ストックが出来たので、キャリバー編の終わりまで今日から連続投稿を再開します。
ALOのパーティ上限は、他のMMORPGでは四人や六人、多ければ八人というのがオーソドックスな中、少し変わった七人となっている。
わたし達のギルド《ウィンクルム》は全体で九名な為、全員が揃って何かをしようとした際は二パーティに分かれる必要があった。
現在のパーティ構成はこんな感じ。
・第一パーティ
わたし
コハル
アイ
ディアベル
・第二パーティ
キリト
アスナ
リーファちゃん
シノン
シュピーゲル
この四人と五人の分け方が基本になり、あとは状況に応じてメンバーを入れ替えて対応している。
《ウィンクルム》構成員は前衛後衛のバランスが取れており、例えばわたしの第一パーティであれば、わたしとディアベルが前に出て、コハルが中距離支援及び回復、アイが後方で魔法攻撃放つ。
第二パーティはキリトとリーファちゃんが前に出て、アスナがヒーラーと遊撃、シノンとシュピーゲルで後方支援といった形。
連携のしやすさや相性を考えてバランス良くなるように配置しているのだけど、正直な所わたし達のギルド内であれば誰が誰と組んでも上手く連携出来ると思っている。それが身内ギルドの強みでもあるし。
さて、そんなわたし達《ウィンクルム》が九人で冒険をした時、誰が一番活躍しやすいかというと。
よく意外に思われるのだけど、それは新人であるシュピーゲルだった。
「アーサー! 《ブレス》だ!」
シュピーゲルの指示で、彼の召喚した飛竜――白金色の鱗を纏ったワイバーンが、口から極太の光線を発射する。
その光線は金色のミノタウルスに直撃し、爆音と共に大きく仰け反らせた。
シュピーゲルはテイマーだ。それも、飛竜を始めとする竜種を複数体従え召喚する、竜の召喚士ビルド。
召喚士とは、テイムしたモンスターを連れ歩かず、召喚魔法によって一時的に使役するビルドのことだ。
普通のテイマーと違い、召喚魔法を唱えなければ呼び出すことが出来ないという事と、テイムしたモンスターとの友好度に上限があるというデメリットはあるものの、状況に応じて使役するモンスターを変えられるというメリットがある。
そしてシュピーゲルは、竜種のみを六体テイムし召喚契約を結んでいた。
彼は言う。
「竜種ってどのファンタジー作品でも強者として書かれるじゃないですか。それに、竜使いって浪漫ですよね――」
浪漫の一言でアルヴヘイム全土を飛び回り、六種もの竜種と契約したシュピーゲルは、最終的にはドラゴンをテイムするのだと息巻いていた。
尚、彼の竜種テイムにあたり、ギルド総出で片っ端から竜種モンスターを倒して回る大冒険を繰り広げたことで、今度は竜を狩り尽くすつもりなのかという悪評が流れかけた事を追記しておく。
話がそれた。
結局の所、何が言いたいかというと――
「よっし、第二層突破!!」
わたし達、無敵。
無敵は流石に言い過ぎにしろ、適正レベルよりちょっと上程度のコンテンツなら余裕でクリアできるパワーがわたし達にはあった。
それはこの空中ダンジョン《スリュムヘイム》でも同じで、《湖の女王》の言っていた通り徘徊する人形邪神がほぼ居なくなっている(キリト談)状態なら、まさに破竹の勢いで各層を突破して行ける。
スリュムヘイムは四つの層からなるダンジョンだ。
それぞれの階層を繋ぐ階段前には大きなフロアがあり、そこを守護するボスモンスターがいる。SAOの階層ダンジョンがそのまま地続きになっているような感じだ。
で、各層をうろつくMOBが居らず、中ボスに当たるネームドもフロアの広さに比べてかなり少なく、基本的には階層守護者のフロアボスのみとの戦闘だけ。
第一層のフロアボスの、やたら攻撃力が高い単眼巨人型の邪神は、わたしとキリトとディアベルでヘイトを回し、後は全員後衛でぼっこぼこにした。
フロア全体に氷柱を落としてくる全体魔法については焦ったけれど、ユイちゃんが落下ポイントを全部教えてくれたおかげで無事に切り抜ける事が出来たし。
で、二層目。
今戦っているこのフロアボスは、金色のミノタウロスと、黒色のミノタウロスの二体。
この二体、それぞれが違う耐性を持っていた。
金色のミノタウロスは物理攻撃への耐性。
黒色のミノタウロスは魔法攻撃への耐性。
最初は二体同時に戦闘していたのだけれど、とりあえず黒色から倒そうと集中攻撃をはじめ、HPバーを半分程まで減らした瞬間、なんとスイッチをしてきた。
黒色が下がり、金色が暴れて守る。その隙に黒色は瞑想をするようなポーズを取り、HPを回復させる。
実にやっかいだ。
わたし達が相手じゃなければ、の話だけど。
ALOは魔法が強いゲームだ。
対象指定の魔法が基本的に必中であることを思えば、理解してもらえると思う。
威力が高く、射程も長い。故に、ALOでの基本的な編成は前衛が攻撃を食い止め、後衛が魔法攻撃でダメージディーラーを務めるパターンが好まれている。
しかし、我らがウィンクルムは半数以上が元SAOプレイヤー。魔法なんてもののない、剣の世界を生き抜いた猛者達だ。
