ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

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久し振りに火曜に投稿出来ます。

ラブ対まほの対決も遂に決着が付きます。
ただなんかその後に下らない場外乱闘してますけどw


第七十三話   刹那の攻防

「あれは……」

 

 

 そこまで言い掛けた処でダージリンが口を噤む。

 彼女の視線の先ではAP-Girlsが駆る5両のⅢ号J型が、スロットルのオンオフの度に僅かながらではあるが白煙を吹き始めていた。

 

 

「ラブ姉、ぼちぼち限界よ」

 

 

 Love Gun操縦手の香子の通告に、ラブは不敵な笑みのまま一つ大きく頷いた。

 

 

「ええ、それじゃあ最後の勝負に行きましょう。大丈夫あなた達なら問題なくやれるわ」

 

 

 全く心配する素振りも見せないラブの言葉に、Love Gunのメンバー達は背筋が凍りそうな程に美しくも狂気の入り混じった笑みを浮かべ、Love Gunも猛り狂い最後の咆哮を上げながら目の前に立ち塞がる最強の虎に向かい突進して行く。

 

 

「夏妃!これで最後!決めるわよ!」

 

「あぁ!解ってらぁ!」

 

 

 ラブが勝負に出たのと時を同じくして、凜々子と夏妃も同様に勝負に出ていた。

 噴き出す白煙が一層濃くなる中、イエロー・ハーツとブルー・ハーツが最後のコンビネーションプレイで小梅のパンターに迫って行くが、もう彼女達は防御態勢を取るつもりがないらしくその突撃スピードは只事ではない。

 

 

「ダメ!間に合わない!」

 

 

 小梅が悲痛な叫びを上げると同時に彼女のパンターは後ろを取られ、イエローとブルーの同時砲撃を受けその機関部を撃ち抜かれていた。

 

 

『黒森峰女学園パンターG型走行不能!』

 

 

 亜美のコールが小梅のパンターが息の根を止められた事を告げるが、そのコールと重なるようにイエロー・ハーツとブルー・ハーツが盛大に白煙を吹き失速して行く。

 そして2両は生き残ったパンターから徹甲弾を撃ち込まれ、そこで揃って白旗を揚げた。

 

 

『三笠女子学園Ⅲ号J型2両走行不能!』

 

 

 瞬きするような一瞬でたて続けにコールされた撃破判定に、観戦エリアでは地鳴りのような歓声が沸き起こっていた。

 

 

「小梅!?」

 

 

 刺し違えるように小梅のパンターが討ち取られた事に、エリカの顔色も変わった。

 そして彼女もまた、決着を付ける時が来た事を悟る。

 そのエリカのティーガーⅡ目掛け、鈴鹿のブラック・ハーツが正面からトップスピードで真っ直ぐに迷う事なく突っ込んで来る。

 

 

「私を舐めてるの?」

 

 

 眼光鋭く鈴鹿を睨み付けたエリカだったが、直ぐに彼女達の目論見に気付き操縦手に回避機動を取らせていた。

 そのタイミングはまさに紙一重であり、ティーガーⅡの起動輪を直撃するはずだった徹甲弾は大地を抉り牧草を舞い散らせる。

 完全にエリカの死角を取っていた愛だがその一撃は見切られており、驚きの後に強敵と出会った事に歓喜の表情を浮かべている。

 

 

「だからなんて表情してんのよ?」

 

 

 愛のその表情にエリカも怒っていいのやら笑ったらいいのやらすっかり解らなくなっていたが、その激しい攻防に高揚したエリカの精神は更なる鈴鹿の攻撃を見切って躱しており、彼女もその顔に驚きの色を浮かべていた。

 しかしここでピンク・ハーツとブラック・ハーツもついに活動限界を迎え、2両揃って激しく機関部から白煙を上げ始めた。

 

 

「もう諦めなさい!」

 

 

 だがそのエリカの声も聴こえないといった風に、押し通ろうとする彼女に2両揃って斬り掛かる。

 再び正面から突っ込むブラック・ハーツに、さすがにエリカも呆れた表情になった。

 

 

「また?」

 

 

 だが今度は死角にピンクハーツの姿はなく、その代りブラック・ハーツの真後ろにピタリ張り付き1両の戦車のように一緒に突っ込んで来る。

 

 

