SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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SAOIFの20層をクリアしました。
14をクリアしたらいきなり20になったのは度肝を抜かれましたが、大人が大人として格好いい、いいシナリオでした。

ただ、あんなことがあったらコハルトラウマものだろうなぁっていうのもあり、今後が楽しみです。

あとサーニャ可愛い。ウーラー!


紅銀の戦姫 3

◇Side Another

 

 

 

 アリスの第三回戦の対戦相手は、名前を老鵡(ろうむ)と言う。

 リアルでは陸上自衛隊二等陸佐を定年である五十五歳まで勤めたあと任期満了で退職し、実家である新潟へと戻り悠々自適な生活を営んでいる。

 通信講座で整体師の資格を取得した後、自宅で整体院を開業しのんびりと余生を送っていたところに息子からプレゼントが贈られてきた。

 アミュスフィアと、ガンゲイル・オンラインのパッケージだ。

 ゲームが好きな息子が、暇を持て余している自分にと贈ってくれたゲームをロウムは喜んでプレイし、そしてのめり込んだ。

 豊富な銃器、カスタマイズ性の高いスキルやガジェット、そしてなにより、実際に自分の身体を動かしてプレイする銃撃戦。ひりつくような緊張感が、ロウムの眠りかけていたワクワクするという感情を呼び起こしたのだ。

 全盛期以上に動ける肉体と、数十年に渡る従軍経験からなる技量が合わさり、ゲームを始めたのは最近だが、ロウムは既にトッププレイヤーの一員として名を馳せていた。

 残念ながら第一回BoBが開催された時はまだゲームを始めて数日しか経っていなかったため参加することは叶わなかったが、今回満を持しての参戦となり、初参加ながら優勝候補として周囲の期待も高まっている。

 ロウム自身はそこまで血気盛んな性格ではなく、もはやそういった戦意は枯れたものだとすら思っていたほどだが、大きな大会で、かつ自分がそこを勝ち進んでいくだけの実力がある以上、どこまで自分がやれるのか試したい気持ちに駆られ、意気軒昂と試合に臨んでいた。

 

(アリス……といったか。聞いた所によると、《紅銀の戦姫》とか呼ばれておるらしいの……)

 

 待機時間が終わり、飛ばされたフィールドは《失われた古代寺院》。

 燃え盛る夕陽が世界を茜色に焼いており、それでも白さを失わない雲がちぎれちぎれに空に浮かんでいる。

 地面にはロウムの胸元程の高さのある枯れ草が多い茂っており、ロウムはひとまずその色褪せた草原へ身を隠しながら移動していた。

 待機時間中に装備は同色のギリースーツへと換装しており、また自身の立てる音を最小限に抑えるスキルを発動している為、高い隠密性能にモノを言わせてスルスルと移動していく。

 

 ロウムはアリスの試合を観戦したことは無い。だが、そこかしこで噂されているのを耳にしたし、ここまで勝ち進んで来ていることから一筋縄では行かない相手だろうというのは理解している。

 だが、その上でも自分が負けるとは欠片も思わなかった。

 事実、それだけの実力と経験がロウムにはあった。対戦相手であるアリスがどれほど強かろうと、所詮は小娘。自分の四分の一ほども生きていない小娘に後れを取るはずが無い。

 さらに言えば、アリスという少女は無手だという噂を聞いた。つまり、接近されなければどうということは無く、ロウムのスタイルは隠密に特化している。そして万が一接近されたところで、ロウムには十分以上に近接格闘戦に関する技量と経験があり、接近されたところであまり問題はない。むしろ投げ飛ばして、頭をサブウェポンのハンドガンで撃ち抜くことも可能だろう。

 

 試合開始から一分が経過した。

 

 ロウムはかつての神殿の名残だろう、風化し各所がひび割れた石造りの舞台の上にアリスを見つけた。

 そして一瞬、目を奪われる。

 ロウムがこれまでの人生で見てきた、どのような美女よりも美しい少女が、目を瞑り、空を焼く茜色の光に照らされていた。

 それはまるで、巫女が祈りを捧げる姿のようで、この世の物とは思えない、背筋が震えるような美しい光景だった。

 

(……っと、いかんいかん。思わず見惚れてしまったわい)

 

 ロウムはハッと意識を取り戻すと、油断無く愛用のアサルトライフル『Sylph TypeA』を握り直し、息を止めた。

 アリスは凡そ300メートルほど離れているが、この銃であれば余裕で射程圏内だ。

 何か策があるのか、それとも試合を放棄しているのか。なんにせよ、目を瞑ったまま動かないアリスは格好の的であり、頭を撃ち抜くことは容易いだろう。

 

