ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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昨日の予告通り今回も暴力的な展開で英子さんが無双します。
でも物語の雰囲気重視という事でご理解頂ければと。


第九話   上総(かずさ)の大猪

「このっ!離せ!貴様ぁ!!」

 

 

 すっかり頭に血が上り暴れるまほをものともせず、後ろ手に捻り上げたまま職員通用口の外まで連行する英子と、その後ろをトボトボと付き従う者達。

 因みに亜美とみほだけは千代美に付き添い院内に残っていた。

 そして駐車場脇の駐輪場の囲いの影まで来た処で英子は乱暴にまほを突き放つ。

 

 

「ふざけるなっ!貴様は一体何者だ!」

 

「私か?そんな事どうでもよかろう、場所もわきまえず騒ぎ立てる愚か者が」

 

「なっなんだとぅ!お前は何なんだよ!!」

 

「人に問う前に自分が名乗りもせずか、後継者がこれでは西住も先々たかが知れているな」

 

「な!?き、貴様!言わせておけば!」

 

 

 今度は英子に殴り掛かるが彼女は全く避けようともしなかった。

 まほの右の拳が英子の左頬に入るも微動だにしない。

 

 

「…効かぬ…気を付け!顎引け!歯を食いしばれ!」

 

 

 有無を言わさぬ英子の鋭い命令の声、凄まじいまでの強制力と西住の者として長年鍛えられて来た性であろうかその命令に瞬時に従ってしまうまほ。

 

 

「修正!」

 

 

 紫電一閃したかに見える鉄拳制裁。

 尤も英子の後の言によれば大幅に手加減した一撃がまほを崩れ落ちさせた。

 その後ろを見やれば付いて来た面々も直立不動で青い顔をしている。

 特にカチューシャなどはもう卒倒する寸前だ。

 

 

「ぐぅっ!!」

 

「ふん、まあいいだろう、名乗ってやるさ」

 

 

 そう言うと英子は小馬鹿にする様に上からまほを見下ろしこういう。

 

 

「自分は元知波単学園戦車隊隊長の敷島英子」

 

「!?」

 

 

 そして更に後ろ手を突いて座り込むまほにグイッと顔をまほに近付け続ける。

 

 

「更に言うなら元臨中戦車隊の隊長でもある。ついでに今は横須賀警察署捜査課の刑事として今回の事件の捜査を担当している、理解したか西住の小娘?」

 

 

 そう言い切ると今度は英子がまほの胸ぐらを掴むと、軽々と一気にまほの顔を自分の目線にまで吊り上げる。

 この敷島英子という女性、その膂力だけ見てもやはり只者ではなかった。

 

 

「おい西住の。私は厳島のお嬢さんの為に奔走し、彼女を救った千代美を彼女の御母上よりお預かりしている身だ。その千代美に対し事情を知らぬとはいえ、友であるはずのお前の振る舞い、見過ごす事は出来ぬぞ。あぁ?どうだ、何か申し開きがあるか?」

 

 

 鬼火が宿るが如き双眸を更にギリギリと吊り上げ憤怒の形相の英子。

 その迫力に押されすっかり戦意を喪失し言葉も出ないまほ。

 人生経験などだけではない人としての格があまりにも違い過ぎるのだ。

 そんなまほの様を見てようやっと地面に降ろしてやる英子。

 

 

「オイ!後ろのひよっこ共、貴様らも同罪ぞ!中学生とはいえ、ちっとは顔も名も知れた連中が雁首揃えてノコノコこんな場所に現れればマスコミの恰好の餌食。既にテレビ報道されているなら尚更だ、その軽率な行動が今も生死の境を彷徨う厳島のお嬢さんを晒し者にする事位その軽い頭で考えるまでもなく解るはずだ!」

 

 

 英子の言に一同は只々小さくなるしか術はなかった。

 そんな一幕の後、そこへ千代美をみほに任せた亜美が一行を探し通用口から現れる。

 

 

「英子!一体どういう状況なのよ!?それに何故あなたが千代美さんと一緒に?」

 

「千代美の様子は?」

 

