ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

115 / 309
昨日は朝から何かと忙しく結局投稿出来ませんでした。

予定では今回で試合終了の予定でしたがちょっと尺が半端に長く、
次との繋がりがおかしくなるので試合終了は次回に持ち越しです。
ハイ、原因は私が大幅な加筆修正した事です……。





第七十二話   異常加熱

「速い!」

 

 

 これまでに経験したどんな攻撃より速い進行速度で懐に入られたエリカは、騎乗するティーガーⅡのすぐ横を駆け抜けるピンク・ハーツ上で微笑む愛を睨み付けていた。

 

 

「してやられたわね……」

 

 

 すれ違ったピンク・ハーツを警戒しながらもたった今AP-Girlsがもたらした最悪の結果に、エリカの表情は苦虫を噛み潰したものとなっている。

 何故こうなった、何故防げなかったと自問するエリカだが、この場合AP-Girls最大の武器であるそのスピードに黒森峰の象徴たる重戦車では対抗する事が出来ず、その事で彼女を責めるとしたらそれは甚だ的外れで酷というものだろう。

 しかしそのスピードにモノを言わせた攻撃を受けた結果、砲塔の旋回が出来なくなった超重戦車の王たるマウスの128㎜が、自分を責めているような錯覚にエリカは囚われていた。

 『何故こうなった』エリカは改めて自分にそう問い質していた。

 

 

「愛!砲撃タイミングは任せるわよ!」

 

 

 ピンク・ハーツの直ぐ後ろにピタリと付ける、イエロー・ハーツの凜々子が愛に向かって叫ぶ。

 愛は振り向く事なく右手の親指を立てそれに応えると、通信手の霧恵に対し曲をスタートするように指示を出した。

 ピンク・ハーツの車載スピーカーからAP-Girlsのデビューアルバムに収録されている、愛がメインパートを務めるナンバーが流れ出す。

 

 

「オイちょっと待て、アイツらラブ抜きでもあれが出来るのか?」

 

 

 信じられんといった顔で、アンチョビがそう呟いた。

 

 

「あれって愛ちゃんがメインの曲ですね……」

 

「確かに…‥」

 

 

 みほも驚いた顔で呟くと、アンチョビも短くそれを肯定した。

 もう何度聴いたか分からぬAP-Girlsのデビューアルバムの中でも、特にアップテンポで日頃の愛の印象からは大きくかけ離れた曲に合わせAP-Girlsが突撃して行く。

 これ以上ダメージを負うとさすがにマウスの旋回砲塔でもどうなるか解らないので、エリカも何とかAP-Girlsの攻撃を阻止しようと彼女達が狙うマウスの左側面をガードするよう部隊の展開を急がせていたのだが、AP-Girlsはマウスではなく陣地転換をする為に大きく隊列を崩したパンターの部隊目掛けて襲い掛かって来たのだった。

 

 

「何!?小梅気を付けなさい!そっちに行ったわよ!」

 

 

 無線から響くエリカの注意喚起の叫びにハッとした小梅であったが、彼女のパンターは丁度マウスの陰に入っており、彼女のポジションからはAP-Girlsの動きは直接視認する事が出来ず、その分対応に遅れが生じていた。

 そしてその僅かな遅れの為に、後続車両のうちの2両がAP-Girlsに対して側面を晒してしまい、完全に虚を突かれ砲塔の旋回も間に合わなかった。

 更にここでそれを見越していたらしいAP-Girlsは正面に捉えた2両のパンターに対し、即座に一列縦隊から右斜行隊形にシフトすると、前の車両に対してはピンクとイエロー、後方の車両にはブルーとブラックがそれぞれ同時砲撃を行ない、2両のパンターは揃って起動輪を撃ち砕かれていた。

 

 

『黒森峰女学園、パンターG型2両走行不能!』

 

 

 2本の白旗が同時に揚がり、その直後には亜美のコールが観戦エリアのスピーカーと両校の戦車の共用無線回線から鳴り響いた。

 

 

「アイツらいきなりやりやがった!」

 

 

 騒然となる観戦エリアではアンチョビが驚きに目を見開き、思わず立ち上がっていた。

 

 

「それでもやっぱり足回り狙いになりますわね」

 

「いや、Ⅲ号でパンターを喰ったんだから充分大したもんだぞぉ?」

 

「ねぇ、AP-Girlsがもし全車パンターを使っていたらどうなるのかしら?」

 

