SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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ハッピーバースデーコハル!!(期間中に間に合わなかった顔

今回ゲットできた新規コハルは前々から欲しかったひたむきチョコレートと、いつもそばにいるよの二つでした。

全然! 足りない! 集まらない!!


BoB本戦 2

 シノンは眼前で繰り広げられる光景を、愕然とした表情で見守っていた。

 いや、見守っていたのではなく、あまりにも常軌を逸したその状況に、思考が停止し、ただただ見入っていた。はしたないとは頭の隅で理解しているものの、文字通り、開いた口が塞がらなくなってしまっている。

 

 視線の先――ところどころが崩れ落ちた廃墟が乱立する廃ステージのど真ん中。昔は人の往来が活発だっただろうことを匂わせる大通りで、4名のプレイヤーが戦闘を繰り広げていた。

 しかし、それは果たして戦闘と言ってもいいのだろうか。

 3対1。シノンの目にはそう見えた。3名のプレイヤーが、たった1人のプレイヤーに対して連携し、共闘し、そして――翻弄されている。

 3名のプレイヤーはいずれもが名のある猛者だ。BoBの予選を勝ち進み、本戦へと出場しているという事はそれほどまでに実力があるという事だ。

 《無冠の女王》等の例があるから、一概にそういうわけでもないが、BoBの本戦出場者というのは殆どがイコールでGGOにおけるトッププレイヤーだ。

 シノン自身も、自らの力量がトッププレイヤーに恥じないだけのものはあると自負しているし、状況にもよるだろうが本戦でも勝ち残っていけるとも思っている。

 だが、それは1対1であるならばという前提だ。

 シノンがスナイパーであることを除いても、例えば3対1なんて状態になってしまえば1分も持たず敗れるだろう――もちろん、1人くらいは道連れにしてやろうとは思うが。

 加えて、少数の――1人で大立ち回りを演じているプレイヤーは銃を装備していない。徒手空拳の無刀流。にもかかわらず、襲い来る銃弾の嵐を避け、弾き、躱し、防ぐ。戦闘開始から一度も被弾する事無く、まるで一つの演武のように流麗に動き続けている。

銃の支配するゲームで、銃に頼らず多数を圧倒している。

 おそらくこの戦闘風景は衛生カメラを通して配信されていることだろう。そしてその映像を見た全員が、恐らくシノンの様にだらしなく口を開けて愕然とし、こう思っているはずだ。

 

 ――そんな馬鹿な、と。

 

 ありえない。しかし目の前で実際に起こってしまっている。

 

 そんな信じられないような光景を生み出している少女を、シノンは知っていた。

 

 《紅銀の戦姫》または、《死神》

 

 少女の名は、アリスと言った。

 

「くそッ! なんなんだよッ! なんなんだよこいつはッ!?」

「弾は当たってるのに!! 全部弾かれちまう!!」

「うわぁぁぁぁッ!! こっちにくるなぁぁぁッ!!」

 

 最初は全員が敵だった。その内、一人――アリスがあまりにも強すぎて、言葉を交わすことなく残った3人は共闘関係となった。

 一人の女性を3人がかりという事態に、彼らの表情は罪悪感を覚えているようなものから、次第に困惑のものに代わり、そして恐怖に引きつっている。。

 

 

 ふと、その光景を見ていたシノンは疑問に思った。

 これだけ圧倒的な差を見せながら、なぜアリスは攻めに行かないのだろう。

 確かに、恐慌状態に陥っているとはいえ、そこはBoB本戦出場者が3人も連携しているのだ。防ぐだけで精一杯で、攻め入る隙が無いのかもしれない。

 だがシノンの目には、アリスにはまだ余裕がある様に思えた。例えば3人中2人がマガジンを空にし、リロードをするタイミングが重なってしまうような隙が出来ても、攻める事無く、ただ防ぐ事に集中している。

 

(何かを待ってる……? いいえ、探ってるのかしら……)

 

