流星のファイナライズ   作:ブラック

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繋がる力、守る力

「おかしいな、なんか左の頬がすごい痛いんだけど…なにしてたんだっけな〜」

 

『気のせいだ気のせい』

 

「ほら、病気は気からって言うじゃない」

 

「う〜ん誰かに殴ら…」

 

「『殴ってない』」

 

こんなやりとりをかれこれ3分はしているか。スバルはウォーロックに殴られた左頬が痛くて仕方ないらしい。相当な力でやったようだな、ウォーロックン。

 

「…もしかしてロック」

 

『お、俺じゃねえぞ殴れって言ったのはこいつであってだな!』

 

「俺が殴るくらいの気合って言ったら急に喜んだのはお前だろ、このバーサーカーが!!」

 

「…」

 

スバルの無言と視線が痛い。

 

「さっきから2人でなにを喋ってるんだい?」

 

適当な言い訳を言って教室から外へ出ようとした時だった。スバルの隣の席の男子が落ち着いた様子で俺たちに語りかけた。

 

「…ツカサ」

 

「大変なことになったね。先生、どうしちゃったんだろう」

 

明らかに学習電波の影響を受けていないツカサ。ジェミニが関与している可能性が高い。だが、今のツカサはツカサ(・・・)だ。無意識の可能性も捨てきれない。

 

「き、君は大丈夫なの?」

 

「…うん、どうしてだろうね。それよりみんなが危険だ。早く学習電波を止めないと」

 

「そ、そんなこと言われたって」

 

「学習電波は放送室で制御されてるはず。多分、先生もそこに…」

 

「放送室か…」

 

そんなことまで知ってるのか。

不思議オーラが全開なツカサだが、事前に知識を持っていることもあって素直に鵜呑みはできない。

 

未だに姿を見せていないジェミニがここで関与してくる可能性は極めて低いだろうが、それでもだ。

 

「ツカサ、お前はどうするんだ?」

 

「僕はここに残ってできることをするよ」

 

「そうか。行くぞスバル」

 

ここから先、ツカサくんにも要注意だな〜。

 

▼ ▼ ▼

 

外に避難させる選択肢もあったが、そうしなかったのはエレベーターが誤作動を起こしているからだ。教室を出てみれば案の定、頭を抱えて苦しむ人たちがエレベーターに殺到していた。

 

今日この時間に体育のクラスは相当ラッキーだ。

 

放送室は5年生の教室と同じ階にあるため、行くのに苦労することはない。

 

人目を気にすることなく放送室へと向かう。その途中には数名の教師が力なく倒れていた。

 

無論、やったのはリブラ・バランスだろう。

 

放送室の中に入り、対峙する。

 

「せ、先生…」

 

スバルが狼狽えたのは優しい育田先生がこうも変わってしまったことに対して。

 

そんなスバルから目を離して俺を睨む。

 

「明星…やはりお前は問題児だな」

 

「わかりきったことじゃないですか、なにを今更」

 

「授業を抜け出す悪い子には罰を与えねば」

 

風紀委員会からもなぜか目をつけられる俺なのだ。これくらいなことはわけない。

炎のはかりを俺の目の前に突きつけるリブラ・バランス。しかし臆せずに飄々とした態度で嘲笑うように睨む。

 

「授業? 何言ってるんです? 控えめに言ってもあれは自習って言うんですよ先生(・・)

 

「ふむ。確かにそれもそうか。私とてやりたくてこんなことをしているわけではない」

 

「だったら!!」

 

「しかしなスバル。世の中には大人の事情というものがある。故に私はこの学校が進学校を目指すことに賛成している」

 

リブラ・バランスはこう言うが、育田先生は別だ。恐らく、まだ迷っている。葛藤している。

 

そこを揺さぶることで対話を試みる。

 

「そうですか。残念です。育田先生の言っていた『勉強よりも大事なことがある』。この言葉を聞いて教員を目指す児童も多かったでしょうに…」

 

「…何が言いたい」

 

「子どもは宝。先生はよくそう言ってました。先生、今やってることはなんです? これが教育ですか? あなたは今までの自分を全て否定しているんですよ。これを知った俺たちクラスメートはこれから先、あなたをどう思うでしょう」

 

今まで校長の圧力にも負けずに一人戦ってきた育田先生。そんな育田先生の言葉は俺たちの言葉に力強く響いていた。故に、『育田先生のようになりたい』と夢を語る児童も少なくはなかった。

 

それが原因で他の教師から白い目を向けられることもあったろう。

 

だが、児童から圧倒的な人気があったのは確かなのだ。

 

育田先生は今までの自分を、児童たちを否定している。

 

「そ、それは…」

 

