流星のファイナライズ 作:ブラック
感想と評価もありがとうございます!
ドリームアイランドの地下深く。
宇宙ステーション『きずな』のシステムの復旧をさせるべく、天知は作業を続けていた。
それももう終わる。
地下での作業の為、外の様子は見えないが持ち込んだ時計の針はもうすぐAM5時を指そうとしてる。
「これでよかったんですよね…大吾先輩」
後悔はない。
これで尊敬していた先輩が帰ってくるのだとすれば、苦労にも思わない。
自分の手で宇宙へ送ってしまった先輩を自分の手で地球へと帰還させる。
きっとこれが最初で最後のチャンス。
気合いを入れるべく、天地は両手で頬を叩く。
スバルと黒夜がやってくるまで残り半日。
◆ ◆ ◆
『地球に向かって宇宙からの侵略者が近づいているこの状況、どう見ますか渡辺さん』
『まさにSF映画のようなことが、現実になってしまいました。サテラポリスとNAXAが対処にあたってくれていますが不安はつきません』
『声明の後、各地で電波ウィルスが原因と見られる事件が後を絶ちません。サテラポリスが対処にあたってくれていますが、外出には注意が必要ですね』
『そうですね。不安を煽るようなことは言いたくありませんが、電波社会の普及した現在、電波ウィルスは天敵とも言えますね』
『早期の解決を望むはがりです。さて、今回は特別ゲストとして電波研究の第一人者ドクター・オ…』
バリボリとせんべいを齧りながらチャンネルを回す我らが母さん。
テレビ番組はどのチャンネルを回しても、同じような内容ばかり。
電波を通した宣戦布告なんてされたら、政府やNAXA、サテラポリスに情報規制をすることはできない。
電波社会に生きる全ての人間が知ることとなってしまった。
「まったく、碌な番組もやってないじゃない」
平常運転な母さんを他所に俺は外出をする準備を進める。
あとは…食事のことでも考えるか。
ゲームだと何時間経ってるんだかわからないからね。
こんな時の為に、アマケンで宇宙食を何個か買っておいた。
シャケおにぎりにプリン、アイスクリームなど真っ黒なパッケージを机に並べる。
わかりやすいように一括りにまとめておこう。
「これは、俺の分だろ。そんでこれがスバルの分…」
すると呑気にバリボリと齧っていた母さんが、こちらを一瞥して煎餅から手を離す。
「黒夜、外出なんてするつもりじゃないでしょうね?」
「ん? 外出するつもり満々だったけど」
母さんはもう一度テレビのリモコンに手を伸ばすと電源を落として立ち上がる。
「ちょっと、こっち来て座りなさい」
『ポンポン』と母さんは今自分から触っていた椅子の座面を叩く。
小さなバッグに宇宙食を詰めてから指示通りに椅子につく。
すると母さんは俺と向かい合うように反対側の椅子へと腰掛けた。
急に流れる重たい空気。
「いや、ちょっとスバルと約束をしてるんだよ。あと少しで出ないと間に合わない」
母さんの鋭い視線が突き刺さる。
先ほどの煎餅を齧っていた姿がまるで嘘のように机に肘をつく。
間違ったことは言っていない。
スバルもアカネさんと話し合いをつけて最後の戦いに臨んでくるはず。
そこに俺の名前は出てこないだろうが。
母さんが指でテーブルを『とんとん』と叩く。
少しの時間、母さんがテーブルを叩く音だけが響く。
それから少しして、思いついたように母さんは両手を合わせた。
「こんな状況だもの。せめて信頼できる大人の目がある場所にするように私からアカネさんには連絡しておくわ。家でもいいのよ?」
「大丈夫。ちょっと公園で遊んだらいつも通り帰ってくるよ」
呼吸をするように嘘をつく。
「アンタ、最近ずっとやってるニュースの内容、知らないわけないわよね」
咎めるような声音。
瞳は細められ、テーブルを叩いていた音が消える。
知らない訳がない。
むしろ、事件の真っ只中にいる当事者だ。
なんてことは言えないが。
時計を見れば、集合時間が迫っている。
「い、いや…」
「本当はウィルスバスティングなんじゃないの!?」
母さんの問いかけに、墓穴を掘ってしまったのは。
母さんの怒声。
掌に叩かれたテーブルが、大きな音を立てる。
「ずっと言おうと思ってた。『危ないことはやめなさい』って」
「俺、危ないことなんて」
「ずっとしてるじゃない。何年アンタを見てきたと思ってるの?」
『していない』とは言わせてくれなかった。
矢続きに母さんは続ける。
「朝早く出ていって、夜だって遅くに帰ってきて…。いつのまにかアンタはヤシブタウンのバトルカードショップに入り浸り始めてた」
「ごめん」
