流星のファイナライズ 作:ブラック
それは黒夜が五陽田と話をしている最中に起こった。
『あの五陽田ってやつ、俺たちの存在に気づいてやがったな』
「思わずヒヤリとしちゃったよ」
サテラポリスの技術も馬鹿にならないんだな〜。
まさか非科学的な宇宙人をこうもはっきり『いる』と宣言するとは思わなかった。これはますます五陽田さんには僕の正体が明かせなくなったんじゃないだろうか。
大きくため息をついて後ろの扉を振り返る。
黒夜くんはまだ中で話をしているのだろうか。ついつい好機だと思って逃げて来ちゃったけれど黒夜くんは大丈夫…だよね?
『あれだけ据わった肝してやがんだ。なんとかなんだろ。それより帰ろうぜ、もう懲り懲りだぜ』
まったくもってウォーロックは軽いやつだ。
腕が勝手に引っ張られるような感覚。ビジライザーをかけてみればわかると思うが、ウォーロックが僕の腕を引っ張っているのだ。本当に自分勝手なんだから。
そのままエレベーターに乗り、階を上がり、荷物が置いてあった教室へと入る。
放課後になってから随分経ったこともあって、教室の中には人は少ない。
いたのはたった1人。
特徴的な金髪の髪型に高価そうな青い服…みんなご存知の委員長だ。
委員長は僕に気づくとゆっくりと僕の方へ近寄ってくる。
「先生の話、なんだったの?」
「い、委員長には関係のないことだよ…」
流石に宇宙人だのサテラポリスだの不穏な話をするわけに行かずに言葉を濁す。もう随分と巻き込んでしまっていることもあって罪悪感に駆られる。
今までの時間では重要参考人としてサテラポリスから事情聴取をされていた。だけど今回は委員長やゴン太、キザマロたちは事件の核心に関係なしとしてサテラポリスから事情聴取されていない。
サテラポリスの話をすると機嫌悪くなるしね。
「あら、つれないわね〜。明星黒夜も呼ばれたあたり、説教かしら? でも育田先生は説教じゃないって言ってたわね」
黒夜くんと委員長ってどうしてこんなに仲が悪いんだろ。
あれ、仲が悪いわけじゃないのかな。
思い返してみれば憎まれ口を叩くことはあっても本気で喧嘩しているところは見たことがない。
むしろ、あれは…じゃれあってるようなもの?
『地球には喧嘩するほど仲が良いっていう言葉があるらしいな』
ウォーロックの言葉が心の中にストンと落ちた気がした。
君、そういう言葉どこで覚えてくるの?
「そんなことじゃ、いつまで経っても友達できないわよ。そうだ、かわいそうだから私のグループに入れてあげてもいいわよ?」
委員長がどんな人か知らない人がいれば、この言葉だけで嫌いになりそうだ。でも僕は委員長がどんな人かはある程度理解している。
この人はとことん不器用なだけだ。
黒夜くんとソリが合わないのはこれが原因なんだろう。
「ん? 僕にもブラザーいるよ?」
「!?」
委員長が固まる。そんなに僕にブラザーがいることがおかしかっただろうか。
僕には2人もブラザーがいるっていうのに…。
「あ、あなたブラザーがいるの!? さては明星黒夜ね!? なんて手回しが早い…」
「た、確かに黒夜くんだけど…」
『もう1人は女の子だよ』と言おうとして言葉を呑み込んだ。突然として勢い良くドアが開けられたからだ。その音の大きさに思わず声を呑み込んでしまった。
音とは反対に入って来た2人は酷くゆっくり、そして静かだ。
ゴン太とキザマロ。
委員長といつも一緒にいる2人。だが、どこか様子がおかしい。
『チッ、厄介なやつらが来やがった』
「…やっぱり?」
『ああ、どうやって対処するか…』
中に入って来たものの、だんまりとして動かないゴン太とキザマロに委員長が近寄って両手を腰へ当てる。あれは委員長が2人を叱る時のポーズ…いわば説教モードとクラスのみんなから呼ばれている。
「いきなり大きな音を立てるなんて、びっくりするじゃないの! ちゃんと宿題は終わったんでしょうね!?」
僕と黒夜くんが呼ばれてから20分ほどしか経っていない。
前々から出されていた宿題にプラスして今日でた宿題も取り組んでいたとするなら、いくらキザマロがいたとしてもこんなに早く終わるわけない。
「……」
「……」
「図星つかれたなにも言えないってわけ? そんなことしてる暇があったら…」
なにも気づくことなく説教を続ける委員長。そんな委員長にゴン太とキザマロは怪しく笑う。
その笑みに悪寒が走る。
「ダメだ、離れて委員長ッ!!」
直感的に僕が委員長の腕を掴んで引っ張るのとゴン太とキザマロが腕を振りかぶったのはほぼ同時だった。
委員長が立っていた場所に、ゴン太の剛腕が振るわれる。キザマロは…リーチが短いのでなんとかなったかもしれない。
「ジェミミミ…ミギャーーーッ!!」
「ミギャギャギャーーーッ!!」
まるで野生動物のように雄叫びを挙げるゴン太とキザマロの姿がほんの一瞬のうちに変わる。紫色の炎のようなものが揺らめいている。それに付随するように動く黒いモヤ。あれはウォーロックのような電波体と同じ…違う、あれは、あの黒いモヤは黒夜くんと同じ。
あれはまさか…ノイズ?
