まあそこに至るまでがいつも以上に最低ですが……。
「んん~?なんだぁ~?」
アンツィオ対笠女、策士同士が激突した試合は10時間を超える激闘となり、結果は僅差でアンツィオが勝利を掴みその幕を閉じた。
そして試合を制したアンツィオの隊長ドゥーチェ・アンチョビは、いつものように試合に関わった全ての者の労を労うべく宴席を設け心尽くしの料理を振る舞っていた。
大いに盛り上がった宴会は料理もほぼ綺麗に食べ尽くされ、皆デザートに供されたアンツィオ学園艦の母港である清水は久能山のイチゴの甘酸っぱさの余韻に浸っていた。
アンチョビもまたその様子に満足気な表情をしていたのだが、目の前のテーブルが微かにではあるが空気を震わす存在に呼応してカタカタと鳴動を始めると、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「オイ…何だこの音と振動は……?」
アンチョビが疑問の声を上げた頃にはその音と振動は更に激しさを増し、急速に接近している事は理解出来たがそれが何であるかは即座に理解は出来なかった。
「何だか凄い音……」
「軍用ジェットの音ね……」
接近する爆音にみほは辺りを見回し、エリカも眉をしかめつつ空を見上げる。
「何よあの矢印は!?うるさいわね!」
お約束のようにカチューシャがキレた瞬間、その爆音の主が彼女達の頭上を夜間にも拘わらずレジストも読み取れる程の極低空で翼を振りながら矢の如く飛び去って行った。
「What's?一体ドコの機体よ!?」
置土産の突風で捲れそうになるミニスカートを押えながらさすがのケイもキレている。
カチューシャが矢印と称したその機体は極端な後退翼上面に増槽を背負い、2機のエンジンを上下直列に配置するという異形の機体であった。
「ふおぉぉぉぉ!あれは子持ちシシャモではありませんかぁ!」
「はぁ!?優花里、アンタ何言ってんのよ?」
奇声を発しテンション爆上げになった優花里に対し、エリカは訳が解らぬとウザそうに言う。
「これは失礼、あれはイングリッシュ・エレクトリック・ライトニング、第2世代ジェット戦闘機の中に在って英国面を代表する異端な機体で、上下にエンジンを配した為に、燃料タンクが盛大に出っ張り、結果その見た目から子持ちシシャモとあだ名されているのであります!」
「オッドボールも相変わらずねぇ~」
ケイはヤレヤレのポーズをしながら苦笑しているが、優花里の微妙に英国をディスる発言にダージリンの口元が微かに引き攣っているのに気が付いたみほは、一人あわあわしている。
「しかしどういう事でありましょう…今の機体、聖グロの校章が入っていたように見えたのでありますが……おや?笠女学園艦に着艦するようでありますねぇ」
宴会場である清水マリンパークの上空をフライパスしたライトニングは、タイトなバンクで旋回すると一発で笠女学園艦への着艦コース乗り一気に高度を下げて行った。
自然と視線がラブに集まったものの、ラブもキョトンとした顔で左右に顔をブンブンしておりライトニングの目的は一切不明だった。
「アッサム、一体どういう事ですの?説明して下さるわよね?」
ダージリンがアッサムに冷たく鋭い視線を向けたが、彼女はしれっとした表情で難なくそれを躱すと嬉しげに届け物をさせただけだと答えるのみであった。
「おいダージリン、あれはオマエの所の機体で間違いないのか?」
それまで二人のやり取りを黙って見ていたまほも、確認するように口を挟んだ。
「ええ、
そこまで言ったダージリンが再びアッサムに冷たい視線を投げ掛けるが、それで全く動じる様子もなくイチゴたっぷりのシャルロッテと共に独り優雅に紅茶を楽しんでいる。
「なんだ、アッサムんトコのスパイ専用機か」
正体が解った事でまほも気抜けしたような口調でそういうとあっさり納得したようだ。
「人聞きの悪い事を言わないで下さる?」
「ん?違うのか?」
