ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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二週連続で火曜が忙し過ぎて投稿出来ませんでした。

キッスは目にしてとかタイトルネタが古過ぎて年がばれますねw


第六十九話   Kiss is in the eye

「それで?──そうか──迂回しようにも燃料が持たんだろ?残念だが今回はここで諦めろ──イヤ、それはリスクが大き過ぎる、128㎜でフレンドリーファイアなんぞやった日には目も当てられんからな──そうだ、下山して待機していろ……以上だ」

 

 

 阿蘇の山頂へと続く火の山トンネルの手前、長く伸びた一列縦隊の先頭近く、黒森峰の隊長車でありフラッグ車でもあるティーガーⅠのコマンダーキューポラ上のまほは、仏頂面で橋を落とされ合流が出来なくなったヤークトティーガー並びにエレファントと無線交信を行っていた。

 その他の隊員達もエリカを筆頭に、全員が何処か気まずいようなバツの悪いような表情で車両点検等の作業に集中する()()をしていた。

 何故彼女達がこうも景気の悪い試合にでも負けたような雰囲気になっているのかといえば、その理由は数分前に起きた出来事に起因している。

 AP-Girlsを追って牧草地を進発後暫くすると、既に敵のいないはずの後方から連続した砲声が響き、隊長であるまほは念の為に偵察として殿に付けていたパンターとラングを送ったのだった。

 しかし程なくして届いて来た無線連絡はテンパって要領を得ず、部隊全体に混乱と動揺が広がった頃にそれは起こった。

 

 

「ん?何だ?」

 

 

 長く伸びた隊列の後方が何やら騒がしくなり始め、それと共に聞き覚えのある突撃ラッパが鳴り響きまほの方に向かいどんどんと近付いてくるのだが、何故かそれと一緒に黄色い悲鳴も次々と連続して聞こえて来たのだ。

 

 

「なんだぁ?」

 

 

 状況の見えないまほも思わず妙な声を上げる中、黄色い悲鳴は更に大きくなって行く。

 

 

「えぇ!?うそ~ん!」

 

「いや~ん♡」

 

「超可愛い~♪」

 

「あぁ~ん♡」

 

 

 完全に訳が解らんといった顔で思わずまほが身を乗り出したその時、彼女の視界に愛の指揮するピンク・ハーツがけたたましい突撃ラッパと共に突進して来るのが映った。

 

 

「えぇ!?愛君なのか!?え?おぉ~♡」

 

 

 迫って来る愛を見た瞬間、まほは一撃でハートを撃ち抜かれ頭上に見えない白旗を揚げていた。

 それは俄かには信じられない程に衝撃的な光景だった。

 基本的に無表情の無愛想がトレードマークなあの愛が、弾けるような笑顔を振り撒き投げキスの乱れ撃ちをしながらトップスピードで駆け抜けて来たのだ。

 杏にも負けぬロリフェイスとロリボディにあの亜美をも上回るたわわを装備した愛が、そのたわわをプルンプルンと揺らしながら愛想を振り撒き激走して行き、それを目撃してしまった者達は幸せの鼻血を噴出し尽く撃破されてしまったのであった。

 悪魔の笑みから一転、天使で小悪魔な笑みを浮かべるロリ巨乳美少女と化した愛を阻める者などその場には誰一人いなかった。

 結果、黒森峰は愛のピンク・ハーツたった1両にによる、12両抜きなどという暴挙を易々と許す事となってしまったのであった。

 

 

「隊長……」

 

「エリカ……」

 

「…愛の力って凄いですね……」

 

「エリカ……」

 

「何でしょう?」

 

「この試合が終わったら女子力を磨くのを手伝って貰えないだろうか……?」

 

「…解りました……」

 

 

 真っ赤な顔のまほにエリカは短く答えた後、極小さく溜め息を吐いた。

 

 

「そうかそうかそうかぁ♪そうなのかぁ~!」

 

 

 想像だにしなかった愛の大化けに観戦エリアにも衝撃が走る中、アンチョビのメモを取る手は止まる事を知らなかった。

 

 

『コイツはぁ……』

 

 

 このアンチョビの悪癖にそれ以上の事を言える者は一人もいなかった。

 

 

「そうでしたか…それではあのお嬢さんが……」

 

「えぇ……」

 

 

