流星のファイナライズ 作:ブラック
この世界、ヤバめの事件多過ぎません?
天知さんが提示した修理日数は一日。
明日の夕方までにできることは全てやらなければいけない。
天知さんとの打ち合わせは済ませた。更にあれからヨイリー博士との相談も済ませた。
アマケンで宇田海さんとも打ち合わせを済ませた。
天知さんの宇宙ステーションと並行して宇田海さんにはアマケンで作業をしてもらっていた。
移動は文字通り光の速度で往復しまくった。
バスなんて使っていたら、とてもじゃないが時間が足りない。
ウェーブロードに乗っている時の感覚としては、時間が何倍にも引き伸ばされているような感覚だ。
精神と時の部屋的な感じで、ウェーブロードに乗っている時間は確かにあるんだけど現実世界では全然時間が経っていないみたいな…。
電波ってすごい。
とりあえず、できることは全て終わらせた。
後は上手くいくことを願うばかりだ。
そんなことをしているうちに時刻はあっという間に過ぎ去っていった。
時刻の針ははもうすぐ14時を指そうとしている時、不意にトランサーから着信音が鳴った。
『今から会えるかな』
目を覚ましたミソラちゃんからメッセージを受け取り、ヤシブタウンへと向かったのだった。
▼ ▼ ▼
休日ではあるが、お昼の時間を過ぎたこともあり人集りのピークは過ぎ去っていた。
前回ヤシブタウンに来た時は、オヒュカスがルナに取り憑いた時だ。
あの事件からまだ1ヶ月も経っていないのだから驚きだ。
この世界、事件起きすぎだろ。
「次はあっち!」
はしゃぐミソラちゃんについて行く。
じっとその様子を見ていると、どうしても足や腕に目が向いてしまう。
足や腕、そして顔にまで絆創膏やガーゼが貼られている。
FM星人たちにやられた時の傷が痛々しく残っている。
見せないようにしているみたいだが、時折右足を庇うように歩いている。吹き飛ばされたときに、足首を捻ってしまったのかもしれない。
「今度はあの…」
本人は明るく振る舞っているが、痛くないわけがない。
目を覚ましたのだって、つい先刻だ。
病院のベッドで寝ていても不思議ではない。
これから先、こんなことがずっと続く。
FM星のじけんが終わったとして、次はムー大陸の事件だ。
ミソラちゃんもがっつりメインストーリーに絡んでいる。
それにその先だって、『絶対にない』とは言い切れない。
「…くん!」
3のストーリは無くなったとしても、次に来るであろう
クロックマンが出てきたら容赦なく殺っちまうとしても、ミソラちゃんが誘拐されると思うと居ても立っても居られない。
不安なことは他にもある。
大吾さんの生存。
アンドロメダとの決戦。
ムー大陸とオーパーツ。
先のことを考えれば考えるほどに悩みの種は消えない。
蟻地獄のようにゆっくりと思考の渦に足を取られて引き摺られていく。
「黒夜くん!!」
肩を揺さぶられて頭を上げる。
そこには、真っ直ぐこちらを見るミソラちゃんの顔。
周りを見回してみると、何やら色々なお店の店員さんが慌てふためいている。ディスプレイを見てみると展示用のパンフレットや映像が消えている。
停電…というわけではなさそうだ。
「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「少し屋上にでも行こっか」
手を取られて、屋上へと向かう。
エレベーターから降りると直ぐ側のベンチへと腰掛けた。
いつの間にか陽が傾いており、オレンジ色の暖かな光が屋上を照らしている。午前中が慌ただしく過ぎていったせいか、一日が目紛しく過ぎていったような感覚を覚える。
亜熱帯展の建物は事件があったにも関わらず、ひっそりと運営を再開している。だがニュースや口コミで事件が広がり、人は全く入っていない。
この世界にもリスク管理は一体どうなっているのか。
ルナの両親が運営サイドにいながらどうしてこうなった…。
客がほぼいない中ヘビ博士だけが立っている原作通りの寂しい空間になっている。
それはそれとして、隣から視線を感じる。
なんというか、抗議の眼差しというか、遺憾の意というか…不満をありありと感じる。
「じー…」
ジト目でこちらを睨んでくるミソラちゃん。
『さっさと話せ』とでも言わんばかりに急かすように肩をぶつけてくる。
