project ING ~海を越えてきたシンデレラたち~ 作:四月一日雪
お正月も終わりすでに一月中旬のこの時期では世間もいつものように忙しなさが戻っていた。
そしてこのプロジェクトINGにも新たな活動が始まろうとしていた。ついにINGのユニット第二弾が決定したのである。
「みんな、次のユニットが決まったぞ!」
「ホントカ!?」「それでいったい誰なんですか?」
今回はみんなの前で発表をすることにした。みんなが期待と不安の表情を浮かべる。
「もしかしてまたフレちゃんだったりする~?」
「それはない」
クリスマスは終わったが、フレデリカとイヴは引き続きブッシュドノエルで頑張っていってほしい。
「今回のユニットはアナスタシアとクラリスにユニットを組んでもらう」
「私たちですか?」
「オージビラッツァ……驚きました」
呼ばれた二人はびっくりした様子であった。そう、今回のユニットはこの二人に決めたのだ。
「ねえ、他にはいないノ?」
「今回はこの二人だけだ。順番に考えているから、もう少し待っててくれ」
不満そうにメアリーが聞いてくる。申しわけないが俺の能力では同時進行するのはまだ難しい。
期待を持たせてまた待たせることに少し罪悪感を感じる。
「メアリー、ちゃんとユニットデビューはできるのだから焦らないの。世界は逃げないわ」
「……私もプロデューサーを困らすつもりはないわ。でもなるべく早くヨ」
「順番ならしょうがないナ」「二人はしっかり頑張るネ」
みんなも応援してくれて安心した。
「皆さん、ありがとうございますね」
「選ばれたからにはやり遂げます。ぜひやらせていただきます。」
アナスタシアとクラリスも引き受けてくれるようだ。これで無事に進行させることができる。
「じゃあ、二人は後で俺の部屋まで来てくれ」
「はい、わかりました」
「みんなレッスンを頑張っていってほしい。そう遠くない間にまたユニットを作るからいつ呼ばれてもいいようにしておいてくれ!」
◇
二人に部屋に来てもらったので、今回の企画について説明をする。だがその前に二人にやってもらいたいことがある。
「ユニット名をまだ決めていないので是非考えてほしい。できればちゃんと考えて」
前回はゆるい二人に任せたこともあり、ユニット名が食べたいケーキになっていた。そのおかげで仕事が早々決まったということもあるが、今後も使っていくので慎重に決めてほしい。
「名前ですか?んー何がいいでしょうか?」
「今すぐ決める必要はないから、こんなのもいいなあって考えておいて」
「そうですね、私たちらしいものがいいですね」
「後で考えていきましょう」
「それでお仕事は何でしょうか」
クラリスが緊張した面持ちで聞いてきた。そういえば話していなかったな。
「今度ミニライブを行う。そこで二人に歌ってもらう」
「歌のお仕事ですか。少し安心しました」
「歌うのは楽しいですね。楽しみです」
クラリスはほっと一息ついた様子だった。やはり初仕事は緊張するものだろう。
アナスタシアはそういう点では慣れている様子だった。
「なので二人にはボイストレーニングとダンスレッスンを中心にやっておいてほしい」
「はい、了解しました」「レッスン、がんばりますね」
前回の反省を生かすため二人の練習風景を見学しに来た。ドア越しに覗いてみると二人ともしっかりレッスンをしていた。どうやらボイスレッスンをしているようである。
『~~~♪』
二人とも声量はさすがである。そしていい声である。
クラリスは歌うことが好きで聖歌なども歌っていることもあり、のびやかで清らかな声である。
アナスタシアはアイドルとしてステージをいくつもこなしてきたこともあり、歌いなれている。
このようすなら特に心配することもないだろう。念のため確認は行っておこう。
邪魔してはいけないかなと思ったが、トレーナーさんがこちらに気付いたようだ。こちらに駆け寄ってきた。
「プロデューサー、いらっしゃっていたのですね。しっかり見ていきますか?」
「私は専門的な知識はないので特にアドバイスができるかわかりませんが……」
「いえいえ、誰かに聞いてもらっているというだけでも変わってきます。それに聞けばイメージがわきやすいですよ」
確かに二人の歌をしっかり聞く機会は今まで多くはなかった。より理解するためにもここは聞いていった方がいいだろう。これも大事な仕事だ。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
レッスンルームに入るとアナスタシアとクラリスが何やら話しあっていた。たぶん声の出し方などについてだろう。お、こっちに気付いた。
「プロデューサー、一緒にレッスンですか?」
アナスタシアが不思議そうに聞いてくる。
いやいや違うからね。俺はアイドルじゃないから。アナスタシアは少し天然なのかもしれない。
「俺は二人がどんな様子か見に来たんだ」
「そんなお見せできるほどではありませんが……」
クラリスは少し困った表情だ。
「さっき少し聞いただけでも問題ないと思ったからそんなにこわばらなくていいよ」
そう話しているとトレーナーさんから声をかけられた。
「はい、二人ともレッスン再開するよ。次はプロデューサーも聴いているからな。しっかり頑張るんだぞ!」
『はい!』
一生懸命に歌う姿はとても凛々しかった。
「いかがですか、プロデューサー」
「はい、とても素晴らしかったです」
月並みな感想で申し訳ない。こんなに細いからだからどうやってここまで声が出せるのか不思議である。
発声に関しては全く問題がないと感じた。
「トレーナーさんから見て二人はいかがでしたか?」
