やっとラブとミカが接触しますが、どうにもミカはラブが苦手な模様ですね。
この二人はこの先も絡ませたいけど、ずっと思わせ振りな関係になりそうw
「さ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ちょっとしたティーラウンジ程度に並べられたテーブルセットの間を、タンクジャケット姿の聖グロの隊員達が優雅に動き回り紅茶やティーフードを給仕して回っている。
「おほほほほほ!さあお替りを召し上がれですわ!」
「わあ!止めんかこの馬鹿者!」
まあ一部若干の例外も存在するようではあったが。
「もー、本当にミカってズルいよね~。あのAP-Girlsの厳島さんと友達だった事を、私達にもず~っと隠してたなんてさ~」
「……」
「サイン貰えるかなー?」
「……」
能天気な事を言いながらアキとミッコが、給仕された紅茶と共に目の前に並べられた並べられたティーフードをハイペースで消費して行く。
「皆さんお久し振りですね、お元気そうで何よりですわ」
「あ……ダージリンさんお早うございます」
「お替りは如何かしら?」
「あ、ハイ頂きます」
「このマカロンって美味しーねー♪」
「そう、それは良かったわ」
丸っきり空気の読めないミッコに、ダージリンが営業用の女神の笑みを見せる。
「全く…君って人は……」
それまで頑なに口を開こうとしなかったミカが、やっと言葉を口にした。
一体どんな手を使ったのか、ダージリンはまんまとミカをだまくらかし、自らの企画に参加させる事に成功していたのだった。
彼女としてはラブがミカに会いたがっていたのを知っていたので、それを叶えてやろうという想いもあったが、多少……いや、多分にこの掴み処のない少女の困った顔が見たいという想いの方が強く、どうやらそれにも成功していたようだ。
『ふうん…この子もこんな顔を見せるのね……』
初めて見るミカの表情の明確な変化は、ダージリンの好奇心を大いに満足させるものであった。
そんなダージリンを前にして、気を落ち着けようとするかの如くミカが鳴らしたカンテレの音色は、どこかぎこちなく若干音も外れていた。
「ミカさん……」
そっと近付いたラブが控えめな声でその名を呼ぶと、カンテレの弦を弾く指がピタリと止まり、彼女の背中が硬直するのがラブにも解った。
「あ…ごめんなさい……」
最後の一音が完全に外れた瞬間、ラブがおずおずと頭を下げた。
「や、やあ厳島さん…相変わらず美しい声だね……」
ややぎこちない動きでミカが振り返ると、そこには潤んだラブの美しい瞳があった。
「そして相変わらず狡い人だ…そんな瞳で見つめられたら、もう何も言えなくなるじゃないか……」
「ごめんなさい…ありがとう……」
「え……?」
ありがとうの意味が解らず、ミカは怪訝な顔をする。
「あ、その…大学選抜戦でみほを助けてくれてありがとう……みほは私の大切な妹だから……」
更に意味が解らないといった表情になりかけたミカであったが、そこで昔何処かで聞いた厳島と西住が親戚関係であるという話を思い出し、漸く合点が行った顔になった。
「妹…?ああそうか、そうだったね……」
ここまでの二人の一連の会話が一々雰囲気があり過ぎて、周りの耳が全てでっかくなっていた。
『な、何なのこの雰囲気は……?』
『ちょ…このドキドキはナニ……』
『ねぇ?あの二人って昔何かあったの?』
大人の駆け引きを見せ付けられたような周りの少女達は、耳まで真っ赤にしてドキドキしながら生唾を飲み込み様子を食い入るように見守っていたが、そのユリユリな雰囲気を一切空気を読まずに一撃で粉砕する強者が現れた。
「ねぇ!アタイミッコ!サイン頂戴!」
「え!?」
ほぼ被り付き状態で見入っていた者達が一斉に椅子から転げ落ちる。
