SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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絆紡いで英雄へと至る 2

「見つかってんじゃん!!!」

 

 日が明けて、十二月二十八日日曜日。

 つい先日に未発見である伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》を取りに行こうと決めた矢先に、発見されたという記事が発表された。

 小春とのんびり朝食を食べていた時に、キリト――和人お兄ちゃんからそれを知らせるメッセージが飛んできて大慌てでご飯を掻きこみALOに飛び込んだ。

 日曜日とはいえ年の瀬。奇跡的にギルドメンバー全員の予定が空いていた(もっとも、わたしとアイは明日から実家に帰るから今日までしか空いてなかったなんだけど)為、10時ごろに集合してから挑戦するつもりだった。

 つもりだったんだけど、そんな事は言ってられなくなったので先にログインして情報を集める事にした。

 

「いやそうなんだけど、まだ見つかっただけだから……」

 

 記事には発見される! とは書かれていたが、具体的にスクリーンショット等はなく、存在が確認されたとだけあった。まだ場所が分かっただけで入手には至ってないのは救いか。

 

「ダンジョンは混雑してるかもね。漁夫の利狙っちゃう?」

「うーん、邪神モンスターを他の集団が相手してるうちにさっさと最下層の……多分ボスがいるからそこまで直行しちまうか」

 

 割と最低な事をキリトと話していると、情報収集に出てきたリーファちゃんとコハルが戻ってきた。

 

「ただいま。なんだか変な事になってるみたいだよ」

「変な事って?」

 

 コハルが買ってきてくれたポーション類をトレード画面から受け取り整理しつつ聞き直す。

 

「まだどのパーティもダンジョンに到達すらしてないんだって」

「え、じゃあどうやって見つけたんだろ?」

「別のクエストの報酬がエクスキャリバーなんだって」

 

 むむ。どういうことだ。

 キリトの話では、エクスキャリバーは空中ダンジョンの奥に封印されている……はず。

 それがクエスト報酬として手に入るっていうのは、ちょっと引っかかるものがある。

 

「しかもそのクエスト、スローター系のクエストなのよ。お使いとか護衛系とかじゃなくて。だから今ヨツンヘイムはPOPの取り合いで殺伐してるんだってさ」

 

 リーファちゃんが少し顔を顰めて言った。

 スローター系クエストは、特定のモンスターを何体倒せ、とかそのモンスターからドロップするアイテムを何個集めてこいといったクエストだ。同じクエストを複数のプレイヤーで受ければ確かにモンスターのPOPを巡ってギスギスするのだろう。

 ううん、ますます不可解。伝説級武器の入手が、そんなただのクエスト報酬でいいのだろうか? でもまあ、実際にそういうクエストが発生しているってことはそうなんだろうけど……。

 

「考えても仕方ないし、とりあえずわたし達はダンジョンの方を見てみようよ」

 

 《聖剣エクスキャリバー》が入手できるともあって、今の同時接続人数はかなりのものになっているだろう。記事が出たのは今朝とはいえ、その前から発見した人やリーク等で既にクエストに挑んでいる人も多いだろうし、今更のこのこ行ったところでマンパワーで劣るわたし達が出し抜けるわけもなく。とりあえず別のアプローチ方法で挑戦してみるべきだろう。

 わたしの言にキリト、リーファちゃん、コハル、ユイちゃんは頷き、そのタイミングで続々と他のギルメンが集まってきた。

 そうして集合時間からちょっと早い位の時間に全員が集まり、武器やアイテムの最終点検を行った後、わたし達はキリト先導の元空中ダンジョンに向けて出発した。

 

 地下世界《ヨツンヘイム》への階段は、なんとわたし達のギルドハウスからそう遠くないところに存在するらしい。

 央都《アルン》の多層構造の一番下、マップにも表示されていないような裏道からぐねぐねと曲がりにも曲がったり、階段を昇ったり下りたりを繰り返したどりついた扉。

 なんの変哲もない円形の木戸は、こうしてみるとただの装飾目的のオブジェクトにしか見えないのだけれど、リーファちゃんが取り出した小さな銅の鍵によって扉としての機能を取り戻す。

 そのカギは件のトンキーに送り届けてもらった後にいつのまにかストレージにあったそうなので、つまりあの扉は初回はヨツンヘイム側からしか開けられないショートカットということだ。ゲームではよくある手法とはいえ、こんなん気づけるか。