人の悪いニヤニヤ笑いのまほに、ダージリンもトゲのある態度を取るがあまり効果はなかった。
暫くの間そんな調子で騒ぎ続けていると、笠女学園艦内で大半の生徒達が広い艦内の移動手段として利用しているドイツ生まれの小さな半装軌車が、パタパタと可愛いエンジン音と共に履帯をカタカタ云わせながら迷う事なく皆のいる方へやって来るのが見えた。
「Oh!あれは結依のケッテンクラートじゃない!」
その特徴的な茶トラ柄のケッテンクラートは既に皆とも顔なじみである、笠女生徒会長木幡結依が占有している車両であった。
「そういや彼女途中から姿が見えなかったな……」
接近するケッテンクラートが結依のとらちゃんである事に気付いたケイに続き、ナオミがジェラートに目を輝かせていた結依の姿がいつの間にか消えていた事を指摘した。
「後ろに誰か乗せてるようね……」
目を凝らしたケイが後部に誰かもう一人乗っている事に気が付いた。
「え?あれって…まさか……!」
ケッテンクラートの後部で落ち着きなく動き回る見覚えのあるピンク色の頭。
「アッサム!?あなた……」
さすがのダージリンも絶句してそれ以上言葉が出なくなった処で、頭のてっぺんからハイテンションに突き抜けるような声が辺り一帯に轟いた。
「アッサムさま────!このローズヒップお呼びにより只今参りましたわ────!」
いつもであればその淑女らしからぬ振る舞いにお小言を1ダース程も与えるアッサムが、今はにんまりと満面の笑みで微笑んでおり、よく見るとその瞳の中にはピンクの紅蓮の炎が渦巻いていた。
「よく来ました、早かったですね」
途中待ちきれぬとばかりにケッテンクラートから飛び降り駆け寄って来たローズヒップを、アッサムもしっかりと抱き止め優しくも妖しい光の瞳で見つめながら愛おしげにそのピンク頭を撫でつけているが、撫でられるローズヒップはどう見ても犬っころにしか見えなかった。
「結依さんありがとう、お手数をお掛けしました」
「いえいえ、これ位の事はお安い御用ですわアッサム様♪」
どうやら結依の手引きでライトニングは笠女学園艦に着艦したようだが、ダージリンも知らぬ間にアッサムは笠女生徒会長であり情報処理学科の生徒でもある結依と何やら協力関係を構築していたらしく、その抜け目なさにダージリンはこのデコ女はやはり油断ならぬと認識を新たにしていた。
「さあローズヒップ、ちゃんとラブにご挨拶をするのですよ♪」
妙に優しくローズヒップの肩を抱きラブの傍までやって来たアッサムは、今度はそのローズヒップの背中に手を当てるとラブの方に向かってポンッと勢いを付けて押し出した。
「おとととととととと!」
バランスを崩したローズヒップは、たたらを踏みながらラブの腕の中に飛び込んでしまう。
「ちょ!ちょっとアッサム!?」
驚いたラブは慌てて倒れかけたローズヒップを抱き留めたが、その瞬間アッサムはしてやったりとばかりに悪魔的な微笑を浮かべていた。
「うわっとぉ!ごめんなさいですの!」
ラブに抱き止められ、たわわなエアバッグに乗っかる形でポヨンとバウンドしたローズヒップは、その今までに体験した事のない素敵な感触にうっとりとした表情になった。
「だ、大丈夫ローズヒップちゃん!?」
「何ですの?この素敵な感触は何ですの!?」
たわわの谷間に半ば埋まるようにポヨンポヨンし続けるローズヒップ。
『な、何て羨ましい!』
無邪気にポヨンポヨンを堪能するローズヒップに本気で嫉妬するケダモノ達だが、そのローズヒップが無邪気でいられたのはほんの数秒の事であった。
突然の事に皆揃って失念していたが、現在のラブは危険極まりないラブフェロモンを大量に放出中であり、経験者であっても気を引き締めていないと即座に逝ってしまう程の催淫効果があるのだ。
「あら?何か変ですわ!?何ですの?この身体の芯が燃えるような感覚は♡……オホホ、オホホホホホホホホぉ!さあ!リミッター外しちゃいますわよぉ!」