「いい加減に──何!?」

 

 

 火を噴いたティーガーⅡのアハト・アハトを避ける事なく正面から受け止め、そのまま真っ直ぐに突っ込んで来る鈴鹿のブラック・ハーツ。

 

 

「くっ!?右よっ!急速回頭!」

 

 

 ティーガーⅡの限界を超える高速機動でドリフト気味に向きを変えた正面に、狂気に近い笑み浮かべた愛が躊躇する事なく突撃して来る。

 ブラック・ハーツが直撃を受けた瞬間、90度のドリフトでティーガーⅡの側面を突こうと飛び込んで来た愛だったが、エリカの冴えた勘が勝りピンク・ハーツ必殺の一撃が放たれたその時、驚く事にティーガーⅡはピンク・ハーツと正対し撃ち込まれた50㎜を正面装甲で弾き飛ばしていた。

 だがそれでもピンクハーツは止まる事なく、そのまま突っ込んで来る。

 

 

「撃て!」

 

 

 おそらく過去最速で装填された徹甲弾が撃ち出され、ピンクハーツの正面装甲に大穴を開けた。

 ブラック・ハーツとピンク・ハーツの2両に対し亜美の声で撃破判定が下されたが、それと同時にエリカのティーガーⅡもそこまでであった。

 白旗こそ揚がってはいないが正面と側面に止まり切れなかった2両が激突し、噛み込んで一切身動きが取れなくなっていたのだ。

 

 

「全くあなた達は……」

 

 

 ふうっと大きく溜め息を吐いたエリカが愛と鈴鹿にそれぞれ目を向けると、喜びを爆発させた愛がひとっ跳びでピンク・ハーツからティーガーⅡの飛び移りそのままエリカの胸に飛び込んで来た。

 

 

「ちょっと!愛!?」

 

 

 慌てて愛を抱き止めエリカは、驚きで目をシロクロさせている。

 

 

「あれを読まれるとは思いませんでした♡」

 

「アンタねぇ……」

 

 

 砲塔に腰掛け縋り付く愛の髪を撫でてやりながら呆れていたが、自分に向けられたもう一つの興味深げな視線に気が付いた。

 

 

「あなたもこっちにいらっしゃい……鈴鹿」

 

 

 ワザとらしく物欲しそうな顔でこっちを見ていた鈴鹿に向けて、エリカは空いていた左腕上げて彼女を手招きしてみせた。

 芝居っ気たっぷりに微笑んだ鈴鹿も、軽い跳躍で彼女の下へとやって来た。

 

 

「全く大したものね…これは私からのご褒美よ……」

 

 

 試合中には珍しいエリカの優しい笑みに驚く二人の頬に、彼女は軽くキスを決めて見せた。

 

 

『あぁぁ~!エリカさんダメぇぇ~!』

 

 

 その瞬間観戦エリアのみほとLove Gun上のラブが同時に悲鳴を上げていた。

 頭を抱え絶叫するみほに、周りの者達はその狼狽えように遠慮なくゲラゲラ笑っている。

 一方のラブはコマンダーキューポラから転がり落ちそうな勢いで身を乗り出し、本当に落っこちないようその脚を瑠伽が必死に押え付け、オマケでまほも驚きに嘗てない程目を見開いていた。

 しかしいつまでもそうしてもおられず、再びラブとまほは火花を散らし始める。

 砲塔上にハーレムを形成したエリカは、その特等席でラブとまほの頂上決戦を見物している。

 

 

「もう諦めろ!エンジンも限界なはずだ!」

 

「あら忘れたの?私はどんな状況からでも勝つ事が出来るわよ?」

 

 

 Love Gunも先程からかなりの白煙を吹き始めているが、それでも高速機動を続けていた。

 ここまでの処Love Gunが放つ徹甲弾は全てまほのティーガーⅠを叩いており、そのタフな装甲に無数の傷を付けてはいるがやはり有効打にはなっていない。

 

 

「ラブ姉、後もうひと勝負が限界よ」

 

 

 踊るような回避機動を取り続ける香子が、前を見据えたまま通告した。

 

 

「徹甲弾も残り2発だからね!」

 

 

 装填手の美衣子も鋭い声で警告する。

 

 

「それだけあれば大丈夫、充分余裕でもう一泡吹かせてやれるわ、ラストステップ行くわよ♪」

 

