流星のファイナライズ   作:ブラック

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お気に入り4桁突入です!ありがとうございます!

みんなとの出会いもいつかまとめようかな。




臨死と幻

「その子の言ったことは正しいニョロ。部屋の温度を一気に下げてしまえば、変温動物のヘビたちはみんな冬眠モードニョロ。ん? エンジニア? そういえば、中にいなかったニョロ。もしかしたらヘビが絶対に来ない場所にいるかもニョロ」

 

ヘビ博士はすでに多くの人を先導して外へと避難していた。毒ヘビたちは外にも逃げ出していたけど、流石はヘビ博士。ヘビたちを掌握して多くのお客さんを毒ヘビから守っていた。

 

その見た目とは裏腹にとても強いおじいちゃんだ。黒夜くんがいたら『見た目詐欺だっ!』とか言いそうだ。

 

「ヘビが来ない場所…」

 

「そういえば、委員長と回ったところに北極の展示があった! もしかしたら!」

 

「症状からして即効性の毒みたいニョロ。断定はできないけど、6時間…少なくとも3時間以内に解毒剤を打たなきゃいけないニョロ。行きたいのはやまやまだけどここに残ったみんなも守る必要があるニョロ」

 

「なら僕たちが行きます!」

 

当然、ヘビ博士には反対されたものの、誰かが必ず行かなきゃいけないと言い張って動き出す。確かにエレベーターは動いてないけれど問題はない。

口にして言えるではないけれど、電波変換してウェーブロードをたどっていけばヘビに遭遇することはない。

 

なにより、委員長をあのままにしておかない。

 

倒れた黒夜くんを見たときのあの顔は酷かった。そのおかげで逃げだせたわけだけど、それでも…。

 

「黒夜くんには言いたいこともあるしね!」

 

「うん、行こう!」

 

君にそんな顔は、絶対に似合わないと思うんだ。

 

▼ ▼ ▼

 

臨死というものをご存知だろうか。

 

死に臨むと書いて臨死。死に直面し、寝ているときの夢のような形で体験することだ。

 

真っ暗なトンネルの中だとか、三途の川が見えただとか著名な本で読んだことがある。

 

さて、ここで俺がいる場所を確認してみよう。

 

真っ暗だ。

いや、真っ暗というには語弊があるか。

 

暗闇の中に走る赤いライン。そしてグレーの靄。

 

ノイズ。

 

ここはノイズで満ちていた。

 

一瞬、ノイズウェーブにでも落ちたのかと思ったが、俺の姿は生身だし、記憶とも随分違うのでそれはないだろう。まあ、臨死じゃなくて本当に死んじゃった可能性も否めないけどね。

 

この世界で毒死とか笑えないんだけど…。

 

転生してからあっという間だった。生まれて、父さんと母さんと出会って、そして父さんと別れて。

 

幼少期に田中さんと出会った。

ビクビクしながらコダマ小学校に入学し、ルナトリオに出会った。

田中さんの店に逃げ込んできたミソラちゃんに出会った。

母さんとの繋がりからスバルとも出会った。

 

そういえばルナたちとの出会いは誰にも語ってなかったか。

 

『牛島ゴンタ! 好きなものは牛丼!』

 

『牛丼! 実は俺も大好きなんだ! ああ、もちろん汁だくで』

 

『わかってんじゃねえか!お前名前は?』

 

ゴンタは1年生の頃にクラスが違うものの、牛丼で仲良くなった。乱暴だった時期もあって肉体言語をする日もあったが、今となってはいい思い出だ。

 

え?

どうして体格の良いゴンタに勝てたかって?

