ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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どうも最近火曜になると忙しいです。

いよいよマウスとの対決ですがラブが違う方向に暴走気味かも……。


第七十一話   Mousetrap

「来るぞぉ!」

 

 

 黒森峰が保有する戦力の中にあって、最大最強を誇る超重戦車マウスの車内に緊張が奔る。

 重量187.998t、履帯の幅だけでも1mを越えるその怪物とそれを操る者達が、果して何に対してそこまで怯えを見せるのか?

 

 

「さあやるわよ!ちゃっちゃとやるわよ!まずはマウスからぶっ倒すわよ~!」

 

 

 一応試合中の事故とはいえとんでもないプレイで逝ってしまったラブは、恥ずかしさのあまりすっかりいじけた挙句に、試合中であるにも拘わらずそれを忘れ、助けてくれた砲手の瑠伽と言い合いまでする始末だった。

 だがその試合中、しかも隊列を組み疾走するLove Gunにピンク・ハーツから飛び移った愛により、飴と鞭で諌められた上ご褒美の一言で現金にも復活したラブは、ハイテンションで再び指揮を執り始めていた。

 しかしここでひとつ問題になったのが、そのラブの表情であった。

 愛の一言でやる気になったのはいいがその顔には邪な下心が溢れており、そのエロさ溢れるラブが嬉々として迫って来る為に、マウスの乗員達はすっかりビビっていたのだった。

 

 

「いやぁ──っ!エロい──っ!いや怖い──っ!」

 

「なんで笑顔!?」

 

「あれ笑顔ちがう────っ!」

 

 

 マウスと対峙するにはあまりにその戦力に差があり、ラブ達が騎乗するたった5両のⅢ号J型では凡そ太刀打ち出来る相手ではないにも拘らず、迎え撃つマウスの乗員達は近付く程に増して行くラブのエロさ満点の圧力に気圧されている。

 実際の処、今のラブの表情はマウスを倒すべく牙を剥くAP-Girlsのリーダーのそれではなく、今にもマウスの乗員達を押し倒して据え膳喰いそうなエロいおねーさんの顔だった。

 

 

「うぅ…あの顔は……」

 

 

 一時的とはいえ鈴鹿が指揮を執りながらも攻撃に出る事もなく、回遊魚のようにマウスの周りを周回していたAP-Girlsの様子を窺っていたまほは、再び指揮を執り始めたラブの表情に言葉を失った。

 それでも何とか本隊を進めAP-Girlsに圧力を掛けようとしたが、逆に彼女が放出する煩悩丸出しのオーラに腰が引けておりさすがのまほも頭を抱えていた。

 

 

「隊長、あの状態のラブ先輩に手を出すとか、徹甲弾をピン代わりに並べてボウリングするより無謀だと思うのは私だけでしょうか?」

 

「……」

 

 

 主にまほ、時々みほの巻き添えで、ラブに関してはそれなり以上に経験値を積んでいるエリカが言う事はよく解らない例えながら妙な説得力あり、まほも何も言えなくなっていた。

 

 

「なんか喰われそうなんですけど────っ!」

 

 

 愛のご褒美以外頭の中に何もないラブが、口角を吊り上げた狂気の笑みで突撃して来る。

 

 

「あの顔…アイツまたなんか壊れてるだろ……?」

 

「先程の愛さんが関係しているのではなくて?」

 

 

 しょうもないといった風を装ってはいるがアンチョビとダージリンの頬は赤く、その足元もよく見れば内股になっていた。

 そして周りの者達、それ処か全ての観戦者が同様であり、完全にラブに中てられているようだ。

 

 

「だからノンナ!なんで直ぐ目隠しすんのよ!?」

 

「あれは子供の見るモノではありません」

 

「誰が小学生ですってぇ!?」

 

「そこまでは言ってません」

 

「ぐっ!」

 

『ぶふっ!』

 

「あんたら纏めて粛正してやるから覚えてらっしゃい!」

 

 

 お約束の展開をやっているうちに、遂にAP-Girlsがマウスに襲い掛かろうとしていた。

 

 

