SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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Alice in UnderWorld

「に”ゃあ”あ”あ”あ”あああああああッ!?」

 

 拝啓皆様。

 わたしは今現在、高度一千メートルからスカイダイビングを敢行しております。

 パラシュートなし、安全装置なしで快適な空の旅を満喫中です。笑う。

 

 嘘。笑えない。ぜんっぜん楽しくない。超怖い。

 

「ん“い”ぃぃぃぃぃ……」

 

 轟々と唸りを上げる風を身体一つで切り裂き、ぐるんぐるんと不規則な回転をしながら常夜の世界を上から下へ。

 死ぬ。このままじゃ地面に叩きつけられて――いや、真下は確か大空洞だったから、ゲームよろしく穴に落ちている最中に死亡判定になってリスポーンしてしまう。

 

 聖剣も手に入れて! おまけに強力な伝説武器っぽい片手槌も手に入れて! アルヴヘイムへの侵攻も止めて! 万事上手く行ってたのに!!

 最後の最後でわたし一人だけ転落死なんてほんっとうに笑えない!!

 

 というか、絶対に笑われる。

 あの意地の悪い黒い剣士に指差して笑われる。

 

「死んで……たまるかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 脳裏を過ぎったあんちくしょうを十六分割の細切れにしつつ、わたしは叫んだ。

 回転とは逆方向に力を込め、姿勢を安定させた後に落下方向へと向き、両手両足を大きく広げ減速を試みる。

 地表――大空洞突入まで後五百メートル程度。落下地点はやや中心寄り。

 

 手早くメニューを操作して、装備していた片手直剣を重量のある両手剣へと換装し、抜刀。

 

「っせぇ――!!」

 

 そのまま振り抜く。

 何度も何度も、宙を切るように。

 

 重さに引っ張られ、空中を泳ぐようにじわじわと進むが、落下速度に移動速度が全く追いつかず、縁までは遠い。

 こうなったらイチかバチか……!

 

 わたしは両手剣を納刀すると再び降下姿勢を取り、口を開いた。

 

「Ek, fleygja,ceann, pléascadh――!」

 

 呪文を詠唱し、発動直前でキープ。

 使用するのは先程のキリト二段ジャンプにも使用した、火属性初級魔法。

 

 狙いを定める。

 落下速度を勘定に入れて、判定が発生する瞬間を狙って――そこ!!

 

 キープしていた呪文が発動し、数メートル先で空間がギュッと凝縮した。直後、臙脂色の炎が轟音と共に、わたしの足元で炸裂する。

 

「っ……!」

 

 狙い通り、爆発によって生じたノックバックで、わたしの落下方向が横にズレた。

 衝撃でぐるぐると乱回転をする身体を気合で制御し、再度眼下を見る。

 地面はもう目前。けど、後数メートル届かない……!

 

「こんっのぉ……!!」

 

 抜刀し、姿勢を整え、両手剣を弓を引くように腰へと引きつける。

 空中からじゃ使えるソードスキルは限られてる……これで届いて……っ!

 

 両手剣二連撃技《カタラクト》

 

 翡翠色のエフェクトが刀身を包み、システムアシストによって身体が自動で動く。

 二連続の、左下段から上段に向かう斬り上げ。

 

 剣を振る毎に、わずかに落下へと抵抗しながら横移動をする。

 一撃目を振り終わった瞬間、眼前を地表が通り過ぎ、二撃目で大空洞壁面に剣が突き刺さった。

 

「ふんっぬぬぬぬぬぬ……!!」

 

 ぎゃりぎゃりと壁を削りながら、剣先がすっぽ抜けないように力を込める。

 数十メートル程で徐々に落下速度が落ち、やがて完全に静止した。

 

「……ふぅ」

 

 わたしは両手で壁に突き刺さった剣からぶら下がり、何度か剣を押し込んで抜けないようにしてから逆上がりの要領で剣の腹に足を乗せた。

 壁に手を掛けバランスを取りながら上を見上げると、ぽっかりと開いた大空洞の口からヨツンヘイムの天蓋と、崩壊した空中ダンジョンの残骸が落ちてくるのが目に入った。

 

「うーん、どうしよう」

 

 なんとか落下死は免れたものの、飛行が出来ない現状穴から這い上がる手段が殆どない。

 とりあえず、生存報告でもしようかな……。

 

 

 

 

 

 

alice:死ぬかと思った

 

kirito:生きてたのか!?

 

koharu:大丈夫?

 

alice:一応無事。大空洞の壁に剣を刺してなんとか止まれたけど、こっからどうしよう

 

shinon:なんてしぶとい……

 

diavel:登っては来れないのかい?

 

alice:うーん。剣をロックピックみたいにして登ってみるけど。在庫足りるかなぁ

 

asuna:助けに行こうか?

 

alice:んー、お願いしても良い? できるだけ登ってみるから。そっちのクエストが終わってからでいいけど……そういえば、どうなった?

