SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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七色デイズ 5

 誰もが、何も言えずにいた。

 白亜の空間で、一様に押し黙り、現実を受け止めきれないでいる。

 

 まさか。

 

 まさかわたし達が、突破不可能と言われていた《雷竜の巣》を突破できるなんて。

 勿論突破するつもりではいた。けれども、本当に突破してしまった事がまだ実感出来ていない。

 

 ここが、巨大積乱雲の内部。

 ここが、世界樹のてっぺん。

 

「……うそみたい」

 

 アスナが不意につぶやいた。

 

 本当に。嘘みたいだ。

 わたし達は顔を見合わせ、じわじわと湧き上がってきた達成感と、歓喜の感情を解き放つべく「やったー!」と声をあげようとして――

 

「皆さん! 何かが来ます!」

 

 寸前で、キリトの胸ポッケトからユイちゃんが飛び出し警告を発した。

 その言葉を聞くやいなや、全員が警戒態勢を取った。

 わたしとコハル、リーファちゃんで前方180度を。キリトとアスナで後方180度を。

 背を合わせ、どこから現れようとも対応が出来るように身を低く、そして剣の柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜いた。

 

 このドーム状の雲の中は、一切が静寂に包まれていた。

 背後の雲の壁の外ででごろごろと蠢いているはずの雷鳴さえも遮断され、耳に届くのはそよそよと揺れる世界樹の枝葉の音のみ――

 

 違う。

 かつん、かつんと硬質な床を叩くような足音がした。

 周りが静かで、かつ半球形の場所であるため足音が反射しているが……。耳を澄ませば、発生源は割り出せる。

 

「……上!」

 

 わたしの言葉に、皆が一斉に上空――ドームの天蓋を見上げた。

 

 太陽こそ見えないが、白い輝きが降り注いでいるため思わず目を細めた。

 その先で人形のシルエットが、まるで見えない階段を降りているかのように、なにもない空間を下ってきている。

 

 警戒を解かずにその様子を見ていると、やがてその影は威容を晒した。

 

 それは、ゆったりとした長衣を纏った、痩身長躯の青年だった。

 青みがかった銀髪が重力に逆らうかのように後方へと逆だっており、その額には細身のサークレット。

 羽もなく、また耳も尖っていないため、人間のようにみえるけど……

 

 ただ、この人……NPCからは、言いようもない威圧感を感じる。

 剣も杖も持っておらず、無防備であるというのに、わたしは……いや、わたしだけではなく全員がじり、と後ずさった。

 

 男は全くペースを乱さずに、ゆっくりとした速度でわたし達から5メートル程離れた場所に降りてきた。

 

 そして声を発した瞬間、男の頭上にカーソルと名前が表示される。

 

「妖精たちよ、剣を収めなさい」

 

鋭く研ぎ澄まされた、硬質な鋼のような美声。表示された名前は――【Hraesvelg the Sky Load】

 

「空の王……フレースヴェルグ……」

 

 口をぱくぱくと閉口させ、あえぐような声音でリーファちゃんが呟いた。

 ん? 空の王……ってなんか引っかかるような。

 

 それについて思考を回そうとした直前、キリトがわたしの脇腹を突っつき小声で言った。

 

「剣しまえ! 剣!」

 

 慌てて抜刀していた剣を背に納め、臨戦態勢を解除する。同じように皆も納刀し、構えを解いた。

 

 さて、フレースヴェルグという名前は確か、リーファちゃんが以前に話してくれた事があるはずだ。世界のあらゆる風をおこした鷲……なんだっけ。どう見ても人形で、翼もなければ嘴もないのだけど。

 それはALOナイズされたということで良いとして、空の王という肩書。つまりこの青年は、《深淵の王》や《海の王》と同等クラスのNPCということじゃないだろうか。だとすれば、指の一振りでわたし達はたやすく吹き飛ばされてしまうだろう。

 

「ねえ、この人クエスト開始のマークが無いよ」

 

 わたしの耳にそっと顔を寄せたコハルが囁いた。

 見れば確かに、フレースヴェルグの頭上にはNPCであることを示すアイコンが浮かぶのみで、黄金の!マークが存在していない。

 どういうことだろうか。この場所ないし彼が《深海の略奪者》から始まるキャンペーンクエスト第二章を受けられる所ではないのか。だとすれば、彼がこの場に現れた理由が分からない。

