流星のファイナライズ   作:ブラック

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どうもお久しぶりです。

今回からツ…ヒカルくん編に入っていきます。

あと少しだけ黒夜くんについても。


FM編 9 ジェミニ・スパーク
ジャミンガー再び


人体から鳴ってはいけない音が薄暗い路地裏で響く。そこにいるのは大柄の男と少年。

大柄の男が少年に向かって拳を振り上げる。だが、それよりも早く少年の拳が男のみぞおちへと入る。

 

おかしなことに、先ほどから一方的にやられているのは、少年ではなく大柄の男だった。

 

男は苦悶の表情を浮かべ、考える。

 

おかしい…と。

 

圧倒的な体格差。少年の年齢から考えて自分よりも筋力が強いはずもない。

 

ならばこの状況はなんだ。

 

バケモノ。

 

不吉な単語が脳裏をよぎる。

 

少年はうずくまりながら許しを請う男の頭を踏みつけ怪しく笑みを浮かべる。

 

男はさらに震えあがる。

 

ゆっくりと頭をあげて少年の顔を見ようとしたそのとき、男の意識は途絶えた。

 

▼ ▼ ▼

 

「あー、ひーまーだー」

 

なにもない部屋で俺は1人愚痴をこぼす。無機質な白い壁、白い天井。部屋にあるのはベッドだけで、周りには窓すらない。

 

総合病院の地下2階に存在するこの病室は、俺のような電波障害児のために作られたものだ。

 

もとい、他の患者を守るため(・・・・)作られた。

 

特に俺の場合は身体の中のノイズが関係してくる。

 

母さんが誰かに話したかは知らないが、俺の生まれは極めて異質だった。

 

医師からは『奇跡』とまで言われたらしい。

 

難産とか流産とか、そういう理由ではない。未熟児だったわけでもない。

 

母さんが生き残ったこと(・・・・・・・)こそが奇跡だった。

 

俺が体内にいたせいでノイズが医療機器のほとんどをおかしくしたらしい。しかも、母さんの痛みや苦しみに呼応するようにノイズ率が上がっていったらしい。

 

おかげで更に具合が悪化し、ノイズ率も上がるという負のスパイラル。

 

母さんの体力がなくなる前になんとか俺を出産。瀕死の母と比べて元気一杯に生まれてきた俺、ものすごく申し訳ない。

 

普通の病室に入院できないのは、俺から発せられているノイズが精密機械に影響を及ぼさないようにするため。なんでも、医療機器はほんの僅かなノイズでも影響がでる恐れがあるらしい。

 

こればっかりは仕方ない。

むしろ申し訳ない。

 

大きなため息を吐くのと同時に、たった一つしかない扉がスライドし、女の子が中に入ってくる。

 

「こうなったのも全部、黒夜くんが無理したからでしょ〜」

 

ジト目で睨んでくるミソラちゃんが両手で持ってきたお皿の上には、綺麗にカットされた林檎。

 

「だからそれはフリ…」

 

「ん?」

 

「なんでもありませんでした、はい」

 

「よろしい」

 

得意げな表情のミソラちゃんを横目で見て思う。

 

解せぬ。

 

検査入院とは言ったものの、結局動いたせいで解毒しきらなかったことで俺は数日入院することになった。

 

退院は明日の午前中。

 

スバルとルナからは呆れた視線を向けられ、ミソラちゃんからはお叱りの言葉を頂戴したのはいい思い出だ。

 

我が母に至っては号泣する始末。

改めて、自分が大切にされていることを実感した。

 

心配かけてごめんなさい。

 

だが、無茶をするなと言われてもしないわけにはいかない。なにせこれからが危険なのだ。地球の危機が本格的に迫ってきている。

 

今だってどうせジェミニがなんかしてるんだろうさ。

 

あれだ、みんな怒らせるやつ。

 

それにだ。

巻き込まれ体質な俺は事件に巻き込まれていくだろう。

 

え?

巻き込まれじゃなくて、巻きこみ体質?

