流星のファイナライズ   作:ブラック

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リブラ・バランス

「さて、これでいいの? ペガサス」

 

『うむ。ここでしか、スバルの中の力を目覚めさせるタイミングはなかっただろう。先を急げ、明星黒夜』

 

「まったく…勝手なことばっか言って」

 

ペガサスの影が消えていったのを確認した直後、白い世界が消え去る。スバルはすでにスターフォースを覚醒させ、今頃アイスペガサスに変身しているに違いない。

 

アイスペガサスになったことでスバルの戦闘能力は大幅に上がった。俺と同等か、少し下くらいまでは到達しているはずだ。

 

スターフォースビッグバン。

 

それはサテライトの持つパワーを大爆発させて攻撃する必殺の一撃。

扱うためには相手の隙を作ることが必要だ。

 

ノイズフォースビッグバンと似ているのは、通信しているのが流星サーバーではなくサテライトだからだ。

 

形式上はほとんど同じなのだ。

 

まあ、流星サーバーはバトルカードも補ってくれるのでチートだけどね。

 

視界が元に戻ると見るだけで嫌気がさす辞典の足場…学校の電脳だ。

 

それにしても足場の全部が辞典ってほんとにどんな嫌がらせだ。溜め息を吐きたくなるに襲ってくるのはデータが実体化した問題たち。見た目はオバケだ。よく見れば『3+1』や『上手』などと書かれていたりする。

 

因みに答えを示すことで、データは役割を終えてデリートされる使用のようだ。

 

学習電波が使用された際に頭の中に問題や公式が浮かんでくるのは、こうして絶え間無く電波を送り込んでいるからだ。この問題たちを片付け続ければみんなに影響はないんだろうが、根本的な解決にはならない。

 

やはり学校の電脳の最奥に存在するコントロールパネルで停止させる必要がある。

 

「邪魔だよ、ほんとに!!」

 

迫り来る問題オバケたちから逃げるべく空に退避するとバスターを構えて問題オバケを作り出している学者らしき像を破壊する。下に残っている問題オバケたちが消えることはないが、空からゆっくりと答えを言ってあげると姿を消す。

 

こんな動作を繰り返してかれこれ数回。

 

結構めんどくさい。

 

やがて見えてきたセキュリティウォール。

 

ノイズの力で歪ませて通りたいのは山々だが、今回はみんなの脳と直接リンクしている。流石に危険要素が多すぎるのでノイズは使えない。

 

それはリブラ・バランスとの戦いでも同じことだ。

 

ノイズフォースビッグバンの使用だけはなしだ。ムーテクノロジーやノイズを引き起こしそうなバトルカードももちろん禁止。

縛りプレイである。

 

「邪魔だって…あ、君は64ね」

 

空から次の学習電波発生装置を見つけ、殲滅する。同時に現れる問題オバケくんたちを成仏させるのも忘れない。

 

実はこのオバケ、答えるまで待ってくれる。無論、時間制限はある。しかし、目の前まで押し寄せると一斉に停止。今か今かと目を光らせて俺が答えるのを待ってくれるその様に思わず愛着が湧いてくる。

 

そして答えがあっていたときの嬉しそうな顔である。

 

もうほんとに健気かお前ら。

 

「黒夜くん!」

 

学校の電脳2に差し当たった所でスバルが合流してくる。どうやらジャミンガーは無事に撃退できたようだ。スバルの身体をマジマジと見つめる。

 

薄い青色のボディーに背部に展開された白い翼。頭に印されたサテライトペガサスのマーク。間違いなくアイスペガサスだ。

 

「遅いぞスバル、アイス一本な」

 

アイスペガサスだけに。

 

「え、えぇ〜僕も頑張ったんだけど」

 

「はっはっは、世の中厳しいぜスバルくん」

 

『ケッ、相変わらず食えねえやろうだが、今回ばかりは礼を言うぜ』

 

珍しいウォーロックのお礼に目を丸くしたら殴られた。解せぬ。

 

さて、スバルを連れて向かう先は学校の電脳、その最奥。電脳2へ来てもやることは変わらない。スバルが飛べるようになったこともあって、効率は格段に良くなった。

 

ギミック?