 

 全国大会最終局面のみほのように、ラブはまほに向かい正面から突撃して行く。

 

 

「そういう事か……砲塔右旋回!背後に回り込んで来るぞ、徹甲弾装填!」

 

 

 まほの読み通りのドリフト旋回で、Love GunがティーガーⅠの背後に回り込もうとする。

 それを先読みしたまほの指示で、旋回を始めていたティーガーⅠの砲身がそれを追っていた。

 

 

「……違う!」

 

 

 横っ飛びで駆け抜けようとするラブの顔を見たまほは、その笑みを見た瞬間そう確信した。

 

 

『撃てぇ!』

 

 

 その命令は同時に下され双方の主砲も同時に火を噴き、生まれた火球と黒煙が暫くの間二人の姿を試合の行方を見守る者達の目から覆い隠した。

 

 

「どっちだ……」

 

 

 モニターをも覆い尽くすような黒煙に、身を乗り出し食い入るように見入っていた観戦客達も言葉を失い、観戦エリアは無人になったかの如く静まり返っている。

 全て者が固唾を飲んで見守る中、吹き抜けた風が待ち望んだ結果を覆い隠す黒煙を連れ去った。

 

 

「あ、あれは……!」

 

「ウソでしょ!?」

 

「そんな…こんな事って……」

 

 

 正面装甲を撃ち抜かれたLove Gunの砲塔に白旗が揚がっている。

 全国大会決勝でみほがやったようにラブが背後を取りに行くと見せかけて、側面を狙っていると読んだまほは、ドリフト旋回で迫るLove Gunが主砲の軸線上に乗った段階でワンテンポ速く発砲を指示し、見事Love Gunを捉えその正面装甲を撃ち抜いていた。

 だが信じ難い事に、勝者と思われたまほのティーガーⅠの砲塔上にも白旗は揚がっていたのだ。

 まほが読んだ通り側面を取ったLove Gunは撃たれるのと同時に発砲もしており、草原の荒れた路面状況であるにも拘わらず、ピンヘッドショットで正確に起動輪の中心を撃ち抜き、ティーガーⅠの駆動系をダイレクトに粉砕していた。

 まさかのダブルKO、誰もが予想だにしなかった引き分けかと上がった2本の白旗見つめている。

 勝者の名がコールされないという事はそういう事なのか、或いは審議中であるのか沈黙の時間が暫し流れその空気は非常に重く感じられた。

 重装甲すら貫きそうな視線でラブを見据えるまほと、妖艶な笑みを浮かべ色っぽく熱い視線でまほを誘惑するように見つめるラブ。

 静まり返った観戦エリアの全ての視線は、亜美達審判団が詰める本部テントに集中していた。

 

 

「どうしたんだ蝶野教官は…?まさか本当にドロー判定なのか……それならそれでコールががあるはずなのに一体どうなっているんだろう?」

 

 

 アンチョビの顔に浮かぶ困惑の色は、他の者達の顔にも浮かんでいる。

 

 

「今も稀にドローゲームはありますけど、判定装置の精度が格段に上がってからはあまり聞かなくなりましたわね……」

 

 

 未だコールない事に、ダージリンももどかし気な顔をしていた。

 

 

「つまり判定装置の送信データを、タイムコードから見直さなければいけない程の僅差であったという事なのでしょうね……」

 

 

 データ至上主義者と言われる程情報とそれを元に構築した戦略を重視するアッサムが、彼女ならではな意見を口にしている。

 他にも様々な憶測や意見が飛び交うが、まだ一向に勝者を告げるコールがされぬ事に皆ジリジリとした時間を過していた。

 

 

「Hey!蝶野教官が出て来たわよ!」

 

 

 それからまた暫く時間が掛かりやっと亜美がその姿を現すと、アクティブでこういう時間が一番苦手そうなケイが興奮気味に声を上げた。

 観戦エリアを支配する耳の奥が痛くなりそうな沈黙の中、審判長である亜美がマイク片手に審判団が詰めている本部テントの前に出て来た。

 その場にいる全ての者が、ゴクリと喉を鳴らすような緊張感がその場に満ちている。

 

 

「三笠女子学園フラッグ車走行不能!よって黒森峰女学園の勝利!」

 

 

