SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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七色デイズ 4

 二○二五年、五月。

 運営会社が代わり、生まれ変わった新生ALOは大型アップデートが施された。

 

 浮遊城アインクラッドや、ソードスキルの実装。旧SAOアカウントの統合に、そして飛行制限時間の撤廃。

 ゲームの根幹を揺るがすようなその大規模アップデートに、ALOを既にプレイしていた者たちは歓喜し、そして旧SAOプレイヤーを含む未プレイの者たちもこぞってALOを遊び始めた。

 

 かつて打ち上げロケット式に飛翔することでようやく世界樹のいちばん下の枝が見える位までしか飛ぶことの出来なかった妖精たちは、無限の飛翔力を得たことでそのリベンジを敢行した。

 

 目指すは天辺。長年の集大成とするが如く飛翔した妖精たちは。

 

 結果として、到達どころかその景色を見るすら叶わなかった。

 

 何故か。

 それは、世界樹の頂きは巨大な積乱雲に覆われていて、猛烈な暴風と雷が侵入者達を頑として跳ね除けて居たからだ。

 その積乱雲に突入すれば最後、数秒後には雷に打たれて即死するか、暴風でめちゃくちゃ振り回された挙げ句虚空へと放り出される。そして自分の位置を見失い、あたふたしてる内に雷に撃ち抜かれるのだ。

 それは、身を持って体感した事だった。

 

「ねえキリトくん」

「はい」

「あの雲に突っ込んで、何回死んだっけ」

「十回は……行ってないはず……です」

「で、その度にリメインライトになったキリトくんを回収したのは?」

「こ、コハルさんとアスナさんです……」

「デスペナ分を戻すために狩りに付き合ってあげたのは?」

「ギルドの皆様です……」

「良かった。覚えていてくれたのね」

 

 まあ、体感したのはキリトだけなんだけど。

 

 後発組であるわたしは、世界樹の天辺やアインクラッドに突入するよりも先に、アルヴヘイムの世界を見て回っていた。

 そうして一通り観光が終わり、じゃあ世界樹でも目指して見ようかと思った頃には既に積乱雲がバミューダトライアングル状態であることが判明していた。

 そりゃあ突っ込もうなんて思わない。HPが全損しても死なない事は分かってても、無駄死にはしたくない。

 

 けれどキリトは違った。

 

 頑張れば行けるんじゃね? と未発見ボーナスを求めた(あるいは、未踏のダンジョンでのお宝全取りに目がくらんだ)キリトは、何度も何度も突入しては死に戻りを繰り返していた。

 時には無策で突っ込み、時には電気抵抗(雷耐性)の高い革装備で突っ込んだり、武器を浮遊させる魔法を使って避雷針代わりにして突っ込んだり。

 まあ、そんな感じで無事に死亡数カウンターを増やし続けたわけだ。

 最初は仕方ないなぁなんて見守ってたわたし達も、回数を重ねる毎に不安になり、五回を超えたところで匙を投げた。それでもアスナや、我らが聖女コハルは見放さずに甲斐甲斐しく尻拭いをしていたわけだけど。

 

 そこにきて、正面切って『世界樹の天辺が次のクエスト目的地っぽいから行こうぜ!』なんて言ったらそりゃあアスナだって額に青筋を浮かべるというもの。

 おかげでどうやって説得しようと考えていた事が全部ぱあだ。もう。

 

 ピキピキという効果音が聞こえて来そうな程憤懣やるかたない様子のアスナがにっこりと微笑み、焦ったキリトが慌てて口を開いた。

 

「そ、そりゃあもう。今までアスナやコハル達ギルドの皆に感謝した数は、クラーケンの足にある全ての吸盤を足した数より多いさ」

「嫌な例えね……」

「あれ? わたしは?」

「クラーケンの足の数よりは無いかな」

 

 八回以下って事ね。よし誅そう。

 

 鎌を振り上げたわたしを、コハルが抑えながらどうどうとなだめる。命拾いしたねキリト。

 

 さて日は代わって七月二十六日の午後二時。

 昨日の件で例のクエストの続きに目処がついたため、昨日突入したメンバーに招集をかけた。

 平日の日中なのでクラインは仕事の為来れず、アイも何か用事があるとかで欠席。今いるわたし、コハル、キリト、アスナ、少し遅れてやってくる予定のリーファちゃんを入れて五人でのアタックとなる。

 