 厳島と西住の親族で埋まるスタンドの中程、並んで座る亜梨亜としほがどうやら単騎黒森峰を手玉に取った愛の事を話題にしているようだが、その二人の頬は実に色っぽく上気していた。

 

 

「とてもいいお嬢さんのようですね」

 

「ええ、とてもいい子ですよ」

 

「全く恋もいい趣味をして…いや、あの子のストライクゾーンのど真ん中──イヤイヤイヤ……」

 

「しほちゃん?」

 

「その…ちょっとハァハァが止まりませんわ……出来れば抱っこしてあんな事やこんな事を──」

 

「ダメよ、あの子はウチの子ですから」

 

「あ、言い切った」

 

「しほちゃんの処だって千代美さんとエリカさんがいるじゃないの」

 

「えぇ、姉妹揃ってポンコツかと思いきや予想だにしない大金星を上げましたわ」

 

 

 何を話しているかと思えばこの二人も相当にポンコツというか、この二人こそがどうやらポンコツの親玉のようだ。

 そんな()()()の盛り上がりを知ってか知らずか愉快な仲間達が集うスタンドでも、期せずしてダージリンによるアンチョビ弄りが始まっていた。

 

 

「昔からラブのハートを射止めるのは誰かでよく論争が起きましたけど、これはなんともあの頃の私達からしたら予想外の結果となりましたわね」

 

 

 走行風にピンクのルーズポニーを躍らせ疾走する愛の、恋する少女横顔にダージリンはほんのりと頬をピンクに染めている。

 

 

「Hey!ダージリン、アンタまさか!?」

 

「私そこまで無粋じゃありませんわ」

 

『ウソつけぇ……』

 

 

 失礼なといった表情を繕うダージリンだが、全身から溢れる邪且つ禍々しいオーラは全く隠す事が出来ていない。

 

 

「おいダージリン、お前マジ余計な事するんじゃないぞ?」

 

「解ってますわよ…でもよく考えたらあなたは近々身内になられるんですわね……西()()()()()さん」

 

 

 どこか面白くなさそうな顔から一転、最高に人の悪い笑みになったダージリンが放り投げた爆弾に、真っ赤になったアンチョビが頭のてっぺんから水蒸気爆発を起こしていた。

 

 

「お、おお…こ、こここの……バババ、バカもっ!オマエ何を言っておるのだぁ!」

 

 

 西住千代美という言葉の響きの破壊力に、完全にテンパったアンチョビがダージリンに指を突き付け更に何か言おうとするが、それ以上何も言葉が出て来ないようだ。

 

 

「お姉さん…千代美お姉さん……千代美お姉ちゃん!」

 

「だあぁ~!だからみほ、お前も変な妄想を垂れ流すなぁ!大体お前達はどうなんだ!?西住エリカになるのか逸見みほになるのかどっちなのだぁ!?」

 

「ふえぇ──────!?」

 

 

 いらん事を言ったばかりに墓穴を掘ったみほだったが、突き付けられた命題に涎が垂れている。

 そして暴走状態になったアンチョビは、止まる様子が丸っきり見えなかった。

 

 

「それにダージリン!オマエだってどうなんだ!?名門中の名門、西家の御令嬢たる絹代と良い仲になって行く行くは───」

 

「イヤァァァ────!」

 

 

 藪を突いてアナコンダを出したダージリンが掘った墓穴は更に深く、ムンクの叫び状態で悲鳴を上げたが時既に遅く、天然絹代ががっしりと彼女の腕を極めて退路を塞がれていた。

 

 

「いやあ♪紅茶殿、いよいよその気になって頂けましたか!」

 

「き、絹代さん!?イヤァァァ────!」

 

『コイツも終わったな……』

 

 

 試合そっちのけ、観戦スタンドは今や完全に意味不明なカオスと化していた。

 

 

「隊長…‥?」

 

「あ?あぁ…大丈夫だ、早くラブを追わんとな……」

 

 

 どうにかショック状態から立ち直ったまほがAP-Girls追撃の指示を出し、長い黒森峰の隊列もやっとの事で再び動き始めた。

 

 

「ラブ先輩、一体何処まで先行しましたかね?」

 

「多分草千里ヶ浜までは行ってないだろう…ラブもタイミング命女だからな、何処かで時間調整しながら次の仕込でもしてるに違いないさ……」

 

「本当に厄介な(ひと)ですね……」

 

「……」

 

 