某新喜劇でもここまでそろわない程見事なタイミングだ。
「ちょっとミッコ!いきなり失礼でしょ!厳島さん驚いてるじゃない!」
元気良くサインを強請ったミッコを必死に抑え込んだアキは、ジタバタするミッコに手を焼きながらラブに謝罪するのであった。
「えっと、その…ごめんなさい厳島さ…先輩……」
「私一年生なんだけどな……」
「え?」
「ううん、何でもないわ……あなたがアキさんね?」
「えぇ?何で私の事を……?」
自分から名乗る前にその名を呼ばれたアキは、その目を大きく見開いて驚いている。
「それにミッコさん……二人もみほの為に戦ってくれてありがとう」
ラブは礼の言葉と共に、二人に向けて頭を下げた。
「え?そんな!…えっと、さっき西住さんの事を妹って……?」
事情を知らぬアキが当然の疑問を口にすると、それにはミカが横から答えるのであった。
「厳島流と西住流は親戚なのさ…年も近いから一層仲が良いらしいね……」
「そうなんだ……」
「ええ、私の家の事情で一時期はこの熊本で一緒に暮らしていた事もあるの。私が一番生まれが早いからまほとみほは私の妹なのよ」
にっこりと優しいほほ笑みを向けられたアキは、思わずぽっと頬を赤らめて指先を絡ませモジモジしてしまうのであった。
「そんな事よりサイン!ダメ……?」
「あ!コラぁ!」
アキの縛めが緩んだ途端に逃げ出したミッコが、ラブに何処から持って来たのか極太の油性マーカーを差し出し再びサインを強請っていた。
「あ、ごめんなさいね…それでええと……何処にサインすればいいのかしら?」
油性マーカーを受け取ったラブが戸惑っていると、ニカッと笑ったミッコはその場でクルリと回ってラブに自分の背を向け指差した。
「ここ!でっかくね♪」
「え?いいの?」
「ちょっとミッコ!」
「いいんだよ!バーンっとでっかく書いてよ!」
どうしたものかと視線をミカに向けると困ったものだといった風に肩を竦めており、その表情からすると彼女も少し余裕が出来たようであった。
「ええとそれじゃあ…アキさん、少し裾を引っ張って貰える?」
ラブに頼まれるとさすがに断れずふっと小さく息を吐いたアキは、しゃがみ込んでミッコのジャージの裾を引っ張ってやると、ラブも屈んでサインを入れ始めた。
しゃがんでいるアキの頬に、ラブの長い真紅の髪がふわりと掛かる。
それと共に何とも云えぬ良い香りが降って来て思わず見上げた彼女の直ぐ目の前に、凡そ高校生とは思えぬラブの美しい顔があった。
その美しさと甘い香りにぽ~っとなったアキに、髪が掛かってしまった事に気付いたラブが済まなそうに言った。
「あら?アキさんごめんなさいね」
「ほえ……?あ!大丈夫です!」
真っ赤になったアキが慌てて返事をすると、ラブは不思議そうな顔をした。
「よし、出来た……アキさんありがとう」
「い、いえ!」
「お待たせミッコさん、出来たわよ」
ラブにポンと背中を叩かれたミッコは、早々にジャージを脱いでサインの入った背中を確認した。
「うわぁカッコいい!ありがと♪」
「うふふ♪こんなもので良かったかしら?それじゃあ今度はアキさんね」
いきなりそう言われたアキはびっくりした顔になる。
「えぇ!?わ、私は……」
小躍りして喜ぶミッコに比べ、アキは本当にいいのかと気後れしている感じだ。
「構わないよ、入れて貰うといいさ……」
「え?でも……」
思いがけぬミカの後押しにアキが驚いていると、ラブも彼女の目線に腰を落とし優しく微笑むと逆にお願いするような口調で言うのだった。
「私もサインさせて貰えると嬉しいんだけどな♪」
「…そ、それじゃあお願いします……」
照れて恥ずかしそうにするアキと、それとは対照的にはしゃぐミッコが可愛らしく思わずラブは二人を同時に抱き締めた。