「Why?見て!またLove Gunが最後尾に付いたわ!」

 

「何する気だぁ?」

 

 

 ケイとナオミが顔を見合わせる中Love Gunが一旦隊列から外れ、愛のピンク・ハーツがそのまま先頭となりLove Gunは最後尾に回っていた。

 そしてピンク・ハーツが先頭となった直後、マウスと交錯する寸前5両揃ってこれまでにも何度となく見せていたカニ走りへと移行する。

 

 

「やるぞ……」

 

 

 アンチョビが眼光鋭く呟くのと同時にカニ走りでマウスの横を駆け抜けたAP-Girlsが、ピンポイントの同時砲撃を行なった。

 

 

「こんどは横滑りですってぇ!?」

 

「それより今の砲撃、Love Gunだけが遅れましたわ!」

 

 

 カニ走りでマウスの横をすり抜ける瞬間AP-Girlsは得意の砲撃を行なっていたが、Love Gunのみがほんの僅かながら砲撃のタイミングがずれていたのだ。

 

 

「い、今のが例の!?」

 

「大丈夫だ!この程度なら全く問題ない!」

 

 

 マウスの乗員達も攻撃を受けた時には恐怖に駆られていたが、現実にはⅢ号J型の火力では例え束ねたとしてもマウスに対して通用するものではなかった。

 しかも今の攻撃はLove Gunのみタイミングが遅れていたので、更に攻撃力は落ちていたはずだ。

 実際爆発後、煙の中から姿を現したマウスには一切ダメージらしきものは見受けられなかったのだが、観戦エリアでは困惑雑じりのどよめきが起こっていた。

 

 

「ペイント弾だとぉ!?アイツ一体何考えてやがるんだ?」

 

 

 アンチョビが思わず眉を寄せて言った通り、マウスの砲塔基部には聖グロ戦でダージリンに対しても使用した、えげつないピンク色のペイント弾が撃ち込まれていた。

 

 

「またあの色……でも塗料の量が随分と少ないようですが」

 

 

 自分をおちょくる(挑発)時使用されたそのどギツい色にダージリンは明らかに不愉快そうな顔をしているが、マウスに弾着したペイント弾の塗料の飛散量が少ない事に疑問を抱いたようだ。

 そう言われてペイント弾を喰らったマウスの姿をもう一度よく見れば、確かに塗料の量が減らされているらしく、相手がマウスという事もありその()()はなお一層小さく見えるのだった。

 

 

「フム、今度はこの手で来ましたか……」

 

 

 ダージリンの隣で淡々と試合の行方を見守っていた絹代が、納得したようにニンマリとしている。

 

 

「ねえ絹代さん、いい加減素直に全てを白状なさい!あなたが知り得る全ての事を!」

 

 

 AP-Girlsに対し、英子の伝手で極秘裏に訓練の協力をしていた知波単の隊長である絹代の首を、ダージリンがギリギリと締め上げ始めた。

 

 

「あ~、ダージリン殿…そろそろ私も新しいプレイに目覚めそうですので、もうそれ位で許して頂けないものでしょうか……?」

 

「だったら──」

 

 

 いつもの困り顔を浮かべる絹代に対し一向にその手緩めぬダージリンであったが、背後でアッサムが履いていたローファーを手に取り、ダージリンの後頭部を引っ叩く用意をしているのを感じ取ったので、フンっとひとつ鼻を鳴らしてやっとその手を緩めるのだった。

 

 

「ふう…苦しかった……」

 

 

 眉を吊り上げるダージリンの背後で、もの足りなそう顔でローファーを脚に戻すアッサムに目礼で感謝を伝えた絹代は、あくまでも隠す訳ではないと前置きした上でこれは口で言うより見た方が早いと口を割ろうとはしなかった。

 

 

「ったく……オイ!ダージリンももういい加減にしろ!」

 

「私何も言ってませんわ!」

 

 視線だけで絹代を蜂の巣にしそうなダージリンに向かって、アンチョビが叱り付けるように言ったのだが、彼女は再び面白くなさそうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

 

