流星のファイナライズ   作:ブラック

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だいぶ早くあげられました。

まとまった時間って大事ですね。

次回は結構遅くなると思います…。


ジェミニ

目が覚めたのは真上にあったはずの太陽が大分傾いた頃だった。人をダメにするクッションとはよく言ったもので、私は長い間眠ってしまっていたらしい。

 

まだ起きたくないと反抗する身体に言うことを聞かせて起き上がり、大きく伸びをする。

 

思い返してみれば、最近は暇があれば『お見舞い』と称して黒夜くんに会いに行っていた。だからだろうか、自分の時間というのは久しぶりな感じがする。

 

「まあ、お母さんから頼まれちゃったし…」

 

もちろん、無理に頼まれたわけではない。むしろ、その件については私自身も同意したい内容だったわけであって…。

 

『どうせ黒夜はなにか企むだろうから、いるときだけでいいからガンつけといてやって!』

 

黒夜くんのお母さんの言葉を思い出して口元を緩める。

『この親あって息子あり』とはまさに明星家のことを言うのではないだろうか。

 

こういうこともあって、黒夜くんへ会いに行くのに罪悪感は幾分か減った。

 

机の上に置かれていたトランサーが反応しているのを見つけた私は椅子に座ってトランサーを操作する。どうやら着信があったようだ。

 

「あれ? 黒夜くんのお母さん?」

 

どうやら黒夜くんのお母さんから電話が来ていたようだ。

 

…寝ていましたなんて恥ずかしくて言えない。

 

電話に出なかったからだろう。黒夜くんのお母さんからメールも届いているようだった。

 

電話に出ることができなかった謝罪の言葉を考えながらメールを開く。

 

「なになに…『ミソラちゃん。黒夜が病院から抜け出しました。いつの間にか、もぬけの殻になっていたそうなんだけど、何か知らないかな?』……」

 

まずは大きく息を吐き出す。こんな時はそう、鏡に向かってスマイルを浮かべる。

 

にっこりスマイル。

笑顔が一番。

 

「まずはお母さんに電話。それから黒夜くんに連絡を入れないと」

 

冷静に考えて、黒夜くんの病室から誰にも見つからず病室から出るなんてことは不可能だ。病室から電波変換で逃げ出すのも不可能。

 

ということは、病室から出て電波が通っているところで電波変換して逃げたと考えるのが妥当かな。

 

「あ、もしもし先ほどは出れなくてごめんなさい! はい、別段なにも…あ、でもすぐに見つけて…」

 

『ポロロン。ほんと、懲りない男なのね、あなた』

 

メールを見てから終始スマイルしか浮かべていないミソラをよそに、ハープはポツリと呟いた。

 

▼ ▼ ▼

 

そんなことがあって、電話がかかってきたらしい。

 

なるほど、ドリームアイランドの言葉はミソラちゃんから聞いたんだったか。なにはともあれ、長居をし続けてしまったのが仇となった。やってしまったと思っているし、後悔もしている。無論、母さんからのスーパーナックルは甘んじて受けよう。

 

ミソラちゃんからのショックノートは受けないけどね…!!

 

「とにかく、早く病院に戻りなさい!!」

 

有無を言わさない剣幕の声音が聞こえてくるが、あいにく、直面している現実は非情である。どこからもなく甲高いサイレンほ音と地面と何かが擦れる音が聞こえてくる。

 

音の大きさから、巨大な何かではなく、複数の個体から発せられるものだろう。

 

『フホウトウキ、ハッケン!』

 

『ショブンシマス!』

 

『フホウトウキ、タダチニ、ショブン!』

 

サイレンを鳴らしながら殺到してきたのは複数体の分別ロボ。遠くからもまだまだ音が聞こえる辺り、随分な数のお掃除ロボットがこちらへ押し寄せてきているようだ。

 

「く、黒夜くん!!」

 

『…スバルくん? スバルくんもそこにいるの? また私に内緒で事件に関わってる気配がする!!』

 

「話をしている暇はなさそうだな〜。じゃ、また後で!」

 

『あ、こら、話は終わってなーー』

 

こうして電話をぶち切りしたことによって、ミソラちゃんからのショックノート…いや、マシンガンストリングをおみまいされることは確定した。

 

勝っても負けても福はないらしい。

 

「とにかく、ウェーブホールを探せスバル!」

 

スバルにウェーブホールの方向を指差し、電波変換を行う。

ここら周辺のノイズ一体を吸い上げ、赤黒いノイズがいっきに俺を包み込む。ゴミ処理場というだけあって、意外とノイズが多かったようで結構な量のノイズが俺の力へと変換されていく。

 

それでもこれがゲームだったならばノイズ率は100%くらいだっただろう。

 

「う、うん! 黒夜くんは…そっか、関係ないんだもんね」

 

「おい、遠い目をするな。早く行け」

 

ビジライザーをかけ、ウェーブホールの方向に走っていくスバルを追いかけようと分別ロボットたちが動き始める。だが、そう簡単に思い通りにさせるわけにはいかない。

 

「流星サーバー、アクセス」

 