 

…武器と地形は使いようってね。

 

『確か、明星黒夜くんでしたっけ。先生から聞きましたよ。頭いいんですね! ここ、教えてください!』

 

『いや、君の方が頭いいよね!?』

 

『あなたが、明星黒夜ね。この私、白金ルナが私のライバルとして認めてあげるわ! 光栄に思いなさい!』

 

キザマロとルナはほとんど同時期だった。ルナに至ってはほぼ初対面でライバル宣言をされた。

 

その原因は未だに謎だ。

 

一体いつから目をつけられていたのか。

 

これも今となってはいい思い出だ。

 

さて、なんだか妙に今までのことを思い出してきたが、父さんも事故の後は今の俺みたいな経験をしたのだろうか。

 

「もちろんしたさ」

 

「ッ!?」

 

懐かしい声に思わず振り返る。絶対にもう二度と聞くことはないと思っていた声だ。

 

「父…さん?」

 

振り返った先にはノイズまみれの世界の中で青く光る父さんの姿。俺が最期を見届けた。あの時の姿のまま。変わらない相で俺の前に立っていた。

 

「みんな大好き明人さんだ。まあ、そんなことは良いとして、まだこっちに来るのは早いわ。具体的には80年弱」

 

「どうして…」

 

不意に身体が持ち上げられたような感覚に陥る。だが、それは感覚ではなく事実だった。

俺の足元から一筋の光が俺を持ち上げていた。父さんが俺の頭を軽く叩く。

 

『母さんを頼んだ』

 

瞬きした時には既に父さんの姿はなかった。

 

▼ ▼ ▼

 

「もう目が覚めたニョロ!?」

 

「黒夜くんっ!!」

 

重たい瞼を懸命に持ち上げて、目を動かして周りを見る。

見知らぬ天井…ではないようだ。見覚えがある。ここはジャングル展のようだ。

 

俺たち(・・・)の上には毛布がかけられている。俺の両横にも同じように毛布をかけられた人がいることから、ここが今現在の安全地帯なのだろう。

 

ということはだ。

 

スバルはジャングル展の温度を下げることに成功し、ヘビ博士と協力してこの場所に集めたのだろう。

 

ゲーム内で放置されたミソラちゃんが助かった裏事情にはこんなことがあったからなのかもしれない。

 

「ミソラちゃん」

 

「うぅ〜…黒夜くんのバカバカバカ」

 

ポカポカと軽く叩くミソラちゃん。

 

解せぬ。

 

「解毒剤は打ったけどしばらく安静にするニョロ。力が入るようになっても走り回っちゃいけないニョロ」

 

「ありがとうございます」

 

ヘビ博士はサムズアップして力強く頷くと別の人の元へとパタパタと走って行った。

 

あれ、あの人毒ヘビに噛まれたってゲームで…。

 

ヘビ博士って!?

 

「スバルは?」

 

「オヒュカス・クイーンが逃げ込んだアナコンダロボの電脳の中だよ」

 

「そっか」

 

ここにいないということは大体予想はついていたが、やはりルナを助けに行ったようだ。

『助けに行く』と言うよりは『殴りに行く』が正しいか。

 

なんにせよ、あいつは一発殴らないと戻らないだろう。

 

頭かたいしね。

 

「とりあえず言いたいことは後で言うね。私もスバルくんの援護に行くね。黒夜くんはぜーーーったい、寝てなきゃダメなんだからねっ!!」

 

『ポロロン。お説教タイムまでそこで待ってなさい』

 

トランサーから出てきたハープがクスリと微笑む。その様子に冷や汗をかいたのは毒のせいではないだろう。

 

しかしそれはフラグというもの。もちろんわかっているとも。

 

リアクション芸人とおなじだ。

 

動くなよ!?

 

絶対にだからな!?