『しっかりしろ』

 

またしてもリブラの邪魔が入る。一発殴りたいがリブラ自身が育田先生の中にこもっているので殴れない。一度でも実体化したら瞬時に電波変換して殴ってやる。

 

「ところでだ。どうして二人とも動ける。ん、あぁ…明星の健康調査表にあった電波障害児というのはそういうことか」

 

「電波障害児?」

 

「そのあたりはまあ、いろいろあったらしいよ?」

 

電波障害児。

俺のいた世界ではなかった概念。

 

全ては俺が生まれたときにまで遡ることになる。

 

後々、話すこともあるかもしれない。

 

「だとしてもスバルくんが動ける説明がつかないな。そうか。学習電波が弱かったか。だが、最大稼働しているな…ふむ、今度は内部から制御を奪って出力を上げるしかあるまい」

 

「そんなことしたら!?」

 

スバルが叫ぶ。

そんなことをすればみんなの脳が壊れる。今度こそ間違いなく、気絶では済まされない事態に陥る。

 

それだけは止めなければならない。

 

リブラ・バランスが学校の電波の内部へと消えていく。

 

『チッ、電脳の中に逃げやがった。スバル電波変換だ』

 

「う、うんでもウェーブホールが…」

 

「ウェーブホールはここにはないな。確か教室の中にあったはず、急いでスバル」

 

「黒夜くんは!?」

 

「悪いけど、俺の場合はちょっと特殊でね」

 

どうせ言葉で言ってもわからないだろうから、スバルの目の前で変身することにする。電波変換と言えば電波変換なんだが、俺の場合はノイズを使う。

 

赤黒いノイズが球体状に俺を包んで行く。

やがて赤黒い光とともに球体が割れ、現れたのはブラックエースの姿。

 

『なるほど、そういうことか』

 

「ど、どういうことロック」

 

変身を見ただけでどういうものか理解したウォーロック。FM星人はみんな初見で色々とわかってしまうらしい。

 

それにしたってハープの感知能力は異常だけどね。

 

「そんなことはいいから早く行きなって、俺は先に電脳の中入るから」

 

『絶対教えてね』と捨て台詞を吐いて走り去っていくスバル。

 

はっはっは、絶対なんて言葉はないのだ。

 

 

▼ ▼ ▼

 

放送室から勢い良く飛び出して目指す先はいつもの教室。最近になって登校するようになった僕。そんな僕に優しく接してくれたみんな。熱烈な感激は心に響いたし、育田先生の言葉には救われた。

 

そんな育田先生は今、リブラというFM星人に取り憑かれてしまっている。

 

本当は戦いたくなんてない。目立ちたくもない。できるなら静かに平和に暮らしていたい。だけど、スターフォースを受け取ってから僕は覚悟を決めた。

 

戦う時は、戦わなきゃいけないんだ。

 

手の届く誰かがいなくなるのは嫌だ。

 

教室に戻ってみれば未だにゴン太やキザマロが苦しんでいる様子が目に入る。内心で謝りながら教室の隅にあるウェーブホールで電波変換するとウェーブロードへと上がる。

 

放送室はそこまで遠くはない。

 

黒夜くんに遅れをとるわけにはいかない。

 

「まずは黒夜くんのところに急がなきゃ」

 

『そう上手くいくかな?』

 

「ッ!?」

 

この声を僕は知ってる。忘れもしない。僕が変わるきっかけともなった一戦を。

 

ジャミンガー。そしてGタイプと黒夜くんは言っていた。

 

「邪魔ものはいない。今度こそ逃さない」

 

『くるぞッ!! 構えろスバル!』

 

「ぼ、僕は…」

 

勝てるのか、僕に。

今ここに黒夜くんはいない。

 

あの時のようになったら今度こそ…。

 

だけど、スターフォースを受け取る時に僕は覚悟を決めたじゃないか。

 

怖い。

それでも怖い。

 

「残念だ」

 

いつの間にか目の前に移動したジャミンガーが僕の身体を掴む。締め付けられる。

 

あぁ、ダメだ。

僕はここで…。

 

▼ ▼ ▼

 

『スバルよ』

 

声が聞こえた。低い声だ。

 

『お前はここで朽ち果ててしまうのか?』

 

朽ち果てる?

