SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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あけましておめでとうございます。

SAOIFと同時に、この作品も二周年を迎えることとなりました。
二周年ですよ二周年。なんでまだ終わってないんですかね……すみません。

今年は≪はじまりの街≫の転移門広場で花火を上げながら年を越すことが出来ました。

今年こそ、真の完結を目指してがんばりますよぉ


BoB本戦 1

「あ、ねえ深紅。昨日の大会の事がもう記事になってるよ」

 

 私とキリトがGGOにログインし、死銃と邂逅してから翌日。

 先日ゲームからログアウトしたわたしたちは、そのまま病院近くの喫茶店でお互いの情報を共有した後、死銃の正体……おそらく、あのラフコフのタトゥーをしていた人物についても話した。

 

 結果として、あいつが誰なのかはわからず終いだった。

 

 アバターがランダム生成であるGGOでは、わたしが最初にキリトをキリトだと見破れなかったように、そのアバターをSAOでのものと結びつけるのは困難だ。

 そもそも、あいつが本当にラフコフメンバーかどうかというのも怪しい。あの時は雰囲気に飲まれてしまったが、SAO後期ではラフコフを騙るプレイヤーも少なくない数が出現した。

 情報があまりにも少ない今、あのボロマントが誰なのかという答えにたどり着けず、現状は死銃=ボロマントと仮定するだけに留まった。

 

 だけど、あのねばつく様な嫌な雰囲気。そしてキリトへの異常な執着。

 

 あいつには、絶対に何かある。

 もしも、あいつが死銃じゃなかったとしても……きっと、衝突は避けては通れないだろう。

 

 と、不意につんと頬を突かれた。

 はっと顔を上げてみれば、小春が心配そうな顔で覗き込んできていた。

 

「もう、深紅また怖い顔してる」

「う……ごめん」

 

 わたしは感情が表情に出やすいようで、昨日の夜からこうして小春に心配をかけてしまっていた。

 

「昨日は聞きそびれちゃったけど……何かあったの?」

 

 その小春からの問いに、わたしは少し返答に詰まった。

 何かあったかと言われれば、確かにあった。けれど、それを正直に話してしまっていいのだろうか?

 あの話題――ラフィンコフィンの一件は小春の心に大きな傷跡を残した。そんな小春に向かって、ラフィンコフィンであろうプレイヤーと遭遇したと話すのは、嫌な記憶を思い出させるだけなんじゃ……

 

 だけど

 

「……昨日、死銃っぽいプレイヤーに会ったんだ」

「えっ……それで……」

「それだけじゃなくて」

 

 一瞬、躊躇ってしまう。

 口を開きかけて、閉じた。

 

 

「そいつは、笑う棺桶のタトゥーをつけてた。そしてアリスと、キリト――SAOでのわたしと和人お兄ちゃんを知ってたんだ」

 

 結局、わたしは昨日会った人物の事を小春に話した。

 隠し事はしない。それはわたしが決めたことでもあるし、小春が望んだことでもある。

 その結果として、どちらかが傷つくことになったとしても。

 その傷は、二人で分かち合う。けして、一人で抱えないように。

 

 重々しく告げたわたしの台詞に、コハルは息を呑み、表情を曇らせた。

 胸がぎゅうと締め付けられるような痛みを感じる。けど、小春はきっと、わたしよりも強い痛みを感じている。

 大丈夫、何があっても、何が相手でも、わたしが小春を守るから。

 

「小春――」

 

 胸に手を抱くようにして握りうつむいた小春に、声を掛けようとした。

 

 けど、ああ……わたしは小春のことをまだ見くびっていたみたいだ。

 彼女はわたしを助けるため、不可能なクエスト(インポッシブル・クエスト)に挑み、攻略してみせたのに。

 それに、わたしは彼女が突破口を開く場面をいくつも見てきたはずなのに。

 どうして彼女が、わたしに守られるだけだと思っていたのか。

 

 小春がうつむいていたのは、傷ついたからじゃない。わたしの台詞から、何かを感じ取り、思考を廻らせていたからだった。

 

「そう……そうだったんだ……じゃあ、多分……」

 