コハルはパーティのバランスを考えて魔法スキルを重点的に上げているが、それでもSAOで培ってきた物理攻撃スキルは健在であるし、アスナもヒーラーの癖に前線に飛び込めるよう物理攻撃スキルを多数そろえている。
わたしも、魔法は補助程度で物理攻撃主体だし。
キリト? あいつは脳筋。以上。
かように物理攻撃に秀でたプレイヤーが居るのが《ウィンクルム》の特徴だけれど、かといって魔法攻撃に弱いかと言われるとそんなことはない。
わたしの妹、アイはALOでも有数の氷魔法使いであるし、コハルは風魔法を習得し切って色々な魔法を覚え、更にシュピーゲルの呼ぶ竜のブレスは強力な魔法攻撃だ。
さらにさらに、わたし達物理アタッカーの使用するソードスキルも属性が付与されていることもあり、物理耐性を持っていようが魔法耐性を持っていようが関係なく攻略出来る。
というわけで、あっさりと金ミノを仕留めたわたし達は、返す刀で黒ミノを倒すことが出来たのだった。
「リーファちゃん、あとどのくらい?」
わたしが声をかけると、リーファちゃんは胸の間から宝石の散りばめられたメダリオンを取り出した。
《湖の女王ウルズ》から与えられたそれは、動物型邪神虐殺の進行度を表しているらしい。今、大体七割ちょっとの宝石が黒ずんでいて、これが全部黒くなってしまうとクエスト失敗という事になる。
「あと二時間ちょっと……かな。少し余裕はあるけど、二度目までは持たないと思う」
りょーかい。
ぶっつけ本番で、かつ失敗したらゲーム自体が大変なことになるかもしれないという緊張に、少し胸がどきどきしてきた。
でもやるしかない。それに成功報酬は、世界に一本だけの剣なわけで。それを思えばやってやるという気にもなろうというものだ。
ユイちゃんに確認したところ、この下の第三層は二層よりも狭く、さらにその下の四層はもうボス部屋しかないそうだ。
HPMPをアイテムで全回復させた後、わたし達は全員頷き合い二層から三層へと続く階段を駆け下り始めた。
◇
ユイちゃん無双が過ぎる。
第三層の細く、曲がりくねった道をユイちゃんのナビゲートに従い駆け抜けながら、わたしはこの優秀過ぎる小さな妖精に内心苦笑を溢していた。
迷路のような通路は地図データにアクセスするという奥の手を解禁し、時折現れるパズルギミックも高速演算で解答を叩き出し、このダンジョンを設計したのが運営スタッフなのかカーディナルが自動生成したのかはわからないが、RTAの如く最速・最短での踏破となった。
そしてこの層のボスは耐性は低いもののバカ高い攻撃力を持つ多脚型の大型巨人だったのだけれど、スイッチを入れたわたしがタゲ取りをして、他の全員でソードスキルやら魔法を叩き込む事で速攻撃破。第三層はおよそ二十分足らずでクリアしてしまったのだった。
さて、そのまま第四層へとなだれ込み、霜の巨人の王《スリュム》を殴り飛ばそうと息巻いていたわたし達であったが、ちょっと困った事態に遭遇してしまい足を止めざるを得なかった。
「お願い……。私を……ここから、出して……」
氷柱が柵となっている、氷の牢屋。その中で氷の鎖に繋がれた、ちょっとびっくりするくらいの美人な女性が、目と声を震わせながらわたし達に助けを求めていた。
うん。そうだなぁ。
「罠だ」
「罠だろう」
「罠ね」
キリト、ディアベル、シノンが口々に言った。
だよねぇ。めちゃめちゃに怪しいもの。
ちらりと頭の上のユイちゃんに目を向ければ、彼女は「この女性はNPCです」と断言した上で
「ただ、HPバーがイネーブル――有効化されています」
そう言った。
ふむふむ。
ボス直前のこの場所で。
男性プレイヤーなら思わず目を引くような美女(整いすぎている容姿に、わたしやリーファちゃんよりも大きな胸というグラマラスな体型だ)が。
鎖に繋がれ閉じ込められた状態で助けを求めて来る。
うーん。怪しいことこの上ない。助けてボス戦に突入した瞬間、正体を表して高笑いと共に攻撃してきそうなシチュエーションだ。
ただ、何故だろう。何かが引っかかっている。
それがなければ、わたしも罠だと断じてさっさと先に進んでいるのだけど。
「お願い……誰か……」
うぅん……。
これがやり直しの利く、再トライが可能な状況であればとりあえず助けてみて、ボス戦直後にエネミー化して「騙して悪いが」と後ろから刺されるというのも許容出来たのだけど。
今は一刻も早くスリュムを倒さなければならない。罠か罠じゃないかの答えが出ない中、不安の種は抱えるわけにはいかないだろう。万一にも失敗は出来ないのだから。
「……すみません。ちょっといいですか?」
と。何やら考え込んでいた様子のコハルが、牢の中の美女に向かって話しかけた。
「貴女はどうしてここに閉じ込められているのですか?」
「……巨人の王スリュムに奪われた、一族の宝を取り戻すためにこの城に潜入したのですが、途中で三番目の門番に捕まってしまったのです」
「……そうでしたか」
ん? あれ?
