今回は英子さんの二面性をお楽しみ下さい。
西住流と厳島流の関係性と亜梨亜さんの過去も多少見えて来ます。
それとラブのパンターのパーソナルネームが登場しますが、
これは私の好きな隈取りメイクの某ロックバンドの名曲から拝借しました。
西住家のコネで海上自衛隊横須賀地方総監部のヘリポートに降り立った西住家所有のバートルKV-107IIA-4が、西住姉妹他の面々を乗せ再び夜空に舞い上がったその頃、英子と亜美は英子のチンクエチェントの車中にあった。
問う様な視線の亜美に対し英子は無言を貫いている。
そしてついに痺れを切らした亜美が英子に対し問い詰める。
「それで英子あんたいつまでそうしてだんまり決め込んでいる気なのよ!?」
「まずは自分のマンションに車を戻して、どこか適当な店にでも入ってからでよかろう」
こうなるとテコでも口を開かないのが分かっているだけに亜美は大げさに溜め息を吐く。
そしてその後車を降り移動したのは市街地、京急横須賀中央駅近くの一件の大衆酒場。
「それで何で適当な店ってのがこんな大衆酒場なのよ!?」
「喧しい、こういう店の方が何でもあって色々都合がいいのだ」
嘗て二十四時間操業の造船業華やかなりし時代の名残で、横須賀には朝から飲めるような大衆酒場が何軒か当時を偲ばせるスタイルで営業を続けている。
英子たちが入ったのはそんな大衆酒場の一件だった。
「それとね英子、あんた何時まで鬼敷島のままでいる気なのよ!?」
「!!!」
「あんたいい加減その二重人格何とかしなさいよね!」
「う…うっさいわねぇ!大体私の何処が二重人格なのよ!?」
「それよ!立派に二重人格じゃない!」
「しかたないでしょ!大体当時の知波単を束ねるのには、これ位やってもまだ足りない位だったんだから!」
「卒業してもう何年経つのよ!?今はもう知波単じゃないでしょ!」
「あんな面倒くさい子達相手すんのに普通じゃやってらんないわよ!!あ~!私千代美ちゃんのお母様になんて言い訳すればいいのよ~!!!」
「呆れた!まだ連絡してなかったの?サッサと電話して来なさいよ」
「他人事だと思って~!」
英子が一端店の外に出て、千代美の実家にペコペコ頭を下げながら電話する姿が店の扉越しに見える。
その様子はついさっきまでとは丸っきり別人の様だ。
しかしこの敷島英子なる人物、
そもそもがこの二人の関係もどういったものなのか?
「うぅ、情けない…却って労いと謝罪のお言葉を頂いてしまったぁ……」
戻るなり眉をへにょりとさせ店のテーブルに突っ伏す英子。
「あ~もう鬱陶しい!」
一方亜美の方も大概容赦が無い。
そうこうしていると店員がジョッキとガラス瓶を持って現れる。
「…何でまたよりにもよってこれなのよ?」
「煩いわねぇ、横須賀来たならまずこれ飲みなさいよ」
「氷入ってないし…」
「聖地横須賀じゃ三冷の横須賀割りが基本よ」
よく冷やされたジョッキに同じく冷やされた焼酎、そこにこれもよく冷えたガラス瓶の中身を注ぐとジョッキの中身が心地良く泡立つ。
「かき回しちゃダメよ」
「それじゃあ厳島さんの早期回復を祈って」
「千代美ちゃんの頑張りに」
ゴツリと厚みのあるジョッキが合わさる鈍い音が響く。
「うぇ…濃い…」
「慣れろ」
「…で?」
「解ってるわよ…」
ここに来てようやくこれまでの経緯を語り始める英子。
途中テーブルに並び始めた刺身や焼き物、揚げ物などを突きつつ順を追って話す。
「──っとまあここまでが亜美が来る直前までの事と次第ってトコよ」
「そうだったの、千代美さんの件に関しては本当に申し訳ない事をしたわ。でもあの時は私もそれが最善だと思ったのよ」
「まあ私も判断は間違ってはいないと思うわ。現にテレビを見た馬鹿者共がああして大挙して押しかけた訳だし。でももうちょっと配慮も欲しかったわね」
「返す言葉も無いわ」
「それはもういいわよ、それよりね」
「ええ、この件に関しては可能な限り情報を共有出来る様にするわ」
「ああ、そうしてもらえると助かるわ」
「そういう意味でも英子が居てくれたのが不幸中の幸いよ」
そう言うとどちらからともなく再びジョッキを合わせる二人。
