流星のファイナライズ   作:ブラック

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とりあえずハープ・ノート編はこれでおしまいです。

描くのって難しいですね…。

めちゃくちゃ長くなってしまいました笑
分ければよかったんですけどわける場所を見失い断念。

読みづらいかもしれません。

次章の執筆を進めるので少し間が空きます!


ハープ・ノート

ミソラちゃんが去っていった場所で俺たちは立っていた。何をするわけでも、作戦会議をするわけでもなくそこにただ立っていた。

 

俺は、迷っていた。

 

もちろん、どうやって彼女を説得するかだ。

 

『おい、この先あの女を追うんなら甘さは捨てろ』

 

「…ロック!」

 

スバルがウォーロックを咎めるが、ウォーロックは間違っていない。あの場でハープ・ノートを仕留めていればそれで今回の事件はそれで終わりだったのだ。

 

それで街の人間はこれ以上音波攻撃に晒されずに済む。

 

『お前ならわかってるはずだぜ、明星黒夜。さっきの場面で2人がかりならここであの女を止めることはできた。そうしなかったんじゃねえ、できなかったんだろ』

 

「だからってそんな言い…」

 

「いいんだスバル」

 

そう…間違ってない。

 

スバルが黙る。

だか、少しの静寂の後、ゆっくりと口を開いた。

 

「…僕は君のことを良く知らない。響ミソラのこともよくは知らない」

 

「スバル?」

 

意外だった。

スバルが意見を述べることが。

 

その言葉に耳を傾ける。

その言葉に、今の俺を打開する何かが秘められている気がして。

 

「好きにしたらいいんじゃない? 本当は誰とも関わりたくない。だけど傷ついてる人は放っておけない。だから僕はここにいる」

 

思い出す。

何がしたかったのか。

何を伝えたかったのか。

どうしようと考えていたのか。

 

「ああ、ありがとう。そうだ…そうだったよスバル」

 

「??」

 

「今はそれでいいさ。いずれスバルにもわかる」

 

足を踏み出す。

続く先は展望台の電波。

 

この先にミソラちゃんがいる。

 

▼ ▼ ▼

 

『ギター ノ ヨウナ モノヲ モッタ デンパヲ ミマシタ アレハイッタイ…』

 

『デンパがちゃんと喋っただと!?』

 

おい、やめろよウォーロックそういうこと言うの。

ノイズ率が低ければちゃんと影響しないくらいに制御できるんだからね。

 

ウォーロックが精神的にダメージを与えくるのに耐えながら先へ進む。本当に嫌われているがそんなに心当たりは…あり過ぎた。でも仕方ないんだもんね!

 

現実逃避である。

 

展望台のウェーブロードは普通に移動しようとすると迷宮のように複雑になっている。

 

『バスターを構えろ、くるぞ!』

 

そうして再び音波攻撃がこちらを襲う。

その音波の数は先ほどよりも明らかに多い。ミソラちゃんが邪魔をするなら容赦しないと宣言した通りになっているようで何よりである。

しかしながらバスターレベルMAXを誇るブラックエースにそんなものは通用しない。

空中から回転しながらバスターを放つだけで全ての音波を撃ち落とすことができる。撃ち漏らしたとしても安心安全。スバルとウォーロックの精密射撃によって確実に撃ち落とす。

 

これが本当の二段構えってね。

 

「あれ、なにか落ちてる…」

 

スバルは700Zをゲットした。

 

HPメモリじゃないのは残念だが、お金が貯まればバトルカードもHPメモリも買える。さらにミステリーウェーブを見つけてはスバルに回収させてがっぽがっぽだ。

 

『サッキ オンナノコ ノヨウナ スガタヲ シタ デンパガ ムコウニ イキマシタ。 ケッコウ ワタシノ コノミノ タイプ デシタヨ ビビビッ!』

 

「デンパくんに好みなんてあるんだ…」

 

「デンパくんって何者さ」

 

『デンパはデンパだろ』

 

三者三様の感想を述べて先を急ぐ。時折ハープ・ノートの居場所を探すためにこうしてデンパくんに話しかけているのだが、みんな関係ない事を話してくれるのでついツッコミを入れてしまうのである。

やれ好みのデンパだの、やれ騒がしいだの、ギターがどうだの、お前ら危機感0か!?

