流星のファイナライズ 作:ブラック
アニメ版のお話です。
日常コメディのようで真面目なお話。
ことの始まりは突然だった。
「俺に配達するのを手伝えって?」
「う、うん! 手伝って欲しいな〜なんて思ったり…」
スバルの怯えるような喋り方に思わずため息を吐く。
俺とスバルの目の前…正確にはスバルの家の目の前に置かれた大量の荷物。その様は聳え立つ山のように積み上がっている。よくもまあこれだけの荷物をいっぺんに、尚且つ、綺麗に人の家の前に積み上げたものである。
だが、よく見るとこの荷物、全て宛先がバラバラ。スバルの家に送られてくるはずの荷物はたった一つしか見当たらない。
どういうわけか、間違ってスバルの家に全部送られてきたらしい。
「そもそも、なんでこんなことになったさ」
「そ、それは…」
スバルが御丁寧に身振り手振りも踏まえて説明してくれたことはこうだ。
『それにしてもスターフォースとやらはなんだったんだ?』
『うーん、よくわからないね』
『電波ウィルスと戦ってみればわかるんじゃないか?』
『そうしよう…見て、ウォーロック! 配達管理センターがウィルスに襲われてる!』
『よっしゃ! いっちょ暴れてやるか!』
そんな具合にウィルスバスティングをしていたところ、誤ってウィルスを機材に当て壊してしまった。
今日になったら家の前がこうなってましたと。
「……」
スバルの縋るような目に又しても大きなため息を吐く。
ウィルスバスティング、大いに結構。戦闘狂のウォーロックには困ったもんだが、ウィルスバスティング自体は悪いことではない。問題はウィルスバスティングをすることによって自分から被害を出してしまうこと。
力は力だ。
ノイズの力を扱ってるが故にわかる。
強大な力は災いをもたらす可能性が高い。
…それでも俺のは特別かな。
とは言うものの、随分と前に感じる天地研究所での事件でやらかしてしまった手前、スバルにきつくは言えない。
困ったものだ。
「仕方ない、やるかスバル」
「ごめんね黒夜くん」
まあ、これが終わったら少しだけ話してみるのも良いだろう。
▼ ▼ ▼
配達するといっても『動かざること山の如し』と言わんばかりのあの荷物の山を生身で配達することは不可能。俺とスバルは電波変換して配達することになった。
もちろん、電化製品は全てスバル。ついでに生物もスバルに任せてある。
電化製品がノイズで壊れるのは怖い。生物は衛生的に怖いので丸投げしてやった。
ノイズの影響がどこまで来るかわかんないからな〜。
ロックマンのような完全な電波体は身体の一部だけ周波数を変えることができるようで、器用にも腕だけ実体化させて配達に行った。
なにそれホラーかな?
空いてる手が段ボール持ってるとか完全なホラーである。人の目を気にして空中にいることを祈るばかりだ…大丈夫だよね?
対する俺はと言うとスバルのような器用な真似はできないので全身を実体化させて空を飛んでいる。
もちろん飛行機ですら届かないようなめちゃくちゃ高い高度でだ。
サテライトさんには感知されるだろうが、どうせ三賢者にはバレているのでなんら問題はない。
スバルとはトランサーでいつでも連絡が取れるようにしてあるので何かあっても大丈夫。
ブラックエースが助けに行くよ!
さて、そんなこんなで絶賛空の旅を満喫してるわけだけど、流石に高すぎる高度からでは住所なんてわかったもんではないと思うだろう。
そこでトランサーの出番だ。
トランサーに搭載されているマップを展開し、サテライト先輩につながるだけで現在地がわかる。サテライト先輩様々だ。人目に付かなそうな森などを選んで地上におり、家へと配達していく。
電波変換を解くのも忘れない。もちろん、荷物は地面に置いて。
地面に置かなきゃ俺の腕が折れるからね。
「お届け物でーす」
「あら、坊やありがとう。でもどうして坊やが?」
「ああ、今学校の職業体験期間で頑張ってるんです! それじゃ次の配達がありますんで!」
「あらあら、もうすっかり様になってるじゃない。頑張ってね」
若妻さんが家の中に入った直後、再び電波変換。空中へと上がる。
ここからはダイジェストでお送りしよう。
40代の奥様。
『あら、ありがとう』
会社員のおっちゃん。
『会議で使う大事な資料だったんだ』
90近くのおばあちゃん。
『ありがとうね…ところで最近の子どもはそんな服が流行ってるのかい?』
80近くのおじいさん。
『トイザマスでその服孫に買ってやろうかのう』
途中から電波変換しっぱなしだったのは面倒だったからではない。断じてない。
そしてなんだかんだ受け入れられるブラックエース。
おいみんな、それでいいのか。
スバルもロックマンのまま配達しているのだろうか。渡す時くらいは電波変換をといてるかもしれない。
