流星のファイナライズ   作:ブラック

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昨日の面接は圧迫でした。

毒にやられて倒れちゃう系ヒロ…イン?(活躍しないとは言ってない)

お気に入りが999件になりました!ありがとうございます!

良いことありそう。作者は少し幸せになった(ヨッシーストーリー感)


脆さ

「アッタマきちゃう!!!」

 

『感じ悪いったらありゃしないわ!!』

 

「落ち着いてミソラちゃん。ハープも」

 

スバルがミソラちゃんとハープをなだめるのを横目に見つつ、考える。なるほど、スバルとルナが一緒にいることが不自然だとは思ったが。

 

 

やっぱ今日がこの日(・・・)だったか〜。

 

色々と納得がいってしまった反面、やはりあの2人には物申したくなってしまう。

つい言ってしまったが、まさか自覚がないとは思わなかった。

 

ワーカーホリックどもが…。

 

ルナが走り去って行った方向を見る。

 

俺がルナの両親に物申したときのルナの瞳を思い出す。

 

恨んでいるような瞳だった。子どもじみた癇癪と思っていたが、FM星人に取り憑かれてしまえば狂気と化すだろう。

 

そうなる前になんとかしなければならない。

 

だが、俺が行ったところで意味がないだろう。むしろ逆効果。ますます機嫌が悪くなるに決まっている。

 

「あんな張り詰めた顔をしてる委員長…見たことない」

 

「俺たちのことは気にしないで追いかけてやれスバル。男ってのはそういうもんだ」

 

「?? うん、わかった」

 

走り去るスバルの背中を見送り、尚も考える。

 

ウォーロックは気づいているだろう。

ルナの周りに孤独の周波数が出ているはずだ。

 

俺の瞳は確かに電波や周波数を映す。だが、それでも種類までは特定できない。孤独の周波数を特定することができるのもまた、一つの能力なのだ。

 

それは孤独の周波数を好むFM星人やFM星人として(・・・・・・)順応してきた者ではないとわからない。

 

恐らく…いや、間違いなくこのジャングル展が次の戦場と化す。その前にミソラちゃんには退避してもらわなければ困る。

 

毒ヘビに噛まれたとかシャレにならないからね。

 

「さてさて、今日はとんだお出かけになりそうだ」

 

ジャングル展がもっと安全対策してくれたらこんなことにはならないと思うけど…。

 

文明が進化してもこういうの大事だよね。

 

安全第一。

 

これが俗にいうフラグだったんだろう。

 

「ッ!!」

 

ミソラちゃんの背中を思い切り押す。

 

「そのまま出口まで走れッ!!」

 

俺の気迫に押されたのか、振り向かずに出口へ向けて全力疾走するミソラちゃん。

 

先ほどまでミソラちゃんが立っていた場所に飛来してくる何か。

 

そいつらは木でできた床に『ボトッ』という嫌な音をたてながら落ちてくる。

 

今の音からして結構な数だ。

 

毒ヘビだ。

 

「黒夜くんッ!!」

 

「俺は大丈夫! ミソラちゃんはスバルと合流してこの毒ヘビをなんとかして!」

 

まずは電波空間に逃げ込もう。次にウェーブロードから外へと退避すれば問題はない。

 

『おはしも』は破りっぱなしの俺だが、ウェーブロードに行ってしまえばこっちのものだ。

 

ミソラちゃんもそのことを知っていたからなのか、一度力強く頷くとそのまま扉から外へと出て行く。

 

ジリジリと詰め寄ってくる毒ヘビたち。

ここにいるだけで10匹。

 

奥に行けば、まだまだいるだろう。

 

「中にいる人に至急連絡ニョロ! 危ないからヘビに近寄っちゃいかんニョローー!」

 

この喋り方はヘビおじさんか。

おじさんの声に気を取られた俺を見て好機と思ったのが、ヘビたちが飛びついてくるが、俺は瞬時に電波変換しウェーブロードに逃れる。

 

文字通り光速となった俺はこの空間に流れているウェーブロードを移動し、全体の状況を把握する。

 

取り残された人数は約10人。

不幸中の幸いなのは、俺たちを除いた全てのお客さんがヘビ博士のもとに集まっていたことか。

 

ヘビ博士が説明会でもしていたんだろうが、タイミングとしてはナイスだ。

 

グッジョブ、博士。

 

中でも目を引いたのが、一番奥の巨大なヘビのレプリカがある場所に捕らわれた(・・・・・)男女。

 

ルナの両親だ。

 

巻きついているのは本物のヘビだろうか。相当大きなヘビなだけあって、力は十分。

 

このままでは命が危ない。

 

俺は一瞬で移動し、ウェーブロードから地上へと降りる。

 

「ぐ、た、助け…」

 

随分と苦しそうだ。

確かにルナの気持ちもわかるが、命まで奪ってしまってはおしまいだろうに。

 

本人は手加減しているつもりなんだろう。

 

「誰かは知らないけれど、邪魔はさせないわよ」

 

「知ってるか? 人間はな、脆いんだ」

 

「?」

 

そう、たった一度の何かで命を落とすように。

 

心が脆い。

 

身体が脆い。

 

人の弱さであり、強さだ。

 

「目を覚ますんだ委員長!!」

 

そこへ走って来たスバルとミソラちゃん。

来てくれたのは良い。

 

だが、問題は装備だ。

 

「アホ! どうして生身で来た!?」

 

そんな装備でだいじょばない!!