「それで早速だけど陸自、連盟の動向は?文科省は現段階門外だと思うけど」
「
「やはり他にも出荷された分があったか…」
「ええ、そういう意味でも千代美さんの功績はとても大きいわ」
「あの子は西住の次期当主より遥かに器が大きいわよ」
「まあ気持ちは解るけどそう言わないであげてよ、師範も対応で身動きが取れず恋さんの元に来たくても来られないのだから。幼い頃から娘同然に可愛がっていらしたらしいし」
「その割に肝心の娘があれじゃあねぇ」
「またそういう事を…」
「それはまあおいといてこちらでも早いうちに製造元に捜査に入ると思うわ、でもそれにしてもおかしいじゃない?試験段階じゃ問題無かったんでしょ?」
「そこも含めてよ、こちらに残っていた試験弾との比較も行うわ」
「まあこちらの現場の方はパンターの処理が終わるまで出来る事は限られてるか…現場検証が出来ないのが一番痛いわね。処理班も相当気を使ってくれてるけど現場が荒れるのはやっぱり痛いのよねぇ」
ここまで話した処で亜美が若干躊躇しつつ聞いて来る。
「それでね…Love Gunの、パンターの車内の様子はどうだったの?」
「Love Gun…彼女のパンターのパーソナルネームね」
「ええ、知ってるのね」
「そりゃあ地元だし人気だもの。横須賀は高校戦車道が今一だけど、中学は臨中が公立ながら昔から強くて有名だから」
「そう…それで?」
「血の海よ…本来車内を守るはずのカーボンコーティングが今回は裏目に出たわ。爆発四散した金属片が跳ね回って彼女に襲い掛かったの」
予想はしていても改めて聞かされた現実に亜美も唇を噛む。
しかしそれを淡々と語る英子に対しては、幾多の修羅場を経験して来たであろう彼女の刑事という職の因果を感じずにはいられなかった。
そして暫し沈黙する亜美に今度は英子が問う。
「あのさ亜美、西住家と厳島家が親戚筋っていうのは聞いたけど、実際には西住流と厳島流ってどんな関係なの?」
「あぁ、それはね、私も詳しくは聞いていないけど親戚としては結構な遠縁らしいの。流派としての創設は西住の方が若干早かった程度。でも創始者同士ウマが合ってたらしくて交流は活発だったそうよ。ただ多くに門戸を開いた西住に対し厳島は近親者のみで細々とって感じだった様ね。」
現在でも最大派閥と言える西住流に対しその真逆の存在であろう厳島流。しかし戦車道の世界にあってはその様な少数派の流派の方が多数を占めるのかもしれない。
「ただ門下生も多いと言っても後継者の年齢的谷間の時期というのは必ず発生するわ。そんな時に厳島から西住に云わば助っ人を送る事もあったそうよ。例えば…そう、英子もお会いした亜梨亜様がそう。師範のしほ様が黒森峰入学前に空白が生じて、亜梨亜様が西住の者として黒森峰に入られてしほ様の入学の下地作りをされたとか。しほ様が一年生の時に亜梨亜様が三年生で隊長職を務められたと聞くわ」
「げっ!何よそれ!?でも双子でしょ?妹じゃなくて何で姉が?」
思わず呻く英子には先程会ったばかりの物腰穏やかな亜梨亜が、黒森峰のパンツァージャケットで指揮を執る姿が直ぐには想像出来ない。
「そこまではちょっと…でもまあ両家がそれだけ親密だって事よ。だからまほさんをあまり責めないであげて」
「解ってるわよ、それにしても厳島流ねぇ…何回かお嬢さんの試合は見た事あるけど、諦めるのを見た事無いのよねぇ」
「それこそが厳島流の是とする処らしいわ。流派としての信条はただ一つ、
「決してくじけないか…西住の撃てば必中云々よりシンプルでいいわね」
「またあんたはそういう事を」
もう亜美も苦笑するしかなかった。
「まあ私も聞かされているのはこれ位ね」
「そっか、ところで亜美、今夜はこの後どうするのよ?」
「一応東京に戻って西住の別宅の関係者宿泊施設に泊まる予定だけど」
「ならウチに泊まりなさいよ、それで明日の朝千代美ちゃんに顔見せてあげて」
「ん~、分かったそうするわ」
「よし、決まりね」
その後二人は今少し盃を重ね横須賀の夜は更けて行った。
作中登場したホッ○ーは一応商品名はぼかしました。
しっかし英子さん今度は鬼敷島て…。