 アリスは、銃弾が乱れ飛ぶ中を、無機質で能面のような表情で3人の様子を伺いながら動いている。

 シノンがその理由に考えを馳せる前に、事態は動き出した。

 

 今まで防戦に徹していたアリスが、ついに攻勢に出たのだ。

 

 否、いつでも引けた幕を、引いたに過ぎないのだろう。

 

 まず、ショットガンを構え、3人の内1人だけ三次元戦闘を行っていた一人が、マガジンの残弾が切れ、リロードをしようと射撃を中断した次の瞬間、残り二人の銃撃を捌いていたアリスの姿がぶれた。

 

 一瞬の内にリロード中の無防備な姿を晒していた男の前に現れたアリスは、男が目を見開き硬直した隙に飛び上がり、男の頭を踵で軽く蹴りつけた。

 

 そしてアリスと位置を入れ替わる様に前に蹴りだされた男は、そのまま他の2人が放つ、アリスを狙った銃弾の嵐に巻き込まれ、蜂の巣となる。

 

 ――え、エグい……

 

 シノンはドン引きしながら頬を引き攣らせたが、それは残った2人の男も同じだったのだろう。思わず、しまったという表情をしながら引き金を引く指を緩め――止めてしまった。

 

 それは、致命的な隙だった。

 

 本来では全員が敵のバトルロワイヤルとはいえ、一時的に共闘していた相手を巻き込んでしまった事で生じた、一瞬の思考の空白。

 

 その空白の時間は、死神が鎌を振り上げ、そして首を刈るのには十分に長かった。

 

 ハッと我に返った、2人が再び引き金を引く頃にはもう既に遅く、最初の1人と同様の手順でもう1人が脱落し、最後の1人は錯乱し乱射した銃弾の殆どを叩き落され、頭蓋を蹴り砕かれ消失した。

 

 今まで3人が持ちこたえていたのは、手加減されていたからという事がはっきりと分かるほどに、圧倒的な蹂躙だった。

 

(何て強さ……いえ、強いなんてものじゃない。彼女、本当に人間なの……?)

 

 アリスの見せた超人的な立ち回りは、実は超高性能なAIでしたと言われても納得してしまいそうな程のものだった。

 あれが本当に人間の為した技だというのであれば――

 

 彼女なら、知っているのかもしれない。

 あの時から追い求めている、強さの理由、そしてそこに至る手段を。

 そして、彼女を倒すことが出来れば――

 

 シノンはここで、ミスを犯していた。

 

 同士撃ちをしてしまった彼らと同じく、思考に意識を割いてしまい、視線を僅かにアリスから切らしてしまった事。

 そして、この戦闘中、アリスが3人の様子を伺いつつ、さらに背後の視線を気にしていた事に気が付かなかった事。

 

 ふと視線を戻せば、感情という機能を丸ごとそぎ落としたかのような無表情のアリスと目が合った。

 

 目が合って、しまった。

 

(まずいッ――!)

 

 刹那訪れた、特大級の悪寒に、弾かれたように壁に立てかけてあった愛銃を手に取る。

 

 アリスは既に、シノンの潜むビルに目掛け駆け出していた。

 

 彼我の距離はおよそ400m。アリスのAGIであれば十数秒程でビルの下へとたどり着き、今シノンが居る5階まで駆け上がってくるだろう。

 

(どうする、どうする――!?)

 

 パニックになりそうな頭を、頬を叩いて鎮める。

 

 今取れる選択肢は2つ。

 

 AGIの差から、鬼ごっこになった場合確実に追いつかれる。

 身を潜めながら銃撃戦をしたころで、この狭い中でへカートを取り回す事は得策とは言えないし、サブウェポンもハンドガンの為、先の戦闘を見る限り何もできずにやられるだろう。

 

 だが、今すぐにこのビルを脱出して、逃げに徹すればやり過ごすことが出来るかもしれない。

 そして、アリスは今まっすぐにこちらへと向かっている。動いているとはいえ、直線的な動きをしている相手を狙撃する事はシノンにとって容易いことだった。

 

 つまり

 

 逃走か、戦闘かの二択。

 

 迷っている暇はない。

 

 そしてシノンは、片方の選択肢を鼻で笑って捨てた。

 

(逃げる? そんなのまっぴらゴメン、よ!)

