SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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SAOifの六十一層がすごくよかった
あれはつまりパートナー(コハル)と主人公(プレイヤー)は結婚した上で同棲中ということで相違ないな?????


Alice in UnderWorld 2

 振り下ろされた鉤爪を、大きく後ろに飛び退くことで避ける。

 

 ドゴォッと振り下ろした先の地面が陥没し、土砂が盛大に巻き上がった。

 

「わわわわ、わ! わ!」

 

 音にするならドゴ! ゴシャ! グシャ! というように連続で両腕が振り下ろされ、わたしは転げ回りながらも回避し続けた。

 

 黒いドラゴンは狂気を宿した眼を光らせながら、今まで聞いたことも無いような声の唸りを上げていた。

 グルルとかじゃなく、こう、色んな種類の動物の鳴き声を混ぜたような、声ではなく音……それも濁ったような、どうやって発音してるんだと言いたくなる声だ。

 

「こ、の……!」

 

 対話は不可能。逃走も無理。それなら戦うしか無いと覚悟を決める。

 

「竜退治はSAOで経験済み……だよっ!」

 

 横薙ぎに振るわれた鉤爪を、パルクールのようにくぐり抜けながら爪の間を斬りつける。

 

 ギャリッ、と硬質な音がした。

 

 ギャリ??

 

「え、嘘。硬っ」

 

 壁を引っ掻いたような音だったんだけど。

 肉質が柔らかそうな爪の間だよ?? そんな、まさか。

 

 HPバーを確認する。

 

 黒ドラゴンはボスモンスターらしく、笑ってしまう程長いHPバーが十本もあった。

 その一番上、緑のゲージは下にある三本と長さが変わってない。

 つまり、一ミリも減ってない。

 

「そんな馬鹿な……!」

 

 再び振るわれた鉤爪を横っ飛びで回避しながら確認するも、先程斬りつけた場所はダメージエフェクトである赤い線すら走っていない。

 ノーダメじゃん。

 

「っと、わ、んぃっ……」

 

 今度は連続で噛みつき攻撃をしてきたので、ステップを左右へ刻んで避ける。

 

 幸い攻撃は大ぶりだから避ける事は出来るけど、攻撃が効かないんじゃ意味がない。

 何か突破法は――

 

 攻撃を避けつつ、何かないかと周囲と、黒いドラゴンを観察してみる。

 すると、ドラゴンの背中――ちょうど翼の付け根にきらりと光る黒剣が突き刺さっているのが見えた。

 

「あれなら……!」

 

 ボスモンスターには、ギミックが存在するものがある。

 例えば一定時間が過ぎるとか、特定の動作をするとか。

 攻撃が全く効かないような相手なら、その線から攻略法を探ってみるべきだ。

 

 この黒いドラゴンなら、いかにも何かありますよといったあの剣がそうだろう。あれを使えばダメージが通るとか、そんなんじゃないだろうか。

 

 これで唯の負けイベントだったら運営に抗議メールを送ってやる。

 

 振り下ろし攻撃を最小限の動きで避け、前へ。

 

 黒いドラゴンはわたしの狙いを察したのか、攻撃に苛烈さを増して――

 

 増して――

 

 ま、まし……

 

「近づけないんですけど!?」

 

 隙の少ない攻撃を連打して近づいてきた相手を遠ざけるテクニックを、格闘ゲームでは《暴れ》という。

 

 こ、このドラゴン……露骨に弱点っぽいところを守ってる……!

 

 なんて大人げないドラゴンなんだ。それでも最強種かと言いたくなる。

 

 進行方向を塞ぐように小パンチや噛み付き攻撃が繰り出されるから一向に近づけない。せめてパーティメンバーがいれば、攻撃を受け止める役と弱点へと向かう役に分かれてなんとかなりそうなものを……!

 

 ただ、これで諦めるようなわたしではない。

 覚悟しろ黒ドラゴン。ネチネチと粘着してやるからな。

 

 わたしは肩に刺さった剣を一旦諦め、今度は大きく距離を取った。

 

 振るわれる腕や叩きつけられる爪を避けながら、わたしは森エリアへと入り、背の高い木へと駆け上りながらメニューを開いた。

 

 それを黒ドラゴンがただ見ているはずもなく、雄叫びを上げながらもその木をへし折らんと豪腕を振るう。

 

 下方でメキィと音を立て、わたしの登った木が他の木々を巻き込みながら傾いていく。

 

 わたしは木の天辺まで辿り着いた直後、思い切り幹を蹴り飛ばし跳躍。一気に黒ドラゴンの頭上を取った。

 

「Ek fleygja,ceann――」

 

 空中に躍り出たわたしを迎撃する為、黒ドラゴンの尾が鞭のようにしなったかと思うと、槍の如く突き出された。

 

 明らかに元の長さよりも伸びてるけどどういう構造をしてるのさその尻尾は!!