 トンネルの向こう、決戦の地までは後少しだ。

 

 

「もうそろそろまほ達も来る頃だとは思うんだけどねぇ……」

 

 

 まほの予想通りAP-Girlsは草千里ヶ浜手前の観光用ヘリポートで、最終決戦前の打ち合わせとは名ばかりのおやつタイムに突入していた。

 無事単騎駆けからラブの下に帰参を果たしていた愛も、今はLove Gunの砲塔でラブの膝の上に座り作戦成功のご褒美として存分に頬擦りをされている最中であった。

 

 

「ま…このバカップルには何言っても無駄よね……」

 

 

 何処か悟ったような表情の凜々子が疲れた声でぼそりと呟く前で、ラブは雛鳥に餌を与える親鳥のように、口移しで甘々なミルクチョコを愛に与えていた。

 

 

『コイツらは……』

 

 

 今、AP-Girlsの少女達の目は、冷凍のマグロ以上に死んでいる。

 

 

「で、どうするの?マウスと黒森峰の本隊、一体どう捌くつもり?タイミングが全てなんでしょ?」

 

「ん?ん~、まあねぇ…でも今回はそんな難しい話じゃないわ。単にまほとマウスが揃えばいいだけの事だからね~」

 

 

 鈴鹿が指摘する通りハードモードな展開が待っているにも拘らず、愛をモフるラブは微塵も不安な素振りは見せず、至ってのんきに構えていた。

 

 

「修羅場の集大成、最後のノルマをこなしたら後は好きにやっていいわよ……なんだったらバーサーカーを一切のリミットなしでやっちゃおうか?」

 

 

 愛を膝の上に乗せ幸せいっぱい表情で実に恐ろしい事を口走るラブに、AP-Girlsの呆れ切った白い視線が集中していた。

 

 

「何でもいいけどよぉ、どうせ進むも地獄戻るも地獄なんだろ?なら最初から全開で行けば──」

 

「ダメよぉ~」

 

「なんでぇ!?」

 

 

 夏妃らしい発言ではあったが、ラブは即座にそれを否定していた。

 

 

「あくまでもバーサーカーはここ一番のとっておきよ、今回は云わばここまで頑張ったご褒美みたいなものよ。でもその前にノルマ、最後の課題はこなして貰うわ」

 

「…解ったよ……」

 

 

 その時だけは厳島流家元の顔となったラブは、厳しいながらも優しい声で夏妃を諭した。

 

 

「みんなもよく聞いて、人員装備共にまだ暫く私達はギリギリの状態が続くわ。でもね、だからといって安易に奥の手に頼っては駄目。あくまでも基本形が大事よ、それを疎かにしていたらこの先戦い続けて行く事が出来なくなるなるわ」

 

 

 ラブの家元としての言葉に、AP-Girlsのメンバー達の表情も()()引き締まった。

 

 

「あのさぁ、ご高説ご尤もだけど愛をモフってデレデレしながら言われても説得力がないのよ」

 

 

 こめかみに怒りのバッテン浮かべた凜々子が、座った目でラブに棘だらけの言葉を叩き付けた。

 

 

「え~なんでよ~?」

 

 

 そう言う間も愛をモフる手は止まらず、凜々子の怒りのバッテンは更に大きくなって行った。

 

 

「──そうだ、これより先はもう逃げ隠れする場所はない。よって接触も時間の問題だ、いつ交戦状態になってもおかしくないからそのつもりで準備しておけ。くれぐれも油断するんじゃないぞ」

 

 

 長い長い登り坂の果て、阿蘇山頂への分岐点の手前まで到達しAP-Girlsが待ち受けるヘリポートまで後少し、まほは無線で試合開始と同時に登山を始めひたすら待機を続けていたマウスに向け戦闘準備の指示を出すと同時に、自分自身もそれに備え気持ちの切り替えを行なっていた。

 何しろ愛のそれを予想しろという方が無理な攻撃により、それを目撃した黒森峰の隊員達は萌えに萌えてしまった為、最終決戦に向け動き出した今もその頬は薄っすらとピンクで何処かキュンキュンした状態から抜け出せずにいたのだ。

 

 

『あれがあの子の本来の姿なのか、それともラブ先輩との関係が改善されそう変化したのか…いずれにしても好ましい事には違いないわね……』

 

 