 

 ここで背を見せて逃げ出したら、二度と答えにたどり着けない。

 

 シノンは覚悟を決め、迫りくる死神に抗う事を決めた。

 

 二脚を展開し、自身に出来うる最速で愛銃を展開する。

 

 ボルトを引き、マガジンから弾丸を装填。

 

 スコープを覗いて、対象を補足。3秒後の通過地点を予測、照準。

 

 1秒。

 

 シノンは大きく息を吸い、止める。

 

 2秒。

 

 耳に届く環境音が消え、次いで自身の心臓の音さえも止まった。

 

 3秒。

 

 アリスの姿が、スコープに移りこんだ。

 

(勝負――ッ!!!)

 

 稲妻のようなけたたましい轟音と共に、パッと視界が閃光に塗りつぶされる。

 

 シノンの愛銃へカートⅡの弾速は、425m/sだ。この距離であれば、引き金を引くと同時に着弾する。

 そして放たれる50口径弾の威力は、有効射程距離内であれば体のどの部位に当たろうともHPを全て消し飛ばして尚あまりある。

 

 予選決勝ではあのいけ好かない黒ずくめに辛酸を舐めさせられたが、この程度の距離であれば、シノンにとって必中であり、そして必殺だった。

 

(やった、の……?)

 手応えはあった。

 

 そしてスコープから目を離し、肉眼で確認をしたが、アリスの姿は無い。

 

 殺った。シノンがそう確信し、拳を握ろうとし――

 

 ガツッと、天井に何かが突き刺さる音がした。

 

 そして死神が、はるか下方、地上からビルの5階へと――飛び上がってきた。

 

「え……?」

 

 いったい何が起こっているのか、シノンの頭は真っ白になった。

 

 弾丸を避けた? 弾道予測線すら表示されず、マズルフラッシュを見てから避けることなど不可能の、不可視の弾丸を?

 

 AGIが高いとはいえ、ビルの1階から5階まで跳躍するなど不可能だ。なのになぜ、彼女はここまで飛んでくることが出来た?

 

 何故、と疑問に思う事は尽きないが、ただ一つ、シノンは自身が負けた事だけを悟り、ぎゅうと目を閉じた。

 

 しかし、訪れるはずの衝撃は無く、代わりに。

 

「あれ……シノン?」

 

 死神には似つかわしくない、鈴を転がすような可愛らしい声が、きょとんとした声音で聞こえた。

 

 

 

Side アリス

 

 

 

 全員ぶっ飛ばす! と息巻いたはいいものの、そうそう簡単に行くわけはなく、とりあえず片っ端からプレイヤーの気配を辿り、襲撃していった。

 

 2人程倒したあたりで、疑惑の3人であるうちの一人、ペイルライダーを発見し、それが《死銃》本人かどうかを観察しながら戦闘をしていたら、運悪く他のプレイヤーが2人乱入してきた。

 最初は4人でのバトルロワイヤルだったはずだけど、何がどうなってその結論に至ったのかは知らないが、気づけばわたし対3人という様相に。

 

 どうしてこうなったの?

 

 脳が焼き切れそうな程フル回転させ、すべての弾道予測線を予測、先読みし、必死になっていなしつつペイルライダーと、あとなぜかこちらを観察している、敵意の無い視線を気にしながら戦闘を継続させ、ペイルライダーが死銃でないことを確信。順に処理をした。

 

 それで気になっていた視線の方へ顔を向けてみると、なんだか目が合ったような感覚。遠くて顔は見えないけど、なんとなくそう思った。

 

 ともあれ、敵である事には違いない。

 敵意は感じなかったが、バトルロワイヤルであるこの大会では、わたし以外――あとキリトも除いて――全員が敵なのだから。

 

