ONEPIECE~珀鉛の少女~   作:はむらび

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更新遅れました。かなり日常回。


CASE.5:病気の少女、病気の症状

北の海、チーズが名産の島「セルニック」。焦土と化したその島に佇むは、ピエロのような長身痩躯の男。

彼は足元にあったそれを海に蹴り飛ばし、言った。

「もう二度と会うことはない。あばよ。」

これはただの日常だ。彼にとっては、なにも、珍しいことではなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(悪魔の実の図鑑…こんなものがあったんだ…)

私は、自分の能力がなんなのか、実のところ全く知らなかった。「悪魔の実の能力者」という名前も、1週間前に私を撃った果物屋のおじさんが言っていた言葉の受け売りだった。それでは不都合だと、ステアは、この本をくれたんだ。

「イルイルの実の…疫病人間。」本には名前と、『体を病気に変える』という、私が知っていることしか書いていなかったけれど、それでもその名前は、私にふさわしく思えた。

 

 

 

 

「サボってんじゃねェぞラミ !」

酒場の喧騒の中でも、その怒号は、いちだんと響いた。

「今行きまーす!」私は浮いた。

海上酒場カルーアは、大型の屋形船だ。大きな吹き抜けに二階席まである。ひとりで切り盛りするのは無理だ。手が何本あっても足りない。はずなのだが、ステアは何の問題もないかの如く運営していた。なるほど。私を救った理由はこれに違いない。やさしさとかもあったのだろうが、実際問題店員は欲しかったのだろう。

 

腕を体より大きく変化させ、大皿を両手に載せて浮く。2階席までの直線移動が可能であることは、正直便利だ。

「おいラミ!ここは食い物屋だぞ!」「大丈夫!絶対うつらない(・・・・・)から!」

そう。簡単な話。感染させなければよい。感染したとしても症状を出さなければよい。

だけど、それを、ステアに説明し、納得してもらうのがムズカシイ。

 

 

「ああ、なら、良い。」

あれ?

 

私が店員になってからというもの、ステアは妙に私に甘い。怒声罵声は飛び交うものの、店の危機にならなければ意外と怒らない性格らしい。

私への信用度も高いし、かなりいい人と言えよう。

 

ヒュン、と音がし、私の頬を銃弾が掠った。私の頬からは、赤い血の代わりに、黒い煙が噴き出し、すぐに頬に戻った。直後、ステアの怒りを買った下手人は、海に突き落とされた。今週に入って2回目だ。ステアの望みがどうであれ、荒くれ物、無法者をも容認する酒場は、一時のミスで銃弾が飛び交う。それを店員が受ければ、まあ、ケガをしたり、死んじゃったりするわけで。

 

だからこんな風に。「ああ、ステア。お前は強い。お前に勝てるなんて思っちゃいねぇさ。攻撃が当たらないとか、そういう問題じゃなかったってのは、今の俺にはわかる。だが、弱くなったな(・・・・・・)!こいつの命が惜しければ金を出せ!」

掴まれて人質に取られて銃を突きつけられても大丈夫な店員でなければ店員に取ることができな……掴まれても?

 

くすんだ灰色の髪を短髪に切りそろえた大男。太い腕に浮かび上がった傷は、彼のかつての戦いを物語る。

「あー、お前、誰だ?前に店から蹴り出したことは覚えてるんだが…」「ああ。あの時の名前を思い出してもらえなくても構わねぇ。昔の未熟な俺を覚えてもらってても困るだけだ。だから、今こそ覚えておけ!俺は懸賞金9700万B(ベリー)、灰熊のグリズ! 残念だが今の俺は昔とは違う!武装色の覇気も会得した!そう、偉大なる航路の冒険でな!」「あー、つまり逃げ出してきたやつか。で、金も船も仲間も失って…と。」

なんとなく同情心が湧いてくる境遇だ。

ただ、人質に取られている側としては同情している場合ではない。どちらかというと恐怖心が…

 

ダメだ、それもあんまないかな。

「ラミ、まぁ、とりあえずアレだ。寝かしとけ(・・・・・)。」

「了解」

だって、私を掴んでいるということは。病に触れているということだ。

疾病返し(しっぺがえし)

それは毒人間に、雷人間に、ガス人間に不用意に触れているのと同質。首をつかんでいるのはどちらなのか。物理的にはあちらだが、比喩的にはこちらだ。私に触れた腕から、黒い斑紋が浮き上がって。『失神(シンコープ)』。

人は、老いと、病には勝てない。例外は見つかったものの、それは、確かに、真理であるはずだ。

 

ドサッ!

私を掴む腕がとたんに力を失う。灰熊のグリズはその場に倒れこんだ。

 

「いいや、まだだ!」否。まだ動ける。体格によるものか免疫によるものかは知れないが、効きが弱かったようだ。すでに私には触れていない。黒死病(ペスト)を発動し、揮発するよりも早く、その拳は私を殺傷し得るだろう。

「じゃあもう少し。」だけれど。私は病気であるからして。毒ともガスとも雷とも違う。感染している以上、何もしなくとも、容易く悪化する。ぱちん、と指を鳴らすだけで、悪化「させられる」。すでに感染した病を体内で増殖させる。体内で変性させる。それができるのが、それであるのが、(わたし)

故に、今度こそ、動けないだろう。

 

 

 

「仲間を失って自棄になって、うちの店員(なかま)に手を出したか。ほう。いいご身分だなゴミめ。」何もしていないステアが言った。「ああ。強くなったと……思ったんだけどな。こんなガキにまで負けるとは思っちゃいなかった。」「当然だろうが。お前、前のほうが強かったぞ。」「ああ、そうかい。」なんか満足した顔で死ぬ感じで倒れてるけど、失神(シンコープ)は死ぬ技ではない。「まあ、お前を海軍に突き出すのは良いんだが…まあ、ガキの情操教育に悪いしな。特別にタダでいい。食ったら出てけ。」さっき海に突き落とされた海賊のことは覚えていないらしい。

銃弾飛び交う常在戦場酒場は、たぶん私の情操教育的にはよろしくない。

だけど、天国のお父さん、お母さん、わたし、楽しいです。

 

 

 

 

 




【イルイルの実】:自然系「疫病人間」。
・体を「病気」に変え、感染する。
・感染した相手に、病気の症状を引き起こすことができる。
・「病気」は黒い煙の姿を取る。
・もとから病気なので病気にならない。ただし、それは体内から病原がなくなったことを意味しない。たんに症状が消えるだけ。だからラミの肌はまだ白い。
・「イル」は病気の「ill」より。
・「疫病人間」であり、「ウィルス人間」でないが故の自然系。細菌・ウィルス・果ては公害病・生活習慣病まで含む、「疫病という自然現象」のロギア。故に「動物系」にカテゴライズできない。
同類には「氷人間」ではなく「凍結人間」のヒエヒエの実、同じく「氷人間」ではなく「雪人間」のユキユキの実、「泥人間」ではなく「沼人間」のヌマヌマの実(なので「水を含む自然物」の能力者であることが容認されている)や、「重力人間」でなく「ブラックホール人間」でもなく「闇人間」のヤミヤミの実などが存在する。
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