 

 九人+一人(ユイちゃんはわたしの胸ポッケに収まっている)で列を成し、扉の先に続いていた階段を降りていく。

 

 降りる。

 

 降りる。

 

 まだ降りる。

 

「……なっが」

「文句言うなよな。ここ使わなきゃヨツンヘイムにいくのに二時間はかかるんだから」

 

 それはそうだけど。

 先頭をキリト、次にわたし、コハル、アスナ、リーファちゃん、アイ、ディアベル、シュピーゲル、シノンの順で降りている。後ろを見ると、全員が苦笑いを浮かべていた。はい一対八でわたしのかち。

 

「あのなあ。まっとうに行けば二時間もかかる長さの所を、五分ちょっとで行けるようになってるんだぞ? 俺がリーファなら、一回千ユルドで利用させてやる商売を始めるね」

「それも結局トンキーが居なければ意味ないじゃん」

 

 ここに来るまでにキリトとリーファちゃんに話を聞いたところ、この階段の行きつく先はヨツンヘイムの地上から一キロ程の高さにあるらしい。

 しかも、真下は《中央大空洞》という差し渡し一.五キロ程ある底無しの大穴が広がっている。落ちたらそのままお陀仏だ。

 そうでなくとも、ヨツンヘイムでは飛行が出来ない為、トンキー等の飛行とは別の手段がなければ落下ダメ―ジで死んでしまう。

 とはいえ、ここを使えるのは現在キリトとリーファちゃんだけ。そのおこぼれに預かっているのだから感謝の意は示しておくべきだろう。

 

「リーファちゃん、使わせてくれてありがと~!」

「どういたしまして~!」

 

 速度を落として、リーファちゃんの隣を並走し始めたわたしは彼女に満面の笑み向けながら手を翳す。彼女もそれに応えてくれてパチンとハイタッチ。いえーい。

 

「俺は?????」

 

 ないけど。

 

 そうこうしている内に、本当に五分足らずでゴールが見えてきた。

 霜の結晶がチラチラと舞い始め、空気がキリリと冷えてきた。

 やがてうっすらと光る出口へと飛び込むと、視界いっぱいにそれは広がった。

 

 分厚い雪と氷に覆われた常夜の世界――《ヨツンヘイム》

 

 常夜とは言っても、真っ暗なわけじゃない。天蓋から突き出す巨大な水晶の柱が僅かにアルヴヘイムから光を導いている。光量が足りない為、ヨツンヘイムの地表付近は薄暗いままなのだが。

 凍えるような風が吹き抜けていくから、露出した顔がきゅっと引き締まるような感覚がし、耳がじんじんと熱を持ち始めた。

 

「う、わぁ……」

「へぇ……」

 

 ヨツンヘイム初めて組であるシュピーゲルとシノンが感嘆の声を漏らすのを聞きながら、わたしは階段の先端……十五メートル程ですっぱりと途切れているそこに近づき、眼下を見下ろした。

 真下には真っ黒な大穴がぽっかりと口を広げており、その周囲では点在する邪神族の城や砦が、青緑や紫のエフェクトライト……あれは篝火かな? を焚いているのが見えた。さすがに一キロ上空からでは、闊歩しているであろう邪神モンスターを見る事は出来なかったけど。目には自信はあるけど、薄暗いし望遠が出来るわけでもないので。

 視線を正面に戻すと、そこもまた圧巻の景色だ。

 ここは地上世界――アルヴヘイムの中心部である世界樹真下の地下世界だ。故に、天蓋からは無数の極太の根がうねる様にし絡み合っている。

 その先端部分には世界樹の根に抱え込まれるようにして、透明感のある青い氷塊があった。ピラミッドをひっくり返したようなそこが、キリトの言うエクスキャリバーの眠る空中ダンジョンなのだろう。

 よく目を凝らしてみれば、確かに逆ピラミッドの頂点部分にきらりと黄金の光が見えた……ような気がする。

 

「へくちっ」

 

 びゅうと吹いた風に身体が急激に冷え、くしゃみをしてしまった。

 ずず、と鼻をすするとアスナが苦笑した後に手早く呪文を詠唱し始めた。

 数単語の呪文を唱え終わると、薄青い光がわたし達を包み込み、HPバーの下にアイコンが一つ点灯した。たちまちダウンコートを着込んだかのように肌寒さが少し遠ざかった。凍結耐性を上昇させる支援魔法だ。

