ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道   作:肉球小隊

124 / 309
あっという間に投稿開始から一年が経過していました。
こんな時期に始めたって事は、昨年の今頃は本当にヒマだったんだなぁ……。
最近は忙しくて投稿が遅れがちなので、一層それを実感します。
この一年は投稿がやっとで他の方の投稿が全然読めなくて参りました。
正月休みからは少しづつ読みたいですね、気になるお話はいっぱいあるので。

とにかくこれからも頑張って投稿続けるので宜しくです。


第八十一話   噛ませ犬

「どうしてこうなった……」

 

 

 目の前に並ぶ混成の戦車群に、自らが車長を務めるティーガーⅠ123号車(ベルター)のコマンダーキューポラに収まるアンチョビは、頭を抱え前のめりに突っ伏し呻くように呟いていた。

 

 

「あんの紅茶坊主めぇ……」

 

 

 顔を上げた彼女の視線の先には、現在聖グロの隊長車となっているブラックプリンスが停車しており、その車上では乙に澄ました紅茶坊主ことダージリンが、見る者をイラっとさせる無駄な優雅さでティーカップを傾けているのが見えた。

 だが停車しているのはブラックプリンスだけではなく、プラウダのIS-2やサンダースのシャーマンファイアフライの姿まであった。

 それ以外にも各校の主力戦車の姿が見え、あの大学選抜戦の大洗連合を彷彿とさせる光景だ。

 しかし頭を抱えるアンチョビの周りにもまほを中心として黒森峰の重戦車が勢揃いしており、その車上にはまほとエリカは当然の事として、彼女を含めみほとラブが黒森峰のパンツァージャケット姿でコマンダーキューポラに収まっていた。

 その見ようによっては帝国VS連合で高校戦車道オールスター的なその両軍の陣容は、優花里のようなコアなマニアが見れば狂ったような騒ぎに──

 

 

「うほほ♪うほほ!コレは凄いであります!高校戦車道のエースが勢揃いで激突するなんて、まさに夢のようでありますぅ!」

 

「やだもーゆかり~ん……」

 

 

 既に狂ったような騒ぎになっていたようだ……そして更に──

 

 

「きゃ────!千代美ちゃんとっても似合うわよ────!」

 

「うぅ…なんであの人まで……」

 

 

 通常の観客席とは些か様相の違うスタンドでは、アンチョビとは因縁浅からぬ関係である横須賀警察署の女刑事、英子姉さんこと敷島英子が黒森峰のパンツァージャケット姿のアンチョビにテンション爆上げではしゃぎまくっていた。

 

 

「あのバカ女(ダージリン)一体どこまで話を広めやがった……」

 

 

 心底うんざりした表情のアンチョビは、再び自問するように呟いた。

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

 黒森峰への短期留学一日目の夕方、まほが失言からラブを激怒させてしまい、エリカが苦労してお膳立てした企画は初日にしてふいになり掛けていた。

 ラブが怒りに任せて電話でダージリンに愚痴をぶちまけた結果、彼女達の黒森峰留学がダージリンの知る処となり、そんな美味しいイベントを存在そのものが大きなお世話なダージリンが放っておくはずもなく、速攻で手を回すとこうして()()の黒森峰と戦うべく愉快な仲間達を焚き付け徒党を組んで熊本へと乗り込んで来たのであった。

 だがしかしダージリンがそれを知ったのは前日の夕刻であったのに、何故翌日の朝一に全国に散らばる各校の戦車を此処熊本に集結させる事が出来たのであろうか?

 

 

「ええそうよ、今回は少数精鋭になるからそれで大丈夫なはずですわ、その要領で宜しく。それではケイ、また後程……」

 

 

 アンチョビからラブの黒森峰留学の話を聞き出したダージリンは、何を企んだかアンチョビからの追及を躱す為に暫く携帯の電源を落としたが、頃合いを見て復活させると猛然と活動を開始して手始めに最大の輸送力を誇るスーパーギャラクシーを保有するサンダースのケイを抱き込み、各校の戦車の回収と空輸の算段を取り付けていた。

 

 

「ええ、それで人員の輸送を…あらもう?話が早くて助かりますわ。オスプレイまで出して頂けるなんて本当に宜しいんですの?そう……ありがとう愛さん」

 

 