ウェーブロードの迷路?

 

なにそれ関係ないね。

 

そうして全てを攻略して電脳2の装置を破壊した。

若干生まれたノイズをレギュレーターで回収して正常に戻す。同時に膨れ上がる俺のノイズ。

 

そろそろ頃合いだろう。

 

先に進もうとスバルの腕を掴む。

 

「さて、スバル」

 

「どうしたの?」

 

スバルはこちらを振り向いて首をかしげる。

 

若干心配ではあるが、スバルも十分に成長した。もう任せてもなんら問題はないだろう。

 

スバルは一人ではないのだから。

 

「ここから先、俺はいけない」

 

「どうして!?」

 

『いかない』のではなくて『いけない』。超えてはならない見えない壁が俺の前には立ちはだかっていた。

 

「これ以上奥に行けば、俺のノイズは学習電波に悪影響を及ぼす。俺が手伝えるのはここまでだ」

 

ブラックエースの纏う高密度なノイズ。ブラックエース自体はそれを無害なものに変換し戦うことができる。物が壊れればノイズは発生する。そうしてそれらを全てこの身に引き受けていれば、自身のノイズは強大になって行く。

 

俺にとっては力でも、他の電波からすればノイズはノイズ。

 

影響を与えるのは避けられない。

 

電脳3のコントロールパネルが暴走なんてことになったらシャレにならないしね。俺ではなくスバルが学習電波を破壊してみんなの脳に影響を与えることも避ける必要がある。

 

となると、一害あって一利なしの俺はここから先必要ない。

 

「そんな顔をするなって」

 

しょんぼりとしたスバルの頭を優しく2回叩く。

 

「お前はもう、一人じゃないんだろ」

 

正確に言うと、スバルは最初から一人ではない。ロックマンに変身したその時点で、ウォーロックという最高の友を持っていたのだ。

 

まあ、両方とも自覚してないみたいだけどね。

 

「俺はこれからエレベーターを解放しに行く。そうすればみんなは脱出できるし。俺は俺のやり方で、お前を援護する。期待して待っとけ」

 

ここまで学習電波を破壊したわけだから随分と送り込まれる電波の量は減っただろう。

多分、頭の中に浮かんではいるものの、日常的な会話はできるくらいだ。

 

脱出するなら今が好機。

 

確かゲームではエレベーターが誤作動を起こしていて脱出できなかったはずだ。

 

俺がいる限り、そんなことはさせん。

 

「わかった。僕、戦うよ」

 

「育田先生を頼んだよ。あぁ、ウォーロック。リブラはタコ殴りにしといてくれ。俺の分まで」

 

『お、おう任せとけ!』

 

「黒夜くん」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

一言だけ呟いて去っていったスバルの背中に俺はそっと微笑みかけた。

 

▼ ▼ ▼

 

『ケッ、あれだけ焚きつけられたんじゃ、やらないわけにはいかねぇな』

 

ウォーロックの言葉に内心で頷きながら、電脳3の装置を壊していく。

問題オバケが時折出てくるけれど、通信で随分と先まで勉強していた僕にとって解けない問題などありはしなかった。

 

「アイススラッシュ!」

 

問題オバケを退治していく間に襲ってくるウィルスも対応していく。脅威性は感じられない。むしろ、今までのウィルスよりも遥かに弱い?

 

それとも僕が強くなったのかな。

 

黒夜くんがいるときはもっとウィルスも凶暴だった気がするんだけど…。

 

『大方、あいつのノイズに当てられちまってたんだろうな』

 

「本当に、黒夜くんって何者なんだろう」

 

電波障害児。

リブラ・バランスは黒夜くんのことをそう言っていた。

 

『ハープに聞けばわかるんじゃねえか? あいつ、初対面で何かに気づいてたみたいだからな』

 

「ハープってことはミソラちゃんか。連絡、とってみようかな…その前に」

 

まずは、黒夜くんとの約束を守らないといけない。

 

「見つけましたよ、育田先生…いや、リブラ・バランス!」

 

「…おや? 君は何者だ」

 

ん??

もしかして、僕のことに気づいてない?

 

僕に気づいてることを前提にして言ったのに、これじゃ恥ずかしいだけなのでは!?

