流星のファイナライズ   作:ブラック

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2話、3話まてオリジナルです。
原作スタートはそこからになりそう。


これまでの10年間

生まれてから5年。

俺の名前は明星黒夜(あけほしくろや)。キラキラネームと普通の名前の中間のような際どい名前である。キラキラネームまではいかなくても中二病には入りそうだ。

 

まだ中二ではないにしても成長して中二になったら『闇の炎に抱かれて消えな』なんてなんともキザなセリフを吐きそうで震える。

 

前世では中学なんてとっくに卒業しているし、今更中二病を拗らせらることはないと思うけどね。

 

この5年間なにをしていたかと言うと、特になにもしていない。まず5歳である。できることは限られている。裸眼で見える電波世界は最初こそ気持ち悪く感じられたし、普通に現実に存在する道だと思って壁にぶつかったりしたものだ。今ではそれなりに適応している。

それから母親におねだりして宇宙の本を買ってもらったり、カードショップによってバトルカードを眺めていることくらいしかしていない。

あとは後々ちゃんと戦闘ができるように剣道をやりたいと母親にせがみ続けていることか。

 

初めてバトルカードショップを見つけたときはびっくりした。

 

なにせ原作ではバトルカードというのは、FM星から送り出されていた。宇宙ステーション、キズナが消息を絶ってからではないと時間軸が合わないからだ。

 

さて、この世界のバトルスタンスについてだけど、ロックマンエグゼのようにネットバトルがあるわけでもないようでバトルカードはウィルスを退治するためだけにあるようだった。

 

なんでいろんな種類、いろんな威力のカードがあるのか疑問には思っていたが前世で言うウィルス◯スターと考えれば納得がいった。

 

さて今日も今日とて我が母親のお買い物についていくと見せかけてショッピングモールの中にあるカードショップを眺める。ふむふむキャノンが500Zでソードが450Zか。若干ソードの方が安いのはなんでか気になる。

カードショップにいる人の多くは男性。この時代、女性が機械に弱いわけではないがこういうセキュリティーに関することはやはり父親がくることが多いようだ。

じっとショーケースを眺めていると立っていた店員さんがニコリと微笑んで俺の目線までしゃがむ。

 

「ぼうや、いつもここに来るけどバトルカードが好きなのかい?」

 

「もちろん!」

 

店員さんに即答で答える。

 

だって将来お世話になるもんね。

だがしかし、神様から流星のロックマン3の内容を詰め込んでもらった俺にはわかる。

メテオGからトランサーにバトルカードは送られてくるので究極的には買う必要ないのである。

 

それでも電波変換せずにウィルスバスティングができるのはとても魅力的である。さすがにFM星人までは倒せそうにないけどね。

 

「そうかそうか! お兄さん気に入っちゃったぞ! よし、いつもきてくれるお礼にこれをやろう」

 

とてもお兄さんとは呼べない年齢であろう店員さんはポケットから何かを取り出すと俺の手に握らせた。

『内緒だぞ』と言って店員さんが去っていく。その背中を見送ってから掌を開くとそこには一枚のバトルカード。

 

クロヤはロングソードを手に入れた!

 

ショーケースを見てみるとロングソードは1200Z。5歳にしては高価すぎるものをもらってしまった。

 

「黒夜〜、帰るわよ〜」

 

「は〜い!」

 

これで俺もウィルスバスティングができるぞ!

 

▼ ▼ ▼

 

さらに5年が経ち、あれから10歳になった。

 

この5年で随分と俺を取り巻く環境は変わった。

 

父さんが事故に巻き込まれてこの世を去った。

 

暴走した自動運転の自動車から俺を守って死んだ。

それが今から1年前。

若干耐えられているものの、それは前世という荒波に揉まれて精神が異常に達観しているからだろう。もしもただの4歳児ならば間違いなく潰れてしまっていた。

それでも若干トラウマになっているので車はあまり好きではない。

 

乗り越えたわけではないが、止まっていては始まらない。

まずはなんとか頑張ってみることを決めた。

 