 

実際、今回の事件は電波世界にはあまり関係ない珍しいタイプではあるが…。

 

今までの事件は現実世界に害していたのももちろんだが、電波世界をも大きく巻き込んだものだった。オックス・ファイアの時のセキュリティウォールやキグナス・ウィングのとき行く手を塞いでいた惑星やシタッパーがそうだ。

 

展望台の電波の一番奥。

その場所にハープ・ノートはいた。

後退する場所はもうない。ここで終わらせるしかない。

 

「お願い、もう私に構わないで!!」

 

「そういうわけにはいかないよ」

 

ハープ・ノートに戦闘態勢をとるスバル。

 

「君は…あのときの?」

 

「僕も…君と同じなんだ。だから僕も君の気持ちが痛いほどわかる」

 

ミソラちゃんはきっと止まらない。なにをいってもミソラちゃんの感情を無駄に昂らせるだけだ。

 

とにかくお話ができるくらいまでにO☆HA☆NA☆SIが必要かな?

 

スバルの言葉に『それに』と加えて俺は続ける。

 

「ミソラちゃんの気持ちはよくわかる。だけど、それ(・・)で人を傷つけるのは違うでしょうに」

 

音楽は人を傷つける武器じゃない。

それが君にとってなんだったのか、思い出してもらわねば。

 

「あなたたちに私の何がわかるっていうのよ!!わかるはずがないのよ!」

 

自分の周りにいくつものアンプを召喚したハープ・ノートがギターの弦を思いっきり掻き鳴らす。

それと同時に、全てのアンプから今までの比にならない量の音波が俺たちに放たれた。

 

ハープ・ノートの持っているギターと召喚したアンプは電波によって繋がっているようだ。

 

シールドがいらないアンプってなにさ!?

Bluetoothかな!?

 

大量の音波の波が俺たちの視界からミソラちゃんを隠す。

 

「なにもわかってないくせに!!」

 

さらに音波が増していく。

 

『スバル!!』

 

この量はバスターでは無理だと判断したのだろう。スバルはウォーロックに促されてバトルカードを消費して腕の形状を変化させる。

俺も流星サーバーにアクセスしバトルカードをダウンロードして、音波攻撃の元であるアンプの破壊を狙う。

 

想像以上の音波攻撃に少し足止めをくらった俺たち。

 

やがて何もなくなったそこにはハープ・ノートの姿はない。

 

『チッ、あの女逃げやがったか』

 

「でもどこに?」

 

周りを見渡す。

すると遥か彼方、空の上を飛んでいる飛行物体が一つ。

飛行機にしては珍しく、ドローンにしては小さすぎる。

 

あれは…。

 

「ミソラちゃん、君飛べるんかい」

 

音譜に乗ったハープ・ノートだった。

 

あの方向は天地研究所?

どうして天地研究所に?

 

疑問は尽きないがひとこと言わせて欲しい…音譜に乗って空を飛ぶってそれどんな魔法少女?

 

「ロック、僕らも飛べないの?」

 

『オレだけなら飛んでいけるがロックマンの状態では無理だな』

 

「俺は飛べるから飛んでいくけど、どうする?」

 

『そいつは無理だな。そんなノイズの塊みたいな奴に接触されたらオレの頭が狂っちまう。オレたちはウェーブロードをたどっていくから先へ行きな』

 

「直ぐに追いつくよ!」

 

「わかった。それじゃ、先行くな」

 

ノイズドウィングバーニアをより広く開いて空を駆ける。ウェーブロードがなくたって電波は光の速度で動くことができる。それは空を飛ぶことができる電波に限られる。

 

故にスバルをウェーブロードから行く方法を選んだ。

 

電波は世界のいたるところと繋がっている。ウェーブロードをたどっていけば世界にだっていけてしまうのだ。

まあ、その際は日本でいう高速道路みたいなところを通らなきゃいけないんだけどね。

 

あっという間に天地研究所へ辿り着く。

 

天地さん、またしても巻き込んでしまい本当に申し訳ありません。

まだキグナス・ウィングのときの傷跡が癒えていないのにこの始末である。

天地さんにも田中さん同様、頭が上がらなくなりそうだ。

 