「えぇ!?ふわぁ♡」
「わわわ!?厳島さんってとってもいい匂いがするねぇ♡」
以前皆がミカの危惧を指摘していた通り、小っちゃくて可愛い二人はラブのどストライクゾーンであり、仔猫を抱くようにラブも蕩けていた。
『アレってヤバくね……?』
今にも二人を抱えて逃走しそうなラブに、痛い視線が集中した。
「い、厳島さん…お願いだからもうその辺で……」
嘗て誰も見た事もない程にミカがオロオロしている。
『オ…オイ、アレは本当にミカか……?』
『あんな顔初めて見ましたわ……』
『オロオロするってああいう状態を言うのね~』
驚く者達を余所に我に返ったラブは、既にオーバーヒート気味の二人を解放すると、アキのジャージの背中に先程とは逆にミッコの手を借りサインを入れてやるのであった。
しかしその時アキと同様にジャージの裾を引っ張る為にしゃがんでいたミッコの目の前で、吹き抜けた風がラブの右目と傷を覆い隠す前髪を揺らして行った。
「え!厳島さんソレって!?」
ラブの美しい顔に刻み付けられた無残な傷痕にミッコが驚きの声を上げる。
そのミッコの叫びに振り向いたアキの目にもそれは見えてしまい、二人はそのまま硬直した。
そしてそれを見抜いていたのか、ミカは俯き視線を逸らしたがその肩は微かに震え、唇をキュッとか噛締めているのが見て取れた
「あの…ごめんね驚かせちゃって…気持ちの悪いものを見せちゃってごめんなさい……」
言葉を失ったように硬直するミッコとアキにラブが謝罪し、周りの仲間達の間に緊張が奔ったその時、突然二人はポロポロと涙を零しながらラブに抱き付いていた。
詳しい事情を知らなかった二人は咄嗟にそんな行動を取るしか出来なかったようだ。
「い、痛かったよね!」
「うわぁぁぁ!」
「えっと…?あの……」
戸惑うラブを余所に少しホッとした周りの者達が、二人を宥め落ち着かせると、簡単にではあるが当時の事とそれを乗り越え彼女がこうして帰って来た事を説明してやるのだった。
その間もミカは独りカンテレを爪弾き、その音は風に乗って皆の心に沁み込むのであった。
「全くオマエらと来たら……」
騒動もひと段落しラブがアキのジャージにもサインを入れた後、今回の騒動の首謀者たるダージリンの前に腰を下ろしたアンチョビは、すっかりやさぐれた表情でぶつくさと文句を言っていた。
「あら?随分とご挨拶ですこと、折角練習相手になりに来て差し上げましたのに」
こういう調子こいた時のダージリンの態度程腹の立つものはなく、相当にイラッと来たアンチョビの目は完全に据わって見えた。
「大体な…いきなり来て何処で試合するつもりなんだよ?いくら黒森峰だってなぁ、今日の今日地元に申請して直ぐどうにかなるもんじゃないぞ?審判団だってそうだろうが……行き当たりばったりで来やがって何考えてんだ……」
毒づくアンチョビを前にダージリンは更に人の悪い笑みを浮かべ、さすがにカチンと来たアンチョビが声を荒げた。
「オイ!」
「それなら全く問題ありませんわ。試合会場は最高な場所を提供して頂けるよう手配済みですし、審判団の方も大丈夫ですわ……あぁ、丁度試合会場の持ち主もいらっしゃいましたね」
「ナニ!?」
アンチョビが思わずキョロキョロすると、幌を降ろし磨き抜かれた優雅な曲線のボディを持つメルセデスベンツ170Vのカブリオレが、こちらに向かって走って来るのに気が付いた。
「ん?あれは……」
「お母様!」
さすがのまほも驚いた様子で、母の突然の来訪を迎えている。
「おはようございます家元様。さ、こちらへどうぞ……紅茶で宜しいでしょうか?」
「皆さんおはよう……そうですね頂きましょう」
しほは物珍しげに仮設の紅茶の園を見回しながら答えた。
「本日は急な申し出をお受け頂きありがとうございます」