『あぁ!そういう事かぁ!』
ローズヒップの瞳にピンクの♡が宿ったのを見た一同は、アッサムが何を企んでいたかを理解し揃って大声を上げてしまった。
何だかんだでラブフェロモンの影響で火の付いていたアッサムは事前にGI6経由でローズヒップを清水まで空輸させた上で、結依に依頼して笠女学園艦への着艦及び配送を依頼していたのだ。
そして歩く媚薬状態のラブと接触させる事でローズヒップのリミッターを外し、夜のお楽しみに備えるという用意周到且つ悪辣極まりない策を講じていたのだ。
「さあローズヒップ、こちらにいらっしゃい♪」
「アッサムさまぁ♡」
『コイツ最っ低ぇぇぇ……』
ピッタリと密着し甘えに甘えるローズヒップを仔猫を扱うように撫でるアッサムの事を、全員がこれ以上はない位に白眼視するが彼女には一向に通じていなかった。
しかしこれを潮に宴会もお開きといった体になり、本来ならそれぞれの母艦に帰投となるはずだがラブフェロモンに中てられた状態で、パートナーと学校が違う者達はどうにも腰が重かった。
傍から見れば互いに視線をチラチラ絡めたりしながらも様子を窺っている状態だ。
そんな中まず最初に均衡を破ったのは、空気読めない知波単ズの絹代と英子だった。
「さあダージリン殿、めくるめく色欲の沼に二人して溺れましょうぞ!」
「イヤぁ──!言ってる意味が解りませんわ!お願い離して───!」
軽々とダージリンを抱き抱えた絹代はよく見ると相当危ない目をしている。
『これが自業自得と云うヤツか……』
ダージリンに散々弄ばれ溜まり過ぎていた処にラブフェロモンを摂取した結果、性の暴走機関車絹代号が遂にトップギヤに突入し、もう誰にも止められなくなっていた。
「ちょっと英子!いい加減降ろしなさいよ!」
「はっはっは!もうすべて仕事も終わったのだろう?ならもう良いではないか」
英子もまた亜美を軽々と肩に担ぎ絹代と同様の危険な目をしている。
「敷島殿!ダージリン殿をお願いしても宜しいでありますか?」
「おお、構わんぞ。駐車場も直ぐそこだし宿も近いから問題あるまい」
「それでは宜しくお願い致します、生憎自分のウラヌスはシングルシーターでありまして二人乗りが出来ないので助かります」
「ウム気にするな、それでは早速行くとするぞ。今回の宿は離れになっていて雰囲気も良くてな、誰に気兼ねする事もない中々の部屋なのだ」
「それは素晴らしい♪」
「では参るとしようか」
「ハッ!」
『吶喊!』
成り行きを呆けた顔で見守る者達の脳内に突撃喇叭が鳴り響く。
『イヤ──────っ!こんな直球勝負はイヤ──────っ!』
ユニゾンでダージリンと亜美の悲鳴が轟くが、質実剛健なケダモノ二匹の耳には届いていない。
『コイツらも最っ低ぇぇぇ……』
大戦果を上げ立ち去る知波単ズをただ呆然と見送る一同であった。
「さあ、それでは私達も……結依さん、お願い出来ますか?」
「畏まりました、どうぞお乗りくださいな♪」
呆然としていた一同がハッとして振り向くと、アッサムはローズヒップを伴い結依のケッテンクラートにちょうど乗り込む処であった。
「あ、オイ!?」
「今日はすっかり遅くなりましたからね、結依さんにお願いして笠女の宿舎を手配して頂きましたの……それではみなさん御機嫌よう」
アッサムが優雅に別れの挨拶を終えると、二人を乗せたケッテンクラートは笠女学園艦に向け再びエンジンをパタパタいわせて走り去ってしまった。
「さて、それでは私達もお暇させて頂く事と致しましょう。千代美さん、恋相手に今日の戦いぶりは見事でした、非常に興味深い試合を見せて頂きました。それにすっかり御馳走になってしまいましたね、御馳走さまでした」
「お母様♪」
しほが実に優しくアンチョビを抱き締め別れの挨拶をしているが、その光景は他の者達には相当に衝撃的なものらしかった。
『実の娘にはあんなに厳しいのにアンチョビには何故あんなに……!?』
