「という事があって、キリトはうっかり伝説級武器を手に入れちゃったのでした」
世界樹の枝を折っちゃった事件を、その前の出来事も絡めて話し終えると、知っていたアスナやコハル、リーファちゃんに、後から聞かされたアイは苦笑を漏らし、シノンとシュピーゲルが呆れたように嘆息をした。
「改めて思ったけど、常識はずれなギルドよねここって」
「言っとくけど、シノンも十分常識はずれ仲間だと思うよ僕は」
やれやれと肩をすくめるシノンにシュピーゲルがしれっと毒を吐くと、シノンは信じられないといった表情でわたしを見てきた。いやそんな驚いたようにこっちを見られても。
シノンは弓使いだ。しかもALOでは一般とされる素早さを活かしたショートボウ使いや、力の強さをたよりにヘビーバリスタでの固定砲台と化すでもなく、視力が一番良いケットシーと射程の長いロングボウを組み合わせたスナイパービルド。
それでシステムアシストの及ばない、火属性魔法の射程よりも遠いところからズバズバと矢を当ててモンスターをハリネズミにする様はまさしく常識はずれだ。
ちなみにそんなシュピーゲルも、一見常識人に見えるが英雄譚にお熱であり、特にSAO生還者で当時活躍したプレイヤーが係ると暴走する、シノンとはまた違ったタイプの変わり者である。
そういえば、彼は英雄譚が好きということで神話にも詳しく、リーファちゃんと気が合っていた。
「それにしても、二人ともまさかシルフの領主館に侵入するなんて……」
アスナの責めるような視線が、わたしとキリトを貫く。
だが待ってほしい。わたしは被害者だ。
「あれはキリトが言ったからしかたなく……」
「ちょっと待て! お前も後半ノリノリだっただろうが!」
「二人とも同罪です! 全く……サクヤさんが寛大だったからいいものの、下手したら外交問題になるんだからね!」
「「ごめんなさい……」」
アスナに怒られてしまい、しゅん、と肩を落とすわたしとキリト。
確かに彼女の言う通り、わたしの行動でギルドの皆に迷惑がかかるかもしれなかったのだ。反省しなければならない。
コハルは何も言わずにわたしの頭を撫でて慰めてくれているけれど、今後はうかつな真似は出来な……うーん、善処しよう。絶対とは言えない。
「いいなぁ、私も積乱雲の中に行ってみたかった」
と、アイがとててっとわたしの方へと駆け寄り、そのままわたしの膝の間に収まって胸に背中を預けてきた。
よしよし、可愛い奴め。初期メンバーの中で唯一行けなかったから寂しくなっちゃったんだね。
けどごめんね。わたし達は既にクエストをクリアしてしまっているから一緒には行けない。ただ、ディアベルと、最近仲間になったシノン・シュピーゲルのペア。そして以前一緒にいけなかったシリカちゃんとリズ、サチに、積乱雲突入時には居なかったクラインと、未到達のメンバーにあてはあるからその人達と一緒にやってもらおう。いざとなればエギルやキバオウ、ノーチラスやユナの大人組に声もかけられるし。
「皆、こんばんは」
「ディアベル!」
カラコロとドアプレートを鳴らしながら魔王が入室してきた。字面だけみると怖いけど、中の人はナイトたるディアベル。わたし達ギルドの頼れるタンクであり、恐怖等抱くはずもない。
「ゼミの合宿があったんじゃないの?」
「いや、それは今朝までで終わって、ついさっき帰ってきたところだよ。ところで皆揃って何か話してたようだね。随分楽しそうだけど、何を話してたのかな」
タトゥーの走っている見た目はおっかない表情を崩し、人好きのする笑みを浮かべたディアベルはよいしょ、とアイがこっちに来たことで空いた、リーファちゃんの隣へと腰を落とした。
「《世界樹の枝》を取った時の話をしてたんだ。それで、これとは別にギルドメンバーで伝説級武器を探しに行こうって話しだ」
「なるほどね……」
キリトの説明に、ふむとディアベルが頷いた。
「オレも明日からは暇になるし、《世界樹の枝》を手に入れた時は共に行けなかったから是非同行したいな」
「おっけー。それじゃあアイとディアベルは固定ね」
パーティを組んでいく場合、上限の関係で二人程あぶれてしまう。が、そこは二班に分かれる等工夫をしよう。
「とりあえず、何を探しに行く?」
「え、アリス候補決めてなかったの?」
コハルがきょとんとした目で聞いてきた。
うん。ついさっき、この部屋に来てから思いついたことだし。
「他の伝説級武器っていったって、《世界樹の枝》みたいに未発見の物は探すのに時間かかるよ」
「ヒントもありませんしね……」
「今情報が出てるのって《霊刀カグツチ》と《光弓シェキナー》だったっけ」
「私《光弓シェキナー》が欲しいわ」