 ぶつぶつと考えを纏めるように、パズルのピースを嵌めていくように、小春の頭の中で推理が組み立てられていく。

 そして、小春の口からその答えが話される。

 

「深紅……私、死銃の手口がわかったかも」

 

 

 

 

 

 

 BoB本戦について、知り得た事を纏めると

 

 ・本戦のフィールドは直径十キロの円形。山あり森あり砂漠ありの複合ステージ

 ・開始位置はランダムで、他のプレイヤーとは最低千メートルは離れた場所からのスタートになる

 ・プレイヤーにはサテライトスキャン端末というアイテムが配布され、15分に一度全プレイヤーの位置が表示される

 ・最後の一人まで生き残ることが出来たら優勝

 

 ほんとはもっと細かい取り決めがあるのだけれど、とりあえずわたしが理解できたのはこんなところ。

 

 少し前に参加した、ALOでのギルドイベント『フェアリーズウォー』と似ているところはあるものの、フィールドの広さが桁違いだ。

 あの時より三倍強も広いフィールドで、わずか30人とのサバイバルバトル。獲物が超近接特化しかないわたしとキリトなんかは、予選とは比べ物にならない苦戦を強いられるだろう。生き残るだけなら隠れ続ければいいのだけど、15分に一度居場所がバレてしまうため、同じところにとどまり続けるのは無理だ。

 何よりわたしとキリトには、死銃との再接触という別の目的がある。それと、もう一つの目的のためにも、隠れるという選択肢は無い。

 

 さて、わたしは現在総督府を離れSBCグロッケンの街中を歩いている。

 本戦開始の3時間も前にログインしたのは、予選参加がギリギリになってしまった反省と、ちょっと用意しておきたいものがあったからだ。

 そのためキリトとはGGOにダイブし、登録を済ませてから別行動を取っている。

 ある程度の打ち合わせと情報共有は事前に済ませているし、死銃本人の情報が少なすぎてこれ以上の推察は無駄だと判断したからね。

 

 

 用事を済ませた事だし、総督府に戻ろうかと歩を進めていると……まあ、先程から視線が刺さる刺さること。

 それも当然の事というか、今わたしが操作しているこのアバターは同性であるわたしですら息を呑む程の美しさだから。

 ちくちく突き刺さる視線は非常に居心地が悪い。それに乗っている感情がこう、好奇心8割畏怖2割ぐらいなものだから尚のこと。悪意が混じっていない分、まだいいけど。

 ここまで視線を集める見た目をしていながら、声を掛けてくる男性プレイヤーが一人もいないのは、わたしが予選で変な大暴れをしたからだろうなぁ……。

 銃撃戦を楽しむゲームで猪突猛進に敵に突貫し、殴り倒すスタイルはGGOプレイヤーからすればとんだサイコキラー系女子に見えているのかもしれない。

 知らない男の人に話しかけられても困るので、こうして忌避されているのはまあいいとしても、その認識は少し嫌だなぁ。

  

 が、そんなわたしに声を掛ける奇特な人物がいた。

 

「居た……ッ! 見つけた……アリスさん……ッ!」

 

 ばたばたと駆け寄るその足音はどうやらわたしを目標としているようで、振り返ると都市名際に身を包んだ長身痩躯のM型アバターが、膝に手を突き息を整えている姿が視界に入った。

 そのアバターに、わたしは見覚えがあった。

 

「えと……シュピーゲル、さん?」

 

 シノンの友人だというシュピーゲル。彼とはシノン繋がりで予選中会話をしたことがあるし、知らない仲ではないのだけど、何か用事があるのだろうか。

 呼吸を整えている(スタミナゲージが切れると、回復するまで息苦しさが続くのだ)シュピーゲルに近づき顔を覗き込む。彼の表情は焦燥に包まれていて、仮想の汗が雫となって鋼鉄の床を濡らしている。

 

「あ、アリス……さん……良かった。キミに、キミたちに伝えたい事が……あったんだ……」

 

 彼は必死に息を整えると、いまだ焦りの残る表情でわたしの肩を掴むと、訴えかけるように語気を強めて言った。

 