 

「ありがとぉ、アスナ」

「うん。どういたしまして。リーファちゃんお願い」

「はい!」

 

 リーファちゃんは元気よく答えると、親指と人差し指をわっかにしてその先端を咥え、ぴぃーっと指笛を鳴らした。

 とたんにくぉぉー……んっ、とちょっと聞いたことがない感じの鳴き声が遠方から響いた。そんな遠くから聞こえるんだ。賢い子だなぁ。

 どこから来るのだろうと見まわしてみると、ちょうど《中央大空洞》を背景にして白い影が上昇してくるのが見えた。

 

 ほうほう、あれがトンキーか。初めましてだね。象水母型の邪神は何度か見た事はあるけど、それが羽化――進化した姿というのは想像が出来ない。

 

 ほんの少しの期待感と共に、白い影を眺めていたわたしは、その影が近づき姿がはっきりと見えたことで言葉を失った。

 

 真っ白でしゃもじのようにひらべったい体から、二対八枚の薄緑色の羽が生えている。そして頭部分は片側三つ、計六つの黒色の目が埋め込まれた象の顔。多分胴体の下にはうねうねと数多の触手がぶら下がっていた。

 

「なんというか、本当に象水母という感じだね」

 

 わたしの後方でディアベルが一歩引きながらつぶやいた。

 ちらと後ろを見れば、シノンとシュピーゲルもじり、と後ずさっていた。

 やがてわたし達の眼前にまでやってきたトンキーは、くぉーんと挨拶をするようにもう一度鳴いた。

 それを聞いたディアベルたちの足がもう一歩下がる。

 

「大丈夫だって、こいつこう見えても草食だから」

 

 草なんてこの辺に生えてるのかという疑問をわたしは飲み込んだ。

 

「でもこのまえ地上から持ってきたお魚をぺろっと一口で食べてたよ」

 

 じりりと後ずさる音がまた聞こえた。

 それにしても……。

 

「かわいい……ような」

「「「え」」」

 

 後方から信じられないという疑問の声が飛んできたが、無視。

 だってなんかこう、つぶらな瞳とか、意外とふさふさとしてるお鬚みたいな毛とか。可愛いくない?

 

「わかる」

「うーん、まあ、言われてみれば……」

 

 アイが同意し、コハルも臆しながらも頷いた。

 リーファちゃんはそれを見て嬉しそうににっこりだ。

 余談ではあるが、アイはキモ可愛い生き物が好きだったりする。お気に入りはハダカデバネズミらしい。わたしはそのジャンルならコタケネズミだ。

 

 閑話休題。

 

 伸ばされた鼻をそろそろと撫でてみると、手触りの良いなめらかな感触だった。

 うん。良い。ぬいぐるみとか欲しいかもしれない。

 

「可愛いかどうかは置いておいて、背中に乗せてくれるからさ。ほら、乗った乗った」

 

 キリトが急かす様にディアベル達の背を押しているのを横目に、ぴょんと一足で飛び乗ってから手を差し出し、コハルとアイを引っ張りあげた。

 トンキーの背は柔らかな毛に覆われており、意外と乗り心地の良いそこにぺたんと腰を下ろす。

 

 おっかなびっくりとシュピーゲルが最後に乗り込み、九人全員が搭乗することが出来た。

 九人乗れたんだね。フルパーティの七人が上限だった場合は二度に分けて運んでもらう事も考えていたけど、トンキーは任せろとばかりに得意げに羽をパタパタと揺らしているから、九人でも構わないのだろう。

 トンキーは全長十メートル以上もありそうなので、九人が乗っても十分な広さがあった。

 首の付け根部分(そもそも首があるのかが疑問だけれど)に座り込んだリーファちゃんが、トンキーの頭を撫でながら言った。

 

「じゃあトンキー、あのダンジョンの入口までお願い!」

 

 くぉぉんっ、と短く応え、トンキー号は発進した。

 ゆったりとしたスピードの遊覧飛行に、わたしはトンキーの背の上を腰を落ち着けたまま這うように端の方へと寄ってみた。

 下を見てみる。高い。

 

「落ちたら一貫の終わりだろうね……」

 