 

 アレコレと論ずるアンチョビとダージリンのやり取りの合間に、カチューシャが挟み込んだ疑問に対して一同揃って言葉が出なくなっていた。

 しかしそう遠くない未来にそれに近い事が現実となるので、今の一年と二年生はそれで苦労する事になるのだが、それはまだ誰も知らぬ事であった。

 2両同時の白旗判定にエリカが言葉を失っている間に、AP-Girlsが斜行隊形からドリフトで転進を始め、我に返ったエリカが反撃しようとした頃には、得意のスモークで視界を奪いマウス目掛けて突撃を開始していた。

 

 

「次から次へと!マウス聞こえるか!?気を付けろ、AP-Girlsがそっちへ行ったぞ!」

 

 

 エリカが無線に向かって叫ぶのとほぼ同時に、スモークの向こうで砲声が轟いたのであった。

 

 

「またやられた……」

 

 

 まだスモークが晴れず姿を確認する事が出来ないが、エリカはマウスの旋回砲塔に止めを刺された事を確信していた。

 Ⅲ号J型の50㎜では撃破する事は叶わずとも、同一のポイントに撃ち込み続ければ何がしかの不具合ぐらいは発生させる事が出来る。

 但しそれには高度な射撃技術が必要であり、おそらくそれが可能なのはAP-Girlsだけであろう事をエリカはよく解っていた。

 

 

「うふふ♪みんな見事よ!」

 

 

 単騎黒森峰の本隊を手玉に取っていたラブは亜美のコールに続き轟いた砲声に、作戦成功確信し微笑みと共に投げキスをAP-Girlsに送っていた。

 

 

「ラブ!やってくれたな!」

 

 

 まんまとしてやられたまほは、牙を剥き何としてでもラブとLove Gunをねじ伏せようとティーガーⅠに鞭を入れていた。

 

 

「まほもせっかちねぇ、そんなに飢えた目をして不健康なんだからぁ♪」

 

「いやらしい言い方をするなぁ!」

 

 

 蠱惑的な笑みを浮かべその身を捩り胸のたわわを強調するポーズを取るラブに、真っ赤な顔になったまほがブチ切れてLove Gunを追い掛け回している。

 

 

「あ~ん♡後ろからぁ?まほも大胆ねぇ♪」

 

「やかましい!」

 

 

 その二人のやり取りを、昔を知らぬ者はポカンと見つめ、知っている者は肩を落としていた。

 

 

「にしずみぃぃぃ……」

 

 

 中学時代そのままの展開にアンチョビも大きく溜め息を吐いている。

 

 

「あっきれた中学の頃まんまじゃない!マホーシャも全然成長してないわね!」

 

「Hahaha!hey!まほもカチューシャにだけは言われたくないんじゃない?」

 

「あんたケンカ売ってんの!?」

 

 

 このやり取りも昔と変わっておらず、結局揃いも揃って成長していない訳だが、ずっとそれを見て来た後輩達は何も言わずに遠い目でそれを見ていた。

 

 

「このぉ!」

 

 

 配下の2両を同時に瞬殺された小梅が、らしくない程に熱くなりAP-Girlsに攻撃を続けている。

 しかし冷静さを欠いた攻撃がAP-Girlsに通じるはずもなく、それらは全て余裕で躱されていた。

 

 

『小梅!小梅!落ち着きなさい!こっちに戻って!』

 

「…エリカさん……!?」

 

 

 無線越しのエリカの声に、小梅は悔しそうにAP-Girlsを一瞥するとエリカと合流すべく残存戦力を束ね一旦後退を始めた。

 

 

「まんまと相手の陽動に乗ってしまった私のミスよ…ごめん小梅……」

 

「エリカさん!」

 

 

 エリカもまた悔しそうではある、悔しそうではあるのだが彼女は冷静さを失ってはおらず、再集結させたパンターを指揮してAP-Girlsへの攻撃を続行していた。

 

 

「やっぱり厳島流は恐ろしいわ……あの子達の考え方動き方は完全に厳島流のそれよ、そのつもりで掛からないと損害が増える一方ね。小梅もそれを忘れずに行動するように」

 

「……了解です」

 

 

 二人が気合を入れ直す中、遂に止めを刺されたマウスの砲塔は、ラブが言った通り首が回らなくなり乗員達は訳が解らず悲鳴を上げていた。

 

