流星のファイナライズ 作:ブラック
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※ミソラちゃんのお母様の亡くなったのが1年前と原作と違いますが、仕様です
ミソラちゃんのライブ当日。
昨日の会話をウェーブロードから盗み聞きしてやったが、どうやらゴン太とキザマロも来るらしい。なんでも徹夜で並んで買ったんだとか。
おい、小学生が徹夜して並ぶとかなにしてるのさ。
そして原作通りゴン太とキザマロはミソラちゃんのファンクラブに入会しているようだ。
本人たちは『早く休んで体力温存』なんて言っていたが、どうせ楽しみで寝れなかったに違いない。
え、俺だけとかやめてよね。
因みに会場はなんとこのコダマタウン。
よくもまあこの小さい街でライブすることをあのマネージャーが許したものだ。あのマネージャーなら迷わずヤシブタウンを選びそうなんだけどな〜。
そんなとき我が家のインターホンがなる。
誰か来たようだ。こうしている間にもインターホンが鳴り響いている。随分とマナーがなっていない御客様である。
これでピンポンダッシュだったら流石にキレるよ?
念のためボイスレコーダーのスイッチをONにしてドアを開ける。
「ミソラ、ミソラはいないか!?」
入ってきたのは茶色のメガネをかけたスーツのおっさん。ミソラミソラと言いながら家の中を徘徊するその様子はまさしく不審者。
思わず玄関に置いてあった竹刀をとって斬りかかったが俺は悪くない。
もちろん寸止めしたよ?
「す、すまない! おじさん人を探していてだな…」
若干腰を抜かした男に竹刀の切っ先を突きつける。
…あれ、なんか俺が悪者みたいになってないかこれ。
「ミソラって、あの響ミソラ?」
「なんで私がミソラを探しているって知っているんだ!! まさか君が!!」
「あなた、ほんとに訴えますよ?」
録音しておいたボイスを流す。
当然その中にはおっさんが『ミソラミソラ』と言っている声が流れる。
「ほ、本当にすまない。知っているなら話が早い。君、その響ミソラを見なかったかい? 今日はライブだというのにどこかへ行ってしまったんだ」
速報です…とうとうミソラちゃんが逃げ出しました!!
「とにかく、響ミソラを見つけたら教えてくれ!」
おっさんはそう行って俺の家から出ていった。連絡先も知らないのにどうやって教えろというのか甚だ疑問である。
さて、うかうかしてはいられない。まずはトランサーのヘルプシグナルを確認する。
やっぱりヘルプシグナルが発信されている。方角は展望台がある方向だ。
十中八九ミソラちゃんだ。
そしてもう一つ。
送られてきた一通のメール。差出人は匿名。
『助けて』
たったこれだけ…簡潔な内容のメールだった。
あのとき、『助けを求めること』を教えといたのがようやく実を結んだのだと思いたい。
すぐに支度をして家を出る。さっきのおっさんにバレないように電波変換して展望台を目指す。
展望台に向かう姿さえ見られなければ俺のアリバイは成立する。
電波変換したら完全犯罪できちゃうよね…サテラポリスいるから流石にバレるけど。
そのままウェーブロードを高速で移動して展望台に着くと誰もいないことを確認してウェーブアウト。
展望台の目の前の広場に立つ。
「ほんとに、来てくれたんだ」
機関車の影から出て来たのは、やっぱりミソラちゃんだ。嬉しそうな、だけど悲しそうなミソラちゃんの様子に顔をしかめる。相当追い詰められていたようだ。
「さっきさ、茶色のメガネをしたスーツのおっさんが俺の家に不法侵入したんだ。『ミソラ、ミソラはいないか!?』ってね」
「…そっか」
ちょっと似てたんだろう。ミソラちゃんから微笑みが溢れる。
…尊い…。
「それでメールを確認したら『助けて』っていうだけのメール。ちゃんと助けを呼んでくれたんだ。これで行かなきゃ酷すぎるでしょ」
「ふふ、そうだね。その君の言うおっさんが、私のストーカー。マネージャーなんだ。あの人はお金にしか目がないの」
「まあ、薄々そうだろうとは思ってたけどね」
「ライブなんて中止になればいいんだ」
ミソラちゃんのその声は悲しみだけではない。怒りのような感情が混ざっていることに気づく。
彼女は歌でお金を稼ぐことが嫌なのだろう。
有名になることも望んでなかったのかもしれない。
全てはお母さんのためと。
「……」
ミソラちゃんの静かな心の叫びに思わず黙る。
「お願い、私帰りたくないの。どこか人目のつかないところに連れてって。私、歌いたくない…これ以上はダメなの」
ここでどうこうしていても仕方ない。ミソラちゃんを連れてどこかへ身を隠す必要がある。だが、どこへ隠れろというのか。スバルだったら天地研究所へ連れて行くだろう。だが、あそこは今日は休館日だ。
事情を言えば中に入れてくれそうだが、スバルのようにそこまで関係があるわけでもない。それに前回の事件での罪悪感もある。またしても巻き込むのは申し訳ない。
ヤシブタウンのカードショップはどうだろう。
いや、あのショッピングモールは人が多すぎる。ミソラちゃんのライブに惹かれて多くの人がコダマタウンに来ていて危険すぎる。
もうこうなったら俺の家にあげちゃうか?