 側にいたディアベルがぽつりとつぶやいた。

 もしかしたらトンキーがお腹から生えている触手で捕まえたりしてくれるかもしれないけれど、試す気にはなれない。

 先述の通り、ヨツンヘイムは飛行が出来ないから、もし助けがなければそのまま落下して地上のセーブポイントへと強制送還されてしまう事だろう。落下ダメージは十メートルくらいから発生して、軽減スキルがあればまた別だけれど、三十メートルもあれば普通ならHPが全損してしまうから。

 今は上空一千メートル。三十回以上死ねてしまう。くわばらくわばら。

 

「昔アインクラッド外周の柱から次の層に侵入しようとして落っこちたキリトくん。落ちたらどうなるか気にならない?」

「…………高所から落ちる実験をするのなら、ネコ科動物の方が向いているんじゃないかな」

 

 キリトに水を向けてみれば、すぐさまシノンとシュピーゲルが盾にされた。

 ネコ科動物っぽいケットシーである二人はぶんぶんと首を横に振っていたけれど。

 

 そんな事を話しながら、心なしか全員が中央に寄りつつ遊覧飛行は続き――はしなかった。

 

 突如として羽を鋭角に折りたたんだトンキーが、急降下を始めたのだ。

 

「「「うわあああああああああっ!?」」」

 

 と男性陣が太い絶叫を上げ

 

「「「「「きゃあああああああああっ!?!?」」」」」

 

 と女性陣(わたしもだ)が高い悲鳴を上げ

 

「やっほーーーーう!!!」

 

 と相変わらずの一人が歓声を上げた。

 

 広い背中に密生する毛を掴み、身を低くすることで吹き飛ばされないように堪える。

 みるみる内に地表が近づき、ディティールが精彩に……って、空中ダンジョンに向かってたんじゃないの!?

 

 タクシー代わりにされたのが嫌だったのか、それともやはり九人は定員オーバーだったのか。

 なんにせよ、トンキーは空中ダンジョンではなく大空洞の南の淵を目指しているみたいだった。さっきのリーファちゃんの指示に応えたのは一体何だったの……?

 

「ふぎゅっ」

 

 急激にGが全身にのしかかり、べちゃりと潰れて呻いてしまった。

 なにが起きたんだと顔を上げてみれば、トンキーは畳んでいた羽を再び広げ急減速をかけていたようだった。

 ふるふると頭を振り、体を持ち上げると、低速での巡航モードに切り替わったらしいトンキーがゆったりと滑るようにして飛んでいた。

 現在の高度は五十メートル程かな。先程は高精細な航空写真のようだった地面が、今はそこで動き回るプレイヤーや邪神モンスターまでくっきりと見える。

 

「…………あっ!! みんな、あれ!!」

 

 ふいにリーファちゃんが声を上げ、一点を指さした。

 つられて視線を向けると、途端に眩い光がカメラのフラッシュのように立て続けに瞬き、わずかに遅れてずずぅんと大気を震わすような重低音のサウンドエフェクトが響いた。

 大規模な攻撃魔法の効果だろう。誰かが戦闘をしているのか……。

 

 目を細め凝視してみる事で、戦闘をしている集団が視界に入り、驚愕に目を見開いた。

 

「え、なんで……??」

 

 アイが茫然とした声を上げた。

 先程の攻撃魔法を放ったのは、三十人は超えるだろう大型レイドパーティの一団だった。

 対象は、クラゲと像を合体させたようなモンスター――羽化する前のトンキーと同じ、象水母型の邪神モンスターだ。

 

 それだけであれば、悲しい気分にはなるが驚く程の事ではない。邪神型モンスターはとんでもなく強いがその代わりに経験値は多くドロップする素材も高値で売れる為、日夜狩りは行われているのだから。

 

 驚いたのは、別の事。

 象水母型邪神を、プレイヤーと一緒になって攻撃をしている四本腕の巨人――人型邪神の存在だ。

 

「誰かがあの邪神をテイムしたのか……?」

 

 キリトの疑問に、シュピーゲルが悲鳴のような叫び声をあげる。

 

「そんな、ありえませんよ!! 邪神型モンスターはどの種類も、カンストプレイヤーが限界までバフを受けても成功率が〇パーセントなんですよ!?」

「え、それじゃあ……あれは人型邪神に便乗してるって事なのかい……?」

 

 ディアベルが顎に手を当て考えを漏らすが、それはそれでおかしなこともある。

 