 

「ダメだ回らない!」

 

「こんな事ってあるの!?」

 

 

 マウスの乗員達は信じられぬといった面持ちで何とかしようとアレコレ試しているが、ターレットが完全に歪んだ砲塔が回る事はなかった。

 

 

「ラブは何故あそこまでマウスの破壊に固執したのかしら?まほさんを…フラッグ車を倒せばそれで勝利を得る事が出来るというのに、あの子は明らかにそれを後回しにしていますわ……ねぇ、あなたならあの子の考えが、狙いが解るのではなくて?」

 

「それは……」

 

 

 ダージリンが言う事は実に尤もな事であり、それを指摘するする辺りは彼女の目も曇ってはいない証しだとアンチョビも認識していたが、付け足しのように言った一言で改めて喰えない女だとも再認識するのであった。

 

 

「それは?」

 

 

 言葉に詰まったアンチョビに対して実に愉快そうな表情を浮かべるダージリンを、アンチョビは心底面倒くさそうに睨み付けていた。

 

 

「私だって好き好んで苦労してる訳じゃないよ……」

 

 

 おそらく全国大会史上最弱の装備で出場を果たしたアンチョビの苦労は、彼女自身にしか解るものではないであろう。

 

 

「はい?」

 

「まあいい、気にしないでくれ……それでええと…そう、ラブの狙いだったな……オイ、ダージリンよ、この試合は一体何の試合だ?」

 

 

 カウンターで逆にアンチョビが放った質問に、ダージリンは鳩豆顔になっている。

 そしてアンチョビの方も端から答えが返って来る事など期待していないらしく、ダージリンをほったらかしにしてそのまま話を続けた。

 

 

「この試合、これは()()()()だろ?ラブ……AP-Girlsにとって文字通りの練習試合なんだろうよ。まあもっと厳密に言うなら練習の成果、自分達の戦術が果してどこまで通用するか試しているんだろう。オマエらも試合中に感じたんじゃないのか?自分が何かの実験台にでもされているような感覚をな」

 

 

 アンチョビが視線を巡らせると全員自覚があるらしく、彼女から視線を逸らしている。

 

 

「フン…まあいいさ……つまりはそういう事だ。無論最初から勝負を捨ててる訳でもないだろうが、勝つ事に拘っていないのが時々見え隠れしていたからな」

 

 

 そう言いながらアンチョビは、第一の実験台となったダージリンの青い瞳を覗き込んだ。

 

 

「な、なん……フンっ!」

 

 

 ほぼ壊滅状態まで追いやられ実質的には惨敗を喫しているダージリンは、思わぬ処でアンチョビの逆襲を喰らい言葉に詰まった挙句プイっとそっぽを向くのであった。

 

 

「まあここまでの処は概ね満足の行く結果は残してるんだとは思うよ…多少のアクシデントはあったとしてもな……」

 

 

 アクシデントの部分で彼女がカチューシャとノンナ一瞥した為に二人の顔が強張ったが、それに気付いたアンチョビは即二人に対して他意はないと謝罪している。

 

 

「ああスマン、そういう意味ではないんだ。あの時お前達は最良の判断で最良の行動を取ってるからな…私が言いたいのはラブ自身の問題……そういう事なんだよ。AP-Girlsの連中もアイツの活動限界を把握するまたとない機会になったんだと思う。そういう意味でも我々は充分に役目を果たしたと考えていいだろう…ただな……」

 

 

 話の最後になって彼女の言葉は、歯切れの悪い尻すぼみなものとなった。

 

 

「ただ……?」

 

 

 今度はダージリンも人の悪い物言いではないアンチョビに対して気遣いを含んだ声音であり、アンチョビも一つ頷き若干言い難そうではあるがその先を話し始めた。

 

 

「ただな、残念ながら我々にはもうあまり時間が残されていない…確かにラブは我々の下に帰って来た……帰っては来たが、未だにその心は不安定極まりないものである事は解っているだろ?勿論ラブには亜梨亜おば様やAP-Girlsがいる。だがやっと追い付いた私達は、後数ヶ月で再び彼女を置き去りにして先に行ってしまう……その時が来た時に果たしてアイツの心にどれ程の負荷が掛かるか?その辺の不安が私はどうしても拭う事が出来ないんだよ。卒業後も顔を出してやる事は出来るだろう、だがそれも頻繁にという訳には行かないし、何よりもう私達は高校戦車道という同じ土俵の上にはいないんだからな……」