 

 そんな疑問が内心渦巻いている最中、フレースヴェルグはわたし達を見下ろすように眺めた後、ふむと呟いた。

 

「なるほど。小さき妖精が如何にして我が嵐の結界を破ったのかと思ったが、海の王の加護を受けているのだな」

「え……海の王って、リヴァイアサン……ですか?」

 

 キリトの困惑したような質問に、フレースヴェルグは表情を変えずに頷いた。

 

 海の王の加護? あの巨大なおじさんにはクジラに乗せてもらって外まで送ってもらえた事はあったけど、加護のようなものを受けた記憶は無い……はず。ステータス上にもおかしな所は無かったはずだし。

 

 しかし、フレースヴェルグが嘘を言っているようにも思えない。ということは、あのリヴァイアサンに地上まで送られる事が、積乱雲を突破する条件だったのかな……?

 だとすれば、気付けるわけがない。

 

「だが、妖精たちよ」

 

 不意に、フレースヴェルグの声に怜悧な鋭さが宿った。

 

「いかに海の王の知遇を受けようとも、《空の御室》に近づく事は許されない。あるいは、お前たちは深淵の王に与する盗賊なのか」

「「「「「違います!!!!!!」」」」」

 

 慌てて発した否認の声が見事に唱和した。

 それを聞いた空の王は再びフムと頷く。

 

「そうか。ならば、速やかに立ち去るが良い」

 

 えぇ~……。

 この時、先の唱和と同様に、わたし達の……少なくともわたしとキリトの思惑は一致していた。

 ここまで苦労して、関係性匂わせただけで終わりなんてある? という落胆だ。

 

 さっき、フレースヴェルグははっきりと《空の御室》と口にした。恐らく、そこがリヴァイアサンの言っていた《新たな御室》のことだろう。や、もしかしたら《地の御室》とかそんなところがあるかもしれないけれど。現状の情報ではそこが一番可能性が高いだろう。

 ということは、だ。

 このドームの中に、安置されている《御子の卵》があるかもしれないということで……。

 

 ちらり、と視線だけを動かして眼下をみやる。

 よく見れば、幹の下部に門らしきものがある。幹の内部が海底神殿と同じくダンジョンとなっているのかもしれない。

 

 ――未発見のダンジョン! 行きたい! 具体的には中の手つかずの宝箱を開けまくりたい!!

 

 と、キリトは考えているだろう。再び視線を動かしちらりと横を見れば、溢れんばかりの好奇心が表情を輝かせていた。

 気持ちはわからんでもないけど、というか、大いに共感はするけれど、今は我慢しようね。今行ったら怒られるから……空の王と、あとアスナに。

 コハルも同様にキリトの表情を伺い見たらしく、苦笑している。

 

 その時、突然ふわりと前に進み出たリーファちゃんが空の王に向けて叫んだ。

 

「あ、あの! 帰る前にひとつだけ教えてくれませんか!」

「何かな、妖精の娘よ」

「橋は……アースガルドに繋がる虹の橋は、ここには無いんですか!?」

 

 途端、空の王の金褐色の瞳が、猛禽のように鋭く細められた。

 

「何故それを知りたいのだ。妖精の娘よ。橋を渡り、アース神族どもに謁見しようとでもいうのか」

 

やはり、会話能力が他のNPCと比べて突出している。

 街のNPCだと、想定されていない質問等については分からないと答えて貰えないのだけど、今のやりとりとして、御室や御子とは全く関係のない、虹の橋はあるのかという質問に対しての答えがこれだ。

 それすらも想定されていたのか、はたまた、この世界を制御している、運営とはまた別の神が生み出した存在なのか。正体は神のみぞ知る……ってね。

 

 わたしとは別の理由で沈黙していただろうリーファちゃんが、絞り出すようにして声を発した。

 

「……違います。神様に会いたいのではなくて……ただ、知りたいんです。ここが果てなのか、それとも、まだ先があるのか……」

 

 普通のNPCだと、答えられないような抽象的な質問。

 それに対して、空の王はかすかにだが、笑みを浮かべた。

 

