流星のファイナライズ 作:ブラック
「あ、あのときと同じです…」
思い返すのは数年前の出来事。あの上司が僕の発明を盗み、裏切ったあのときのことだ。
今回も同じだ。僕はまた同じ手口で乗せられてしまったんだ。
「ほうら、だからボクは言っただろう」
それでも、天地さんだけは…。
「で、でも僕は信じたかった。あ、天地さんは、そ、そんなことをする人じゃないって…」
「それでも彼は裏切った。これでわかったろう?世の中の本質…それは裏切りさ。君のように信じるものは報われない」
そうだ。
それでも天地さんは僕を裏切った。
…信じていたのに!
「い、いやだ。ま、またあんなおもいを繰り返すなんて…そ、そんな、嫌だ!」
次はどこに行けばいい?
頼る人は誰もいない。頼りたくもない。けど研究ができなくなるのは嫌だ。
「そうだ。だから彼が発表する前に潰すんだ」
「つ、潰す?」
「君にはその権利がある。だってあれは、君の物じゃないか」
あぁ、そうです。
あれは私の物です。
「そ、そうです。あ、あれは、わ、私が開発したんです…でも…」
天地さんは本当に?
何かの間違いじゃないんですか?
いや、でも、彼は私を裏切った。
あれ、裏切った?
本当に?
「なにを躊躇っているんだい?あぁ、そうか。心配なんだね。安心してよ、ボクは君の理解者。力を貸してあげよう。絶対的な力をね…」
▼ ▼ ▼
「擬似宇宙ツアーに参加される方ですね。まず注意をしたいと思います」
擬似宇宙ツアーの受付でがっしりとした体型のお兄さんの言葉に耳をすます。それとゴン太が寝ないように輪ゴムを用意する。
「擬似宇宙体験ツアーでは実際に無重力、無酸素の空間で行います。そのためこの酸素ボンベと宇宙服を必ず着用することをお願いしています。もしも心臓に持病をお持ちの方や気分が優れない方がおりましたら参加しないようにお願いします」
そう言ってお兄さんは一人ひとり宇宙服を手渡していく。一人ひとり手渡すのは顔色を確かめる意味もあるのかもしれない。
宇宙服の着方をレクチャーしてもらうと、後ろからお姉さんが酸素ボンベをかけてくれる。
この重い酸素ボンベをあんな細身のお姉さんが持ち上げただと!?
天地さんの最終確認のもと、重たい扉を開けて細いトンネルのような道を潜っていく。
これまた面白いことに歩いていたはずが段々と地面から足が離れ、身体が軽くなっていく。進むとさらに身体が軽くなる。足は完全に宙に浮き、手すりを掴んで先へ進んでいく。
ちょっとでも空気が入ればこうはならないだろう。故に、この仕組みがとても気になるけれど、多分教えてくれないだろうな〜。
やがて星々が輝く場所…宇宙へとたどり着いた。
すでに身体は完全に浮いていて、バランスを取るだけで精一杯。
キザマロは辛うじて姿勢を保っているようだけど、ゴン太は身体が重いせいか一度バランスを崩してからそのまま回転している。
哀れ、ゴン太…。
ルナも結構テンパっているようで、時折くるくると縦に回っている。
あれ、意外とキザマロって優秀なのでは?
対するスバルだがこちらはまったく問題がないようで最初こそ踏ん張っていたものの、今は自由に星空を眺めている。
あ、木星の模様の部分にHPメモリ10み〜つけた。
「さて皆様、改めまして擬似宇宙へようこそ…って、天地所長も参加なさるんですか?」
「今日は子どもたちの付き添いでね。僕のことは気にせずいつも通り頼むよ」
いや、所長が実際に見ていて『気にしないで頼むよ』は無理だと思うよ天地さん…。
「さて、どうでしょうか。まずは移動の仕方からゆっくりと学んでいきましょう」
擬似宇宙ツアーが始まった。
まずは移動の仕方や上下に移動する方法、向きの変え方など丁寧にやる。そのあとゆっくりと移動するガイドさんについて行って各惑星、それから宙に瞬く星々の説明が始まった。
時折スバルが持ち前の宇宙知識を発揮してルナトリオを驚かせたりと楽しげに進んでいった。
「さて、次にお見せするのは…」
『白鳥の舞です』
「…え?」
その言葉は、一体誰が言ったものだったか。
俺は納得する。
そういえばこんな感じで始まったんだと。
「う、宇田海くん?」
宇田海さんは丸い機材の上に立っていた。擬似とはいえ、酸素も重量もない宇宙空間を生身でだ。異常なことは誰でも理解できる。立っているのは星々を投映している大きなプラネタリウムの機材だろうか。それとも擬似宇宙を作り出している機材かな?