 逃げるような感じも無いので、全速よりも少し速度を落としつつ、視線を感じたビルへと駆け出すと、途中で物凄い悪寒がした。

 慌てて全速力へ移行すると、直後に轟音と共に背後の地面が爆散した。

 

 ただのスナイパーライフルの威力じゃないなこれは……

 けれど、ロケットランチャーにしては弾速が早すぎる。発射地点だろう目前のビルの5階が光った瞬間には背後に着弾していた。

 

 スナイパーライフル並みの弾速を持ち、かつロケットランチャーと同等の破壊力を持つ。どこかで見たような……? けどそこに思考を割くリソースは無い。実際に見れば分かる事だ。

 

 上手い具合に背後の衝撃が追い風となってわたしの背をグンと押し、スピードが乗ったことも相まって半ば吹き飛ばされるように、あっという間にビルの入り口までたどり着けた。

 さて、このまま駆け上がってもいいけれど、隠れられたら面倒だ。ここは一気にショートカットしてしまおう。

 

 わたしが腰のホルスターから取り出したのは、この本戦中に入手した武器だ。

 

 本戦が始まってすぐ、地下遺跡に逃げ込んだプレイヤーを追撃し、撃破したはいいものの道に迷ってしまった。

 焦っていたわたしは外に繋がっていますようにと祈りながら転送装置らしき機械の中に飛び込み――そして変なところに飛ばされてしまった。

 ごちゃごちゃとした配線や機械が縦横無尽に張り巡らされた、何かの実験室? みたいな部屋。

 その部屋の中央、台座らしき部分に、ガラスにつつまれた一丁の銃がまるで展示されているかのように鎮座していた。

 

 形状としては拳銃……なのだろうけど、なんだかちょっと変だ。

 銃身部分がやけにごつく、その割にグリップ部分が華奢だしマガジンを装填する場所も見当たらない。ハンドボウガンかと思えば、それらしきものもついていない。

 

 なんだろうこれ。

 

 銃の横っ腹を右手人差し指でつついて、情報メニューを表示させる。

 そこに表示されたこの銃の名前は――《アルティメット・ファイバー・ガン》

 

 随分と強そうな名前だけれど、その性能は強いなんてものじゃなかった。

 

 射程は20m程と長くない。だが、射出されるのはビームのような発光する鋼線。そしてその鋼線は着弾すると、勢いよく巻き取られる。

 

 すなわち、このように――

 

「え……?」

 

 地上からビルの5階まで飛び上がるような、立体起動を可能とする。

 

 まさか階段を使わず5階まで飛んでくるとは思わなかったのだろう。長大な銃を抱えた、ペールブルーの髪を持つ女性プレイヤーが驚愕に目を見開き、そして敗北を悟ったのか目を閉じた。

 

 わたしはそんなシノンの頭に向け、必殺の威力を込めた渾身の踵落としを――

 

 いやちょっと待ってストップストップ!!

 

「あれ……シノン?」

 

 どうりで既視感があると思えば、わたしを狙ってきた刺客はシノンだった。

 

 思わず攻撃を中断し、声をかけてしまう。

 いつまでたってもトドメが刺されず、恐る恐るとシノンが目を開けた。

 

 今度こそ、ばっちりと目が合った。

 

 たらりと、気まずさ成分濃縮の冷や汗が頬を伝うような錯覚を覚える。

 

 おそらく困ったような表情をしているわたしと、同じく困惑した表情のシノンが顔を突き合わせ数秒沈黙する。

 最初に口を開いたのは、シノンだった。

 

「……倒さないの? あなたと私は敵のはずだけれど」

 

 理解できない、と不可解さを視線に乗せ、にらめつけるようにしてシノンが聞いてきた。

 

「あー……んーっと……」

 

 どうしよう。非常に気まずい。

 対人戦である事は理解しているし、知り合いだろうと戦闘することに忌避感はあまりない。キリトなんて何度殴り飛ばしたか分からないし、アイやリーファ、アスナとも何度かPvPを行った事もある。

 