 まほの隊長車のすぐ後ろに付けるティーガーⅡの上、無線指示の合間にチラリと見えるまほの薄っすらピンクのほっぺを目にしたエリカは、作戦行動中であるにも拘わらずクスッと笑っていた。

 しかし視界の隅でそれを捉えたまほが何だとばかりに振り返ったのだが、緩んだ処を見られたエリカもその気恥ずかしさを隠すでもなく、わざとらしくムスッとした表情を作り敢えて声には出さずに唇だけを動かし『女子力』とだけ言ってみた。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 途端にまほの表情が悔しそうなものに変わって行く。

 

 

『可愛い(ひと)だ……』

 

 

 これも声に出す事はないが、心の中でエリカはそんな事を思っていた。

 だが考えてみればまほがこんな表情を見せるようになったのもラブがまほ達の下に帰ってからの事であり、更に言えばアンチョビとの仲が進展したのが何よりも大きかった。

 そしてそれもまたラブの功績であり自分とみほの関係も同様の事なので、エリカは改めてラブという少女の存在の大きさを思い知ったのであった。

 再会後のこの短期間にラブが成立させたペアは、自分達も知らぬ水面下の存在も入れたら何組いるのか不明だが確実に二桁は越えているだろう。

 中学時代からそんな調子だったラブ自身に初めてそういう相手が出来た事は、彼女に降り掛かった不幸の大きさを考えればとても小さな事かもしれないのだが、その閉ざされていた心に射し込んだ光は決して弱いものではなく、確実にラブの心を温め凍り付いていた彼女自身を救ったのだとエリカは信じていたのであった。

 

 

「さて…恩返しの為にも全力でお相手しないと失礼よね……」

 

 

 呟くようにそう言った後、エリカはその表情を戦闘中の黒森峰の副隊長のそれに変えるのだった。

 但し、まほ同様薄っすらピンクのほっぺはそのままに。

 

 

「いた……」

 

『あぁ…いるな……』

 

 

 山頂と草千里ヶ浜への分岐を過ぎ隊列が古坊遺跡前に到達した辺りでその存在に気付いたエリカが、無線越しのまほのイラっと来ている声を聴きながら双眼鏡でその姿を確認していた。

 

 

「距離…約500m、観光用ヘリポートで…あれはおやつ食べてますね、愛を膝に乗せて……」

 

『…アイツはどこまで図々しいんだ……?』

 

 

 これまでに飲まされた煮え湯の総量でも計っているのか、まほはその口元とこめかみを怒りでヒク付かせていた。

 エリカの耳に彼女と同じく双眼鏡を覗いているまほの、相当カチンと来ているらしい声が届く。

 

 

「昔からじゃないですか、今更何言ってるんですか?」

 

『わ、解っている!』

 

「ハイハイ、いよいよ本番ですよ?指揮、お願いしますね」

 

 

 その熟年夫婦のような隊長と副隊長の無線でのやり取りに、隊員達は笑いを噛み殺しいい具合にその緊張が解れていた。

 

 

『諸君、ここまでは好きにやらせてやったがここから先は我々の番だ。AP-Girlsに黒森峰が最強と言われる理由を教えてやれ!』

 

『jawohl!』

 

 

 まほの簡素な訓示が隊員達の闘争心に火を付ける。

 やはりまほには指揮官としての天賦の才があるのは間違いないだろう。

 

 

「よし、少し動きたくしてやろう…全軍停止、榴弾を装填せよ!ヘリポート外周を砲撃しその内側にいるAP-Girlsを沸騰させてやれ!」

 

 

 まほの命により一糸乱れぬ動きで黒森峰の戦車群が、一斉にその砲身を振り上げ始めた。

 

 

「あら?止まっちゃった……」

 

 

 待ち侘びたような顔をしていたラブは、やっと現れたと思ったら停止してしまった黒森峰の長い隊列に不思議そうな顔で首を捻る。

 

 

「はて?」

 

 

 愛をピンク・ハーツに戻らせると、懐から愛用の単眼直進ズームのスコープを取り出し覗き込む。

 ピント合わせをしたラブは、まほの表情と黒森峰の戦車の動きからかなりマズい状況である事を注目しているAP-Girlsメンバー達に伝えた。

 

 

「ヤバい、まほを怒らせちゃったぁ」

 

『バカヤロウ!』

 

 