一同が大いに疑問に思いながらその光景を見ていると、しほは次いでラブにも声を掛ける。
「恋、身体の方は大丈夫ですか?」
「うん、ありがとうしほママ、大丈夫よ」
「そう…でも決して無理をしてはいけませんよ?あなたの新生厳島流も、今は試しの期間故色々と大変でしょうが身体だけは大事にするのですよ」
「うん、解ってるわ」
「ならば結構…それでは皆さんお先に失礼しますよ……そうそう、まほ、それにみほもくれぐれも羽目を外し過ぎる事のないように…いいですね!?」
『だから何で実の娘にだけそんなに厳しい……?』
まほとみほは何とも面白くなさそうに帰途に就く母と菊代の背中を見送っている。
「あぁ!菊代お願いよ急いで頂戴!これ以上常夫さんを待たせたくないわぁ!」
娘二人にはいつもの厳しい西住流家元の視線を送っておきながら、背を向けた途端にポンコツと化したしほのセリフに全員がその場に倒れ込む。
「しほママぁ……」
ラブを始め皆が何とも言えない表情で立ち上がり、埃を掃ったりしている。
まほとみほの二人はこめかみに怒りのバッテンを浮かべていた。
「うわぁ!ダメだってムグ……」
『今度は誰!?』
アッサムとローズヒップに続きしほと菊代が立ち去るのを呆気に取られたまま見送ると、再びピンクの悲鳴が上がり、視線をそちらに向けてみればカルパッチョがカエサルの唇を強奪していた。
「Wow!超大胆!」
「だからノンナ!何で直ぐ私に目隠しするのよ!?」
「あれ入ってるよね!?」
衆人環視の中かなり長い事ディープなキスを交わした唇が離れると、二人の唇の間にツーっと唾液が糸を引き、それが照明に照らされ淫靡なきらめきを放っていた。
『ゴクリ──』
その場にいる者全ての喉が鳴る音が大きく響く。
「ひ、ひなちゃん…ズルいよぉ……」
「うふふ♪たかちゃん可愛い!さあ、私の部屋に行こ♡……そうそう愛さん、あなたの気持ちは何処にあるの?もっと自分に正直になってもいいんじゃないかなぁ?それじゃあね」
愛の反応を見極めるような表情の後ににっこりと微笑んだカルパッチョは、俯いてしまったカエサルの手を引き学園艦に戻って行く。
「何よ今のは!?どういう事?」
「謎かけか?」
「ね、ねえ、あの子あんなキャラだった!?」
「ヤバい…辛抱堪らん……」
「あ…やられた、カルパッチョのヤツ片付けしないで帰りやがった!」
予想外のカルパッチョの行動に目が点になっていたアンチョビが、我に返った時には既に彼女達の姿は夜の闇に溶け込んで見えなくなっていた。
「しょうがないっスねぇ、私らでパパッと片付けちまいましょう…お~いアマレット!撤収作業始めるぞ~!終わったら私らも部屋に戻って──」
「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!だから放送コードに引っ掛かるようなセリフ吐くんじゃな~い!」
ぺパロニがしゃべり始めた瞬間警戒していたアンチョビは、案の定ぺパロニがNGワードを口にしかけると速攻で絶叫しそれを打ち消した。
「全くもう…毎度毎度このドあほうが……」
「あんざい……」
肩で息をしながら疲れたように声を絞り出すアンチョビの傍にまほがやって来たが、いつもの黒森峰の隊長としての威厳と風格は欠片もなく、モジモジとしながら内股で佇むその姿は恋する少女そのものであり、そのあまりの可愛らしさにアンチョビも思わずドキリとしてしまった。
「あ…あぁ、西住……その…今夜は私の部屋に泊まって行かないか……?」
俯いてキュッと身を固くしながらも、まほはアンチョビの隊長服の裾を掴んで離さない。
「そ、そうか…直ぐに片付くからもう少しだけ待っていてくれ……」
『
「……」
こんな小さな処まで拾って反応する程にラブフェロモン影響が出ている事に凜々子は頭痛を覚え、仲間達に目を向ければやはり皆凜々子と同じらしく軽く指をこめかみに当てていた。