 

 

 アンチョビの言った事は思った以上に各人の胸の中に重く響いており、それを受けて全員がその顔を曇らせていた。

 

 

「ただね、丸っきり絶望的って訳でもないとも思ってるんだ。まあこれはみほ、お前やルクリリにウチのカルパッチョを始め、嘗てラブと関わりのあった次の世代である者達に丸投げになってしまうんだけどな……」

 

「私達…ですか……?」

 

「そうだ、お前達だ。これに関しては本当に済まないが他に頼める者がいない。私達の卒業後、お前達にラブの事を見守って欲しいんだ…勿論戦う時は全力だがな……」

 

 

 アンチョビは目の届く範囲にいるラブを知る者達に視線を巡らせている。

 これまで周りにいた者と当の本人からそれは違うと再三否定されてなお、彼女の中では今もあの時自分が榴弾などと言わなければという想いが拭いきれておらず、これは完全に彼女にとってトラウマとなっている事であった。

 

 

「アンチョビさん……」

 

「卒業するまでの間に出来る事は全てやって行くつもりだが、それ以降はお前達を頼る他はないんだ…だから頼む、どうかこの通りだ……」

 

 

 立ち上がったアンチョビが、周囲の後輩達に向けて頭を下げる。

 

 

「や、止めて下さいアンチョビさん!」

 

 

 みほを始め主だった者達が、アンチョビに頭を上げさせようと狼狽えている。

 そんな様子をダージリンを始め仲間達は沈痛な面持ちで、垣間見えたアンチョビの心の中の葛藤に言葉を失っていた。

 

 

「あ…いやスマン……その、ついな……ホントにスマン、そんなに難しく考えないでくれ、それとなく見てて貰えればいいんだ……あ!それとこの事は絶対西住には言わないでくれよ!こういう話になるとあの時の事で、私に対して死にそうな顔になって辛いんだ!」

 

 

 最後はアンチョビも真っ赤になってオタオタし始めてそれで幾分空気も和らいだが、彼女の心が未だ完全に救われていない事実に皆その胸を痛めていた。

 

 

「あぁ!オイ!まだAP-Girlsはマウスに何かやる気でいるぞぉ!」

 

 

 話題が変な方向へ行ってしまい、アンチョビは慌ててそれを変えようとモニターを指差した。

 だが確かに彼女達はエリカの突入部隊が撃破された2両のパンターの穴を埋めようと隊列の編成を変える隙を突き、再びマウスに襲い掛かるべく突撃を開始していたのだ。

 その一方でマウスの方も草原に対して平行になる位置で旋回砲塔が回せなくなった為に、せめて草原に向け砲撃が行なえるよう方向転換を始めた処であった。

 

 

「えぇい!今度は何をやる気!?」

 

 

 エリカは彼女達の行動を阻止するべく砲撃命令を下そうとしたが、AP-Girlsは巧みにマウスを盾としてその軸線上に置いている為に撃つ事が出来なかった。

 

 

「チッ!狡猾な!」

 

 

 ティーガーⅡのコマンダーキューポラ上のエリカはまたしてもいいようにやられた事で、悔しさのあまりキューポラの縁を拳で叩いていた。

 ピンクハーツを先頭に変則的な楔形隊形を取ったAP-Girlsが、再度マウス目掛けて突撃して行く。

 

 

「これは…決まりますわね……」

 

 

 ダージリンの短い呟きが妙に大きく耳に響く。

 この時既に多くの者が、彼女達が何を狙っているのか把握していた。

 そして同時に四つの砲声が響く。

 背後から迫るAP-Girlsから逃れようと必死に旋回していたマウスであったが、その努力も虚しく撃ち込まれた4発の徹甲弾が、全弾同時に右側の履帯に直撃していた。

 黒煙が風に流れ姿が見えたマウスは一見何ともないように思えたが、一拍置いて砕けた履帯が地面を打ち重く鈍い音が辺りに響いた。

 

 

「うぉ!アイツらマジでやりやがったぞぉ!これでマウスは終わりだ……これ見てこの先その気になるヤツが出るだろうが、こんな芸当が出来るのはAP-Girlsだけだ。ラブのヤツめ、全くとんでもないバケモノ育てやがったなぁ……」

 

 

