流星のファイナライズ 作:ブラック
年内は一応これで終わりにしようかと思います。
またしばらく書き溜め増やします!
みなさん良い年末をお過ごしください!
次章予告を追加しました。
迫り来る星々を華麗に避けながら、俺は考えていた。
今更だけど飛べるんだから倒しに行けばよくね…と。
擬似宇宙の電脳1も大詰めに来ている。時折出てくる電波ウィルスをデリートしながら迫り来る星々を回避するのは至難の技だ。星のダンスのエリアではないところでウィルスが出る分には問題ないけど、どうしてもエリア内だとしんどい。
俺がついブラックホール3でHP160以下のウィルス全て無に帰すくらいには鬱陶しい。
これをみてウォーロックとスバルは戦慄していた。どうやらスバルのHPは160以上あるのだろう。
これでブラックホールに呑まれていたら洒落にならなかった…。
『反省はしてるけど、後悔はしてない。だってうざかったんだもん』などと言ってしまった手前、スバルに『飛べるからあいつ倒してくるね』とは言えないな。
健気にロケットのレバーを必死に引いてシタッパーを狙っているスバルにそんなとこ…口が裂けても言えない。
あ、HPメモリ20ゲット。
背に腹は変えられないのでいずれはブチ切れてやってしまいそうだが、擬似宇宙の電脳2へ入ってからにしようと思う。もちろん、今度はシタッパーの数も増えているだろうから手分けをする。
「き、キグナス様ーー!!」
この電脳最後のシタッパーが先ほどの三下台詞を吐き捨てて爆散したのを見送って擬似宇宙の電脳2へ移動する。
擬似宇宙の電脳2でも相変わらずキグナス・ウィングの姿は見当たらず、その行く手は巨大な星で塞がれていた。
「スバルここからはシタッパーの数が随分と増えるみたいだ。そこで手分けをしようと思う」
「で、でも大丈夫?」
『確かに問題はなさそうだが…本当にお前何考えてんだ?』
「強いて言えば鬱憤ばらし。悪くいったら八つ当たりかな?」
「どっちもどっちだよ!?」
「はっはー! それじゃまた後でねスバル」
スバルとウォーロックに軽く手を振ってノイズド・ウィングバーニアを使って宙を舞う。それをみたウォーロックとスバルが『そういや飛べるじゃん』みたいな顔をしたのは見てない。断じて見てない。
一度空中に飛んでしまえば機動力は大幅に上がる。まず、ウェーブロードに縛られなくていいのが大きい。次に空中に浮いているウィルスに対して手段が増える。そして飛ばないウィルスに対して抵抗すらもさせない理不尽すぎる蹂躙が可能となる。
『Ryusei Server Access』
視界に入ったバトルカードからスプレッドガン3を2枚選択するとどこぞのモビル○ーツのように空中で大きく旋回してとにかく連射する。
一度砲身から放たれたスプレッドガンはウェーブロードの地面にたどり着くまでに何度も拡散して降り注ぐ。空中のウィルスに対してはバスターレベルMAXの力を見せつける。
そして、次のカスタムゲージが溜まる。
後ろでウィルスたちが断末魔をあげる中、選んだバトルカードはインビジブルとエレキブレード3。インビジブルを使うと自身の身体の周波数が特別なものへと変化したことを感じる。どうやらこれのおかげで敵の攻撃を通り抜けることができるようだ。
星のダンスをくぐり抜けて来たことに対して怯えの声を漏らすシタッパーをエレキブレードで斬りつけてデリートする。
三下台詞を吐かせることすらさせずにシタッパーを消すとすぐさま次のシタッパーの元へと向かう。
もはやルートやギミックはガン無視だった。
▼ ▼ ▼
「……」
『…』
「ねえ、ロック…最初から」
『言うなスバル』
二人が思い出したのはいつかのバトルの台詞だ。
『俺の本来の戦闘スタイルは空中戦。だから俺は空から君たちをサポートするよ』…確かに彼はそう言ったことを2人は思い出したのだ。
黒夜が飛び立っていた方向では、雷が轟き乾いた銃声がこだまし小さな爆発がいくつも起こっている。
ロボットアニメでよくあるあれである。あの爆発が遠くで起こっていた。
『気をつけろスバル、一番やべえのはやっぱあいつだ』
「きっと裏ボスなんだろうなぁ…」
スバルとウォーロックの本音を本人が聞くことはなかった。
