project ING ~海を越えてきたシンデレラたち~ 作:四月一日雪
イベント当日
ついにこの日がやってきたか。身が引き締まる思いだ。
今日は12/24、クリスマスイヴ。サンタが街にやってくる日だ。
天気は曇り。午後には雪が降るかもしれないという予報だ。まあこの時期の都会の雪なんて対して積もらないから心配いらないだろう。自分が表舞台に立つわけでもないのに無性に緊張する。
いかん、俺が不安になってどうする。俺はちゃんと彼女たちを万全の状態で送り出すことが仕事なんだ。昨日のことも頭をよぎる。やはり俺にできることをやっていくしかない。
昨日話した通り事務所に集合してから現場に向かう。二人とももうついているだろうか。
緊張しすぎてこわばるということはないとは思う。だが、万が一のこともあるからな。
様々なことを考えながら、足早に事務所へと向かった。
「今日のライブ終わったらどうしよっか?クリスマスパーティーやりたいな♪くらえ、クリパー!」
「いいですね、私も夜にプレゼントを配る必要があるのでおいしいものたくさん食べたいです~」
「ねえねえ、それフレちゃんも手伝ってもいいの~?サンタやってみたかったんだよね♪」
「本当ですか、それは助かりますぅ~。じゃあブリッツェンはお留守番しますか?」
「バフ!?」
「も~冗談ですよ。一緒に頑張りましょうね!」
事務所について待ち合わせの部屋に行くとすでに二人と来ていた。そしていつも通りのテンションだった。
俺一人が気負っているだけなのか……。
「あれ、プロデューサーもしかして緊張しちゃってる?平気だよ、どんとくら~い!」
「大丈夫ですか?ブリッツェンで温まりますかぁ?」
彼女たちは今日も平常運転のようだ。ここまでくると非常に頼もしく感じられる。
「いや、二人を見たらなんだか安心してきたよ」
「でも私たち何もしていませんけど~?」
「おおー、アタシたちって癒し効果があったのかな?なんちゃら効果ってやつ♪」
「いつもどおりが一番大事ってことだよ」
俺ももう少し余裕を持てるようになりたいな。アイドルの方が頼もしくては俺が出る幕などない。
「それよりも二人とも準備はできてるか。もう一度予定を確認するぞ。
午前から夕方まで一回休憩をはさみながらケーキの宣伝と売り子をする。宣伝はこの店のクリスマスケーキのことだな。衣装はミニスカサンタの格好だ。今日は特に冷えるからそこは気を付けるように。適宜休憩を取ってくれ。この時一言俺に声をかけてくれるとなお良い。また握手を求められるだろうからそれにこたえる。どれくらい人が来るかははっきり言ってよくわからない。待てる人がいるなら一人当たりの時間を短くしてくれ。とりあえずここまでは理解できたか」
「「 zzz…… 」」
「おいこら。寝るんじゃない。大事な話をしているんだぞ」
「プロデューサーの話は長いですぅ」
「そうだよ!つまりその時にベストの対応をすればいいんでしょ、一言で終わりじゃん♪」
「お、おう。それで大丈夫か?」
「もうプロデューサーは心配しすぎだよ!」
「そうですよ。私たちを信じてください。こんなにもしっかりしてるんですよ~」
…しっかりしているのだろうか。だが今朝も同じことを考えて、ちゃんと送り出すと決めたんだ。
「よし、分かった。俺は俺のアイドルを信じる。だから二人も思いっきり楽しんでくれ」
「そう、それでいいんだよプロデューサー♪」
「はい任せてください」
2人が元気よく返事をする。どうやら大丈夫そうだな。
「よし、じゃあ現場に向かうぞ!」
「「おー!」」
◇
「お姉ちゃんってサンタさんなの?」
「そうですよー。ブリッツェンと一緒にプレゼントを届けに行きますよ」
「このトナカイって本物なの?そうですよ―触ってみますか?」
「いいのー。(ぺちぺち)」
「バフ」
「あーフレちゃんだ。今日もとってもかわいいー!」
「しるぶぶれー♪今日のフレちゃんはサンタさんだよ。」
「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「いいよー。じゃあせっかくだからサンタポーズでとろっか。じゃあいくよ、イエー!」
「サンタポーズ?い、いえーい!」