 褒めているのか呆れているのか解らないアンチョビだったが、彼女が内心何よりも驚いていたのは最後にマウスを攻略するに当りラブが一切手を出しておらず、4色のハートのみでいともあっさりとやってのけた事にあった。

 この一撃には観戦客達もそれまで以上に驚きの声を上げており、この戦いもゴールに近付いている事をその肌で感じ始めていた。

 

 

「ラブ!」

 

 

 草原の真ん中でLove GunとまほのティーガーⅠが表面上は決闘のように機動戦闘を繰り広げているかに見えるのだが、現実は状況を面白がっているラブの事をすっかり頭に血が上ったまほが追い掛け回しているだけであった。

 

 

「オーホッホッホッ!悔しかったら捕まえてご覧なさい♪」

 

 

 口元を手で覆いながら舐めくさった高笑いをするラブをブチ切れたまほが追い掛ける、一部の者達には目まいがする程懐かしい光景が展開している。

 

 

「わ~、懐かしいわね~この展開」

 

「そうね~、とっても懐かしいわ~」

 

 

 フラッグ車であるティーガーⅠの車内、ラブに向け罵声を浴びせるまほの足元では中等部からの付き合いの古参の同期隊員達が、遠い目をしながらセリフ棒読みで昔を懐かしんでいた。

 

 

「It’s unbelievable!信じらんない!マジ成長してないわ!」

 

 

 ケイは天を仰ぎ大袈裟に肩を竦めて見せるが、自身もつい何日か前にラブにいいようにやられた事は都合よく忘れているようだ。

 

 

「にしずみぃ…頼むからいい加減学習してくれぇ……」

 

 

 アンチョビが泣き笑いのような顔で声を絞り出しており、何故かそのアンチョビにみほが米つきバッタよろしくペコペコと頭を下げていた。

 だが最大の脅威を実質戦闘不能に追い込んだAP-Girlsが、再びLove Gunと合流すべく草原に飛び込んで行くと皆顔付きが真剣なものへと変わって行く。

 

 

「エリカさん!」

 

「ええ、私達も行くわよ…でも行ったらまず隊長を正気に戻さないとね……」

 

「エリカさぁ~ん……」

 

 

 エリカと小梅は浮かない顔で部隊に前進の指示を出していた。

 

 

「凄いわあなた達!履帯切りまでやってのけるなんてホント凄過ぎよ♪」

 

 

 ラブの下へと帰り着き鋭い楔隊形を組んだAP-Girlsに向けて、ラブは感極まったように心の底からの称賛の言葉を送っていた。

 だが愛と目が合うと途端に二人して熱い視線を絡ませ始め、他の者達はあ~ハイハイ状態で投げやりな顔になっているのだった。

 

 

「ねぇラブ姉、お楽しみの処悪いんだけどさ、燃料も弾薬ももう限界に近いのは解ってると思うけどその辺をどう考えてるか教えて貰えないしら?」

 

 

 既に能面のような顔になった凜々子が、抑揚のない平坦な声で妙に優しく問い掛けている。

 

 

「う…凜々子……も、勿論最後の勝負に行くわよ!各車行けるわね?」

 

 

 ラブが振り向き各車の車長の顔を見れば、もう全員目付きが変わっている。

 

 

「OK、問題ないようね」

 

 

 ラブもその瞳に今日一番の好戦的な光を宿らせると、その空気が伝わったのか黒森峰側も雰囲気が殺気立ったものになり始めていた。

 双方が全力で激突するまでそのカウントも残り一桁まで来たようだが、副隊長であるエリカはその火加減を若干絞る必要性に駆られていた。

 

 

「は~い隊長、少~し落ち着きましょうね~」

 

「エリカ!?」

 

「そんな調子だと、また中等部の頃みたいにラブ先輩が後でと~っても恥ずかしい思いをするような手を使って来ますよ~?だからもう少しだけ冷静になりましょうね~」

 

「う゛……」

 

 

 まるで子供を相手にするような節回しで、エリカはまほというフライパンが焦げ付く前にその強過ぎる火力を弱める事に集中していた。

 

 

「申し訳ありません隊長、マウスをむざむざとやられてしまいました」

 

 

 まほが落ち着いたのを見てエリカはいつもの口調に戻ると、マウスを落とされた事を謝罪した。

 

 