 AP-Girlsがラブを罵倒するのと、黒森峰が一斉に放った榴弾の弾着はほぼ一緒であった。

 

 

「うひゃあ!こりゃあ凄いわ!」

 

 

 火柱に囲まれ立ち込める土煙に咽ながらラブはAP-Girlsにヘリポートからの離脱を指示するが、メンバー達からの非難の声は止まる事がなかった。

 

 

「だから何でラブ姉は直ぐそうやって人を怒らすのよ!?」

 

「ふざけ過ぎなのよ!」

 

「墓穴掘る以外脳はねぇのか!?」

 

「ホンっと無駄に乳ばっかデカいんだから!」

 

「みんなヒドイ!」

 

『黙れこの乳タンク(戦車)!』

 

 

 罵声と土塊を浴びながら、這々の体でラブはヘリポートから逃げ出した。

 

 

「アイツ、ホント西住怒らすの好きだよな……」

 

 

 アンチョビはその展開に何処か懐かしさを覚えつつも、呆れた顔をしていた。

 

 

「昔から…小さい時からそうだったから……ラブお姉ちゃん…本当にお姉ちゃんの事が大好きだったから……」

 

 

 ひとりっ子ある処に加え、元々多忙であった両親を幼少期に同時に失ったラブにとって、西住姉妹はかけがえのない大きな心の支えであった。

 一緒に暮した半年の間、傷付いた憧れのお姉さんであったラブを守ろうと精一杯彼女の騎士を務めたまほを、ラブは他の誰よりも信頼し心を許していたのであった。

 みほの話に一同しんみりしたものの、その続きに全員何とも困ったように一様にへにょりと眉を下げるのであった。

 

 

「でも…結局いっつも最後は真面目なお姉ちゃんの事を、ラブお姉ちゃんがオモチャにして怒らせて終わりになっちゃてたんですよね……」

 

『あぁ……』

 

 

 一同の生温い視線に見守られる中、まほ率いる黒森峰の隊列もラブを追って再び動き始めた。

 

 

「いや~、酷い目に遭ったわぁ……」

 

『誰のせいだ誰の!』

 

 

 被った土埃をパタパタ叩きながらさして堪えた風でもなく、のんきな口調のラブに対してなおもAP-Girlsのメンバー達の罵倒は止まらなかった。

 

 

「ざっけんなバカヤロウ!西住隊長怒らせてまた無駄にハードル上げやがって!」

 

「ホンっとメンドクサイ女!」

 

「これからは何かやらかしたらきっついペナルティが必要ね!」

 

「何よ!みんなだっておやつ食べてたじゃない!」

 

『それだけの問題じゃない!』

 

 

 緊張感など欠片も見られず罵声が飛び交っているが、それでもAP-Girlsの隊列に一切乱れは見られる事はなかった。

 

 

「よし、一気に追い込むぞ。パンターは先行して圧力を掛けろ、草千里ヶ浜の草原にAP-Girlsを追い落とせ。マウスの()()()()を始めるぞ」

 

『了解!』

 

 

 左側に寄った黒森峰の隊列の中から小梅率いるパンター6両が抜け出すと、脚の速さを活かし猛然と先行して行った。

 ここまでAP-Girlsは全車健在ではあるものの、小梅のパンターの部隊を相手にしただけでも戦力的には大きく劣っている。

 果たしてその戦力で如何にしてマウス相手に立ち回ろうというのか、対戦する黒森峰にも観戦する者達にもそれは全く想像が付かなかった。

 そしていよいよAP-Girlsはマウスが待ち受ける草千里ヶ浜の駐車場へと接近して行く。

 だがその手前には、AP-Girlsの動きを鋭く監視する目が光っていた。

 

 

『来た…カウント5から行くぞ……5、4、3、2、1 撃て!』

 

 

 駐車場の手前、最後の大きなコーナーを見通す場所に巧妙に擬装を施したⅢ号J型伏せており、マウスの目としてAP-Girlsの動向を正確にマウスに伝達していたのだ。

 そしてその情報極めて正確なものであり、通常の相手であればその一撃で全ての決着が其処で付いていたかもしれなかった。

 だがその相手がラブとなると些か話が違ったものとなり、通常というものが一切通用しなくなる。

 それは傍から見れば神憑りともいえる動きであり、マウスが放った恐るべき一撃を回避していた。

 Ⅲ号からの合図に合わせマウスの128㎜が遂に火を噴いたが、それよりもほんの一瞬だが早いタイミングでラブはAP-Girlsに対しリミッターカットの緊急機動指示を出していたのだ。