「明日、決着をつけてくる」
「…そっか」
視線を俺から離して、空を見上げる。
空を見上げていても、考えているのはきっと宇宙のこと。
俺もミソラちゃんに倣って空を見上げる。
「遠いね」
「遠いな」
同じ言葉を口にする。
明日の朝には、俺はこの空を飛び越えて宇宙へと向かう。
「怪我、大丈夫なの?」
「これくらい、直ぐ治るよ」
地上に残ることになるであろうミソラちゃんと宇宙に向かう俺。
その距離は一体どれだけ遠いのか。考えることすらできない。
宇宙ステーション『きずな』に到着してからは戦いの連続だ。
俺はブラックエースだ。
メテオG内部では、クリムゾンドラゴンにも打ち勝った最強の変身形態。
アンドロメダにだってきっと負けはしない。
だが、得体の知れない不安がずっと付き纏ってくる。
その不安の正体が、わからない。
「生きていくって事は、いろんな重荷を背負うことだと思うの」
「…」
「ブラザーは、その重荷を分かち合える存在なんだよ」
ミソラちゃんが大きく伸びをしてから立ち上がる。
俺の正面に立つ。
「だから、もっとブラザーを頼ってもいいんだよ」
優しい笑みを夕日が照らす。
ミソラちゃんがあまりも眩しすぎて、思わず視線を逸らしてしまう。
みんなのことは信じているし、頼ってもいるつもりだ。
だが、肝心なところがいつも話せない。
なぜなら肝心なところの全ての事が、俺の転生へと辿り着くからだ。
転生という意味不明な事象について、話すつもりはない。
このことは墓場まで持っていくつもりだ。
結果として、大切な人を騙すことになっても。
「ありがとう」
未だに悩みのタネは尽きないし、言いようのない不安の正体もわからない。
ミソラちゃんの笑顔を見て、俺の中の不安が薄れていくような気がした。
俺としたことが、柄にもなく暗くなってしまった。
多分、きっと、何とかなるだろう。
死ななければ万事大丈夫だ。
話題を変えよう。
重荷といえば秘密。
パーソナルページの話にするか。
「…それにしたって、パーソナルページの秘密の欄に【じつは、FM星人のハープと合体して、ハープ・ノートに変身できるの!】はないと思う」
ほんと、ぶっちゃけすぎでは?
万が一、五陽田警部なんかにトランサーを覗かれた日には、多分アウトだと思うよ。
このご時世だし。
「く、黒夜くんだって【大体パンツはトランクスです】じゃない! あれよりいいと思う!」
「いや、まぁ、間違ってないし」
それはそう!
いや、間違いない。
秘密に書けないことが余りにも多すぎて、適当に打っちまった。
後悔はしているが、若干気に入ってもいる。
会心の出来。
…
「間違…女の子になんてこと言わせるの!?」
ミソラちゃんが両手で俺の頬を唸ろうと迫る。
直ぐに真横に向かって飛び込み前転をして魔の手から避ける。
地面?
屋上はゴムチップで舗装されてるので問題ないね。
『ポ、ロ・ロン…ふぅ、ほんと、懲りない男ね』
突然現れたハープにサムズアップをして屋上を駆け回る。
多分、雰囲気を感じ取って静かに待機していたのだろう。
ハープはそういう気遣いができるFM星人だ。
ウォーロックと違ってね。
出来る奴だぜ。
心の中でミソラちゃんに謝罪を言う。
もう一度、オレンジ色に染まった空を見上げる。
この空の向こう側に果てしない宇宙が広がっている。
決戦の時は、目の前まで迫っている。
▼ ▼ ▼
陽は完全に落ち、空に夜が訪れる。
生憎、今夜は雲が多い。
夜空に瞬いているはずの星々は雲に遮られて視界に捉えることは叶わない。
コダマタウンの展望台のベンチに座り、生活の光が灯る町並みを見渡す。
黒夜くんと別れたのが、3時間ほど前。
今頃、家族と夕飯でも食べている頃だろう。
家に帰ったとしても、私の家には両親はいない。
寂しや悲しみをちょっぴり感じるが、慣れてしまった。
それよりも今は別のことだ。
「どうだった、ハープ」
『どうだったも何も戦いの後にあんなことは二度とごめんよ』
『ごめんごめん』と謝りながら話を進める。
私がハープにお願いしたことは、黒夜くんのトランサーの中に入って情報を入手してくること。
戦いで消耗しているハープに、無理を言ってしまった。
黒夜くんは、何かを隠している。
きっと、とても大事なこと。