 でもまあ、問題は無い。

 

「pléascadh‼」

 

 最後のスペルを唱え終えた直後、わたしの背後で空間が爆発し、ぐんっと下方向へと加速する。

 尾の先端がわたしの頬を掠めたが、わたしを貫く事は無く虚空を彷徨う。

 

 落下速度に爆発による加速をプラスした、高速の斬撃……ソードスキルもおまけで持っていけ!!

 

 両手剣単発技《アバランシュ》

 

 オレンジ色の光芒を帯びながら、振るった剣は黒ドラゴンの首を捉え――ザン、と斬り裂いた。

 

「斬れた!!!」

 

 手応えはあった。

 苦しげに悲鳴のような声を上げる黒ドラゴンから距離を取り、HPバーを確認する。

 

 五ミリくらいしか減ってなかった。うっそだぁ。

 

「はい無理! 通常攻略不可!!」

 

 これより耐久戦に入る――!!!

 

 

 

◇Side vinculum

 

 

 

 時は少し戻り、アリスがスリュムヘイムから落下した直後。

 既にトンキーに飛び移っていた《ウィンクル》の面々はそれぞれリアクションを取っていた。

 

「お、お姉ちゃんが落っこちちゃった!!」

「ちょっと、どうするのよこれ!?」

「アーサーを呼んで……いや、だめだ、間に合わない!」

 

 ある者たちは慌てふためき

 

「トンキー、アリスちゃんを追っかけられる!?」

「っ、だめ……! 落ちてくる瓦礫が邪魔で近づけない……!」

「くっ、下は《大空洞》か……。これじゃあ団長は……」

 

 またある者たちは救助を試み、不可能であることを悟って歯噛みする。

 

 そして残る二人。副団長キリトはというと、非常にいたたまれない気持ちになっていた。

 

 気まずい。

 とっても気まずい。

 

 常ならば、ギルド団長であり悪友たるアリスの失態に腹を抱えて笑っているところだが(その後ブチギレたアリスに斬りかかられるまでがワンセットである)、今回ばかりは流石に笑うことが出来ない。

 アリスが落ちた原因というのが、自身が重たい剣を持ってドスンドスンと崩壊中のダンジョンを走ったから、またはその後飛距離を稼ぐために放ってくれた爆発魔法の影響である可能性があったからだ。

 アリスから持ちかけられた話とはいえ、両手に抱えたこの剣を手に入れるために協力してくれた恩もある。この状況で大笑いをするほど畜生ではない。

 

(すまん、アリス……)

 

 キリトは目を瞑り、犠牲となってしまったアリスに心の内で十字を切る。普通に失礼だった。

 

 一方、アリス最愛のパートナーであるコハルはというと、落下した瞬間こそ悲痛な声でアリスの名を叫んだが、その後は特に取り乱す事無く、ただじっ……とトンキーの背から頭を少しだけだし、一言も喋ること無く下方を覗いていた。

 既にアリスの姿は見えないほど小さくなっており、眼前には落下物を大口を開けて飲み干している大空洞が広がるのみ。

 

 どうしようどうしようと騒いでいたメンバーも、コハルのただならぬ様子に気づきはじめた。

 そして険呑な気配を感じたのか、アスナが代表して未だ言葉を発さないコハルに声をかける。

 

「こ、コハル……? 飛び降りたりしないでよ?」

「……え? な、なんで?」

 

 そこでようやくコハルは、全員が自分を見ている事に気づいた。

 どうしてそんなに怯えているのかと目をパチパチとさせる。

 

「いや、なんか……今にも後追い自殺をしそうな気配がしたから……」

「そんな、まさか! どうやったら助けられるかずっと考えてたんだけど、何も思い浮かばなかったんだ。それに……」

「それに?」

「ううん、なんでもない。アリスは()()()()()()()()ホームポイントだろうから……先にクエストを報告しちゃおうよ。アリスには、悪いけど……」

 

 随分とドライに聞こえるが、これはこのゲームがSAOではなくALO、たとえHPが全損しても幾ばくかのペナルティがあるだけでリスポーン出来るゲームであり、昔の、ALOにコンバートしたての頃ならともかく、事件の傷跡も癒えつつある今、ゲーム中での死亡に対して耐性が出来ていたからだ。更に、落下しているアリスが姿勢を整え、武器を交換して生存のために動いていたのがうっすらとだが見えた事もあっての先の反応だった。

 そのため、今自分に出来ることは無いと判断し、少しすれば本人から救助要請なり死亡報告なりのメッセージが飛んでくるとふんだ。

 ちなみにその事をギルドメンバーに濁したのは、足掻いていた事を伝えてそれが失敗してしまった場合、ギルドメンバーから(主に闇妖精と猫妖精の二名から)からかわれて大変恥ずかしい思いをするだろうからという配慮だった。

