流星のファイナライズ 作:ブラック
随分と長くなってしまいました。早くアンドロメダまで進めたい…。
『改めて言わせてほしい。僕と…ブラザーになってほしい』
「ほ、ほんとに!?」
飛び上がりそうな感情を声に出さないように抑えているスバルの様子を見ながら、欠伸をする。随分とまあツカサってやつと気があうらしい。
…だが、俺はそこまで奴を信用しちゃいねぇ。
ツカサってやつに限った話じゃねぇ。
明星黒夜もまた、俺にとってはある意味危険人物だ。
キグナスの一件で敵ではないことがわかったのは確かだが、奴のベールは未だに健在だ。
「うん…」
「嬉しいよ、ツカサくん!!」
「ありがとうスバルくん」
「じゃあ、早速これから会おうよ! どこで待ち合わせしよっか?」
「そうだね…ヤシブタウンはどう?」
「うん、わかった!」
『それにしても、随分と積極的じゃねえか』
「そうだね。僕も随分成長したってことかな。黒夜くんやみんなのおかげだよ。父さん、喜んでくれるかな…」
依然として黒夜の野郎は謎だらけ。
万に1つでも奴が敵に回れば、勝てるかどうか。
あのツカサってやつも妙な電波を感じる。
チッ…嫌な予感がビンビンするぜ。
▼ ▼ ▼
恐怖の
敢えて言おう、精神的にフルボッコにされたと。
その後、何があったか根掘り葉掘りミソラちゃんに
『もうやめて…もう黒夜くんのライフは0よ…』なんて言った際には無言でグーパンが来そうだった。
そんなことがあったのが、昨日。
退院が数日遅れるかと思ったものの、身体的に異常がなさそうなのと脱出する元気があるのならばと退院の許可がでた。
今日の昼前には退院できるだろう。
スバルに何か事が起こったら連絡するようにとは昨日の時点で連絡をしておいたので問題はないだろう。唯一気がかりなのは、現実であるが故に犯行時刻がわからないことだ。
スバルと共に行動していたならば、出くわすタイミングというものがある程度わかる。スバルにいちいち報告させると変人扱いされそうだし、なによりウォーロックが警戒するからね。
それにしても…。
「ようやくこの暇すぎる生活とおさらばか」
「暇だからって抜け出す奴があるか」
「みんな心配したんだからね」
「ぅ、大変ご迷惑をおかけしました」
母さんのチョップが直撃した頭をさすりながら謝る。ミソラちゃんは昨日たくさん怒ったからか、随分落ちついているようだ。
母さんの機嫌はしばらく治らないだろう。
「なにはともあれ! 退院おめでと、黒夜くん」
「まだ退院してないけどね」
「あ、そっか。じゃあまた後で言うね!」
ミソラちゃんの笑顔が眩しい。怖くない。
▼ ▼ ▼
時刻は10時24分。
連絡を受けて待ち合わせたバチ公前には休日というだけあって随分と多くの人が集まっていた。ヤシブタウンは入り組んでいる上に広いから待ち合わせるときは大体の人がここで待ち合わせをするらしい。
黒夜くんは今頃検査でもしている頃だろうか。
黒夜くんからは『ジェミニの件で何かあったらすぐに連絡をよこすこと』とあったけれど、昨日の今日で手を出してくることはないと僕は思う。
僕にとっては4人目のブラザーだ。
ブラザーバンドを結んだらどこに行こうと考えながら口元を緩める。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「ううん、僕も今来たところだよ」
ツカサくんは『そっか』と呟くて人差し指で頬を掻く。
「ブラザーなんて生まれて初めてだから僕、緊張してるんだ」
「初めてではないけど、僕も緊張してるみたい。すぐ結んじゃおっか、ブラザーバンド。でも、本当に大丈夫?」
ブラザーバンドを結ぶということはお互いの秘密を共有するということ。
教えられない秘密があると、昨日のツカサくんは言った。
『大丈夫?』という言葉の意図を察したツカサくんが、ゆっくりと頷く。昨日僕がブラザーバントの提案をしたときに見せた葛藤しているような表情はもうなかった。
「決めたんだ。君には僕のこと、もっと知ってほしい。だから大丈夫…うっ!」
「ツカサくん?」
「いや、なんでもない。さぁ、ブラザーになろうぜ、スバルくん」
「ッ!!」
違和感。
とてつもない違和感をツカサくんから感じる。口調が違う。目の前にいるのはツカサくんのはずなのに、ツカサくんではない別人な気がしてしまう。
『そいつから離れろ!! すぐに!!』
声とともにトランサーをつけている腕が急に僕を後ろへと引っ張る。もちろん、腕が勝手に後ろへいったわけではない。ウォーロックがトランサーから飛び出して僕を強引に引っ張ったのだ。
ビジライザーをかけ、ウォーロックに抗議しようとするが、ウォーロックはツカサくんを睨んで放さない。何かイタズラをしたわけではない。
真面目な表情だ。
『気をつけろスバル。あいつ、FM星人が取り憑きそうな人間と同じ臭いがしやがる』
「FM星人だって!?」
大きな声をあげてしまった口を思わず両手で塞ぐが、もうすでに遅い。僕の言葉は確かにツカサくんへと届いてしまった。
だがツカサくんは首をかしげるわけでも、疑問を口にするわけでもなく、ただニヤリと口元を怪しく歪めた。
違う、こいつはツカサくんじゃない。ツカサくんはこんな笑みを浮かべない。もっと穏やかで優しくて、それでいて少し寂しげな笑みを浮かべていたはずだ。
だけど、ツカサくんは目の前にいる。顔が似ているだけとかそんなレベルではない。同一人物なのは間違いない。
