流星のファイナライズ   作:ブラック

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エピローグ

アンドロメダとの戦いから、2週間が過ぎた。

 

ノイズに侵食されつつあった星河スバルとウォーロックはFM王ケフェウスを連れて地球へと帰還を果たした。

 

どちらもノイズの侵食によるダメージが酷く、天地からヨイリーへの一報により、サテラポリス附属病院へと入院した。

 

厄介なのが、FM王ケフェウスであった。

 

地球に対して宣戦布告をしたFM星の王。

敗北し、この地球へと逃れたことを世間へ公表することもできない。

 

このことはあくまでもヨイリーの管轄として、政府とサテラポリス本部の中で隠蔽することとなった。

 

ケフェウスは、処置に対して猜疑心を抱いていたようだが、それも一時期のことでスバルとの対話の後に全てを受け入れ、回復の兆しを見せている。

 

そして最後の問題が、明星黒夜についてだった。

 

ブラックエースの存在は、すでにヨイリーからサテラポリスの長官にまで話が伝わっている。

 

表向き、行方不明ということになっているが、ヨイリーを含めた一部の人間たちは真実を知っている。

 

明星黒夜は、世間ではまだ小学生の子ども。

 

そんな子どもが、地球を救う戦いに身を置き、行方不明になったなどと…一体どのように両親に伝えるのか。

 

行方不明として処理をする他ない。

 

明星黒夜の母親と親交があった五陽田ヘイジが連絡をとっているが、どちらも心労は計り知れない。

 

唯一の希望は明星黒夜の最後を誰も見ていないということ。

 

死亡したと確定したわけではない。

 

「ヨイリー博士。発案されていたNAXAとサテラポリスの本部統一化…仮称WAXAですが、サテライトの彼ら(・・)の要請もあり、正式に発足することになりました」

 

「ようやく、重い腰をあげたのね」

 

「それと、宇宙ステーションの調査の件ですが…」

 

「わかったわ」

 

世界は回っていく。

どんなことがあろうと明日は必ずやってくる。

 

たとえ、誰かが欠けたとしても。

 

「なんとしてでも、あのトランサーを回収しなくちゃね」

 

ヨイリーはお茶を一気に飲み干すと、老体に鞭打って腰を上げるのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「お世話になりました」

 

母さんの挨拶の後に、僕も頭を下げる。

 

サテラポリス附属病院と聞いて、身構えたものの、特に何かをされることはなかった。

 

途中、五陽田警部が話をしにきたりはあったけど、ただの世間話や『お母さんを悲しませるもんじゃないぞ』という決まり文句だけだった。

 

僕の身体については、FM星人たちなどの強力な電波ウィルスによるノイズ障害として診断がおりた。

 

僕たちが、宇宙で壮絶な戦いを繰り広げたことを母さんは知らない。

 

病院の敷地内のロータリーに止まっていたコダマタウン行きのバスに乗り込む。

 

「スバル、黒夜くんのこと思い出したらいつでも教えてちょうだいね」

 

「……うん」

 

アンドロメダを倒して、ケフェウスと和解した後のことを僕はよく覚えていない。

 

最後に見えたのは、紅黒いブラックエースがこちらに向かって赤いトランサーを向ける姿。

 

ウォーロックに聞いてみても、『あれが一体何だったのか、俺にもわからねぇ』と話していて答えを得られない。

 

だが、黒夜くんは確かに『必ず帰る』…そう言ったらしい。

 

守るために行ったはずの宇宙で、僕はまた大切なものを失ってしまった。

 

「ごめんなさいスバル、いいのよ。今はゆっくり身体を休めなくっちゃ」

 

母さんの指が、僕の頬を撫でる。

 

いつのまにか、頬には涙が伝っていた。

 

壮絶な戦いが繰り広げられた宇宙ステーション【きずな】の一部が再び地球へ落下してきたというニュースが入り込んできたのは記憶に新しい。

 

大気圏突入で大半が燃え尽きてしまったようだが、一部の物はそのまま地球に落下したらしい。

 

過去に事件が起きたこともあり、宇宙ステーション【きずな】は再び世間の注目の的となった。

 

サテラポリスのヨイリー博士からの打診を受け、天地さんをはじめとした研究チームが発足したみたいだが、あまり期待はできない。

 

あの場所に黒夜くんが何かを残している暇はなかったはずだ。

 