 

否。断じて否。

 

「そういえばスバルくん、あのときの女の子とブラザーバンドを結んだみたいだよ」

 

「あ〜、ルナね。そっかそっか、それは良かった。新たな恋が始まる予感だね。いや、始まってるのか…?」

 

思い出すのはスバルとルナが見つめあって固まっていたあの現場。後々お見舞いに来た2人が勘違いだと言うことを懇切丁寧に説明してくれたが、まんざらじゃないご様子だった。

 

『やだ2人とも、その気じゃないですか〜』とからかったら頭叩かれた。

 

これも解せぬ。

 

どうせ今頃、緊張しながら話でもしているに違いない。そして鈍感スバルくんが気づかないだけさ。

 

「あとねあとね! ドリームアイランドっていうところ…」

 

ドリームアイランド…おっかしいな、聞いたことある気が…。

 

まあ、そんなことは忘れて、今はミソラちゃんとたあいもない話を楽しむとしよう。

 

そしてミソラちゃんが家に帰れば…。

 

▼ ▼ ▼

 

不吉な予感がしてすぐさま電波変換をし、ウェーブロードを駆け抜ける。

 

『星河スバル、お前がロックマンだということはわかっている。面白いものを見せてやる。ヤシブタウンに来い』

 

脅迫めいたメールをもらって向かった先はヤシブタウン。つい先日、事件が起きたばかりということもあって、ヤシブタウンの一部は封鎖。

 

人通りも少なくなっている。それでもコダマタウンより圧倒的に人は多い。

 

「あんた、ムカつくのよ!」

 

「私だって!!」

 

「なんじゃと!!」

 

「キー! このヨボヨボジジイ!」

 

そんな場所で、人々は喧嘩をしていた。

 

それも1グループじゃない。いくつも、様々な場所で喧嘩が勃発しているようだった。

喧嘩をしている本人たちをよく見てみると、妙なマークが付いていることに気づく。

 

喧嘩をしていない人たちには付いていないマーク。確実に電波のなにかだ。

 

「妙な電気を浴びてる…+?」

 

『なるほど、+と+、−と−の奴らが反発して喧嘩を起こしているようだぜ』

 

「つまり、人間同士を反発させてるってこと?」

 

+と+、−と−が反発することは理科の授業ですでに習った。ということは、+と−同士が出会ったら仲良くなるってことなのかな?

 

『キリがねえな。解決しながら原因をつくってるやつを探すぞ。予想通りなら、ジェミニ関係だ』

 

ウォーロックの言葉に頷くと、+と+で反発し合っていた大男たちの電気を取り除く。やり方は簡単だ。トランサーの中に入るときのように近づいて電気そのものを取り除く。

 

僕にチクリと電気が走るけど、冬場の静電気程度のもの。大した問題じゃない。そのまま電気を取り除き、再びウェーブロードに戻る。だが、いくら取り除いても別の人が喧嘩を始める。

 

やっぱり原因を止めないといけないみたいだけど、手が届く範囲で喧嘩を止めていく。

 

「見るからに怪しいやつ」

 

『キヒヒヒヒ…来たなロックマン』

 

そうしてたどり着いた先に待っていたのは、ジャミンガー。

 

「その妙な+−はお前の能力か?」

 

『これはあるお方からお借りした力。この力を使いブラザーの関係をぶち壊す。それが俺に与えられた司令だ』

 

つまり、さっきから喧嘩している人々はもともと、ブラザー。仲が良いブラザーだったようだ。

 

これを聞いたら黒夜くんはなんて言うだろうか。

 

『御丁寧に全部説明してくれてありがとう。それじゃあね』なんて言ってジャミンガーを瞬殺する気がする。

 

『あのお方はブラザーバンドを憎んでいる。だから壊す! わかりやすいだろ?』

 

ブラザーバンドを憎んでいる?

 

言葉の意味を理解しようとしたとき、ジャミンガーのすぐ後ろに影が現れた。

その影は突然赤黒い剣を振りかざし、ジャミンガーの胸部分に突き刺した。

 

『ギャァァァァッ!?』

 

意表をついた、完全な暗殺。

 

「御丁寧に全部説明してくれてありがとう。ぼっちは帰ってどうぞ」

 

「黒夜くん!?」

 

紅い翼を広げたブラックエース。

入院しているはずの黒夜くんが、予想通りのセリフでそこにいた。

 

小規模な爆発を繰り返しやがて完全に消滅したジャミンガー。主人を失ったことで+と−の電気たちも行き場を失い自然に消滅していく。

 

「あら?」

 

「なんかすごい怒ってた気がするんだけど…」

 

「…?」

 

「ばあさん、何をそんなに怒っておるのかの?」

 

それはすでにばら撒かれたものも同じだ。電気が取れたことでみんなが元に戻るけど、記憶が曖昧なようだ。

 

「これで一件落着…なんだけど、抜け出して来たの?」

 

「ミソラちゃんが帰ったところを見計らってな」

 

ドヤ顔でサムズアップする黒夜くん。今までで何度めかわからないため息を吐くとジト目で黒夜くんを睨む。

 

検査入院ということだし、もう数日経っていることもある。体調は万全なんだろう。

 

だけど抜け出すのは良くないのでは?