 アッサムの方もちゃっかりと現在も黒森峰の学園艦と共に熊本港に停泊中の笠女学園艦に連絡し、口八丁で愛に笠女の航空戦力を人員輸送に充てる依頼をしていた。

 

 

「う~ん、何だか着々とろくでもない事になりつつある気がするのは私だけか……?」

 

 

 来年度から聖グロの隊長の任に就く予定のルクリリは嬉々として腹黒い企みを推し進める先輩二人の姿に、ラブと中学時代から面識のあった自分も巻き込まれるのが確実なのが解っているだけにその表情は冴えなかった。

 

 

「はぁ…でも今回は厳島()()()()だけのイベントのようですので、私達()()()は蚊帳の外ですので何とも言いようが御座いませんわ……」

 

 

 中学時代にラブとの絡みがなく、今回のダージリンの企みからは自分が安全圏にいると見たオレンジペコの態度から、ルクリリは目敏くそれを見抜いていた。

 

 

「メンバー言うな!おいペコ!お前自分が安パイだと思って適当言ってるだろ!?」

 

 

 オレンジペコの態度と表情にイラっと来たルクリリは、次の瞬間悪魔的な笑みを浮かべると実に朗らかな声でオレンジペコにとっては迷惑この上ない事を言いだした。

 

 

「ダージリン様!ペコのヤツが後学の為に是非とも参加したいと言っておりますが!?」

 

「ルクリリ様!?止め△@♯──」

 

 

 ルクリリはすかさず背後からオレンジペコの口を封じていた。

 

 

「まぁペコ♪実に良い心掛けだわ。宜しい、特別に参加を許可しましょう」

 

「ふははははは♪良かったなぁペコ!」

 

 

 どうせ自分は逃げられないとルクリリは、見事オレンジペコを道連れにする事に成功していた。

 ダージリンにしても解ってやっているだけによりタチが悪く、ルクリリに口を塞がれ反論も出来ないオレンジペコは涙目でモゴモゴと言葉にならぬ声で抗議していた。

 彼女より一年長くダージリンに酷い目に遭っている分、こういう場合の彼女の使い方をルクリリは実によく心得ていた。

 かくしてダージリンの暴走は誰一人止める者もなく、仲間内にどんどん話が広がって行った。

 明けて翌朝黒森峰の戦車道チームはいつも通りの朝練を終え、格納庫前に再び集合してミーティングを行っている最中であった。

 

 

「フム、各車特に問題もないようだな」

 

「はい、調整の方も上手く行ったみたいですね」

 

「これなら午後から紅白戦形式で模擬戦をやってもよさそうだな」

 

「そうですね、問題ないと思います」

 

 

 まほとエリカが午後の予定話し合う傍で、アンチョビとラブが黒森峰の隊員達に囲まれていた。

 

 

「アンチョビ姐さんの部隊運用って凄いです!」

 

「ラブ姉が指揮すると戦車の動きが全然違うけど何で!?」

 

 

 黒森峰では今までに見た事のない光景だが、これはやはり二人の人柄による処が大きいとはいえ凄い慕われようで中々の騒ぎであった。

 

 

『あ…これはちょっと羨ましいのかも……』

 

 

 隊員達にきゃあきゃあ言われながら囲まれる二人を見るまほの視線が、何処か羨ましげな微妙な表情を見せ、エリカはその様子にそんな事を感じていた。

 姐と姉、自然と周りに人が集まる二人だがその砕けた人柄は凡そまほに真似の出来るものではなく、真っ直ぐ過ぎる不器用者の彼女にはそんな二人に強い憧れがあるようだ。

 やがて二人を囲んで賑やかにやっていた隊員達は、二人をモデルに写メの撮影会を始めていた。

 

 

「コラ!アンタ達何やってんの!?」

 

 

 黄色い声とシャッター音にエリカが怒りの声を上げ掛けたが、意外な声がそれを制した。

 

 

「まあいいじゃないか、記録班に言ってちゃんとしたカメラでも撮っておこう」

 

「え…隊長がそう言うのであれば構いませんが……」

 

 

 少し驚いたエリカは戸惑いながらその提案に乗り記録班を呼び出しすと、即席の撮影会は本格的なものに変わって行った。

 

 

「ハイ!ドゥーチェはそこで指揮用鞭を振るって!」

 