『トランサーの中はノイズまみれ。破損しているデータだって山のよう。どうしてトランサー本体が壊れていないのか不思議なくらい』
ずっと話してくれるのを待っていた。
だけど一向に話してくれる様子はない。
今日の黒夜くんの様子は、側から見ても酷かった。
ずっと何かを考えているように呆けているし、返事も心ここに在らず。
だから、私がお手洗いにいった時に黒夜くんに内緒でハープに相談した。
『黒夜くんが秘密にしていることの、手掛かりがないか探してほしい』と。
最後には吹っ切れたように元に戻っていたけど、多分、解決してない。
あれはきっと、問題から目を逸らして先送りにしているような…。
結果として、屋上でハープが出てきた頃にはノイズの影響を受けていた。
黒夜くんのトランサーに入るということは、それだけ電波体にとって害なのだろう。
『これといって目ぼしいことは何も。ただここ最近の通話履歴があったわね。古いものはノイズのバグだらけで読めなかったけど』
「つ、通話履歴!?」
『ここ数日で明らかに頻繁にかけているのが…登録されている名前を読み上げると【ヨイリー博士】、【五陽田警部】、【天知さん】、【宇多海さん】ね』
天知さんは知っている。
宇多海さんもスバルくんから聞いたことがある。
FM星人キグナスに取り憑かれていた人だ。
五陽田警部はサテラポリスの人だ。
電波変換ができる人間からすれば、遠ざけはしても自ら連絡を取ろうとはしないはずだ。
現にスバルくんも私も姿を見たならば直ぐに逃げる。
ヨイリー博士というのは全く知らない。
『それとここ数ヶ月の間に結構な回数、どこかと通信を繰り返しているみたい。アクセスラインの名称は…Ryusei Surver? 』
「…黒夜くんが、ブラックエースに変身した後によく言ってる言葉だ」
トランサーに表示された文字は英字。
だが、これを漢字に変換してみると【流星サーバー】になる。
宇宙に浮かぶ3つのサテライト…ではなさそう。
確か黒夜くんのサテライトはペガサスだ。
サーバーというからにはどこかの電脳にアクセスをしているのだろうか。
流れ星の電脳?…隕石?
この流星サーバーというのが、多分鍵になる。
ただの直感だけど、なぜか自信がある。
『気をつけなさい。ミソラ』
「ハープ?」
ハープが私に話す。
真っ直ぐな眼差しに私も視線を合わせる。
『あなたとのショッピングの途中、様子がおかしかったでしょう。少しの間だったけれど。それに…』
ハープが一瞬口籠る。
一度視線を逸らしてバツが悪そうにしたが、直ぐに元の表情に戻る。
『初めて会ったときよりも身体の中のノイズの量が増えているわ』
「それってどういう…」
『これは推測になるのだけれど…ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
「!?」
「落ち着いて。多分少しずつよ。すぐにどうこうなる問題じゃないはず』
きっと黒夜くんは、何を聞いてもはぐらかしてしまう。
黒夜くんの力になるには、自分から行動しないとダメだ。
『ごめんなさい。私にもっと力があれば…』
「ハープのせいじゃないよ。私こそごめんね」
ハープも私も、前回の戦いでのダメージが酷い。
特にハープはデリートされる寸前にまで陥ってしまった。
これ以上無理をさせるわけにはいかない。
後の事は、黒夜くんとスバルくんに任せるしかない。
思わず唇を噛む。
もし、ハープの言うことが本当なのだとしたら、何か対策を取る必要があるはず。
黒夜くんはこの事を知っているのだろうか…。
きっと、このままじゃいけない。
次があるのなら。
今回と同じように次の戦いがあるのなら。
大きな事件があるのだとしたら。
その時は…。
私が黒夜くんを止めなくてはならないかもしれない。
いつも読んでくださりありがとうございます。
流ロク2についてですが、不定期(可能なら月1〜2話)で更新いたします。
現在は昔の執筆中のプロットに加筆と修正を繰り返して更新している状態です。
が、このままの展開では流ロク1で『おしまい』にはできないと感じました。
多々お待たせすることもあるかと思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。