流星のファイナライズ 作:ブラック
少し空くと思いますが、気長にお待ちください。
地面を揺らす大きな地響き。単なる地震なんかじゃない。だってここは、電脳世界の中だから。
このことが示しているのは…。
『まずいぜ、スバル! ここの電脳が崩壊するのも時間の問題だ。早いとこズラかったほうがいいんじゃねえか!?』
この電脳世界そのものが、消滅することを意味している。
電脳世界の消滅はその世界にあるものの強制退去。故に、絶対に巻き込まれないようにと以前ウォーロックが口を酸っぱくしていた。
黒夜くんとミソラちゃんにこのことを伝えようと辺りを見回すが、すでに2人の姿はない。
ついでというわけではないけれど、委員長の両親の姿も見当たらない。
『あの野郎ならとっくに俺たちを置いて先行きやがったぜ!お前が良い雰囲気なんか作ってるからだ!』
「そ、そんな!」
「ロックマン様…私、これからどうすればいいの!?」
委員長が僕の身体をしっかりと掴む。
『スバル!!』
ウォーロックの声が大きくなったのは小さな声では声が届かないからだ。すでに電脳世界の崩壊は修復不可能なところまで来ていたようで、眩い光が電脳世界を包み込んでいく。
当然、僕の視界も白く染められていく。
あまりにの眩しさに瞳を閉じる。
僕の身体にしがみついていた委員長の腕の力も一際強さが増す。一瞬の光が収まり身体を包んでいた力が消える。この感覚が消えたということは、僕の姿はもう電波体ではない。
ロックマンではなく、星河スバルという生身の人間。
「ロックマ…スバル…くん?」
「い、委員長…」
「嘘…そんな…あなた、だって…」
信じられないものを見たかなように目を見開く委員長。強く力を入れていた腕から力が抜ける。
だけどそれでも、委員長の腕は僕から離れていない。少し身長が小さいせいか、委員長が見上げるようにして僕を見つめる。
「え…?」
その言葉を発したのは、誰だったか。ウォーロックではない。もちろん僕でもない。しがみついている委員長でもない。
「…お邪魔しました」
黒いパーカーに身を包んだ黒夜くんが、紳士に一礼して脱兎の如く走り去って行った。
▼ ▼ ▼
「どうしよう、ミソラちゃん。スバルが大人の階段登ってた」
「え?」
ルナの両親が救急車で病院に運ばれる姿を見送りながら、ポツリとミソラちゃんに語りかける。
もともと、あの場所に行ったのはルナに両親の無事を伝えるために行ったのであって…断じてロマンティックブレイクをするつもりじゃなかった。
やってしまったとは思っている。
申し訳ない。
まさか、そんな急展開になっているとは思わなかった。
「…いや、だけどそんな展開になるはずだったっけ?正体がバレて…?」
ロックマンの正体がスバルだとルナにバレて、それからどうなるんだったか。
「よくわからないけど、黒夜くん」
思考の海を漂っていた俺の頬に突然冷たい手が添えられる。いや、掴まれた。がっしりと両頬を抑えられ、そのままミソラちゃんの顔の方へと無理矢理向けられる。
『ポロロン、お説教タイム』
「だよ、黒夜くん」
この世界に、神はいない。
▼ ▼ ▼
コダマタウンから離れた総合病院。パパとママは入院することになった。
面会を求められたのが昨日の夜。
正直なところ、怖かった。パパとママに酷いことをしてしまった。入院する原因を作った私を恨んでいるに違いない。
そう思っていた。
『ママたち夢を見ていたわ。ルナが泣いている夢…もっと私を見てって』
ママはあの事件のことを夢と言った。
あの痛みは現実でだからこそ病院へ入院までしているというのに。
『夢の中のルナに本心を聞かされてショックを受けたよ。生き方を縛られることは、身体を縛られるよりも苦しいことだと。私たちは今までお前を見えない鎖で縛っていたのかもしれない。すまなかった』
たった一言。この言葉だけで、私は救われた。
『転校の話も、白紙にもどしましょう。許してくれとは言わないわ。一から話し合いましょう』
『どうか、今更と思うかもしれないが聞かせてほしい。ルナがどう思っていて、どう生きていきたいのか』
『パパ…ママ…ごめんなさい』
あのとき、思わず涙がこぼれた。私の今までの頑張りに、意味があったのだとわかった。
人形だった私はようやく、この2人の子どもとして成長することができたのだと。
その後、パパとママが退院してから今回のイベントでの一件について謝罪が行われた。無論、安全面の根幹に関わる部分で配慮が足りなかったとしてだ。
ヘビ博士の助力もあり、なんとかこの一件は収束した。それでも被害にあった方への謝罪と補助をこれから行って行くと話していた。
「そっか。でも委員長の両親が無事で良かったよ」
目の前の男の子…スバルくんは事情を説明するや直ぐに満面の笑みを浮かべた。なぜか心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、言うべき言葉を頭の中で探す。
いつも当たり前にしているそんな動作すら、たどたどしくなってしまう。
「ええ。そ、その…助けてくれて、あ、ありがと。き、今日だけじゃないわ!! 暴走したトラックの時も、天地研究所のときも、いつもいつもあなたに助けてもらってたのね」
あの学校での事件のときの言葉は嘘じゃなかった。
私は、
そして、パパやママも。
「僕だけの力じゃないよ」
「…明星黒夜」
スバルくんの言葉に苦笑いしながら忌々しいライバルの姿はを想像する。
常に私よりも先を歩く姿。
小癪なことに私たちは彼にも助けられていたらしい。お礼を言いたい気持ちもあるが、からかわれるに決まっている。
『ツンツンが…デレた…だと』
どうせこんな感じに決まってる。
スバルくんのおまけ程度にお礼を言っておこう。
苦笑いして頷くスバルくんを見て、大きく息を吐く。
「本当に信じられないわ。あなたがロックマンで、バカ星が赤くて黒い奴だったなんて」
この場に呼びつけたかったのだけれど、当の本人は現在
憎まれ口を叩かれそうだ。
そしてからかわれてイラっとしそうだ。
「僕も初めて知ったときはびっくりしたよ。敵なのか味方なのかもわからなかったしね」
「あいつらしいわね」
『敵なのか味方なのかわからない』。明星黒夜という人間を的確に表すとすれば、多くの人が同じようなことを言うだろう。
私にも経験がある。
私の意見や行動を支持したかと思えば、別の面で邪魔してくる。
明星黒夜というのはそういう人間だ。
だからこそ、私のライバルなのだけれど…。
「それで、なってくれるんでしょうね?」
「なるって…なにに?」
「私のブラザーによ! あなた、私の気持ち全部知ってるんでしょ!? 乙女の秘密を知ったのだから、責任とりなさいよね!」
「わ、わかったよ。僕の秘密も知られちゃったことだしね」
半ば強引ではあったけれどスバルくんとブラザーバンドを結ぶ。正直なところ、こうでもしないとスバルくんは私とブラザーバンドを結んでくれないだろう。
そしてもう一つ気になることが…。
「…明星黒夜ってあの響ミソラって子と付き合ってるの?」
突然の質問に目を何度か瞬きさせたスバルだった。
『あのお方はブラザーバンドを憎んでいる。だから壊す! わかりやすいだろ?』
『こんなもんで驚くんじゃないぞ。今に見てろ、この世界を覆っている欺瞞を暴いてやる。ブラザーバンドをな。覚えておけ、俺の名は…ヒカルだ』
「イッタイナニモノナンダー」
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