 

「ぼ、僕はえーっとロックマンだ!」

 

『よぉ、リブラ。殴りに来たぜ』

 

『その声…忌々しい逃亡者、ウォーロックではないか。まさかそちらから来てくれるとはな』

 

『なめるなよ。今の俺たちは敵なしだぜ』

 

「今すぐ、学習電波を止めるんだ!」

 

「そうはいかない。児童の成績を上げなければ、私はクビになってしまう」

 

く、クビだって!?

そうか、だから育田先生はこんなことを…。

 

先生には7人の子どもがいる。

 

そのためにはお金が必要。クビになったら…。

 

「だからって、これは間違ってるよ!!」

 

「そ、それは…だがッ!!」

 

『おい、何度言わせるつもりだ』

 

「わかっている。わかっているとも。何かを守るには何かを犠牲にしなくてはならない」

 

『そうだ。それでいい』

 

そんなの、悲しすぎる。

大人の事情なんて僕たちにはわからない。育田先生の言っていることが真実なのかもしれない。

 

だけど、それでも。

 

みんなを守るために何かを犠牲にするのは嫌だ。

 

「僕はどっちも守りたい。守ってみせる!」

 

黒夜くんならなんて言うだろう。そうだ、彼ならきっと…。

 

『とりあえず、俺はあなたを止めますよ』

 

飄々としながら、しかし決意した瞳でこんなことを言うに決まってる。

 

「私とて親の責務を果たさなければならない。乱暴なことは嫌いなのだが…仕方ないッ!!」

 

『くるぞスバル!!』

 

ウォーロックの声に合わせて戦闘態勢に入る。リブラ・バランスはどんな攻撃を仕掛けてくるのか。

一度距離を離れてバスターで牽制し、空へと舞い上がる。今までは黒夜くんの専売特許だったけれど僕にだってできる。

 

不意に、天秤を傾けた。

 

その動作に疑問を持ちつつも、油断することはしない。

 

全ての動作に意味がある。黒夜くんと一緒に戦う間に学んだことだ。どんな些細な動作も、それが攻撃や防御へと繋がることがある。

 

黒夜くんはいつもそうだった。

 

放たれたのは炎だった。ただの炎ではない。球体になっていながら目と口を持つ、オバケのような炎。

しかし僕がいる場所は空中だ。地上では避けられないかもしれないが、空中で避けられないなんてことはない。

 

空中を滑空しながらスプレッドガンを放つ。

 

砲弾から放たれた一つの弾が拡散して降り注ぐ。大きな図体に動きの遅いリブラ・バランスでは避けることもままならい。

 

だが、ダメージは少ないだろう。

 

図体が大きいってことはそういうこと。

 

「だったら…ロック!」

 

『おうよ!!』

 

ウォーロックが口を開け、氷の礫を集めていく。

やがて溜まりきったそれをリブラ・バランスに向けて放つ。

 

チャージショット…アイススラッシュ。

 

リブラ・バランスに着弾した途端に氷がリブラ・バランスの動きを封じる。その隙を逃さず、リュウエンザンをプレデーション。

 

急降下しながら斬りかかる。

 

「なめるな!!」

 

「ッ!?」

 

リブラ・バランスの周りを間欠泉のように吹き出した水柱が覆う。水柱の手前で急停止した僕に突然衝撃が襲う。

 

衝撃は頭上から。

 

そのまま身体を潰されそうになったところでインビジブル。周波数を変化させ、間一髪のところで回避する。

 

強い。

 

リブラ・バランスの特徴は攻撃力ではなく、自衛力にある。

 

駒のように回転しながらこちらに迫ってくるリブラ・バランスの天秤の間をくぐり抜け、プラズマガンプレデーション、放つ。プラズマガンを見た直後、リブラ・バランスの顔が強張るがもう遅い。雷を帯びた弾丸が放たれる。

 

反応を見るあたり、弱点は雷系統のバトルカード。

 

ワイドソードをプレデーションして横薙ぎに一線すると一度距離を置く。

 

「ぐぅッ!?」

 

それでもリブラ・バランスは立ち上がる。もう随分とダメージは与えたはずだ。

 

それでも立ち上がってくる。

 