二人とも特に問題なさそうだね。今日の人の入りはなかなかよさそうだ。あらかじめ宣伝させてもらっていたのでファンの方が来てくれている。それに通りがかった人も何かと足を運んでくれている。子供は特にブリッツェンの効果もあり興味を持っているようだ。ちなみに二人はサンタのコスプレをしている。二人ともとても似合っている。
スケジュールは順調に進んでいった。
この時期は日が暮れるのが早い。あたりはすでに暗くなり始めた。寒さも一層増してきている気がする。
ブッシュドノエルとして初ライブの時間が迫ってきている。
「二人ともライブの準備はできているか?フレデリカは?」
「当然、バッチリ!最高のライブにしちゃうよ♪」
「イブも準備は大丈夫か?」
「そうですね、アイドルとして、ここに来てくださった皆さん、そしてプロデューサーに感謝と笑顔を伝えたいです!」
その気持ちがあれば心配することはないな。今まで練習してきたことを存分に発揮してきてほしい。
「そういえばプロデューサーに衣装の感想を聞いていなかったなあ~。どうどう?カワイイ?」
「どうしたんだいきなり…?」
「やる気を注入しようと思って♪」
「…とても似合ってるぞ。静かにしていれば美人だよ」
とても素敵だ。彼女の特徴である金の髪に真っ赤な服はとてもあっている。美しい手足が惜しげもなくさらされている。
「ンフフー、正直で大変よろしい♪」
「わ、私はどうですか?」
イヴが少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「なんか、安心する」
「それってどういうことですかぁ?」
ぷくっと頬を膨らます。もちろん似合ってるにきまっている。まさにサンタという名前がふさわしい。白い髪に赤いコスチュームはクリスマスのイメージそのものだ。いつもとはちょっと違うサンタ服だと新鮮に感じる。
「とっても綺麗だよ。とっても輝いている」
「あ、ありがとうございますぅ…」
二人の並んでいる姿を見る。この二人はいいコンビだと思う。見た目は二人とも西洋的でブロンドとプラチナブロンド。性格は二人ともゆるい感じで、だけど芯が強い。見た目は対照的かもしれないが、性格はそっくりだ。
そして二人とも将来のトップアイドルだ。
「さあ時間だ。全力で盛り上がって来い!」
ーライブトークー
「今日は来てくれてありがとうございますぅ~」
「みんな寒いけど大丈夫?待っててくれてメルシー!」
「これが私たちの初ステージです!とても大切な日を皆さんと一緒に過ごすことができてうれしいですぅ~」
「アタシたちブッシュドノエルからの歌のプレゼント、しっかり受け取ってね♪」
二人のライブステージはクリスマスっぽく、イルミネーションで彩られていた。
他の人から見たら小さなステージかもしれない。だが俺にとってはとても大きく、そして二人は輝いていた。
歌っているのはクリスマスソングとしておなじみのものだ。街中で流れている。ただ歌っている二人はとても楽しそうに笑っていた。それだけでこの歌は特別なものに感じられた。お客さんもみんな笑顔で楽しそうだ。
「最後まで聞いてくれてありがとー!」
「皆さんメリークリスマスです!今夜もう一度お会いするかもしれませんよ~」
「では素敵な聖夜を♪ブッシュドノエルでした!」
二人に惜しみない拍手が送られる。勿論俺も拍手を送った。
2人がステージから帰ってくる。
二人ともとてもいい顔をしていた。吐く息は白くなり、肩で息をしている。それでも彼女たちは美しかった。、
「私たちのライブはどうでしたか、プロデューサー?」
「最高だった!もっと歌を聞きたいし、見ていたかった。そんなライブだった」
こんなつたない言葉でしか伝えられないのがもどかしかった。
俺がプロデューサーになってよかったと思った。そして苦労や努力をするが、ファンやお客さんの前では輝きだけを見せるアイドルの支えになりたいと強く思った。
それを少しでも伝えたかった。
「俺はまだ頼りないし、先導するどころか、道に迷ってしまうかもしれない。それでもこれからも一緒に歩み続けてほしいんだ」
本気だった。プロデューサーとして、むきあっていけるようになりたいと思ったのだ。
しかし、反応がない。見ると二人はぽかんとしている。な、なんだよ何か言いてくれよ。結構恥ずかしいことを言ったと思ったんだ。心配しているとイヴもフレデリカも手を握ってくれた。