「今お医者様が見ていてみほさんに付き添いをお願いして来たわ、それより…」

 

「亜美」

 

 

 亜美の問い掛けに被せる様に英子は言う。

 

 

「千代美の御母上より彼女をお預かりしておきながらこの様とは…私は御母上にどう申し開きをすればよいのだ?それはまあいいとしてこいつらはお前に任せる、私は千代美を見て来る」

 

「もう!あんたはさっきからもう!ちょっと英子!」

 

 

 亜美の声を無視し踵を返すとさっさと行ってしまう英子。

 

 

「後できっちり説明しなさいよね!」

 

 

 診察室の寝台に寝かされる千代美の顔には疲労の色が色濃く出ていた。

 その横には泣き腫らした顔でみほが座っている。

 そこに医師と共に英子が説明を受けながら現れた。

 

 

「──まあ過労という処でしょう、後程栄養剤の点滴と念の為一晩は入院という事で」

 

「大変お騒がせをした上に申し訳ございません」

 

「いえいえ、それでは私はこれで、なにかありましたら近くの者にどうぞ」

 

「ハッ!」

 

 

 折り目正しく一礼し医師を見送る英子。

 上げた顔にはもう憤怒の色は見えないが厳しさだけはそのままだ。

 

 

「あ!あ、あの、あの!先程は姉がし、失礼しました!」

 

 

 座っていた椅子から跳ねる様に立ち上がり謝罪をするみほ。

 それに対し英子は素っ気無く答える。

 

「それはもうよい、ここには私が居る。お前は皆の所に戻れ」

 

「は、はい、それでは失礼します」

 

 

 みほが立ち去ると英子は椅子に腰かけ千代美のやつれた顔を見つめる。

 そして千代美の頭を撫でつつ独り言ちた。

 

 

 ──不甲斐無い、全く私は何をやっている…。

 

 

 それから点滴が始まり暫しの時間が経過し英子と未だ目覚めぬ千代美の元に、亜美に千代美の孤軍奮闘ぶりと、それに関する事柄を亜美が箝口令を敷いていた事を聞かされすっかり意気消沈したまほを始めその他の面々が亜美に伴われ訪れた。

 

 

「あ、あの!蝶野教官からお話は伺いました、知らぬ事とはいえ先程は…」

 

「違う」

 

「ハッ!?」

 

「謝る相手が違うと言っている」

 

 

 忌々しげに切り捨てる英子はまほの方を見ようともしない。

 付いて来た他の者達も気まずげな顔で俯く。

 そしてそのまま英子は更に続けて言う。

 

 

「厳島のお嬢さんにも面会は叶わぬ、そして千代美もいつ目覚めるとも知れぬ、よって貴様らに出来る事は何もない。分かったならばさっさと帰れ、但し目立たぬ様裏口からな」

 

「ちょっと英子!あんたさっきから何なのよ!」

 

「おまえこそ何だ?さっきから喧しい事この上ない、病院内だ静かにしろ」

 

「あの!」

 

 

 そこに意を決した表情のまほが口を挟む。

 

 

「そ、その安斎が目を覚ますまで付き添わせて頂けないでしょうか?目を覚ましたら謝罪した後即刻退去します…お、お願いします!」

 

 

 そう言うや勢いよく頭を下げるまほにようやく英子も顔を向ける。

 

 

「ふん、まあよかろう。だがな、よく聞けよ?あの様な愚行決して許さぬぞ、二度は無いと肝に銘じておけ、さもなくば西住だろうが島田だろうが全力で叩きのめすから覚悟しておけ」

 

 

 その物騒極まりない物言いとそこには本気以外何物も無い眼光に、居合わせた一同声も出せず勢いよく頭を下げる他に出来る事は無かった。

 するとそのタイミングで看護師が一人若干躊躇しつつ声を掛けて来る。

 

 

「あのぉ、病棟の方の準備が整いましたので安斎さんを移送したいのですが」

 

「あぁ、宜しくお願い致します。さあ貴様らもそこに居ては邪魔になる、外に出よ」

 

 

 追い立てる様に席を立ち自身も一旦外に出ようとする英子の腕を亜美が捕まえる。

 