「仕方ないわね…っていうかこのまま帰らせるのは危険過ぎるわ……あの!皆さん今日は遅いですし直ぐに手配致しますので本艦の宿舎にお泊り下さい」
凜々子の提案にその場にいた者達はパッと顔を輝かせると、激しく首を上下に振っていた。
溜め息を吐いた凜々子が目配せすると鈴鹿が何やらメールを送り始め、これはどうやらAP-Girls権限で宿舎を全て抑えに掛かったらしい。
凜々子が辺りを見回すとテンション爆上げな一同とは正反対にラブはすっかり凹んでいる。
ラブが発する謎のフェロモンの影響で周りがすっかり盛っているのに対し、ラブ自身の想いは行き場を失って彷徨い続けているのだからそれも無理のない事だろう。
そのラブの傍にはその元凶である愛がいるのだが、結局は不器用な彼女もまた自分の気持ちを持て余しているだけなのだ。
「やっぱりラブ姉よりまずは愛の方か……」
所在なさ気な愛であったが凜々子の視線には気付いたらしく、凜々子がアクションを起こす前に自分から彼女の元へとやって来た。
「愛、私達はみんなラブ姉の事が好きよ、愛しているわ。私達AP-Girlsにとって一番大切な人だもの、それは当然の事よね。そしてラブ姉もまた私達を心の底から愛してくれている、あなたもそれは解ってるでしょ?」
「……」
「でもそれが誰か一人を好きになる、誰か一人を愛するのとはまた別の話なのも解るわよね?その誰か一人を見る時のラブ姉の瞳には、愛……アナタしか映っていないのよ?いい?私達は喜びこそすれ、誰一人その事で愛の事を羨んだり責めたりはしないわ。なぜなら私達もみんな愛の事が好きだからよ、その愛をラブ姉が選んだんだもの、誰もそれに異を唱える者はいないわ」
相変わらず無表情なまま一言も発せぬ愛だったが、凜々子はそれを咎める事なく話を続けた。
「アンチョビ…安斎千代美さんだったわね……確かにラブ姉にとって安斎さんは特別な存在なのかもしれないけど、それはあくまでも昔の事で今のラブ姉にとって何より一番大事なのは、愛、アナタだけなのよ?」
愛に語り掛けながらも凜々子が視線をラブに向けると、彼女の傍にはアンチョビとまほやその他の残っている者達が周りに集まり談笑している。
そのラブの様子に安堵の笑みを浮かべた凜々子は改めて愛に向き直ると、一見それまでと表情は変わらないように見えるが、その心が大きく揺れている事が瞳に現れていた。
「さっきのカルパッチョ先輩、愛の為にキスしてして見せたんじゃないかな?今までにも何度となくお会いする機会があったけど、率先してあんな事する人とは思えないもの。大洗のカエサル先輩だっけ、幼馴染みらしいけど本当に好きだから出来る事だと思うわ。でもその好きって気持ちがなにより一番大事なんじゃないの?」
黙って話を聞く愛の表情はやはり変わらぬが、そこにはここ最近の自分達に対する刺々しさは見られず随分と穏やかな表情になっているのが凜々子には解った。
「さて、お節介もこれ位にしておくか……これ以上はウザいだけだろうし」
凜々子は言うだけ言うとサッサと愛の傍を離れ、少し離れた所で様子を窺っている仲間達の方へと歩いて行き、残された愛は再び所在なさ気に独り佇んでいる。
しかしその愛も既に先程までのような近寄り難い雰囲気は放ってはいなかった。
「ええとな…我が校のローマ風呂を試して貰おうと思っていたのだがラブは無理そうかな……?」
アンチョビはラブの体調を気にして躊躇いがちに誘いの声を掛けていた。
「え?あぁ、まだ始まっていないから大丈夫よ…それに身体の冷えを考えると温まれるのは嬉しいわ……だけどそれより問題なのはさぁ……」
ラブがジト目で周囲を見回すと彼女を取り囲むケダモノ達は、誠実にラブを気遣う顔をしているがその目は血走っており、政治家の“Trust me”より信用出来なかった。
実際ラブの視線が自分に巡って来た瞬間全員揃って目を逸らしており、それがそのままラブの疑念を肯定しているようなものだ。