母さんになんて言われるかわからないけど、悪いようにはしないだろう。
「俺の家でもいい?」
「…うん」
「それじゃ、急ぐよ」
事前に用意しておいたコートをミソラちゃんに渡し、羽織らせる。無理矢理手を繋いでミソラちゃんを引っ張る。軽い。ちゃんとご飯を食べているのだろうか。
これじゃあまるで誘拐犯だな。
…あながち間違ってもないか。
それにしても今まで浮ついた話どころかぼっち街道まっしぐらだった俺が女の子…それも有名人を連れていくことになるとは我が母はどんなリアクションをするだろうか。
すれ違いざまにキザマロとすれ違う。ジョギングでもしているのだろう。結構しんどそうな顔をしている。
目が合ったのはほんの一瞬。
キザマロは軽く俺に手を上げて走り去っていく。
「ぼ、僕、とんでもないスキャンダルを見てしまったのでは…」
キザマロの呟いた言葉を聞いたものは誰1人としていない。
▼ ▼ ▼
「黒夜が女の子…連れて来た」
「母さ〜ん戻ってこ〜い」
というわけで初めて女の子を連れてきたことが母さんのキャパを大きく超したようで母さんは絶賛現実逃避中だった。
小学5年生なんだから友達くらい連れてくることもあるって…え、ブラザー?いませんけどなにか?
母さんとて今日ミソラちゃんがライブをすることを知っていたようなので断られるかと思いきやそんなことはなかった。しかもお茶菓子とお茶を用意してのウェルカムモードである。
我が母ながらなんという準備の早さ…。
「ま、女の子にはいろいろあるのよ。黒夜、少し上に行ってなさい」
「…なんでさ」
「少しお話するから黒夜は上。女の子の話に入り込むのはダメよ」
「いや、なんでさ」
とりあえず自分の部屋に行ってしまうあたり、母さんの教育は行き届いていると言っていいだろう…とでも思っていたか。
甘いぞ我が母よ!
実体でダメなら電波体になって覗くまでよ!
自分の家のウェーブロードから事の成り行きを見守るべく座る。
もちろん正座だ。通り過ぎていく電波体たちがみんな不思議そうな顔をして通り過ぎていくが関係ないね。
しばらくの間、母さんはミソラちゃんをジッと見つめていた。
何を話すわけでもなく、せんべいをバリボリと齧りながら。
失礼でしょうに!?
「それで、どうしたの?」
茶を啜り終えた母さんが口を開いた。
「え?」
「え?じゃないわよ。あなたのライブが今日なことくらい知ってるわ。黒夜と大スキャンダルなんてことはないんで…え、まさか本当に?うそ、まさかあの子…」
おい、やめてよね。
それはもう大事件で日本中の男から狙われるはめになりかねないから。
我が母ながら演技がうまいな…。
「…彼、黒夜くんって言うんですね。こんなに助けてもらってるのに名前も知らなかったんです」
そんな飄々とした母さんにミソラちゃんは苦笑いを浮かべたあと、俯く。
「まあ、あなたの顔みれば何かあることはわかるわ」
そういえば、ミソラちゃんに名前は教えていなかったかもしれない。
毎度会う状況が忙しなかったからな〜。
「さて、好きなだけゆっくりとこの家にいてくれていいのよ」
「え?」
「わけありなんでしょ?それに、黒夜が初めて
「…」
「ブラザーだけがお友達じゃないわ。そんなこと言ったら黒夜は一人もブラザーいないからね。ぼっちよ、ぼっち。理由はどうであれ、黒夜があなたを家に連れて来た。それだけで私には十分な理由よ」
母さんやめて!?