「全くもってしょうがないヤツだなぁ……あ~、それで絹代、つまりまだあの攻撃はあれで終わりではないという事なんだな?」

 

 

 アンチョビの問いにまたしても絹代は言葉を口にはせぬが、にこりと極上の笑みを浮かべるとそれを答えとしたようであった。

 

 

『…コイツ、黙ってるとまたとんでもない美人だな……』

 

 

 その笑みにドキっとさせられたアンチョビは誤魔化すようにひとつ咳払いをすると、再びその目をモニターへと戻すのであった。

 

 

「何だったんだ今のは?」

 

「解らないけど例の攻撃を受けたんじゃないの?」

 

「それで被害状況は?」

 

「今の処不具合は出てないみたいだけれど、中からじゃ解らないよ!」

 

「ちょっと待って!」

 

 

 すれ違いざまに予想通りの一撃を受けはしたが、拍子抜けする程直ぐ解るような被害はなかった。

 

 

「うえぇ!何コレぇ!?」

 

 

 再びAP-Girlsと正対する為にカメの歩みで旋回する間に被弾ヵ所を確認したマウスの車長は、砲塔側面飛び散ったどギツいピンク色の塗料に目を剥いた。

 

 

『──聞こえるか?状況を報告せよ』

 

「隊長!」

 

 

 AP-Girlsが行動を起こした事でまほも介入すべく動き出したが、彼女のいるポジションからは攻撃の様子は見えず、何が起きたか確認すべく無線でマウスの車長を呼び出していた。

 

 

『──そうか、それで損傷はないんだな?』

 

「はい、装甲の表面が多少傷付いて煤けた程度です!ただ……」

 

『ただなんだ?』

 

 

 言い淀むマウスの車長にまほは先を促す。

 

 

「ハァ…どうも攻撃の際、一緒にペイント弾も撃ち込まれたようで……」

 

『ペイント弾だぁ?』

 

 

 帰って来た予想外の答えに、さすがのまほも少々間の抜けた声を上げた。

 

 

「えぇ、そうですペイント弾です」

 

『ラブのヤツめ…また訳の解らん事を……』

 

「は?」

 

 

 無線越しのまほの悪態に、マウスの車長は困惑する。

 

 

『あ、イヤこっちの話だ……いいか、これより少数でそちらに斬り込んでAP-Girlsをもう一度草原に追い落とす。その後はまた働いてもらうからな、抜かりなく備えておくのだぞ』

 

「了解!」

 

 

 まほとマウスの車長が無線でやり取りする間に、AP-Girlsはマウスに二撃目を加えるべく突撃を開始していた。

 

 

「また来る!」

 

「主砲じゃ無理!副砲で対応して!」

 

「副砲でも無理だって!」

 

 

 マウスの動きの遅さを嘲笑うかのように、AP-Girlsが高速機動で近接戦闘を仕掛けて来る。

 

 

「多分この二撃目を見れば、皆さんにも厳島殿が何を意図しておられるかお解りになる事でしょう」

 

「絹代さん……」

 

 

 モニターから視線を逸らす事なく誰に言うでもなしに、絹代の形の良い唇から良く通る声で意味深なセリフが零れ落ちる。

 5両のⅢ号J型が流れるような滑らかな動きで、直線走行から90度車体を滑らせ向きを変えた。

 連結しているのではと錯覚する程5両の車間はバラつく事もなく、履帯から激しく火花を散らしながら高速で滑走して行く。

 

 

「まただ……またLove Gunだけが発砲タイミングをずらしたぞ」

 

 

 すれ違いざまにAP-Girlsが二撃目を放ったが、またしてもLove Gunのみがワンテンポ遅れた砲撃を行なった事をアンチョビは見逃していなかった。

 

 

「そういう事か……そういう事なんだな絹代?」

 

 

 爆炎が晴れ姿を現した巨大ネズミはやはり何処にも被害を出していないようだったが、一撃目を受けたのと同一の箇所にペイント弾が撃ち込まれ、毒々しいピンク色の花が咲いていた。

 

 

「さすがパスタ殿、正解です」

 