「小さき妖精には過ぎたる望みだな。娘よ。空の王を名乗る私でさえ、九界の果てを見たことが無いのだから」

「……はい……」

 

 空振りか、と思われた時。空の王は「だが」と続けた。

 

「一つだけ教えよう。虹の橋ビフレストは確かにアースガルドから生じているが、届く先はそなたらの国ではない」

「え……!?」

 

 これにはリーファちゃんだけでなく、わたし達も目を丸くした。

 現在ALOに実装されている国は、わたし達妖精の住むアルヴヘイムの他には地下世界ヨツンヘイムしか無い。

 かといって、地上をすっ飛ばして地下まで伸びているとも思えず、そもそもそんな橋が存在しているのであれば既に発見されているはずだ。

 

 しかし空の王はこれ以上のヒントは与えてくれないようで、謎めいた笑みを浮かべたまま一歩下がった。

 

「では、そなたらの街に帰るがよい」

「え、またあの嵐を通り抜けなきゃならないの……?」

 

 つい、口に出してしまった。

 すると空の王が途端に厳しい顔つきになった。まずい。

 

「その覚悟も無く我が結界に挑んだのか」

 

 ごもっともではあるが、突破する意気はあれども往復するとは思わないだろう。

 幸い、怒りの雷が落ちることは無かったが。

 

「……今回は、海の王との友誼に免じて外に送ってやろう。だが妖精たちよ、もう二度と、正しき役目を帯びること無くこの場所に来てはならんぞ」

「「「「「はい!」」」」」

 

 背筋をまっすぐ伸ばし、本日何度目かの唱和に、空の王の表情にほのかに苦笑が浮かんだような気がした。

 そして長衣の袖をすっと掲げ――

 

 これはもしかしたら、海の王と同じく帰りのタクシーを呼んでくれるのか。

 今回は空だから、巨大な鳥か、はたまたドラゴンか。

 そんなわたし達の期待はあっけなく裏切られた。

 

「さらばだ、小さき者たちよ」

「へ?」

 

 空の王が、右手をさっと振る――その軌跡に、透き通ったな猛禽の翼が見えたような気がした、その瞬間。猛烈な竜巻が巻き起こり、わたし達を飲み込んだ。

 

「ふわぁぁぁぁぁァッ!?」

 

わたしだけでなく、他の4人も合わせて悲鳴を上げながら巻き上げられていく。

 あっと言う間に空の王が遠ざかっていき、その代わりにドームの天蓋へぐんぐんと近づいていった。

 え。どちらにせよそこ通るなら嵐の中じゃん。

 そんな事を思った時、天井――眼の前に小さな穴が空いた。ああ、未来から来た猫型ロボットのアニメのようだ。

 

「コハル!」

 

 穴に吸い込まれそうになったコハルの手をがしっ、と強く握る。すると

 

「アリスちゃん!」

 

 反対の手を、リーファちゃんが握り、そのリーファちゃんの手をアスナが握る。

 そうして最後に、アスナの手をキリトが握ることで5人が連結することが出来たけど……ここで打ち止め。そこから先には続かない。

 

 かと思いきや、ぐん、と穴とは逆方向に引っ張られる感覚。

 見上げると、なんとキリトが木の枝――垂直に伸びる、細い、世界樹の先っぽを掴んでいるではないか。

 

 ……まずくない?

 

「ぬ、ぬぬぬぬ……!」

 

 なんか抗ってるんだけど。

 

「あの、キリトくん……!」

 

 アスナが焦ったような声を上げた。

 

「大丈夫……! この手は、絶対に、離さない……!」

 

 なんでよ。

 離そうよそこは。なんで抗ってるのさ。

 

「お、お兄ちゃん! その枝握っちゃ行けないやつじゃないの!?」

「キリトさん、王様が怒っちゃうんじゃぁ……!」

 

 わたしの上でリーファちゃんが、下ではコハルが、それぞれ難色を示していた。

 

「折れちゃったらどうするのさ!」

「そ、そんな……俺はみんなを助けようと……」

 

 いやまあ、世界樹なんだし破壊不能オブジェクトに設定はされているんだろうけど!