ウェーブロードへと上がり先へ進む。

 

スバルも後少ししたら到着するだろう。俺が来たことを勘付いたのか音波攻撃が襲う。

 

「もうそれには飽きたんだよ!!」

 

エースバスターで迎えうちつつ、先ほど読み込ませておいたギガクラスカードを使用する。

 

腕には特に変化がない。

だが、俺の真横に四角いボックスのようなものが姿を現わす。その後、俺の手には長方形の小さなスイッチが現れた。

迫りくる音波をロックオンすると躊躇いもなくそのスイッチを押す。

 

途端、真横にあった四角いボックスから轟音とともに何かが飛び出していく。発射されたその数12。

それらはこちらへ向かってくる音波に向かって一直線。やがて衝突し爆発を起こす。

その爆発の爆風によって別の音波が巻き込まれて消えていく。連鎖による大爆発。

 

煙が消えて残ったものはなにもない。

 

ギガクラスバトルカード…デストロイミサイル。

 

威力50と低めなこのカードだが、広範囲のウィルスにダメージを与えられることから最初は重宝していたものである。

 

現実で見ると凄まじいけどね。

ゲームでこんなもの使ってたのか…恐ろしい。

 

『ほんと…恐ろしいわね』

 

先へ待ち構えていたハープ・ノート。

その隣には可視化したハープの姿。

 

ハープがそう言ったのは先ほどの光景を見ていたからだろう。あのミサイルが自分を狙っていたらと思うと、俺だって寒気がする。

 

「俺もちょうどそう思ってたとこだよ」

 

おちゃらけた様子の俺をハープ・ノートは深刻な顔をして見つめる。

 

「黒夜くん…君は一体…」

 

そりゃもうミソラちゃんからしたら人外みたいなもんですからね…えぇ、わかりますとも。

 

「黒夜くーん!」

 

後ろからはスバルが追いついてくる。音波攻撃はもうこないからここまで来るのは簡単だったろう。

 

「なんで…なんで君たちは私の邪魔をするの?」

 

「そりゃ、ミソラちゃんにそんなことして欲しくないからさ」

 

『ダメよハープ・ノート。彼の言葉に心を惑わされてはいけないわ。あのボウヤはあなたの心を惑わす悪い子。今ここでやっつけてしまわないと後悔することになる』

 

『ケッ、相変わらず取りいるのが上手いじゃねえかハープ』

 

スバルから分離するようにして姿を現したウォーロック。

 

こんな感じでジェミニって分離するだろうなぁ…。

 

初めてハープの前に姿を現したウォーロック。だがハープは全く動じなかった。むしろ、そんなことは最初から知っていたと知っていたかのようだ。

電波変換するためにはFM星人との融合が必須。一目ロックマンを見たときから予測していたのかもしれない。

 

あぁ、だから俺はものすごい警戒されてたのね。

 

『お久しぶりね、ロック。悪いけど私の邪魔はしないでもらえる? これからが楽しいところなんだから。ミソラを使って…音楽を使って地球を制圧する。これほど面白いことはないわ。あなたこそ、こんな星まできてなにを企んでるのかしら?』

 

どうやら周波数を変えて話しているようだ。見た感じ、スバルとミソラちゃんには全く聞こえていない。

俺が話を聞こえているのは色々と理由があるが、まあそれは置いておこう。

 

『オレの目的は一つ。FM王への復讐だけだ』

 

『どうりでみんながこぞってあなたを探しているわけね』

 

迷いのないウォーロックの言葉にハープは一瞬考える様子を見せると納得したように頷く。

 

『オレは女相手に本気で戦う趣味はねえ。他の奴らの情報を教えてこの場から消えれば命だけは助けてやるぜ』

 

それは悪役のセリフなのでは!?

ウォーロックは確かに悪役が似合いそうだけど…それって倒される人が言うやつだよね。

 

フラグかな?

 

『…優しいのね。だけど今回は私の趣味でやってることだから、邪魔はさせないわ。もちろん、そこのボウヤにもね』

 

「!?」

 

俺が盗み聞きしているのがバレているだと!?