▼ ▼ ▼
それから約10分後。
「覚悟しろ、キグナス・ウィング!!」
「……」
『……』
無言の視線が痛い。
あれから片方側全てのシタッパーに物理的にトドメを刺しミステリーウェーブも全て回収して戻ってきた。そんな俺を待っていたのは無言で立っているスバルと物申してきそうなウォーロックだった。スバルからは責めるような眼差しを向けられ、ウォーロックからも呆れと責めの眼差しを向けられた俺は無言で逆側のシタッパーにトドメを刺しミステリーウェーブを回収してきた。
当然、逆側のミステリーウェーブはスバルに無言で差し出した。
先へ進んだ擬似宇宙の電脳4でもスバルの視線に負けて俺はシタッパーを狩り続けた。もうこれはシタッパーハンターと呼んでもらうしかないね。
ちなみに今回はスバルが地上の敵を担当してくれた。はしゃぎ過ぎてウィルスがノイズに当てられ暴走してしまったようだがスバルはしっかり仕留めてくれた。スバル優しい、ほんとにごめんよ。
因みにウィルスたちが強化された原因についてはウォーロックがしっかり解説してくれた。
そうして無言の圧力は続くのである。
「こんなところに人間? この周波数…ずいぶんと気持ち悪い周波数をしてますねあなた、何者です」
やっぱり電波体からすると俺の周波数は相当気持ち悪いらしい。
『ケッ。気持ち悪い周波数をしてんのはキグナス、お前もだぜ』
ちゃっかり『お前も』って言うあたり、ウォーロックの辛辣さが身にしみてくるよ。ほんと、ごめんって…。
「まさか、ウォーロックかい? フフフ、驚いた。こんなところで会うなんて。君ともあろうものがそんな小さな子どもに取り憑くとはね」
『そいつはお互い様だぜ。お前もそんな青瓢箪を利用してるじゃねえか』
「そんなことはないさ。彼の周波数は僕とよく合う。そうだろ?」
「裏切られたんです。フライングジャケットは私が開発したものなんです。天地さんはそれを…自分の手柄にしようと!!」
キグナス・ウィングの口調が急に変わったのは人格がキグナスから宇田海さんへと変わったからだ。
「そ、それは誤解だ! 僕はそんなこと決してしない! 誓ってもいい!」
どこかからか声が響いた。
この声は…天地さん?
どうやら今の会話は現実世界にも聞こえていたようだ。もしかしたらキグナス・ウィングの背後にあるモニターから映像も入っていたかもしれない。
つまり、俺の姿もばっちり?
ブラックエースに俺の面影はあまりないから大丈夫だとは思う。バイザーもついてるしね。
後はみんな回転で目を回してくれていると信じよう。
「聞こえていたんですか天地さん。今更何を言いだすかと思えば」
「本当だとも。僕は決してそんなことはしない!」
「天地さん、わたしはあなたに感謝しているんですよ。あなたのおかげで気づけたんです。裏切りこそがこの世の中の本質だと!」
タイミングはここしかない!
俺はここぞとばかりにあの時…天地さんの研究室を訪ねたときの音声を流す。
『これってなんですか?』
『お、それこそまさに僕が今開発している未公開研究の一つロケットの設計図だよ。まだエネルギー効率の見通しが微妙なところで…って難しかったなごめん、ごめん』
『な、なるほどこんなに細かいんですね。ん?これはなんです?』
『それはさっき紹介した助手の宇田海が開発しているフライングジャケットというものだ。僕の目から見ても非常に完成度が高くてね。うかうかしてると賞を逃しそうだよ、ハッハッハ!』
「!?」
「宇田海さん。これが真実だよ。おそらくあなたが聞いた『ケット』という言葉の正体。それはフライングジャ
「そ、そんな…ば、バカなことが」
『惑わされるなこれは奴らの策略だ! 何度信じてきた! 何度裏切られてきた! 裏切りこそが世の中の真実。狡猾な手に嵌ってはいけないよ。君の理解者はボクただ1人…そうだろう?』
「そ、そう。そうでした。危ない…また僕は騙されるところでした」
『チッ…聞く耳持たねえじゃねえか!』
俺に八つ当たりしないでよウォーロック!
なんとかなるかもとは思っていたけど流石FM星人、洗脳の仕方はプロフェッショナルだ。
「違うよ宇田海さん。それは違う」
裏切りこそが世の中の真実?