「私は生まれ変わりました」
どうやら宇田海さんはどこぞの仮面野郎だったようだ。これはまさしく人間やめるぞ宣言に違いない。
直後、まばゆい光が擬似宇宙に広がる。誰もが瞳を閉じる。そして次の瞬間、そこには確かに生まれ変わった男の姿があった。
背中から生えているのは羽だ。それもとても綺麗な白鳥の羽。全身は白とグレーでカラーリングされており、頭部は可愛らしい白鳥の顔がある。
これこそ宇田海さんとFM星人キグナスが電波変換した姿…キグナス・ウィングだ。
とてもわかりやすく説明するとストレッ○マン。
そう…あれはストレッ○マンの色を白とグレーにして、顔が出ていない頭部を白鳥の顔にした容姿をしているのだ。
白鳥を模した顔から伸びる黒い嘴がなんとも可愛らしい。
「キャー!!」
「か、怪物ですーー!!」
あれを怪物と呼んでいいのか!?
確かに怪物と呼んでも間違ってはないんだけどね。だって背中から羽生えてるし、飛んでるし、顔黒いし。
けれどこうして見ると、オックス・ファイアの方が何倍も怪物だったな〜。
「…」
無言のスバル。今まさに間違いなくウォーロックと何か交信しているに違いない。
「天地さん。私はあなたに罰を与えに来ました。私を裏切ったこと、後悔するといいです」
俺の瞳がキグナスから何かを感じとる。
「目をそらせ!」
俺自身もしっかりと目を瞑る。ここで目を開いているとこの後動けなくなってしまう。
『きゃ、身体が勝手に!?』『うわぁぁぁ!!』『なんです!?』
この声はルナトリオか。
初見ならばどうやっても回避は不可能だろう。もう少し早く言えたら良かったのかもしれないが、タイミングまでは分からなかった。
すぐなんとかするから許しておくれ。
瞳を開く。
俺とスバルが踊りにかかっていないことは気づいていないらしい。
それほどまでに天地さんに夢中というわけだ。
「さあ、力尽きるまで踊り続けるがいい!!」
「な、なぜだ!宇田海くん、なぜこんなことを!」
「わかったんですよ…裏切りこそが世の中の本質だってね。じきに酸素ボンベも尽きるでしょう。それまでこの宇宙を漂ってください」
キグナス・ウィングの姿が消える。
次に姿を見せたのはプラネタリウムを投映している機材のモニター。
『ここから見学させてもらいます。死の踊り…をね』
▼ ▼ ▼
みんなが踊り狂っている中で俺とスバルは何か外へ出る手段がないか必死に探していた。
実はそれはあっという間に見つかって今は扉は開いている。
宇宙大好きの俺たちに宇宙のヒントを出したら暗証番号なんて関係ないね。
入り口の扉はガイドさんが閉めていたことを思い出したのだ。
ガイドのお姉さんの身体をちょっと触ったのはいい思い出だ…別に変なとこは触ってないんだからね!
「どこ行くの、スバル?」
「な、何かこれを止める方法を探しに行ってくる!」
「そ、それなら俺も一緒に…」
別にやる意味もない茶番。
今更だけどウォーロックにはバレそうな気しかしない。というかバレてるのでは?
だってまず俺がキグナスの踊りを回避した時点でおかしいし。さらに気がついたらいなくなっててブラックエースがいるってそれもう確信犯じゃないですか〜。
スバルはそのまま扉から外へと出て行った。
「待ってよ〜!」
棒読みだがこうして叫んでおくことに意味がある。これで俺はスバルを探しに行って迷子になった設定にしておこう!
バレたらバレたでどうにでもなればいいさ。
え、投げやりだって?
人生諦めも肝心だよ。
ルナたちに軽く外へ出て助けを呼んでくると一言告げると扉とは真逆の方向に進む。
そのまま奥へ奥へと進んでいき、ルナたちの姿が見えなくなったところで電波変換。
そのまま擬似宇宙のウェーブロードへ移動する。スバルも今頃はウェーブホールを見つけて電波変換しているだろうか。
ん?
どこかで強力なノイズの流れがある…これは擬似宇宙空間の外側。
そうか、スバルがブラックホール発生装置を起動させたのかな?