 亜美のコールがなされて尚、暫くの間その静けさは続きそれまでの激しい試合展開と衝撃的な幕切れに、その場にいる者達は頭の中がその結末に追い付いていないようであった。

 しかし時計の秒針が幾つか時を刻んだ後あちこちから散発的に拍手が起こり、それはやがて全体に広がり大きなものとなって長い時間鳴り止む事はなかった。

 

 

「う~ん、これでよかったのかなぁ……?」

 

 

 コールを終えた亜美が複雑そうな表情でお腹を押さえている。

 

 

「うぅ…胃が痛いわ……私もこんな事は初めてよ……」

 

 

 日頃のその心臓に毛が生えた豪胆な言動が多い亜美が、嘗てない凹んだ表情になりらしくない程たて続けに弱音を吐いている。

 

 

「ですがルールブックと審判員指導要綱を確認した上での結果ですから……」

 

「それはそうなんだけどさぁ…1/500秒、刹那の攻防ね……」

 

 

 今日は本部詰めの稲富ひびきが諭すように言うのだが、尚も複雑な表情の亜美は胃の辺りを摩りながら阿蘇の山の方角を向き暮れかかって来た空を見上げている。

 

 

「ふぅ……何よやあねぇ、勝ったのになんて顔してるのよぉ?ホラこっちいらっしゃいよ」

 

 

 まほは納得行かないような表情で、何を警戒しているのかティーガーⅠのコマンダーキューポラから出ようとしないでいる。

 

 

「も~、しょうがない子ねぇ……」

 

 

 お姉さんの笑みを浮かべたラブは、ヨッと掛け声を上げLove Gunのコマンダーキューポラから抜け出ると、ティーガーⅠに向いたまま沈黙したLove Gunの長砲身50㎜の砲身の上を、平均台を渡るようにバランスを取りながら歩き始めた。

 

 

「よ、はっ…おっと……」

 

「お、オマエ何を!?危なっ!止せぇ!」

 

 

 仏頂面が一転して泡喰った顔になったまほが止めさせようとするが、ラブは今にもパンツァージャケットを突き破りそうな、胸のたわわをプルンプルンさせながらも脚を止めようとはしない。

 

 

「うふふ♪大丈夫よ…って、ととと!」

 

 

 そう言う傍からラブはバランスを崩し掛け、まほは顔色が真っ青になった。

 

 

「だから止めろぉ!今行くから!」

 

 

 まほがオタオタしながらコマンダーキューポラから抜け出ようとした時、観戦エリアではまたしてもアンチョビがその危険な行為にキレて声を荒げていた。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛~!アイツまであんな危ない事しやがってぇ!後で帰って来たら全員纏めて絶対説教してやるからなぁ!」

 

 

 そんなアンチョビの怒りなど露知らぬラブは、バランスを取っているが明らかに重過ぎるたわわのせいで、ふらふらと危なっかしい足取りながらもどうにか砲口まで辿り着いていた。

 

 

「あ…!オマエ今度は何する気だぁ!」

 

「今行くわ♪……それっ!」

 

「うわぁ────!」

 

 

 まほが驚く目の前でラブはたわわをバルンバルンに揺らし、Love Gunの砲口から長く美しいコンパスを活かし踊るように跳躍した。

 ポニーに結って尚、腰に届く長い真紅の髪が翼のように宙に舞う。

 血相変えたまほが、両の腕を広げラブを受け止めようと身を乗り出す。

 

 

「はい到着っと♪」

 

「おわぁ!?」

 

 

 天使が舞い降りるように軽々と着地したラブはまるで体重がないかの如く足音すらさせなかったが、身を乗り出して彼女を受け止めようとしたまほの視界を塞いだ胸のたわわなシュトルムティーガーは、その重戦車ぶりを発揮してぷるるんと揺れまほを圧倒していた。

 

 

「おおお、お前なぁ!怪我したらどうすんだ!?危ないだろうがぁ!」

 

「何よ~?私達AP-Girlsはこれ位お手のモノよ~♪」

 

 

 肩で息をしながら怒鳴り付けるまほに全く悪びれる事もなく、ラブはお気楽に対応している。

 

 

「全く……で、何なんだ!?」

 

「あら?ご挨拶ねぇ、折角()()()()()が頑張った妹の事を褒めに来てあげたのに~」

 