「ラブ姉目線をお願いします!そこで投げキスを!」

 

 

 記録班はLove Gunやティーガーの上で二人に様々なポーズを取らせ撮影を続けており、最初は抵抗を示していたアンチョビもさすがノリと勢いのアンツィオのドゥーチェ・アンチョビだけあり、あっと言う間に乗せられてポーズを決めまくってカメラも連写音を響かせていた。

 

 

「ねえ厳島さ~ん♪今度はマウス行ってみません?」

 

 

 ここまではエレファントやらヤク虎やらたて続けに乗っては撮影を繰り返していたが、遂に一番の大物での撮影が巡って来た。

 

 

「あ、ハイいいですね……そこでドゥーチェと抱き合って貰えますか?わぉ♪素敵♡」

 

 

 ノリノリな記録班により次々とあざといオーダーが出され、ムフフな写真が次々と撮られて行く。

 

 

「それじゃあ今度はピンでお願いします。ええ、そうですねぇ……うん、ここは鬼の黒森峰の隊長の目線を頂けますか?」

 

 

 それまでもサービス精神旺盛に注文以上のポーズを決めまくっていたラブが、少し考える仕草の後にいきなり表情を引き締めると、眼光鋭くその場にいる隊員達の瞳を射抜いた。

 

 

『こ、怖ぇぇぇ────っ!』

 

 

 まほ達は知らぬ事であったが今ラブが演じて見せている姿こそ、嘗て黒森峰で隊長を務め夜叉姫として恐れられた彼女の母、亜梨亜の姿そのものであった。

 もしこの姿をしほや島田流家元の千代辺りが見ていれば、確実に腰を抜かしていたであろう。

 実際彼女の放った厳島流戦闘オーラで、皆その場にへたり込んでしまう程であったのだ。

 まほもおパンツ丸出しで尻もちをつき、投げ出した脚は膝がカクカクしていた。

 

 

「さ、さすがですね……そ、それでは──」

 

 

 地面にへたり込んでも撮影を続ける辺りはさすが黒森峰の記録班の鏡といえたが、最後の最後でとんでもないオーダーを出してしまった。

 

 

「ぜ、絶対の厳島の女王の顔で私達を見下して下さい……」

 

「あ、バカ止せそれは──」

 

 

 体勢を立て直そうとしたが失敗して這いつくばってしまったまほが止めようとしたが、間に合わずにラブは再び考え込んでしまった。

 

 

「厳島の女王ねぇ…それって亜梨亜ママの事なんだけどなぁ……でもまあこんな感じかしら?」

 

 

 超重戦車マウスの砲塔の端に腰を下ろしたラブは思わせぶりに大きなアクションで長くエロいラインの脚を組み、見えそうで見えないチラリで視線を自分に集中させると、冷たくドSな女王様の顔で眼下に群れる者達を蔑みの目線で睥睨した。

 

 

「あぁぁ~」

 

「女王さまぁ!口汚く罵って下さい!」

 

『この変態が!』

 

「ブ、ブーツで踏まれたい……」

 

『ド変態がいるわ……』

 

「女王様の椅子になりたい……」

 

『うわぁ……』

 

「ラブ!全身くまなく殲滅してくれぇ!」

 

『ダメだこの隊長……』

 

 

 凍て付いた女王の視線に全員がその場で平伏し、お尻を天に向け突き上げていた。

 

 

『うぅ…朝っぱらから私は何をやっているのだ……』

 

 

 まだ朝食も取らぬ時間からアホの限りを尽くしてしまったまほは、何とも気まずい表情で制服へと着替えると寮の食堂へと向かっていた。

 

 

「隊長!」

 

「ん?どうしたエリカ?」

 

 

 常に行動の速いエリカは、逆に全てにおいてトロい動きのみほを引き摺り既に食堂に入っていたが、まほが食堂の近くまで来た時に何かのプリントアウトを片手に飛び出して来た。

 

 

「これを見て下さい、先程機甲科の通信部に入電があったそうなのですが……」

 

「何だこれは?」

 

 

 手渡されたメールのプリントアウトらしき物に目を通しながら、まほは妙な顔をしている。

 

 

「挑戦状か何か…これは?しかしこの発信者の名は一体……?」

 

 