 この時、ロウムは勘違いをしていた。

 アリスが目を閉じていたのは、試合を放棄しているわけではなく、聴覚以外の余計な情報をシャットダウンしていただけだったのだ。

 聴覚に全神経を研ぎ澄ませ、パターン化されているノイズの中から不規則な音源を探し出す。SAOにおいて攻略組と呼ばれるトッププレイヤー達が習得していた、システム外スキルだ。

 もし、ロウムがアリスを少女と見た目で侮り、何を企んでいようとどうとでも出来るとは思わず、その様子に不自然さを感じることが出来ていれば、結末は少し違った形になっていたかもしれない。

 

(あのような見目麗しい少女を撃ち抜くのはちいと気が引けるが――悪く思うてくれるなよ)

 

 ロウムは銃床を肩に当て固定すると、狙いをつけるため僅かに腰を浮かした。

 腰を浮かした時、揺れる枯草に膝が当たり僅かに物音が立ったが、丁度風が吹きぬけるタイミングだったことと、消音スキルを使用しているためアリスには気づかれない――筈だった。

 

 瞬間、伏せていたアリスの顔が勢いよくこちらを向いた。

 

 ロウムはギクリと身体の動きを止める。もしやバレたかと冷や汗を掻くが、そんなはずは無い。スキルも使っているのだ、気づかれるわけが無い。きっと偶然に違いない。

 

 だが、アリスは躊躇い無くこちらへと駆け出してきた。

 その足取りや表情に迷いは無く、完全にロウムに目掛けての疾走だった。

 

「ちぃッ!」

 

 ロウムは立ち上がり、瞬時に狙いを定めると一息にトリガーを引いた。

 

 弾道予測線の赤い光が伸びた次の瞬間には、カタタン! と軽快な音を立て三発の銃弾が発射される。

 

 放たれたアサルトライフル高速弾は、アリスの息の根を確実に止めるべく頭部へと吸い込まれていき――

 

 弾かれた。

 

 だがロウムは慌てなかった。弾かれたのは、アリスが装備している手甲のせいだと判断したからだ。

 

 ライフルの機関部にあるスイッチを弾き、三点バーストモードからフルオートへと切り替える。

 

(なるほどのぅ……よもや、あの手甲と脚甲を買っておるものがおるとは……)

 

 アリスの装備しているガントレットとグリーブ――《挑戦者の長手甲》と《挑戦者の脚甲》は店売りの高価な防具だ。近接格闘ボーナスと、小口径の銃弾であれば弾けるという優秀な性能を持っているが、その値段の高さとAGIの要求ステータスが高すぎること。そして銃弾を防げるとはいえ、狙って防ぐのは至難の技であり、進んで購入するプレイヤーは殆どいなかった。

 

 もしロウム以外のプレイヤーだったら、驚きから数秒動きを止めてしまっていたかもしれない。

 

(いかに銃弾を弾けるとはいえ、限度があるじゃろう……?)

 

 ロムは焦る事無く、再びトリガーを引いた。

 

 狙いは胴体。十発間隔で三度、計三十発もの弾丸が空間を切り裂きアリスへと殺到する。

 

 だが――

 

「なんじゃと!?」

 

 それも全て、叩き落される。

 

 拳で、脚で、舞うように。

 

 さすがのロウムも動揺を禁じえず、引き金を引く指が少し止まってしまった。

 

 その隙を逃さず、アリスは猛然と距離を詰めてくる。当初300メートルもあった間合いは、既に半分ほどまで削られていた。

 

「ちぃッ……」

 

 ロウムは僅かに感じた恐怖心を掻き消すように舌打ちすると、腰のポーチから閃光手榴弾を取り出し、ピンを抜き投げた。

 

 身体ごと顔を背け耳を塞いだ瞬間、背後で爆発が起きる。

 

 塞いでいるはずの耳ですら劈く、甲高い金属音と世界を塗りつぶす閃光。

 

 振り向くと、驚いたことにアリスはまだこちらへ駆ける脚を止めていなかったが、目は閉じられている。ひとまず、視界と聴覚は奪えたようだ。

 

「これで止めじゃ!」

 

 目と耳を潰されながらもこちらへと向かう度胸は買うが、それはロウムから見て蛮勇以外の何物でもなく只の自殺行為だった。

 

 再び三点バーストへと切り替え、頭部へ狙いを定める。

 

