SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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BoB本戦 5

「ヒヒッ……ようやく、お前をぶっ殺せるなァ《紅の英雄》……」

 

 無窮にも見える砂漠の中、わたしはゲイルと対峙していた。

 わたしが放った銃弾は当たることなくやつの脇を通り抜けていったが、何を考えているのか、反撃する事も無く数十メートル程手前で馬を止め、降りてきたのだ。

 

「ずいぶんと、自信があるみたいじゃん」

「お前をぶっ殺す為に、色々と準備してきたからなァ……。嬉しかったぜェ……まさかお前がGGOに来るなんてよ……ようやく、これで、あんときの屈辱を返せるってな! GGOをやりこんで本戦出場経験のあるオレと! 剣でしか戦った事の無いお前! 負けるわけがねぇだろうが!」

 

 ゲイルは嘲笑う。お前など取るに足らないと。

 苛立ちを覚えるが、言った本人は本心からそう思っているようで、その立ち姿からは自分の力量に対する強固な自信が見て取れた。

 

「……死銃としてゲームに入ってるのは、あんたとあの赤目だけ?」

「あ? それが何だってんだ」

「あんたのお仲間だった二人は、どうしたんだって聞いてるんだよ」

 

 一瞬呆けたような仕草を見せた後、フードの奥から覗く幽鬼のような目が、愉快そうに揺れた。

 

「へぇ……ちったぁ思い出したってかァ?」

「少しは。……今狙撃して来ないって事はこっちにいるんじゃなくて、外での実行犯ってとこ?」

「なんでェ、手口までバレてんのかよ。キヒッ、ザザの旦那も甘ぇな」

 

 わずかに、片眉が反応しかけた。

 思いがけず得られたもう一人の男の名前に、心当たりがあったからだ。

 

 ザザ。

 その名前がSAOでのものと同じなのなら、あいつは元ラフィンコフィンメンバーってだけじゃない。

 ラフィンコフィン初期構成メンバー。幹部クラスの男。

 赤目のザザ。

 それが、あいつの名前だ。

 

「……赤目のザザ、か」

「あのビーターと女を追わなくていいのかァ? もしかしたら、殺されちまうかもしれないぜェ!?」

 

 通さねえけどな! とゲイルは何がおかしいのかゲラゲラと笑い出す。

 キリトの事は心配だが、そう易々と負ける男じゃない事は分かっている。それに、一刻も早くこいつを倒して救援に向かえばいい話だ。

 

 それにしても、この男と喋っているだけでなぜこんなにも腸が煮えくり返る。

 存在自体が癪に障る。こいつの何もかもが気に食わない。

 

 それは、きっとあの記憶が関係しているんだろう。

 完全に思い出せてはおらず、むしろ、まだ思い出せない部分の方が多いから、この激情がどこから来ているのか分からないけど。

 ただ、こいつが誰かの仇だって事は分かった。

 

 聞けば、答えは返ってくるかもしれない。ただ、それをするとこいつに弱みを一つ、見せる事になる。

 それは避けたい。

 

「……なんで、こんな事件を起こした」

 

 こいつらはただ指示されて動いているだけで、裏で糸を引いている奴がいるんじゃないかと睨み、問いかける。

 こんな精神異常者からまともな答えが返ってくるとは思えないけど……。

 ゲイルは、ニタァと口の端を三日月に歪め、言った。

 

「楽しいから」

 

 案の定、男から返ってきた答えは、到底理解出来るものではなかった。

 

「人殺しが、楽しいだって?」

「ちげぇよ、そいつは手段の一つだ。オレはよォ、勝つのが好きなんだ。自分がつえぇって思ってるやつを引きずり降ろして、踏みつけ、笑ってやるのさ。オレの方がつえぇんだってよ」

「…………」

「あの瞬間がたまんねェ。そのためにオレはあの方と――「もういい」

 

 たまらず、やつの言葉を遮った。

 これ以上は、聞いていられない。

 

「……ア”?」

「もういい。喋らないで。……お前がロクでもないクズだっていうのはよく分かった」

 

 グラグラと溶岩のように煮え立つ怒りに。やるかたのない憤懣。

 わたしは、あの時、SAO第七十五層での最後の戦いの時のように、

 