 

 

「ダッシュ!」

 

 

 ラブをよく知る者以外、誰もがLove Gunに128㎜の楔が突き刺さると思っただろう。

 

 

「ま…アレはラブなら避けるよなぁ……」

 

「そうね……」

 

「自分に向けられた敵意にだけは敏感なのよ!」

 

 

 スタンドからそんな声が聴こえた通り、爆炎が晴れるとAP-Girlsは何事もなかったように姿を現し走行を続けていた。

 ここで厳密に言うならば、それはラブがそのタイミングとその場所で撃たれるであろう事を読んでいた結果なのであったが、彼女の場合その読み以前に自分に向けられた()()をその敏感な肌で確実に感じ取っていたのだ。

 

 

「やっぱりラブ先輩はお見通しかぁ…ホント化物な(ひと)だなぁ……」

 

 

 後方から距離を取り予定通りの砲撃が行なわれたのを監視していた小梅は、それがいともあっさりと見切られたのを目の当たりにしたのだが、彼女もまたそれに驚くでもなく受け入れただ面倒そうに呟くのみであった。

 

 

『日頃からアチコチで恨みを買ってる人間は、やっぱりこういう事には敏感なのね』

 

「ちょ!?凜々子いくらなんでもヒドくない!?」

 

 

 見事な危機回避の直後無線越しに凜々子の放った感想に、ラブは頬を膨らませ抗議の声を上げたのだがそれはサクッと無視されてしまう。

 

 

『普通あそこまで計画的に128㎜なんて化物で狙撃なんてされないわよ!ラブ姉が恨みを買うのは勝手だけどそれに私達を巻き込まないでくれる!?』

 

 

 土煙と煤に塗れた凜々子の目は嘗てない程に座っていた。

 振り返ってその凜々子の表情を見たラブは、どうやってその場を誤魔化すかの算段を始めた。

 

 

『どうやって誤魔化そうかとか考える前に、この状況を何とかしなさいよ!こんだけ人に土砂を浴びさせといてあっさり負けましたとか許さないわよ!?』

 

「うぅ…凜々子が怖い……」

 

『何か!?』

 

「いえ、別に何も……」

 

『あ~もう凜々子もいい加減ウザいわよ?もうこの直線を登り切ったら、直ぐにマウスとご対面なんだから無駄に体力使うの止しなさいよ』

 

『……』

 

 

 キリがないと見た鈴鹿が、強制的にそこで凜々子の言いたい放題を終わらせる。

 しかしそこで嬉しそうな顔をしたラブに向け、しっかりと釘を刺す事も忘れない辺りがさすが鈴鹿と言うべきか。

 

 

『ラブ姉、別に助け船を出した訳じゃないわよ?いつまでも遊んでないでいい加減指揮を執ってくれないと困るんだけど?』

 

「…はい……」

 

 

 しょぼくれたラブが口を尖らすうちに、AP-Girlsの隊列は遂に草千里ヶ浜手前の最後の勾配を登り切ると、レストハウス等が建ち並ぶ広い駐車場前の直線へと辿り着いた。

 

 

「マウスは!マウスは何処だぁ!?」

 

 

 先程喰らった一撃で闘争心に火が着いていたらしい夏妃が声を荒げる。

 その見た目だけでいえばAP-Girlsの中でも一番儚げな印象の少女である夏妃だが、その中身がどうかというと彼女こそAP-Girls最強のパワーファイターであり、ダントツのタフさと気性の激しさを誇っているのであった。

 因みに、完全なる余談ではあるが、その激しいギャップがまほのツボを突いたのだと冷静な副官であるエリカは分析していた。

 

 

「いた!上よ!」

 

 

 凜々子の指差す先、県道より一段高い場所に位置する駐車場のど真ん中に、その怪物は堂々と桁外れの巨体でそこに鎮座していた。

 

 

「デケぇ…マジでデケぇ……」

 

「私初めて見るわ……」

 

「本当にあんな手が通用するのかしら?」

 

「……」

 

 

 各車の車長の想いはそれぞれだが、そんな彼女達を束ねるAP-Girlsのユニットリーダーであるラブこと厳島恋が、振り返って見せたその顔は自信溢れる不敵な笑みを湛えており、それを見ただけで彼女達は暗示に掛かったかの如くその表情が引き締まり、アイドルから戦車乗りの顔になって行く。