 冷や冷やとさせられる場面もあったが、これで終わりだとロウムは止めをトリガーを――

 

 その瞬間、身の毛のよだつ程の怖気がロウムを襲った。

 

 殺気だ。

 

 相手は丸腰の少女で、視覚も聴覚も働いていないはず。

 

 それなのに、飢えた猛獣に睨まれたかのような、絶望感を伴う濃密な殺気が少女から放たれている。

 

 思わず銃を取り落とさなかったのは、奇跡に近かった。

 

「おおおぉぉぉぉッ!!!」

 

 ロウムは吼えた。

 

 感じた恐怖を振り払うように、ロウムはがむしゃらに引き金を引き続けた。

 

 そしてその弾丸も、例に漏れず無慈悲に叩き落される。

 

 正確には、アリスの身体の中心部に当たる部分だけ弾かれているだけで、何発か掠っていたりはするのだが、雰囲気に呑まれたロウムにはその判断すら出来なくなっていた。

 

(なんなんじゃ! この娘は!?)

 

 先程までは、ありえなくも無い。弾道予測線に合わせて遮二無二振り回した拳や足の装甲部分が当たった偶然の結果かもしれないからだ。

 

 だが、今は視界と聴覚が塞がれているのだ。弾道予測線も見えなければそれ以前にロウムが狙いをつけていることや、薬莢内の火薬が破裂する銃声すら分からないはずなのだ。

 

 ありえない。

 

 この少女には、何も通用しないのでは――

 

 ロウムの手足から血の気が引いていき、恐怖にうすら寒さを感じ始めたその時。

 

 アリスの目が開いた。

 

 その目は無機質な血の色で、獲物を狙うハンターのように冷徹だ。

 

 獲物とは誰だ?

 

 それは紛れも無く、ロウムのことだった。

 

「ひッ……!」

 

 そう理解してしまった瞬間、ロウムの戦意は折れた。

 

 心が折れ、毛骨悄然としたロウムが取った行動は単純明快。

 

 敵に背を向け、脱兎の如く逃げ出したのだ。

 

 従軍時代であれば、厳罰ものの敵前逃亡。ロウムにそれを選択させたのは、アリスから放たれる、今までに受けたことの無いような威圧感のせいだ。

 

 このままでは殺される――

 

 ゲームの世界ではありえない筈の、大気が震える錯覚を覚える程の死の気配。その非日常感が、ロウムの頭から降参するという選択肢を奪っていた。

 

(何が《紅銀の戦姫》じゃ!! こんなもの、姫なんて可愛らしいもんじゃない――)

 

 ロウムは痛感する。アリスの持つ、怪物性を。

 

(こんなもの――戦鬼(オーガ)じゃないか……)

 

 直後、後頭部に強い衝撃を受け、ロウムは大きく吹き飛ばされる。

 

 HPバーが物凄い勢いで減少していき、勢いが止まる事無くレッドゾーンにまで落ちた。

 

 辛うじてHPは残ったものの、もはやロウムに戦闘を続行させる気力は残っていなかった。

 

「ば、化け物め……」

 

 ロウムがそう吐き捨てた直後、再び頭部を殴られるようなショックを感じ、ロウムの意識は途絶えた。

 

 

 

 戦闘時間二分十三秒。

 

 鬼神の如き強さで三回戦、そして四、五回戦と勝ち進んだアリス。

 

 その快進撃は、決勝戦にて彼女が試合開始直後に降参したことにより、予選二位通過という結果で終わった

 

 

 

◇Side アリス

 

 

 

 「キリト……! キリトは……!?」

 

 五回戦までのインターバルでは、キリトと会うことは出来なかった。

 その間、試合をしている姿を見ることは出来たけど……どうにも、追い詰められているように感じて不安はさらに募っていった。

 決勝戦を不戦敗で終わらせ、ロビー……ではなく、総督府一階にあるホールに飛ばされたわたしは、どこか責めるような視線の束を無視し備え付けてあるモニターを食い入るように見つめた。

 責めるような視線は、わたしが決勝戦を戦わずに棄権したからだろう。無我夢中で試合を勝ち進んでいったから周囲の反応を知る術は無かったが、わたしは一試合目から変な二つ名が付けられていたようにそこそこ期待されていたのかもしれない。それを決勝戦を戦わずに降参したのは、純粋に大会を楽しみに見ているプレイヤーからしては確かに面白くないはずだ。

 わたしだって、戦わずに負けるなんて屈辱、こんなときでもなければ絶対にやらない。けど今は何よりも、キリトに会って警告することが先決だった。……あの試合模様を見るに、もう既に接触された後なのかもしれない。でも何か、言葉をかけることぐらいは出来るはずだ。