『Ryusei Server Access』

 

頭に浮かんできたバトルカードをすぐさまセットし、腕を横に大きく振る。別段、分別ロボットたちに何か起こったことはない。一瞬の静寂の後、姿を現したのは獅子舞の顔をした何か。手や足はなく、ただ地面に『ボトッ』という効果音を立てて姿をあらわす。

 

次の瞬間、大気を揺るがす轟音が響き渡る。

 

おかしなことに、分別ロボットたちは気が狂ったように目標である俺やスバルを見失い各々が奇妙な行動を取り始めた。

 

あるロボットは呆然と立ち尽くし、あるロボットは味方であるはずのロボットを解体しはじめ、あるロボットはサイレンを鳴らしながら明後日の方向へと去っていく。

 

これはバトルカード、トリップソングの効果である。

 

とあるウィルスの形をした機械が歌っている間、相手は混乱する効果を付与するバトルカード。

 

頭がおかしくなっていることを確認し、満足してウェーブロードへと上がる。

 

「お待たせ…うわぁ…」

 

ちょうど同時にウェーブロードに辿りついたらしい。スバルは地上の様子と俺を交互に見て、引き攣った顔を浮かべた。

『ノイズと相乗効果で気が狂いそうだぜ…』などと呟いているウォーロックのためにもあれは壊さなければならないだろう。

 

いや、もちろん、被害を出さないためにも上空からトリップソングを発生させているウィルス型の機械は破壊しないといけない。

 

バスターを連射し、破壊した後に残ったのは混乱から解放された分別ロボットたち。

 

だが、既にその場に俺とスバルはいない。

 

『原因はこの近くにあるに違いねぇ』

 

「ウォーロッくんのいう通り。やることはいつもと違いないよスバル」

 

ウォーロックの言うように、原因はまずこの近くにいる…またはあるだろう。まあ、わかりきったことではあるけどね。

 

「うん! サーチアンドデストロイだね!」

 

それにしてもスバル。引き篭もりだったときと比べ物にならないほど、随分と俗世に染まってきたようだ。

 

とにもかくにも探索…もとい、原因の捜索を始めた俺たちは、ついでにゴミ集積所の電波内のミステリーウェーブを根こそぎ拾っていく。リカバリー200やガトリング3などの有用性のあるバトルカードは全てスバルへと回す。

 

なにせこちらには流星サーバー先輩がついている。

 

X?

なにそれチートかな?

 

ここの電波にもともといるデンパたちは事の異常に気づいていないのか、はたまた狂っているのか慌ただしく自分の仕事をしているようだった。

話しかけようにも『ああ、終わらん終わらん!』と鬼気迫った様子で高速移動しているため話しかけられなかった。

 

途中にいたデンパショウニンからはHPメモリとスイゲツザンというバトルカードを購入。結構な額だったが、落ちているミステリーウェーブからゼニーも回収しているのでなんら問題はない。

 

HPメモリなんてはっきり言って無料と同じでした。

 

「ノイズ?」

 

随分と複雑に入りくんだ道を進んだ先にあったのは、集積したゴミを処分している建物。その一部から黒いモヤのようなものが発生しているのを見つける。

 

『確かにノイズだな。だが…』

 

クリムゾンが作れるような高濃度なものではなさそうだ。ウォーロックが言いたいのは、そこらに自然発生しているノイズと大差ないということだろう。

 

要は、人体や機械に大した影響はないということだ。

 

ここに来るまで、原因らしきものはなに一つなかった。もう随分と奥まで来ているといのに原因が見つからないということは、電脳の中に潜んでいる可能性も否定できない。

 

周波数を変えて電脳の中へと飛び込む。

 

中に入ってみれば、なにやら怪しげなデンパが3体。『ぐへへ』と言いながら密集している。まるで見つけてきたエロ本を集まって読んでいるような図に苦笑いを浮かべる。

 

こういう時は幸せなまま逝かせるのがいい。

 

「サーチアンドデストロイ!!」

 

スターフォースを使用し、アイスペガサスに変身を遂げたスバル。一瞬のうちに空へ飛び上がり、滑空して接近したスバルの左手から射出されるのは特大の氷の礫。

 

チャージショット、アイススラッシュ。

 

スバルもだいぶ戦いに慣れてきたようで、状態異常の重要さを理解し始めているようだ。

 

怪しげなデンパその1…ジャミンガAはそのまま妖しい笑みを浮かべたまま凍りつく。その余波に巻き込まれたジャミンガBとCも無事では済まない。

 

足元がガッチリと凍りつく。

 

「な!? ロ、ロックマン!?」

 

「なぜここがバレた!?」

 

相変わらず俺がガン無視なのはお決まりのようだ。もう慣れたけどね。

 

あと数発、叩き込んでこの件も終わり。そう思い込んだことこそが、フラグだった。

 

突然電脳の中に割り込んでくるデンパ。ただのデンパではない。目の前に突然とした現れたそのデンパは1つの電波体でありながら2つの顔を持っていた。

 