「二人ともしっかり声は出ています。大きな問題はないでしょう。しいて上げるとすればですが、クラリスの発生の仕方が動きながらできるかぐらいですね」
「動きながら歌うですか?」
そういう考えはなかった。しかしアイドルはそういうことが求められている。
「クラリスはそういった経験はあるのか?」
「そうですね……動きながら歌うということはしたことがありません」
どうやら無いようだ。しかし考えてみれば教会の中で歌いながら動き回るということはないだろう。
「では次はダンスレッスンをする。その後に両方を合わせて行う」
『はい!』
「プロデューサー、引き続き見ていかれますか?」
「いや、私は仕事に戻ります。やらなければならないこともたくさんありますので」
二人のレッスンを見て問題なく出来ているようだと感じたが、それでもまだ足りないようだ。
まだまだ俺は何が必要なのかの知識が不足している。ここはトレーナーさんに任せておこう。
でも次はしっかりアドバイスできるように調べておこう。
◇
今日はステージの下見に来た。ステージを見ればイメージトレーニングにも役立つだろうと思ったからだ。
「ここが今度二人が歌うステージだ」
「わあ、いいステージですね」
「なるほど、ここで歌を届けるのですね」
ここは屋外の中規模な会場だった。平たいステージなので一面にお客さんが見えるだろう。ここでほかのユニットと同じように
「アナスタシアはもっと大きい場所で歌ったことがあるから、小さく感じるかもしれないが……」
「大事なのは広さじゃないですね。チュースバ、気持ちですよ」
「そうだな。そういってもらえて良かったよ。クラリスは逆に広いと思うか?」
「確かに教会よりもこのステージは広く感じます。ですがいつもとは違う舞台でございますが、心を込めて歌うということはいつも通りです」
「それを聞けて安心したよ。屋外だから声が響きにくく実力が問われるから、二人の腕の見せ所だな」
「腕、ですか?アーニャの腕を、見せればいいんですか?」
「いや、本当に見せるんじゃなくてな」
「そういう言葉なんですよ」
「ンー、日本語はむずかしいですね」
こんな談笑をするぐらいには順調に進んでいた。
今回は何事もなくライブにたどり着けるのではないかと思った。
しかし問題は予想外のところで起こるものだった。それは衣装についてだった。
「それじゃあ次は衣装あわせをしてこようか」
『はい』
俺たちは衣裳部屋に移動した。二人に衣装を見せる。
「今回はこの衣装でライブをしてもらおうと思っている」
「とっても、クレシーヴィ……キレイな衣装ですね」
どうやらアナスタシアには気に入ってもらえたようだ。
衣装は白地のドレスになっている。背中と胸のあたりが開いており、セクシーな印象の衣装だ。
一方でクラリスが衣装の前で立ち止まる。いったいどうしたのだろうか。
「ああ、何か不備があったか?」
パッと見た感じでは問題は見当たらなさそうであった。サイズは着てみないと分からないだろうから、装飾についてだろうか。
クラリスは困惑したような顔で尋ねてきた。
「プロデューサー、本当にこれを着て歌うのですか?」
「ああ、その予定だけれど……」
「あの、これは些か肌をさらしすぎではないでしょうか?」
「そ、そうなのか?」
そういうことを聞かれるとは思っていなかった。ただそこまで露出が多いという様子ではなかった。
しかし、当事者でなければわからないことだろう。こういう時はアイドル歴の長い子に聞く方が確実である。
「アナスタシア、これは露出が多い衣装なのか?」
「露出、ですか?ンー、いつもの衣装と同じくらいですよ。私は気にしてないですよ。今までも、こんな感じでした」
どうやらそこまで過激なものではないようだ。ただ嫌がることを無理やり来てもらうわけにはいかない。
けれど今から衣装を変更してもらうことは果たしてできるのだろうか?
「アーニャさん、年頃の女の子がそんなに肌を見せるものではありませんよ」
「そうなんですか、プロデューサー?」
返事に困る質問である。別にそういった路線で売り込んでいく予定はないので、確かにそういった部分を強調していくつもりはない。だがやはり二人ともプロポーションがいいので好材料にはなると思う。
「二人ともこのドレスは似合うと思うけれど、クラリスはこの服が嫌なのか?」
確認のためにクラリスに聞いてみる。ダメならば別のものを用意するしかないだろう。
「……申し訳ありません。少し考えさせてください」
うつむきながら返事が返ってきた。やはり抵抗がある様子だった。
アナスタシアが不思議そうに聞く。
「クラリス、アイドルの格好、恥ずかしいですか?」
「短いスカートや胸元が開いている服は普段着ていませんので、落ち着かないのです」
でも事務所で見かける時も修道服か、レッスン着しか、見たことがない。
たとえ私服でもそのようなものはもっていないだろう。
「分かった。ただ別のものを準備するのにも時間が必要だから、ダメそうなら早めに行ってくれ」
「……分かりました」
念のためアナスタシアにも聞いてみる。
「アナスタシアも衣装について何か不満点はあるか?」
「アーニャ、気になりませんね。ピッタリです」
こちらは問題ないようだ。
「じゃあ今日はこれで確認はできたから、事務所に戻ろうか」
やはり事前に打ちあっわせを早めにやっておいてよかった。まさか衣装で課題が見つかるとは思っていなかった。
ライブ当日までにはまだ日数があるから、さっそく対処する必要がある。
さてこういう時には一体どうしたらいいのだろうか?
新人プロデューサーは難しい課題に直面したのであった。