流星のファイナライズ 作:ブラック
FM編最終章、スタートです。
戦いへの序章
オックス、キグナス、ハープ、リブラ、オヒュカス、ジェミニ。
自身が送り込んできた戦士たちがついに全滅したことに表情を険しくする。ハープに至っては、地球が気に入ったなどと戯言をほざいて寝返る始末。
「やはり、信頼できるのは余のみか」
今に見ているがいい。
ウォーロック、地球人ども。
余自らの手で葬られること、光栄に思うが良い。
AMプラネットの時と同様、死の星に変えてくれよう。
「だが、時はまだ満ちぬ。アンドロメダよ…もう一度その力を振るうがいい」
地球から遠く離れた電脳世界でFM王は静かに牙を研ぐ。
◆ ◆ ◆
ツカサの一件から一週間もの時が経った。
ツカサは忽然と姿を消した。
スバルから話を聞いた限り、お互いスッキリとした別れができたらしい。その結果なのか、原作のようにスバルが病むことはなかった。今日もきっと元気に学校へいっているのだろう。
俺とミソラちゃんはヤシブタウンにて暴徒と化していた人々の+と−の電子を取り除き続け、なんとか死者を出さずに事なきを得た。あと少しスバルがジェミニを倒すのが遅ければ、誰かが包丁で刺されてもおかしくなかった。
というか、誰がいつどこで死者となってもおかしくはなかった。
現場のサテラポリスは俺とハープ・ノートことミソラちゃんが事件の首謀者だと勘違いして攻撃してくるし、取り除いても電波塔からどんどん電子が飛んでくるし、なんかもうてんやわんやだった。
家に帰ったら我が母の熱烈なお説教が俺の生気を限りなく0に削ったのは、未だに記憶に新しい。
そんな心の傷を癒すために、俺は優雅にブレックファーストを楽しんでいる。楽しんでいるのだが…。
「ところで、君はどうして俺の元にいるんだウォーロックン」
青い怪獣みたいな電波体が目の前で真面目な顔でガン見していれば、気分も変わる。
スバルが病まなかったことによって、ウォーロックが壮大な家出をすることもなかった。2人とも元気そうで本当になによりである。
『だからウォーロックンはやめろと…ケッ、まあいい。近々、この星に何か異変が起こるかもしれねぇ」
穏やかならぬ雰囲気に、口をつけようとしていたティーカップを置く。
「…暇人ではなく、真面目な方だったか。アンドロメダが目覚めるのか? だが、あれには鍵が必要だろう」
アンドロメダ。
FM王の最終兵器と言わしめる電波生命体。
それは正しく規格外の化け物。
『失礼な奴だぜ。だが、やっぱ知ってやがったな。どこまで知ってやがる』
「アンドロメダという名前と姿形、データ上の実力…といったところまでだな」
ゲーム内での話だが…。
『そんだけ知ってれば、奴の脅威が十分わかるだろう。まだ事が起こるわけじゃねえが、注意を促すに早いも遅いもねぇからな』
ウォーロックの言葉は十分理解できる。注意喚起に早いも遅いもない。
だからこそ、俺もこの一週間、大義名分をもってして学校をさぼ…打てる手を打っておいた。
断じて学校が面倒臭いとかそんなことはない。
「安心しろ…とは言えないが、打てる手は既に打ったさ」
そんな時、俺のトランサーから甲高い音が鳴り響く。この着信音は、電話機能だ。
「なるほど、理解した…っと、すまん電話だ」
既にジェミニ・スパークの一件から一週間。タイミングとしてはこれくらいだろう。ミソラちゃんがこの時間に電話をかけてくることなんてないし、思い当たるのは1人だけだ。
『黒夜くん…だったかな』
天地研究所の主任、天地さんだ。
俺はジェミニ・スパークの一件の後、天地さんに予言に似た言葉を送っていた。
「ああ、天地さん。どうもです。この電話が鳴ったということは、来ましたか」
『宇多海に張り付かせていたんだが。君の言う通り、電波を受信した。宇宙ステーション絆…大吾先輩が乗っていた宇宙ステーションの電波だ』
まあ、覚えていたことを言っただけだ。
狙いは一つ。
いつ事が起こるかをできる限り把握するため。
いつかスバルやミソラちゃんに今までのことを説明する時が来るだろう。
その時はなんで答えよう。
転生しましたじゃ笑われるか?