 だけどあの細枝では、五人分の体重――だけでなく、吹き飛ばそうとする風の勢いまで支えきれないんじゃないかと不安になってしまう。

 

 その時。

 キリトが握る細枝の、ずっと下方。世界樹の幹の一角から、勢いよく影が飛び出した。

 

 空の王ではない。彼よりも、もっと大きく、そして二枚の翼に長い首、長い尻尾が生えている。

 その影の正体は、アルヴヘイムにおいてもおいそれと見かけることのない、最強クラスのモンスター――ドラゴンだった。

 

 ドラゴンはまっすぐわたし達を見上げると、空間を揺るがすかのような咆哮を轟かせた。がばりと開いた口から覗く鋭い牙には、ばちばちと紫色のスパークがまとわりついている。

 

「ほらぁ!! なんか怒ってるじゃん!!」

 

「わ、わ、解った! 三つ数えたら放す! だから穴に飛び込む準備だけし――」

 

 ごうごうと唸る風も、紫電迸らせる竜の咆哮も響く最中、ある一つの音だけがはっきりと耳に届いた。

 

 ぽっきいぃぃぃん!

 

「あ」

 

 それは、多分全員の口から発せられた声だったと思う。

 キリトが握っていた枝が、爽快な音を響かせ折れたのだ。

 

 命綱を失ったわたし達がどうなるか。答えは火をみるより明らかだろう。

 

「「「きゃああああっ!?」」」

「うおおおおおっ!?」

「やっほ――――う!」

 

 思い思いの悲鳴(一部歓声)を上げながら、わたし達は穴に吸い込まれ、右へ左へと振り回される。

 まさかの絶叫アトラクションに、その名の通り絶叫しながら三十秒以上も翻弄されたころ、コハルと繋いだ手の先、進行方向が明るくなってきた。外か! と思う間も無いまま光へと飛び込み、わたし達は手と手で連結したままシュポシュポッと放り出される。

 

 眼前一杯に広がるコバルトブルー。ようやっと勢いが弱まった事を確信し、羽を広げて急制動をかけると、リーファちゃんと繋いでいた手がすっぽ抜けて、同じく制止しようとしていたコハルの胸に飛び込み抱きしめられた。

 

「わぷ」

「わっ」

 

 驚いたような声に顔を上げてみれば、コハルはニコニコとした笑みを絶やさず、わたしをぎゅっと抱きしめる。

 

「ふふ」

「あはは」

 

 お互いに笑みを交換し、ふと後ろを振り向けば、キリトも、アスナも、リーファちゃんも、誰もが笑顔を浮かべていた。

 そっと、コハルから身を離し、手を引いて皆の元へ。

 

「ふ」

「ふふ」

「ふふっ……はは」

「「「「「あはははははははは!!!」」」」」

 

 全員が一様に、堰を切ったようにお腹を抱えて呵々大笑する。

 

「行っちゃった! 行っちゃったよわたし達!」

「突破不可能の積乱雲の中に!」

「世界樹のてっぺんに!」

 

 ひとしきりゲラゲラと笑い転げ、ぜいぜいと肩で息をしながら浮かんできた涙を指で拭う。

 

「あー。おかしい。おじさんに卵を持っていくクエストで、卵を渡さないって選択がここを突破する鍵になるなんて」

「そんなの分かるわけないよぉ!」

「しかも、せっかく突破したのにすぐに帰れだなんて……意地悪すぎるわよ、もう……ふふっ……」

「無理やり残ろうにも、相手は勝てるわけのないボス級モンスターに、しかもドラゴンまで控えてるんだろ? ははっ……鬼畜すぎるだろ」

「でも……これで分かったよね。あの《深海の略奪者》クエストは……」

 

「「「「「続いてる!」」」」」

 

 コハルの台詞を引継ぎ、皆で頷きあう。

 空の王はこう言っていた。

――もう二度と、正しき役目を帯びずにこの場所へと来てはならぬ。

 それはつまり、正しい役目を帯びていれば来ても良いということだ。

 

「やっぱクエストフラグが足りなかったかぁ……。結局虹の橋も見つからないし、どうしたもんか」

 

 あそこにはダンジョンがあり、《空の御室》もある。物語の続きがあそこにあるのなら、そこに至るまでのピースは必ずこの世界のどこかにある。なら、いつか必ず見つけられる。