「だ、誰がお姉ちゃんだ誰がぁ!?」

 

 

 顔を真っ赤にして更にヒートアップするまほを、ラブは余裕であしらいながらコマンダーキューポラの横に腰掛けて、まほの顔を重装甲を誇るたわわの谷間に埋めるのだった。

 

 

「うわっぶ!な、ナニを…やめ……!?」

 

「も~、ちょっとしたご褒美じゃない…それともこっちの方がいいのかしら……?」

 

 

 一端開放したまほの顔に改めて腕を絡めたラブは、すっかり狼狽えテンパって朱に染まっている彼女の頬に、蕩けてしまいそうな程優しいキスを与えていた。

 

 

「あぁぁ……♡」

 

 

 まほは頭のてっぺんが水蒸気爆発を起こした後、戦車道ファンにはお馴染みの排出音と共に今度は目には見えない白旗を生やしていた。

 

 

「わお姉○丼♡」

 

「いや姉妹違うし!」

 

「じゃあ近親相──」

 

「言うな────っ!」

 

 

 ハッチを全て解放し顔を出しているティーガーⅠとLove Gunの搭乗員達は、口々に好き勝手な事を言いながらラブとまほの絡みを妄想垂れ流しで楽しんでいる。

 観戦エリアでも黄色い歓声が上がっているが、厳島と西住両家の親族で埋まるスタンドでは『あらまあ』とか至って鷹揚且つほのぼのとしたムードでその様子を見守っており、果してそれでいいのかと疑問を抱かないでもない。

 そしてまほパートナーであるアンチョビもさぞやショックを受けいるかと思えば然にあらず、趣味の小説の執筆に欠かせないネタを書き連ねたメモ帳に、何やら猛烈な勢いで書き込んでいた。

 

 

「おぉ~!そうかぁ!そうなのかぁ♪」

 

『またコイツはぁ……』

 

 

 ついさっきまで危ない事をやらかしたラブに対しカンカンに怒っていた事も忘れ、救い難い悪癖を披露するアンチョビに仲間達もそれ以上の言葉が出ないようだ。

 

 

「ん~♡まほは本当に強くなったのね~♪」

 

「子供扱いは止めろよぅ!」

 

 

 まほの頬に祝福のキスを与えた後、更に彼女を抱き締め頬擦りをして髪を撫でながらいい子いい子するラブの事を、まほは邪険に突き放そうと必死だがラブも簡単には解放してはくれず、グイグイとハグされる度に弾力のあるたわわがまほを天国へと引き摺り込んでいた。

 

 

「アレ止めなくていいの?」

 

 

 エリカもまた両側に愛と鈴鹿をはべらせた両手に華な状態で、あまりまほの事を言えたものではないのだが、一応愛にそんな事を聞いてみた。

 しかし彼女はにこにこと笑うばかりで一向に気にする素振りは見せなかった。

 

 

「あ~あ…こんな緩くていいのかしら……?」

 

 

 何処か少し困った顔でエリカも笑っている。

 かくしてここに熱く激しい戦いの後に、紙一重の僅差で勝敗の決まった厳島と西住の姉妹流派久しぶりの対決もやっとその幕を下ろしたのであった。

 

 

「あぁもういい加減にしろよぉ!」

 

 

 子供扱いというより仔猫扱いされているような気がして来たまほは、堪り兼ねた表情でラブのたわわを鷲掴みにして尚も抱き締めて来る彼女を力任せに押し退けた。

 

 

「安斎のヤツも見てるんだからもう止めてくれよぅ!」

 

 

 涙目のまほが大事なパートナーの名を出し抗議したが、まさかその大事なパートナーが趣味のネタ収拾に勤しんでいるとは、さすがのまほも思いもしなかったようだ。

 

 

「うふっ♪やっぱりまほって可愛いわぁ♡」

 

「うわぁ!だから止めろ───!」

 

 

 余計にラブを刺激してしまったまほは、再び彼女のたわわな深いグランドキャニオンの谷間の底に埋められてしまうのであった。

 

 

「うぅ…すばらし、イヤ!酷い目に遭った…全くアイツは……」

 

「隊長!」

 

「エリカか……どうした?」

 

 

 やっとラブのたわわ地獄(パラダイス)から解放されたまほの下へ、彼女の指示を待つまでもなく撤収準備を進めていたエリカがやって来た。

 