パラレルワールドの結末…まあ、間違ってはいないかな。
「了解しました。その事が聞けただけで十分です。ええ、はい明日ですね。スバルにも…はい、お願いします。失礼します」
いよいよ、本格的に動き始めるに違いない。ゆっくりと目を閉じて、目を開く。
さて、ウォーロックにも少しだけ話をしておく必要があるだろう。
目の前にいるウォーロックが不思議そうな顔で俺を見ているのを見て、口を開く。
さしあたって、まずはやはり、単刀直入に言っておこう。
「動き出すぞ。これが最後の戦いだ」
黒夜が生まれ、ミソラと出会い、スバルと出会い、ウォーロック、ゴンタ、キザマロ、ツカサ…多くの人と出会った一連の物語がついに終わりを迎えようとしていた。
◆ ◆ ◆
『君に伝えたいことがある。明日、天地研究所へ来て欲しい』
随分と仰々しい内容のメールを僕のトランサーが受信したのは昨日のことだ。学校をサボりにサボる黒夜くんへの愚痴を委員長から聞いてる最中、天地さんから送られて来た。内容について返信をしても、『とにかく来て欲しい』の一点張り。
いつもこういう内容の時は『それは来てからのお楽しみだ』みたいな茶目っ気がある言い方をする天地さんが、ここまで素っ気ない返事を返すのは何かある。
どちらかと言えばいいニュースではなく、悪いニュース。
そんな予感がして僕は天地研究所にいる天地さんの元へと向かった。
「来たか、スバル」
「よく来たね、スバルくん」
辿りついた天地さんの部屋にいたのは、天地さんとサテラポリスの五陽田さん。そして、黒夜くん。
「黒夜くん? 黒夜くんがどうしてここに?それに五陽田さんまで」
僕の質問に黒夜くんは答えない。黒夜くんが天地さんをチラリと見る。天地さんはゆっくりと頷いて口を開く。
「順を追って話そう。ちょうど一週間前、黒夜くんから電話がかかってきたことが始まりだ。内容は、これからしばらく絶対にレーダーを切らず、厳戒態勢で確認して欲しいというものだ」
「もちろん、意味がなく言ったものじゃない」
「まさか、僕もこうなるとは夢にも思っていなかった。黒夜くんは僕にこう言ったんだ。『宇宙ステーションきずなから認識シグナルが送られてくる。来たら電話してくれってね』」
「それって!?」
驚愕して黒夜くんを見る。
今まで、いろいろおかしいとは思っていた。どうして父さんのことをそんなに知っているのか。どうしてFM星人たちを見ても何も驚かないのか。いつもいつも事件に対して先回りすることができているのか。
今回の件で確信した。
これは異常だと。
黒夜くんには秘密がある。
間違いなく、誰にも言っていない彼の奥底に封じ込められている秘密が。
「そうだ。君のお父さん…星河大吾先輩が乗っていた宇宙ステーションだ。そして、その信号が徐々に地球に近づいて来ていることも確認されている」
「じゃあ、父さんは!!」
生きているんじゃないか。
その言葉を最後まで言うことはできなかった。
「すまないが、スバルくん。それは考えにくい。そして、今地球は危機に瀕している」
「…そんな」
「今やあのステーションは巨大なゼット波のカタマリ。地球に衝突すれば、間違いなく電脳社会は崩壊するだろう。極め付けは…天地さん」
五陽田さんの言葉に頷いて、天地さんがレーダーの機械を操作し始める。ノイズが混じったようなザーザーとした音が、徐々にクリアになっていく。
『地球人たちに告ぐ』
やがて聞こえて来たのは、声だった。
『余は、FMプラネット王。地球は余の手によって滅ぼすことにした。誇りに思うが良い。貴様たち地球人は王たる余によって滅ぼされるのだかーーーー』
FM王。
すなわち、今まで戦って来たFM星人たちの長。
「これは明らかな宣戦布告なのだよ、スバルくん」
「FMプラネットと言えば、大吾さんがブラザーバンドを結ぼうとコンタクトをとった星。すべては繋がっていたんだ、スバル」
黒夜くんが何かを悟ったように言った途端、轟音とともに大地を何かが揺らす。ガラガラと棚から機器が崩れ落ち、スパークするように電気が弾ける。一部の蛍光灯が割れ、部屋から明かりは消えた。
途端、身体に変化を感じた。
「黒夜くんの言う通り、ゼット波が異常なまでにこちらに集まっている。本官はこれより、アンチゼット波エネルギーの充電にとりかかる。少しばかり苦しいと思うが耐えてくれ!!」
暗闇の中で五陽田さんはそういうとトランサーを操作する。