「問題ありません、道場の演習場も既に受け入れ態勢は整いつつあります」
すっかり置き去りにされていたアンチョビの顔が、しほの言った事に思考が付いて行く事が出来ずに驚きで固まってしまっていた。
そんな彼女にだけしほが極上の微笑で頷いて見せると、驚きから歓喜の表情に変わったまほがその感情そのままな声を上げる。
「え!?お母様、道場の演習場を使わせて頂けるのですか!?」
「ええ、昨夜亜梨亜様経由で要請を受け、即準備を始めました。審判の方も道場の有資格者が担当するので何も心配いりません」
ダージリンは愛から亜梨亜を経るという搦め手で、西住流道場の演習場を借りて試合が出来るように手を回していたのだった。
「亜梨亜ママが?」
自分が知らぬ間に母である亜梨亜がそんな事に加担していた事に、さすがのラブも驚きを隠せずアンチョビもまた完全に言葉を失っていた。
「久し振りに美味しい紅茶を頂きました。それでは私も残りの準備がありますので退散しましょう……また後程、道場の方で待っていますよ」
そう言い置くとサッサと立ち去ってしまったしほをアンチョビもポカンとしたまま見送ってしまい、我に返った時には既にしほの操る170Vの姿は見えなかった。
「……だ、ダージリン!お、オマエなぁ!」
「黒森峰のパンツァージャケット着ておいて、練習だけして終わりじゃ何も面白くありませんでしょ?だから私がひと肌脱いで差し上げましたのよ?少しは感謝して頂きたいものですわ」
「自分が楽しみたいだけだろうがぁ……」
ブツブツと文句を言ったもののコイツには何を言ってもダメだ、今更ながらにそれを実感したアンチョビは、投げやり気味に息を吐くと目の前のティーカップの中身を一気に飲み干した。
「お替りはいかが?」
にこやかにティーポットを掲げるダージリンの笑顔が、この時ほど忌々しく感じた事は未だ嘗てなかったアンチョビであった。
それから暫くして笠女と黒森峰、更には西住流道場差し回しの戦車運搬車により試合に出場する全車両の搬送が開始されたが、今回の試合とそれ以前にラブの黒森峰への短期留学が地元でもトップシークレット扱いであった為に、戦車には全てシートを被せ人員は空輸と人目に付かぬようにとあらゆる面で情報が伏せられていた。
通常これだけの数の特殊車両が一時に一般道を通行するのであれば、監督官庁への届け出が必要なはずであるがそこはさすが西住流のお膝下、しほの電話一本でそれは済まされたというか見て見ぬふりを決め込んだようであった。
「Wow!西住流道場の演習場なんて私達には東富士並の聖地よね!」
初めて足を踏み入れた西住流の総本山の道場に、ケイは興奮を隠せない。
降り立ったヘリポートから演習場入りした一行は、個人所有とは思えぬその広大さに一様に驚き西住流の聖域に自分達がいる事に感動を隠せない。
そして一同の目は運ばれ並べられた黒森峰の戦車の中で、一両のパンターに釘付けになっていた。
「ちょっと…ちょっと待ちなさいよ!これはどういう事!?なんで……なんで
血相変えて叫ぶカチューシャが指差す先には、彼女達が嘗て幾度となく戦い、恐れそして愛したラブの愛馬の姿が其処にあった。
深紅のハート貫く徹甲弾も勇ましいパーソナルマークは、ラブが中学戦車道に於いて最強ルーキーの称号を獲得した際に彼女達が送った物であった。
そのパーソナルマークが描かれたパンターが目の前にいる事に大声を上げたカチューシャのみならず、当時を知る者達は驚きを通り越してガクブル状態になっていた。
「こ、これは聞いてませんわ……」
「…My…God……」
「カチューシャ様……?」
「だから!そういう
『Oh……』
「へ?あれがLove Gun?ねぇおケイ、どゆ事かな?」