 

▼ ▼ ▼

 

ジャングルのように長い葉や木が生い茂った電脳。アナコンダの電脳にオヒュカス・クイーンは逃げ込んで行った。

 

「どうして、なんでそこまでするのさ」

 

毒ヘビたちを冬眠モードにしたことで物理的な攻撃オプションはオヒュカス・クイーンには残されていない。もちろん、彼女自身ができるとは思う。

 

でも、彼女はこの電脳へ逃げることを選択した。

自分の両親も一緒に。

 

もう大勢の人たちをいっぺんに襲うことはできない。黒夜くんはミソラちゃんが見ていてくれてるし、怪我をしたみんなもヘビ博士が解毒剤を注射してくれた。

 

そこまでして、君はご両親を…。

 

『ケッ。そんなことは本人に問いただすんだな。まずはこの気味の悪い電脳を突破するぞ』

 

「この先に委員長…オヒュカス・クイーンがいるんだね」

 

『そうだ。現実世界では冬眠モードに入ったが、電脳世界ではそうはいかねぇ。気を引き締めて行くぞ』

 

「うん」

 

ウォーロックの言う通り、現実世界では冬眠モードに入った毒ヘビだけれど、電脳世界では関係ない。毒ヘビは健在のようだ。その証拠に、ロックされたセキュリティーウォールの前にはデンパくんが倒れている。

 

「大丈夫!?」

 

『トビラヲヒラクニハ、ワタシノカラダガナオラナイト…』

 

「わかった! 解毒剤を探せばいいんだね!」

 

『ハイ、カナラズアリマスカラ…ウゥ…』

 

スターフォースを使い、アイスペガサスに変身すると宙に浮かんで全体を確認する。セキュリティウォールがそびえ立っているせいで先へは進めないけれど、セキュリティウォールまでの全体図は把握できる。

 

確かに毒ヘビたちがウヨウヨといるけれど、アイスペガサスの僕には相性が良い。

 

毒ヘビとは言うけれど、やはりウィルス。見た目は団子をくっつけてヘビの形にしたような…。

 

まあいいさ。

 

そして思い出す。

とあるゲームで黒夜くんから教わった裏技を。

 

「っ!! そうだ。わかったよ、黒夜くん、こういうことだね!」

 

ウォーロックの口に集まって行くのは氷の礫。周りの大気を氷に変えるようにして集まっていく礫はやがて一番近くにいる毒ヘビへとぶつかっていく。

 

上空に対する防御方法がない毒ヘビたちはみるみるうちに氷の塊へと変化する。

 

「よし!」

 

『おい、これじゃジリ貧だぜ。どうせ氷は…』

 

「え? 僕たちが通る時に安全なら大丈夫!」

 

ウォーロックの言う通り、さすがにこの温度じゃすぐに溶けるだろうけど、ぶっちゃけ僕が通る時に凍っていてくれれば問題はない。解ければまた動き始めるだろうけど、セキュリティウォールを解除したらデンパくんには避難して貰えばいいしね。

 

「前にゲームで遊んだ時、黒夜くんが言ってた!『真っ向から攻めるな、アンチを探せ、安全地帯から遠距離射撃だ』って!」

 

『……』

 

もちろん、一人用のゲームだからね?

 

あっという間に毒ヘビを凍結させた僕は急いで解毒剤のコードを入手する。空を飛べることがこれほど楽だと思ったことはない。

 

あっという間にやる事を遂げた僕は倒れたデンパくんに向かって解毒剤のコードを使用する。

 

『…ン?』

 

「ん?」

 

『オ、オ、オ、オオオオオオオ!キタキタキター!ワタシ、カンゼンフッカツデス!!』

 

突然飛び跳ねたように起き上がったデンパくん。勢い良く辺りを浮遊した後、思い出したように僕の前へと戻ってくる。

 

正直、こんなキャラだとは思っていなかったよ…。

 

「よ、よかったよ」

 

なにはともあれ、これでセキュリティウォールを解除してくれる。

 

『デハ…ムン!!』

 

「ありがとう。解毒したとはいえ、この電脳は危険だから外のウェーブロードに避難した方がいいよ」

 

デンパくんにそう言い残して先を急ぐ。後ろから『ヤブカラシカデナイノデ、ダイジョウブデス〜!』という声が聞こえたので振り返ってみると電脳の入り口あたりで待機しているデンパくんの姿が見える。

 

なるほど、毒ヘビはヤブがあるところ…木が生い茂っているオブジェクトからじゃないと出ないんだね。

 

これはいい情報をもらった。

 


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