 

 

「さあ、それじゃあネズミ退治をしましょう──」

 

 

 ラブがそこまで言った処で背後から砲声が轟き、駐車場の出入り口へ向かおうとするLove Gunの前方へと6発の徹甲弾が弾着した。

 

 

「あら、小梅さん?……そう、私をネズミに近付けたくないのね?それじゃあ代わりに小梅さんに少し怖い思いをしてもらおうかしら?」

 

 

 追撃して来た小梅の率いる6両のパンターが、Love Gunの前方へと威嚇の為の徹甲弾を撃ち込んだ結果、ラブは美しくも寒気のする程の微笑を浮かべ、次いで何とも恐ろしいセリフをさらりと口にするのだった。

 

 

「ひっ!?な、なに今の……?」

 

 

 その瞬間砲撃の指示を出していた小梅の背中を、これまでに経験した事のない寒気が奔り金縛りにあったように硬直していた。

 

 

「ま…まさかね……」

 

 

 ギクシャクと出来の悪いからくり人形ような動きで、止めておいた方がいいと心の中の何処かで警鐘が鳴っているにも拘わらず、小梅は双眼鏡を取り上げるとそのレンズを前方にいるラブへと向けてしまっていた。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ音が、大きく自分の耳に響く。

 双眼鏡のレンズ越し、ピントが合うとそこには身震いする程に美しく微笑むラブの顔があった。

 

 

「あ……」

 

 

 小梅が短く声を発すると、ラブは彼女の視線が自分に向けられているの認識しているようで、その笑みを淫靡な小悪魔の笑みに変えると、舌なめずり後にまるで小梅の両の頬に手を添えるような仕草で、彼女の唇に向け舌を深く絡めるディープキスのパフォーマンスをして見せた。

 

 

「あぁ~ん♡」

 

 

 電撃を受けたように、小梅はコマンダーキューポラ上で頽れてしまう。

 

 

「きゃあ!小梅どうしたのよ!?」

 

 

 異変に気付いた砲手が声を掛けるも、双眼鏡越しのディープキスで逝かされてしまった小梅の言う事はまるでうわ言のように要領を得なかった。

 

 

「ら、らめぇ……♡私…終わったわぁ……」

 

「は!?何?一体何を言ってるのよ!?」

 

 

 逝かされて飛んだ意識の中でも彼女は理解していた。

 自分に向けられた淫靡さと凄惨さを併せ持ったラブの笑みに、たった今の砲撃で小梅は自らの死刑執行令状にサインしてしまった事を。

 そしてラブの強烈極まりないディープキスパフォーマンスは、観戦エリアにおいても失神者続出の事態を引き起こしていた。

 

 

「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!あ、アイツは一体何をやっておるのだぁ!?」

 

「あいた────っ!」

 

「お、おやりになるわね……」

 

「ダージリン、涎と鼻血を何とかなさい」

 

「アッサム、お前もだ」

 

「F●ckin!ゆ、油断したわ……あぁん♡」

 

「こ、これは粛正モノよ……」

 

「カチューシャ様……まさか?でもやはりあの時奪っておくべきでした……」

 

「んもー!ラブお姉ちゃんったらんもー!」

 

 

 全員鼻から鮮血を迸らせ内股となっていた。

 

 

「亜梨亜様…その……」

 

「何かしら?その期待に満ちた目はどうしましたの?」

 

 

 どう見てもこの二人の間にも、昔何かがあったとしか思えなかった。

 そんな波乱があった事など露知らぬラブが大きく右手を振ると、AP-Girlsの5両は一斉に左に舵を切り草千里ヶ浜の草原へと飛び込んで行く。

 そしてそれに釣られ追撃部隊の6両のパンターも、まるで誘蛾灯に誘い込まれる羽虫のように続々と草原へと侵入して行くのだった。

 そしてここに、ラブという名の魔女が仕込んだ地獄の釜の蓋が開き始めた。

 ラブとまほ、この地獄の釜から脱出する為の一枚のチケットをその手に掴むの事が出来るのは、果してどちらなのであろうか?

 

 

 




しかし今回もみんな見事にポンコツですね……。
でもR指定の戦車戦って書くの大変ですわw
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