 けどそれは戦闘中の高揚感があってこそ。勢いでやれていたところもあって、例えば平時の時に彼女たちを容赦なく斬り付けられるかと言われると絶対に無理だ。キリトやクライン相手なら躊躇はしないが。

 

 つまり何が言いたいかというと。

 

「うーーん……一時休戦? みたいな?」

 

 中途半端に戦闘を中断してしまったせいで、知り合い――しかも恩人でもある――を殴る事が出来なくなってしまった。

 

「何よそれ……知り合いだから攻撃出来ないっていうの?」

 

 シノンはうつむき、ワナワナと怒りを堪えるように震えだす。

 

 あー、うん。そうだよねぇ、怒るよね……。

 

 キリトとのあの決勝の時ですら、勝負を放棄したキリトを苛烈に責め立てたのだ。

 彼女は勝負に対して誇りを持っている。知り合いだから戦えないなんて理由は、彼女を激昂させるに十分だった。

 

「馬鹿にしないでッ!! 私はあなたと違う。知り合いだからって引き金を引く事を躊躇する事なんてしない! そんな甘い考えで、この大会に参加するな!」

 

 シノンの目には明確な怒りが宿っており、声には烈火の如き激情が含まれていた。

 

 シノンはクールなイメージがあったけど、この様子を見るに感情が爆発しやすいタイプなのだろう。バイクで飛ばしていた時なんて、もっと飛ばしてなんてはしゃいでいたし。

 

 わたしだってここが真剣勝負であることは理解しているし、シノンの怒りもごもっともなのだけれど……ことシノンに至っては無理に倒す理由が無い。その事がわたしの手を余計に鈍らせているのだ。

 

 だけどそれを話したところで納得はしないだろうなぁ……とそこまで考えて、1つ妙案が思いついた。

 

「じゃ、こうしよっか」

 

 わたしがにやりとした笑みを浮かべると、嫌な予感がしたのか、シノンは腰のホルスターからハンドガンを引き抜いた。

 

 上体をゆらっと前に倒し、地に引かれるその重力を推進力に変化させる。

 

 SAO内で《縮地》と呼ばれていた体術スキルの動き。

 初速からいきなり最高速へ。0から100へと変化させるこのスキルは、システムアシストが無くともある程度再現できる。

 

 地を縮めるという名通りの、瞬間移動と見紛う速さは出せないが、上体を地面すれすれまで倒しながらの移動方であるため、この近距離であれば相手には突然目の前から消えた様に見えるだろう。

 

 トップスピードでシノンの真横を通り過ぎ、太腿につけたホルスターから瘴牙を抜き放って頭部へと突きつける。

 

「ホールドアップ。武器を捨てて手をあげろぉー」

「くっ……」

 

 シノンはわたしに言われた通り、銃を足元に落とし、両手を頭より上に持ち上げた。

 銃を捨てる時に「卑怯者……」って呟いていたけど何のことかしらー。

 

「さて、取引をしよっか」

「取引……?」

 

 こちらから表情は見えないけれど、怪訝そうにしているというのは声音から分かった。

 

「ここでシノンを見逃す代わりに、わたしを手伝って欲しいんだ」

「手伝うって……何をすればいいのよ」

 

 正確にはわたしというより、わたし達、なのだけれど。それを説明するには、わたしがこの大会に参加したあらましを話さなければならないだろう。

 

「シノンは《死銃》って知ってる?」

「え? えぇ、まあ……。けどあれって偶然でしょう? 偶々重なったから変に騒ぎ立てられてるだけで……」

 

 そう。普通であれば、偶然で片付けられる話だ。

 ゼクシードという、有名なプレイヤーが移るテレビに向かって、偶々誰かが発砲した。

 そして偶然、同じタイミングでゼクシードの回線が切れ、何らかの理由で今まで復帰できていない。

 

 偶然の産物。それが話題性があった為、こうして興味本位で噂が広まっているに過ぎない。

 

 普通であれば、そう判断する。

 