剣道はやめた。

経済的に厳しくなってくることを考えてのことだ。もう少ししたら実戦もあるし、頃合でもあった。

 

それから、コダマ小学校に入学した。

 

コダマ小学校に入学しビクビクしていたのももう昔。いまやそんなことは頭の隅に追いやって絶賛現実逃避中。スバルと同じクラスなんて聞いてない、見てない。

 

そんなことより、ウィルスバスティングが楽しいったらない。

 

今日は5年生になって初めての始業式だ。

児童たちは新しいクラスメイトとクラスそして先生が発表され、どこか浮かれた様子で自分の名前を見つけると早足にエレベーターの方へ走っていく。同じクラスになった友達と喜び合うのはどこの世界でも共通らしい。

 

さながら受験生が合格したような光景が眼前には広がっていた。

 

そんな俺はというと5-A組である。

 

まさか5年生になってスバルと同じクラスになるとは思わなかったね。当の本人は絶賛不登校中だけどね。さて、5年生になったということはこれからゲームやアニメであった内容が始まっていくということである。この世界がアニメとゲーム、どちらの世界軸なのかわからないのがもどかしい。もしかしたら両方なのかもしれない。

 

一番後ろの窓際の席をリアルラックで勝ち取った俺は育田先生の熱い自己紹介に遠い目をしてから窓の外を覗く。

そこから始まったのは新学年恒例の自己紹介タイム。コダマ小学校はマンモス校だ。どの学年にも一クラスに児童が30人前後は在籍しているこの学校では5年生にもなって知らない顔の人が多々いる。それでも数人程度ではあるが、やはり自己紹介というのは大事なものだ。

 

「白金ルナ!このクラスの学級委員長になる女よ。より良いクラス、生活にするために頑張りましょ。みなさん、これからよろしくね」

 

「牛島ゴン太だ。好きな食べ物は牛丼だ!よろしくな」

 

「最小院キザマロです。勉強が得意です。わからないことがあれば是非聞いてください」

 

お馴染みの3人が挨拶する。3人ともすでに知っている間柄ではあるものの、クラスが同じになるのは初めてだ。時折、議論するとルナと意見が衝突する程度には仲が良い。この3人はこの学校ではとても有名だ。カリスマを兼ね備えたルナは先生はもちろん、他の学年にまで知れ渡っている。事あるごとに集会などで前に立っているからだ。そしてゴン太とキザマロはその取り巻きとして有名だ。キザマロは全国模試で成績が良い事も有名である。

 

ゴン太に関しては…牛丼って美味しいよね。

 

その後も簡単な自己紹介が続いていき、次は俺の番である。

 

「明星黒夜です。好きなものはウィルスバスティング、それと宇宙関係のこと。嫌いなもの…というか苦手なものは車かな。よろしく!」

 

当たり障りのない自己紹介をして席に座る。

一番最後の俺の自己紹介が終わり席に着いたことを確認すると育田先生は二言ほど何か話して授業が始まる…はずだったのだが…。

 

「あの、先生」

 

「なんだ白金?」

 

突然ルナが手を高々と挙げる。

 

「一つ空いている席がありますが、誰ですか?」

 

「あぁ…。そこの席は星河スバルくんだよ。ちょうどいい、みんなよく聞いてくれ」

 

育田先生は開きかけていた教科書を閉じて教卓に置くと真剣な顔をして俺たちを見る。育田先生お馴染みの『勉強よりも大事なことがある』というやつだろう。

 

「星河スバルくんは諸々の事情で長い間学校に来れないでいる。だけど彼はとても真面目な私の教え子だ。この場にいない彼は自己紹介ができない。みんなとはほとんど認識がないと言っていい。いつになるかはわからない。だが、彼が登校してくれる日が来るかもしれない。少なくとも私はそう信じている。だから彼が来たときはどうか明るく迎えてあげてくれ」

 

育田先生の言葉が終わると静寂が訪れる。それを打ち破ったのは誰かの拍手。

 

ルナだ。

 