「スバルくんやミソラちゃんと遊ぶようになって、少しだけ安心したのに」
「…ごめん」
母さんの怒りに隠れていた心配と不安が露わになる。
その姿に、如何に自分が心配されていたのかを理解する。
だが、行かないわけにはいかない。
精神年齢はとっくに子どもの範疇を超えていたとしても、母は母、父は父だ。
目の前での父さんの死は大きな傷となっていたのは間違いない。
それが原因で一時期荒れていたのも間違いない。
だがスバルやミソラちゃん、みんなと過ごすうちに大事なものがどんどん増えていった。
スバルを助ける。
ミソラちゃんの支えになる。
母さんのいるこの場所を守る。
宇宙のどこかにいるであろう大吾さんだってなんとか見つけたい。
なにより、かけがえのない今を守る。
ここで引くわけには行かない。
「それでも行かせて欲しい」
「アンタが行って、何ができるの?」
「できることをする。まずは…いろいろなものを取り返してくるよ」
学校での日常も。
ミソラちゃんやスバルとの休日も。
できれば、3のストーリーが瓦解したせいで不透明になった大吾さんの生存も。
「日が落ちるまでには、必ず帰るよ」
「待ちなさい!! まだ話は終わって−−」
手を伸ばす母さんにサムズアップをかまして、リュックを背負う。
そのまま猛ダッシュで玄関に向かい、靴を中途半端に履いた状態で外へと飛び出す。
外に出ると一瞬のうちに電波変換。
ノイズの黒い霧だけを残して、ウェーブロードへ一気に上がる。
『待ちなさい!』
ウェーブロードから家を見下ろすと、母さんが勢いよく飛び出してきた。
周りを見回しているが、俺の姿はどこにもない。
すでに俺の身体はビジライザーでもかけない限り視界に捉えることはできない。
母さんは家に戻るわけでもなく、今度は公園の方へと走っていく。
「ごめん、母さん」
申し訳なさと色々な感情が湧き上がってくる。
一言だけ呟くと、母さんの背中を見送った。
◆ ◆ ◆
急いでドリームアイランドへと向かう。
道中、特に電波ウィルスとエンカウントすることもなく、すんなりと辿り着くことができた。
そのままドリームアイランドの地下への階段を降りていく。
思い返せば、ここまであっという間だった。
『明星黒夜』というイレギュラーな存在がいたとしても、この世界は回っている。
それはきっとここは紛れもない現実の世界で、この世界に生きる人々の積み重ねの結果なのだ。
『流星のロックマン3』のストーリーが瓦解しているとしても、きっとこの世界はこれからもずっと回っていく。
本来描かれなかった小学校の卒業や中学校、高校と続いていくのだ。
落下した宇宙ステーションまで辿り着く。
メインシステムのコンソールの前で、スバルと天地さんが会話をしている。
天地さんの右隣にはコンソールとは別の大きな機械。
そこからは二本の太いケーブルが伸びている。
一つはスバルのトランサー。
そしてもう一つは赤色のトランサー。
その周りにはルナとゴン太、キザマロの姿も見えた。
もちろん、ミソラちゃんの姿も。
既にメインシステムのコンソールは修復を終え、問題なく稼働している。
本体の宇宙ステーションまでのアクセスラインも無事に開通している。
どうやら少しばかり出遅れたようだ。
「黒夜くん」
「問題…なさそうだな」
スバルの表情は悪くない。
俺とは違い、しっかりと母親と話をつけたきたのだろう。
見ればわかる。
面構えが違う。
スバルの心配はしなくても良さそうだ。
天地さんは…明らかに一徹した顔をしている。
あれからずっと休むことなく作業をしていたようだ。
「メインシステムも無事に復旧した。帰りも問題なく使えるはずだ」
「ありがとうございます。天地さん」
天地さんは頷くと右隣の大きな機械に繋がっていた二つのトランサーをスバルへと手渡す。
「それとこちらの作業も済んだ。黒夜くんの言う通り、フレームはヨイリー博士に頼んで対ノイズ仕様にしたよ。だけど、トランサー内部のノイズ対策はやはり無理だったみたいだ。 …これはスバルくんに?」
「今の技術では限界でしょう。後数年すれば技術が進むかもしれませんね。スバル、ほらよ」
「これは?」
「お守りみたいなもんだ…でっかいけど。反対の腕に嵌めとけ」
『わかった!』と何の疑いもなく両腕にトランサーを取り付けるスバル。
将来、詐欺に遭わないか心配になる。
人間不信から一変。
信じすぎじゃないですか。
「ヨイリー博士とも話はついた。宇多海の方の調整も終わった。上手くいけばいいが…」
「こればかりは何とも。そもそもの話、見つからなければどうしようもありません」