「それはシノンが使いたいだけでしょ……。かといって《霊刀カグツチ》だと手に入れても使い手が――あ、アリスさんなら使えるか」
上からアスナ、アイ、リーファちゃんの会話と、シノンの要望、シュピーゲルのツッコミだ。というかシノン、初めて数ヶ月でもう伝説級武器を所望するのか。贅沢が過ぎる。
シュピーゲルが言う《霊刀カグツチ》についてだけど、カタナではなく曲刀扱いなので、使えることは使えるけど、十全には扱えない。
「誰かが使うってことを考えるなら《光弓シェキナー》かなぁ……」
伝説級武器は使用者が居てこそだ。ぶっちゃけわたしも使ってみたい。だからといってわたしが扱いこなせるわけでもない曲刀を取るために皆を付き合わせるのもなぁ。
これが例えば、《聖剣エクスキャリバー》だったらギルメンの内4人が使えるし、ギルドの箔としても申し分無いんだけど……如何せん、他の2つと違って存在するってこと以外の情報が何も無いから――
「あ、《聖剣エクスキャリバー》ならある場所知ってるぞ」
まずはキリトを絞め上げよう。
彼の言葉が耳に届いた次の瞬間には、膝の上に乗せていたアイを脇にどけ、立ち上がって拳を握りしめた。
天誅の時間だ。さあ辞世の句を読め。
「待て! 話せばわかる!」
「キリキリと吐いてよ。そんな特ダネを隠してた理由を含めて」
「だって俺とアリス、あとディアベルとリーファとも武器種被ってるし、自分の物にしたかったんだよ……」
むう。
そう言われてしまうと弱い。
長剣使いは私とキリト、ディアベルとリーファちゃんの4人だ。ギルドで手に入れに行ったとして、誰が使うかで話し合う必要はあるだろう。
そしてゲーマーとしては唯一の物には並々ならぬ思いがある。独占したいという気持ちは大いに分かる。
ひとまず納得したわたしはすとんと腰を下ろした。
「じゃあなんで今話したのさ。それなら隠したままにしておけば、自分の物に出来たんじゃない?」
「それでこっそり取ったらお前めちゃくちゃ怒るだろ」
そりゃあまあ。
気持ちは分かるが納得できるかといえばまた違う。
実際にそんな事されたら何度か天誅を食らわせる事になるだろう。
「まあ、本当なら俺だけで行きたかったけど、ダンジョンの難易度が高すぎて無理だからさ。いい機会だし、俺ら以外に取られるくらいないっその事……ってわけだ」
「ちなみにごめん。あたしも知ってたんだ。ただ、お兄ちゃんがしばらく内緒にって言うから、黙ってたの」
「……ううん、まあサーバーに一本だけの超レアな武器だもん。内緒にしときたい気持ちは分からないでもないし」
感情に任せて誅伐を下すところだったけど、ALOにおける情報アドバンテージを晒してくれたのだ。未だに発見情報が出ていないってことは、キリトとリーファちゃんだけが(他の発見者が秘匿している可能性はあるけど)知っているということ。そのアドバンテージを捨ててまで、わたしの『ギルドメンバーで伝説級武器を手に入れたい』という我儘に付き合ってくれようとしているんだ。今は彼の決断に感謝しよう。
「それじゃあ、《聖剣エクスキャリバー》を皆で取りに行く……ってことでいいかな?」
わたしの言に、全員が頷く。
そして、聖剣の場所を知っているであろうキリトに視線を向け、詳細を話すように促した。
「じゃあ《聖剣エクスキャリバー》の場所についてだけど……。場所は《ヨツンヘイム》の天蓋から生えてる逆三角形のダンジョン。その最奥に見たんだ。今まで発見されなてなかったのは、たぶんトンキーを仲間にすること自体がほぼ無かったからだと思う」
キリトとリーファちゃん曰く、わたしとアスナがALOに囚われている時、《央都アルン》を目指していたキリトとリーファちゃんが、不慮の事故で《ヨツンヘイム》に落下し、戻る道を探している最中に四本腕の邪神に襲われているトンキーを発見したんだそうだ。
そこで、リーファちゃんのいじめられてる方を助けてという願いを聞いたキリトが、機転を利かせて水場へと四本腕を誘導し、水中戦に移行させたことでトンキーが逆転。その後羽化を果たしたトンキーがアルヴヘイムへとつながる階段へと送り届けてくれたのだという。
「基本的にヨツンヘイムに出現する邪神モンスターはテイムが出来ないし、でも経験値がおいしいから攻撃されて弱った象クラゲ邪神を四本腕から横取りする事が多いみたい。まあそのあと四本腕から逃げなきゃなんだけど」
とはアイの談だ。
なるほどそういう事情なら、空を飛ぶことはできず、唯一の飛行手段は発見自体が難しいから天井から生えたダンジョンなんてものには気づかないのも無理はない。