 

ai:まだ完了報告はしてないよ。ちょうど今ダンジョンが落下してるのを見てたところ

 

lefa:ちょっとまって。アリスちゃん今ボイドの縁にいるんだよね?

 

alice:そうだよ

 

koharu:今まさにスリュムヘイムが《大空洞》に向かって落下してるけど……まずくない?

 

alice:いっぱいまずい

 

spigel:早くそこから離れて下さい!

 

alice:って言っても登るのに時間g

 

ai:お姉ちゃん!?

 

kirito:うお、ボイドの底から水がせり上がってきてる……のか?

 

shinon:ちょっと! 大丈夫なの!?

 

 

 

 

 

「うわわわわ……!」

 

 ゲーム内のグループチャットでギルドメンバーに救助要請をした所、なんかすごい勢いで水がせり上がってきた。

 それだけならまだ良い。この水に乗れば難なく地上に戻ることは出来そうだし。

 ただまずいのが、絶賛落下中のスリュムヘイム城。ついでに言えば、その更に上空からすごい勢いで巨大な根がうねりながらこちらへと向かってきている。

 このまま水に身を任せてしまえば、落下してくる質量の暴力によってぺちゃんこになってしまうだろう。

 

「どうすれば……!」

 

 飛ぶことも出来ない。登ろうにも時間が無い。

 焦る思考の最中、ふと斜め下方に横穴が見えた。

 

 こんなとこに横穴……? ええい! ままよ!

 

 ここで右往左往してても仕方ない。一か八か、あの横穴が出口につながっていると信じ飛び降りる。

 

「どうか行き止まりじゃありませんように……!」

 

 上手く横穴に侵入できたわたしは、手早く暗視能力を付与する呪文を唱え、一目散に奥へと駆け出した。

 背後――穴の奥底から迫りくる水のせいか、ずごごごごごという地響きがすごい。怖い。

 

 祈りながら走り続け、大体百メートル程進んだあたりで――道の終わりを知った。

 

「い、行き止まり……ん?」

 

 細い通路のような所を抜け、ぽっかりと空いた小さな空間。すわ行き止まりかと思えば、中央に何かが鎮座している。

 

「なにこれ。……鏡?」

 

 二メートル程の高さの、ちょっとした扉位ありそうな大きな姿鏡。

 長方形のそれは、縁に何やら見たこともない文字が羅列しており、鏡面と思われる部分は星のない夜空のように鈍い黒色だ。

 

「なんでこんなとこに……――ッ!?」

 

 ちょん、と指先で鏡面をつついて見たその瞬間、目を焼くような閃光が迸り、そして――

 

 

 

 

 

alice:ナニコレ

 

asuna:良かった、無事だったのね!

 

alice:うん。なんか横穴があったから避難した。

 

koharu:横穴? ボイドに?

 

alice:よくわかないけど、先に進んだら鏡があって、触ったら森に居た

 

kirito:は?

 

 

 

 

 

 

 メッセージを打ち終えたわたしは、あらためてぐるりと周囲を見回してみた。

 森だ。

 鬱蒼と茂る、暗くじめじめとした森が三百六十度広がっている。

 わたしが立っているこの場所は、半径百メートル程の円形広場になっており光が差し込んでいるが、その周囲を囲む森は木々が密集しているためか薄暗く、先が見えない。

 そして背後には、先程の横穴でみた物と同じ、くすんだ色の古ぼけた全身鏡。

 

「なにこれ」

 

 もしかして、未発見の新エリア?

 鏡を抜けたらそこは森でした……なんて、聞いたこともない。

 

「ん? 鏡……森……?」

 

 何かが引っかかる。

 けれどその何かには思い至らず、頭を振ってとりあえず探索をしてみることにした。

 ちなみにマップを確認してみたけれど《UNKNOWN》と表示されるのみで現在位置どころか方角すら分からない。当然、ここがヨツンヘイムのどの辺りにあるのかということもだ。

 恐らくだけど、インスタンスダンジョンなのかもしれない。ワールドマップとはまた別の位相にあるエリアなんだろう。ここは。

 

 装備を片手直剣へと変更し、抜剣した状態でそろりそろりと森の中へと進んでいく。

 とりあえず、まっすぐ行ってみよう。

 そうして一歩、森に侵入した瞬間、けたたましい鳴き声が聞こえた。

 

「うひぃっ!?」

 

 それはガアガアと鳴くカラスのようであり、ゲラゲラと笑う人のようであり、グルグルと唸る獣のような声であった。

 酷く不快な音が混ざりに混ざり合い、原型をとどめていない。

 端的に言って、超怖い。

 

「ううぅ……皆を待とうかな……?」

 

 怖いのホント無理。腰が抜けそう。

 アンデットモンスターやゴースト系などはリハビリによってなんとか平気にはなったものの、こういうホラー演出だけは無理。泣きそうだ。

 わたしがこの森に入るきっかけとなった横穴の場所はメッセージで伝えているから、待っていれば頼もしい仲間たちが来てくれるだろう。

 