 今居るこの場所は世界樹中央部に新設された街である《イグドラシル・シティ》。わたし達のギルドハウスである央都《アルン》は世界樹の根本にあるから、ログイン地点を最後にログアウトした場所ではなくギルドハウスからとすることで直ぐに来ることが出来た。

 街の南の端には展望台があり、かつては猛者たちがここから世界樹てっぺんへと出撃していったそうだけれど、今はわたし達以外に誰も居ない。

 旧ALOでは世界樹の根本に存在した守護騎士のドーム。キリトやコハル、そしてアイやリーファちゃんにレコンくん。更にはシルフとケットシーの最大戦力が共闘してようやく突破できたそこは、須郷という旧ALOの管理者が囚えていたわたしを含むSAOプレイヤーの一部を使った実験を隠蔽するために突破不可能な難易度に設定されていたそうだ。

 故に、今のこの巨大積乱雲も同様に『通常にはクリアできない仕様』となっているのではないかというのが大方の予想だそうな。

 

「おっ待たせー!」

 

 下方から勢いよく飛び出してきたのはリーファちゃんだ。

 彼女はわたし達の頭上でくるんと一回転した後、そのまま展望台へと降り立った。

 

「ごめんね、遅れて」

「ううん。だいじょぶ。でもキリトは先に来たのに、どうして?」

 

 キリトとリーファちゃんは一緒に住んでいるから、てっきり一緒に来るものだと思っていたわたしは疑問に思い聞くと、リーファちゃんは「それはね……」とキリトをずびしと指差した。

 

「今日は道場の大掃除があったんだけど、お兄ちゃんは大あくび連発するし居眠りもするし。ある程度終わらせたら、邪魔だからって追い出したの」

「う……」

 

 バツが悪そうにキリトが顔を逸らす。

 普段であればわたしも批難するような目を向けるのだけど、その原因に関わっている為口ごもってしまう。

 

「……そんなに遅くまでやってたの?」

 

 コハルが声を潜めてわたしに確認をしてきた。

 わたしとコハルは寝室が同じ為、昨日の深夜ログインは関知している。一緒に行こうか? と言ってくれたけど、わたしも目的が知らされていなかったし、わたし一人を指名していたからと断って先に寝てもらったのだった。

 

「日付が変わってすぐ位には寝たよ。だからわたしは平気なんだけど……」

 

 キリトが疲労を残しているのは昨夜最後の天誅が主な原因だろうとあたりをつける。

 大鎌持って追いかけ回したからなぁ……。結局逃げ切られてしまったけど。

 

 今キリトはアスナとリーファちゃんからジト目を向けられている。

 ユイちゃんは行動ログか何かを参照したのだろう。何をしていたかは察している様子だったけど、黙ってくれていてくれる。優しい子だねぇ、ユイちゃん。

 

 しょうがない。原因の一端はわたしにあるから助け舟を出してあげよう。

 

「ん。皆揃ったし、作戦会議を始めよ?」

 

 わたしの言葉にキリトは救いの神が現れたかのような表情を浮かべ、アスナとリーファちゃんは納得がいかないながらもしぶしぶと追求の手を下ろした。

 これで九尾の尻尾くらいは感謝の数も増えただろう。リーファちゃんには悪いことしたから後で謝っておこうっと。

 

「それで、どうやって突破しようか」

「「「「うーん……」」」」

 

 皆して考え込んでしまった。

 あの巨大積乱雲(ALOプレイヤーたちは《雷竜の巣》と呼んでいた。空から女の子が降ってきそうな名前だ)の突破方法は、現状は無いとされている。

 突破するためには、フラグとなるクエストが必要なのだろうという認識だけれど、本当のところはどうかわからない。工夫をすれば行けないのかもしれないし、何らかのクエストを踏んでおかないと突破できない仕組みなのかもしれない。はたまた、ここから先は未実装で、アップデートで雲が晴れて行けるようになるとか……あれ、なんだかそんな気がしてきた。

 かといって諦めるわけにはいかない。ゴリ押しになろうとも、無茶を通せば進める可能性があるのなら。やってみる価値はある。

 

「んー、また俺が突っ込むから、死んだら回収。それを繰り返して数うちゃ当たるのトライアンドエラーとか」

「いやいや」

 

 何を言ってるんだこの男は。

 やれやれと首を振ると、アスナとコハルも追従するようにうんうんと頷いた。

 

