流星のファイナライズ 作:ブラック
気がつくと目の前に響ミソラがいた。
別に気が触れたわけでもなんでもない。若干現実逃避になりかけているのは目の前のミソラちゃんが可愛すぎるからに違いない。そうに違いない。
「お願い、私を匿って!」
サングラスをかけて変装しているものの、間違いなくミソラちゃんである。というかバレバレである。
変装なにそれほんとにしてる?
これに騙されるのはゴン太とキザマロくらいなものであろう。
「えっと…?」
話の内容が見えてこない俺は戸惑いはしたものの、直感が助けろと言うので勝手ではあるが店の奥へミソラちゃんを連れて行く。奥の事務室では田中さんが作業を行っていたが、事情を適当に捏造し、ミソラちゃんを匿うことに成功する。因みに、接客業は他の店員さんがやっているので田中さんがいなくても問題はない。
田中さんは5年前から随分と出世したとみた。
事務室のさらに奥にある休憩室に着くとミソラちゃんは大きく溜め息を吐くと安心したように椅子に座る。その動作を横で見ていた俺にはなんとなくミソラちゃんに溜まったストレスを感じることができた。
とりあえず、ミソラちゃん可愛い。
「それで? そんな変装までしてどうしたの響ミソラさん」
「!?」
机に突っ伏した顔を瞬時にあげ、『なぜバレた!?』とでも言いそうな表情で俺を見つめるミソラちゃんに思わず苦笑する。どうやらあの残念な変装でバレていないと思っていたようだ。
だからそれはゴン太とキザマry。
「バレバレでしたけど…」
「こ、この私の変装見破るとはた、只者ではないね!?」
開き直った!?
「で、どうしたんです? ストーカーですか?」
「あー、違うというか…んーでも当たらずとも遠からず…かな?」
やはりマネージャーさんとの衝突だろう。原作通りであればミソラちゃんの母親は今から1年前に他界している。心の奥底は消耗しきっていて歌を歌う余裕なんてないはずだ。
だがその反面、
「
「うん、私
若干ニュアンスが異なっているものの、大凡の予測は正解なはずである。
だがひとつ言わせておくれミソラさんや、そのニュアンスものすごく犯罪臭がするんだけど…。確かにストーカーは犯罪だけどね。
「警察には相談した?」
「うん、しようとは思ってるんだけどその人狡猾だから…」
お金に目がない人でしたねあの人…。
ミソラちゃんが逃げてることも『契約違反だ』なんて言って逆に反論してくること間違いなしだ。それにしたって私生活にまで手を出されたらプライベートなんてあったもんじゃないな。
今はともかく俺にできることはなにもない。してあげれそうなことといえば話し相手になってあげるくらいか。俺としてもミソラちゃんとブラ…話し相手になれるなら願ってもないことである。
「そっか、良ければ相談に乗りますよ?」
「ありがと。でもここまで助けてくれただけで十分だよ」
「乗りかかった船ってやつですよ。できる限りのことはします。それに響さんの助けになれたら嬉しいですし」
「…ミソラでいいよ。本当にありがとう。私は大丈夫だから」
ミソラちゃんは時間を確認すると休憩室から出ていく。俺もミソラちゃんに着いて行く。ミソラちゃんは田中さんに礼儀正しくお礼を言うと再びサングラスをかけて店の外へと出ていく。
「またね、ほんとにありがとう」
「?? あ、こちらこそ?」
戸惑ったのは『ありがとう』の言葉ではなく、『またね』の言葉。
こちらとしてはまた会う気まんまんだったのだが、まさか向こうから言われるとは思わなかった。
「ふふ、ほんとに感謝してるんだよ?」
「まあ、あれです。誰かの助けを求めることも忘れないでくださいね。一応、俺のアドレスです」
もちろん、自分のアドレスを教えておくことも忘れない。PCのメールアドレスだ。一応、下の方に申し訳なさげにトランサーへの連絡先も記しておく。
セキュリティって大事だしね!
助けを求めればそれでよし、助けを求めなければ致し方なし。さっきも言ったが、俺にできることなんてほとんどないけどね。
心の支えみたいものがあるのとないのでは大きな差があるだろう。
いつかその日を信じて待つとしよう。
ミソラちゃんはそのままショッピングモールの人混みの中へと入って行った。『その変装、まだいけると思ってるんだ』と内心思った俺は悪くない。
「黒夜くん!さっきのあの子、ミソラちゃんだよね!?」
因みに田中さんにはバレバレだった。
▼ ▼ ▼
時刻は19時30過ぎを回ったところ。いい加減家に帰らなければ母親に心配をかけてしまうことを思い出した俺はすぐさまコダマタウンへと帰ってきた。もちろん、電波変換はしていない。
通り道に多くなってきた仕事帰りのおじさんたちと同じように家を目指して歩く。
俺の家は公園の向かい側に建っている一軒家。
生前の父が苦労して稼いでくれた賜物だと母親は常に言っている。そんな父が亡くなったのは悲しいことだし、トラウマだ。自分はともかく、母親は相当なトラウマになっている。未だに立ち直ることはできていない。
それが理由となって、少し前に我が家の母親は星河スバルの母親…星河あかねさんとママ友になったようだ。
「ただいま」
「あら、遅かったわね。どうせ黒夜のことだからヤシブタウンに行ってたんでしょ?」
「うん、田中さんのお手伝いしてきたよ。あとは響ミソラのライブやってて見てきたんだ〜」
「…へぇ、黒夜が女の子に興味を持つなんて初めてなんじゃない?」
「いや、女の子じゃなくてライブだからね?」
確かに浮ついた話をすることなんて今まで一回もなかったけどね。それはほら、父さんが亡くなって母さんが落ち込んでいたからであってだな…。
別に、女の子に興味がないわけじゃないんだからね!