 

「人員と自走可能な車両は撤収準備完了しているのですが燃料が足りません……というか現在燃料の補給も出来ない状況になっています」

 

「ナニ?それはどういう事か?ここに来る途中の交戦エリア外に、補給部隊と回収作業班を待機させていたんじゃないのか?」

 

「はぁ……それがラブ先輩が橋を落としてしまったので大きく迂回する事になったのですが、県道298号線が一部大規模工事で通行止めな為支援車両が通る事が出来ません」

 

「ちょっと待て……」

 

 

 エリカの報告で、ある重要な事実に気付いたまほの顔色がさーっと変わって行く。

 

 

「はい、支援車両が来られないという事は私達も下山出来ないという事でして、どう対応すべきか一応隊長にもご相談をと思いまして……」

 

 

 まほの顔色の変化で状況を把握したと見たエリカは、彼女が言わんとする処を先に口にした。

 

 

「あ…あのバカが……考えなしに橋を落としやがってぇ!」

 

「ハァ…でも作戦行動で建築物等に対する破壊行為は、レギュレーションでも認められている処ですので、それでラブ先輩を責めるのもどうかと思うのですが……」

 

 

 エリカもあまり冴えない表情ラブの弁護を試みたが、沸点が低く直ぐに沸騰するまほは既にエリカの言葉などその耳には入っていなかった。

 

 

「ハァ~」

 

 

 人の話を聞かずラブの方に向ってズカズカと足早に歩み去るまほの背中に、エリカは独り深く長い溜め息を吐くのだった。

 

 

「オイ!ラブ!お前どうする気なんだ!?」

 

「な、何よまほ?そんな怖い顔してどうしたのよ~?」

 

「どうしたのよ~?っじゃない!どうしたもこうしたも、お前が橋なんか落したから帰れなくなっちゃったじゃないか!」

 

「何言ってんのよ~?県道で迂回ルートあるじゃないよ~、アンタこそ地元のクセに何言ってんの?そんな事も忘れちゃったワケ~?」

 

 

 ラブはへらへらとまほの事を小馬鹿にしたように笑っている。

 

 

「あっちは一部工事中で車両通行止めだ!」

 

「え……?」

 

 

 まほの一言でラブの目が点になる。

 

 

「な、何言ってるのよまほ……?」

 

「言った通りだよ!お前のせいで私達は下山出来なくなったんだぞぉ!」

 

「何よぉ!何で私のせいなのよぉ!?私だってあっちが工事中で通行止めなんて話は今聞いたばっかりよ!ちゃんと事前に通達しなかったまほのせいじゃない!妹のクセに自分の失敗お姉ちゃんに押し付けるんじゃないわよ!」

 

「だ、誰が妹だ!?単にお前が無駄に成長してるだけじゃないかぁ!」

 

「ひっど!私の事恋おねえしゃんとか言って、付いて回ってたのはどこのどいつよ!?」

 

「う、うるさい!そんな昔の事──」

 

「あ~ハイハイ、もうその辺で止めときましょうね~」

 

「エ、エリカ!?」

 

 

 物凄く面倒そうにエリカが二人の間に割って入り、その表情は如何にもうんざりだといった風で、声音にも隊長に対する敬意は感じられなかった。

 

 

「まだ中継の方も繋がったままですよ~」

 

「う゛……」

 

「ラブ先輩もいつまでもそんな事してると、ライブをやる時間がなくなっちゃいますよ~」

 

 

 どこか投げやりな態度のエリカが、かなり抑揚に欠けた声でそう忠告した。

 

 

「ライブ?ライブ…ライブ……あ────っ!」

 

 

 エリカのライブの一言で我に返り真っ青になって絶叫したラブは、携帯を取り出すとすっかり取り乱した様子でアドレスを開き目当ての番号を探していた。

 

 

「あぁぁ~!これじゃない…これも……あ~コレコレ!」

 

 

 やっと出て来た番号の発信ボタンを押したラブは、相手が出るまでの時間も待ち切れないようにその場でパタパタと駆け足をしている。

 

 

「はやく早く速く~!あ、出た!もしもし小町ちゃん!あのね──」

 

 

 呼び出した相手は、笠女学園艦の艦長である黒姫小町(くろひめこまち)の携帯らしかった。

 