 

 実に爽やかな笑顔で快活に絹代が笑う。

 

 

「ちょっと二人共!いい加減にして下さらない?」

 

 

 やはり策士、敏感なアンチョビは真っ先にラブの奇策に気付いていた。

 

 

「うぉ~いみほ、オマエまだ解らんのかぁ?」

 

「ふぇ!?わ、私ですかぁ!?」

 

「そうだオマエだ、よぉ~く見てみろ~」

 

「あ、あなたねぇ!」

 

 

 キュっと眉を吊り上げるダージリンに向け無言で手の平を向け、まあ待てといった感じでストップを掛けたアンチョビは、もう一度みほに視線のみで問い掛けた。

 

 

「うぅ…えっと……あ、あれ?そんなまさか!?」

 

「やっと気付いたか~。そのまさかだよ、まず間違いないだろう。なぁ絹代?」

 

 

 問われた絹代は改めてにっこりしてみせた。

 

 

「お前さん達もよ~く見てみろ、一撃目と二撃目の()()をな」

 

 

 最初は皆揃って怪訝な顔をしていたが、アンチョビが言葉に含みを持たせた意味まで考えながら改めてマウスを観察するうちに、ラブが何をやっているか気付き始めた。

 

 

「ちょっと……」

 

「ウソでしょ!?」

 

「Crazy!あり得ないわ!」

 

「やれやれ、やっと解ったか…しかし相変わらずアイツはとんでもないことを思い付くヤツだなぁ……オイ絹代、お前達こんな事まで実験台になってたのか?」

 

「いやぁアンチョビ殿、実験台とはこれまた手厳しいですなぁ。さすがに我が校のチハでは装甲が紙過ぎて実験台にもなれません、なので分厚い鉄板乗せた台車を牽引するトラクター程度の事しかやっておりませんよ」

 

「トラクターってお前なぁ……」

 

 

 何とも自虐的なセリフを実にあっけらかんと言う絹代に、毒気を抜かれたアンチョビが思わずガクっと肩を落とした。

 しかしこの絹代とて決して馬鹿ではなく、今は弱者扱いに甘んじてはいるが大所帯であり練度に関しては断トツと云われる知波単を束ねる隊長を務める以上、ラブから何も吸収していないと思う方がどうかしていると考えたアンチョビが、何気なくダージリンに目を向けてみると彼女もまた同じ考えなのか、最近では振り回されっ放しの黒髪の美丈夫の横顔をジッと見ていた。

 

 

『この先知波単を…この絹代を舐めて掛かったヤツは相当に痛い目を見る事になりそうだな……そもそもあの英子姉さんが目を掛けてるんだからハズレであるはずないんだ』

 

 

 今一度アンチョビも絹代の聡明な横顔を一瞥した後、彼女ははモニターに目を戻した。

 

 

「ようはあれも豆鉄砲で重装甲を如何にして抜くか考えに考えた結果、いくつも編み出した技のうちの一つという事だろ?例のピンポイント砲撃を複数回同一の場所に行う為のマーカー替わりとして、ペイント弾を使うか…それでもまだああしてマウスは健在だ、後何撃加えれば効果が現れるやら……それまで西住だって待ってはくれんぞ?」

 

 

 彼女が言う通りエリカのティーガーⅡが6両のパンターを引き連れ、AP-Girlsを再び草原に追い落とすべく駐車場に突入しようとしていた。

 

 

「撃て!AP-Girlsに隊列行動を許すな!」

 

 

 エリカの命令を受け突入部隊が砲撃を加えながら駐車場に雪崩れ込んで行き、AP-Girlsもその隊列を維持出来なくなりバラバラに行動し始めた。

 

 

「気を付けなさい、妙な誘いに乗らない事!慌てず圧力を掛け続けるのよ!」

 

 

 エリカの指示で突入部隊は隊列を駐車場の幅一杯に隙間なく広げると、そのまま砲撃を続行しながら前進を続けAP-Girlsの行動範囲を狭めて行った。

 

 

「あら?エリカさん私達をここから追い出すつもり?でもちょっと間口を狭めるのが早過ぎよ」

 