 奴に対して、殺意を抱いた。

 

「ンだとォ……?」

「向こうでもそうだったよね。三人で徒党を組まないと何もできない弱虫。相手を動けなくしないと挑むこともできない臆病者。負け犬なあんたらしく、今度は尻尾振ってラフィンコフィンの仲間にでも入れてもらったの?」

 

 パーティを組むのも、相手を状態異常にするのも、手段の一つだ。卑怯ではない。

 

 ただ、そんな手段でしか戦おうとしない、強者を気取るこんな奴が。

 

 許せない。

 

「かかってきなよ。お前らの企みなんて、全部ぶっ潰してやる……!」

「この、クソガキがッ!!!!」

 

 開戦。

 

 ゲイルが下げていたアサルトライフルの銃口を向けてくる。

 

 弾道予測線の可視化から間を置かず放たれる銃弾を、身を屈める事でやり過ごした。

 

 集弾性能が高いのは、腐ってもBoB本戦に二回出場してるだけはあるか。

 

 起き上がり際、頭を狙って撃たれた三発の銃弾を手甲で弾く。

 

 その瞬間、耳を劈く金属音と共に視界が閃光に塗りつぶされた。――フラッシュグレネードも投げていたのか。抜け目のない事だ。

 

「くたばれや!!」

 

 ただ、それは既に経験済みだ。

 

 視覚と聴覚の出力を絞り、感覚を研ぎ澄ませる。

 

 集弾性能が高いということは、狙われている所からは大きくズレる事は無いということでもある。

 

 狙いは、胸部。胴体に視線を感じる。

 

 弾道予測線が身体を貫く違和感――極小の違和感を感じ取り、その通りに弾く。

 

 閉じていた目を開けば、うっすらと視界が戻り始めていた。視覚の出力を元に戻す。

 

「クソがッ!」

 

 ゲイルがたまらず距離を取り始めた。大きく弧を書くようにしながら、アサルトライフルを連射してくる。

 

「ちっ……ッ」

 

 逃げ道を塞ぐように間隔をあけて銃弾をバラまかれ、やむを得ずその場で数度拳と足を振るい、叩き落す。

 

 動きを止めてしまった一瞬で、詰めていた距離を少し離された。

 

「これなら……どうだァ!?」

 

 踏み込んだその瞬間、数メートル先の地面に向けてゲイルが発砲した。

 

 怪訝に思うが、構わず突破しようとして――悪寒が走った。横っ飛びで緊急回避を試みる。

 

 爆炎が立ち上った。熱風が数舜前まで爆心地にいたわたしの頬を撫でていった。

 

 少し、ヒヤッとした。地雷か何か設置していたのだろうか。

 

「こいつで、トドメだ!」

 

 ポシュッと、空気の抜ける軽い音。

 

 弾道予測線は照射されず、放物線を描いて飛来するナニカ。

 

 あれは、確か……

 

 今朝、本戦に挑む小春が教えてくれていた、わたしの戦闘スタイルの弱点。

 

『弱点?』

『そう。深紅の戦い方は、強引に銃弾を叩き落しながら相手に近づいて殴り飛ばすやり方でしょ? 正直、やられた方はたまんないと思うけど、やっぱり弱点はあるの』

『複数に囲まれたら弱いとか?』

『それもあるね。だから本戦では基本的に一対一を意識して立ち回って、もし囲まれちゃったら他のプレイヤーを壁にしちゃえばいいよ』

『えぇー……』

『あと、爆発する弾。ロケットランチャーとか、グレネードランチャーみたいなやつ。あれって身体だけじゃなくて地面に当たっても広範囲を爆破するから、弾いたりは駄目だと思う』

『大きく避けるしかないってこと?』

『そうだね。一応、衝撃が加わると爆発する弾らしいから――』

 

 姿勢は崩れている。

 今から回避運動を取っても想定される爆破範囲からは逃げられない。

 なら。

 

 向かってきた榴弾に足を添え――

 

 衝撃を逃すように、力の向きを変えるように身体を捻り、一回転。

 