「イヤイヤイヤ!決して疾しい気持ちではなく純粋に楽しんで貰いたくてだな……ウチの風呂は何と言うかネタ的にも申し分ないし一見の価値ありなんだよ!」
必死に言い繕うアンチョビの様子が可笑しくて笑いそうになったが、ラブもそこはどうにか堪えてわざとらしく大きな溜め息をひとつ吐くと聞こえよがしに返事をした。
「入ればいいんでしょ?なら入るわよ……でももし何かあったら後で酷いからね?」
『ナイナイ!誓って絶対何もないから!』
白々しいまでに誠意の籠ったような声で答えるが、全員洩れなくその顔には嘘と書いてある。
ラブはもうひとつ更に深く大きな溜め息を吐くのであった。
「まあ確かにこれはネタになるわねぇ…子供の頃に行った熱海のローマ風呂の遥か上を行ってるわ……でも造りも規模もホント凄いの一言だわ」
広い湯に浸かり天井を見回したラブが呆れ半分感心半分で呟くと、その隣でアンチョビも少し困った様な顔で笑いながら湯に浸かっている。
「まあな、私も入学して最初に入った時は目を疑ったよ。でも一応開校当初からこの状態らしいんだ、お蔭でこうして対外試合の時なんかに対戦相手に解放すると結構ウケるけどな」
実際一緒に入浴中のアンツィオ以外の生徒達には、観光ホテル要素満載なローマ風呂はウケていた。
「その点
どうにか他愛もない話をしながら湯に浸かってはいるが、ラブフェロモン放出中な上に入浴中なので当然すっぽんぽんであり、視線はどうしてもラブのたわわなアハト・アハトに集まってしまう。
「……何よ?」
座った目付きのラブが威嚇すると一斉に視線を逸らすが、無意識のうちに手の方がたわわをモミモミするように動いている辺り下心がミエミエだ。
「いや…な、何でもない気にするな……」
「気にするなって言いながら揃いも揃ってその手の動きは何よ?」
全員慌てて手を隠したがはっきり言って手遅れだ。
しかしいつもならとっくにラブに襲い掛かっているはずのケダモノ達が今日に限って妙に大人しいのは、凜々子の機転で笠女学園艦への宿泊が決まっており、そこで盛る為に敢えてここはラブフェロモンを大量に摂取してそれに備えようという実に最低な魂胆があっての事であった。
「ふん…まあいいわ……愛!お願い!」
ラブが愛を呼ぶ声が浴室に響くと、状況を知る者は内心ヒヤヒヤしたが愛もいつもと変わらぬ様子でラブの背中を流し髪を洗い始め、少し戸惑ったがその光景にひとまずホッと胸を撫で下ろした。
身長こそ大洗の会長と大して変わらないロリサイズでありながら、その身長に比して桁外れなたわわを誇る愛が、泡々になってラブの背中や髪を洗う姿はハンパないエロさであった。
「い、いかんこれ以上は危険だ…私も髪を洗うとしよう‥…」
アンチョビも事前にAP-Girlsより配布されたシャンプーセットを手に洗い場に向かう。
しかしここでアンチョビはお約束の展開を思い付いてしまうのであった。
「オイにしずみぃ♪髪を洗ってやるからこっちに来るんだ♡」
「えぇ!?わ、私は別に……」
そう言いながらも脚はアンチョビの手招きする方に向かっている。
そしてアンチョビがまほの髪を洗い始めその優しい指使いにまほが溜め息を漏らす頃には、アチコチで髪を洗いっこする者達が現れ、浴室に立ち込める湯気はすっかりピンクに染まっていた。
「うわぁ…絵的にはこっちの方がヤバくない?」
「マジ犯罪にしか見えないんだけど」
「それを言ったらあっちはもっと……」
「だから何でこの組み合わせが横並びになるのよ!?」
ガン見の視線が集中する先では愛がラブの髪を洗い、その隣では杏がケイを、更にその隣ではカチューシャがノンナの髪を洗うという危険極まりない光景が広がっていた。
「ロリ高生の洗髪ショー……」
「また訳の解らん事を……」
「いや…これはお金払っても見たいかも……」
「アンタ達いい加減にしなさいよね!」