 

 クルクルと砲撃を躱しながら目まぐるしい機動を見せるLove Gunの上で、楽しそうに微笑むラブは花楓に曲を流すように指示を出すと、まだ少し距離があるもののエリカに向けウフっと意味有り気にキュートな極上の笑みを浮かべて見せた。

 

 

『う゛…ラブ先輩、お願いだからそういうの止めて……』

 

 

 ラブの意識が自分に向けられたのを察したエリカは、ブルっと身震いし心底嫌そうな顔で派手なステップで踊り続けるLove Gunに目を向けた。

 

 

「始まっちゃった…エリカさん……?」

 

 

 Love Gunのスピーカーから流れ始めたAP-Girlsのデビュー曲のイントロに、小梅もその身を震わせた後にその表情を強張らせた。

 

 

「動揺しないで!隊列を維持するのよ!」

 

 

 必死に指揮を執るエリカに小梅が目を向けると、彼女は死にそうな顔でラブの明らかに状況を楽しんでいる圧力に抗おうとしているように見えた。

 何しろ愛のご褒美目当てで煩悩前全開状態のラブが放つ瘴気は凄まじく、いっそこのまま気を失ってしまいたい、エリカが思わずそんな事を考えてしまう程にラブは全身に強烈に邪な負のオーラを纏っていたのだ。

 そして分散して隊列行動も出来ぬ状態と見せかけて、一気に隊列を組むとマウスに襲い掛かり三回目の砲撃を行なうのであった。

 

 

「くっ!やられた…あの一瞬で……」

 

 

 エリカの目の前で放たれた三撃目も前の二回と全く同じ場所に撃ち込まれ、Love Gunの放ったペイント弾もくっきりとそのけばけばしい刻印を刻み付けていた。

 

 

「…!ちょっと待って……あれはさっきのペイント弾の痕と同じ場所じゃない……まさか!?でもそういう事なの!?」

 

 

 Love Gunが撃ち込むペイント弾の意味に気付いたエリカの顔色が、みるみる青ざめて行く。

 

 

「前進せよ!マウスの左側面にぴったり横付けしろ!」

 

「な、一体どういう事で──」

 

 

 ティーガーⅡの操縦手が、訳が解らぬと振り向く。

 

 

「話は後!急げ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 エリカの指示で前進を始めたものの、三撃目を放ったAP-Girlsは離脱すると見せかけそのままグルリとドリフト機動でマウスの周りを旋回すると、更に四撃目を撃ち込んでいた。

 

 

「しまった!高速機動中にあの短時間で再装填するなんて!」

 

 

 驚くエリカの前で、AP-Girlsは今度こそ本当に距離を取るべく駐車場の奥側へと走り去った。

 そして今の四撃目を受けた事で、マウスにも明確な変化が現れていた。

 それまで遅いながらもスムーズな動きで旋回していたマウスの砲塔が、ゴリゴリと耳障りな音を立て始めその動き自体も不具合があるのが明らかなものとなっていた。

 

 

「やられたわ!全車マウスの前に出て全力掃射!AP-Girlsを此処から押し出せ!撃ち方始め!」

 

 

 なりふり構わぬと云ってもよいエリカの激しい攻撃に、さすがに狭いスペースでは全てを躱し切れず、不利を悟ったラブの指示によりAP-Girlsは柵を破壊してポンポンと転げるように駐車場から飛び出して行くのだった。

 

 

「さすがに火力の差は如何ともし難いわねぇ……でも隙を見てもう一度仕掛けるわよ。タイミングは私が計るから、みんなもそのつもりでいてね」

 

 

 草地に飛び込み早速始まったまほの本隊からの攻撃を躱しながら、ラブも指揮を執り続けている。

 

 

「でもその前に少しまほと遊んであげないと、あの子大分退屈してるっぽいわね~」

 

 

 お気楽にまほからすれば迷惑且つ怒り出しそうな事を言うラブを、Love Gunのメンバー達はめんどくさそうな目で見ている。

 

 