 

 モニターでは各ブロックの試合模様が流れている。どうやら、わたしのいるEブロックが一番早く終わっただけらしく、まだ他のブロックは準決勝または決勝戦が行われているようだ。

 キリト達はFブロックのはず。ならば――

 

 見つけた。

 

 Fブロックは丁度決勝戦のようだ。対戦カードは……キリトと、シノン。

 

「二人とも、勝ってたんだ……」

 

 ひとまず、その事に安堵をする。

 これで三人揃って、本戦へとコマを進める事が出来た。

 でも……

 

「やっぱりキリト……様子が変だ」

 

 Fブロックの決勝は、わたしがカゲロウと戦った高架道のステージだ。

 シノンは素早く廃棄されていた観光バスの二階へと陣取り、狙撃体勢を取っている。……あの場所なら、殆どの遮蔽を見渡せる上にスコープの反射光もバスの窓がミラーコーティングされているようで気取られ難いはずだ。スナイパーにとって、絶好の狙撃スポットだろう。

 

 そしてキリトは……ただ無気力に、無防備に歩いていた。

 遮蔽物に身を隠すこともせず、俯きながら。

 あれではまるで、撃ってくださいとでも言っているようなものだ。

 

「……まさかキリト、戦うつもりが、ない?」

 

 決勝戦まで進めば、本戦出場のチケットは手に入るから、最悪負けても構わない。わたしも棄権したのだから、人の事をとやかくいう資格は無いのかもしれない。

 それでも、だ。

 

「それは、あんまりだよ……」

 

 わたし達はそれでいいかもしれない。けど、シノンはそうじゃない。純粋にこの大会で勝ち進むために、優勝する為に出場しているのだ。

 キリトは、自分で降参するでもなく、自決するでもなく、シノンに撃たれて負けようとしている。

 何故そんな行動にでたのかは分からないが、与えられたキルカウントなんて只虚しいだけだ。

 ゲーマーであるキリトなら、それが分からないはず無いのに、何故……。

 

 わたしが困惑している内に、状況は動いた。

 

 シノンが長大なスナイパーライフル――あれは、対戦車ライフルというのだったろうか――の引き金を引き、銃口から激しいマズルフラッシュが上がる。あれほどの銃だ。モニター越しであるから音声こそ拾えないが、あの場所では轟音が鳴り響いていることだろう。

 

 撃ち出された死神の弾丸は、キリトの右頬から五十センチほど離れた場所を切り裂き、その先にある乗用車に着弾、炎上させた。

 ……外した?

 今のキリトは絶好の的だったはず。なのに、シノンは第一射を外した。

 次いで放たれた弾丸も、その次も。計六発の弾丸はキリトに当たる事無く地面や廃車両を穿つのみだ。

 

「なんで……?」

 

 シノンが六射も外した理由が思い当たらず、首を傾げる。

 そうしている内に、さらにシノンは銃を両腕で抱くとそのままバスを飛び降り、キリトの元へと歩いていく。

 

 二人が対峙した。

 キリトは沈痛な表情で何故と問いかけるような視線を送り、シノンは怒りに満ちた表情をしている。

 何事かを話しているようだ。というより、シノンが何かを訴えている?

 

 ここで、ようやくシノンのこの行動に合点が行った。

 

 悔しかったんだ。彼女は。

 キリトの強さは、これまでの試合を見ていただろうし、あのミニゲームでの身のこなしからも推察できるはず。

 シノンは言っていた。『決勝で当たったら、予選だとしても手は抜かない』と。キリトもそれを受けて、全力で戦いましょうと応えていたはずだ。

 そしてやってきた決勝戦で、いざ当たってみれば相手は無気力に勝利を献上しようとしている。

 それは、怒るはずだった。わたしだって、きっとシノンの立場だったら怒っていることだろう。

 

 二人が何を話しているのかは分からない。けど、シノンの思いはキリトに届いたようだった。

 表情に、覇気が戻っている。いつもの、大胆不敵な黒の剣士の顔だ。

 

 更に何事かを話した後、キリトはおもむろに腰からハンドガンを取り出し弾を一つ取り出した。

 そのまま、二人で十メートル程距離を取り――向かい合い構えた。

 