「…詮無い事だったな。それにしても、僕が作ったとはいえ、まさか本当に
「あれこそ、天地さんが諦めなかった証です。今回の作戦もそのおかげで構築できた。あとは奇跡的に見つかった後、向こう側から何とかしてみます」
天地さんに深々と頭を下げる。
ヨイリー博士にも事件が解決したらきちんとお礼をしなければいけない。
研究に協力するとは言ったけど一体何をさせられるのか。
ちょっと怖い。
何はともあれ、この二人には頭が上がらなくなってしまいそうだ。
「えっと…?」
始終首を傾げるスバルに『ニヤリ』と悪どい笑みを返す。
そして、ミソラちゃんを見る。
身体の節々に絆創膏や顔のガーゼはそのままだ。
電波変換して戦うだけの体力は残っていないだろう。
この先に連れていく訳にはいかない。
「やっぱり、私も…」
「その怪我で連れていくわけにはいかないよ」
『連れていって!』と言われる前に牽制する。
「黒夜くんの意地悪! 絶対行くんだから!」
「意地悪で結構。それに昨日、ミソラちゃんと話して…覚悟が決まったよ」
言わないといつの間にかFM星まで来そうだし。
冗談抜きに。
今回のFM星での戦いはきっと今では桁違いのバトルになる。
ミソラちゃんに万が一があれば、今度こそ俺は立ち直ることが出来なくなる。
「でも…私だって」
さすがミソラちゃん。
こういう時は本当に頑固になる。
何を思っているのか、瞳には涙が溜まっている。
その先は言わせない。
勇ましく一歩前に踏み出したミソラちゃんの頭にチョップを喰らわす。
『いてっ』と可愛らしい声。
涙を溜めた瞳が上目遣いでこちらを見つめる。
俺も真っ直ぐに見つめ返す。
「こっちのことは任せた」
頭に当てていた手が、両手で掴まれる。
ゆっくりとミソラちゃんの身体の前に降ろすとそれを頬を押し付ける。
「君が帰ってくるの、待ってるから、ずっと」
「ありがとう。行ってくる」
「うん!」
ミソラちゃんとの挨拶は済んだ。
もう一度スバルに向き直る。
その表情は何故か呆れているように見える。
『な、なんだか無性に苦い物が食いたくなってきたぜ』
「奇遇だねロック。僕もコーヒーが飲みたくなってきたよ」
『ポロロン。そこの男2人、無粋なこと言わないの』
『ケッ、時間もねえ。くっちゃべってねえでそろそろ行こうぜ!』
「よし、行くか」
スバルと共に電波変換をしようとした時だった。
「うぉっほん!!」
大きな咳払いの声がドリームアイランドの地下に響く。
呆れたように半目で声の主を見る。
「…締まらないな。どうしたルナ」
白金ルナ。
その人である。
いること忘れてたよ。
「『どうした』じゃないわよ、この馬鹿星! どこを探してもあんたが見つからないから、しょうがなくここまで来てやったんでしょうが! と思ったら響ミソラはいるし、なんかすごいことになってるし! このアホ星!!」
「これはどうも。ご丁寧に」
「きーーーー!!」
今にもハンカチをポケットから取り出して噛みつきそうなルナ。
問題児と委員長。
俺とルナの関係はこんなものでいいのだ。
この事件が片付いたら、スバルとよろしくやってくれ。
マジで。
「まぁまぁ、委員長。へへっ、スバルにはもう伝えたんだ。でも委員長が『気に食わないけどあいつにも挨拶はしないといけないわ』なんて言うからさ」
「そうです。スバルくんに伝言をお願いすればいいのに『直々に言わないと気が済まない』なんて言うんですもん…と、ところでく、黒夜くん、ミソラちゃんとは、い、一体どういう…」
今更だが、ルナはともかくゴン太とキザマロは生ミソラちゃんとの対面は初めてかもしれない。
2人を見てみれば、なんだか目が赤い。
決して俺たちを見送る為に泣いた訳ではないのだろう。
「おだまりなさい…オホン、明星黒夜」
「おう」
「スバルくんを…任せていいのよね」
「任せとけ」
「言うべきことは言ったわ! とっとと行ってしまいなさい! それで、とっとと2人で一緒に帰ってきなさい!」
『ふんっ』と顔を背けるルナ。
「あ、あはは」
呆れるように笑うスバルに向き直って肩を竦める。
これもルナの精一杯の激励だ。
さて、差し当たって言うことは一つだけ。
「これが、今回の一連の事件のラストだ」
「行こう、黒夜くん!」
修復されたメインシステムのコンソールを一瞥する。
この先に、FM星への道が続いている。
最後の時は近い。
うーん。ずっとここが描きたかった…。
前章の後書きの予告で書いていた台詞。
背中を押されるスバルと逃げ出すように出た黒夜。
正に流ロク1のラストスパート、開幕です!
…次回は5月に入ってからの更新なんですけどね!