やがてその拍手はみんなへと広がっていき、拍手喝采となった。

 

「ぜんぜぇ! ぼく、ちょっと感動しちゃいました! グスッ…」

 

「うおぉぉ!当然だぜぇぇ!」

 

「5-A組の物語はここから始まるんだッ!」

 

熱いクラスなようでなによりである。

 

「ええ!わかりました!まずは星河くんをこのクラスへ迎えることを目標にしましょう」

 

「いや、白金それは…」

 

育田先生はルナを止めようとするが完全にテンションが上がったルナと熱いソウルメイトたちを止めることは何人たりとも叶わない。

 

「さぁ、みんなこれから頑張るわよーー!」

 

なるほどこうして原作につながるのね。さて、スバルくんはどうしているのかね。

授業が終わり、席を立つと不意にトランサーに通信が入る。どうやらメールが来たようだ。

 

母さんからかと思って開いてみると差出人はなんとコダマ小学校。

ちょうど授業が終わったのを見計らって送ってくるあたり、電波社会ってすごい。

 

『今週はトランサーについて勉強していきましょう。トランサーとはみなさんが腕につけている携帯端末のことです。みなさんも知っている通り、トランサーには様々な機能が備わっています』

 

内容はトランサーについてみたいだ。この程度の内容なら小学5年生でなくても知ってると思う。なにせこの電波社会だからね。

 

『セレクトボタンでトランサーの画面を切り替えることができ、パーソナルカード、ブラザーカード、ナビカードなどを表示することができます』

 

メタい!?と思うかもしれないけど、実はトランサーにはセレクトボタンがちゃんとある。

 

『ナビカードが出ているときはトランサーの中にナビがいるということです。ナビカードの力をうまく借りることで、彼らの力を引き出しましょう。なにせ、彼らはあなたのパートナーなのですから。Lボタンで話しかけたりして可愛がってあげましょう』

 

これもメタいと思うかもしれないけれどちゃんとLボタンがある。因みにLボタンを押すとナビを選択するショートコマンドになっていて、呼び出すことができるようになっている。

 

『最後に、全てのトランサーは宇宙に浮かぶ3つのサテライトに属しています。サテライトペガサス、サテライトレオ、サテライトドラゴン。これらのサテライトのおかげでトランサー同士の通信を可能にしています。自分がどのサテライトなのか確かめておくのも重要ですね』

 

懐かしい名前が出て来たけどこれが現実なんだもんな〜。

 

よくアイスペガサスで遊んだのだ。あ、因みに俺のトランサーはサテライトペガサスです。

 

『また、ブラザーバンドもサテライトの力があってこそなのです』

 

ブラザーバンド…ね。

 

実を言うと、俺にはブラザーがいない。幼稚園から小学校まで特に誰とも遊ばずにバトルカードショップに入り浸っていたらブラザーは誰1人としてできなかった。

 

コミュ障ではないから、友達はいるからね!?

 

これでメールは終わりらしい。

 

それにしても随分と長いメールだった。

 

▼ ▼ ▼

 

それは放課後に起きた。

 

「さぁ、早速星河くんの家に行ってみましょう!」

 

ルナがやる気満々で教室から出ていくのが目に入る。その後ろについていくのはゴン太とキザマロだ。会ったこともないスバルの家を知っているのは恐らく育田先生から聞いたからだろう。

 

それでいいのか育田先生…と思うが、実際良い刺激になればと思ってのことかもしれない。

それでも家を教えるのはまずいと思うんだけどね〜。

 

別段俺はスバルを連れ出す気はさらさらないので荷物を持つとそのままお気に入りのヤシブタウンへと移動する。ブラックエースに電波変換すれば文字通り光の速度で移動することも可能だが、FM星人が来ていない今、非常事態でもない限りは使っていない。

 

なぜ電波変換しないかというと、あまりのパワーに戦慄してしまったからだ。少しでも制御を間違えれば、そこに立っているだけで周りの電波体や電脳に影響を与えてしまうのである。練習をしているとはいえ、迂闊には扱えない代物だった。