「BoB本戦に登録は……!? もうしてしまったなら、今すぐ、今すぐ棄権してくれ……ッ! シノンと一緒に……」

「ちょ、ちょっと。よく分からないよ。どういうこと?」

「殺されてしまう……キミも、シノンもッ!!」

 

 あまりの迫力に、息を呑む。只ならぬものを感じ、この場で話すことではないと判断。周りの視線を避けるようにして路地裏へシュピーゲルを連れて避難した。

 

「シュピーゲルさん、落ち着いて。声を落として。何があったの?」

 

 間を開けたことで少し余裕を取り戻したのだろう。シュピーゲルは沈痛な面持ちで話しだした。

 

「僕がGGOにログインする前……兄が話したんだ。今日の本戦で、死銃として他のプレイヤーを……殺すと」

「それって……」

 

 わたしが口を挟もうとすると、シュピーゲルは分かっていると首を横に振り、続けた。

 

「信じられない気持ちは分かる。けど本当なんだ! 兄は、どうやってかプレイヤーの住所を割り出して、GGO内で倒したプレイヤーを――」

「現実でも殺す。同じ時間に。まるで、死銃が放った弾丸が、現実のプレイヤーを殺したかのように」

 

 シュピーゲルの話をわたしが遮って補完したことに、彼は驚き狼狽えた。

 ああ、そういうことだったんだ。

 

「な……んで……それ……を……」

「大丈夫。シュピーゲルさん。わたしはそれを知ってる。知っていて、BoBに参加したんだ。事件の真相を、知るために」

 

 彼は、この事件の関係者だ。けれど、犯人じゃない。

 先ほどの話からそれを察したわたしは、どうしてわたしがGGOにコンバートしたのかをかいつまんで話した。

 もちろん、死銃がラフコフメンバーであったことは伏せて。

 

「そ、そんな……もう既に、犠牲者が出てるなんて……」

 

 シュピーゲルは自らの兄が殺人に関与していたと知って、ひどく落ち込んでいる様子だった。頭を抱え、声は震え、何かをつぶやいている。

 

「僕の……僕のせいだ……あんなことを教えたから……」

「あなたのせい……?」

 

 彼の口から零れる、悔恨に濡れた台詞に引っ掛かりを感じた。シュピーゲルのせいとは、どういう意味だろう。

 

「……兄が、ある日言ったんだ。ゲームで殺した相手を、実際に殺す方法は無いかって。僕は冗談だと思って……」

「二人チームで、片方はゲームで、もう片方は現実で始末すれば、そういう風に見える……って?」

 

 わたしの台詞に、シュピーゲルは静かに首肯した。

 

「まさか本当に実行するだなんて……死銃事件が起きた時も、偶然だと、見て見ぬ振りをしてたんだ……。兄が、まさか、そんな……」

 

 これで裏が取れた。

 死銃事件のカラクリが。

 

 今朝、小春と交わした会話を思い出す。

 

『……冷泉に会った!?』

『うん……VRMMOのことはその専門に聞いた方がいいと思って……』

『なんて無茶を……』

『それはお互い様、でしょ? それで、あの人は断言してたよ。ゲームで放たれた弾丸が、現実の心臓を止めるのはあり得ないって』

『でも、実際に……』

『事件は起きてるんだよね? それに対する回答は二つあって、一つはただの偶然。もう一つは――』

 

 単純な事だったのだ。

 ゲームの銃弾は、現実の心臓を止めることは敵わない。それならば、現実世界でも止めてしまえばいい。同時に事を起こせば……まるで、ゲーム内の銃弾がそのまま現実の心臓を止めたかのように見えるだろう。

 これを実行するには、最低でも二人以上の実行犯が必要だ。

 だから小春は、わたしが口にしたラフィンコフィンのワードに反応した。

 誰か一人を表に立たせて、影で複数の人数が動いて一つの事件を起こす。

 それはあの世界でやつらが何度も行ってきた手口なのだから。

 

 とはいえ、手口が分かったところで誰が死銃なのかは未だ分からない。

 

「シュピーゲルさん。お兄さんのアバター名は?」

「分からない……兄にこのゲームを進めたのは僕だけど、一緒にプレイしたことはないから……どんな名前で、どんなプレイスタイルかは……」

 