「せっかくさ。誰も見たことがない世界樹のてっぺんを見れるかもしれないっていうこの大チャンス。独り占めをするつもり?」

「そうだよ! 私だって、たまにはフォワードをやりたい!」

「私も、皆で思い出が作りたい、かな」

 

 こんな絶好の冒険の機会。皆で共有したいに決まってる。

 キリト一人に押し付けて、クエスト見つけた! はい終わりなんて、味気が無さすぎる。

 

「えぇ……そんなこと言ったって、全員死んだら誰がリメインライトを回収するんだよ。それに、アリスお前、無駄死には嫌だって前に言ってたろ」

「無駄死にはね。けどこれは、次に繋げられるチャンスかもしれないでしょ?」

「……というと?」

 

 わたしだって、冒険がしたいから! といって勝算もなしに突貫するほど考えなしじゃない。

 ごめん嘘。たまにはするかもしれない。楽しそうであれば突っ込んじゃうかも。けど今回に限っては、勝算が無いわけじゃなかった。

 

「今まで、わたし達は一人ずつ雲に挑戦してたでしょ? 反応速度の良いキリト、直感に優れたアスナ、機転がきくコハル。わたしも、目の良さなら自信があるから、もしかしたら何か見つけられるかも。それに何より……」

 

 そこまで言って、わたしはスグちゃんを手招きし、とことことやってきた彼女をぎゅっと抱きしめた。

 

「飛ぶことに関してはわたし達――ううん、ALOで一番のリーファちゃんがいる! 皆で力を合わせれば、もしかしたら突破できるんじゃないかな?」

 

 あくまでも希望的観測でしかない。

 けど、あながち見当違いって訳でもないだろう。

 

 わたし達なら――わたしが大好きな、この仲間達と一緒なら。

 

 

 

 きっと、どんなことだって出来る。

 

 

 

「……あのね…………」

 

 すると、リーファちゃんがおずおずと言葉を発した。

 

「あたし昨日、夢をみたの。空のずぅっと高い所から、虹の橋が降りてくる夢。その橋をずんずん昇っていくと、先の方にすっごく大きくて、とってもきれいな門が見えて……でも、そこに辿り着く前に、目が醒めちゃった」

 

 少し照れくさそうに、おどけて舌を出した彼女は、視線を青空へと向けた。

 

「そんな夢を見たのはきっと、ゆうべシルフ領の海岸で、みんなとアース神族の話をしたからだと思うの。……神話だと、アース神族は《アースガルド》っていう国に住んでるんだけど……」

 

 その話は、以前リーファちゃん……スグちゃんに聞いたことがあった。

 たしか、北欧神話だと世界は九つの国に分かれてて、ヴァナ神族の住む《ヴァナヘイム》や、氷の国の《ニブルヘイム》とか……だったはず。

 

「空のずーっと上にあるアースガルドからは、地上に向かって虹の橋が架かってるの。橋の名前は――」

 

「「《ビフレスト》」」

 

 わたしがリーファちゃんの声と合わせてその橋の名を告げると、リーファちゃんはハッと目を見開き、「覚えててくれたんだ」と嬉しそうにはにかんだ。

 わたしの大切な親友が話してくれたことだもの。忘れるもんか。

 

 そんなわたし達二人の様子を見て、アスナが朗らかに言う。

 

「もし全滅しちゃっても、街に戻ってからみんなで狩りに行けばいいよ。わたし達なら、すぐにデスペナも取り戻せるよ」

「ディアベルさんや、アイちゃんも呼んで、また七人で大暴れするのも面白そうだよ」

「私も精いっぱい皆さんをサポートします!」

 

 コハルも続き、更にユイちゃんまでもが声を上げる。これで、キリト以外が全員での突破を希望した。

 やがて、キリトもはぁ……と大きくため息をつき、にっと笑う。

 

「そうだな……。じゃあ、全員で行くか!!」

 

 キリトが頷き、五人とユイちゃんが異口同音に威勢よく叫び、拳を突き上げた。

 

「「「「「おー!!!」」」」」

 

 こうして、わたし達の挑戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 装備を確認した後、積乱雲の手前までたどり着いたわたし達は一度ホバリング状態で待機していた。

 

 鮮やかな純白の巨塊――《雷竜の巣》は、直径も高さも五〇〇メートルはありそうで、世界樹の頂きをすっぽりと隠してしまっている。

 

「現実世界のスーパーセル……えと、巨大積乱雲は直径十キロもあって、高さは更に二、三倍もあるんだって」

「へぇー……」

 

 コハルの講釈を聞きながら、わたしは改めてこの積乱雲を見上げる。

 たしか入道雲ともいうんだっけ。あれはまた別物だったかな……?