 

『お前の力はこんなものじゃないはずだ』

 

違うよ。僕には力なんて持ってない。普通の男の子なんだ。ただ宇宙人が居候しているだけの普通の男の子。

 

地球に迫っている危機に立ち向かうなんていう大層な力なんて持ってない。

 

『お前にはあの声が聞こえないのか?』

 

景色が浮かぶ。

場所は教室。

 

さっきまで僕と黒夜くんが居たいつもの教室。そこには僕を歓迎してくれたみんなが今も尚苦しんでいる。

 

『助けて…助けて…ロックマン』

 

そんな中で一人救いを求める少女。

 

『今にスバルが…放送室に』

 

『頼むぜスバル…3×2…』

 

やめてよ。

僕なんかに期待しないでくれ。

 

僕は言葉だけの人間だ。いくら覚悟を決めたなんて言っても結局、目の前でいざ起こると怖くて仕方がない臆病者だ。

 

そんな僕を信じないでよ。

 

僕はヒーローなんかじゃない。

 

『スバル』

 

今度は別の声。

もう随分と聞き慣れた声だ。

 

「黒夜くん」

 

『悲しいけど、ルナが助けを求めてるのは俺じゃない』

 

そんなこと、関係ないじゃないか。黒夜くんは強いんだ。黒夜くんか頑張ればそれで終わりじゃないか。

 

『ルナから言わせれば、俺はイソギンチャクでロックマンがヒーローなんだとさ』

 

そんなことは委員長の勝手じゃないか。

僕はヒーローなんかじゃない。

 

僕はもう平和に…。

 

『平和ってなんだ? 平和なんて今あるのか?』

 

「でも!!」

 

わかってる。

地球に危機が迫っていることも。ここで身を引いてもあるのは猶予が付いた平和だということも。

 

『俺はお前の意思を尊重するよ。だけど、後悔だけはするな。もしもここで手を引くと言うのなら、もう二度とこっちの世界に入ってくるな』

 

「…それは」

 

それもまた、嫌だった。

 

嫌?

 

どうして?

 

あれほど巻き込まれるのは嫌だと言いながらどうして?

 

そうだ。

そうだよ。

 

僕は知ってしまった。知ってしまったからこそ、見逃すことはできなかった。

 

「君はずるいよ、黒夜くん」

 

『悪いな。俺、この学校じゃ風紀委員に目をつけられるくらいの悪ガキなんだ』

 

僕は、そんな君に憧れて。

 

『さて、それじゃ聞こうか。スバル、君はここで諦めるのか? あぁ、因みに俺はお前のこと…信じてるよ』

 

やっぱり黒夜くんは意地が悪い。

答えは決まってるじゃないか。

 

視界が晴れていく。まるで深い霧が心の中から消えていくかのように。

 

『忘れるな、お前は一人じゃないんだ。お前がどう思おうと、俺たちは…』

 

友達だ。

 

▼ ▼ ▼

 

ずるい、本当にずるいよ。

そんなこと言われたら断ろうにも断れないじゃないか。

 

これは確かに断ち切れそうにないや。

 

「そうだ。僕は…」

 

「??」

 

僕を信じて待っていてくれる委員長。言葉にして伝えてくれた黒夜くん。僕を歓迎してくれたクラスのみんな。

 

そして、今は取り憑かれてしまっている育田先生。

 

「守…い」

 

「とうとう頭がおかしくなったか?」

 

勝てるか勝てないかじゃない。

 

「守りたいんだ!!!」

 

身体の中で何かが大きく鼓動した。

 

視界が大きくブレた。

 

徐々に心臓の音と重なっていくその様は、まるで心臓の中に力が吸収されているような奇妙な感覚。

 

力が溢れてくる。

 

今までとは比べものにならないほどの、強大な力。

 

『ロックマン様…!』

 

『スバル!』

 

委員長の声から、クラスのみんなから、から力が送られて来ている。

 

そっか、これが信じるってことなんだ。

 

「なんだ!? 何が起こった!? 抑えきれんッ!?」

 

僕の周りを氷が包んでいく。そうして氷の礫が僕を呑み込んで球体を作る。

 

不思議とこの氷は冷たくない。むしろ、暖かい。

 

黒夜くんの変身体に似ている。

だけど、性質が違う。

 

やがて氷の礫が弾けるように、光を発しながら球体が割れる。

 

気がついた時には僕の姿は変わっていた。

 

身体は白と青を基調としたカラーに。背部には黒夜くんのブラックエースのようなウィングユニット。

 

もちろん、構造は全く違う。

 

僕のこの力は、氷を扱うためのものだ。

ノイズは操れない。

 

それでも…。

 

「これが、スターフォース」

 

やれる。

これだけの力があれば、僕は守りたいものが守れるかもしれない。

 

「行くぞ!! もう僕は負けない。絶対にッ!!」

 

 

 

もう一つの翼が、今羽ばたく。

 

 




スバルくん覚醒回でした。

やっぱりいつ見ても原作のこのシーンは大好きですね〜。

主人公って感じ。

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