嬉しそうに笑いながらイヴとフレデリカが話す。
「はい、私たちもそう思っています。まだまだこれから一緒にトップアイドルを目指していきましょう!とってもあったかい気持ちになりました」
「アタシもいろんなことをしてみたいな!そしたらもっといろんなことするの!」
「ああ、これからもよろしくな」
俺は二人と強く握手を交わした。
「プロデューサーって、クールに見えて意外と情熱的だよね♪フレちゃん大好きだよ~そういうの♪」
「私も照れちゃいましたぁ」
「うるさい、日本人はあんまり感情を出さないんだよ!」
顔が熱くなっているのが自分でもわかる。
恥ずかしさに耐えられないので二人に話を振る。
「ほら、体が冷えるから早く着替えてこい!」
「いやいや、フレちゃんも熱々だよ、プロデューサーに告白されちゃったから♪」
「私も幸せな温かさですよ~」
「いいから着替えてくる!」
からかう二人を更衣室に送る。
俺はなんて恥ずかしいことを言ったのだろうか。少しライブを見て興奮しすぎたのかもしれない。
それでも…あの時の思いは本物だから今は晴れ晴れとした気分だった。
◇
「ケーキまでもらえるなんてとっても嬉しいです」
「またケーキ屋でアイドルやりたい~。もういっそケーキ専属アイドルになっちゃおっか♪」
「それもいいですねぇ~」
「いやいや、ダメでしょ。次の目標に向かっていくんだから」
でも来年のクリスマスにまた二人の晴れ姿を見てみたいと思った。
「ブリッツェンもお疲れ様でした。今日はいろんな人に触られていましたからねえ」
「そうだな、子供に大人気だったしなあ。ブリッツェンの食事も負担しよう」
「本当ですかあ。今日は一緒に豪華なものを食べられますよ~」
「バフバフ!」
「今日はパーっとクリスマスパーティー七面鳥?ターキー?」
どっちも同じだろう。料理はINGのみんなに任せているが、どうなっているだろうか。
「さあ事務所についたぞ」
みんなが待っている部屋に向かう。
イヴが扉を開ける。
「「(パンパーン)二人ともお仕事お疲れさま!」」
みんながクラッカーを鳴らす。またこんなことをしていたのか……。盛大にいわうことはよいが毎回出てくるのか。
「どーもどーも、ありがとう♪」「ありがとうございます!非常に楽しかったですぅ!」
二人にねぎらいの言葉がかけられる。
「パーティーの準備できなくてごめんねー」
「いいんですよ、お仕事の方が大事ですから」
「ちゃんと二人のステージをビデオにとってきたから、あとでみんなで鑑賞会をするか」
「それは楽しみだナ」
「プロデューサーも仕事していたのネ」
それはいったいどいうことだ。
「いやーアタシもよく覚えてないんだよね♪」
「でもそれはなんか恥ずかしいです~」
「でもその前にパーティーを始めましょうか。プロデューサーとフレちゃんはクラッカー持った?」
「OKだよー」
「あれ、私もらってませんよ?」
「ではせーのっ!」
『イヴちゃんお誕生日おめでとう!!』
「え?ええ~!?」
「どう、驚いた?」「やっぱり気づいていなかったね」「surprise成功ネ!」
そう今回はクリスマスパーティー兼イヴの誕生パーティーを行うのだ。
「皆さん、ありがとうございます~」
「はい、これはあたしたちからのプレゼントだよ♪」
「今開けてもいいですか?」
「どうぞどうぞ♪」
「わあ、カワイイお洋服ですぅ。しかも新品ですぅ~!大切に使わせていただきます!」
「喜んでもらえて私たちもうれしいわ」
「プレゼントをいつも挙げている私がこんなに皆さんからもらえてとっても嬉しいです!」
「あれれ、プロデューサーからは何かないノ?」
「うっ、じつは俺も何か用意しようと思っていたんだが、忙しくてな……まだ決まってないんだ」
「欲しいものがあったら言ってくれ、ぜひプレゼントしたい」
「いえいえ、お気持ちだけでとっても嬉しいです。それに私の居場所ももらいました」
「いーのよイヴ。あなたはもっと欲を出しなさい」
「そうです、もらえる善意はいただくべきは言うべきでございますです」
「アイドルの頼みを断るプロデューサーなんていないでショ」
いつのまにか退路がなくなってしまった。勿論できるだけ願いをかなえたいとは思っているが、いったいどんなことを言われるのだ?