 そのまま、ゲイルへと蹴り返した。

 

「――は?」

 

 呆けた声を上げるゲイルは、そのまま榴弾の起こす爆発へ巻き込まれた。

 

 弾速の比較的遅いグレネードランチャだからこそできた芸当であり、ロケットランチャー相手だとさすがに避けるしかないけれど、手投げのフラググレネードなんかは本戦中二人目くらいに倒した人相手に試してみたら上手くいったのだった。

 触れた瞬間に爆発する仕様じゃなくて助かった。

 

 まあ、なんにせよ。

 

 

 

 これで、終わりにする。

 

「くっ、そがァ……!!」

 

 爆心地からゲイルが飛び出して来た。

 

 予想通り、わたしから距離を取るようにして。

 

 上体を倒し、未だに残る土煙を隠れ蓑にして、奴の視界から姿を消す。

 

 わたしを見失ったやつはどう動くか。これも簡単に予想できる。

 

 臆病なあいつは、まず……わたしを最後に確認した地点から遠ざかるように距離を取ろうとするだろう。

 

 だから、まずは足を止める。

 

 わたしは土煙の中に侵入し、腰に下げていたフラググレネードのピンを抜き、ゲイルの視線を誘導するように少し離れた場所へと投げた。

 

「ッ!?」

 

 アサルトライフルにまた切り替えたのか、カタタタッという発砲音が聞こえる。残念、はずれ。

 

 数瞬置いて、わたしはゲイルの真正面へと飛び出した。

 

 慌ててわたしに照準を合わせたようだけど――もう遅い。

 

 体術スキル 上級単発技 《紫電一閃》

 

 神速の踏み込みは、雷鳴の如く。

 破砕音と共に地を砕き、一閃。

 乾坤一擲。

 

「ぶっ飛べ、小悪党!!!」

 

 加速した勢いと、体重を乗せた全力の突き。

 めしぃ、と拳が僅かにゲイルの腹部へとめり込んだ。

 直後、猛烈な勢いで後方へと吹き飛んで行った。

 

 吹き飛びながら、身体の端から光の粒子を撒き散らし、そして……

 

 完全に、消滅した。

 

「…………ふぅー……」

 

 体内の熱を外に出すように、大きく息を吐いた。

 勝った。

 決して弱い敵ではなかった。

 だというのに、勝った事に対する喜びも、因縁の相手を倒した事に対する余韻も無い。

 

 ただただ、虚しさが残っていた。

 

「……はぁ、やめやめ。あんな奴の事、考えたくも無い」

 

 不自然な記憶の欠如は、無意識な自己防衛の為だろう。

 それを思い出さないようにしなければ、きっと耐えられないだろうから。

だけど、いずれ思い出さなければならない。

あの世界で、わたしに生きろと――()()()()と言ったのは、誰だったのかを。

 その結果、どれ程の痛みを負う事になっても……。

 

「とりあえず、キリト達の応援に行かなくちゃ……負ける事は、無いと思うけど……」

 

 サテライトスキャン端末を取り出し、キリト達の現在位置を調べようとする。

 もうそろそろ、スキャンが行われる時間のはずだ。

 

「……え?」

 

 思わず瞠目した。

 キリト達の光点が無いとか、そういうんじゃない。

 二人の名前は、ちゃんとあった。あと、恐らくもう一人の死銃である(というより、主犯である)男の名前らしき、スティーブン――Sterbenという名前も。

 戦闘を行っているのか、三人を示す光点は明滅しながら点々と移動していた。

 

 それはいい。

 

 問題なのは、そこに向かって一直線に突き進む、恐ろしい速度で移動する光点だ。

 

 その光点に表示されていた名前は――

 

「闇……風……」

 

 それは、GGOにおいて、前回大会で準優勝した、今大会の最有力優秀候補であり、わたしが予選決勝で戦うはずだったプレイヤー。

 惜しくも前回大会では《ゼクシード》に敗れたが、純粋なプレイヤースキルならGGOトップとも噂されている。

 

 つまり、GGO最強のプレイヤーである人物が、キリト達が戦闘している所へ乱入しようとしているのだ。

 

「まず、い――!!」

 