「もうでてきていいぞ、ジェミニ」
『待ちくたびれたぜ』
『ジェミニ!!』
ツカサくの横に姿を現したジェミニを見て、さらに戸惑う。ツカサくんはジェミニに操られているわけではない。
『どうやら、お前は明星黒夜と違ってこいつが多重人格ってことを知らないらしいな』
「た、多重人格?」
『チッ…あいつの言っていたことはそういうことか』
「どういうこと?」
『1人の人間に複数の人格があるってことだ。スバル、覚えてるか?黒夜の奴がドリームアイランドでお前に
ドリームアイランドで黒夜くんが僕に言った言葉。
ドリームアイランドの公園、その一番奥。綺麗な花畑の通路がある丘。
『いいか、スバル。ツカサはツカサだ。これだけ、覚えておけ』
黒夜くんは確かそう言った。
『こいつに複数の人格があるが、別の人格とツカサは別だってことを言いたかったんじゃねぇか?』
「わからないよね!?」
言葉足らずというか、もはやヒントですらないというか…。きっと黒夜くんクイズとかでヒント言うの苦手なタイプだ。
でもようやくわかった。
前のヤシブタウンでの騒動。あの犯人はジェミニの手下のジャミンガーだった。そして、電話してきた怪しい人物の名前はヒカル。
黒夜くんはヒカルという人物の正体を知っていた。だから、僕には言わなかった。
あのとき、ツカサくんはヤシブタウンにいた。
黒夜くんは言った。
『ツカサはツカサだ』と。
ツカサくんが悪者なわけじゃない。それだけは覚えておいてくれ。そんなことを言いたかったんじゃないだろうか。
「君がヒカルなんだね」
「ようやく、気づいたか。そこそこ頭はできるみたいだな」
『ケッ! 大方、俺の持っているアンドロメダの鍵を手に入れるためにツカサがお前に好感を持っていることを利用したんだろうよ』
大丈夫。
ツカサくんが、僕とブラザーになりたいと言ったのは決して嘘じゃないんだ。なら、僕にできることをやる。
「アンドロメダの鍵、それさえあれば俺たちの復讐が…まだ、甘いこと言ってんのかお前は!? そうだ。それしかないんだよ! 俺たちを捨てた親に復讐するんだろ!?」
まるで誰かと会話しているかのように口にするヒカル。頭を抑え、苦しみながらも忌々し気に僕を睨めつけてくる。会話をしているのは、僕たちではない。ヒカルの裏で出てこれないツカサくんがヒカルと対話しているのかもしれない。
「ダメだツカサくん! そんなこと!」
「テメェに何がわかるってんだ! 捨てられたわけでもなく愛されたテメェが俺たちを止めるんじゃねぇ!! そうだろツカサ。ああ、そうさ。やってやろうぜ。こい、ジェミニ!」
『電波変換』その言葉とともに、電気を帯びたように光が弾ける。全身を包んでいる光は分身するかのように二つに分かれていく。
光がおさまったその場所には2人の電波体の姿。
まるでそれぞれが別人かのように白と黒に分かれた電波体。片方だけがオレンジ色をしており、その腕からはバチバチとスパークが弾けている。
「ツカサくんなの?」
「ごめんねスバルくん」
小さくそう呟くて黒と白のそれぞれの体から+と−の粒子が散布されていく。
その光景を僕は知っている。何が起こるかも予想ができてしまった。
故に行動を取るのは素早かった。すぐに電波変換を実行し、ロックマンの姿となってこれ以上はやらせないという意思をもって2人の前に立ちはだかる。
『邪魔するんじゃないよ! そのチケットはあたしのもんだ!』
『うるせぇ! そのチケットは俺のなんだよ!』
『ぶっ飛ばされてぇのか!?』
『あなたこそ、そこに正座しなさいよ!!』
ブラザー同士による争い。ジェミニが散布した+と+、−と−の粒子が反発しあい強制的に争いを引き起こしている。広範囲に散布されたせいで、前回と同様に様々な場所で喧嘩が勃発しているようだった。
「今度の+電気と−電気は前回のとはわけが違う。俺たちを倒さない限り、奴らから電気の粒子が剥がれることはない」
ならばやることは簡単だ。こんな時、黒夜くんならばきっと話をしているうちに攻撃するに決まっている。
バトルカードをプレデーションする隙はない。
『チッ! ならすぐにでもぶっとばしてやるよ!』
ウォーロックの掛け声とともに腕の形状をロックバスターに変化させて撃つ。しかし2人は掌を翳し雷の盾を出してバスターを防ぐ。
「焦るなよ。戦う場所はここじゃない。アンドロメダの鍵をもってドリームアイランドの廃棄物置き場まで来い」
2人の姿が光に呑まれるようにゆっくりと消えていく。その間にもバスターを撃ってみるものの、もうすでに周波数が僕たちのものとは違うのかすり抜けるように命中することはなかった。
『おい、どうすんだ、迷ってる暇はねえぞ!』
「……」
眼前には多くの人が言い合いや殴り合いをしている。この惨状を放っておくことはできない。だけど、今この場で解決することは不可能だとヒカルらしき電波体はいった。
『おい、スバル!! まずは黒夜の野郎に…』
「…それはダメだ。もうこれ以上、黒夜くんに負担をかけるわけにはいかない」
『んなこと言ってる場合かよ!?』
確かに黒夜くんは連絡しろと言った。だけど、これ以上黒夜くんに負担をかけるわけにはいかない。
まだ入院している身なんだ。
たとえすぐに退院できるのだとしても、黒夜くんには自分の身を大切にしてもらわないと困る。
「僕が…僕たちで止めるんだ。こんなの間違ってる。ツカサくんも、ヒカルも止めなきゃ」
それに…ツカサくんの初めてのブラザーになるのは僕なのだから。