 ブツブツ言いながらプリントアウトを見直すまほの傍で、エリカが面倒そうに渋い顔をしている理由はと云えば、そのメールの発信者アドレスが聖グロの情報部GI6のものであったからだ。

 

 

「う~ん…このUD-Girlsとは一体どういう意味だろう……?」

 

 

 エリカにはその怪しさしか感じないネーミングからは、ろくでもない事態の臭いしか感じられなかった。

 

 

「うん?何だ……?」

 

 

 エリカが鬱な気分になり掛けた時、食堂前の廊下の窓ガラスが微かにカタカタと鳴り始めた。

 そして直ぐに寮全体がガタガタと振動し始め、それと共に腹に響く轟音が接近して来るのだった。

 

 

「あ、あれは!?」

 

 

 廊下にふっと影が差し、窓に張り付いたエリカの視界を覆い付くすように見覚えのある巨人機が超低空で通過して行くのだった。

 

 

「サンダースのスーパーギャラクシー!何で!?」

 

 

 爆音を残して飛び去ったサンダース大学付属高校所有の超巨大輸送機C-5M スーパーギャラクシーの姿に、エリカは事態を飲み込めずひどく困惑した表情を浮かべていた。

 

 

「ケイ……なのか?」

 

 

 エリカの後ろからそれを見送ったまほも、不思議そうな顔をしている。

 

 

「オイ、今の爆音はなんだぁ?」

 

 

 ラブの身支度を手伝った後、そのラブを連れてやって来たアンチョビはやかましそうな顔で窓の外を覗いたが、もう既にスーパーギャラクシーの姿は見えなかった。

 

 

「なんか今ケイがどうのって言ってなかった?」

 

 

 アンチョビに続いて現れたラブも、窓の外を見てキョロキョロする。

 何と答えたものかまほとエリカが考えていると、携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

「あ、すみません私です…ハイ、もしもし……」

 

 

 携帯を手にしたエリカが、皆から少し離れて通話を始めた。

 

 

「ええ…ハイ?ちょっとそのまま待っててもらえる?」

 

 

 アンチョビ達がどうしたといった風に様子を見ていると、エリカは途中で通話口を押さえたまま彼女達の方へと向き直った。

 

 

「隊長……」

 

「どうしたんだエリカ?」

 

「管制からなんですが……先程のスーパーギャラクシーが着艦許可を求めているそうです」

 

「ん?それがなんでこちらに電話して来るんだ?」

 

「それが機甲科…というか隊長宛で申請しているそうでして……」

 

「何だそりゃ?」

 

「ハァ……」

 

「まあいい、相手は誰だか解ってるんだから降ろしてやれ」

 

「了解です……」

 

 

 まほの許可を得たエリカは、それを切らずにいた携帯で管制に伝えた。

 

 

「エリカさん、サンダースのスーパーギャラクシーが来たってどういう事?」

 

 

 先に食堂に入っていたみほも伝令からメールのプリントアウトを受け取った後退室し、その後戻らぬエリカを待っていたが寮を揺るがす爆音に驚き外に出てみれば、皆が何やら立ち話中であり大洗の救世主であるスーパーギャラクシーの名を聞き目を丸くしていた。

 

 

「みほ…何も解らないわ……これからウチの艦に降りるらしいけど……」

 

 

 訳が分からず見つめ合う二人だが、それで事態が解決する訳でも答えが見付る訳でもなく、二人の間を妙な沈黙が漂っていた。

 

 

「で、どうする?()()に行くのかぁ?」

 

「いや、いきなり来たんだから待たせるさ……先に朝食を取ろう」

 

「そうか……」

 

「どうした、何か気になるのか?」

 

「いや…まさかな……」

 

 

 前夜自分達の黒森峰留学がダージリンにバレているので、言いようのない嫌な予感に囚われたアンチョビであったが、さすがにこの短時間で準備万端整えた愉快な仲間達が乗り込んで来ようとは彼女も夢にも思ってはいなかった。

 そして朝食後彼女達は許可を取り、登校前に空港へと向かうのであった。

 航空母艦が原型である学園艦に空港というのもおかしな話ではあるが、そのあまりの巨大さ故にそれは飛行甲板というより空港と呼んだ方が適切であった。

 しかし空港とはいっても設備は最小限に抑えられたものであり、その為に駐機スポットに在ってもスーパーギャラクシーの機体サイズは飛び抜けて際立っていた。

 