「わたしもそうだと思ってた。わたしがこの大会に出るのも、その《死銃》と接触して、偶然だったってことを証明して欲しいって依頼だったから」

 

 だけどこれは普通じゃない。実際に死人が出ているのも、その手口も、既に判明している。

 

 

「でもね、偶然なんかじゃなかった。あいつは――《死銃》は実際に人を殺している。ゼクシードも、薄塩たらこも、あいつに殺されている」

「なに……何を言ってるのか、分からないわ。ありえないわよ、そんなの。ゲームの中での銃弾が、現実の心臓を止めたっていうの?」

「正確には、《死銃》は2人以上居るんだと思う。1人がゲームで銃を撃つと同時に、現実で実行犯が息の根を止めていたんだ」

「現実でって、それこそありえない。現実のどこからダイブしているかなんて、分かるはず……」

 

 確かに、現実のどこからダイブしているかなんて、回線をハッキングしたところで容易に特定できるものではない。ただでさえ《ザ・シード》パッケージのタイトルはセキュリティが高いのだ。GGOも例外ではない。

 

 ただ、ある程度絞り込む事は可能だ。

 

「フルダイブ専用の施設なんかがあるから、一概にはそうとはいえないけど……殆どの人は自宅からダイブすると思うんだ」

「だからその現実の住所が……」

 

 シノンが言いかけて、途中で口をつぐんだ。どうやら、思い至ったようだ。

 

「現実の住所を知る事は……可能だよね? BoBにエントリーするとき、優勝賞品を受け取るための住所入力欄があるから。ゼクシードも薄塩たらこも、前回大会の出場者だから、そこで住所を盗み見られたんだ」

 

 わたしがそう告げると、シノンが息を呑んだ気配がした。

 信じてくれるだろうかとわたしが不安に思っていると、シノンの様子が変わる。

 体を庇う様に抱き、カタカタと震え始めた。

 

「……ぁ……いや、そんな……」

「っ! シノン!」

 

 まずい、とわたしは反射的にシノンを振り向かせ抱きしめた。

 安心させるように、ぎゅうと強く抱く。

 シノンの顔は血の気を失い真っ青になり、震えは次第に強く、大きくなっていく。

 

「シノン! 大丈夫。大丈夫だから……あいつが殺すにはプロセスがある。こっちであいつの撃った銃弾に当たらなければいい。あいつらは愉快犯だから、自分の力を誇示するその流れを違えることは無いはず。それに……シノンには、シュピーゲルが着いてる」

「シュピー……ゲル……?」

「犯人……多分、ゲーム内で実際にアバターを操っている方はシュピーゲルのお兄さんみたい。シュピーゲル本人から、そう聞いたよ。それを知って、わたしに大会を棄権してくれって」

 

 大会が始まる前、シュピーゲルから真実を教えられた。そして、大会を棄権するよう懇願された。

 ただ、わたしはこれ以上犠牲者を出さない為に、大会に参加することを選んだ。

 その代わりに、1つ彼に頼み事をしたんだ。

 

『シュピーゲル。シノンを守ってて欲しいんだ。わたしは今聞いた情報を、信頼できる人に伝えるから。その人と一緒に、彼女を守って。現実でも彼女と知り合いのあなたにしか、出来ない』

 

 わたしはシュピーゲルにそう告げて、一度ログアウトをし、菊岡へと連絡を取った。

 菊岡は驚き慌てていたけれど……伝手を使って警察を動かすと約束してくれた。証拠がないから、大人数は動かせないが、数人程度なら借りれるらしい。

 

「今、彼と、多分警察がシノンの家を見張ってるはず。あなたに危害が及ばないように。だから、大丈夫。シノンは死なない。死なせない」

「……ぁ…………」

 

 正面から、シノンの目を見つめる。

 大丈夫、大丈夫と強く言い聞かせる。

 

「シノン、リザインして。さっき言った推理は、殆ど確証を得ていると思うけど、100%じゃない。もしかしたら、本当にあいつの撃った弾丸が、現実で心臓を止めているのかもしれない。だから――」

 