不意にトランサーに着信が入る。メールではなく通話だ。
もちろん相手は星河スバルだ。
『黒夜くん、調子はどう?』
「ん? スバルか。なんとかなりそうだ。あと2件で終わるかな」
『僕の方は委員長の家に届ければおしまいかな』
ロックマン様病のルナに配達するのは酷なのではないだろうか。主にスバルが。
ルナのことだから『キャー、ロックマン様!! お茶でもいかが!?』なんて言って中に連れ込むに違いない。
『いかが』と口にしながらも腕を掴んで強制的に連行するに決まってる。
俺の配達先は…。
明星美夜
響ミソラ
我が家とミソラちゃんの家のようだ。住所までしっかりと書かれている。ミソラちゃんの住所をまじまじと見つめるとトランサーのメモ画面を開いて書かれている住所を写していく。
俺の家だけ知られててミソラちゃんの家を知らないのは不公平。そう、不公平だ。故にこれは正当性が…ない。
配達物が悪い。反省はしている。
ここからの近さ的にミソラちゃんの家へと向かった方が速そうだ。住所通りの場所へ向かう。
俺やスバルのコダマタウンとなんら変わらない住宅街。
その中にミソラちゃんの家はあった。
「宅急便でーす」
インターホンを鳴らし、もう幾度となく口にした魔法の言葉を大きな声で棒読みする。むしろこの言葉を言わなければ奥様方は勧誘か何かかと思って出てきてくれないのである。たとえ二階にいたとしても『宅急便』と口にしただけで察知し、駆け下りてくる。
『宅急便でーす』は魔法の言葉だったのだ。
「はーい!」
例外もなく、ミソラちゃんも返事をしてドタバタと階段を降りるてくる。意外と家の中の物音というのは外に聞こえるものだ。
そうして出てきたミソラちゃんは…。
「お疲れさま、で…」
パジャマだった。
「……」
「……」
ものすごく微妙な空気が俺とミソラちゃんの間に流れる。例えるならそう、アニメの主人公がラッキースケベをしてしまったときのような。
あの凍った空間がここにあった。
一度深呼吸をしてミソラちゃんのパジャマをまじまじと見つめる。ミソラちゃんの身体よりも少し大きめに作られているようで、ダボダボだ。柄は音符と猫ちゃんとなんとも可愛らしいデザイン。
服の可愛らしさとミソラちゃんの顔の紅潮具合がマッチしてなんとも少女感を醸し出している。
「…ハンコ、おねがいしゃーす」
一陣の風が吹く。
それが、さらなる激闘の幕開けとなった。
「ショックノートッ!!」
「ノイズシールド!!」
飛ばされてきた音符をノイズを具現化した盾で塞ぐ。
『ポロロン…あなた、やるわね』
「我ながら良いものを見せてもらったと思う」
「良くない良くない良くなーーいッ!!」
ミソラちゃんとの攻防は15分ほど続いた。
▼ ▼ ▼
ミソラちゃんとの攻防の後、家に連れ込まれて事情説明。むくれたミソラちゃんに謝罪した。なんともシュールな光景だったとだけ言わせてもらう。
パジャマ姿を見られたことが相当恥ずかしかったらしい。あとは連絡しなかったことにむくれていたようだ。
『来るときは連絡してねって言ってたのに…』とブツブツと拗ねるミソラちゃんはとても可愛かった。
連絡しなかったのは悪かったが、パジャマで出て来るとは思わなかったじゃん?
…家に上がる気もなかったしね。
さて、ミソラちゃんをなだめたあとは我が家に戻るだけなので楽だ。来た道を戻って電波変換をとき、母さんに渡す。
スバルもすでに配達を終えたらしいが、わざわざ会いにいくのも面倒なので電話をかける。
「お疲れスバル」
『おつかれさま黒夜くん。ごめんね、巻き込んじゃって』
「まあ、巻き込まれ体質なのには自覚がある」
『あ、あはは…』
スバルが苦笑いしたのは、FM星人との戦いに俺が巻き込まれていることに対してだろう。
巻き込まれているというより自分で介入しているのでなんとも思っていないが。
「スバル」
『ん?』
少しだけ真面目な話をしよう。
「焦るなよスバル。スターフォースの力は強大だ。だからこそ、それに見合った
『見合った何か?』
「そう。それを見つけることはスバルにしかできない。こればっかりは俺にはどうしようもない」
俺の場合は自身の死。神様にあったのも転生したのも、全てはあそこから始まった。
今でも流星のロックマン3を実際にできなかったのは心残りだ。
何事にも対価は必要だ。
『うん。頑張ってみる』
「…気持ちだけはしっかりと持つんだ。それが、一番スバルを助けてくれる力になる」
要は覚悟。
スターフォースを受け取ったときの覚悟。あの気持ちを持ち続けていれば、いずれスターフォースは覚醒するだろう。
スバルの覚悟をより強く自覚させるために、俺は邪魔者だ。あと少しすれば、スバルは1人で立ち向かってもらうことになる。
だからこそ、今できる限り力になってあげたい。
最後に大団円を迎えるために…。