 ただ一つ残念なのは、キリトの言った通り、あの場所で虹の橋を見ることが出来なかった事なんだけど――

 

「あ……それなんだけどね」

 

 落ち着きを取り戻した様子のリーファちゃんが、内部での事を思い返すように、下方に見える積乱雲を見ながら言った。

 

「フレースヴェルグさんが言ってた、虹の橋はアースガルドから始まってるけど、繋がる先はミッドガルじゃないって言葉。それ聞いて思い出したんだけど、神話だとビフレストは、アースガルドとミッドガルドを繋いでるんだ」

 

 ミッドガルド。それは確か――

 

「人間の国……だっけ」

「うん、そう」

 

 首を傾げる三人の代わりにわたしが答えると、リーファちゃんは嬉しそうに微笑み頷いた。

 

「人間の国……って、私達のいるこのマップじゃあ……」

「ううん。でもアルヴヘイムは妖精の国だから、違うんじゃないかな」

 

 アスナとコハルが顔を見合わせ、うーん、と腕を組み唸る。

 わたしもキリトを見、視線で問いかけるも彼は首を振って「わからない」と答えた。

 リーファちゃんはわたし達を見ながらニコニコと微笑むだけで何も言わない。

 

「あ! 分かりました!」

 

 そんな時、アスナの肩に腰を下ろしていた小さな妖精――ユイちゃんが声を上げた。

 

「え? 分かったの? というか、もう実装されてるの?」

 

 てっきり、今後のアップデートで追加されるものだと思っていたわたしは驚いてユイちゃんに聞き返した。するとユイちゃんはえっへん! と可愛らしく胸を張り、アスナの肩から飛び立つと空の一方を指差した。

 

 目を凝らしてみる。そこに広がるのは、雄大なコバルトブルーの空と、わずかに浮かぶちぎれた雲だけ――ではなかった。

 

「あ……ああっ……!」

 

 合点がいって、思わず目を見開いて声を上げる。

 キリト達も答えが分かったらしく、あんぐりと口を開けていた。

 

「アインクラッド!!」

 

 わたし達と同じくらいの高さに浮かぶ、小さな――遠くにあるためそう見えるだけの――空に浮く鋼鉄の城。

 なるほどあそこに住むNPC達は確かに、羽もなければ耳も尖っていない、人間だと言える。

 

「私はそのように推測します!」

「うん。あたしもそう思うよ。今はまだ橋はかかってないけれど、例えば百層を攻略したら――虹の橋が現れるんじゃないかなぁって」

 

 二○二五年七月現在、SAOは第十一層から二十層までのアップデートを控えている状態だ。今後のアップデート速度がどうなるかはわからないけど、そう遠くない内に百層まで実装されるとは思う。早くても数年後だろうけど。

 でも、百層かぁ。ボスのみとはいえ、九十九層突破まで行けた(百層ボスは存在しなかったため)ことあるけど、あれは無敵チートがあったのと知識チートが一緒に居たからであり、更には今の難易度HELLアインクラッドだとどれだけ時間がかかることやら。

 

 でもまあ、うん。

 目指してみるのも、良いかもしれないね。

 

「よーし、俺達が百層に一番乗りしてやろうぜ!」

 

 とキリトが大きな声を上げながら、その左手に持つモノでアインクラッドを指した。

 しかし追従する掛け声はなく、わたしも含め、コハルやアスナ、リーファちゃん。そしてユイちゃんすらもキリトの左手――にあるそれに視線が釘付けになっていた。

 

「……な、何か間違ったこと言ったかな……?」

 

 実に不安そうな声で、キリトが問いかけてくる。

 けどごめんね。問題はそこじゃないんだ。

 

「言ってないけど……キリトくん、それ、持ってきたんだ……」

 

 アスナの指摘に、キリトが自身の左手へと視線を移す。

 長さ一メートル半はありそうな、細長い木の棒。白い木肌はユーカリの木のようにきめこまかく、先端近くが渦を巻き、その先には二枚の大きな葉が輝いている。

 それは間違いなく、世界樹の一番高い枝だった。

 

「あ…………も、持ってきちゃった……」

 

 キリトの「やっちまった……」という悔恨の滲んだ声が、無限の青空に溶けて行った。

 

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