そんなことはないさ。
だって、今回裏切ったのは宇田海さん…あなただ。あなたは自分の心が弱いばっかりに手を差し伸べてくれた天地さんを裏切ったんだ。
それを天地さんのせいにして…。
『気を引き締めろスバル! やらなきゃやられるのは俺たちだ!』
「裏切られるくらいなら…私が、私から傷つけてやるんだ!」
「この…わからずやぁぁぁぁ!!」
感情の高ぶりで思わず普段は抑えている背部のノイズドウィングバーニアの出力をあげてしまう。
電脳に湧き出るようにノイズが溢れ始める。
『Ryusei Server Access』
普段ではありえないノイズの量に流星サーバーのアクセスレベルが更に引き上げられるのと同時に、擬似宇宙の電脳にノイズがさらに増えていく。
ノイズウェーブ・デバウアラでそのノイズを吸収してユニットの稼働率を底上げしていく。
『なんてノイズ出しやがるッ!!』
「ここは擬似宇宙の電脳。ブラックホールがあってもおかしくない。見せてあげるよブラックエース本来の力をね」
あらかたのノイズを吸収しきって自分の力へと変換する。
今回はどちらも羽を有している。完全に空中戦になる。スバルとウォーロックには悪いけど、とどめは俺にやらせてもらおう。
オックス・ファイアの時同様、どうやらこちらは眼中にない。
『呆けてんじゃねえ! あいつの狙いは俺たちだ!』
瞬時に我を取り戻したスバルが腕をキャノンに変えてキグナスめがけて連射するが、当たらない。
大きく旋回して放たれたのはキグナス・ウィングの羽だ。柔らかそうなイメージのある羽だが、あれは矢のように飛ばすことができるのだ。
スバルは羽をシールドで防ぐと、水でできた衝撃波のようなものを放つ。
ワイドウェーブ1。
ゲームでは真ん中で撃てば回避不可能の強カードだが、キグナス・ウィングのいる場所はゲームのマスではない。無限に広がる空中だ。当然、避けることは可能。
「スバル、ウォーロック」
「なに?」
「今回は俺があいつを空中から叩き落とす。スバルはそこを狙ってくれ」
「わかった!」
その間にもキグナス・ウィングはスバルを狙って羽を放つ。俺は空中に飛びあがり、スバルとキグナス・ウィングの間に入ると先ほどスバルがしたようにシールドを張る。
本当にスバルしか見ていない。
ならばまずは…。
「お前の視線を釘付けにする!!」
もちろん物理でね。
キグナス・ウィングに向けて思いっきり息を吸って笛を吹く。
甲高い音が鳴り響いた直後、キグナス・ウィングの身体がこちらへと吸い寄せられてくる。
これはバトルカードホイッスルの効果だ。
そして吸い寄せられたキグナス・ウィングをシンクロフックXで殴りつけて地面へ叩き落とす。
3よりもさらにランクの高いバトルカード…それがランクXだ。
キグナス・ウィングが落ちていく先に待ち受けるのはグレネードボムを構えたスバル。
まさにキグナス・ウィングが地面と激突する寸前に投げられたそれは盛大な爆発を起こす。
このターンのバトルカードは使い切っているので上からエースバスターを乱射する。
その様子をスバルが唖然としてみているが、同情の余地はない。
え?
死体蹴り…常識でしょ?
というのは嘘だ。
グレネードごときでくたばるわけがない。どころかピンピンしてるはずだ。
カスタムゲージが溜まるのを待つ。
すでに手持ちのバトルカードの中にはあのカードがあった。
初めてではないが、俺がブラックエースを封印した原因となったバトルカード。
「スバル。とどめのときは合図するからウェーブアウトした方がいいよ。ウォーロックだけじゃなくて人体にも影響するかもしれないからね。あぁ、インビジブルは意味ないから気をつけてね」
カスタムゲージが溜まったのを確認してバトルカードを選択する。
キグナス・ウィングのHPは数字にするとどれくらいだろうか。原作ではそこまで高くなかった。
キグナス・ウィングがゆっくりと立ち上がる。その瞳はスバルではなく、確実にこちらを射抜いている。
再び空中へと飛翔すると向こうもこちらを追ってくる。後ろを振り返り、腕を払うと竜巻が現れる。
竜巻は竜巻でもその風の威力はカマイタチ。
巻き起こる風がキグナス・ウィングを切り刻む。
さらにそこへスバルが凄まじいスピードで突っ込んでいく。どうやら動きが竜巻に取られているところを狙う算段のようだ。
スバル自身はインビジブルを使っているのだろう。
腕の形は先ほど俺が使っていたものと同じグローブ…あれはシンクロフック!?