 本当は、彼女にも手伝って欲しかった。わたしとキリト2人だけでは、手が回りきらないだろうから。

 けど、ここまで震えてしまっているシノンを、安全がある程度保証されているとはいえ、この戦いに巻き込もうとは思えない。

 

 彼女は仮想の銃弾が、己の心臓を止めるイメージを。または、現実世界で無防備な状態の自分に危害を加えられる場面をリアルに想像してしまったのだろう。

 ただ、この事件の話を聞いただけでは、こうまで取り乱す事はないはず。

 彼女は何か、トラウマが……辛い記憶があるのか。死というものに、強い忌避感を覚えているようだ。それこそ、ほんの僅かな死の危険性だけでこうなってしまう程に。

 

 伝えるべきじゃなかった。離さず、問答無用でシノンを倒していれば、ここまで彼女を怖がらせることは無かったはずだ。

 わたしが後悔に苛まれていると、声を震わせながら、シノンが聞いてきた。

 

「でも、あなたはどうするの……? あなただって、危険なんじゃ……」

「わたしは大丈夫。住所を入力してないし、ダイブしているのも病院からだから。それに、わたしだけじゃなくて、キリトも居る」

 

 今頃、キリトも独自に《死銃》を追いつつ、他のプレイヤーを襲撃しているはずだ。あいつのことだから、1人ずつ確実に、アサシンの如く。

 ただ、一度目の全体マッピングを見た感じだとわたしとキリトは真反対に居るから、合流は難しそうだけれど。

 

「さっき言ってた、《死銃》の銃弾が現実に影響を及ぼすって場合、あなたが危険だという事には変わりないじゃない」

「それは……」

 

 そうやすやすと当たるつもりはないけれど、その危険性はある。だけどそれも織り込み済みで、わたしもキリトもこの大会に臨んでいる。

 コハルとアスナには本当に心配をかけちゃってるんだけど。泣きそうな顔させちゃったけど。今も罪悪感がすんごいけど! 最終的にはわたしもキリトも何を言っても折れないと諦め、2人とも病室で見守る事を条件に承諾してもらった。

 

「あなたは最初、私に手伝って欲しいって言ってたわよね。……人手が足りてないんじゃないのかしら?」

 

 いつの間にか、シノンがこちらを見る瞳に力が戻ってきていた。今もまだ、微かに震えてはいるけれど、それでもしっかりとした目で、わたしを見据えている。迷いの見えない、強い意志を秘めた、綺麗な目だ。

 

「なら、取引は継続よ。私も、あなたたちを手伝う」

「でも……」

「でもも何もないわ。この舞台を、自分の示威行為の為にめちゃくちゃにして、平気で人を殺すような外道……私だって、許せないもの」

 

 恐怖はまだあるのだろう。震えは収まっていない。それでも、勇気を出して、戦おうとしてくれている。

 

「最初に誘おうとしておいてなんだけど……危ないよ? 可能性は殆ど無いとはいえ、死ぬかもしれないんだよ?」

「ええ、理解してるわ。その上で、手伝うって言ってるのよ。それに……あなたは私を死なせないって言った。守ってくれるんでしょう?」

 

 ああ、確かにわたしはそう言った。シノンは大丈夫。死なない。死なせないって。

 

「……そうだね、そう言った。うん。シノンは死なせない。わたしが守るよ。だから……手伝ってくれる?」

 

 わたしはシノンの肩から手を放し、片手を差し出した。

 シノンはわたしの手を取り、可憐に、不敵に頬む。

 

「ええ。喜んで」

 

 

 




・UFG《アルティメット・ファイバー・ガン》
 フェイタルバレットにて登場。立体起動を可能とする、ゲームバランスぶっ壊れ装備。
 あれは時系列的にはBoB3回目大会の前の取得で、ゲーム中《死銃》と対決しようとしていたキリトに主人公が大会中だけという条件で貸し出したりもしてました。
 今回大会中のみ使用できるという設定で登場。

 アファシス等は今のところ出す予定はありません。
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