むかし、店に来ていた、海賊がいた。むかし、店に来ていた、海軍がいた。海賊は、略奪のために店に来て、海軍は、そんな海賊を捕まえるためにうちの店に来ていた。父や母は、こんなに頑張って、こんなにしがない酒場を切り盛りしていたというのに、だれも、そこを酒場だと思っていなかった。わたしは、戦場に棲んでいた。そんなある日の話をしよう。あたしの昔の話を。
偉大なる航路。新世界のとある島。水の代わりに酒が湧く、酒呑みの島、バッカス島。そこがあたしの故郷だった。今になって思えば、ガキの成育には極めて悪い環境だったと思うが、陽気なオッサンと陽気なおっちゃんと陽気なババアと陽気なオカマに囲まれて、みんな優しくて、まぁ、人間的には恵まれていた。
だけど、それは島に住んでいる人の気質。外からやってきたやつらは、「酒癖が悪い」ことも多かった。
だから、争いが多い島だった。ババアとおっちゃんとオカマは強かったから生き残れたが、オッサンは酔った海賊…大酒のバスコ・ショットだったか…に絡まれて死んだ。そういう島だった。酒を呑むのは、気心の知れた仲間とでないといけない。この島では、気心の知れた仲間以外とはともに居てはいけない。とくに明文化されたそういうルールがあったわけではないが、それは、生き残るための常識だった。
だけどある日、うちの店に大酒呑みの海賊がやってきた。常人の数倍の身長を持つ、白い髭の大男は店には入れなかったが、店の外であっても、うちの店の飯を食い、うちの店の酒を呑んで、笑っていた。だけど、それを追う海軍がやってきた。よくあることだ。酒を呑んで宴会をする気のいい海賊は、つまりゆったりしているということでもあり、海軍に居場所をつかまれやすい。だからこの日も。いつものように暴動が起きて、うちの店がまた戦場になるのだと思っていた。
だけど気づけば、その老齢の海軍将校は。ともに海賊と酒を酌み交わしていた。何があったか知らないけれど、それでもあたしは気づいたんだ。
「ほんとうは、気心知れた仲間のように、誰とでも酒は酌み交わせる。」きっと、みんな立場に縛られ、できないだけなんだ。
だから、あたしは島を出て、この酒場を開いた。「海賊と海軍が酒を酌み交わせる場所」「復讐鬼と親の敵が、ともに語り合える場所」。たとえここを一歩出たら戦争になるとしても、この店では酒を飲み、笑っていられるように。国にも立場にも縛られない。それが、あたしの海上酒場「カルーア」だったんだ。
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「起きたかクソガキ」
「まだぁ…もうちょっと……。」
何かの気の迷いだろう。あたしはこのガキを匿っていた。
本当なら、海楼石の鎖で巻いて、起きたウィーン中佐に持ち帰ってもらおうと思っていた。うちの店では海賊を捕まえることすら許さない。だが客に手を出したやつは話が別だ。
だけど…
ここは。誰もが笑いあえる酒場だ。腹が減った、金を持ってないガキだから。そんなものは元来、理由になどならないはずなのだ。
だから。
「ほら、メシだ。たっぷり食え。」
キョトンとした顔。誰だってこの状況ならそうするだろう。警戒してしかるべきだ。
「毒とかは入ってねェよ、うちは酒場だ。毒入りのメシを出す酒場がどこにある。」
海鮮のピラフ。余り物で作った、所詮まかない料理だ。
でも、何日もメシを食ってないガキにはきっと、ご馳走だったのだろう。勢いよくかきこんで、むせて。
だけど。それじゃダメなんだ。コイツを外に放り出したら、また同じことをする。反省はしただろう。後悔もしただろう。罪悪感もあったろうし、二度とやるもんか!と思っているはずだ。というか腹が減ったからといって略奪に手を染めようなんて
だけど。人は誰でも、命が大事だ。飢えて死にそうな時に。そのための圧倒的な力があるときに。略奪に手を
なにより、こんなガキを。生きていく当てもないガキを。そのまま世に放り出すのは、「カルーア」らしくない気がしたんだ。
だから。
「お前、うちで働くつもりはないか?」
「え……?」
「実のところ、あたしは店員が欲しかったんだ。ここにはあたしがいるとはいえ、無法者すら受け入れるカルーアは、銃弾飛び交う戦場だ。そんなところで働きたい店員がどこにいる?」
「……」
「お前は、銃弾飛び交う酒場でも
「……」
「ああ。強要はしない。これはスカウトだ。今度からウチで略奪をしないなら……まあ、今回は見逃してやる。」
「いや……」
「ん?」
「私を!ここで働かせてください!」
突然の大声で、彼女はそう言った。
ああ。了解だ。
「そういえば聞いてなかったな。お前、名前は?」
「ラミ…トラファルガー・ラミ。」
「じゃあ今度はあたしの番だな。もう一度、今度は店主として自己紹介しよう。」
スゥっと、息を吸った。
「あたしはステア!ステア・エリクシル!ただのしがない、酒場の店主だ!私は厳しいぞ!年がら年中働かせるし、休みだってそんなにない!だけど……お前には二度と、ひもじい思いはさせない!なんてったって、
「はい!」
私は笑った。ラミも笑った。ついさっきまで相手を殺そうとまでしていたのに、何の因果か、店の一員にしようとしている、そんな