今回拉致同然に連れて来られた経緯も解らぬ上に、自分の知るパーソナルマークを描かれたⅢ号と違うパンターをLove Gunと呼び、パニックを起こしている事が不思議でならない杏は、目下ラブラブでユリユリな関係であるケイのタンクジャケットの袖をちょいちょい引っ張っていた。
「え?あぁ、アンジーが知らないのも無理はないわね──」
ケイは過去の話やパーソナルマークの由来を、掻い摘んで杏に聞かせてやった。
「成る程ねぇ…それでみんな騒いでいる訳かぁ……」
同じG型ではあるが本家本元のLove Gunは希少な赤外線暗視装置搭載車であり、外観上も目立つ特徴となっているので直ぐに分かりそうなものであったが、自分達の贈ったパーソナルマークの存在感がそれに直ぐ気付かぬ程のインパクトを与えていたようだ。
「まぁそうなるわな……」
自分達もそれを見た時同じように騒いだのを思い出し、気持ちは分かるといった風に呟いていた。
「しかしそれはそれとしてだ…ダージリンめ、全く以ってとんでもない事を……」
まほと一緒にいるのであればいつかは足を踏み入れる事になるであろうと思っていたが、それがこんなにも早く、そしてこんな形なろうとは想定外処の話ではなかった。
故にアンチョビの表情は実に複雑なものになっている。
果たしてダージリンが何処まで話を広めてしまったのか気が気ではないアンチョビは、カルパッチョがあっさりと虎の子のP40まで持ち出している事もあり下腹の辺りが重くなるのを自覚していた。
「バカねぇ、Love Gunが此処にいる訳ないでしょ~?小梅さんが私の為に自分の乗機をLove Gun仕様にして提供してくれたのよ?ん~♡ホントありがとね~♪」
Love Gunを整列させた後、傍らに来て控えていた小梅をラブがハグして頬をスリスリしている。
「うひひゃう~!?ら、ラブ先輩!?」
突然のラブの奇襲に小梅は一撃で撃破され、白旗を揚げ白煙を吹いていた。
「うわ~い~な~!」
「ミッコ!空気…読めないよね……」
アキはミッコの天然を通り越した違う何かに、ガックリと肩を落としていた。
「とにかく…こうしているのも時間の浪費ですから試合を始めませんこと?」
「そ、そうね…でもこっちは急造の寄り合い所帯でしょ?隊長とかどうするつもりよ!?」
気を取り直したダージリンの言葉に、カチューシャが質問を重ねた。
だがしかし、これにはダージリンがカチューシャに向けて即答するのであった。
「それはもう私の方で決めてますのよ……ねぇカチューシャ、あなたが隊長をおやりなさいな」
このダージリンの提案には、カチューシャも思わず目を丸くした。
「え!?何で私なのよ……?」
彼女に疑問の声にダージリンは、まず穏やかな笑みを以って答えるのであった。
その笑みの中には、カチューシャの率いるプラウダのみが悪天候の影響で試合を完遂出来ず、6連戦中唯一ノーゲームとなってしまい消化不良となっている事への配慮が見えていた。
「ここは是非、あなたに指揮をお願いしたいのですが如何かしら?」
そんなダージリンの心遣いを感じ取ったカチューシャも、わざとらしいまでに偉そうな表情をその顔に浮かべると、思い切り胸を反らしてそれに答えるのであった。
「あらそ~お?そこまで言うなら私がやってあげるわ!」
「えぇ、宜しくお願いするわ」
皆も何も言わずとも心得ており、笑顔でそれを受け入れ
「あのさ…ここにいるのはラブと昔からの付き合いがある人達なワケだよね……?」
彼女にしては珍しく何処か気後れしたようなもの言いに、何を言いたいか即察したダージリンが杏に対しても真摯で優しい口調で答えていた。
「あなたはラブの
さすがに始めからその辺まで考慮して声を掛けていただけあり、例え暴走していたとしてもダージリンはやはりダージリンであった。