身体の変化は徐々に強くなっていく。割れていない蛍光灯に再び光が灯ったころには、黒夜くん以外のみんなが苦しみ始めていた。無論、そこには僕も含まれている。
しかし、この感覚には覚えがある。
黒夜くんの高濃度ノイズを浴びたときの息苦しい感じ。そのときのものとよく似ていた。
『当たり前だ! 身体の構造を無理矢理電波体に変えようとしてやがる…!』
足が地面から離れる。
身体が重力という地球の法則から外れようとしている。生きとし生けるものもの、全てに干渉する地球の法則から外れるということは、既に人間という存在から逸脱しはじめた証明に他ならない。
そして、とうとう世界が変わる。
正確に言うならば、僕たちが普段生活している世界にもう一つの世界が付け足されていた。
即ち、電波の世界…ウェーブロード。
「ビジライザーをかけていないのに!?」
「こ、これは!?」
「ゼット波が測定不能だと…こんなことは始めてだ。本官は急ぎ戻ります!」
ただ、唯一変化がない黒夜くん。
「わかっただろ。ウォーロック、お前は一旦…」
『…なるほど、ハープが知っているお前の秘密の一端はこれか』
「いや、初見で気づく方がおかしいんだよ。何度も言うが、俺は人間だ」
『ケッ、まあいい。お前の言う通り、騒ぎになる前に俺は出ていく。スバルを頼むぞ』
「ああ」
トランサーからウォーロックが去っていったのを感じ、苦しいながらも黒夜くんを見る。だが、黒夜くんは首を振るのみ。つまり、この現状を彼にはどうしようもないのだ。
「ぜ、っと波、イレイザー…!!!」
苦しそうな表情ながらもトランサーを天高く掲げる。五陽田さんのトランサーから眩い光が放たれる。視界は真っ白く塗りつぶされ、浮いていた身体が急に重力に押し潰され、地面に衝突する。
光が収まり、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
視界に捉えていたはずのウェーブロードは消え、元どおりの研究室。どうやらなんとか事態は収集したらしい。けれど、そう簡単にいくはずもない。
レーダーを確認して見ると地図上にいくつもの光る点が存在している。
日本では1つ。
日本以外では4つ。
「天地さん、日本の他の場所はどこですか」
「一番近くだとヤシブタウンだ。この研究所も全力を挙げて対処にかかる。黒夜くん、ありがとう!」
ヤシブタウンと聞いて、心臓の鼓動が跳ね上がる。
颯爽と去っていった天地さんと五陽田さんの背中を見送り、黒夜くんを見る。
黒夜くんは無表情のまま、どこか遠くを見つめた後、僕を見る。
「ヤシブタウンのことは心配するな」
『心配するな』と言われても、無理な話だった。
「心配するなって言われても母さんが!! 黒夜くんのお母さんだって!!」
ヤシブタウンには、母さんが出かけているのだ。母さんだけじゃない。今朝、母さんは言った。
『今日は深夜ちゃんとヤシブタウンにショッピングなの。楽しみだわ』
黒夜くんのお母さんだって、ヤシブタウンにいるはずなのだ。
それなのに、落ち着いた顔で黒夜くんは口を開く。
「大丈夫だ。もう終わるはずだ」
「終わる? 黒夜くん、何をいって…」
「来るか。屋上に行くぞ、スバル」
何も言わずに天地さんの部屋から出て行く黒夜くんを追っていく。こんな時に、ウォーロックは一体何をしているのだろう。さっきの口ぶりからして、黒夜くんが事前にウォーロックに何か話をしていたのかもしれない。
黒夜くんが学校をサボっていたのも、何か必要なことがあって…?
屋上に辿り着く。
3つの巨大な影が屋上に足を踏み込んだ僕たちを見下ろしていた。サテライトの管理者と呼ばれる、ドラゴン、ペガサス、レオが、まるで僕たちが来ることを知っていたかのように笑みを浮かべた気がした。
そして黒夜くんもまた、サテライトの管理者をそれぞれ見やり、笑みを浮かべた。
いや、もしかしたら、知らなかったのは僕だけなのかもしれない。
『来たか、明星黒夜。そして星河スバル』
「久しぶりだな管理者」
今日、この日、この時が、最後の戦いへの序章だった。
「明星黒夜!!あっっっのサボり魔、 今回という今回は本当に許さないんだから!!」
「い、委員長落ち着いてください! 真っ向から黒夜くんに言っても無駄です! また軽くあしらわれてしまいますよ!」
「〜〜ッ!! スバルくん、あなたもなにか手伝いなさい!! 私のブラザーでしょう!」
「スバルは黒夜のブラザーでもあるんだぜ委員長」
「お黙りゴン太!!」
こんな一週間を過ごしたルナのストレスはマッハだった。