「もうやめるんだ。育田先生、学習電波を止めて!!」

 

僕の本音。

これ以上、育田先生を傷つけたくはなかった。

 

育田先生にも育田先生の事情があることを知ってしまった。

 

「私が敗れれば…子どもたちがッ!!」

 

それでも僕は、みんなを守る。

その中にはもちろん、育田先生も含まれている。

 

「…これで終わりにするんだ」

 

一枚のバトルカードをウォーロックにプレデーションする。

 

翼をはためかせて空を舞う。

 

僕の周りを氷の礫が円を描きながら回っていく。集まっていく。

 

腕を伸ばす。

 

照準はリブラ・バランス。

 

僕を覆っていたはずの氷の礫が一斉にリブラ・バランスの足元に移動し、回り始める。

 

最初はゆっくり。

氷の礫が増えるたびに徐々に速く。

 

そうしていつの間にか、氷の礫が凄まじい速度で回り続けていた。

 

力一杯両手を前に出す。

 

「マジシャンズ・フリーズッ!!!」

 

直後、いくつもの巨大な氷の柱がリブラ・バランスの足元から姿をあらわす。

 

「ッ!?」

 

氷の柱は一瞬のうちにリブラ・バランスを呑み込み、氷の氷像が出来上がる。

凍りついたリブラ・バランスにはもう抵抗する力は残されていない。

 

横を通り抜け、急いで学習電波のコントロールパネルを使い、緊急停止させる。

 

『緊急停止します』

 

その声を聞いて安堵の息を漏らすスバル。リブラ・バランスはそんな僕に向けて苦悶の表情で手を伸ばす。

 

できるはずもない。

届くはずがない。

 

その身体は未だに氷に囚われている。

 

あぁ、この人も僕と同じだったんだ。

怖くて怖くて必死に見えない何かから逃げていたんだ。

 

だからこそ、この人にも届くはずだ。

 

「こ、こで…クビに…」

 

「もうやめてよ。聞こえないの育田先生?」

 

みんなの声が。

 

『せんせー』

 

「なんだ、この声は…」

 

声が聞こえた。

いや、ずっと聞こえていた。

 

戦ってる途中からずっと。

 

『明星黒夜! この私に嘘をついたわね!』

 

『さっきまでここにいたんだって〜。あっれ〜おかしいな〜。スバルもいないし。おーい、せーんせー、スーバールー』

 

演技力の欠けらもない棒読みに思わず微笑む。

 

うん。

僕の耳にはちゃんと聞こえてたよ。

 

君の声が。

 

『このアホ星!』

 

『うるせぇクルクル!』

 

「あ、明星…白金…」

 

リブラ・バランスの中の育田先生が目に見えて動揺している。

 

『ふ、二人とも喧嘩どころではないのでは!?』

 

『育田先生、どうせ変なものでも食べたんじゃないのか?やっぱ牛丼が一番だぜ』

 

「最小院、ゴン太…」

 

『それか熱だよ!そうじゃないと…』

 

『育田先生があんなこと言うはずないもんね』

 

『早く病気を治してもらわなくっちゃ。さて、また探すわよ!』

 

「お前たち…」

 

放送室から出て行ったのか、やがて声は消えていった。残ったのは僕とリブラ・バランスの間に残る静寂のみ。

 

「こんな、私を、まだ…」

 

「当たり前じゃないですか。みんなの担任は育田先生、あなたなんですから」

 

「…これじゃ、児童たち、に、顔向けできんな。子どもにも」

 

『おい、だが子どもは』

 

「もちろん、子どもだって、守ってみせる!!私は、教師を続…ける。私の哲学もこれからは決して曲げない。権力などに屈してなるものか!」

 

育田先生に…いや、僕たちに足りなかったのは覚悟。

自らを貫くために一番大事な強い心だった。

 

リブラ・バランスが崩壊を始める。

 

育田先生の心の中の孤独が、みんなに触れて埋まってきたのだ。

 

『そんなものはなんの意味にもならない!』

 

「何もしなければただの夢物語。だが、努力を続けることに意味があるのだ!!」

 

『クォォォォォッ!?』

 

苦悶の声を漏らしながらリブラ・バランスはその姿を消した。


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