「いや、あれは私の運用方法が甘かったのだ、エリカが気にする事はない。それよりいよいよ全開で来るぞ、AP-Girlsだってもう限界点が近いはずなんだ」

 

 

 頭の冷えたまほが鋭い視線を向けた先では、再集結を果たしたAP-Girlsを従えたラブが挑発的にまほに向かって不敵に微笑んでいる。

 

 

「エリカ、固定砲身の車両は草千里ヶ浜の外周に下がらせろ。格闘戦ではいい的だ」

 

「了解!」

 

 

 ラブが何を仕掛けて来るかはまほもよく解っており、彼女もそれに備え最良の判断を下していた。

 

 

「ふ~ん、さすがにまほも解ってるわね…それじゃあ私も本気で相手してあげる……さあまほ、()()()()()を退屈させないでね♪」

 

 

 その時観戦エリアで事の成り行きを見守っていたみほが、ビクリとその身を大きく震わせていた。

 どうやら彼女は身に覚えのある殺気を、モニター越しのラブから感じ取っていたようだ。

 

 

「来る!まさか……ラブお姉ちゃんあれをやるの!?」

 

「みほさん、一体どうしましたの?」

 

 

 血の気の引いた顔で立ち尽くすみほにダージリンが気遣わしげに声を掛けたが、その声はどうやらみほの耳には届いていないらしい。

 

 

「アレ?そうか、アレか……」

 

 

 みほの叫びの意味を理解したらしいアンチョビも、俄かにその表情が険しくなる。

 

 

「西住…ラブ、二人共悔いだけは残すんじゃないぞ……」

 

 

 アンチョビの赤い瞳の険しい光の中には、一抹の寂しさのような色合いも見え隠れしていた。

 

 

「うふふ♪さあみんなお待たせ……Allow all deregulation! There is no time limit!(全規制解除を許可する!時間制限なし!)

 

 

 ラブが人と戦車、両方に掛けられた全てのリミッターを全開放する。

 

 

Go! Mode berserker!(暴れろ野獣!)

 

 

 それまでも並の戦車とは一線を画する機動を見せ付けていた5両のⅢ号J型であったが、その瞬間豹変しより一層激しい機動となって行った。

 

 

「くっ!これが嵐櫻かっ!?」

 

 

 空間そのものをショートカットでもしたかのように一気にその差を詰め、躊躇なく徹甲弾を撃ち込んで来たLove Gunに、瞬間的に全く対応出来なかったまほは奥歯を噛締めていた。

 大洗戦の現場で中継映像を見ていたし、その後も録画映像を何度も見て研究は重ねていた。

 しかし初めてその目で見てその身体で直接体感した嵐櫻は、それまでシュミレーションして来た事が全て無駄に思える程に別次元のものであった。

 今までに聴いた事がないような高回転で回り続けるエンジン音と、自動装填のような連続装填による速射を前に、黒森峰の隊員達はこれまで築き上げて来た戦車道の常識が崩壊しそうになっていた。

 勿論黒森峰の主力選手レベルが低い訳ではなく、彼女達単体で見ればその戦闘機動は充分に目を見張るものではあったが、相手であるAP-Girlsの動きがあまりにも常軌を逸していたのだ。

 

 

「何とか少しでも援護するんだ!乱戦から飛び出す車両がいたらそれを狙え!」

 

 

 草原外周に控える固定砲身組もただ指を咥えて戦況を見ているだけではなく、出る杭を打つべく虎視眈々と狙いを定めるように目を凝らしていた。

 そして小梅のパンター相手にコンビネーションで乱闘を演じていたイエロー・ハーツとブルー・ハーツが、フェイントを掛けて少し距離を取った処を狙い直下のヤークトパンターがここぞとばかりにアハト・アハト(88㎜)を撃ち込んだが、距離があったせいかこの一撃は見切って躱されていた。

 

 

「ダメだ!もう少し距離を詰めないと!」

 

 

 果たして直下のその叫びが聞こえたのか、小梅のパンターに絡んでいたイエロー・ハーツとブルー・ハーツがあっと言う間にヤークトパンター目掛けて突進して来た。

 

 

「え!ウソ!?何でこっちに!?」

 

 

 驚く直下が再装填を急がせるが、その間に2両は互いの表情が解る所まで接近していた。

 

 

『直下先輩ごめんなさい』

 

 