 

「やはり大きいですね……」

 

 

 エリカの運転する無蓋の3t仕様オペル・ブリッツは、一行を乗せ駐機スポットへと走っていた。

 

 

「え…?あれは……!?」

 

 

 空港施設内に入り駐機するスーパーギャラクシーが見えて来ると、その巨体の傍に見覚えのある光景が展開されているのだった。

 

 

「う゛え゛ぇ゛…やっぱりぃ……」

 

「なんだ安斎、何がやっぱりなんだ……?」

 

 

 それを見た途端にアンチョビが呻き項垂れたその光景。

 屋外であるにも拘らず設えられた衝立やソファーセット、その非常識さに置いては右に出るもののない聖グロの紅茶の園がそこに設営されていたのだ。

 頭を抱えたアンチョビは、困った顔をすると視線をラブとまほへと交互に送っていた。

 

 

「なんでダージリンが…?っていうかみんないるじゃないか……」

 

 

 呆気にとられていたまほが言う通り、そこのは愉快なお仲間達が勢揃いしている。

 

 

「しかしあれは一体どういう事でしょう?」

 

 

 エリカはアンチョビの様子から何かを察し、チラリと振り返り彼女に視線を送ってから皆も思っているであろう疑問を口にした。

 

 

「それは……」

 

『それは……?』

 

 

 観念したような表情のアンチョビが口を開きかけると、皆一斉に彼女に注目した。

 

 

「千代美ごめんね……」

 

 

 ラブがアンチョビをそっと抱きしめ淡い緑髪をナデナデしている。

 彼女が昨夜何があったかを伝えるとまほはその顔にそうめんのような縦線を入れ、ラブはまたしても自分の事でアンチョビに負担を掛けてしまった事ですまなそうな顔をしていた。

 

 

「いや…私は大丈夫だよ……それにしてもアイツらどういうつもりだ?あんなデカブツで乗り付けて来やがってぇ……?」

 

「それは……」

 

 

 皆その機体の存在理由を知ってはいるが、直接世話になった経験があるみほ以外の者は即その問いに答える事は出来ず、言い淀んだみほもまた果たしてその答えを言っていいか迷ったのだ。

 だが機首を大きく跳ね上げたスーパーギャラクシーが、その答えをローディングランプから次々と勝手に吐き出し始めていた。

 

 

「オイ……」

 

「あれはブラックプリンス……それにチャーチルも!?」

 

「コラ……」

 

「今度はIS-2とKV-2!」

 

「オマエら……」

 

「何で大洗(ウチ)のⅢ突とヘッツァーが!?」

 

「あ゛……」

 

「あ…P40……」

 

「ナニ……?」

 

「ウソ……BT-42!?継続!?」

 

 

 胡乱に突っ込むアンチョビと驚く一同を乗せたオペル・ブリッツが、その巨人機の下へと辿り着いた頃には全ての戦車が並べられ、仮設の紅茶の園では聖グロの隊員達の手で、朝食のサンドイッチが紅茶と共に振る舞われている処であった。

 

 

「オイ!ダージリン!一体どういうつもりだぁ!?」

 

「あら?その制服を着ているという事は、ドゥーチェ・アンチョビではなくて安斎千代美さんとお呼びした方が宜しいのかしら?」

 

「う゛……や、やかましい!人の聞いた事に答えんかぁ!」

 

 

 わざとらしく厭味ったらしいダージリンのもの言いに、アンチョビがキレ気味に大声を上げた。

 

 

「Haaai♪来たわよ!」

 

「来たわよ……っじゃねぇ!こんなデカブツで一体何しに来やがったぁ!?」

 

「いきなりご挨拶ね!マホーシャの夢を叶えに来てあげたんじゃない!」

 

「ハァ!?」

 

 

 訳が解らぬといった表情のアンチョビが口の端をヒクヒクさせていると、辺りの空気を震わす重低音の汽笛が轟いた。

 

 

「な、なんだぁ?」

 

「あぁ、ウチ(サンダース)の艦が来たのよ、私達の戦車はその方が手っ取り早かったからね~」

 

 

