからだ。そうでなければ、アミュスフィアが脳波の異常を感知して強制的にログアウトされていたことだろう。

 

 西洋風の棺桶を模した六角形に、にたにたと笑う不気味な笑顔が貼り付けられている。そしてその脇には、招くような白骨の腕。

 

 殺人ギルド《笑う棺桶》のエンブレムだ。

 

 放心し、硬直したまま動かないわたしに、ボロマントはぐっと顔を近づけ、言った。

 

「剣を持たない、お前に、興味は、無い。だが、黒の剣士を、殺すのを、邪魔すれば――」

 

 ――お前も、殺す。

 

 吐き捨てるような警告を発した後、ボロマントはそのまま幽霊のように物音を立てず遠ざかっていった。

 わたしが意識を――停止した思考が戻ったのは、奴が忽然と姿を消した後だった。

 

「――ぶはぁッ、ハァッ、ハァッ……ゴホッ……ゲホッ……」

 

 思考と同時に息も止まっていたらしく、わたしは激しく咳き込みながら胸を掻き抱くように地面に膝を着いた。

 

 あれは、誰だ。なんでキリトを狙っている。

 その疑問は、稲妻のように脳裏を過ぎった一つの推測に変わった。

 

 あいつが――死銃?

 

 だとしたら、まずい。確証は無いが、もし仮にそうだった場合次のターゲットは――

 

「キリトッ……!」

 

 最悪の想像を掻き消すように頭を振り、視線を会場へと走らせる。

 

 キリトは――居ない。試合中かとモニターを見据えた時、わたしの身体を青い光の柱が包みこんだ。

 

「もう、こんな時に――!」

 

 焦る内心をあざ笑うかのように、わたしは第三戦のステージへと転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中に浮かぶ、六角形のパネルの前で黙考する。

 既に対戦相手の名前やフィールド名は思考の外だ。

 今考えるのは、死銃――恐らくあのボロマントの人物の凶行を止めることと、キリトにこの事を伝えること。

 

 それをするためには、どうすればいいか。

 

 もたもたしている時間は無い。一刻も早く、キリトに報せなければいけない。

 

 だから――

 

「全員最速で――倒す!」

 

 カチリ、と脳の奥でスイッチが入る音がした。

 




・体術スキルの名前
原作で出てきたもの以外は私が名前を付けていますが、一応殴打技は閃や牙、打という字を。脚技は月という字を含むようにしています。
なのでこの話でアリスが使った技は拳で三回、脚で二回の攻撃になるため閃連牙・月追という名前になってます。

・アリスの銃弾弾き
キリトが光剣で切り落とすと違い、スナイパーライフル等の銃弾は弾けないのと、僅かにですが削りダメージが入るという設定になってます。ただ、防御できる部分が光剣よりも少し広いため、剣よりも防ぎやすいという利点が。

そして次の話はまた閑話になりそうです
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