 

あとでミソラちゃんに連絡を入れておこう。

 

「それにしても…ジェミニはぼっち。はっきりわかんだね」

 

「さっきもロックが言ってたけどジェミニって」

 

「オヒュカス・クイーンにアンチから遠距離射撃したふたご座のFM星人だよ」

 

責めるように言う黒夜くん。しかし、その作戦を何度も実行して来ているのは黒夜くんも同じ。

 

思わず苦笑いをする。

 

そんなとき、僕のトランサーに突然着信が入る。番号はわからない。

 

『どうだ、楽しめたか? ブラザー同士の喧嘩は?』

 

声の主に思わず息を呑む。先ほどと同じ声。僕に脅迫めいた電話をしてきた相手に違いなかった。

その声音はとても楽しそう。だがしかし、憎悪するような低い声にも聞こえた。

 

尚もその声で相手は話す。

 

『こんなもんで驚くんじゃないぞ。今に見てろ、この世界を覆っている欺瞞を暴いてやる。ブラザーバンドをな。覚えておけ、俺の名は…ヒカルだ』

 

「き、切れた…」

 

嵐のように言いたいことだけ言ってぶちぎりしたヒカルと名乗る男。

 

「イッタイナニモノナンダー」

 

「……」

 

『……』

 

そうだ。その通りだ。一体何者なのか。全ての焦点はそのことだけに当てられる。

 

全く正体不明の犯人。

 

だけど一つだけわかったことがある。

 

「ねぇ、黒夜くん」

 

『テメェ…知ってるな?』

 

黒夜くんが犯人を知っているということだ。

 

▼ ▼ ▼

 

ミソラちゃんが病室から出ていったことで晴れて自由の身となった俺。

何やら妙な電波が見えたのでいざやってきてみれば、そこには怒り狂った人々とスバルにジャミンガー。内心で『やっぱり…』とは思っていたものの、いざ目の当たりにすると嫌なものだ。

 

ちょうど流暢にジャミンガーが語っていたところを暗殺してやったのは、イラっときたからだ。無論、後悔はない。吐かせるべきことは勝手に吐いてくれたのだから悔やむことはない。

 

素体となっていたのが人間かどうかはわからないが、命に関わりはしないだろう。

 

スバルの質問攻めを背中に聞きながら歩く。

 

だが、俺はとある人物が待ち構えているかのように立っているのを見て、立ち止まる。

 

「あれ、スバルくんに黒夜くん?」

 

「あれ…ツカサくん?」

 

「……」

 

疑問に疑問で返すスバルにツッコミたくなるのを我慢して無言でツカサを見つめる。

 

「買い物かい?」

 

何事もなかったかのように振る舞うツカサ。果たして演技なのか、そうではないのか。

 

なんにしても、スバルにヒカルの正体を聞かれてすぐに答えなかった理由はここだ。下手にヒカルの正体を教えてツカサに対して警戒を抱いて欲しくなかった。

 

「えっと、まぁ、そんなとこ?」

 

「俺を見て言うな」

 

「相変わらず仲がいいんだね」

 

「それで、ツカサは?」

 

「少し用事があってね。立ち話もなんだから、そこのカフェで話でもしていかないかい?」

 

まるで熟練した主婦のような立ち回り。実に巧妙である。ツカサが指差した先にあるのは、最近導入されたマテリアルウェーブの実験体を用いて作られたカフェ。

 

椅子やテーブル、置物の花などがリアルに再現されている。なによりも実体を持った電波として活用されているのがネックか。

 

普段は激混みのこのカフェだが、先ほどまで喧嘩していたせいで並んでいる人はいない。カップルや夫婦が並んでいたのだろう。喧嘩してそのままどこかへ行ったらし…え、ヒカルくんこれが狙いですか?

 

「お前…それはダメだろう…」

 

「ダ、ダメかな?」

 

上目遣いのツカサ。

 

知っているとも、少なくとも今の(・・)君に、害はないって…。

 


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