いつものように泡々のロリ体型がキレるがそれは却ってケダモノ達を刺激するだけで、荒い鼻息と共に鼻血を噴出させる結果に終わった。
「ホント…毎回毎回よく飽きないわね……」
再び湯に浸かるラブは心底呆れた顔で白い目をケダモノ達に向ける。
「まあいいわ……どうせ私のせいとか言われるだけだろうしさ」
ラブフェロモンの大量摂取が目的のケダモノ達は反論出来ずただ目を逸らすだけだった。
「そ…それはともかくだなサンダース戦の時も気になったんだがオマエの所は一体どんな訓練をしてるんだ?サンダースの時は花楓君、そして今回は要所要所で全体の指揮を執っていた凜々子君。もしかしてAP-Girlsは全員指揮官としての訓練を受けているんじゃないのか?」
最初は誤魔化したなという目でまほを見ていたラブであったが、質問を投げ掛けるまほの顔がライバルに仕掛ける黒森峰の隊長のそれになっている事に気付くと、彼女の目もスッと細くなり獲物を見極める女豹の顔となった。
これだけ交流を深めて尚、未だAP-Girlsが真の姿を見せていないと感じているまほが、核心の一部を突いた発言をした事で一気にその場の空気が張りつめた。
だが不敵な笑みを浮かべていたラブは、そんな事秘密にもならぬとばかりに表情を緩めるといともあっさりとまほの疑問に答え始めた。
「ウチがどんな訓練しているかは話してもいいけどあなた達の参考にならないわ、見たいというなら来てくれればいつでも見せてあげる。まあその訓練内容はともかく、確かにこの子達は全員指揮能力を有しているわ。普通レベルの学校なら余裕で隊長が務められるレベルには鍛えてあるわよ」
ラブは普通レベルなどと言ったが、今日の試合中の凜々子は何ら問題なくAP-Girlsを動かしており、他のメンバーもそうであるならばそれは脅威以外の何ものでもない。
「ちょっと待ってくれ!今メンバー全員と言ったか!?」
まほは背筋に冷たいものが奔るのを感じながらも改めて問い質した。
「ええそうよ、でもそれは指揮能力に限った事じゃないわよ?この子達は全員が全ての役職をこなす事が可能よ。砲手だろうが操縦手だろうが全ての役職をね」
ラブのその言葉で浴室にいる者全員がその場で凍り付く。
「それだけじゃないわ、この子達を全員バラバラにして役職を変えて適当に編成しても、いつもと何ら変わる事なく行動する事が可能よ。だってそれが可能なように私が鍛えたんだもの」
「おまえ…一体……」
「ねえまほ、あなたこそ忘れているんじゃないの?私は厳島よ?確かに戦車道は一人では戦えない、でも個の力を極限まで高めるのが厳島のやり方なのはまほも知っているはずよ?そうして鍛えるからこそ厳島は少数でも決して諦める事なく最後まで戦い抜く事が出来るの」
まほはそのラブが発する圧力のようなモノに飲まれ言葉を発する事が出来なかった。
それはまほだけではなく、その場にいるAP-Girls以外全て者全てが同様である。
彼女達は改めて認識せざるを得なかった、目の前にいるラブと呼ばれる10代の少女こそが厳島流家元であり、AP-Girlsを率いる絶対の女王厳島恋であるという事を。
「ラブ……」
やっとそう一言絞り出したまほはラブの背負う物の大きさに慄然とし、同時に将来自分もラブ同様に西住流を背負う事へ、流派を背負うとはこういう事かと恐怖を覚えた。
それ程までに今のまほとって、ラブは別次元の存在と思えるのであった。
サンダース戦後のライブの際にカチューシャが口走った『ラブ天使説』がまほの脳裏にふと過ぎり、その時は何を世迷言を思ったが今のまほにとってラブはそれ以上の何かに見えていたようだ。
このやり取りにこの場にいたもの達は改めて痛感したのだ。
やはりラブは底が知れないと……。
一応ゆかりん始めみんな来てるのですが、話に出すのは大変です。
今回聖グロのライトニングを出しましたが、
このお学校は今後も色々英国面なモノが色々と出ると思います。