さっき探索ついでにブラックホール発生装置の故障は直しておいたのであとは起動させるだけだったはず。因みに原因はウィルスでした。
中からモニターで見ているキグナス・ウィングももう俺の存在に気づいてるはず。何かしらの対策はされているだろう。
それでもどうこうできるわけはないけどね。
「ブラックエース、どうしてここに!?」
『お前…』
「シャラップ、ウォーロック。そりゃもちろん、勘だよスバル」
ウォーロックもお馬鹿さんではなかったようだ。
人間の時の周波数はウォーロックにすでに感知されている。ノイズがかかっていて周波数が乱れているとはいえ、電波世界に影響を与えない程度の放出では完全には隠せない。
一度ウォーロックを黙らせて何か言われる前にウェーブイン。
広がっていたのは無限の星々。
それらの星々が線で結ばれ星座の形を作っている。ウェーブロードも特殊なようで月や星の形が散りばめられていた。こんな状況でなければ素直に見惚れていたに違いない。
「いつも通りだけど話はなし、白金ルナ含めたみんなを助けないとね」
『何を企んでるのか知らねえが、キグナスの野郎はこの奥だ。奴のことだ…今頃にやけた顔をして弱っていく様子を見物してるに決まってる』
「君の友達、性格悪いのね」
『と、友達なんかじゃねえ!』
「今のロック、なんかデジャヴ…」
それは多分君自身だよスバル…。
綺麗に彩られたウェーブロードを歩いているとどことなく前世のゲームを思い出す。流星のロックマンではなく、マリ○カート。その中のコースの一つ、レインボーロード。最新のものではなく昔のコースによく似ていた。
だが、このコースには欠点が存在していた。
巨大な星が道を塞いでいる。
「早く先に進みたいのに!」
『落ち着けスバル。何か方法があるはずだ』
「その通り、例えばエリアのボスみたいなのを倒さなきゃいけなかったりね」
にこりと微笑んで上空を指差す。
『なるほどな…』
「へ、うえ?」
前回のオックス・ファイアのときは電脳世界にばら撒かれた鍵を拾うことで先に進むことができた。今回も何かしらギミックがあると踏んでいたが、間違ってなかった。
上空に浮かんで…いや、飛んでいたのはヒヨコだった。
あれ、ヒヨコじゃない?
アヒル?
ん、身体黄色いけど顔黒いよ?
やっぱヒヨコだって。
「クエーー!! そこのお前、何者だ!」
「うわ、喋った!?」
「クエーー! 俺様たちはシタッパー! キグナス様の忠実なしもべだ!」
『思い出したぜ。キグナスの手下には妙なアヒルどもがいると…』
やめてよ、ウォーロックそれ地雷だから…。
ウォーロックの言葉が運悪く聞こえてしまったようで、空に浮かぶシタッパーは怒ったような表情を見せて固まる。
「…いま、アヒルと言ったのか?」
「ダメだぞ、ウォーロック。あれはアヒルじゃなくてヒヨコだ。よく見ろ身体が黄色いじゃないか」
「クエーー!!許せな〜〜〜い!! 俺たちはれっきとした白鳥だ!」
「どう見てもヒヨコだろ!? 鏡見てこい!!」
思わずつっこんでしまった俺は悪くない。だってスバルも頷いていたもんね。
ウォーロックは『やりやがったこいつ』みたいなことボソって言ったけど、元はと言えばお前のせいだからな!!
「気にしてることをよくも〜!!クエーー!!くらえ、星のダンス!」
シタッパーがくるりと回ったかと思うと、巨大な星が轟音とともに落ちる。ほぼ同じタイミングで落ちてくる星を回避する。回避した後も星が落ち続けるあたり、『星のダンス』という名前は伊達ではないようだ。
うん、やっぱり範囲はあるみたいだね。
どうやら降ってくるエリアと降ってこないエリアがあるようだ。今回のギミックは間違いなくこれだ。この電脳世界全体に視界を広げてみるとあちらこちらにロケットが見受けられる。
あれでシタッパーを撃退していくのだろう。
「絶対にお前らを星屑にしてやるーー! みんな配置につけー!!」
上空に浮いていた総勢9羽のシタッパーはそれぞれの方向へと飛び立って行った。
全員で来た方がまだ勝ち目があったとは言わないでおこう。
未だにこのエリアに残っているシタッパーは上空で未だに星を落とし続けている。
スバルはバトルカードをウォーロックに食わせて対抗しようとしたようだが、高度が高すぎるせいか有効なダメージは与えられないでいる。
やはり、あのロケットを使う必要があるらしい。
星のダンスをくぐり抜けるのは至って簡単だった。やはり、シタッパーが一羽で落とせる量には限りがあるようだ。
「クエーー!! 当てられるもんなら当ててみろ!」
『スバル、ロケットの側面にレバーがあるのはわかるな。そのレバーを引っ張ってアヒルめがけてタイミングよく放せ』
「うん、わかった!」
スバルがロケットの側面のレバーを引っ張るとゆっくりとロケットのエンジンが始動していく。やがてロケットが完全に点火し今にも飛び立ちそうなところをギリギリまで抑える。
シタッパーは自分に当たるはずがないと思っているのか、挑発するように時折真上を通る。
ゲームでどうして遠くへ逃げないのか不思議に思ってたけど、シタッパーってお調子者だったんだね…キグナスの部下にしてはちょっとおかしいね。
やがて放たれたロケットは寸分たがわずシタッパーへと直撃し、爆発する。
「ググ、こ、これじゃやきとりだぜ。キグナス様、バンザーーーーーーーイ!!」
そんなことを言い残してシタッパーは消えて行った。
あ、こんなところに800Z…ワンタッチの差でウォーロックに取られました。