 わたしはサテライト端末をポケットにねじ込み、全速力で救援へと駆け出した。

 

 

 

◇Side小春

 

 

 

 一方その頃、アリスとキリトがログインしている病室内で、小春と明日奈は顔を突き合わせてモニターを鑑賞していた。

 

「えっと、小春。何、あの……あれ」

「まさか、本当にやるなんて……」

 

 呆れと、感嘆交じりのため息をつきながら二人は乾いた笑いを浮かべていた。苦笑いともいう。

 

 小春達はアリス達がGGOにログインしている間、二人の側でBoBの中継を見ていた。もし万が一危険そうなら、外部から強制的にログアウトさせるつもりで。

 最初は、フィールドばかりが映り中々画面に出てこない二人の姿にやきもきしていたが、まず初めにアリスの姿が映し出された。

 その鬼神のような戦闘に、昨日夜に予選のハイライト動画を見ていた小春でさえも呆気に取られていた。

 各地でも戦端が開かれていたようで、キリトが音も無く他プレイヤーへと忍び寄りスニークキルを敢行しているのに苦笑し、アリスが四人でのバトルロワイヤルから一対三の形勢不利になった時に固唾を飲んで見守ったり、その直後、何があったのか一人の女性プレイヤーを抱きしめた時には小春が不穏な空気を醸し明日奈がオロオロと慌てたり等々、様子を見守っていた。

 今頃ALOの中ではギルドハウスでいつものギルドメンバー達も鑑賞している事だろう。クラインやエギル達にも声を掛けてはいたので、知り合いが沢山集まって観戦しているかもしれない。

 

 そうこうしている内に件の女性プレイヤー(話だけは聞いていた、シノンというプレイヤーだろう)と共闘していたアリスが、突然倒れ、やってきた男性プレイヤー二人に嬲られ始めたのだ。

 流石に慌て、モニターを見詰めながらいつでも強制ログアウト出来るようLANケーブルに手を掛けた所で……キリトが間一髪、アリスとシノンを救出した。

 二人して大きな声で歓声を上げてしまい、様子を見に来た安岐に苦言を溢される等があったが、小春達は様子を見守るのを継続する事にした。

 

 カーチェイスがあり、アリスが一人サイドカーから飛び降り、ボロボロのフード付きマントを被ったプレイヤーを打ち破った所、先の苦笑へと繋がる。

 

「蹴り、返したのよね? ぐれねーどらんちゃー? ってやつ」

「うん……情報サイトとか見てた限りだと、榴弾は着弾――衝撃が加わった時に爆発する仕様らしいから、もしかしたら出来るかもねとは深紅に言ったんだけど……」

「普通……やる?」

「やらない……」

 

 少なくとも、小春はやろうと考えることすらしないだろう。

 出来るかも、と考える事とじゃあやってみようはイコールではないのだ。

 

 小春は頭を振り、ALOから帰還してから時折現れるアリスの超人っぷりから目を瞑る事にした。

うーん、私の恋人は凄いなぁ。小春は深紅――アリスに関しては馬鹿になることに決めた。

 

「あのボロマント来てた人って、キリト君が言ってた死銃よね。これで事件は終わったって事?」

「ううん、もう一人いる……あ、丁度映った」

 

 話は自然と、死銃についてへと移った。

 

 この事件――仮に死銃事件と名付けられたこれに、小春と明日奈はもう何も出来ることがない。

 前日までに情報集めに奔走し、死銃事件のトリックを推察し、それを大人――菊岡に伝えた時点で手を離れている。

 小春も明日奈も警察でもなければ探偵でもなく、一介の女子高生でしかない。後は、菊岡達にどうにかしてもらうしかないだろう。

 SAOとは違い、もう自分たちだけでどうにかしなければいけないわけじゃないのだ。後は、渦中にいる二人の無事を祈るだけである。

 

「そういえば、死銃のトリックってずいぶん杜撰だったけど、実際には二人も犠牲者が出てるのよね?」

 

 明日奈が思いついたように小春に聞いてきた。

 

「うん。菊岡さんから話を聞いた限りだと、そうだよ」

「どうやって実行したのかな……。それって殺人事件じゃなくて、偶然として片づけられようとしてたんでしょう?」

 