 

電波変換できなくとも、俺の場合はウィルスバスティングでZをガポガポ稼いでいるのでそこまで困らない。

 

金遣いが荒くならないようにだけ注意をせねば…。

 

忠犬バチ公前を通り抜け、大通りを通ってショッピングモールの中へ入る。なにやら今日はいつもより人の出入りが多い気がする。なんかイベントでもやっているのだろうか。

中へ入ると特に迷うこともなく幼少の頃から通っているカードショップへと足を踏み入れる。

いつもどおり男性客が多くを占めているこのお店はショッピングモールという影響もあって繁盛しているようだ。

 

「お、黒夜くん今日も来たか」

 

「もちろんですよ」

 

この店員さんは田中さん。5歳の頃、ロングソードのバトルカードをくれた店員さんである。あれからも度々来ているので名前を覚えてくれたようでこうして来るたびに気前よく迎えてくれる。さすがにただ業務の邪魔をするのに気が引けた俺は何か恩返ししようと軽く業務を手伝ったところ、それがとてもめんどくさい内容だったようで驚かれたものだ。

それ以来、こうして来ては業務を手伝っている。バイト代といってはなんだがバトルカードをいただいている。さすがに悪いと断ってはいるものの納得してくれないあたりしっかりしているおじさんである。

 

「じゃあ今日もお願いしちゃおうかな」

 

手渡されたのは小さなダンボール箱。中を開けて見るといつものように小さな電子機器が大量に詰め込まれていた。この一つ一つがインターネットに接続することができる高度な精密機械であり、これがトランサーに内蔵されている。重要なパーツであり、核と言える。

俺の業務とはこれがウィルスに感染していないか確認することである。

 

移動のときと同じく、電波変換してウィルスバスティングすることは滅多にない。俺の手持ちにあるバトルカードで大体なんとかなるからである。

極々稀にバトルカードでも手に負えないようなウィルスが紛れ込んでいるが、製造会社は何をしているのか。結局、バトルカードももらってしまいウィルスハンティングでZも稼げてしまうので田中さんには頭が上がらない。

 

手早く電子機器を手に取り、トランサーで確認しつつ不具合がありそうな場合はバトルカードでウィルスバスティングを行う。これをひたすら繰り返すこと30分。

あと少しで終わろうかというかところだった。

 

遠くで歓声が聞こえた。

 

やはり何かイベントがあるようだが、この盛り上がりは中々例を見ない。相当有名な人を呼んでいるに違いない。

 

「やっぱり黒夜くんも気になる? 響ミソラの特別ライブ」

 

思考がピタリ止まる。響ミソラといえば今や知らない人はいないと言えるほど有名人。

 

それも俺と同じ歳でだ。

 

「うっそーん」

 

なぜこの街に彼女がいるのか。いや、正確にはなぜショッピングモールなんて場所でライブをしているのかだ。

響ミソラのマネージャーといえば金にしか目がないような下衆である。そんな奴がこんなショッピングモールでライブをするなんてにわかには信じられない。

 

「ふふ、君は店員じゃないんだし行っておいでよ」

 

「行って来ます」

 

即答してイベントを行っているショッピングモールの広場へと急ぐ。

すでに溢れるどころか通行人が通る場所もないほどに埋め尽くされた広場。後ろには食品売り場がるが、そこも観客で埋め尽くされていた。

 

その様子を遥か遠くから見る。

 

ミソラちゃんの歌声が聞こえるのが幸いだ。みんな熱狂したように歓声をあげる。だが、やはりミソラちゃんの歌はどこか憂いを帯びているような気がした。

 

「今日はありがとー!」

 

前世のゲームでの内容を知っているからこそ、そう思ってしまったのかもしれない。なんにしてもFM星人が地球にきていない今、とくに警戒する必要はないだろう。それにハープ・ノートは最初こそあれだが、とくに悪さをするわけでもない。

 

ミソラちゃんはライブが終わるとスタッフに連れられて姿を消して行った。


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