 ここで名前を知ることが出来れば話が早かったのだけど……さすがにそこまで上手くはいかないか。

 あいつらは徹底的に自分たちの情報を隠匿する。活動している事を知ってから、そのアジトを見つけだすのに一年以上かかってしまったほどに。

 それなら……

 

「シュピーゲルさん。大丈夫。死銃は……あなたのお兄さんはわたしが……わたしと、キリトが止める」

「アリスさん……君は……」

「シノンさんのお友達なんだよね? あなたに、お願いがあるんだ――」

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、目を閉じ考える。

 

 結局、あの男の本当の名前は分からずに本戦を迎えることになってしまった。

 

 怖い。

 

 PvPイベント、それも大会ともなれば、ALOはおろかSAOでのそれですら、俺はワクワクと昂ぶるような気持ちを感じていた。

 それが今は、こんなにも怖い。

 

 目を背け、蓋をしてきた記憶が、罪が、俺を責め立てる。

 

 俺はあの世界で二人……いや、三人殺した。

 

 そのどれもが自衛の結果なのだが……。俺は、殺したプレイヤーがなんという名前だったのかを思い出せない。

 

 自らの剣で命を奪った人間を、俺は忘れようとしていた。

 

 あの時、俺の前に現れ『お前は本物か』と問うてきたあのボロマントは、もしかすれば俺が殺したプレイヤーの内の誰かだったのかもしれない。

 そんなオカルトじみた事はあり得ないといくら否定しても、開けられた記憶の蓋から覗く怨念が、目を逸らすなと告げてくる。

 

 やつの手口が判明した今も、その声は止むことなくささやき続けている。

 

 分かっている。これは俺の思い込みだ。そんな声は本当は聞こえないはずで、その正体は俺の無意識だ。

 

 だからこそ、やらなくちゃいけない。その罪と、向き合わなければならない。

 

 やつの名前を知る。そして、この事件を終わらせる。

 

 その為にも――

 

 

 

 

 

 

 胸に手を当て、目をつむる。

 

 仮想の肺に空気を満たすように、大きく息を吸った。

 

 死銃は必ずこの大会に出場している。

 

 己の力を誇示する事が目的なのであれば、BoBという大会は最高の舞台になりえるからだ。

 

 さらに、あいつが元SAOプレイヤーで……かつラフィンコフィンだとしたら……本戦に出場する事が出来る技量はあるはずだ。

 ラフィンコフィンは性根の腐った集団だったけど、その実力だけは確かだったから。

 

 死銃は本戦に参加するまで、己のプレイヤーネームを徹底的に隠してきたのだろう。実の弟にすら知らせていなかったところに、どれほど前から計画していたのか……。

 

 ただ、死銃がアクションを起こしたのは第三回……今回の大会の直前だ。そうすると、それ以前の大会に出場していたとは考えにくい。

 

 死銃と名乗るプレイヤーが、≪ゼクシード≫と≪薄塩たらこ≫の両名を銃撃し、以降その二人がログインしなくなったという事件は都市伝説としてではあるが、ある程度のプレイヤーには知られている。

 その中で≪死銃≫などという名前で本戦に出場したらどうなるか。当然、SPAMメールの嵐や、最悪大会出場自体が取り消される可能性すらある。

 本名……というのも変な話だけれど、死銃の本当のアバターネームもきっと隠しに隠されてきているはずだ。強さを誇示するとして、本名が知れ渡ってしまえば死銃という名前の影響も薄れてしまう。

 

 だとすれば、今回が初出場で……古参プレイヤー達にはあまり名の知られていないプレイヤーというのが濃厚だろう。

 

 先程シュピーゲルに聞いた、今回の本戦出場者の中で見た事の無い名前のプレイヤーは三人。

 

 銃士X

 

 ペイルライダー

 

 スティーブン

 