「うふふ♪まほが拗ねると可愛いんだけどね~♡」

 

『このド変態が……』

 

 

 全員試合中でなければ、ラブのたわわの先っちょのひとつも抓り上げたい衝動に駆られていた。

 

 

「さあみんな、もう一度まほに仕掛けるわよ。でもまだ本気でやらないのは分かってるわよね?今の本命はあの大きなネズミさんよ、ここでまほにちょっかい出せば間違いなくエリカさんが喰らい付いて来るからそのタイミングで行こう。次で決めるよ、そしたら後は好きにやっていいからね」

 

 

 この状況下にあってなお、ラブは一向に勝負を諦めてはおらずマウスとまほを倒す気充分だった。

 そしてこの時ばかりはラブもおふざけなしの厳島流家元の顔をしており、声も笑いを含んだものではなくなっている。

 

 

「あの頃を思い出します…生き写しとはこの事ですね……」

 

 

 しほが遠い目でAP-Girlsを引き連れ駆け回るラブの姿に、嘗て黒森峰の夜叉姫と恐れ奉られた亜梨亜の姿を重ね合わせていた。

 

 

「あら?私ってあんなにエキセントリックだったかしら?」

 

『自分で言うか…つーか自分の娘に何て事を……』

 

「なあにしほちゃん?」

 

「いえ別に……」

 

 

 不思議そうに首を傾げる亜梨亜からしほは目を逸らす。

 ラブと同様の深紅の長い髪を揺らした亜梨亜が、面白そうに更にしほの顔を覗き込む。

 

 

「うふふ♪でも本当に懐かしいわね……あの頃はしほちゃんと千代ちゃんが──」

 

「だあぁ────!」

 

 

 厳島と西住両家親族が勢揃いする前で自らの黒歴史を暴露されそうになったしほは、慌てて絶叫しながら亜梨亜の口を塞ごうとしたが、すっかりテンパった彼女は亜梨亜の顔を抱き締めると、脂の乗り切った胸のアハト・アハトに埋めてしまった。

 

 

「あら♪良い感触だこと♡」

 

「あぁぁぁぁ~」

 

 

 切羽詰って取った行動の結果、ドツボにはまったしほは意味不明な呻き声を上げていた。

 

 

「隊列を乱すな、付け入る隙を与えるだけだぞ!セコイ挑発は受け流せ、もう一度キルゾーンに叩き込んでマウスの的にしてやれ!」

 

 

 高速機動で接近し、近接戦闘に持ち込もうとするAP-Girlsに対し、まほは統制の取れた隊列行動と牽制の砲撃を有効に組み合わせ跳ね除けている。

 

 

「さすが堅いわね、でもまあこっちがまだ本気じゃないのもお見通しって感じだわ」

 

 

 まほを餌にエリカを草原に引き摺り込みその隙を突き再びマウスを襲撃するつもりでいたが、エリカはAP-Girlsを追撃して草原に突入する事はなく、駐車場に留まりそこから本隊との連携で主にラブをターゲットとして砲撃を加えていた。

 

 

「う~ん、てっきり追撃して来ると思ったけどエリカさんの方も堅いわねぇ…これじゃあ迂闊にマウス狙って攻め込めないわ……」

 

 

 そうこうするうちにまほの目論み通り受け流されたAP-Girlsは、草原の奥へ奥へと追いやられ黒森峰本隊とも距離が出来た結果、再びマウスの128㎜の砲火に晒される事となっていた。

 更にエレファントとヤークトティーガーは策を巡らし戦力外とする事に成功したが、直下のヤークトパンターを始めアハト・アハト(88㎜)勢が全て健在であり、機動力のあるパンターも同じく全車生き残っているのでいよいよAP-Girlsも苦しくなり始めていた。

 何しろこの場で火力面で対等なのは1両のみ参戦しているⅢ号J型のみであり、それ以外は火力装甲共に全てが上の相手ばかりなので、これまでの試合以上にここまで持った事自体が奇跡と言っても言い過ぎではない位なのだ。