「ダンジョン自体にはすぐ行ける。俺とリーファが地上に戻った時の階段を使えばいいからさ。そこは多分、トンキーみたいに象クラゲ邪神と友好を結んでないと使えない階段なはずだ」
なんと。
それが本当ならめちゃくちゃ便利じゃん。
《ヨツンヘイム》に行くためには、アルンから四方に数キロ離れた場所にある階段ダンジョンへと向かい、何層ものダンジョンを攻略した後に守護ボスを倒さなければならない。
最速で二時間ほどはかかるであろうその工程を、五分程度にまで縮小出来てしまう。
なんで早く教えてくれないんだとは思うが、それを知ってしまうとエクスキャリバーの事も発覚するから黙っていたんだろう。
「中に出てくるモンスターは、ヨツンヘイムで出現する四本腕の邪神。正直一人じゃどうしようもないくらい強い。フルパーティで戦ってなんとか……っていうのがうじゃうじゃいるんだ」
「うへぇ……じゃあ基本は隠密行動だね」
その後もいくつかキリトからの情報提供を受け、中でどう行動するかを話し合った。
といってもキリトが侵入できたのは入口付近のみらしく、作戦の大部分は行き当たりばったりなものだけれど。
そして話の中で、こんな声が上がった。
「ねえ、そういえばギルド名は《七人の妖精達》のままにしておくの? 九人になっちゃったけど」
そういえばそうだ。
当初と違い、今はシノンとシュピーゲルが増えて九人だ。
シノン達はALOをそこまで長くやるつもりがなかったみたいだけど、二週間程経った今はしばらく留まる方向にしたらしい。
ただいつかはGGOに再コンバートするそうなので、その際はいっそのことわたし達のギルドごとお邪魔しようかと思っている。
そんなわけで、名実共に新メンバーが二名増えたわけで、《七人の妖精達》はギルドの名前として適してはいないだろう。
ちなみにではあるが、ギルメンの追加については何度か検討した事がある。
一応入団希望は山の様に届いているが身内ギルドとしたいため全部突っぱねており、完全勧誘制だ。
増やそうか? とは思い何度か知り合いに声を掛けたことはあるものの、ログインがあまりできなかったり、別のギルドに入っていたりと様々な理由で断られている。
シリカちゃんとか、レイン先輩には是非来て欲しかったんだけど……。二人とも既にサチの所属しているALO版《月夜の黒猫団》に入団してしまっていた。引き抜くわけにもいかないので断念しているが、まあそことは交流が深くしょっちゅう遊びに来てくれてるので寂しくはない。学校やバイト先で会えるしね。
リズはといえば、エギルと一緒に商業系の大手ギルドに入ったそうだ。クラインは当然、《風林火山》をこちらでも立ち上げている。
他にもノーチラスやユナ、キバオウなんかも勧誘したけれど、ログイン自体が中々できないという事で向こう側が遠慮して断られてしまった。
そういうわけで《七人の妖精達》は名前通り七人のまま拡大せずにいたのだけど、期待の新人が来てくれた。
ギルド名を新しくして生まれ変わるのにいい機会だろう。
「よし、じゃあギルド名を変更しようか。新生ギルドで《エクスキャリバー》取りに行こう」
「変更するって言っても……なんて名前にするの?」
コハルが首を傾げ、皆もうんうんと頷く。
安心してほしい。今回はさすがに考えてきてるから。
「元がラテン語のギルド名だから、それに倣って考えてみました」
「まさか《九人の妖精達》だなんて言わないでしょうね」
まさか。
「わたし達の新しいギルド名。それは――《ウィンクルム》。ラテン語で、絆って意味だよ」
割と安直かなとは思ったけど、ALOのギルドに同名のものはなかったし、シンプルなのも良いと思うんだ。
いろんな種族、いろんなつながりで集まった皆を表すのは、絆って文字が一番かなって。そんな思いを込めてみました。
このネーミングに対して反対意見は無く、好意的に受け入れてもらえたことで、ここに新たに生まれ変わった《七人の妖精達》改め《ウィンクルム》が誕生した。
さあ、新生ギルドの初クエスト。《聖剣エクスキャリバー》の入手――行ってみよう!!
尚、翌日朝、MMOトゥモローにて【最強の伝説級武器、《聖剣エクスキャリバー》ついに発見される!】という記事が出た事で大慌てをする事になった。
・《世界樹の枝》クレスト・オブ・ユグドラシル
両手杖の伝説級武器。アニメOPだと小さな木の枝だけど両手杖。
回復魔法に対して範囲拡大、消費MP軽減といった効果を持ち、エクストラ効果は先端についている葉を一枚消費することで対象を詠唱無しで蘇生することが出来る。消費した葉は二十四時間経過することで一枚生えてくるが、最大で二枚までしか保持できない。要は時間経過で復活する世界樹の葉。
というオリジナル設定。