「わかってるわかってる。響ミソラちゃんといえば有名なシンガーよね。無料で観れるなんてラッキーね」
「まあ、人混みが凄すぎて声しか聞けなかったけどね」
嘘だ。
ライブどころか直接会って自分のメアドまで送りつけていることを母さんにはいえない。言ったらめちゃくちゃいじられるに決まってるからね。
「そういえば黒夜、あなたスバルくんと同じクラスになったんですってね」
「そういえば育田先生がそう言ってたよ。なんで知ってるの?」
「今日あかねさんのお宅であかねさんとお茶をしてたんだけど、そしたら育田先生がいらして少しお話したのよ」
流石育田先生、手回しがはやい。
ということは育田先生はスバルくんと少し話すことができたのだろうか。あとはルナトリオがどうなっているかの問題もある。どうせスバルくんのことだからどちらも何か言って引き篭もってしまったに違いない。
「スバルくんってどんな子なの?」
「そうね〜。あかねさんがいうには明るい子だったらしいわ。でも今は暗いわね。お父さんを亡くしているんだもの仕方ないわ。あなたもその気持ちはわかるでしょ?」
「うん」
亡くしたのではなくて行方不明だと訂正したいところではある。それは俺が理由を知ってるからだ。何も知らずに状況を聞かされれば誰でも亡くなったと思うだろう。
「そうだ。あかねさんが今度は黒夜も是非一緒にって言ってたわ」
「考えとくよ」
その前に学校に来ることになるだろうが、一度会っておいても損はない。ルナトリオはなかなか折れないからな〜。
ミソラちゃんの件を言うわけではないけれどこれがほんとのストーカーってね。
狙われたスバルくんには同情するが結果によっては感謝することに彼はなるかもしれない。
▼ ▼ ▼
ママが死んだのはちょうど一年前だった。
ママが死んでから私の生活は大きく変わった。引き篭もることも多くなった。暗闇の中でもがき苦しんでいる私。その中で見つけたママとの繋がり…それが歌だった。
思い出す。元気だったママが私の歌を褒める。調子に乗った私が踊りながら歌う。
そんな日がいつまでも続いたらよかったのにとどれほど願ったことか。
ようやく立ち直るきっかけを掴んだはずだった。だけどその日々も長くは続かなかった。優しかったマネージャーが豹変してしまったのだ。私の夢を馬鹿にしないで背中を押してくれたはずのその人は気づかない間に金の亡者となってしまった。
それからかというもの、私の音楽はマネージャーの金稼ぎの道具となってしまった。
私とママの唯一の繋がり、とても大切な思い出が、汚されていく気がした。
それでも音楽活動をしているときはまだ幸せだった。歌を歌うときには集まってくれるみんながいて、歌を作るときはママが側にいてくれるような気がしたからだ。ライブが終われば、またあのマネージャーのお金の話。
うんざりした私はとうとうライブが終わって、逃げ出した。
もともとこのショッピングモールでのライブはビジネスビジネスとうるさいあのマネージャーへの小さな抵抗だった。私にできるほんの些細な抵抗。マネージャーとはこのライブを巡り何度も衝突したが、スタッフさんからの支持もあって実現することができた。どこに行けばいいのかわからないまま私はショッピングモールの中を歩き回った。できる限り人気が少ない場所を歩き、とあるお店にたどり着いた。
カードショップ店だ。
偶然にも逃げ込んだそのお店で私はとある男の子と出会った。店員さんではないようだったけど、店員さんと仲がいいようで、頼み込むと私を匿ってくれた。
『相談にのるよ?』なんて言葉を聞いたのは久しぶりだった。どことなく不思議な雰囲気。それでいて少し大人っぽい口調をした男の子。真っ黒の髪に真っ黒の瞳。私より少し身長が高かったけど年齢的には同じくらいかもしれない。
『誰かの助けを求めることも忘れないでくださいね。一応、俺のアドレスです』
殴り書きで記されたアドレスの紙を開いてあの男の子のことを思い出す。結局あの後マネージャーに捕まってしまったけれど、暖かい人たちに出会うことができた。
私がだれかとブラザーバンドを組む日がくるかはわからない。けれど、誰かに頼ることを忘れないようにしよう。
響ミソラが音楽活動を止めることは