 

『チッ…やるしかないか。オレの居場所を知った以上仕方ねえ』

 

『女と思って甘く見たら痛い目見るわよ…ハープ・ノート!』

 

ミソラちゃんが肩にかけていたギターを構える。逃げることはないようだ。ここで決着をつける。

 

「なにを話してたんだよ、ロック!?」

 

『うるせえお前らには関係ねえ!』

 

「スバルには後で教えてあげるよ」

 

『テメェ、やっぱ盗み聞きしやがったな!チッ…来るぜ、スバル!』

 

「まだ君には伝えきれてないことがある。まずは話を聞いてもらわないとね」

 

『ケッ、男なら拳で語りやがれ!!』

 

もちろん俺は抵抗…いや、それは暴力だよウォーロック!?

 

ハープ・ノートが再度ギターを構える。同時に現れるアンプを速攻でロックオンしソードファイター3で一掃する。

スバルも俺の行動を予測していたようでハープ・ノートへ向かってキャノンを放つ…が、ハープ・ノートは軽々と躱す。

別段特に今までとやり方を変える必要はない。ハープ・ノートの攻撃はいたってシンプルだ。

 

気をつけなければいけないのはハープ・ノートから伸ばされる琴線に捕らえられてしまうことくらいだ。

 

技の名をマシンガンストリングというらしい。

 

ハープ・ノートは一瞬でアンプを破壊されたことに戸惑っている様子。

 

「どうして邪魔するの、黒夜くん!!」

 

まずはアンプを召喚させなければいい。

 

「見てられないからさ!」

 

腕を大きく振るう。

 

それは以前見せたダブルイーターのような振り方だ。

直後、ハープ・ノートの目の前のウェーブロードに亀裂が走り、崩壊する。

 

さらに腕を振るう。

 

奥のウェーブロードが崩壊する。

 

また腕を振るう。

 

その奥のウェーブロードが崩壊する。

 

バトルカード、ディバイドライン。

 

これは目の前の3マスを穴パネルに変えるバトルカード。穴パネルの上にはアンプは置けなかったはず…というより現実では本当になにもないからどうしようもないね。

 

『なにやってんだ! 危ねえだろうが!』

 

ウォーロックから責められるが、ちゃんと安全性は考慮しているよ。スバルには害はない。

ちょっと移動がし辛くなるけどジャンプしてくれればいけるはず。

 

ウォーロックにニヤリと怪しく笑うともう一度腕を振るう。

 

崩壊したウェーブロードからスパークが走る。これはウェーブロードとウェーブロードが結合しようとするいわば修復プログラムの光だ。

これをほんのちょっとショートさせることで別の力へと生まれ変わる。

 

現れたのは合計で9つの球。

誰もバチバチとスパークが弾けている。

 

「これは…サンダーボール?」

 

その球がハープ・ノートめがけて飛んでいく。

 

「こんなもの、当たらなければ…」

 

どうということはないって?

 

サンダーボールの速度は決して速くはない。

むしろハープ・ノートがびっくりしているほどに遅い。

 

スバルの言った通り、これはサンダーボールだ。

 

バトルカード、サンダーオブアース3。

 

これは穴パネルの数だけサンダーボールを生み出すバトルカードだ。ゲームでは穴パネルの数だけだが、現実ではウェーブロード1箇所につき3つ生み出されるようだ。

 

こんなものに当たるはずがないだろうと誰もが思う。

 

それが、当たるんだな〜。

 

ミソラちゃんの動きに絡みつくようにして追尾するサンダーボール。それらの動きは一つ一つが違う。ほぼ全方位から迫り来るといっていいだろう。

ただでさえ頭に引っかかるこいつらに加えてさらにバトルカードを使用する。

 

現れたのはこれまた自立移動する四角い箱。その箱が回転しながらハープノートへと近づき、その文様を浮かび上がらせる。

直後放たれたのはその文様と同じ形の光線…ビームである。

 

バトルカード、ムーテクノロジー3。

 

これまたフィールドの穴パネルの数だけ威力が上がるという面白い仕様である。

 

ソロの目の前で使ったらブッコロ間違いなしだか、今ソロはいないし問題ない。

 

え、感知してこっちきたりしないよね?