なりふり構っていられないと察知した俺は、流星サーバーから送られてきたバトルカードを確認する。しかし、毎度都合よく良いカードが送られてくるわけではない。

 

『この気配…!?』

 

「ッ!!」

 

舌打ちを一回して右腕を前方へ伸ばす。

 

ただのシールドでは一人分…俺しか守れない。多少電脳とデンパ体に影響が出るだろうが仕方ない。後でノイズを回収すればそれほどでもない。

 

「堪えろよ、スバル!!」

 

「えっ!?」

 

右腕のクリムゾンレギュレーターから高密度のノイズを発生、空間へと圧縮させてブラックホールに似た渦を作り上げる。

 

頭上から落ちてくる落雷は完成した渦の中へと轟音とともに閉じ込められた。

 

同じくクリムゾンレギュレーターで生成した紅黒い剣でそのブラックホールの渦を切り裂く。

 

擬似的なブラックエンドギャラクシー。

 

威力、ノイズ密度もともに、バトルカードで使うブラックエンドギャラクシーより明らかに低い。

 

それでもここらにいるデンパ体には悪影響に違いない。スバルとジャミンガーが片膝をつく。すぐにノイズウェーブ・デバウアラで一体のノイズを吸収する。

 

『チッ、楽にデリートしてやったものの』

 

「不意打ちなんて…やるじゃないかジェミニ」

 

『…化け物が』

 

人を化け物呼ばわりするんじゃありません。

 

「鏡を見てからどうぞ?」

 

顔が2つついたデンパ体…ジェミニに不敵な笑みを浮かべて睨め付ける。

 

『ジェ、ジェミニだと!? FM王の右腕と呼ばれる…雷神のジェミニ!?』

 

『貴様がアンドロメダの鍵を盗んだ大罪人、ウォーロック。こうして顔を合わせるのは始めてだな。いつまで動かないつもりだ。アンドロメダの鍵、奪ってみせろ!』

 

ジェミニから放たれた小さな落雷。その落雷の狙いは俺やスバルではなく、凍りついて動けないジャミンガー。その足元に落雷が直撃し、氷が砕ける。

直後襲いかかってくるジャミンガーBC。ジャミンガーAを砕いてもデリートされるだけだと判断したのだろう。

 

死体に鞭打つってほどじゃないけど、随分な上司である。

 

「スバル、一人一体! できるな!?」

 

「うん!!」

 

制空権はこちらにある。

ジャミンガーの物理攻撃が届かない高度まで一気に飛翔し、バトルカードをそれぞれ使用する。

 

使用するバトルカードはお互いスプレッドガン。

ただ、Xと3の差は歴然で弾を撃った直後の拡散量が桁違い。幾たびにも爆散する弾がジャミンガーを襲う。

 

自分で言っといて今更なんだけど、一人一体とは…。

 

ジャミンガーのバスターがこちらめがけて放たれるも、当たるはずもない。自由に空を飛び回り、難なく回避を繰り返す。

 

スバルはその間にジャミンガーたちの逃げ場をなくすべく、チャージショットを連射して逃げ場をなくしていく。

 

そうして出来上がるのが、氷パネル。

 

もっと、言ってしまえば、氷パネルに囲まれた(・・・・)ノーマルパネル。

 

「黒夜くん! とどめ!!」

 

いいですとも!!(・・・・・・・・)

 

スバルの掛け声に二人で大きく腕を振るう。

 

バトルカード…ホワイトメテオ、シルバーメテオ。

 

なにかが大気を揺るがした次の瞬間、岩の塊が俺たちの遥か上…宇宙からジャミンガーとジェミニに向かって容赦無く降り注ぐ。

 

ホワイトメテオ、シルバーメテオともに3×3マスに隕石を落とすバトルカード。だが、その落ちるマスはノーマルパネルのみ。だが、周りを極端に異常パネルで囲んで使用するとどうなるか。

 

答えは簡単だ。

 

ノーマルパネルにしか落ちないのだから、その場所のみに落ち続ける。

 

ジェミニは内心、『え、俺も?』と思っているに違いない。だってゲームでは電波変換してないから傍観しているだけだったもんね。

 

だが残念ながら、そこにいる君も射程範囲内だ。

 

砂の色と銀色の隕石が地上に向かって降り注ぐその様は、まさに世界崩壊の光景。

 

轟音が響いては電脳の一部が崩壊し、また轟音が響いては電脳の一部が崩壊する。もちろん、ジャミンガーとジェミニがいる範囲だ。

 

隕石が降り注いだその場所にいたであろうジャミンガーBCの姿は、もう見えない。その場にはデリートされてすらいないものの、傷を負ったジェミニの姿。

 

『な、なんて役に立たない連中だ』

 

『ケッ!! 人間と融合していない今のお前なんざ、ちっとも怖くないぜ』

 

『それもそうだな。ヒカルがいなければ、確かに不利。ここはおとなしく退くとしよう』

 

そうしてジェミニが去っていった。

デリートこそしなかったものの、ジェミニは手傷を負った。次に会うときは電波変換しているとはいえ、弱体しているに違いないだろう。


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