 明日奈が言いたいのは、痕跡を残さず侵入し、どのような手段で心臓麻痺を起こしたのかという話だろう。

 小春もその部分は気にかかっていた。だが、BoB本戦が始まる前に一度ログアウトしてきたアリス――深紅から、犯人の情報を得て、ある程度の推理は組み立てていたのだ。

 

「アリスは、中でシュピーゲルって人のお兄さんが犯人だって聞いたみたい。それでシュピーゲルの中の人……新川さんに話を聞いてみたんだけど、お父さんがお医者さん……それも、院長さんなんだって」

「医者……あぁ、そっか、なるほど」

 

 現代では住宅に備えられる鍵はシリンダー錠などの物理的な鍵から電子錠へと殆ど置き換わっている。生体認証やICカードで施錠開錠が出来るタイプのものだ。小春や深紅の住む家も網膜認証と暗証番号でロックがかかるようになっている。

 そしてそれは、例えば自力で鍵を開けられない人物から救急要請があった場合、医療に携わる人物は救急目的の電子開錠キーを使用することがある。

 つまるところ、それをくすねて使用したのだろうというのが小春の推測であり、それを菊岡に伝えたところ同意を得られていた。

 

「そうすると、殺害方法もわかるわね」

「うん。薬……なんの薬かはわからないけど、それも盗んだんだと思うよ」

 

 今頃は菊岡の手によって病院で捜査も行われていることだろう。そこから追跡して、共犯者も見つかればいいのだが。

 

「あれ? でもそれじゃあなんで偶然で片づけられそうになったのかな。薬……毒、になるのかな。それを使えば、検死結果で毒殺って分かりそうだけど」

 

 はて、と首を傾げた明日奈に、小春は少し難しい顔をしながら答える。

 

「VRMMOを飲まず食わずでプレイし続けて、衰弱死しちゃうケースって少なくないんだって。今回もそれと同じで処理されようとしてたみたい。後……遺体の状態が、発見が遅かったみたいで……」

「あー……薬品を注射した跡とかが分からなかったってことね。うぅ、想像しちゃった……」

 

 恐ろしい想像をしてしまったのだろう。明日奈は顔を青くして両腕で体を抱きしめていた。小春もあまりいい気分はしていない。

 

 VRMMO技術が発展し、人々がそれに夢中になってくるとそういった問題が出てくる。

 夢中になり過ぎて現実が疎かになり、その果てには命すらも失ってしまう。

 テレビをつければワイドショーあたりで取り上げられ、芸能人たちが訳知り顔でコメントしていたりするのだ。

 

 だから、死銃事件がVRMMOが原因の死亡事故などという結論を出されてしまえば、今度こそVRMMOは芽をつぶされる事だろう。

 それは、小春としては避けたかった。だからこそ、死銃事件はVRMMOを隠れ蓑にしたただの殺人事件だと証明できたことで、少し胸を撫で下ろしていたくらいだ。

 

 あとは、これ以上犠牲者を増やさなければ……。

 

 事件を起こした犯人側はもう詰んでいる。

 病院に捜査が入る以上、電子解除キーの盗難が明るみに出れば、警察も動く事が出来る。いかにGGOがブラックボックス状態とはいっても、インターネット上に存在している以上、そこに接続した履歴は残る。

 SAO事件やALO事件ではナーヴギアというオーパーツじみた機器であったことと、人命がかかっていたということで後手に回ってしまっていたが、日本の警察は優秀なのだ。安心して任せてもいいだろう。

 

 唯一の懸念点は、アリスの表情が良くないということだろう。

 ボロマントの二人組と出会ってから、アリスはどこか苦しげな――痛みを堪えるかのような表情をしていたのだ。

 そして、その片方と対峙していた時、彼女ははっきりと……キレていた。

 あんな恐ろしい表情は、アリスにしてほしくない。

 

 どんなやり取りがあったかは分からない。小春はただ、アリスが無事に、そして笑って戻ってこれるよう祈りながら、現実世界で眠る彼女の手をぎゅっと握りしめた。

 

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