 

『音楽には音楽で対抗してやれ、スバル!』

 

「バトルカード、クエイクソング!」

 

さらにタイミングを合わせてスバルがバトルカード、クエイクソングを使用する。

獅子舞のような生き物の頭の部分だけがスバルの隣に現れると突然大きな声で吠え始める。本人は歌っているつもりなのだろう…しかしあまりに音痴すぎて聞くに堪えん!!

 

クエイクソングの効果はグラビティ。

歌っている間は、対象にグラビティをかけることができるのだ。

 

あの獅子舞、元はウィルスだったんだけどね。

それとあれには色々と種類があったりする。

 

無敵とかもあって結構使ったものである。

 

まあ、ボス戦だと1ターンで破壊されちゃうんだけどね。

 

全方位攻撃なんてずるいよ!

 

そんなかんじでハープ・ノートの身体は完全に固まり、大きく目が見開かれる。大方、バトルカードなんかと縁がないミソラちゃんには効果なんて何もわからないだろうね。

 

襲いかかる9つのサンダボールとムーテクノロジー3のビーム。

 

全てを直撃したハープ・ノートを待っているのは長時間の麻痺効果…あれ、やっぱり麻痺カード多くない流星サーバーさん。

 

…麻痺は強いんだよ!?

 

「スバル!!」

 

「うん!!」

 

カスタムゲージが溜まったの見計らい、さらにそこへ追い打ちをかける。

 

俺はノイズドウィングバーニアをさらに広げて小さく旋回しながら空高くを飛翔し、エースバスターを連射する。スバルがブレイブソードへ腕の形状を変えたのに合わせてバトルカードを使用しガトリングガンをぶっ放す。

 

ようやく麻痺が解けそうなところでのガトリングガン。怯みは避けられない。

 

「ロック!!」

 

『ウォォォォォッ!!』

 

スバルの速度が異常なまでに加速する。

あれは流星のロックマンの代名詞システムとも言えるウォーロックアタックによる加速だ。

 

ハープ・ノートの意表をつく形で正面に躍り出たスバル。ハープ・ノートからしたら突然スバルが現れたように見えただろう。

 

そして、斬り抜ける。

 

ハープ・ノートの身体から小規模な爆発が起こり始める。ゲームでいうHPが0になった証だ。

だが、命をとるわけじゃなくてHPが0になるということは電波変換を維持できなくなるということだ。

 

故に、ハープ・ノートの姿からミソラちゃんへと姿が変わる。電波変換を維持できなくなる…ということはウェーブロードからの排除も意味される。

 

落下していくミソラちゃん。

 

結構な高さだ。

ここから落ちたらひとたまりもないだろう。

ウェーブロードから飛び立つ。

 

「もう、疲れたよ」

 

そんな声が聞こえた。

 

そうだ。

君はよくやったさ。

だだ、反抗の形を間違えてしまった。

 

君が守ろうとしているものを君自身で傷つけてしまう結果になった。

 

いろいろ悩んだだろう。これが、壊れそうな自分を『それでも』と言い続けて突き動かしてきた結果だ。

 

ミソラちゃんを抱える。

 

「君にとって必要だったのは、考える時間と助けを求める相手だったんじゃないか?」

 

そのまま安全な場所へとミソラちゃんを降ろす。

ミソラちゃんは何も話さない。ただ無言で俺を睨みつけている。

 

『…まさかここまでとはね…』

 

ハープも随分と消耗しているようでその表情はぐったりとしている。

 

「どうして…どうして私の邪魔をするのよ!!」

 

「さっきもいったけど俺たちはさ、ミソラちゃんの気持ちがよくわかるんだよ」

 

ようやく話を聞く気になったのか、ミソラちゃんは涙をこぼしながら唇を強く噛み締めた。

スバルにアイコンタクト。これは話していいかどうか聞くためだ。流石にスバルの個人的なことを本人の許可なしに話せない。

 

さっきのミソラちゃんのやつは事件解決のためとしてだな…。

 

「君の悲しそうな表情が…気になってたんだ」

 

口説き文句のように話し始めたスバル。次の言葉を待つべく黙って目を閉じる。

 

「黒夜くんから少し聞いたよ。僕は…3年前に父さんを失った」

 