 あだめだ。煽られる未来が見えた。

 

 脳裏を過ぎった黒い剣士を脳内で三十二分割にしながら、なけなしの勇気を振り絞って先に進む。

 

 あぁせめてコハルがいれば……。

 でもコハルも結構怖がりだから(いつぞやの肝試しの時は仕掛け人側だったから平気と言っていたけれど)二人して足がすくんで動けなくなりそう……。

 それでも隣に彼女がいれば、怖くても頑張れるだろう。

 

「うー……頑張れわたし、負けるなわたし……」

 

 思いを口にしながら、先へと一歩一歩進んでいく。

 微々たる速度なのは許してほしい。

 

 怖すぎてどれくらい進んだか分からないけど、探索開始からそれなりの時間が経過した頃。

 

 ぱきんっ

 

 と乾いた音が鳴った。

 

「ひぃっ!」

 

 思わず飛び竦んでしまう。

 音の発生源は、足元のようだ。

 枯れ枝を踏んでしまったらしい。なぁんだ……

 

 ふと、視線を横に向けた瞬間。燃えるような赤い二つの眼が、暗がりからこちらを覗いているのを見てしまった。

 

「~~~~~~~~~ッ!?!?!??!?」

 

 多分ぎゃー! とかわー! って叫んだと思う。

 声にならなかったけれど。

 目があった瞬間に回れ右。わたしは絶叫しながら踵を返して脱兎のごとく逃げ出した。

 

 しかし。

 

 メシメシメシィ! と背後で木々が折れなぎ倒される音と、何か巨大なものが追いかけてくる足音が聞こえる。

 

「わーーーーッ!! ごめんなさいごめんなさい!! 勝手に入ってごめんなさい!!!」

 

 がむしゃらに走り、根っこに足を取られ転げ周りながらも必死に逃げ続け、なんとか元の円形広場まで戻ってこれた。

 急いで鏡に近づいて――ってこれどうやって戻るの!?

 

 幸い高い敏捷パラメータにものを言わせ、怪物(仮)をぶっちぎって逃げることが出来たので追いつかれるまで多少の時間はあるけれど、戻り方が分からない。

 

 扉を叩くようにノックをしてみても反応はないし、思いつく限りのキーワードを唱えてみてもウンともスンとも言わない。

 あれもしかしてわたし、閉じ込められた……?

 

 絶望に身を震わせていると、どたんばたんと背後でしていた大きな音がしなくなっていることに気がついた。

 

 恐る恐る。振り返る。

 

 そこに居たのは、ドラゴンだった。

 

 漆黒の鱗に身を包み、爛々と光る赤い目をした黒いドラゴン。

 全長は十五メートル程だろうか。羽を広げたトンキーよりも大きく、世界樹の天辺で一瞬だけ見たドラゴンと同等程度。一メートルと半分もないわたしとは比べ物にすらならない。

 体躯は分厚く、まさに筋骨隆々としており、万物を切り裂きそうな鋭い鉤爪と、口には何でも噛み砕きそうな太い牙がちらちらと覗いている。

 

「あ、えぅ……えへへ。こ、こんにちは……こんばんは? わたしはアリス。悪い妖精じゃないよ? 本当。 あなたのお名前はなぁに……?」

 

 引きつった笑みを浮かべながら、会話を試みる。

 果たして。

 

『※%$#|=●❖〒♮!!!!!!』

「ぎゃーーーーーーッ!!!!」

 

 黒竜は正気を失ったような眼を豪と光らせ、その鋭い鉤爪を振り下ろしてきた。

 




・謎の鏡とインスタンスダンジョン
 コンピューターゲーム等でたまにある、普通にやってたら見つかるわけ無いだろってとこにある隠し要素の一つ。製作者の悪意。
 発見条件は
 ①即死するような場面から生還する
  (飛行不能エリアで超高所からのダイブ、火山口へのダイブ、巨大積乱雲の中で10
秒以上生存した上で生還等)
 ②その後、付近にある自動生成された洞穴最奥にある《???への鏡》へと触れる
 ③インスタンスダンジョン『鏡の国』へと転送される

 自動生成された洞穴は生成後240秒後に自動消滅する。
 無謀な事に挑戦する『好奇心』と、それを踏破する『勇気』、『幸運』をトリガーに発生する隠しクエスト。
 普通はマグマダイブや紐なしバンジーを敢行したら死ぬ。生き残っても周りに「あんなとこに洞窟あったか……?」って観察する余裕は無い。一度だけ奇跡的にマグマダイブから生還した配信者が動画撮影後に気づいたが、その後いくら調べても洞窟は無く、隠し要素でありそうなものの条件が未だ判明してない。
 今回のアリスも下から水が湧いてきたり上から城が降ってきたりしてなければ普通に気づかなかった。
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