ミソラちゃんに息子がぼっちだって暴露するのやめて!?
ほら、すごい微妙な顔してるよミソラちゃん。
どうしてだろう。
ものすごく良いことを言っているはずなのにこの微妙な気持ちは。
「ありがとうございます」
「なんだったらあなたが黒夜のブラザー第1号になってくれてもいいのよ?」
「ふふ、考えておきます」
満更でもなさそうなミソラちゃんに母さんはニコリと笑う。母さんがもっと真面目な話で根掘り葉掘り聞くと思っていたので拍子抜けなところもあるが、安心した。
ところどころ茶化すような発言はよろしくないけどね。
「さて、そろそろ黒夜とも話してらっしゃいな。あの子の部屋は階段を上がって右の部屋よ」
ミソラちゃんがお母さんにお辞儀してリビングを出たのを見て、急いで自分の部屋へと戻る。そしてウェーブアウト。
部屋を見回してみると、ズボラな自分の生活がよくわかる。残された時間は少ないのでどうしても見られたくないものだけしまって何事もなかったように椅子に座る。
コンコンという軽い音とともにミソラちゃんの声が聞こえたので返事をして扉を開ける。
何事もなかったかのように振る舞うのがキモだ。
ミソラちゃんは相変わらず憂いを帯びた表情を浮かべたまま、俺の部屋の中へ入る。俺の部屋が汚かったから顔をしかめたわけではない…と思いたい。
あとで絶対掃除してやる。
俺が先ほどまで座っていた椅子にミソラちゃんを座らせると俺もベッドに腰を下ろす。
気まずいような空気が俺とミソラちゃんの間に流れる。それは別にお互いが嫌なんじゃなくて、どうやって話を切り出したらいいのかわからないからに他ならない。
「ねぇ、天国ってあるのかな」
しばらくの間流れていた沈黙を破ったのはミソラちゃんだった。
「天国?」
これはお母さんの話かな?
「私のママね、去年亡くなったんだ」
「…」
突然の告白。
ミソラちゃんは窓から見える空をぼんやりと眺めながら、憂いを帯びた声でゆっくりと語り始める。
俺はそれに対して、無言を貫く。
俺から何か言うのは無粋だ。今はただ、ミソラちゃんの話に耳を傾けよう。
「私、ママとずっと二人暮らしだったんだ。ママ、もともと病弱で寝込みがちで一年中何も変わらない部屋の中で過ごす生活。退屈なんじゃないかって思って、思いついたのが歌だったの。春に咲く桜の花、夏の海、秋の紅葉、冬の雪…私が感じた綺麗で楽しいこと全部歌にして聞かせてあげたの」
ミソラちゃんの声音が変わる。思い出し笑いのように小さく微笑みながら語る。本当に楽しかったんだろう。綺麗な歌もたくさん歌えば、バカバカしいような歌もたくさん歌ったんだろう。
言葉から気持ちが伝わってくる。
「…」
目を瞑ってミソラちゃんの言葉を聞く。
「ママ、ほんとに喜んでくれて…。それから一緒に歌を作って歌ったりしたな〜。だからね、歌はママを繋ぐ絆なの。そんなある日、テレビで歌手のオーディションをしてたんだ。ママが私に音楽の才能があるからチャレンジしてみたらどうかって」
きっと、ミソラちゃんのお母さんは自分がいなくなったときの心の支えを見つけてもらおうとしたのだろう。自分がいなくなっても歌があれば前を向いていける…そんなことを願って。
「本物の歌手になれば喜んでくれるに違いない。オーディションのためにギターまで買ってくれて、それで必死に練習してオーディションを受けたの」
ギターはほんの数日でできるような楽器ではないことを俺も知っている。だから、ほんの少しだけだけどミソラちゃんの気持ちがわかる。
「私はオーディションに合格してデビューした。ママ、とっても喜んでくれてね…それからもっと喜ばせようと思って必死に歌ってきたの」
『でも…』と一拍おいてから、ミソラちゃんの表情に影が落ちる。先ほどよりもさらに悲しそうで今にも泣きそうな顔。
「歌を聞かせたかったママはもういない。遠くの世界に行っちゃった」
「だから、天国?」
頷きは肯定の証。
「今から1年前にね。あの空の向こうに行っちゃった…。マネージャーはファンのために歌えっていうけど結局はお金儲けのため。これ以上、辛い思いまでして歌いたくないの。だから逃げてきた」
「そっか。人ってさ…」
やけに下が騒がしい。
これはもうこの場所がマネージャーに見つかったのかもしれない。それに、展望台ですれ違ったキザマロがミソラちゃんを見た可能性も捨てきれない。
『ちょ、ちょっと、なんなんですかあなたたちは!?』
更に聞こえてきた母さんの叫びに似た声。その喧騒は徐々に大きくなっていく。俺の部屋へ近づいてきているのだ。
竹刀は下の部屋。
武器は何もない。
まずい、母さん!!