 かつてはデスゲームに囚われた事で、ゲーム内の死に忌避感を覚えていたコハルだったが、今では普通の少女として、死を織り込んでゲームを楽しむ事が出来ている。無謀に突っ込んでは死に戻りを繰り返すキリトを見て感覚が麻痺し始めているというのは言ってはいけない。

 

 

 

 降り注ぐ氷塊や土塊の隙間をくぐり抜け、安全圏までたどり着いた一行は、今まさに地底世界ヨツンヘイムの天蓋中央に深々と突き刺さっていたスリュムヘイム城がまるごと落下し始めるのを目にした。

 城だった氷のダンジョン下部は跡形もなく崩壊していたが、天蓋から現れいでたそれは、逆さまのピラミッドではなく、正八面体だった。

 

 事前にユイから得ていた情報で、ダンジョンは各辺が約三百メートル程だという。ということは、最下部から頂点までの距離はおおよそ四百メートルと少し。現実で言う東京スカイツリーの特別展望ロビーに迫る程の高さがあるというわけだ。

 もしこのダンジョンアタックが、中央から侵入し、一度頂点まで登ってから下部へと降りる構造だった場合、途方も無い時間がかかっていただろう。下手をすれば、攻略が間に合わなかったかもしれないとギルド内での頭脳派メンバーは冷や汗を流した。

 

「なんか、もったいないような気がしますね。あのダンジョン、まだ行ってない部屋がいっぱいあったのに」

「マップの踏破率は、三十七.二パーセントでした」

 

 シュピーゲルがそう零すと、ユイがそれに実に残念そうに補足した。

 ふいに、ポーンという軽いSEが鳴った。ゲーム内チャットの通知音だ。

 その差出人は、つい今しがた落下した団長だった。

 

「嘘、生きてるの!? あの状況から!?」

「ちょ、超人だ……」

 

 生存が絶望視されていた団長の生存報告に、一同は嬉しいやら呆れるやらで苦笑いを浮かべていた。

 しかし、その表情もすぐに凍りつく。

 アリスの報告によると、今は大空洞の壁に剣を突き立てぶら下がっている状態らしい。そして頭上からはその大空洞に向けて落下する、ちょうど同程度の直径を持つ超巨大な氷塊事スリュムヘイム。

 極めつけに、何やら大空洞の底から穴を満たすように湧き上がってくる水。

 

 リーファは即座にトンキーに指示を出し、救出しようとしたが、先程よりも落下物の密度が高くなった事と、チャットの途中で不穏な感じに反応を返さなくなったアリスに、流石にこれはもう間に合わないと判断をした。

 

「ん? あっ……上!」

 

 なにかに気づいたらしいシノンが、さっと右手を上げた。

 それに釣られて全員が振り仰ぐと、スリュムヘイムに巻き付くようにして萎縮していた世界樹の根が、生き物のようにのたうちながら猛烈な勢いで真下へと突進していくところだった。

 根は、かつての《大空洞》を満たしていた清らかな水面に吸い込まれるようにして伸び、大波を立てながら放射状に広がっていく。

 

「お、お姉ちゃんの生存が絶望的に……」

 

 その光景を見たアイが青ざめた表情で、頬を引き攣らせた。

 流石にあの状況では、如何に高所から奇跡的な生還を果たした団長とて……と各々が諦めかけた時、再びチャットの通知音が鳴った。

 

「……ん? ……えぇ…………?」

 

 またしても団長からの生存報告に、今度は一人を除いて全員が頬を引き攣らせた。

生き残る事に対する悪運が強すぎる。

しかもなにやら未発見のフラグを踏んだらしく、ユイ曰く発見させる気が無いとしか思えない条件でしか行けない隠しマップに居るという。

シュピーゲルが「これが……英雄……!」と更に信仰を深め、何かと同列に語られる事の多いキリトは一緒にしないでほしいなあと現実逃避を始めた。

 

 一同の視界の外では、世界樹の根のそこかしこから生えた若芽に黄緑色の葉を広げ、寒々しかったヨツンヘイムを構成している氷が溶け緑が広がっていくという感動的なシーンが繰り広げられているのだが、あまりにもあんまりな団長の生存力にそれどころではなかった。暖かな風や太陽の如き白光が氷の大地を満たすという奇跡的な光景も、二度の奇跡の前では霞む。

 

 助けに行こう。

 いやでもどうやって……? と顔を突き合わせるギルドメンバーの頭上から声が降り注いだ。

 

「見事に、成し遂げてくれましたね」

 

 金色の光に包まれた、巨大美女こと《湖の女王ウルズ》だ。

 歓喜に満ちた声で礼を告げたウルズに対し、《ウィンクルム》メンバーは。

 

『どうやったら森に行けますか!?』

「…………え?」

 

 

 

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