尤も
「えへへ…ありがとね……」
照れ隠しにへらっと笑う杏は大層可愛らしく、思わず萌えたダージリンが彼女に良からぬ妄想を抱く前に、すっ飛んで来たケイが速攻で彼女を回収して行った。
「…おやりになるわね……」
かくして舞台と役者が揃い後は試合を始めるのみとなり、両チームの戦車が向かい合って並ぶ前で、西住流の門下生の中で審判資格所持者達も、お祭り気分でにこにこしている。
しかし今回は自分が車長として楽しむ為に連れて来た
「う゛ぅ゛…なんかコレ勝てる気が全然しないんだけど……」
目じりに涙すら浮かべた彼女の視線の先には黒森峰の戦車達がズラリと並んでいるが、普通その程度の事ではさすがにカチューシャも怯む事はないであろう。
だが、居並ぶ重戦車のコマンダーキューポラ上に、まほとみほエリカは勿論の事、アンチョビとラブが収まっているとなると話は違って来るようだった。
「こう言っては何ですけど…この組み合わせが
「Oh…想像させないでよ……」
もしラブの事故が起こらず、まほの誘いをアンチョビが受け黒森峰に進学していたとしたら?
この光景を見れば誰もが想像してしまう『もしも』の世界は、まさに『もし』実現していれば相手をする側は悪夢以外の何ものでもなかったであろう。
そしてその一方でアンチョビもその思いは複雑であった。
「ダージリンのヤツめ…カルパッチョだけじゃなくP40まで引っ張り出しやがってぇ……個体数が少ないから壊すと高く付くんだぞぉ…もし何かあったら請求書回してやるからなぁ……」
イライラの収まらぬアンチョビだったが、更に彼女が頭を抱えたくなるような事態が待っていた。
パリパリと乾いた音と共に、上空から一機のヘリが下りて来るのが見えた。
細身の機体に特徴的な迷彩を施されたそのヘリは、ニンジャの愛称で呼ばれる陸自が運用する観測ヘリコプターOH-1であった。
そしてそれは戦車道の教導教官にして選手憧れのお姉さん、蝶野亜美一尉の乗機でもあった。
「う゛…あれは……」
その存在に気付いた者達が見上げる中、パイロットが機体を軽くバンクさせるとそのコックピットには二名の搭乗者の姿が見え、ニンジャはその後演習場に隣接するヘリポートへと降下して行った。
「おいダージリン…オマエまさか……」
嫌な予感しかしないアンチョビの予想通りの人物が、通常なら国の内外から訪れる視察や研修者の為に設けられたスタンド上に現れたのであった。
おそらくはダージリンの口車に乗ったふりをした亜梨亜が、厳島グループのCEOとしての力を行使して二人の公務員に特別休暇を与えさせたのだろうと、アンチョビは自身のその経験から予想したのだが果たしてそれは100%当っていた。
「私服……」
亜美と英子、二人は自衛隊機で現れたにも拘わらず、至ってカジュアルな休日の出で立ちであり完全に遊び気分で来ているのが良く解る程浮かれていた。
「あ!亜美!いたわよアソコ!本当に黒校のパンジャケ着てるわよ!」
「ホント!さすが千代美ちゃんは何着ても可愛いわ!」
「英子姉さぁ~ん…亜美姉さんまでぇ……」
アンチョビはプライベートでそう呼ぶよう強要されている呼び名を力なく口にする。
自分以外の者達が、必死に笑いをこらえているのが良く解る。
千代美ちゃんは今、
継続はどうも食い意地ネタが鉄板のようなので私もやってみました。
多分それでダージリンに騙されたんでしょうw
年内の投稿は今回が最後になりそうです。
今年は本当に忙しく感じるけど、それは単に去年が暇なだけだった訳でw
少し早いですがまた来年も宜しくという事で……。
しかし高校編は一年かけて話が三ヶ月しか進んでいないのが自分でも恐ろしいです。
これから先はもう少し何とかしないとなぁ……。