 

「うん、そう!そうなのよ~!だから大至急スーパースタリオンを特盛で寄こしてちょうだい!」

 

 

 通話を終えたラブはまほの方へと向き直ると、電話をする直前まで彼女と大ゲンカをしていたのも忘れて嬉しそうにその結果を伝えていた。

 

 

「これでヨシっと、もう大丈夫よまほ~♪直ぐにヘリが迎えに来てくれるからね」

 

 

 既にラブの頭の中はステージの事でいっぱいらしく、他の事は一切抜け落ちているようだ。

 

 

「お前なぁ……」

 

「だからもう心配しなくても大丈夫、最高のステージを見せてあげるからね♪」

 

「問題はそこじゃない!戦車の回収はどうする気なんだよ!?」

 

 

 かなりイラっとした様子でまほが声を荒げたが、もうライブの事で頭がいっぱいな今のラブには誰が何を言っても無駄であった。

 

 

「あ~、それならウチの施設学科の子達がやるから問題ないわよ~。直ぐに直すから任せておけば絶対安心だからね~♪」

 

「だからそういう問題じゃ……あぁもう!」

 

 

 まほの話も聞かずにラブはAP-Girlsのメンバーの方へと、踊るような足取りで行ってしまった。

 

 

「あの状態のラブ先輩何言っても無駄なんじゃないですか?」

 

「エリカ……」

 

 

 振り回されるばかりの自分に比べ遥かにラブの事をよく見ているエリカの方が、自分よりずっと大人に思えたまほは何とも情けない気分になっていた。

 やがて形容し難い疲労感に見舞われたまほがその肩を落としている処に、彼女の鳩尾に響く重低音が空の上から近付いて来るのだった。

 CH-53E スーパースタリオン、笠女所有の大型ヘリが3機、冬の夕空にアンチコリジョンをフラッシュさせながら舞い降りて来るのが見えた。

 テンパったラブが特盛でと要請したが、冷静な小町は念の為の予備機も含め3機のスーパースタリオンを派遣したようであった。

 

 

「さあみんな急いで乗って!帰ったら直ぐにライブやるからね♪」

 

 

 軽い足取りで真っ先にスーパースタリオンに乗り込んだラブは、大きく手招きをして両校の隊員達に搭乗するよう促している。

 

 

「隊長、ここはもうラブ先輩に任せましょ?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 エリカに手を引かれ、まほもスーパースタリオンに乗り込んだ。

 そしてほんの僅かなフライト時間で帰り着いた観戦エリアでは大きな拍手と歓声が彼女達を出迎え、その中を両校挨拶の場へと進んだ彼女達はどちらが勝者かだとかは一切関係なく、そこに帰り着いた者全員が凱旋を果たした者として迎えられていた。

 亜美の号令の下交わされた挨拶の後、AP-Girlsはライブの準備の為に、ステージ目指してドタバタと慌しく走り去って行った。

 

 

「あ~もう!今回も前座の時間が取れなかったわ!」

 

「そんな事今更言ってもしょうがないでしょ!」

 

「グダグダ言ってないで走る!」

 

 

 試合後の余韻に浸る間もなく、ステージに向かってAP-Girlsはダッシュしている。

 

 

「忙しないヤツらだなぁ……」

 

「単位が掛かってるから必死なんですよ…それよりも隊長、先程の両校挨拶の時、蝶野教官の様子が少しおかしいと思いませんでしたか?」

 

「ん?蝶野教官がか?フム…言われてみれば確かに……」

 

 

 転がるように駆けて行ったAP-Girlsを見送ったまほとエリカであったが、両校挨拶の際にエリカは彼女達にとっての教導教官であり、試合の審判長でもある亜美の様子に違和感を覚えていたのだ。

 その理由を後に知った彼女達は自分達も感じていた胸のモヤモヤの正体を知り、複雑な想いながらも亜美から聞かされた事実に納得するのであった。

 だが今はそんな二人の違和感も、ラブのパワフルなハスキーボイスがかき消している。

 ステージに君臨する女王は、眩く官能的なオーラを全開で放出していた。




これでもうラブが高校生同士としてまほ達と戦うのは最後かなぁ……。
加筆修正繰り返したのでお風呂回は次回持越しww

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