 現実での大きさを聞くと、500メートルとは大した大きさではないように思えるけど、実際に目の前にそびえるこのもくもくの塊は、数字ではわからないような威容を感じてしまう。

 

 まあいいや。わたしはこのもくもくとした雲を見て、改めて思った事がある。

 

「ホイップクリームみたい……」

「あー……メイド喫茶でよく使いそうだよね、ホイップクリーム」

 

 そうなのだ。

 わたしの働くお店は軽食類を提供しているのだけど、その中にパンケーキがある。

 パンケーキの上にたっぷりホイップクリームを乗せ、お好みでフルーツを添える。その上から、お客さんの目の前でシロップをかけてあげるのだ。

 最初は緊張してたけど、今は普通にこなせるようになったなぁと懐かしんでいると、アスナが笑いながら

 

「あははは。じゃあ、これが終わったら食べに行こっか。イグシティに、すっごくおいしいパンケーキのお店が出来たらしいよ」

「ほんとですか!? あたし、パンケーキ大好き!! 十枚食べよっと!」

 

 と、リーファちゃんが締めた。

 たまには自分もパンケーキを食べる側になるのもいいかもしれない。

 甘いものは、好きだし。横を見れば、コハルも嬉しそうに微笑んでいる。

 

「あれ、デスペナ戻しの狩りの話は……?」

 

 約一名、ついてこれてない異物が居ますね。

 と思いきや、何を思ったのか。

 

「じゃあ俺は百枚食べる!!」

 

 と声を張り上げた。

 それは楽しみだ。期待して待っておこう。

 

「それじゃあ最終確認しよう。雷を避けるのは無理なんだよね?」

「ああ。十回死んだ経験から言うと、無理だな」

 

 キリトが無理だというなら、他の誰でも無理だろう。

 というか、死んだ回数は十回行ってないんじゃなかったのか。や、まあいいや。

 

「という事で、最短距離――つまり、まっすぐ最速で突っ切るのがベターかなって思うんだ」

 

 飛翔のスピードは、種族にもよるけれど最高で時速八〇キロ程。それで五〇〇メートル程を進まなきゃいけないのだから……えーっと、距離割る速度で……二十二秒とちょっと。

 積乱雲は世界樹のちょうど真ん中にかかっているから、実際にはその半分、十一秒程で世界樹のてっぺんが見えるはず。だからその間、雷に当たらないようお祈りをしなければならない。

 

 ……いや、その推測は違った。延べ人数でいうと、何千人と挑戦者が居るはずなのだ。

 なのに一人の例外もなく、視界に捉えることすら出来ず撃墜されている。

 恐らくその雷は、何らかの条件で回避も防御も不可能な即死ギミックとなる。

 

「突入結果がインターネットで纏められてたけど、早ければ一秒、長くても十秒くらいでやられちゃってるみたいだよ。」

 

 脅威は雷だけじゃない。この雲の中を吹き荒れる暴風もまた、平衡感覚を狂わせ、油断すればあっという間に外にはじき出されてしまう。そうでなくとも、バランスを崩したとたんにごろごろぴしゃーん、だ。

 

 必要なのは、強固な一体化と、わたしたち全員を個として、それぞれの推進力を合わせられるような陣形。

 

「というわけで皆、《星》を組もう」

 

 《星形結合(スター・バインド)》という集団飛行テクニックがある。

 わたしは両隣のコハルとリーファちゃんではなく、正面のキリトとアスナにそれぞれ手を繋いだ。

 他の皆も同様にすることで、アバターを頂点として一〇本の腕で星を描く。

 こうすることで、それぞれの飛翔が外付けブースターのように合わさりスピードが向上する上に、別の陣形よりも強固に一体化できる。

 各々が出せる最高速度が違うから、全員が全員に合わせなければあっという間にバランスが崩れてまっすぐに飛べないんだけど……皆なら一発で合わせられるはず。

 この陣形で水平に飛ぶと二人が背面飛行をすることになるから、それは飛ぶのが一番上手いリーファちゃんと、次に上手いキリトが担当することになった。

 

 全員で顔を見合わせる。覚悟はいい?