スバル、いつの間にそんなバトルカードを!?
竜巻をすり抜けたスバルが振りかぶった腕をキグナス・ウィングのみぞおちへ繰り出す。顔面にやらないあたり性格が悪い…多分無自覚なんだろうなぁ…。
大きく吹き飛ばされるキグナス・ウィングを放置するようなことは決してしない。
肉薄しようと試みる。
キグナス・ウィングもやられっぱなしではいない。
接近する俺に対して体勢を立て直し、持てる全ての方法で俺を引き離そうとする。
キグナス・ウィングが放つ羽の弾丸を避け、魔法のように召喚されるシタッパーをバルカンのごときバスターで蹴散らしていき肉薄する。下からはスバルがキャノンで援護してくれているおかげで、全部のシタッパーに注意を向ける必要はない。
ダンスのように回転する攻撃に関してはバスターで応戦し、ダメだと思えば回避することで事なきを得る。
そしてその瞬間はやってきた。
「スバル、ウェーブアウト!」
バトルカードを使う。
ノイズの出力がさらに増加する。
擬似宇宙の電脳が乱れ、先ほどまでキグナス・ウィングが嘲笑を浮かべながら眺めていたモニターの映像がノイズで見えなくなる。
「ここまでノイズ率を上昇させたのはずいぶんと久しぶりなんだ。だから、もしも加減を間違えちゃったらごめんね」
右腕のクリムゾンレギュレーターからノイズを高圧縮して作り出した結晶…クリムゾンを作り出す。だがそれは結晶体と呼べる程の硬さや形を持っていない。
曖昧で今にも溶けてしまいそうな脆いクリムゾン。それにさらにノイズを集中させていく。
出来上がったのは禍々しい紅黒い光。
それを天高く掲げ、キグナス・ウィングに目掛けてゆっくりと放る。だが、放られた光はその動作とは似合わぬ異常な速さでまるで結界のように広がる。
『ッ!!! スバル!! ウェーブアウトだ!』
「ロック!?」
『早くしろ! 手遅れになるぞッ!!』
スバルがウォーロックに無理やりウェーブアウトさせられたのを横目で見送る。
直後に出来上がったのは簡易的なブラックホールの球体。もしもこの場にスバルがいたら間違いなくあの球体に呑み込まれていただろう。
キグナス・ウィングはすでにあのブラックホールの球体の中だ。身動き一つ取れない、暗闇の世界に彼は捕らわれている。
さらに同じ要領で右腕のクリムゾンレギュレーターがクリムゾンとノイズで出来上がった紅黒い剣を作り出す。半ブラックホールといえばいいのか…あの球体ほど不完全ではないため、剣は形を維持している。
「ブラックエンド」
剣を構え、ブラックホールの球体の真横をすり抜ける。すれ違いざまに紅黒い巨大な剣の刃を球体に当て斬り裂く。
この剣の効果はグラビティ。
重力効果によって動けなくなる。
まあ、それもHPが残っていればだけどね。
「ギャラクシー!!」
球体が斬り裂かれたことによって外部からの光が入り込み、まるで球体の中から光が溢れているように錯覚する。その光が球体全体を包んだ直後、ノイズでできていたクリムゾンが爆発する。
ノイズによるブラックホールの爆発。
その様はもはや、惑星の爆発と言っていい。
充満していくノイズをノイズウェーブ・デバウアラで吸収していく。
爆発が収まっても小さな爆発が起きているのはキグナス・ウィングが崩壊しているからだろう。
「聞こ◆て…、宇田海くん。も◆やめ…僕の話を聞いてく…」
徐々に通信が回復してきたのはノイズが薄くなったからか。この声は天地さんだ。
「宇田海くん。君は何か勘違いをしている」
「この、声は…地さん」
キグナス・ウィングの声が途切れ途切れなのは彼がもう電波変換を維持しているだけの力がほとんど残されていないから。
そして宇田海さん自身のHPがほとんど無くなっているからだ。
…ごめんなさい、オーバーキルでした。
「僕は人の発明を横取りなんてしない」
「さっきの…録音、やはり…」
「本当です!僕が聞いたんです!綺麗なロケットの図面が気になったんです!」
この声はキザマロ。
どうやら踊りは無事に解けたようだ。
「あんなに楽しそうに…嬉しそうにあなたの研究を私たちに話してくれたのわ、他でもないおじさまよ!!」
ルナも元気そうで何よりだ。ということはゴン太も元気になっているんだろう。あれだけ踊り続けてよく脳が麻痺しなかったものだ。