そして父さんの手がかりも。

 

またNAXAとサテラポリスの本部が統合するということも五陽田警部が話していたが、詳しいことはわからない。

 

気がつけば、自分の家に帰ってきていた。

 

何も考えず、ベッドに倒れ込む。

 

久しぶりの自分の布団が、僕の身体を優しく受け止める。

 

ウォーロックの姿はない。

入院している時から、中に入るわけにもいかなかったウォーロックは一人で外出することが増えた。

 

ウィルスバスティングでもしているのか、ハープにでも会っているのか。

 

それとも、黒夜くんの行方を探っているのか。

 

友達なんか作ったから、こんなに苦しい思いをしなくちゃならないのか。

 

それは違う。

否定してしまえば、今までのことが全部嘘になる。

 

黒夜くんから学んできたことを否定することになる。

 

自分が弱かったから、黒夜くんを助けることができなかった。

 

僕がもっと強ければ、僕が最後まで戦えていたら…。

 

思考はどんどん悪い方へ進んでいく。

 

それでも、『必ず帰る』という言葉だけが、今の僕を支えていた。

 

 

その日の夜、僕は夢を見た。

 

「ここは…」

 

『見覚えがある光景だな』

 

真っ白い空間に僕とウォーロックは立っていた。

この光景を僕は知っている。

 

今思い出せば、懐かしさするも感じる景色。

 

AM星の三賢者に初めて会った時に似た夢。

 

あの時は、黒夜くんもここにいた。

黒夜くんは僕を抓って叩き起こして、ウォーロックには拳で頭をグリグリして起こしてたっけ。

 

懐かしい記憶に自然と笑みが溢れる。

 

「スバルくん?」

 

周りを見回してみると、ミソラちゃんとハープの姿もある。

 

「ミソラちゃん、ハープも」

 

『レディの就寝を邪魔するなんて、どういう要件かしら?』

 

『俺たちじゃねぇよ』

 

憤慨してウォーロックに詰め寄るハープをウォーロックが手で制す。

ミソラちゃんはぼーっとこちらを見ると、悲しそうに笑った。

 

「久しぶり。身体はもういいの?」

 

「うん、今日退院したんだ」

 

「そっか」

 

アンドロメダとの戦い以来、ミソラちゃんとは連絡をとっていない。

 

ただでさえ痩せ型のミソラちゃんが、少し窶れたようにも見えた。

 

白い空間に影が落ちる。

巨大な大きな影が地面に滲みのように広がると立体を描くように浮かび上がる。

 

その影が3つに分かれ、それぞれが形を作っていく。

 

『先の戦い、よくぞ戦い抜いた』

 

見間違うはずもない。

僕にスターフォーの力を託した、サテライトの管理者の姿が現れた。

 

『ふざけんじゃねぇ! 高みの見物を決め込みやがって!』

 

ウォーロックの叫び声に彼らは怯みもしない。

 

『地球への脅威は完全に消え去った』

 

『我らはアンドロメダの脅威から地球を見守る者。その役目はこれで終わりだ』

 

『お前たちをここに呼んだのは、別れを告げるため』

 

それぞれが言葉を繋げるように管理者が言葉を紡ぐと、新しく小さな影が落ちる。

その影は管理者同様に一度染み渡るように広がると、人のような形を作る。

 

『ここからは余が話す』

 

見覚えのあるシルエットが出来上がると管理者とは違い、色がついていく。

 

『お前は!』

 

『FM王…ケフェウス』

 

FM王ケフェウスが、この空間に姿を現した。

 

つい先日まで敵であったケフェウスだが、その瞳に敵意はすでにない。

ケフェウスは僕たちの方へ向くと頭を下げる。

 

『赦せとは言わぬ。ウォーロック、それにハープよ。すまなかった』

 

『やめろ。お前についてはもう終わった話だ』

 

『ポロロン、王の心が晴れたならそれ以上のことはないわ』

 

穏やかな表情で顔を上げた。

 

『スバルよ。AM星の再建に力を尽くすために余は彼ら三賢者と共に地球を去る』

 

『AM星だと?』

 

『生き残りは他にもいるということだ。ウォーロックよ』

 

『…気づいてやがったのか』

 

言葉の端に棘をまだ感じるが、今のウォーロックからは喜びも感じられた。

 