 

「よし……それじゃあ行くぞ……カウントダウン! 五!」

 

 キリトが吠える。

 

「四!」

 

 アスナが

 

「三!」

 

 リーファちゃんが

 

「二!」

 

 コハルが

 

「一!」

 

 最後は全員一緒に。

 

「「「「「ゴー!!!」」」」」

 

 五対の羽が、それぞれの輝きを迸らせ、わたし達は大砲から打ち出されたように加速する。

 三〇〇メートル程のランアップからマックススピードへと到達したわたし達は、弾丸の如くスーパーセルのど真ん中へと突入。

 

 純白だった視界が、たちまち暗くなっていく。じっとりとした息苦しさ……空気の密度が増して、飛行速度が僅かに鈍らせられる。

 

「……来るよ!」

 

 暗がりの先、わずかな前兆が見えたわたしが叫ぶと同時

 

 ズガァァァン! と凄まじい爆音が轟、ほんの数メートル離れた所を極太の雷光が貫いていった。

 初挑戦だけど、確かにあれは見えても避けられないや。

 

「……っわぷ」

 

 次に襲ってきたのは、横殴りの突風。

 一人なら煽られて進行方向を見失ってしまったかもしれないが、わたし達五人分の重量と推力でなんとか乗り切ることが出来た。

 

「連続で来るよ! 一、二、三!」

 

 カウントと同じタイミングで、至近距離を極光が迸る。

 見えるんだけど、前兆から放雷までが速すぎて反応しきれない。

 

 まだ十秒を超えられないのか。いや、まだほんの数秒しか経っていないかもしれない。

 その時、わたしの正面を飛ぶリーファちゃんが……風を読むことでは他の追随を許さない彼女が声を張り上げ叫んだ。

 

「真下からすごい風がくる! 逆らわないで、風に乗るよ!!」

 

 下……ってことは、わたしから見て真正面。それを認識した瞬間、暴力的なまでの突風が襲い掛かってきた。

 

「わぶぶぶ……」

 

 風が強すぎて目が開けられない。

 わたしの最大の強みが封じられてしまい、途端に不安に襲われる。

 

 本当にわたし達は突破できるのか。

 そもそも、この先には何も存在しないのではないか。

 

 じわじわと心を蝕む闇を振り払ったのは、力強い親友の言葉だった。

 

「絶対に、皆で虹の橋を見るんだ……ここ!!」

 

 彼女の声と同時に、ぐん、と体全体が持ち上がるような感覚が襲ってきた。

 真正面から浴びていた風が、足元から吹いている。

 まだ目は開けられないが、これは、水平飛行から急激にターンして上昇飛行に変わってしまったのか。

 

 これでは元の進行方向がわからない。

 失敗してしまったのか。

 ……いや、違う。

 

 風に乗って、わたし達の飛ぶスピードが限界を超え、かつてない速さに達している。

 だけどここで速さに臆してしまったら、きっと撃たれる。

 

 それなら、更にアクセルを踏み込め!!!

 

「行け……!」

 

 誰が最初に口にしたか。

 それはわからないけれど、今、この瞬間。皆の気もちは一致していた。

 繋いだ手、そして触れ合う肌から仲間達の勇気が伝わってくる。

 

「行け…………っ!」

 

 行ける。

 

 雷も、風も、音すらも置き去りにして。

 五人でまだ見ぬ頂点へと。

 システムに規定されたデスゾーンすら超えた《何か》

 作られた仮想世界に真の物語を生み出す《何か》に触れる事が。

 

 出来る。

 

「いっ……けぇぇぇぇぇぇ――――ッ!!!」

 

 直後、わたし達を包んでいた風も音も、繋ぎ触れた肌から伝わる温度以外のすべてが消失した。

 

 嘘のような静寂の中、わたしは閉じていた両目をゆっくりと開いた。

 

「っ……!」

 

 飛び込んできた眩い白光に、目を刺すような痛みを感じて薄目になる。

 徐々に慣れた目を、今度こそ開く。

 あの、光は……もしかして……。

 

「う、わぁ……」

 

 広大な、純白の球状空間がそこにあった。

 差し渡しは、三〇〇メートル程。中央部を緑色の柱が垂直に貫いている。

 柱の根元は白い壁に沈んでいるけれど、鋭い先端は天井近くに視認できる。

 

 間違いない。あれは。あの柱は。

 

「世界樹の……てっぺん……」

 

 

 

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