 ペイルライダーとスティーブンはアバター名が英語だった。銃士Xはそのまま漢字と記号。銃士Xはおそらく日本人だろう。他の二人は……外国人? あの掠れたようなノイズがかった声では国籍の判別はつけにくかったが、日本語が片言というか、話慣れていないようには感じなかった。とすれば銃士Xが可能性としては濃い……? いや、あとの二人が外国人だという確証がない以上、全員を疑うべきだ。

 

 この中の誰が死銃か分からない。

 

 けど、確かな事が一つある。

 

 それは、死銃は絶対に……現実で殺す前に、MMO内で銃弾を撃ち込むということ。

 

 そうでなければ、仮想の銃弾が現実の心臓を止めるというカラクリが達成できないから。

 

 それを止める方法は簡単だ。

 

 死銃が、他のプレイヤーを倒す前に――

 

 

 

 

 

 

 黒衣を纏った少女のような外見の少年と、紅蓮の如き様相の少女は異口同音に声を発した。

 

「「全員、倒す……ッ!!!」」

 

 その瞳に、決意を宿して。

 

 

 

◇Side アリス

 

 

 

 とは言ったものの、それを達成するのは非常に困難だ。

 

 BoB本戦に名を連ねたプレイヤー達は、誰も彼もが予選を突破してきた強者であるのだから。

 

 プロがうようよといるこのゲームでの、選りすぐりの戦士たち。その全員を倒すというのは困難を通りこして不可能とすら思える。

 

 けれどやらなければならない。これ以上、あいつらに殺させない。犠牲者を出すわけにはいかない。

 

 最初から、全力で行かなきゃ――!

 

 BoB本戦。わたしのスタート位置は円形のフィールドの南部、背の高い木々に覆われた森林地帯だ。

 

 見通しは悪く、他のプレイヤー達とは最低一キロ近くも離れている。

 

 息を大きく吸いこんだ。

 

 目を瞑る。薄っすらと、木漏れ日が瞼を照らしている。

 

 パチン、とスイッチを切るようなイメージと共に、視覚を遮断した。完全な闇が訪れる。

 

 森の中は静かだ。だけど、枝葉の揺れる音や、小動物の鳴き声、動く音などの雑音が混じっている。

 

 もう一度、スイッチを切る。今度は、聴覚を閉じた。

 

 何も見えない、何も聞こえない。けれど肌を撫でる風の感覚だけは鋭敏に感じ取れる。

 

 ここは仮想空間だ。0と1とで構成されている。

 

 誰かが動けば、その分だけ構築された世界がブレる。変異する。

 

 その微細な変動を、感じとる。

 

 わたしは冷泉によって行われた『特別実験』において、一つの能力を獲得していた。

 脳の機能を、任意で遮断するという力。

 

 死に瀕した人間が、視界が狭まったような感覚と共に、時間が引き延ばされるようにしてみるという走馬燈。

 

 その原理は、死の淵を回避しようと、脳が五感を制限し、それによって脳の処理能力を加速させ過去の記憶から手段を探している……そうだ。

 

 詳しい事は分からないけれど、わたしは時間を引き延ばされた空間に長く閉じ込められていた影響で、脳の機能をある程度まで自由に操れるようになっているらしい。

 

 だから視覚と聴覚を遮断して、脳の処理速度を無理やり増加させる。VR世界のわずかな数値の変動を感じ取れるように。

 

 北北東に二人、北東に十人、南西に三人、東南東に五人、南南西に六人、いや、七人。

 

 今動いている人物。そのおおよその方角を、ノイズとして感じとる。

 

 一番人が多いのは、北東――!

 

 わたしは目を開き感覚を取り戻すと、足に込めた力を一気に解放し、雷鳴の如き音を鳴り響かせながら地を駆け抜けた。

 

 




・アリスの能力
 脳の機能を任意でONOFF出来るようになってました。
 これにより、常人よりも遥かに優れた感覚、脳の処理能力を得ることが出来ます。
 しかし無理やり感覚を閉じるため脳に負荷がかかり、長くは続かないことと、感覚を閉じるまでに時間が少しかかります。

 また、描写はしませんでしたが、感覚を閉じずとも他のプレイヤーよりもノイズの混じらないクリアな五感を得ています。
 具体的には≪アイソレーション・タンク≫を使用しているような状態です
 
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