 みほ率いる大洗も素人の寄せ集め戦車も寄せ集めで黒森峰を倒したのは奇跡なのだが、こと火力に関しては遥かに恵まれており、戦車その物の性能は限界まで上げられていて長砲身とはいえ50㎜砲のみのAP-Girlsでは、如何な策を以ってしても絶対に越えられない壁というものが存在していた。

 大口径故装填速度も決して速いものではないが、他の砲撃の合間に散発的とはいえ飛来する128㎜はやはり驚異であった。

 ただ、唯一の救いはこれまでに与えてきたダメージの蓄積により、ターレットに歪みが生じマウスの巨大な旋回砲塔の動きが相当悪くなってなっている事であった。

 

 

「さすがにこれはキツイわねぇ…でもマウスもあの様子だと、もう一撃加えれば黙らせる事が出来そうだわ。ただ問題はどうやってあそこまで行くかなのよ……」

 

 

 駐車場から見て約700m、草千里ヶ浜の最奥まで押し込まれたAP-Girlsは、現状応戦したとしても無駄弾になるので回避行動のみに専念している。

 ただ彼女達も闇雲に逃げ回るだけではなく、常にカウンターで撃って出るタイミングを計っているので、迂闊な事をすれば確実に喰われる事が解っている黒森峰も今一歩の処で踏み止まりそれ以上踏み込む事が出来ずにいた。

 

 

「ん~、この状況もちょっと面白くないわねぇ…でもそれを打破するとなると、やっぱり私が餌になるのが一番っていうかそれ一択よね……」

 

 

 また面倒な事を言いだしたとLove Gunのメンバー達は嫌そうな顔をするが、確かにこの状況ではそれが一番効果的な手であるのは事実なので、事ここに至ってはもう何も言わないのであった。

 

 

「みんな聞いて頂戴、このままこうしていてもジリ貧だしよくて千日手だわ。だからここはLove Gun()が餌になってまほを釣るから、あなた達は一気に中央突破でマウスを急襲しなさい。私の見立てに間違いがなければ、マウスは後一撃で首が回らなくなるわ。今回はそれでノルマ達成なんだからここでケリを付けましょう!各員の奮闘に期待する!AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 ラブの唱えた魔法の呪文でAP-Girls全員の目付きが豹変し、鋭い猛禽の目となった。

 それまではのらりくらりと攻撃を躱していただけの機動から一転、Love Gunが激しいダンスステップのスラロームで、飛び来る徹甲弾を見切りながらまほのティーガーⅠ目掛け斬り込んで行く。

 

 

「なっ!?一気に勝負に出た!?各車Love Gunに砲撃を集中せよ!」

 

 

 駐車場に陣取っていたエリカは配下のパンターとマウスに攻撃を指示し、二回程砲撃を行なったがLove Gunが本隊の車群に紛れ込んだ為それ以上の攻撃は出来なかった。

 本隊の隊列の中にフラッグ車であるLove Gunが飛び込んで来た為に、一時的に全ての目がコマンダーキューポラ上のラブに集中していた。

 そして充分にラブが敵を引き付けた処で、突出したLove Gunから遅れ気味になっている風を装っていたAP-Girlsが、ピンク・ハーツを先頭に転進し電光石火の早業で黒森峰本隊の中央を食い破って突き抜けて行った。

 

 

「チッ!やられた!狼狽えるな、迎撃用意!」

 

 

 針孔を通すような一瞬の隙を突いたAP-Girlsの行動の速さに浮足立ち掛けた部隊に、エリカは喝を入れながら先陣を切る愛を睨み付けた。

 

 

「そう……いい目だわ、やる気なのね?」

 

 

 愛の本気度を見て取ったエリカも、狼の目付きで比類なき鋭さを誇るその牙を剥く。

 最終局面を迎えたこの一戦、果して相手の喉笛に牙を突き立てるのはどちらか。

 勝利の女神もどちらに微笑むべきか迷い始めたようだ。




戦闘はいよいよ次回で決着が付きます。
果してAP-Girlsは初勝利なるでしょうか?

しほさんのアハト・アハトに埋もれてみたいけど命懸けですよねw
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