 声までは聴こえないが、可愛らしい顔立ちの夏妃の唇がそう言っている風に直下には見えた。

 しかしその直後夏妃が直下に投げキスを放つのと同時に、2両の50㎜から撃ち出された徹甲弾がヤークトパンターの左の履帯を撃ち砕いていいた。

 

 

「くっ…や、やっぱり履帯……」

 

 

 誰かの笑いを堪えながらの呟きが、観戦エリアで笑っちゃ悪いと堪える者達の腹筋を地獄に突き落としていたが、ヤークトパンターの車上でも、可愛過ぎる夏妃の投げキスの直撃を受けた直下が天国に()()()()()いた。

 

 

「夏妃ちゃん可愛い♡」

 

「な、直下しっかりしろ──!」

 

 

 車内では本当に落っこちて来た直下に驚きの声が上がっていた。

 

 

「ちっ!直下が……よくも!」

 

「アラ?全部私のせいなの~?」

 

 

 高速機動で走り回るLove Gun上で、ラブがからかうように笑っている。

 その速度にティーガーⅠでは付いて行けず、まほは額に汗を浮かべ必死に指揮を執っていた。

 そしてそのまほをサポートすべくエリカのティーガーⅡと僚車がLove Gunを狙おうとしたが、こちらには愛と鈴鹿がタッグを組んでそれを阻んでいた。

 

 

「愛!そこをどきなさい!えぇい、この二人も本当に厄介だわ!」

 

 

 大胆なパワーファイトを挑む愛とその合間にトリッキーな奇襲を仕掛ける鈴鹿に、エリカは防戦一方になりつつあった。

 火力装甲共に比べ物にならぬティーガーⅡとⅢ号J型が2対2で戦っているにも拘らず、押しているのは明らかに愛と鈴鹿でありその俄かには信じ難い光景に、多くの観戦者が言葉を失っていた。

 

 

「亜梨亜様──」

 

「あれはもう嵐櫻ではないわよ」

 

「え……!?」

 

 

 しほが言いたいであろう事を先取りした亜梨亜の言葉に、しほは驚きの声を上げた。

 

 

「だってあの子、好き放題アレンジしてあれはもう別物よ?」

 

「はぁ……」

 

 

 改めて目の当たりにするラブの怪物ぶりに、しほはそれ以上の言葉が見付らなかった。

 

 

「何この速さ……」

 

 

 6両中2両を倒された小梅のパンターの別働隊は夏妃と凜々子の脚を止めようと奮戦していたが、ピーキー且つ限界までチューンされたⅢ号J型が、設定されたリミットを無制限に開放して暴れるのを捉える事は出来なかった。

 2両づつに別れイエロー・ハーツとブルー・ハーツそれぞれ対応していたが、凜々子と夏妃はそれぞれ単騎駆けからの連携とあるいはその逆の動きで4両のパンターを振り回し続けていた。

 まるで無間地獄でも陥ったような信じられない事態の連続に、小梅達は荒い息で大量の汗を流しながら戦い続けていた。

 

 

「もうじき5分か…一体何時までやる気……あ!オイオイオイ!アイツまさか時間制限なしで嵐櫻やってるんじゃあるまいな!?」

 

 

 手元の懐中時計でAP-Girlsが暴れ始めてからの時間を計っていたアンチョビは、未だ止まる事なく超高速機動を続ける彼女達が一向にそれを止める気配がない事から、彼女はある恐ろしい結論に辿り着いていた。

 

 

「ちょっと!それどういう意味よ!?」

 

 

 アンチョビが導き出した答えがどういう事か解っていても、それでもなお強い口調で問い質さずにはいられなかったカチューシャも、その語尾は震えているのであった。

 

 

「お前らだってもう解っているんだろう?ラブのヤツはリミッター全開放で最後まで突っ走る気なんだよ、この試合Love Gunのエンジンブローで終わる可能性もあるんだよ!あのバカ最後の最後で何考えていやがるんだ!?」

 

 

 アンチョビが牙を剥いて声を荒げたその瞬間、彼女が危惧した事の兆候がAP-Girlsの全車同時に起こり、それはモニター映像でも確認する事が出来た。

 微かにではあるが立ち昇る破滅への狼煙。

 両刃の剣の限界チューンの負の側面が、遂にその顔を覗かせ始めた瞬間であった。




結局直下さんは履帯が切れてしまいましたw
そして次回はまたRー15指定の限界がww
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。