スリュムに奪われた一族の宝……?
で、それを取り戻そうとする美女??
どこかで、聞いたことがあるような……。
「最後に……貴女の、お名前は?」
コハルは真剣な目で、美女に向かって問いかけた。
「私の名は《フレイヤ》と申します」
美女――フレイヤからの名乗りを受けたコハルが、わたし達に振り返り、口を開いた。
「――この人を助けよう」
「わかった」
即答し、わたしは腰から剣を抜いて氷の柵を一刀に断ち斬った。
次いで、牢の中に入ってフレイアを囚えている鎖に剣を突き立て、彼女を解放する。
「ありがとう。妖精の剣士様」
「ううん。お礼なら、助けようって言ったコハルにしてあげて。わたしは最後まで疑ってたんだし」
手を差し出して助け起こしたフレイヤが、わたしに向かって礼を述べてくれたけれど、助けようと判断したのはコハルなため、それをやんわりと断った。
わたしの言葉を受けてか、コハルに向かってお礼の言葉と共に深々と腰を折ったフレイヤに、コハルは「いえ、そんな」と顔を少し赤くしながら謙遜していた。
「それで、フレイヤ……さん。一人で入口まで戻れる?」
その光景がちょっとおもしろくないため、割り込むようにフレイヤに話しかけると、彼女は少し考えた後に首を横に振った。
「いいえ。一族の宝を取り戻すまではこの城から逃げ出すわけにはいきません。お願いです。私をどうか、スリュムの部屋まで連れて行って下さいませんか」
そう言うと、わたしの眼前にNPCのパーティ加入を認めるか否かのダイアログが表示された。
なるほどね。そうきたか。
わたしは一言、「いいよね?」と皆に確認し、全員が頷いたのを見てYesボタンをタップ。視界の端、パーティメンバーの欄に《Freyja》という名前とミニHPバーが追加された。
「アリス……ありがとう」
「コハルがそう言うってことは、何か思い当たることがあったんでしょ? 信じるよ」
わたしの隣までやってきたコハルが、小声で囁いた。
恋人の言うことですもの。わたしも疑いながらも、内心助けたいとは思っていたわけだし。
「コハルさん、フレイヤに何か心当たりがあるんですか?」
リーファちゃんが興味津々といった感じでコハルに問いかけてきた。他の皆も、コハルが助けようと思った理由が気になるようで視線を向けてくる。
それに対してコハルはちょっと苦笑しながら、その理由を話し始めた。
「えっと、フレイヤというよりも、霜の巨人の王スリュムに関してなんだけどね。最近ちょっと神話について調べ始めてて。その中でスリュムって名前を見た記憶があって、多分、このクエストが神話を元にしているなら――」
後日の事。
「なんで神話を調べ始めたの?」と聞いたわたしに対し、コハルは
「深紅ってば直葉ちゃんといっつも楽しそうに神話の話をしてるんだもの。ちょっと嫉妬しちゃって」
と答えたのだった。
・ALOにおけるモンスターテイムについて
本文通り。
召喚スキル所持者がモンスターをテイムした場合、従属化させずに召喚契約を結ぶことが出来る。
従属化と違い召喚時に詠唱が必要なことと、召喚するモンスターの強さによって増減するもののMP消費が必要であるが、従属化よりも多くのモンスターを使役できる。
召喚したモンスターはモンスターのHPが無くなるか、戦闘終了時、または召喚者の任意で帰還させる事が出来るが、一度召喚したモンスターは再召喚するまでにリキャストタイムが発生する。
また、モンスターとの友好度が従属化よりも上限が低く、モンスターに武器防具を装備をさせたりレベルを上げる事が出来ない。
契約出来るモンスターの数は召喚スキルの熟練度によって変わる。最大で13体まで。
シュピーゲルはいずれ13体全て竜種及びドラゴンを契約し円卓の騎士とすること。
・竜種とドラゴンの違い
竜種はワイバーンやSAOでキリトが戦ったようなドラゴニュートのようなドラゴンもどき。
ドラゴンはファンタジーでお馴染みのドラゴン。
竜魔法は竜種からもたらされるのではなく、ドラゴンから授けられる。
という設定