『虫のいい話だとはわかっている。だが、スバルよ。余にどうか力を貸してほしい』

 

「僕の力?」

 

『余は絆の力を知った。繋がりの暖かさを知った。余はFM星に戻り、このことを民に伝えなければならぬ。だが、その前に【絆】を教えてくれた其方と絆を結びたいのだ』

 

あの日取ることができなかったケフェウスの手が伸びる。

それを見ながら、黒夜くんを思い出す。

 

「…ありがとう。僕が、君の友達第一号になるよ」

 

『ありがとう』

 

ケフェウスの手をしっかりと取る。

 

あの日、黒夜くんがドン底にいた僕を引っ張り上げてくれた時のように。

 

アイスペガサスから一声嘶くと、ケフェウスの足元に魔法陣のようなものが薄く浮かび上がる。

魔法陣はくるくるとケフェウスを中心に回り始めると、ケフェウスの身体をスキャンするように上下に動き始める。

 

『さらばだ。我が友…スバルよ』

 

そう言い残して、ケフェウスの姿は消えた。

 

 

 

だが、管理者たちはまだ残っていた。

 

管理者たちは互いに顔を見合わせあうと、ゆっくりと口を開く。

 

『最後に明星黒夜のことだ』

 

「!?」

 

「何か知っているの!? 教えて! 黒夜くん──」

 

呼吸が荒くなり、両膝をぺたりと床につけて崩れたミソラちゃんをハープが心配するように宥める。

 

どう伝えたらいいのか、言葉を選ぶようにゆっくりと彼らは話し始める。

 

『我らは、あの壮絶な力を見た』

 

『ポロロン…それは、彼はアンドロメダとの戦いに勝ったということかしら?』

 

『あれは、もはや戦いとは呼べぬ。一方的な破壊だ』

 

隣でウォーロックが無言で目を瞑る。

 

ウォーロックは言っていた。

 

降りそぞがれる隕石が、放たれたミサイルが、アンドロメダの攻撃が紅黒い膜に触れて消滅したと。

 

有無を言わさない圧倒的なノイズの嵐で、アンドロメダを制圧したと。

 

『明星黒夜は死んではいない(・・・・・・)』

 

ミソラちゃんの呼吸が落ち着きを取り戻す。

 

だが、言葉通りには受け取るわけにはいかない。

 

『生きている』ではなく、『死んではいない』。その言葉遣いが、妙に心を騒つかせる。

 

『あの男は、ノイズのみで構成される世界…ノイズウェーブに落ちていった』

 

◆ ◆ ◆

 

黒の世界を只管に歩く。

 

歩く度に、身体がノイズで乱れて揺れる。

 

どこに繋がっているのかはわからない。

 

だが、目指す方角はなんとなくわかる。

 

一体どれだけの黒い靄でできた穴を潜り抜けたことか。

 

現実の世界ではどれだけの時間が経っているのだろうか。

 

1週間?

それとも2週間?

 

もしかしたら1ヶ月かもしれない。

 

いやいや、流石に1ヶ月も経ってたら俺死んでるよな。

 

ノイズウェーブとはいえ、ここも電波だ。

 

現実世界とは時間の流れが違う…と信じたい。

 

俺のノイズに耐えていた脅威の耐久性があったトランサーも、ついに壊れてしまった。

 

電源すら入らない。

 

まず帰ったら何をするべきだろう。

 

ミソラちゃんへの言い訳だろうか。

 

母さんは今度こそ許してはくれないだろう。

 

どちらにしても、これは1日説教コースになることは間違いない。

 

スバルとケフェウスは大丈夫だっただろうか。

 

そして、来るべき時に備えて準備をしなければならない。

 

茜さんに話して、あのプログラムも貰っておかなければならない。

ヨイリー博士に相談して、身体の中にあるであろうプログラムを改良してもらわなければならない。

 

なんなら身体のチェックもしてもらわないとやばいのでは?

 

あれぇ…なんだかヨイリー博士に実験体にされそうな気がするんだけど大丈夫かな。

 

あぁ、とにかくやることが山積みだ。

 

そもそも、次の話まで2ヶ月しかなかったはず。

治安悪すぎだろ、この世界。

 

身体がふらつく。

 

次のノイズウェーブの出口はどこなのか。

 

拝啓、どこかわからないノイズウェーブから地球のみんなへ。

 

必ず、帰ります。

 

 

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