 佐世保から熊本は目と鼻の先、サンダースの学園艦が熊本港への入港体勢に入り、現在港内では無数のタグボートが支援の為に忙しなく動き回っていた。

 

 

「それはどういう意味だ!?オマエら何考えてやがる!?」

 

 

 勝手に事態が進む中、アンチョビの叫びに被せるように複数のローター音が急接近して来た。

 

 

「なっ!?」

 

 

 見上げれば笠女の全航空戦力が、編隊を組み空港に降りるべくホバリング体勢に入りつつあった。

 

 

「あぁもう何がどうなっている!?誰か説明しろぉ!」

 

 

 アンチョビが叫ぶ背後では、まほ達が揃ってポカンとした顔で一連の騒ぎを見ていた。

 

 

「なんで私が……」

 

「カエサルさん!?」

 

「たかちゃ~ん♡」

 

「だからカエサルだ!」

 

 

 隣りあって着艦したスーパースタリオンから降りて来た『たかひな』が早々にユリユリと騒ぎ始め、アンチョビとみほが同時に頭を抱えてその場に座り込んだ。

 

 

「や~や~見事な騙し討ちというか奇襲だったねぇ」

 

『ハァ……』

 

 

 ニヤニヤ笑いの杏に続き、浮かない顔の桃と柚子も降りて来た。

 

 

「あら?人聞きの悪い事を仰らないで下さる?」

 

 

 ダージリンはわざとらしく、そして実に楽しそうだ。

 

 

『事実だろうがぁ……』

 

 

 給仕に忙しい聖グロの隊員達全員の目がそう語る中、ダージリンのみがコロコロと笑っている。

 そんな中ITUKUSHIMA1ことオスプレイのハッチが開き、特徴ある弦楽器の音色と共に降りて来た三人に皆の視線が集まった。

 

 

「一体どういう事かな?これが戦車道に必要な事とは到底思えないんだが?」

 

 

 チューリップハットの少女が、彼女にしては珍しく困惑の混じった声音で呟いた。

 

 

「も~、ミカはまた訳解んない事言う~」

 

 

 例によってアキは口を尖らせミカを窘める。

 

 

「機内食って初めて食べたけど凄いご馳走だったね~♪」

 

 

 只一人ミッコだけがマイペースだった。

 

 

「ウソ……どうやってあのミカを拉致って来たの!?」

 

「どうやってって、喰いモンで釣ったとしか……」

 

「も~!お土産に学園艦カレーまでしっかり貰っておいて何が不満なのよ!?」

 

『あ…そのまんまだ……』

 

 

 オスプレイから降りて来たムー○ン谷の住人御一行は、何故かやたら抵抗を示すミカをアキとミッコがグイグイと押しながらこちらにやって来る。

 他の機体からも続々と嘗てラブと関わりのあった者と、その巻き添えになった者達が続々と降りて来て、仮設の紅茶の園は人で溢れ始めていた。

 

 

「カオスだ……」

 

 

 完全に目が死んでいるアンチョビは、そう呟くのがやっとだった。

 

 

「あら、どうなさったの()()さん?」

 

「うるさいよ…オマエらマジで何しに来やがった……?」

 

「この状況でまだお解りにならないの?私達まほさんの夢を叶えに来たとカチューシャも言ってたでしょ?そう……私達UD-Girlsは()()の黒森峰と戦う為に組織されたグループですのよ?」

 

「おまえなぁ…大体UD-Girlsってなんだよ……?」

 

 

 心底めんどくさそうなアンチョビが、弱々しい声で一応聞いた。

 

 

Underdog(噛ませ犬)……私達はまほさんの夢を叶える最強の噛ませ犬なんですのよ♪」

 

 

 そのあまりにも自虐的なネーミングセンスを得意気に語るダージリンに、すっかり疲れ切った表情のアンチョビは言葉を失った。

 

 

「戦い…試合…そうか……試合かぁ!」

 

「に、にしずみ……?」

 

 

 突如拳を握りしめ盛り上がり始めたまほに、アンチョビが胡乱な目を向ける。

 状況のさっぱり読めないカオスは、まだその釜の蓋が少し開いただけであった。

 

 

 




やっと楽しいムー○ン一家が登場しました。
私が描くミカは果たしてどんなポンコツになるのでしょう?

UD-Girlsも結成されましたが、それでいいのかダージリンって感じですねw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。