「ご、ゴン太とキザマロが怪物にっ!?」
思わず唇を噛む。
委員長を守りながら戦うなんて無理だ。ましてやロックマンの正体がバレてしまう。
こんなときに限って黒夜くんはいないし!?
よくよく席を見てみれば黒夜くんはバッグをもって放送室へ向かったらしい。そりゃ教室に帰ってこないわけだよ。
『ケッケッケ、ピンチ到来だな! 星河スバル!』
聞き覚えのある声が聞こえてビジライザーをかける。
視界に広がるウェーブロード。その端、教室の入り口付近に立つ茶色い電波体の姿。
ジャミンガー。
あいつは確かに前に倒したはず。まだデリートされていないなんて。
『そいつらは俺が作り出した電磁波人間。知能は低いが、そいつらの放つ電磁波に長時間当てられると人間でも御陀仏だぜ』
卑怯な真似を!!
『アンドロメダの鍵をこちらへ渡すのなら命だけは助けてやろう。拒むのなら、小娘ともども朽ち果てるがいい!!』
まずはここから離れることを先決に動いた方が良さそうだ。走りながらでもメッセージは送信できる。委員長の手を強く握りしめて強引に引っ張る。
後ろから驚いたような声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。
走りながら片手でメッセージを打つ。
『ゴン太とキザマロがジェミミミになっちゃった!?』
我ながらわけのわからないメッセージだと思うけどきっと黒夜くんならわかってくれる。なにからなにまで知ってる黒夜くんのことだ。きっとこれだけでも伝わるだろう。
今はとにかく、学校の外へ!!
幸運なことにエレベーターに電波障害はなかったようで、一階へと降りることができた。だが、正面玄関に行ってみれば、そこには大量の電磁波人間の姿。
どうやらジャミンガーは僕たちを逃す気はないらしい。
「これからどうするの?」
「これは一旦戻って別の道を探すしかなさそうだ」
「あ、あなた真面目に言ってるの!? 上の階だってあいつらでいっぱいだったじゃない!?」
「だからって立ち止まるわけにはいかないよ。あれだけの数が正面玄関にいるんだ。ここよりは上の方が安全だよ」
委員長の声に耳を傾けずに無理矢理手を引っ張って安全な場所を探す。安全な場所なんてどこにもないと思うけれど…。
そのまま教室の中へ入り、電磁波人間がいないことを確認すると鍵をかける。
相手は電波体じゃない。
すり抜けてくることはできないだろう。
「こんな時に一緒にいるのがロックマン様だったら…」
ごめんね、ロックマンは目の前にいるんだ。
でも、ちゃんと君のことは守ってみせるから。
スターフォースを覚醒させたときの気持ちをもう一度思い返す。委員長やみんながいなかったら今の僕はない。あのとき、ジャミンガーに握りつぶされて終わっていた。
「なによ。ほんとになんなのよこれ。こんなんじゃ、遅かれ早かれ捕まっちゃうわ」
『そいつの言う通り、ジャミンガーをぶっ倒す必要があるぜ』
それしか方法はないみたいだね。
この教室なら鍵をかければ安全だろう。たとえ教室から出たところを見られたとしても、知能が低いあいつらは飛び出した僕を追うに違いない。
「委員長、僕がこの部屋を出たら鍵を閉めるんだ」
「ッ!? そんなことしたらあなた!?」
「僕がなんとかしてみるよ。委員長はしばらくの間、ここに隠れていて欲しいんだ」
「あなた1人なんて無理よ!?」
「どんな状況でも可能性があるなら行動を起こせ。父さんがよく言ってたんだ。だから、僕は行くよ。待ってて委員長」
「あ、ちょっと、待ちなさ…どうなっても知らないわよ!!」
扉を開いて飛び出した僕を待っていたのはこちら側へ巡回していた電磁波人間。
「鍵を閉めて。大丈夫、君は絶対…守るから」
少し間が空いて、後ろのドアからロックされた音を聞いたのと同時に走り出す。
場所は覚えている。
5-A組の教室のウェーブロード。ブラックボードとスピーカーがよく見える場所に立っていたはずだ。
先を急ぐ僕に追随するように黒い影が僕に迫る。
「スバル」
「黒夜くん!」
その正体はブラックエースに電波変換した黒夜くん。いつものごとく赤黒い光をウィングユニットから放出している。
「なんだあの意味不明なメッセージは。というかあれだけ文字打てるなら普通に打てたべ」
「あ、あはは…」
呆れているのか怒っているのか、目を細めてこちらを見る黒夜くん。そんな黒夜くんから視線を外して乾いた笑いをこぼす。
今思い返してみればその通りだ。
若干パニックを起こしていたせいでまともに文章が打てなかったと思いたい。
なにはともあれ、ジャミンガーを倒さなければ。