ONEPIECE~珀鉛の少女~   作:はむらび

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CASE.3:百薬の長、万病の元

 そもそもの話をしよう。なぜ、酒場に居た海軍と、海賊が争いすら起こさなかったのか。海軍と海賊。それ以外に客はいなかったにもかかわらず。懸賞金2000万ベリーの海賊「鉤爪のベディ」と、海軍第132支部ウィーン中佐の部隊に、いざこざすらも起こらなかったのか。答えは簡単だ。

 

「この酒場では争ってはならない」。そう、店主たる彼女、ステア・エリクシルによって定められていたからだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あたしの酒場で死人を出そうとする気か、クソガキ。いい度胸だな。」

 

わたしを壁まで殴り飛ばして、彼女はそう言い放った。

 

『殴られた』。銃弾もナイフも効かない私に、打撃を当てた。それに、「病気」が感染しない。どんなに無双の英傑でも、そんなに怖い海賊でも、そしてどんなに偉い王様でも。絶対に、「老い」と「病」には勝てない。それは、子供の私にすらわかる当たり前のことなのに。

 

空気感染、ダメ。飛沫感染、ダメ。接触感染、ダメだった。血液感染、粘膜感染。ムリ。アレに血を流させるのは。ぜったいに。

 

私には、ただ睨むことしかできなかった。邪魔なぼろきれを投げ捨てて。立ち上がるのがやっとでも、それでも、運命に抗わないわけにはいかなかった。せっかく生き残ったのに、ただで死ぬわけにはいかなかった。

 

「変色した白い肌… なるほど、フレバンスの生き残りか。『「病気」だから病気にかからない』。だから生き残った。そういうカラクリだろ。違うか?」

 

酒場に来た客との雑談のように。客のプライベートに踏み込む、不躾とはいえ、気さくな話。それでも、その声に優しさはなく、その視線は冷たかった。養豚場の豚を見る目、という言葉もあるが、彼女の瞳は、私を(てき)としてとらえていて、だからこそ恐ろしかった。

 

私は、逃げ出した。体をすべて黒い煙に変えて。今度こそ殴られないように。今度も生きられるように。

 

だけど………

 

「この期に及んで自分が無敵だと錯覚してんのかクソガキ!」

 

無駄だった、肌色の一片さえ残さないほど、体を瘴気に変えたのに。

ダメだった。ダメだからと言って、逃げなくてもいい道理はなかった。殺される。そう、思ったからだ。

あいにく、這いつくばるのには慣れていた。1週間ほど前までは、這いつくばってしか動けなかったのだから。

 

這いつくばって、這いつくばって。客席まで逃げた。でも、追ってくる。前のように見切れない動きじゃない。ただ、ゆっくり歩いてくるだけなのに。逃げられない。

 

バァン!と、

その時、銃声が鳴った。私は何が起きたのか、とっさには理解できなかった。違う。何をしたのか理解したくなかったんだ。

 

私は、近くの客の持っていた銃を奪って、撃ったんだ。私は生きたかったから。当たれば死んじゃうかもしれないけど、それでも、生きたかった。フレバンスで倒れていた人たちみたいに、友達みたいに、お母さんやお父さんみたいに、なりたくなかった。

 

店主の脳天に穴が開いた。強い、不快なにおいのする液体が飛び散った。

 

 

 

 

それでも、店主は止まらなかった。

「やめて!やめて!」

恐怖を振り払うように、私はまた、引き金を引いた。

パァン!パァン!パァン!店主の心臓に、脇腹に、穴が開いた。まるで吸い込まれるように。避ける気がないように。まるで、店を、客を、庇うように。

 

 

液体が飛び散った。強い、不快な…… アルコールのにおいがする、透明な液体が。

 

店主は、意にも介さず歩いてくる。

「不思議かクソガキ」

不思議……どころであるものか。銃弾を避けられる奴はいるだろう。銃弾を耐える奴とか……銃弾を掴んで握りつぶす奴なんかもいるかもしれない。だけど、この世に、脳天を貫かれてなお生きていられる人間など……

 

 

いた。そうだ。まさか……

 

 

「簡単だ。てめぇと同じだよ。私はステア・エリクシル。ベロベロの実の『(アルコール)人間』。てめぇだけじゃないんだ。銃も剣も、あいにくあたしには通用しないし、『百薬の長』たるあたしは病気なんかにもならない。諦めな。ガキ。」

 

歩いてくる。歩いてくる。店主は怒りの形相で。カランカランと、店主の体から勢いを失った銃弾が落ちてくる。

 

「加減は抜きだ。あたしの酒場に騒ぎを持ち込んで、客をみぃんな倒しやがって。挙句の果てに、逃げようってならつゆ知らず、私を『殺そうと』したな?」

加減どころの騒ぎではない。自然系(ロギア)の能力者が能力を使わず体術だけで戦っていた。

本来なら彼女は……

『絡み酒「どぶろく」』

ただ、掴むだけ。その腕は、液体と化し、並の人間の半身ほどに巨大化する。それだけ。それでも、逃れられない。覇気すら使う大人と、ただの子供。

覇気も使えないのならば、触れることもできないのならば、抵抗なぞ、できるわけがない。

それに… (あつい!体が…灼ける!)

実際問題、アルコールは「液体」、それも、「消毒液」だ。「疫病人間」の「能力者」では、相性が悪すぎた。

 

 

「わ、わたしを殺したら、この人たちの病気は治らなくなるぞ!」「残念だがそうでもないな。こういう手合いの能力の効力は『術者が意識を失えば切れる』もんだ。」

そんな馬鹿な。いや、だから彼女は私を殺そうと……

 

「これは慈悲だ。ただ、安らかに眠らせてやる。感謝しな。」そうして、彼女は私の額に、口づけを。

 

『眠り酒「ナイトキャップ」』。

 

そして、私は意識を失った。

 

 

 




ラミちゃんの能力もたいがい強力ですが、ステアさんのも十二分に… よくSSにある水人間の上位種みたいな性質してますからね…海には弱いですけど。

【ベロベロの実】:???系「酒人間」。
・体を(アルコール)に変える能力。
・「酒」は液体扱いなので能力者の力を削ぐ。
・酒は百薬の長。つねに内臓が消毒液に浸かっているようなものなので病気にならない。
・「ベロベロ」は「べろべろに酔う」より。

あたり。
ステアさんは自分のことを自然系だと思い込んでいるようだが、実態は不明。特殊な超人系である可能性もあり。
このSSではステアさんの認識に従い自然系(ロギア)として扱います。
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