 シノンはストックを肩に当て脚を開き、スコープを覗き込む射撃体勢を。

 キリトは左手に持った弾薬を指先ではさみ、右手には光剣を展開させた。

 二人が何をしようとしているのか全く分からなかったが、キリトが指先で弾を宙に弾いた瞬間に理解した。

 今、二人は決闘を行っているのだ。

 西部劇のガンマンさながら、ライフルと、光剣の一弾対一刃で。

 

「あは……なにそれ。二人とも、これは銃で戦うゲームなのに」

 

 わたしの誰に向けたでもない呟きに、どこからか『お前が言うな』というような視線を感じたがなんのことだか。

 

 宙に弾かれた弾薬が、地面に触れた、その刹那。

 

 シノンのライフルからオレンジ色の炎が迸った。

 

 同時に、稲妻のような青白い閃光がキリトの目前の空間を斜めに切り裂いた。

 

「……うっそぉ」

 

 キリトの背後で、二つの小さな光がキリトの後方で車両へと着弾し爆炎を上げる。

 

 斬ったのだ。

 

 十メートルという極至近距離で、必中であっただろうスナイパーライフルの銃弾を。

 

 なんという反応速度の速さ。そして剣捌きの精密さ。

 あれほどの剣技、わたしだったら出来るかどうか……。

 そのとんでもを成し遂げたキリトに、ただただ脱帽するばかりだ。

 

 モニターの向こうでは、キリトが倒れかけているシノンを支え、光剣を突きつけている。

 決着がついた。キリトの勝利だ。

 

 その状態のまま、二人は何事かを話し――シノンが大きく叫んだ。直後、画面は他のブロックの試合模様を映し出した。

 決勝戦が終わった……ということは、つまり。

 

「キリト! シノン!!」

 

 青い光と共に転送されてきた二人に駆け寄り、出迎える。

 

「よ、アリス。早かったな。もしかして負けたのか?」

「ううん、一応本戦には出場できるよ。……決勝は事情があって棄権したけど」

「事情?」

「それは後で話すよ。とりあえず、二人とも本戦出場おめでとう」

 

 わたしが二人に祝福の言葉を述べると、キリトは余裕綽々とした態度で、シノンは少し悔しさが滲んだ様な、それでも清々しさの残る微笑みで異口同音にありがとうと口にした。

 

「……お疲れのところ悪いんだけど……ちょっとキリトと二人で話したいんだ」

「俺も、お前に話がある。……シノン、さっきは悪かった。本戦では、今度こそ手加減無しでやろう」

 

 二人とも激しい戦いを勝ち抜いた後でいきなり連れ出すのは申し訳ないけれど、出来る事なら早いうちにキリトと情報交換をしたかった。

 わたしがそう告げると、キリトも話があるようで二つ返事で了承してくれた。

 そしてシノンは

 

「分かったわ。……ねえ、二人とも」

 

 と何かを言いかけたが

 

「いえ、なんでもない。全部が終わったら――BoBが終わった後、私も二人に聞きたい事があるの。……それじゃあ、また本戦で会いましょう」

 

 そう言って去って行った。

 聞きたい事ってなんだろう。

 わたしには思い当たる節がなにもないけれど、キリトはどうも心当たりがあるらしい。

 が、今それについていくら考えたところで詮無き話であるし、どうせ後で分かることだから気にしないでおこう。

 それよりも、だ。

 

「とりあえず、ここで話をするのはまずいな。……一度ログアウトしよう」

「うん」

 

 わたしとキリトには話しておかなければならない事があった。

 誰が聞いているか分からない以上、ここで話すべきではなく、リアルで話すべきだと判断し、ログアウトをしようとメニューを開いた。

 

 そして、今現実のわたしがどんな格好で眠っているのかを思い出し、慌てて叫ぶ。

 

「あ、キリト! わたしが先にログアウトする!」

「は? なん……あ、そうか。いやまてもうログアウトボタン押して――」

 

 キリトもわたしの言わんとしていることに気付き、同じく慌て始めたが時はすでに遅かったようだ。

 安全圏内では即時ログアウトできるのはGGOでも同じな様で、一度始まったログアウト処理はキャンセルすることが出来ない。

 足元から青白い光に変わりつつあるキリトに、わたしは声を低くし威圧するように言った。

 

「カーテン開けたら……殺す……ッ!!」

  




・アリス本気モード
 なりふり構わず、最速で相手をぶっ飛ばすためスイッチを入れた状態。あの特殊実験の影響でどんなふうになっているのかは近いうちに描写します。
 現状では、何をしても躱される、叩き落されるといったことから相手の戦意はへし折れます。

戦姫と戦鬼。センキとセンキ。駄洒落ですけど、いつかやってみたかった……!
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