「と、当然だろう。もっと俺に対してわがままになっていいんだぞ。さあ、何でも言ってくれ」
「本当にいいんですか?」
ちょっと困った顔で聞いてくる。俺も覚悟はできていたので頷いた。彼女は少し逡巡した後に静かに口を開いた。
「では来年もクリスマスイヴにライブがしたいです。そしてその時に私にオリジナルのクリスマスソングをください」
「……いいのか、もっと時期を早めたりすることだってできると思うが」
「私はアイドルであり、サンタです。夜空をソリで翔ける時に自分のクリスマスソングを歌うことが夢なんです。これが私の欲しいものです」
「分かった、約束しよう」
誕生日プレゼントとしてイヴにクリスマスソングを用意しよう。そして今日よりももっと大きなステージで世界に響き渡らせよう。
「ありがとうございます。皆さんは私にとってのサンタかもしれないですね♪」
彼女は幸せそうに、とびっきりの笑顔でそう言った。
「そういえば私たちにはクリスマスプレゼントってないんですか、プロデューサー?」
「え?」
「そういえばなんか用意してくれてもいいんじゃないですか?私たちいい子にしてましたよ?」
「いやいや、俺に頼まないでくれよ。ほらサンタがそこにいるじゃないか!」
「でもさっきのは誕生日プレゼントじゃないですか~。かわいいアイドルはクリスマスプレゼントを欲しがってますよ?」
「か、勘弁してくれ~!」
この後みんなをなだめるのにだいぶ時間がかかった。
◇
クリスマスパーティーは盛大に行われた。
今回は先に常務の許可をとっていたので特に問題は起こらなかった。念のため大人の方々にはシャンパンは我慢しもらった。料理はみんなが郷土料理を持ち寄ったことにより、普段とはまた違ったものとなった。俺は今年のクリスマスが今までで一番楽しかった。
そして楽しいことはやがて終わり……。
その後に俺は事務所で今日の報告書を作成していた。今日は休んで明日に回してもよいかと考えたりもしたが、明日には明日の仕事があるのだ。何でクリスマスが祝日ではないのだ。まあ俺もキリスト教徒ではないのでそこまで主張はしない。やはりプロデューサーも決して楽ではないのである。
そんなことを考えながらキーボードを打ち続ける。今日は疲れたが、それ以上に有意義であった。彼女たちのステージをこれからも一番近い場所で見ていきたい。そう思うには十分すぎる日だった。
プロデューサーさん、メリークリスマ~ス…
はっ、いかん。意識が飛んでいた。やはりまだ体がデスクワーク以上のことになれていないようだ。
誰かに何か言われたような気がしたが……いったい何だったのだろうか。
ふと、机を見るとさっきまで作業していた時にはなかった箱とカードが置いてあった。
なんだこれ?不思議に思いカード手に取ってみる。どうやらメッセージカードのようだ。カードにはこう書かれていた。
夜遅くまでお疲れさまです。無理してはダメですよ?これはプレゼントですぅ~!
これを食べれば元気100倍!もっと食べれば……ちょースゴイ!ファイトだよ、ラブユ~♪
あなたのサンタたちより
……まったく、あいつらはいつの間にこんなものを用意していたのだろう。直接渡してくれてもよかったのに。
いや、それはちょっと恥ずかしいかもしれない。今は素直にサンタさんに感謝しよう。
「よし、もうひと頑張りするかぁ」
俺は再び作業を始めた。後でサンタからのプレゼントをしっかりいただこう。
箱の中にはクリスマスにおなじみの、そして俺にとっては特別となったケーキが入っていた。
イヴにオリジナルのクリスマスソングを歌ってほしいなと思いこのような話を書きました。
これが成長物語というには十分の多くの描写はできていませんが、アイドルががほかのアイドルとふれあい何か変化していけば、それは成長だと思います。
プロデューサーの幸せはアイドルの幸せです。
ブッシュドノエルが広まると私もうれしいです。
年内あと一回書きたいです。