 

「私はオヒュカス・クイーン。それが生まれ変わった私! 人形じゃない、意思を持つ人間! そのことをこの人たちに分からせてやるのよ!!」

 

「だから、それで殺したら意味がないだろうが!!」

 

「お、まえ…ルナ?」

 

「は、はなしなさ…」

 

「あなたたちはいつも私のためだとなんでもかんでも勝手に決めてしまって。私の心を傷つけて。そのくせ毎日仕事で私には見向きもしない。そんなに仕事が大事なの? ならあなたたちに私は必要ない」

 

「委員長!!」

 

「心を縛られるのは身体を締め付けられるよりも苦しいのよ!!ヘビたちよ!!」

 

オヒュカス・クイーンの声とともに、両親を締め付ける力が増して行く。

 

一度なってはいけない音が鳴ると、2人は一際大きな悲鳴を挙げ、ガクリとうな垂れた。死んではいない。防衛本能として気絶しただけだ。

 

それも時間の問題だけどね。

 

「ダメだ! そんなことしちゃいけないよ委員長!」

 

「うるさい!! あなたであろうと私の邪魔は絶対にさせない!!」

 

『チッ…完全にオヒュカスに操られてやがる』

 

もちろん、オヒュカスに操られていることもある。だが、問題なのはそれにプラスしてルナが本当に罰を与えることを望んでいることだ。

 

甘い言葉に誘われたのは事実だろう。だが、ルナは自身の意思で受け入れたのだろう。だからこそ、ルナの怒りと嘆きが表立って現れている。

 

「毒ヘビたちよ!!」

 

スバルとミソラちゃんに向かって幾多もの毒ヘビが放たれる。

 

「バカッ!!」

 

ミソラちゃんを押しのけ、スバルを庇うように立つ。同時にスプレッドガンによる散弾を放ち、ヘビを蹴散らす。

 

蹴散らしたかに見えた。

 

ガードはしたものの、数が多すぎた。腕と顔は防ぐことができた。

 

一体だけ、スプレッドガンから逃れた個体がいたのだ。

 

「そりゃそうだよな…」

 

噛まれた箇所は足元。

なるほど、確かに足元はお留守だった。

 

電波体であろうと周波数を変えてしまえば人間の身体と同じ。特に、毒に対する耐性なんてものはない。

 

確かに周波数を変えればヘビたちは俺の身体をすり抜けて行って、俺は無傷だったろう。ただ毒を負うのが、後ろにいるスバルになっただけだ。

 

さらに上から毒ヘビたちが俺たちを囲うようにして落ちてくる。

 

「黒夜くん!!」

 

「いいか、よく聞けスバル! ヘビの弱点は急激な気温の変化だ。ここの空調、なんとかしやがれ! あと、ヘビ博士を頼れ。俺が死ぬ前にヘビ博士から解毒ざ…」

 

今ここで倒れて電波変換を解くわけにはいかない。だが、そんな気持ちと裏腹に眩暈がしてきて、足元もおぼつかない。

 

即効性の毒。

 

この際、バレてもいいか!?

だって、スバルくんどうせバレるんでしょ!?

 

ここからウェーブロードに退避して外に出るのは不可能。

 

ノイズウェーブに逃げ込むことも考えたが、誰も助けに来られないため毒で死ぬ。ノイズウェーブの出口がどこにつながるかわからないのも難点の一つだ。

 

緊急状態だ。

 

「いいか、ルナ、人は、もろ…よく、覚えて…」

 

電波変換が解ける。

ルナの瞳に映るのは赤黒い羽を有した謎の男ではなく、普段見ている真っ黒野郎だろう。

 

動揺しろ。

大いに動揺しろ。

 

少しでも悔やんだのなら、それでいい。

 

「黒夜くん!」

 

ところでさっきから名前連呼してるお前ら、身バレ防止って知ってるか…。

 

まあ、いっか。

 

ミソラちゃんの叫び声を最後に、俺の視界は暗転した。

 

▼ ▼ ▼

 

「黒夜くん!!!」

 

ぐったりとうなだれる黒夜くん。

そこにはいつもの飄々とした姿はなく、額に汗を浮かべ、ピクリとも動かない。

 

黒夜くんのこんな姿は初めてだ。

 

「そんな、明星黒夜? どうして? なんで?」

 

けど、黒夜くんに動揺している今しか、逃げる隙はない。

 

「あ、あ、私、黒夜くん」

 

「ミソラちゃん!!!」

 

呆然としているミソラちゃんの手を強引に引いてその場から逃げる。オヒュカス・クイーンが動揺しているせいか、毒ヘビたちが僕たちに向かってくることはない。

 

これではっきりわかった。

 

今、全ての毒ヘビたちの指揮はオヒュカス・クイーンが執っている。

 

ミソラちゃんは呆然としたままただ手を引かれているだけ。罪悪感を覚えつつも出口に向かって駆け抜ける。

 

思い出すの黒夜くんの言葉。

 

『アホ! どうして生身で来た!?』

 

甘かった。

 

一度電波変換を解いてしまえば、人前では変身することができない。

委員長に正体をバラしたくない一心だったけれど、そんなことを言ってる場合じゃなかった。

 

結果として、黒夜くんは僕とミソラちゃんを庇い倒れてしまった。

 

『落ち着きなさい!やることがあるでしょ、解毒剤よ!!』

 

「ッ」

 

ハープの言葉にミソラちゃんの身体が震える。ハープの言うことは正しい。

 

少し前の僕ならきっとただ呆然として、自分にはできないと決めつけて逃げ出したいただろう。

 

今度は僕の番だ。

 

僕が黒夜くんに変えてもらったように、僕が委員長を返る。そして黒夜くんも助けるんだ。

 


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