やがて俺の部屋の扉が強引に開かれる。
入ってきたのは例のマネージャーと数人の男。その後ろには母さんの姿。
「ミソラ!! 大変なことをしてくれたな!!」
「…マネージャー」
マネージャーはズカズカとミソラちゃんへ近寄ると胸ぐらが掴んで怒声を放つ。
「お前のおかげでライブは中止だ! どれほどの損害が出たか…わかっているのかッ!!」
やはりこの男は金のことしか頭にないのかもしれない。中止になったときの損害のことしか頭にないようだ。
こういうときはファンの心境とかを語るべきだろうに…。
「嫌ッ!! これ以上私とママの歌を汚したくないの!お願い、連れてかないで!」
「放せよ」
ミソラちゃんを引っ張るマネージャの手を強く掴む。
「お前は今朝の…そうか、お前がミソラを隠していたんだな」
マネージャーこちらを見るなり憎悪するかのように俺を睨む。あのとき俺を問い詰めたとしてもそこにミソラちゃんはいなかったから意味はない。
「この手を放せ」
尚も俺は睨みつけながら手を強く掴む。
「黒夜くん…」
「放せって言ってるだろうが!!」
後ろの男たちが動き出す。合計で4人の男たちが俺を取り囲む。この程度の人数、どうってことはない。だが、対処するには今掴んでいるこの男の手を放さなくてはならない。
どうしようもないのでとりあえず4人の対処にあたるべく男を放置することに決める。背後の男が俺の両腕を塞ごうとするのに対して肘打ちを食らわせる。
左右の男たちはそれを見て怒ったのかこちらに向けて握り拳を振るう。
それを躱そうとして、失敗した。
自分が電波変換していたときの慣れ。それが生身の身体へと染み渡っていたのだろう。後ろにあったのは
痛みで思わずうずくまる。
だが、気絶するまでにはいたっていない。
「黒夜くん!!」
「あんた、息子になんてことするのよ!!」
母さんの声を聞きながら、ゆっくりと起き上がる。
立ち上がった途端に俺の両手を男たちによって拘束される。
マネージャーは母さんを睨めつけながら俺を指差す。
「先に手を出してきたのはこいつだ! それにな。わかってるんだろうな。こちらはミソラの保護者だ。保護者がミソラを
「本人の意思も聞かずに!!」
「響ミソラというブランドはお前たちの想像を遥かに超えるところにまで来ているんだよ!!」
マネージャーの怒声が俺の部屋にこだまする。
「ミソラちゃんはお前の道具じゃないんだぞ!!」
「うるさい!! 行くぞミソラ、わかっているな」
マネージャーは俺が男たちに固められて動かないことをいいことにミソラちゃんの腕を無理矢理掴んで歩き始める。
ミソラちゃんは俺を横目で見て、抵抗する素振りを見せずについて行く。
「……お世話になりました」
母さんにお辞儀をしてドアの方へ去って行くミソラちゃんの後ろ姿を睨め付ける。
「行くなよ!!」
俺だってマネージャーの言ったことも理解できるのだ。
ミソラちゃんは有名人。だからそれなりの責務が存在する。ファンというものは大事にしなくちゃいけないとか、楽しませなきゃいけないとかいろいろあるだろう。
ましてやライブを中止にするなんてのは絶対にしてはいけないことだというのはわかってるさ。
だけど、このマネージャーはミソラちゃんのことを道具としか思っていない。
それでも、君は行くの?
「黒夜くん、ごめんね。ヘルプシグナル見つけてくれて、助けてくれて…嬉しかったよ」
背中越しにそれだけ言い残すと部屋から出て行く。
静寂に包まれ、扉が閉まる。
残されたのは悔しそうな顔で扉を睨む母さんと未だに男たちに取り押さえられた惨めな俺。
「そんな顔して笑うなよ…」
呟いた言葉は本人には届かない。
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