 

「なんだ亜美さっきから?」

 

「だから!」

 

「横須賀が私の地元で刑事が生業なのはお前も知っているだろう?」

 

「説明になってない!」

 

「ああもう全く煩いヤツだ、詳細は後でいくらでも話してやる。今は千代美を病室に連れて行くのが先だから今暫く待て」

 

「絶対よ!約束破るんじゃないわよ?この上総(かずさ)の大猪が!」

 

「うるさい、もう黙れ」

 

 

 そんなやり取りの後一行は病棟に移動し千代美がベッドに移されたが、苦悶の表情と点滴が実に痛々しくまほは涙目でおろおろしている。

 英子はといえば構っていられぬとばかりに入院手続きの為受付に向かった。

 そして英子が病室に戻って来た頃ようやく千代美が意識を回復し、まほが号泣しながら千代美に謝罪を繰り返しているのであった。

 

 

「あ、あんざいぃぃ!話は…蝶野教官から聞かされた。知らな…知らなかったとはいえ、私はぁ、私は安斎に許されない事をしてしまった!ゆ、ゆ、許してくれとは言わないが…済まなかった!あんざいぃ……」

 

「西住?蝶野…教官…?」

 

「千代美さん、私が箝口令を敷いたばかりにあなたにいらぬ苦労させてしまったわ。本当に申し訳ない事をしました、ごめんなさい」

 

「教官?えっと私……」

 

「あ!まだ起き上がっては駄目よ横になっていて」

 

 

 少し頭が回って来た。

 そうか、あの後私は倒れたのか…。

 それにしてもこの西住の狼狽え様は一体?

 

 

「事の次第は私から説明しておきました、まほさんも心配する余りの事だったし、既に英子からこっ酷く叱られているのでどうか許してあげてくれる?」

 

「そんな、許すも許さないも私は…」

 

 

 私のベッドサイドに突っ伏し号泣するまほの頭を撫でようとして、自分の腕に点滴の針が刺さっているのを見て自分はそんなに消耗していたのかと気が付いた。

 

 

「気にするな西住、ラブとお前達は小さい頃から姉妹同然だったと聞かされていたしな。それより私こそ教えてやれなくて済まなかったな」

 

「う、うぅぅ…あんざい……」

 

「だからもう泣き止んでおくれよ」

 

「……」

 

 

 その様子にやっと胸を撫で下ろす一同であったが、戻って来た英子はやはり辛辣に言う。

 

 

「さあ、もういいだろう千代美を休ませてやれ。そして先刻言った様にしろ、帰りの脚は確保出来ているのであろうな?」

 

「あ、それは西住の本家から私達が来るのにバートルを出して貰っているので、それで順番に送る事が出来ます」

 

 

 これにはぐずっているまほに代わりみほが即答した。

 

 

「全くこれだから西住は…まあいい、それより解っているな?」

 

 

 この問いにまほも立ち上がり答えた。

 

 

「ハイ!自重します」

 

 

 何故か全員整列し一斉に敬礼していたのであったが、そこに亜美が言う。

 

 

「私は残るわよ、忘れたとは言わせませんからね」

 

「しつこいぞ、忘れてはおらん。それよりお前らはさっさと行動しろ」

 

 

 別れの挨拶もそこそこに一同を追い出した英子は千代美の元に来て声を掛ける。

 

 

「辛い思いをさせて済まぬ、今夜一晩はここでゆっくり休め」

 

「はい…英子さん」

 

「そう、今はそれでいい、明日また来るからな」

 

「はい、お休みなさい…」

 

 

 英子が優しく頭をひと撫でしてやると目を閉じた千代美はそのまままた寝入ってしまう。

 しかしその表情は先程より幾分和らいだものになっていたのであった。




今回は英子さんの二つ名がそのままタイトルとなりました。
しかし上総(かずさ)の大猪なんてどんな隊長だったんだろう?
それと知波単もさすがにここまでではないかなとも思ったり思わなかったり。

何とか年内にこの中学時代終わらせたいけど終わるかなぁ…。

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