「それでも! わ…しは!天地さん…」
そう。
それでも人を信じることができない。
それが宇田海さんという人間に刻まれた心の傷。
「なんだい?」
「ヘル、メット…とってくだ…さい」
キグナス・ウィングにもう動くだけの力は残されていない。俺はキグナス・ウィングに目で訴えられてこの電脳に新しい機能を追加する。
すぐにプログラミングができるわけないと思っているかもしれないが、簡単な話だ。
この世界は電波社会。
小学生だって簡単なプログラミングができる時代だ。
酸素を充満させるプログラミングではなく、外の出入り口とこの空間の扉を開ける程度のプログラミングなら俺にだってできる。
両方の扉を開けて空気を通す。おそらくモニターの前にいる天地さんたちの位置からでは気づかないだろう。
「…わかった」
それでも、天地さんはヘルメットを取った。
「確かに酸素があるが、充満してるとは言えないな。というかこれは少なすぎだぞ。まだまだだな宇田海」
若干苦しそうな天地さん。
ごめんなさい、それをやったの俺です。ほんとに、ごめんなさい。
「あぁ…」
宇田海さんが、自身の間違いを悟る。
キグナス・ウィングが消滅していく。
『そんな、馬鹿…ぎゃぁぁぉぁぁッ!?』
キグナスを必要としなくなったのだ。宇田海という人間の心の穴が埋まりかけている今、孤独につけこむFM星人の洗脳は意味をなさない。
「宇田海。僕は君を信用している。だって、僕の知ってる宇田海くんは発明で人を死なすようなことはしない。そうだろ、君は誰の目からみても優秀な科学者なんだから」
さらに続けて天地さんは言葉を紡ぐ。
「今の世の中にブラザーバンドが必要とされる理由。それは…つながりこそがこの世の中の本質だからだ」
「!!!」
「どんなに失望しても、絶望したとしてもそれはこの世の中の全てじゃない。もっと、目を凝らしてみてごらん。今君の前にも広がってるだろう?この世界の明るい部分が!」
それ以上言葉はいらなかった。
▼ ▼ ▼
事件の後、僕は全てをウォーロックから聞いた。
「ロックから聞いたよ。君が、ブラックエースなんだね…黒夜くん」
「そうだよ、スバル」
『隠してたわりに随分とあっさりバラすじゃねえか』
あの正体不明の電波体…ブラックエースだと気付いたのはウォーロックが言ったからだ。確かにキグナス・ウィングと戦っている間、彼の姿はどこにも見えなかった。
それでも信じられなかった。
「まあ、いつかはバレると思ってたからね。その時はその時でよかったんだよウォーロック」
『お前…俺の声を』
「声だけじゃなくて姿もばっちり見えてるよ。スバルのようにビジライザーがなくても裸眼でね」
「ビジライザーのことまで」
ビジライザーのことを知っているのは天地さんと持ち主である父さんだけ。
もしかしたら黒夜も僕の父さんのことを…。
「まあ、そのことはスバルが学校に来たときにでも話そうか。今日は俺もスバルも疲れてるし、帰って寝よう。というか帰らせてくださいお願いします」
大きく伸びをした黒夜の様子からは疲れは全く見えない。それでも、今日はなにも話してはくれないんだろうと僕の勘が告げている。
この喋り方は、この逃げ方は父さんのことを質問したときのウォーロックと一緒だ。
『最後に一つだけ聞かせろ』
「ん?」
『お前は、俺たちの敵か?』
「いや、それはないんじゃないかな…またねスバル、ウォーロック」
敵じゃない。
今はそれだけわかれば十分だった。
「おいおいウォーロッくん、ヒョロイは君のとこのスバルも同じだろ?」
『ウォーロッくんはやめろ、虫唾が走る』
「お久しぶりです五陽田さん」
「ふふ、ありがとう。それと…ひさしぶりだね」
「…なんでやねん」
「黒夜が女の子…連れて来た」
「響ミソラというブランドはお前たちの想像を遥かに超えるところにまで来ているんだよ!!」
電波変換がなければ…俺は無力だ。
社会的には子どもだし、身長だって高くない、力は大人なんかには到底及ばない。
そんな俺が、彼女にしてあげられること。
それは……。
「とりあえず、目の前にいる君くらいなんとかするって」
次章、『結ばれる絆』