「!!」

 

「だから、大好きな人がいなくなる辛さもよくわかるさ、嫌なことを無理矢理やらされる辛さもわかる。君は歌だろう。僕は、人と仲良くなるのが怖い。また失ってしまうかもしれない。また傷ついてしまうかもしれない」

 

スバルはそこで話をやめた。これ以上は話すことはないようだ。

原作と違ってそこまで親しいわけではないからね。

 

さて、2人に少しお話しよう。

 

「人ってさ、変わるのに時間がかかると思わないか?」

 

これはミソラちゃんが連れていかれたあの日、話すはずだった台詞。

 

「例えばこの不登校少年。父親を失って早3年。未だに心の整理がつかず、それがトラウマになって、動けずにいる」

 

「え?」

 

これはスバル。

 

「例えば母親を失っても歌い続けた君。片時も休むことを許されず、苦悩と疲労、それから孤独を1人抱えこんだ」

 

「…」

 

これはミソラちゃんだ。

 

「これはスバル、君も言えることだ。必要なのは整理する時間。考えてごらん、ミソラちゃんがどうして歌うのか。スバルがどうして星を見上げるのか。その原点をさ」

 

「…私が唄うのはママのため」

 

「僕は…父さんを探して…」

 

「そう。ミソラちゃんは今までお母さんしか考えられなかった。スバルはお父さんしか考えられなかった。同じなんだ。いなくなった人のことが頭から離れなくなって、他のことが考えらなくなる。目の前のことから逃げてしまう。そうして悪循環を起こす。目の前から大事な人がなくなるっていうのはそういうことなんだ」

 

決して割り切れるものではないだろう。

それでも人は…世界は前に進んでいく。

止まることもなければ、戻ることも決してない。

 

だんまりする2人の肩を軽くポンと叩く。

 

「ほら、周りを見てごらん。思い出してごらん。いるじゃないか? ミソラちゃんの歌を心待ちにしている人やスバルを常に温かく見守ってくれる人…2人を支えてくれる人がさ」

 

大事なのは目の前からいなくなった人に全てを捧ぐことじゃない。もちろん、いなくなった人を思うことも大事さ。

 

だけど今ある自分の世界にその人はいない。

 

…残酷だけどね。

 

「そんな、私を支えてくれる人なんて」

 

「だったら俺がなるよ」

 

俯くミソラちゃんに優しく声をかける。

 

「え?」

 

絶対にいないわけはないのだ。それはきっと本人が気づいていないだけであって、ミソラちゃんを支えてくれる人はたくさんいる。

 

「忘れた?君がヘルプシグナルを出して真っ先に駆けつけた少年のこと?」

 

涙を流した目を丸くしたミソラちゃんに茶化すように問いかける。

 

「そうだね…うん、そうだったね。ヤシブタウンから今の今までずっと君は見ていてくれたんだね」

 

見ていたっていうのには明らかに語弊があるけど、間違ってはない。

 

「それで1人で考えない。もちろん、1人で考えるのは大事なことだ。答えが出ないときもあるだろう」

 

『でもさ』と一度言葉を切ってミソラちゃんとスバルの2人の顔を見て、笑う。

 

「話してみろって…とりあえず、目の前にいる君くらいなんとかするって」

 

今ある世界を信じてみる。

 

大切な人は本当はいつもすぐ側にいるのだから。

 

▼ ▼ ▼

 

その後、泣き崩れるミソラちゃんをあたふたと慰めつつ事件は幕を閉じた。若干スバルも涙目だったのは言い過ぎたからではない。

 

…言い過ぎちゃったかな?