「でもそんな都合よくヘイト管理が出来るものかしら……」

 

 ヘイト管理はそう単純なものじゃない。例えば他の場所で敵対関係にあるモンスター同士を争わせても、ヘイトの優先はプレイヤー側にある為、割って入ったとしても都合よく二対一にはならず一対一対一のバトルロワイヤルになる事が殆どだ。むしろ、モンスターが結託してプレイヤーに襲い掛かってくるまである。

 魅了や洗脳などの状態異常にさせてしまえば……という気もするが、邪神系モンスターは一律で状態異常が効かないのでその線はありえない。

 でも、眼前で繰り広げられる戦いはどう見てもバトルロワイヤルではなく、人型邪神とプレイヤーが協力して象水母型邪神を攻撃しているようにしかみえなかった。一体どうして……。

 

「……どうする、アリス」

「…………」 

 

 側に寄ってきたコハルがこそっと耳打ちしてくるが、わたしは黙って首を振った。

 心情としては、トンキーと同じ象水母型邪神を助けてあげたい。けど、それは他のプレイヤー達と衝突するということだ。彼らがしている事が普通のMMORPG上の狩りである以上、わたしの助けたいという気持ちはただのエゴでしかない。

 そしてついに、目の前で人型邪神が武骨な鉄剣をたたきつけ、追従するような攻撃魔法が着弾すると同時に、象水母型邪神は断末魔の声を上げながらポリゴン片を振りまき四散した。

 

「…………」

 

 ただのエゴだとはわかっていても、気分のいいものじゃない。

 トンキーは悲しげな声を上げ、リーファちゃんも、そしてユイちゃんも俯いてしまっていた。

 こうして悲しい気持ちになってしまうのは、トンキーという友好的なNPCを知っているからで、そうと知らない彼らには何ら責は無い。やるせなくは思っても、口出しする権利は誰にもないのだ。

 

 ただ、そのしんみりした空気も次の瞬間には吹き飛んでしまった。

 

「あ、え? なんでだ??」

 

 テイム状態でも洗脳状態でもないはずの人型邪神が、四つの腕を天に掲げ雄たけびを上げると、その周囲に居たレイドパーティも小さくガッツポーズを取った。

 そしてそのまま、仲良く連れたち新たなターゲットを求めて移動し始めたのだ。

 

「なんで戦闘にならないの……?」

 

 困惑の声を漏らすわたしの横で、アスナが何かに気づいたかのように「あっ」と声をあげた。

 

「ねえ、あれ! あっち!」

 

 彼女が指さしたのは、やや遠方に見える丘の上。

 そこでは、二体の人型邪神とプレイヤーの集団が、ワニのような邪神モンスターを攻撃していた。

 

「ねえ、思ったんだけど……」

 

 コハルが何か思案するように口元に手を当て、呟く。

 

「エクスキャリバーが報酬のスローター系のクエストって……これの事なんじゃ……。人型邪神と協力して、動物型邪神をせん滅する……みたいな」

「……!」

 

 それを聞いたわたし達全員が息を呑んだ。

 多分、それで間違いないと思う。いくらなんでも異常な状況だし、それなら新しいクエストが見つかったので、その副次効果と言われた方がよっぽど納得できる。

 引っかかるのは、キリト曰く人型邪神がうようよいる空中ダンジョンに眠っているはずのエクスキャリバーが、クエスト報酬として提示されているという事だけど。エクスキャリバーは人型邪神の宝で、クリアした人に下賜される……ってことなのだろうか。ちょっと違うような気がするけれど。

 

 と。

 何かを感じたわけではなく、しいて言うなら勘。何かが来るような気がして、顔を上げた。

 

 すると、トンキーの背中側――ちょうど、逆三角形の空中ダンジョンを遮るようにして、黄金の光が漂い、ぎゅっと凝縮して人の形を取った。

 

「う、わ……ぁ」

 

 その光は女性だった。

 その女性は美しかった。

 その美女は――めちゃめちゃにデカかった。

 

「でっ……か……」

 

 言わなかったのに。

 三メートルは超えそうな程の巨躯を誇るその女性は、キリトの漏らしたデリカシーに欠ける言葉に気を悪くもせず、名乗った。

 

『私は、《湖の女王》ウルズ』

 

 ……またなんか、重要そうなNPCが出てきたぞぉ……?

 

 

 

 

 




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