 

スバルは後のことは俺に任せてそのまま去っていった。ウォーロックはまたハープと一言二言話していたが、別段不穏な空気はなかった。

ハープはやはり、ミソラちゃん共存する道を選んだ。やっぱりミソラちゃんの周波数といい、音感といい気に入っているのだろう。

 

それにしても『言っただろうがよ…オレは女相手に本気で戦う趣味はねえよ』…とかカッコつけ過ぎなんじゃないかい、ウォーロックン。

 

言ったら殴られた解せぬ。

 

そうして響ミソラの引退宣言がされたのはそう日が立たないうちのことだった。

各メディアがこぞってミソラちゃんを取材するのはいい迷惑だが、本人は自分の引退を日本中に伝えられる良い機会だとまんざらでもないようだった。

 

とは言ってもこの引退は仮のもの。

 

いずれまた戻ってきてお母さんだけじゃなくてファンのためにも歌うのだとミソラちゃんは張り切っている。

 

そして事件から3日が経った今日。

響ミソラの引退ライブがコダマタウンの展望台で行われていた。

 

コダマタウンの展望台を埋め尽くす尋常ではない人の数。全てミソラちゃんの最後のライブを拝もうとこれまた尋常ではない倍率の抽選を勝ち抜いてきた猛者たちである。その中にはゴン太とキザマロの姿も…リアルラックすごいね、君たち。

 

俺の席はミソラちゃんの真ん前…ど真ん中の最前列に用意されていた。隣にはスバルの席もある。

 

来るかどうかは不安だったが、ちゃんと来てくれたようだ。

 

もともとミソラちゃんのことを知ってたしね。

 

…まさか貴様、隠れファンか!?

 

事件の最後、『とびっきりの、席、用意する』と顔をグシャグシャにしながら言っていたのは良い思い出である。この席がミソラちゃんからの贈り物だ。

 

あぁ、そういえば例のマネージャーだが首になった。

 

今までのミソラちゃんへの扱いとミソラちゃんを助けてきていた数名のスタッフのボイスレコーダーによって摘発され、処罰が下されたらしい。事が事なのでマスコミにはまだ話されていないが知られるのは時間の問題だろう。

 

大事なのは証言、はっきりわかんだね。

 

なぜ俺が知ってるかというと、直々に社長から電話があったからだ。もちろん、我が家に。

勝手に不法進入した件や暴力を振るったこと。

社長は申し訳なさそうにしていたが、ぶっちゃけミソラちゃんを匿ったこちらにも非はある。

 

というかむしろ非しかないので謝罪以外は全てお断りした。

 

やっぱりミソラちゃんは俺以外にも支えられていることがわかったので嬉しかった。

 

スタッフさんGJ!!!

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう!!」

 

ミソラちゃんのライブはトラブルもなく進んでいく。観客のボルテージは最高潮。隣のスバルもリズムをとってしまうほどだ。

 

やはり、貴様隠れry。

 

ウォーロックはこの大音量と観客の声に精神的に耐えられなくなったようでスバルのトランサーから出て行ってしまった。

 

そして最後の曲がやってくる。

 

「次が最後の曲です! グッナイ ママ」

 

ゆっくりとギターを構えてストローク。ゆったりとしたメロディーはとても優しげ。そんな曲にミソラちゃんが歌詞を乗せていく。

 

聞いたことがあった。

 

この曲はミソラちゃんがハープに取り憑かれる前、この場所で歌っていた曲だ。

 

優しくて悲しくて、それでも前に踏み出そうとする女の子を主人公にした歌。

 

観客も今までのような馬鹿騒ぎをやめて、静かに歌を聴く。これが最後の曲であるとわかっているからだ。

 

涙を流している者も少なくない。

 

「みんな、今まで応援してくれて…ありがとう。勝手にライブを中止したりして、本当に、ごめんなさい。私の心が弱かったせいでみんなに迷惑をかけちゃったね」

 

ミソラちゃんの言葉に多くの観客が檄をとばす。ミソラちゃんはそれを見て泣きながら何度も強く頷いた。

 

「私は今日をもって引退します。けど、これは昨日までの弱い私からの卒業。私に必要なのは考える時間…自分と向き合う時間。みんなと向き合う時間。いつの日かこの場所に帰ってくるために、自分と、そして歌と向き合っていこうと思います」

 

「ミソラちゃんやめないでーー!」

 

「ウォォーーッ!! ミ・ゾ・ラァァッ!!」

 

涙を浮かべたミソラちゃんが観客に向かって深々とお辞儀をした後で、最前列の俺とスバルを見る。

 

そしてマイクを通さずに口パクでこう言った。

 

『ありがとう』

 

それは今までに見たことのない、晴れ晴れとした満面の笑みだった。

 


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